とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04-2

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EPISODE 2


Scene_8  【第七学区内 廃ビル前】

「オイ! そろそろ着くぞ!!」

 先頭を走る黒妻って男から声がかかる。
 ソイツも御坂も、もうケースを背中に背負い、右手に盾を持っている。
 それにしても……オレ、あんまり緊張してないような……。

「どうしたのよ?」

 変な顔でもしていたのだろうか?
 御坂が声をかけてきた。

「イヤ、結構な状況だと思うんだけど、何か落ち着いてるなあって思ってさ……」
「このサングラスのお陰よ」
「えッ!?」
「パニックに陥らないように、脳波を安定させる信号が常に出てるわ。お陰で私もかなり冷静になれてるし……」
「そ、そうなんだ……」
「こう言うのって、あんまり好きじゃないけど……。でも、こういう時には必要なことなのよね……」
「さすがにおやっさんが貸してくれた装備だぜ……」

 会話に黒妻とかいうヤツが割り込んでくる。
 何か……コイツ、ちょっとムカつくんだよな。
 さっきも御坂に馴れ馴れしく言葉をかけてやがったし……。
 ドコで知り合ったのかは知らないけど……ちょっとな。
 ……アレ? オレ、何でこんなにムカついてんだ?

「キャパシティダウンが発動しちまうと、そっちの子は動けなくなっちまう。だから、その前にケリを付けるぞ」
「……オイオイ、いつからアンタがリーダーみたいなことやってるんだよ」
「ちょっと……、今はそんなコト言ってる時じゃないでしょ?」
「う……、でッ、でも……」
「黒妻さん、ゴメンなさい。コイツ、頭が悪くって……」
「イイって、イイって。それより、早く美偉達を助けないとな」
「そうですね」
「……(ブツブツ)……」

 御坂まで、コイツの肩を持つなんて……。
 脳波を安定させる作用がある信号が出てるはずなのに、なんかムカつくぞ。
 クソッ!!!
 何でこんなにイラつくんだろう?
 今は、目の前のことに集中しろ。オレ!!!

「アレだな……アソコに美偉達が居るはずだ」
「廃ビルかよ……」
「ちょっと待ってね……」
「「え?」」

 御坂が目を閉じ、何かに集中している。
 しばらくすると……

「中に居るのは10人かな? 全員が一つの部屋に固まってる見たい。一箇所なぜか探れない部屋があるんだけど……生体反応はないようだから……」
「やっぱり、スゲえな。御坂は……。電磁波のレーダーなのか?」
「ま、まあね。当然でしょ」
「便利なもんだな。能力ってヤツは……」
「あ、いえ……そんなコト……」

 ムッ……。
 何、照れてんだよ。
 オレの時と反応が違うじゃねえか……。
 やっぱり……何か、ちょっと……ムカつくぞ。

「見張りは?」
「居ないようです。全員が一つの部屋に集まってます」
「よしっ、突入しよう!」
「ハイッ!」
「ヘイヘイ……」

 黒妻が先頭で廃ビルに入る。
 その後に御坂、オレの順だ。
 何か、面白くねえな。

「あそこです。あの部屋です」
「分かった」
「で、どうすんだよ?」
「様子見しているヒマはない。行くぞッ!!!」

 そう言って黒妻がその部屋に突入しようとした。
 その時だった。

『キリキリキリキリキリキリキリキリ……』

「うッ……くうッ……痛ッ」
「どっ、どうした!? 御坂?」
「急に……頭が……ううッ……」
「もしかして、キャパシティダウンか?」
「だと……思う……。けど、前……と、……違う……」

 御坂がかなり苦しんでいる。
 何とかしてやりたいが……どうすれば……。
 と考えている間に、御坂がオレの方に倒れてきた。
 オレは慌てて御坂を支える。
 オレの右手が御坂に触れた……その時。

『パキィィィンッ!!!』

「えッ!?」
「あッ……えっ? アレッ……急に楽になった」
「今、オレの右手が……」
「能力が使えなくなったから、効果が無くなったのかな?」
「かも知れねえな。でも、そうなると……オレから離れるなよ。イイな」
「あ、う……うん……」

 御坂の手をオレの右手で掴む。
 こうしていると、御坂はキャパシティダウンの影響を受けないようだ。

「あ……そう言えば、黒妻ってヤツは?」
「あッ? 一人で突入したんじゃ……」

 慌てて二人でその部屋の様子を探る。
 中は乱闘になっていたようだ。
 黒妻って奴は相当に強いようで、もう既に半分ほどの人数がのされている。
 だが……強襲したまでは良かったが、人質を取られ、動けなくなったところを捕まったようだ。
 二人の男に掴まれて、一人が黒妻に殴りかかっている。
 スキルアウトのリーダーらしき男が、黒妻が『美偉』って呼んでた女の人にナイフを突き付けている。

「動くんじゃねえって言ってんだろうが!! この女がどうなってもイイのかよッ!?」

 そう言われ、黒妻は抵抗出来ないようだ。
 マスターが言ってたのに……コイツ、バカか?

「んん~~~~ッ、んんんん~~~~~っ」

 ナイフを突き付けられている女の子は猿轡を咬まされ、言葉が出せないようだ。
 このままじゃ……ヤバいぞ。
 どうする……。どうすればいい……?
 そう思った時だった。

『缶のフタを開け、投げて下さい』

 目の前に表示が出る。
 オレと御坂はバックパックから出て来た缶コーヒーのフタを開け、それを部屋の中に向けて投げた。
 だが……

『カーーン、カラン、カラン……コロコロコロ……』

「えッ!?」

 全然何も起こらない……。

「だッ、誰だッ!?」

 スキルアウトのリーダーらしき男がコチラに気付く。
 オレと御坂は大いに焦った。

「なッ、何なんだコレッ!?」
「何も起きないなんて……そんな……」
「まさか、こんなトコで……『ハズレ』とか……」
「そんなギャグ、このタイミングで咬まさないで欲しいわよッ!?」
「オレに怒るなッ!!!」
「アンタの不幸が原因じゃないでしょうねッ!?」
「こんなコトまでオレの所為なのか!?」
「アンタだったら有り得るから」
「ふ、フフフフフ……不幸だ……」

 ついいつもの口癖が出てしまった。
 だが、そんなバカな話をしている状況じゃない。
 二人のスキルアウトがコチラに近づいてきている。
 普段ならどうッてコト無い……コトもないが……、今オレの右手は御坂に取られている。
 ココで御坂から手を離したら、御坂はまた苦しむことになる。
 利き腕を塞がれた状態では、御坂を守ることも危うい。
 どうする? どうすればいい?
 そんな考えで頭がパニックになりかけた時……。

「あえ……、な、なん……」
「うあ……、ど、どう……なっれ……」

 オレ達に近寄ってきた二人の男が急に倒れた。
 そして……その部屋に居たはずの8人のスキルアウトと人質の2人が全員倒れてしまったのだ。
 もっとも、その内4人はアイツにのされてたんだけど……。

「えっ? なッ、何が……起こったんだ?」
「一体どうなってるの?」
「ううッ……イテテ……くッ、……あッ、み、美偉ッ!!」

 黒妻がナイフを突き付けられていた女の子に駆け寄る。
 幸いケガは無さそうだ。
 だが、黒妻が必死になって呼びかけているのだが、返事がない。

「オイッ!? 美偉ッ? シッカリしろッ!? シッカリしてくれッ……美偉ッ……美偉……」
「えッ……あ、あのさ……あの黒妻って人……」
「うわぁ……(もしかして、もしかして……黒妻さん、美偉先輩を……////////////////////)」
「起きてくれよ、美偉ッ!! お前が居なくなったら、オレは……オレは……」
「な、なあ……御坂。もしかしてあの人、あの子のこと……」
「シーッ、今イイトコロなんだからッ!!!」
「おやっさんに出会って、アンチスキルになるって決めて……オマエと一緒にオレみたいなヤツを助けられたらって、思えるようになったんだ……」
「(なあ、御坂。お前知ってたのか? あの二人のこと……)」
「(もう、ウルサいなぁ……。そうよ、知ってたわよ。美偉先輩はもう黒妻さんに夢中なの)」
「一人前になったら、オマエを迎えに行こうと思ってたのに……。こんなコトになっちまって……。オレは、オレは……」
「……」
「(キャーッ、キャーッ、コレって、……コレって……、愛の告白ゥ~~!?)」

 御坂のヤツ、興味津々といった感じで、視線を二人から外そうとしない。
 なんか、顔が赤くなってんぞ?
 その時……モニターに表示が出て来た。

『暴徒鎮圧用ガス『ベルフタミンA』散布完了』

 黒妻は、さっき殴られていた時に外れたのか、モニターのサングラスをかけていない。
 オレ達は、モニターに表示される文字を読む。

『『ベルフタミンA』は随意筋のみを弛緩させる特殊ガス。意識は奪わない。ガスの効果を解毒したい場合は、無針注射器で処置すること』

 そう表示されると、ケースの腰の部分が開いて、店を出る前にマスターがオレ達の腕に押し付けたヤツと同じものが出て来た。

「美偉ッ! 美偉ッ!! 起きろよ。起きてくれよ。……好きだ。オレ、お前のことが好きなんだ!!!」

 黒妻さんがそう叫んだ時、抱えられている美偉って女の子の頬が、ほんのり赤くなった。
 その二人に御坂が近づく。

「あ、あの……黒妻さん?」
「あ……、ああ……何だ?」
「あの……コレ……」

 そう言って、御坂はさっき出て来た無針注射器を渡す。

「コレは?」
「解毒剤だそうです。マスターが私たちにしたのと同じようにすれば、元に戻るはずです」
「ホントか!?」
「ハイ……多分……」
「わっ、分かった!!」

 そう言うと、御坂からそれをひったくるように奪い、その注射を腕に押し付ける。
 しばらくすると……

「あ……うう……」
「あッ、美偉ッ! 美偉ッ!?」
「せ……せん……ぱい?」
「オレが分かるか!? 美偉ッ!?」
「はい……先輩……あの……、さっきの……言葉。信じてイイですか?」
「えっ!? さっきの言葉って?」
「一人前になったら迎えに来てくれるって」
「え?……お、お前。聞いてたの?(////////////////////)」
「……ハィ。ずっと聞こえてました。……ゎ、私も……先輩が、好きです。ずっと、ずっと、好きでした」
「み、美偉……」
「信じて……イイですよね……」
「あ、ああ……必ず、迎えに行くから……待っててくれよ」
「ハイッ!!!」

 黒妻は美偉さんを抱き締めてるし、美偉って子は黒妻に抱きついてるし……。
 あッ、……このままだと……まさか、キ……キスゥゥゥゥ……。
 目の前で起こっている、スゴいことにオレ達は呆然とするばかりだ。
 ……ん?
 そう言えば、何か忘れてるような……。

「お、オイ……御坂……」
「なッ、何よォ~、今イイトコロなんだから、もうちょっと見せてよぉ~(行けッ、美偉先輩ッ。キスしちゃええええッ!!!)」
「(オイオイ……)そ、それはイイんだけどな……、何か忘れてるような気がしてさ……」
「ヘッ? 何かって……あッ!!!」
「どっ、どうした!?」
「黒子よ、黒子。あの子のこと、すっかり忘れてたわ……」
「あッ、そうだ。白井のことだ!!!」

 そう言って、オレ達は慌てて白井を捜す。
 白井は部屋の隅の方に倒れていた。
 が……、倒れてただけならイイのだが……常盤台の制服のスカートは少々短い。
 そのスカートの中味が見えていたのだ……。

「うッ……(//////////)」
「この子ったら、またこんな下着を……」
『バッ(視線を外す音)』
「ほら、黒子。起きて……」

 そう言うと、御坂は白井の腕に無針注射器を当てる。
 そして、オレの様子がおかしいのに気付いた。

「アンタ……見たでしょ?」
「う……、見たというか……見えてしまったというか……」
「まぁ、状況が状況だけに、怒らないで居てあげるわ」
「う……、す、スマン……」
「私に謝ってどうするのよ?」
「い、イヤ……しかしだな……」
「スゴい趣味でしょ? この子ったら……」
「マジで……うん、引いたぞ……」
「あ、アハハハ……(そっか、こう言うのは好みじゃないんだ……。覚えとこ……)」

 御坂が何かブツブツと独り言を言い始めた。
 何考えてんだろ?
 それにしても、あの黒妻ってヤツ……。
 あの子を救うために必死になってたんだ……。
 御坂とは、ホントに単なる知り合いだったんだな。
 ハハハ……、何か……アレ? 何でオレ、『ホッ』としてんだ?

「あ、コイツら、どうする?」
「放っとけばいいでしょ? 後でアンチスキルにでも連絡を入れればいいだろうし……」
「そ、そうだな……。じゃあ、コレで一件落着かな……」
「お前ら……、ありがとうな。お陰で美偉を助けることが出来たよ。ホントにありがとう」
「そっ、そんな……オレ達だって、白井を助けたかったんだし……」
「でも、良かったですね。二人とも無事で……。それに……(ニヤニヤ)」
「(////////////////////)うぅッ、な、何だよッ!?」
「『信じて……イイですよね……』……って、美偉先輩ッ。キャー! キャー!!」
「み、御坂さん? ……キャラ、変わってない?(////////////////////)」
「とか何とか照れてる割には、黒妻さんの腕にシッカリしがみついちゃって……(ああ、私もアイツとやってみたいッ!!!)」
「オイオイ、あんまりからかってやるなよ……。二人とも真っ赤だぞ」
「だってぇ~……、いつもは頭が上がらないんだもん。こんな時くらい、イイじゃないッ!!!」
「ええッ!? 御坂に頭の上がらない人間が居たのかっ!?」
「ちょろっと~、それ! どういう意味よッ!?」
「とりあえず、おやっさんトコに戻ろうぜ。あそこなら、美偉達の治療も出来るしな」
「あ、私はそんなケガもしてないし……そ、そう言えば、白井さんは?」
「え……黒子なら、ココに……。……アレ? そう言えば、解毒剤を打って時間が経ってるはずなのに……起きないわね。この子?」
「う……ぐ……」
「え? く……黒子?」

『キリキリキリキリキリキリキリキリ……』

「まさか……キャパシティダウンが……まだッ!?」

 御坂がそう叫んだ瞬間だった。

『キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ』

「キャアッ!?」
「ぐわぁッ!?」
「うあッ!?」
「ぎいッ!?」
「えッ!? なッ、何だッ!?」

 オレを除く他の4人が一斉に苦しみ出す。
 一体、何が……。

「み、御坂ッ!!!」

 オレは慌てて、御坂の腕を掴む。
 すると……

『パキィィィンッ!!!』

 幻想殺しがはたらいて、御坂が意識を取り戻す。

「あッ……」
「大丈夫か? 御坂」
「あ……うん、……で、でも……みんなが……。あッ、そうだ!!!」

 そう叫ぶと、御坂は抱えていた白井の手をオレの右手に触れさせる。

『パキィィィンッ!!!』

「あッ、……エッ? あ……お姉様……」
「話は後。一度この部屋を出ましょう」
「ああ、そうだな。二人はオレが後から助け出すよ」
「うん、そうして……。でも……どうして黒妻さんまで……」
「えッ? どうしてって?」
「あの人、スキルアウトの元リーダーで、確かレベルは『0』のはずなのに……」
「そ、そうですわよね……。確か、無能力者だと……」
「なのに、どうして『キャパシティダウン』が効いちゃうのよ?」
「それはイイから、早く出るぞ!!!」
「あ、うん!」

 オレは御坂と白井を連れて部屋を出る。
 そして、廃ビルの中の広いホールのようなところに出た。

「どうだ?」
「うん、ココなら大丈夫みたい……」
「そうか……。良かった」
「それにしても、あの部屋だけが……というのは変じゃありません?」
「あ、そうね。確かに……」
「オレは、戻ってあの二人を助けてくるよ」
「あ、うん。お願い」
「ああ、気をつけろよ。何か他の仕掛けがあるかも知れねえからなッ!!!」
「アンタこそ、気をつけてよ!!!」
「ああ、分かってるって」

 そう言って、オレは元居た部屋に入り、二人の元に急ぐ。
 そして……

『パキィィィンッ!!!』

「あ……、え? ……あ、お前?」
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……何とか……」

『パキィィィンッ!!!』

「えッ!? ゎ、私……どうしちゃったの?」
「多分、キャパシティダウンの影響だと思います」
「だとしても、何で……レベル0のオレまで……」
「それは後で。今は、この部屋を出ることが先です!!」
「そ、そうだな。歩けるか、美偉!?」
「はい、……先輩」
「(あの~、この状況で……デレますか……)い、急ぎましょう!」
「あ、ああ」

 オレ達は御坂達が待つホールに向かって走る。
 その時、さっきのガスでやられて倒れてるスキルアウトの一人が『ビクンッ!』と動いた。

「えッ!?」

 そして、次の瞬間……。
 まるで身体が何かに切り裂かれるかのように、あちこちに傷が出来、そこから血が噴き出している。
 こ、コレって……オイ、まさか!?
 だが、悪いが構ってるヒマはない。
 オレ達は部屋を出て、御坂達と合流する。
 その時だった。

『クフフフフフ……、まさか……いきなり本命がかかるとはねぇ……』

 いきなりホール全体に響き渡る声がした。

「だッ、誰だッ!?」
『私は元『ロシア成教』の『殲滅白書』のシスター。エレクトリフィカーツィヤ』
「ろ、『ロシア成教』だって……!?」
『そうさ。フィアンマの口車に唆されて、ワリシーサのクソババアを裏切ったまでは良かったが……あのババア……とんでもないバケモノだわ……』
「何、愚痴ってんだ?」
『うるさい!! お前がフィアンマを倒さなければ、この世界は……、我々のモノになっていたはずなんだ!!!』
「あんな、自分が世界を救うために、世界を混乱に陥れるヤツの口車に乗った自分を恨むんだな。オレを恨むのは筋違いだろう!?」
『そんなコトは分かってるのよ。でもね、……アンタを殺さないと、私の気が済まないんだよォッ!!!』

『ドガアアアアアアアアアンッ!!!!!』

「あッ、あの部屋は……!?」
「どうしたッ、御坂ッ!?」
「ココに入る前、入る前に電磁波レーダーで覗いた時に、見えなかった部屋……」
「あ……アレは……?」
「パ、駆動鎧(パワードスーツ)……HsPS-15……だから、生体反応が掴めなかったのか」
「フランス上空で、ポイ捨てされた時のヤツかぁッ!?」
「な、何よそれ……?」
「イヤ、イヤ、変なことを思い出さされちまったぜ……。オイッ!! 魔術師がそんなモン使うなんておかしいだろっ!!!」
『クフフフフフ……。お前に『魔術』は通じない。その『右手』が全ての異能の力を消してしまうからな。だが……『科学』が起こした物理現象までは、その『右手』は止められない!!!』

『バラララララララララッ!!!!!』

 いきなりソイツはオレ達に向けて、機銃掃射をしてきた。
 冗談じゃねえぞ。
 あんなモンが当たったら……。

『チイッ!? 照準が狂ってやがる。明後日の方向にしか行きやしねえ!!!』

 オレ達はさっき固まっていた場所から飛び退いて、身を伏せていた。
 周りを見渡すと、あちこちの壁に穴が開いている。
 が、それはどう見てもオレ達を狙ったものとは思えない場所に開いていた。

『クソッ!! こんなロシア軍のお下がりじゃあ、機種選択が出来やしないわねぇ……』
「た、助かった……のか?」
「呆けてるヒマなんて無いわ。それより、アイツを止めるのが先ッ!!!」

 そう叫ぶと、御坂は親指でコインを弾く。

『キンッ!!!』

 だが……

『オッと、そうは行かないよ……』

『キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ』

「うあぁッ!?」
「ま、また……ぐうッ!?」
「ヒィッ!?」
「キャアァッ!!!」
「くッ、また……」

 また、例の音が響き渡る。
 どうなってるんだ、一体!?

『クフフフフフ……どうだい。私の魔術『アリスカ・インベルタル』は?』
「アリスカ・インベルタル?」
『お前達能力者は、この学園都市で能力開発を受けた者たちは、私たち『魔術師』とは違う脳を持っている。その『脳』で魔術を使うと……』
「身体に過度の負担がかかる……」

 そう言って、オレは三沢塾での出来事や、土御門のことを思い出していた。

『クフフフフフ……そう、その通りさ。そして、その『魔術』を行使することによって起こる『負荷』を、『能力』を使うことによって起こるように『転換』させたのが、この『魔術』なのさ!!!』
「そんなもの……どうやって……!?」
『ヒントはお前達がくれたんだよ?『前方のヴェント』が学園都市に攻め込んできた時に、お前達はこの学園都市に結界のようなモノを張り巡らせ、『魔術』の行使に圧迫を加えた』
「あ、あの……風斬が、おかしくなった時のヤツか?」
『だったら、その逆も可能だろう? ココに潜入する前から色々と調べさせて貰っていたからね。『幻想御手(レベルアッパー)』だっけ? あのやり方を『魔術』で出来ないかって考えたことが大きなヒントになったのは間違いないよ。クフフフフフ……』
「『幻想御手』ですって……!?」
「み、御坂……大丈夫かっ!?」
「た、確かにアレは……間違ったやり方だった。……くうッ……でもっ、アレは……実験で、この学園都市の『闇』の実験で、『不幸』なんてレベルじゃない……そんな『苦しみ』を背負わされた子ども達を、必死で助けようとした教師が願いを込めて生み出したもの……」
『クフフフフフ……。知らないよ、そんなことはね。使えるモノは使う。利用出来るモノは利用する。それが私たちのやり方さ』
「アンタも、この街の『闇』と変わらないのね……。そうやって他人が苦しんでいるのを平気で笑っていられる……」
「御坂……」
「許さない……。そんなの……許せる訳無いでしょう!!!」
『クフフフフフ……。だったらどするんだい?』

『キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ』

「キャアアアアアッ!?」
「御坂ッ!!!!!」

『パキィィィンッ!』

「あッ……、ハア、ハア、ハア……」
「御坂、大丈夫かっ!? ……くッ、くそぉッ!!!」
『クフフフフフ……。そうしていないとその子はもっと『負荷』がかかることになるよ。『魔術』を使った時のように、全身から血を吹き出して……苦しみ藻掻いて死んでいくよぉ~!!!』
「おッ、オマエェェ~~~~ッ!!!!!」
「当麻……逃げて……アンタだけでも逃げて……」
「バカ野郎!!! そんなコト出来る訳無いだろう!?」
「私はどうなってもイイ。でも、アンタには生きてて欲しいの……。あのロシアの時のような想いは……もうしたくない」
「御坂……」
「お願い、生きて。お願いだから……」
「んなこと出来る訳がねえだろうがッ!? 第一、オレはオマエに……」
「えッ!?」
「オマエにまだ……まだ、オレの気持ちを伝えてねえんだッ!!!!!」
「そ、それって……」
「オレはまだオマエに……『上条当麻は御坂美琴が好きなんだ』って伝えてねえッ!!!!!」
「ぅ、ウソッ……!?」
『クフフフフフ……。エラく余裕じゃないか? この状況下で愛の告白かい? 若いってのはイイねえ……』
「くッ……」
『……だが、それももう終わりだよ。この距離なら外しはしない……。二人まとめてあの世にイキなッ!!!』

 駆動鎧が手にしているガトリング砲を構える。
 オレ達との距離は1メートルもない。
 いくら何でも……この距離では……。

「ゴメン……御坂……。オマエを守れなかった……」

 そう言って、オレは御坂を抱き締めることしかできなかった。

「イイよ、アンタとなら……アンタと一緒ならイイ」

 御坂はそう言ってくれた。
 思わず御坂を抱き締める腕に力が入る。
 目を閉じて……祈るしかなかった。
 その時……

『装着者の生命危険度。レベル『5』と判断。これより最終自己防衛モードを起動します』

 と、機械的な感情の抑揚がない声がした。
 そして……

『バクンッ!』

 いきなり、背中のバックパックが開く。
 だが……

『クフフフフフ……。最後の悪足掻きかい? でも……もう遅いッ!!!!!』

 ヤツの声が聞こえた。
 駆動鎧が持つバルカン砲が発射される。
 あんなのに打たれたら……、痛いなんて想うヒマもねえんだろうな……。
 そんなコトをボンヤリと考えていた。
 ところが…『ボムッ!』…いきなり背中を何かに突き飛ばされた。
 御坂と一緒に吹き飛ばされる。

『バララ……ドゴンッ!!!』

 バルカン砲に打たれたのか?
 でも……そんな感じじゃなかった。
 発射音より先に飛ばされた……はず。
 恐る恐る目を開き、後ろを見ると……。

「え?」
『バッ、……バカなッ!?』

 駆動鎧の持つバルカン砲は粉々になっていた。
 一体何が……?
 その疑問の解答がモニターに出る。

『二液混合瞬間接着剤『カーボンα』高圧射出終了。装着者の移動、及び、敵、銃火器の使用不可を確認』

 表示と共にメッセージが聞こえてくる。

「トリモチ?」

 御坂がボソッと呟いた。

「と、トリモチ?」
「うん、多分そう。二液混合タイプの瞬間接着剤を高圧縮の空気で強制的に射出したのよ」
「その所為で、オレが吹っ飛ばされた……」
「うん。お陰で駆動鎧との距離も取れたし、トリモチで銃口が塞がれたバルカン砲は内部で暴発して粉々になった……」
「駆動鎧を着ているから無事だけど……、そうじゃなければ……」
「こんな仕掛けまで……あるなんて……」
「……にしても、トリモチって……思いっ切り古風だな」
「そ、そうね……でも……」
「ああ、まだヤツが止まった訳じゃない!」

 そう言ってオレは御坂を背中に隠し、駆動鎧の方向にむき直そうとした。
 その時だった。

『パキィィィンッ!』

「え?」

 何かが右手に触れた。
 そして……

「あ……、苦しくなくなってる?」
「ホッ、ホントかっ!? 御坂ッ!」
「ぅ、うん。もう大丈夫だよッ!!!」
「でも一体……どうして……?」

 そう言いながら、右手に触れているモノを見る。
 これは……見たことがあるぞ。
 そう、あのニコチン中毒の赤髪の魔術師が使っていたカードによく似ている。

「『ルーンのカード』……」
「『ルーンのカード』?」
「いけ好かないヤツが使ってるんだよ。これと似たようなヤツをさ……」
「どうやって使うの?」
「詳しくは分からないけれど、カードに書かれた文字によって、使い方が色々変わるらしい」
「うんうん……」
「『人払い』とか『神隠し』みたいなコトも出来るらしいけど、一番は炎の巨人を生み出したりするんだ」
「なッ、何それッ!?」
「だから、詳しい事は分からないんだって。でも、色んなコトが出来るらしい」
「……だとしたら……出来るかな?」
「え? ……何が?」
「ちょっと待って……。サーチモードで、このカードと同じ材質のモノがこの部屋にどれだけあるか……出たッ!」
「ど、ドコに有るんだッ!?」
「うわッ……全部で、3857枚もあるわ……」
「やっぱり……。あの魔術って、カードの枚数に左右されるんだよな」
「だから、ココではさっきみたいな高負荷が与えられるって訳ね」
「でも、オレの右手だけじゃあ、そんな枚数には……」
「何言ってんのよ。私は今、もう大丈夫なんだから……焼いちゃえば済むことでしょっ!!!!!」

 そう言うと御坂は身体全体を青白い炎で纏う。
 『電撃使い(エレクトロマスター)』が復活した瞬間だった。

『バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!!!』

 モニターに表示されているカードの場所を正確に電撃で打つ。
 その度にカードが青白い炎を纏って燃え尽きてゆく。
 そして……みんなを圧迫していた『魔術』が消えた。

「これで後は……あの、駆動鎧だけね!!!」
「ああ、そうだな」

 形成逆転だ。
 そう思った、その時。

『バクンッ!!!』

 いきなり、駆動鎧の正面ハッチが開く。
 そして中から女の魔術師が転がり出て来た。

「くッ……、あの噴霧された何かが、関節に入り込んで動きやしないよ……。所詮『科学』は『科学』。この程度か……」
「悪態着いてるヒマはねえぞ。今度はコッチの番だ。行くぞッ!!!」
「くッ……」

 ヤツは手に持つカードを投げる。
 だが……

『バリバリバリバリッ』

「同じ手が、二度も通用するとは思わないコトね!!!」

 と御坂が言い放つ。
 と同時に、ヤツが投げたカードは全て炭になっていた。
 さすが、こういう時は頼りになるよな。

「クフフフフフ……大した威勢だね。……仕方無い。まあ、カードが焼かれちまったんだから、コッチ本来の『やり方』でやらせて貰おうかなッ!!!」
「そう簡単には行きませんわよッ!!!」

『フオンッ』

 白井が横からいきなり金属矢を放った。
 御坂を見てるから、普段は何とも思わねえけど……コイツもレベル4(大能力者)なんだよな。
 それに、風紀委員をやってるから、こういう相手を拘束する手順は慣れている。

『カラーン……』
「え?」
「クフフフフフ……どうしたんだい、お嬢ちゃん。どうやら、当てが外れたようだねぇ?」
「くッ……」
「そっちにばかり、気を取られてるんじゃないわよッ!!!」

『バリバリバリバリッ』

 御坂の電撃の槍が襲いかかる。
 だが……
 ほんの1秒にも満たない攻撃なのに……ヤツはまるで、先読みしているかのようにその場を離れていた。

「クソッ!? なッ、何で……!?」
「コチラの攻撃がまるで……読まれているようですわっ!?」

 御坂と白井が必死になって攻撃しているが、ヤツには全然当たらない。
 そんなバカな……。

「クフフフフフ……読まれているよう……じゃないんだよ、お嬢ちゃん達。読まれてるんじゃない。読んでるのさ!!!」
「えッ!?」
「これが私本来の術式……『コシュトゥマール』!!!」
「なッ、……何が……」
「こっ、これは……」
「い、いやぁぁぁぁああああああッ!?」
「ぐうッ……、ど、どうなッてんだッ!?」

 オレ以外の4人がまた苦しみだした。

「さすがにアンタにゃ効かないようだね。その『右手』は『幻想』だけじゃなく『悪夢』も殺しちまうようだね?」
「『悪夢』……だと?」
「私の魔術は、本来精神攻撃なのさ。だが、この『力』じゃあ、オマエさんには通用しない。だから……」
「だから、こんなやり方をしたって言うのかッ!?」
「そうさ。オマエさんを殺すためにね!!!」
「くッ……」
「すぐには殺さないよ。ジワジワと精神的に痛めつけてやる。オマエの周りの人間達が、オマエの大事な人間達が、私の『力』で苦しみ藻掻いて死んでゆく様を見るがイイッ!!!」
「くそぉッ!!!」
「私がここに居る限り、この『魔術』は発動し続ける。一人はオマエの右手で助けられるかも知れないが……、後は……クフフフフフ……」
「くそぉぉぉッ!!! さっきからチョロチョロと逃げ回りやがって……ッ!?」
「アンタに捕まらなきゃ、私の『魔術』は発動し続けるからね。そうすれば、ここに居る全員が苦しみ藻掻いて死んでゆくんだ。クフフフフフ……、どうだい? 楽しいだろう?」
「テメエぇぇぇええええええええええええええええ!!!!!」
「そういや、オマエ。さっき、後ちょっとで死ぬって時に、愛の告白をしていたねぇ……。その子が苦しむ様を見るがイイさ!!!」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「みっ、御坂ぁぁッ!?」

『ドクンッ!!!』

 その瞬間、私は真っ暗な『闇』の中に居た。
 右を見ても、左を見ても、上も、下も……何もない。
 ただただ『闇』だけが支配する空間。

 足を一歩、前に出そうとする。
 でも、恐ろしく重い……。
 ふと、下を見ると……。
 そこには……

「ヒッ……!?」

 血みどろになって倒れている……『妹達』が居た。

「あ……、ああ……、あ、いっ……いやぁあああああああああああああああああああああああああッ!?」

 思わず叫んでしまう。

「お、お姉さ…ま……」
「ヒィッ!?」

 そ、そのバッジ……。
 まさか……そんな……。

『お姉様……。お姉様は、どうして生きているのですか?』
「あ…、ああッ……。いっ……」
『私たちはもう……死んでしまっているというのに……お姉様だけが、どうして……生きているのですか?』
「イッ、イヤッ……いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
「お姉様」
「お姉様」
「お姉様」
「お姉様」

 周り全てが『妹達』で囲まれる。
 彼女たちは私に縋り付いてくる。
 『お姉様』と慕いながら……。
 でも『なぜ生きているのですか?』と問いかけ続けて……。

 これが……『闇』。
 私の心の中の『闇』……。
 大事な家族を救えなかった後悔。
 私が小さな頃、何も考えずに渡してしまった『DNAマップ』が引き起こしてしまった悲劇。
 それを、見なくて済むようにと、心の奥底に仕舞い込んで……、心の奥底に押し込めて……。
 もう……ダメ……。
 耐えられる訳がない……。
 もう少しで、私の心は崩壊する。
 そう思った……。

 その時、マスターの声が聞こえてきた。

『アイツは人の心が読めちまう。自分が意識する、しないに関わらずだ。それがどういうコトなのか、考えてみてやって欲しいんだ』

 こんなのが、自分の意識する、しないに関わらず……常に流れ込んでくる……。
 そんなの……そんなのって……辛すぎるよ……。

『アイツにはそれが見えちまうんだよ……。それがどれだけショックなことなのかは、分かってやってくれ』

 雲川さんの辛さ……。
 私……ホントに……分かってなかったんだ……。

『私にとって、アイツは世界でただ一人の男なのよ。私という存在を受け止めてくれる。そう思えるたった一人の存在なの』

 雲川さん……本気なんだ……。
 アイツの事……。
 勝て……無いよ……。こんな人に……勝てる訳……。

『アイツが何で嬢ちゃんに勝負を挑んできたのかってコトを嬢ちゃんには考えて欲しいんだ』

 私に勝負を挑んできた理由?
 私なんて、雲川さんにしたら……。

『アイツは嬢ちゃんを信頼して、この勝負を挑んできている。自分自身の全てをぶつけても勝てるかどうか分からない。そう思ってるんだ』


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