とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part06

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EPISODE 3


  Scene_4  【とある高校の学生寮】

(上)「不幸だ……」

 ベッドに身を預けながら、オレはそう呟くしかなかった。
 いつものこととは言え、今回のことはかなりショックだ。
 そのショックな出来事とは……



 ついさっき美琴を常盤台の寮まで送り、その後自分の部屋に戻って、昨日(タイムセールで)買った戦利品で遅めの食事を取り、風呂から上がった時にテーブルの上に置いておいた携帯が震えた。

『ム゛ーーーーー、ム゛ーーーーー、ム゛ーーーーー』

(上)「オッ、美琴だな。明日はウチに来て料理を作ってくれるって言ってたし……、待ち合わせをどうするか後で連絡するって言ってたから……」

 そう独り言を呟きながら開いた携帯の画面を見た上条は……白くなった。
 そこに表示されていた名前は、愛しの彼女などではなかった。

『月詠小萌』

 こんな深夜に『二五〇年法の完成型』である担任の幼児先生からの電話……。
 彼の『不幸センサー』は即座にビビッと反応した。
 携帯を持ったまま、固まっている彼の目の前で、携帯は留守電機能を起動させた。

『ただいま電話に出ることが出来ません。ピーッと言う発信音の後にメッセージをどうぞ』

 携帯のスピーカーから機械的な応答音声が流れる。
 そして……

『ピーッ』

(小)『あ~~もひもひ、上条ちゃんれふかァ~。……ヒック……先生れすよォ~。……ヒック……今、ちょっと黄泉川先生たひと呑んれるんれすけろれぇ~……。ろえつが回っれらいのは、勘弁してくらは~い……ヒック……』

(上)(呑んで、酔っ払って、生徒に連絡って……さすがだな。小萌先生……腹も立たんぞ……)

(小)『今日、言うのを忘れれらんれすけろォ~……ヒック、……明日から、しばらく補習を続けますかられぇ~……。覚悟しとひてくらはいれェ~……』

(上)(え……、い、今なんて……? サラッと、とんでもないコトを言わなかったでせうか?)

(小)『今まれ休んれた分をろりもろすのれすからァ~……、頑張りまひょうれェ~……。じゃあ、明日頑張って来てくらはいれェ~……ヒック……』

(上)(う……、イギリス・ロシアと行ってた分の埋め合わせか……。恐れていたモノが……ついに来たのか……?)

(黄)『上条ォ~~~、おン前ェェェ~~、来ねえと留年じゃ~~~~~ん』
(小)『あッ、黄泉川先生ェ~、らめれすよォ~……、ホントのコト言ったらぁ~~~。上条ちゃんにプレッシャーが掛かっちゃいますぅ~~……』
(黄)『イイじゃん、イイじゃ~~ん。ワタシもこーゆーバカな生徒の面倒ォ~、見てみたいじゃ~~~~ん。ウチのクラスは良い子ばっかりで、つまんねえんじゃ~~~~~~~ん』
(小)『黄泉川先生ェ~、ダメですよォ~~。じゃあ、上条ちゃ~ん、明日から、頑張りましょうれェ~~……プツッ』

 酔っ払いからの補習宣告……。

(上)「不幸だ……」

 そう呟くしかなかった。

 楽しみにしていた、明日の光景がガラガラと音を立てて崩れてゆく。

 美琴のエプロン姿が……。
 美琴の料理をする姿が……。
 二人で一緒に料理をして……思わず後ろから抱き締めちゃったりして……。
 二人っきりで、あの『アーン』を繰り返して……。
 二人っきりで、イイ雰囲気になって……。
 二人っきりの時間を……この部屋で……あんなコトや……こんなコトになったら……。
 二人っきりで……思わず……。

(上)(……って、オレは何を考えてるんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?)

(上)(イヤイヤ、美琴はまだ中学生だぞ。そんな『中学生に手を出したスゴい人』の称号はいりませんのコトよ。でも、でも、上条さんも普通の男子高校生ですからね。そーゆーコトに興味がないと言えばウソになりますですよ。イヤイヤ、興味がないと言うよりも、興味津々だったりする訳なのでせうよ。普段は『鉄壁の理性が……』などと言っておりますけれど、いざとなったら保てる自信などあろうはずがないのでせうよ……)

(上)「それにもう、……キス……しちまったし……。美琴の唇……柔らかかったよなぁ……(ポワ~~ン//////////)」

 そんな妄想に囚われていた彼を、携帯が現実に引き戻す。

『ム゛ーーーーー、ム゛ーーーーー、ム゛ーーーーー』

 表示されている名前は……

『美琴』

(上)「うう……。どう言えばイイんだよォ~……」

(上)「も、もしもし……」
(琴)『あッ、とっ、当麻?』
(上)「う、うん……み、美琴……か?」
(琴)『うん、ゴメンね。電話するの遅くなって……』
(上)「い、イヤ……イイよ……普段も起きてるから……」
(琴)『く、黒子に色々聞かれちゃってて……、遅くなっちゃって……』
(上)「ぅ、うん……」
(琴)『どうしたの? 何か元気がないみたいだけど……』
(上)「あ、そ、その……実は……」
(琴)『えッ!? ま、まさか……』
(上)「明日……ダメになっちまった……」
(琴)『なッ、何でッ!? 何で急に!?』
(上)「補習が……、今連絡が入ってきて……、明日から……しばらく補習だって……」
(琴)『そっ、そんなァ~~~!?』
(上)「ホントにゴメン……。オレ……その、美琴……ゴメンな……」
(琴)『当麻……。あ、あの……そんなに楽しみにしてくれてたの?』
(上)「う、うん……。だって、美琴のエプロン姿……見たくってさ……」
(琴)『ふぇっ!? そっ、そそっ、そんなの……い、いいいいい何時だって……見せてあげるわよ……』
(上)「えッ!? ほ、ホントか?」
(琴)『ぅ、うん……。当麻なら、いつだって……イイよ……』
(上)「あ、ありがとう……。ご、ゴメンな……美琴……ホント、ゴメン……」
(琴)『当麻……どうして、そんなに謝るの?』
(上)「美琴と一緒に居られる時間を、オレの所為で減らしちゃったから……」
(琴)『当麻が悪いんじゃないッ!!! 当麻は悪くなんか……無いよ……』
(上)「美琴……」
(琴)『ありがとう……。私のこと、そんなに想ってくれて……』
(上)「オレの方こそ、ありがとな……。それに、美琴は……オレの大切な、こ、恋人だから……」
(琴)『あ……、ぅ、嬉しい……。当麻……、す、スゴく嬉しいよ……』
(上)「あ、明日はダメになっちゃったけど……、その……次に、都合が付いたらさ……」
(琴)『うん、イイよ!! 私のエプロン姿、見せてあげるね』
(上)「ほッ、ホントか!?」
(琴)『うん……。と、当麻に……だけだよ……』
(上)「(ボンッ!!!//////////)お、おう……あ、ありがとな……美琴」
(琴)『じゃ、じゃあ……、そろそろ、黒子がお風呂から出て来るから……』
(上)「あ、……ご、ゴメンな……。ホント、明日は……その、……ゴメン」
(琴)『そっ、そんなに謝らないで……。次があるんだから……』
(上)「あ……うん……、そ、そうだな……じゃ、じゃあ……補習のスケジュールが分かったら、また連絡するから……」
(琴)『ぅ、うん……。あ……と、当麻、大好きよ……』
(上)「美琴……、うん、オレもだ……」
(琴)『エヘッ、嬉しい……。じゃあ、連絡待ってるね』
(上)「ああ、じゃあ、……お休み……」
(琴)『うん……、お休み……』
『ピッ』

(上)「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」



 美琴との電話が終わった後、オレは大きな溜息をつくしかなかった。
 明日の予定すら、話が出来ない。
 自分の所為でそんな状況に陥ってしまった。
 美琴に申し訳ない。
 その想いだけが、オレの中に充満していた。

 確かに、イギリス・ロシアと色んなコトがあったけど……。
 学校を放ったらかしにして、世界中を飛び回ってた訳だけど……。
 その事に後悔は無い。
 誰かが泣いていたら、誰かが助けを求めていたら、それを救いに行く。
 それがオレだから。
 その事に後悔は無い。
 でもなァ……、ちょっとはやって来たことを考えて欲しい気もする。
 世界を救った。
 そんなヒーローみたいなコトを言うつもりはないけど……。
 追試や補習に手心を加えて欲しい……。
 とまでは言わないけど……。
 このタイミングだけは……正直、キツい……。
 だからつい、いつもの口癖がつい出てしまった……。

「不幸だ……」

 それだけ、美琴という存在がオレの中で大きくなっているんだ。
 それだけ、大切な存在になってきてるんだな。
 アイツを悲しませることだけは……、アイツの泣き顔だけは……絶対に見たくない。
 だったら……

(上)「頑張るしかねえよな……」

 そう呟いて、オレはベッドに身体を預けた。


  Scene_5  【喫茶店 エトワール】

(芹)「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」

 上条が小萌先生から『不幸の宣告』を受ける少し前。
 とっくに閉店しているはずの『喫茶店 エトワール』のカウンター席で、一人大きな溜息をついている少女が居た。

(マ)「どうしたんだ? スゴい溜息だな?」
(芹)「え……、ぅ、うん……」
(マ)「何かあったのか?」
(芹)「べ、別に……」
(ア)「何か、やっちゃったんでしょ?」
(芹)「えッ!? なッ、何よッ!? 何でそんなコト言うのよ……」
(ア)「だって、誰かさんソックリなんだもん……。その態度」
(芹)「えッ!?」
(ア)「大体何かやらかした後、決まってそうやって一人で落ち込むのよね。……特に『能力』を暴走させた後とかね」
(芹)『ギクッ!?』
(マ)「へえ、さすが恋敵のことは良く見てるな。……で……何したんだ? 芹亜?」
(芹)「なッ、何もしてないわよッ!」
(マ)「語尾が『けど』じゃねえな……」
(芹)「ぐッ……」
(ア)「もしかして……、上条君絡み?」
(芹)「うう……(カアッ//////////)」
(マ)「フ~ン、図星かよ……」
(芹)「ハア……。私らしくないってのは、分かってるんだけど……」
(マ)「……オマエがねぇ……」
(芹)「ホントは……ちょっと、やっちゃったんだけど……」
(ア)「もしかして……ヤキモチ?」
(芹)「も、漏れちゃった……のよ……。チョットだけど……」
(マ)「何をしたんだ? それを愚痴りたくて、ここに居るんだろ?」
(芹)「うッ……、……マスター、マスターのそういうトコ、気に食わないんだけど……」
(マ)「しょうがねえだろ? アイツと一緒なんだから。オマエのそういうトコロ」
(芹)「えッ!? あの先生が……?」
(マ)「普段はメチャメチャクールなクセに、自分が落ち込んだ時とかはもう、徹底的に甘えモードに入るんだよな。……ホント、そっく……り……」
(ア)「何、ニヤケてんのよッ!?」
(マ)「せっ、芹亜……何か飲むか?」
(芹)「私を使って逃げないで欲しいんだけど……。ホント、アッコさんには弱いんだから……」
(マ)「う……ウルセえな……」
(ア)「フンッ!! ……で、芹亜ちゃん? 何をしたのよ?」
(芹)「……あ、あの……」
(ア)「うん、うん」
(芹)「今日、御坂さんが上条を迎えに学校まで来てて、それを見かけて声をかけたんだけど……」
(ア)「それで、それで?」
(芹)「上条のクラスメイトの子が偶々通りかかったんで、その子に上条を呼びにやらせたんだけど……、何を勘違いしたのか、上条を追いかけ回してきて……」
(ア)「アラ、アラ……。ある意味上条君らしいけど……。それで、それで?」
(芹)「色々あって、その場を離れたんだけど……、気になっちゃって……」
(ア)「うん、うん」
(芹)「チョット離れたところから見てたら……、あの二人ったら、校門の目立つところで抱き合っちゃって……」
(マ)「またか、あのヤロウ……」
(芹)「それを見た途端、自分の中に『黒い感情』が溢れちゃって、コントロールが効かなくなっちゃって。必死で耐えたんだけど……」
(ア)「ああ……、やっちゃった訳ね……」
(芹)「う……」
(マ)「どんな『想い』が漏れたんだ?」
(芹)「……『見たくない』って……想い……だったと思うんだけど……」
(マ)「それが、二人を囲んでた人混みに伝わっちまったと……」
(芹)「ぅ、うん……。その後すぐに、二人を囲んでた子達が二人を無視するように帰って行ったから……、間違いないと思うけど……」
(マ)「なら、心配ねえんじゃねえの?」
(芹)「でも……、あの時の想いは強かったから……、思念波が変に固着しちゃうと……あの二人に迷惑を掛けることになるんだけど……」
(マ)「まあ、オマエのパワーだからな。その心配は必要だろうけど……、一過性の感情だろ? まず、思念波の固着はねえよ」
(芹)「そ、そうかな? ……そうだとイイんだけど……」
(マ)「確かに、テレパスのパワーが強すぎると、思念波が固着しちまって、相手に催眠効果に似た症状を与える場合があるのは事実だが……」
(芹)「ま、まあね。第五位ならまだしも、私の場合は……チョット違うからね……」
(マ)「だが気をつけろよ。オマエさんの場合、その気になれば深層心理を直撃しちまうんだからな。そうなったら催眠どころじゃ済まねえぞ」
(芹)「分かってるわよッ!!! 分かってはいるんだけど……」
(マ)「それを制御出来ない領域に持って行ってしまう感情が自分の中に渦巻いちまう……か……」
(芹)「ぅ、うん……」
(ア)「そんなコトが……ね」
(芹)「あ、アッコさん?」
(マ)「らしくねえと言えばそれまでだが……オマエもそんなコトで悩む一面があったとはね……」
(芹)「チョット、マスター!? それってどういう意味か、教えて欲しいんだけど?」
(マ)「そのまんまだよ……。自分を押し殺して、『影』に徹して……感情を表に出さないけど……ホントは繊細で優しいんだよな」
(芹)「えッ!?(//////////)」
(ア)「ホント、あの女ソックリよ……。あの、いけ好かないのに……」
(芹)「アッコさん! 先生を悪く言うのはやめて!!!」
(ア)「わッ、分かってるわよッ!!! ただ……、チョットだけ、そうチョットだけ好きになれないだけよッ!!!」
(マ)「まあ、昔に色々あったからな……。オマエの知ってる一面だけじゃないってコトだ」
(芹)「え?」
(マ)「今日のオマエさんじゃねえが、そういうトコロがアイツにもあるってコトだよ。自分の感情を完璧にコントロール出来る人間なんて、そうそう居る訳がねえんだ」
(芹)「信じられないんだけど……。あの先生が……」
(マ)「まぁ、こんな話してるのがバレたら、お前が帰った後に酷え目に遭うだろうけどな」
(ア)「怖いのよ。あの女ったら……マジでね……」
(マ)「まあまあ、それくらいにしておいてやれよ。しかし、芹亜……。オマエ、まだ上条のこと、諦めてねえんだな?」
(芹)「うッ……。そっ、そんなに……簡単に諦められる訳無いと思うんだけど!?」
(ア)「でもなァ……、あの二人のイチャイチャぶりは……チョットスゴかったわよォ~」
(マ)「誰だよ……焚き付けたのは?」
(ア)「アラッ? 何のコトかしら?」
(マ)「オマエなァ……」
(芹)「二人がお似合いだって言うのは分かってる。私が入る隙間がないって言うのも、理解はしてる……つもりだけど……でも、今のまま諦めるのも……納得出来なくって……。この想いを何とか制御したいとは思ってるんだけど……」
(ア)「別に制御する必要はないんじゃないの?」
(芹)「アッコさん、無責任なコト言わないで欲しいんだけどッ!?」
(ア)「だって、出来る訳無いじゃない。『人を好きになる』って言う感情は抑えれば抑えるほど強くなるんだから……」
(芹)「う……」
(マ)「オレも諦める必要はねえと思うぞ」
(芹)「ま、マスターまで……そんなコト言うとは思ってなかったけど。御坂さんに私の『能力』を教えたから、彼女を応援してると思ってたんだけど……」
(マ)「オレが嬢ちゃんにオマエの『能力』を教えたのは、フェアじゃないと思ったからで嬢ちゃんの肩を持った訳じゃねえからな。そこは間違えるなよ」
(芹)「あ……うん……」
(マ)「それに、オレはオマエにも嬢ちゃんにもアドバイスはする。場合によっては上条にもな。だが……『どちらを選べ』とは言わない。『自分の想いに正直に選べ』とは言うだろうけどな」
(芹)「あ……」
(マ)「当然のことだが、最後に選ぶのは上条なんだ。アイツがどう思っているかだよ。全ての主導権はアイツが握ってる。それをオレ達がどうこう出来る訳がないだろ?」
(芹)「そう……だよね……」
(マ)「まあ、ガンバってみろよ。ココで諦めるのは、オレの知ってる芹亜らしくねえからな」
(芹)「その言い方、やっぱり気に食わないんだけど……」
(マ)「そりゃ、悪かったな。……で、何か飲むか?」
(芹)「もう帰るわよ。それより、マスター。寮まで送ってよ。この時間だと、警備員(アンチスキル)に見つかるとウルサいんだけど」
(マ)「オレも一応、その警備員の片割れなんだが……」
(芹)「だからお願いしてるんだけど」
(マ)「結局最後に使われるのは、オレかよ……」
(芹)「イイじゃない。数少ない常連客に、これくらいのサービスしたってバチは当たらないと思うけど」
(マ)「ヘイヘイ、分かりましたよ……。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。後頼むぞ、アッコ」
(ア)「ハイハイ。遅くならないでね」
(芹)「じゃあ、アッコさん、またねぇ~」
(ア)「芹亜ちゃん、ありがとねェ~。お休みィ~」

 アッコに見送られ、芹亜とマスターは店を出た。


  Scene_6  【第七学区内】

 店を出た二人は、店の裏にある駐車場に向かう。
 だが、結局そこで車に乗ることはなく、『とある高校』の学生寮に向かって歩き始めた。

(マ)「何だよ? 送れって言うから、てっきり貝積の爺さんトコかと思ったんだが……」
(芹)「ああ、あのお人好し? アッチは昨日済ませたけど。……それより、チョット小耳に挟んだことがあってね……」
(マ)「小耳に挟んだ話ねぇ……」
(芹)「もしかしたら、またマスターにお願いするかも知れないけど」
(マ)「いきなりだな?」
(芹)「今回は、多分マスターに出張って貰うコトになりそうなんだけど……」
(マ)「喫茶店のマスターに出来る仕事ならイイけどさ、荷が重い仕事は回してくれるなよ」
(芹)「あくまでも、『もしかしたら』……だけどね」
(マ)「オマエさんの『もしかしたら』はほぼ確定に近いんだよなぁ……」
(芹)「まあまあ、イイじゃない。こんな可愛い子侍らせて、夜の街を歩けるんだから、決して悪い条件じゃないと思うけど?」
(マ)「バカ野郎! こんなオヤジがオマエみたいな綺麗な子を連れて歩いてたら、怪しさ満点だろうが!?」
(芹)「へ、へえ……。私のこと、綺麗だって言ってくれるんだ。……チョット嬉しいんだけど(/////)」
(マ)「そこで変に頬染めるんじゃねえっての!! 下手に『援交』だと思われたら、コッチが捕まっちまわぁ!!!」
(芹)「あ、その手があったか!!!」
(マ)「ッたくよォ……、オマエの悪巧みはシャレにならねえからなぁ……。……ん?」
(芹)「マスター、どうしたの?」
(マ)「イヤ、……アレは、あそこの屋台に居るのは……確か、黄泉川のヤツじゃねえの?」
(芹)「あ、ホント。黄泉川先生と……月詠先生も居るわ……。相当酔ってるみたいだけど?」
(マ)「何か、電話してるみたいだぞ?」
(芹)「電話の相手、カワイそうに……」

 二人が少し離れた場所から、酔っ払い教師二人の醜態を見ていると、いきなりとんでもない台詞が聞こえてきた。

(黄)「上条ォ~~~、おン前ェェェ~~、来ねえと留年じゃ~~~~~ん」
(小)「あッ、黄泉川先生ェ~、らめれすよォ~……、ホントのコト言ったらぁ~~~。上条ちゃんにプレッシャーが掛かっちゃいますぅ~~……」
(黄)「イイじゃん、イイじゃ~~ん。ワタシもこーゆーバカな生徒の面倒ォ~、見てみたいじゃ~~~~ん。ウチのクラスは良い子ばっかりで、つまんねえんじゃ~~~~~~~ん」
(小)「黄泉川先生ェ~、ダメですよォ~~。じゃあ、上条ちゃ~ん、明日から、頑張りましょうれェ~~……」
(小)「ホント、らめれすよォ……、黄泉川先生ぇ……。上条ちゃんがプレッシャーに負けて休んらら、ろうするんれふかァ……。ホントにるう年しちゃうじゃないれすかァ……」
(黄)「アイツはそんなヤワなタマじゃないじゃ~~~~~ん。根性だけは人一倍あるんじゃ~~~~~~~ん」

 二人には分かってしまった。
 酔っぱらい二人に絡まれていた『不幸な少年』が誰なのかが……。

(芹・マ)「「……」」

 思わず顔を見合わす二人……。
 そして……

(芹・マ)「「……プッ……、ククククッ……ムグッ……」」

 思わず吹き出しそうになった。
 互いの手で、互いの口を慌てて抑えた。
 そして二人で笑いを必死に堪え、その屋台から急いで離れる。
 ココで、変に声を出して大笑いしてしまったら、あの二人に気付かれてしまう。
 特に芹亜は、こんな時間に学校の教師と会うことになる訳だから、それは何としても避けたかった。
 二人は必死で口を押さえながら、その場を後にした。

 そして、しばらくして……。

(芹)「アハハハハハハハハハハ……、ククッ、クククククッ。お腹痛い。お腹痛いんだけど……。笑いが止まらないんだけど……アハハハハハ……」
(マ)「確かにカワイそうだとは思うけどよ、こんな笑い話聞かされるなんてなァ……。アーッ、腹が痛え……」
(芹)「普段から『不幸だ』『不幸だ』って言ってるけど、チョット今日のは特別『不幸』だと思うんだけど……。アハハハハハハハハハハ……」
(マ)「酔っ払いからの補習宣告かよ……。堪んねえな……、ワハハハハハハハ……。うッ、腹筋つりそう……」
(芹)「マスター、笑い過ぎだと思うけど……。ククククク……」
(マ)「オマエだって、人のコト言えるかよ……。ワハハハハハ……」
(芹)「しかし、世界を救って、そのご褒美が『酔っ払いからの補習宣告』って言うのが、もう最高なんだけど……」
(マ)「笑っちゃ悪いってのは、分かってるんだが……、こんなネタ、そうそうねえからなぁ……ワハハハハハ……」
(芹)「(ん~、でも……上条が補習ってコトは……御坂さんとは会えないってコトになるけど……。んッ!?)」
(マ)(ん? 芹亜のヤツ、何か思いついたな……。あの顔の時はロクなコト考えてねえんだよな……)
(芹)「(ブツブツ……)」
(マ)(だがな、芹亜……。気をつけろよ。上条は手強いぞ。何せアイツは『バカ』だからな)
(芹)「(ブツブツ……)」
(マ)「ホレ、もう落ち着いたか? んじゃ、そろそろ行くぞ」
(芹)「あッ、待ってよ。勝手に行かないで欲しいんだけどォ~……。マスター、腕組もうよォ~……」
(マ)「ばッ、バカ野郎ッ!? いきなり抱きつくんじゃねえッ!!! 柔らかいのが当たってんだろうがッ!?」
(芹)「当ててんだけど。わ・ざ・と」
(マ)「純情中年をからかうんじゃねえッ!? そういうコトは上条にしてやれッ!!!」
(芹)「それが出来たら、苦労はしないんだけど!!!」
(マ)「とか何とか言って、明日の朝はこのアプローチって考えたんだろう?」
(芹)「えッ!?(//////////)」
(マ)「何てな。確かにこう言うのはオマエのキャラじゃねえよ。だが、これをされた時の上条の顔は見てみたいぜ。……ワハハハハハハハ」
(芹)「私は電話を受けた時のアイツの顔が見たかったんだけど」
(芹・マ)「「プッ……、アハハハハハハハハハハ……」」

 結局二人は、笑いを夜空に振りまきながら、寮までの道程を歩いて行くのだった。


  Scene_7  【とある高校の校門前】

(上)「不幸だ……」

 昨夜のあの瞬間から、この言葉しか言っていない気がする。
 上条当麻は、そう思いながら重い足を引きずるように、トボトボと通学路を歩いて行く。
 ご自慢のツンツン頭も心なしか元気がない。

 今更繰り返す必要もないが、上条当麻は『不幸』な少年である。
 だから、多少の『不幸』には慣れているつもりであった。
 自分に降りかかる『不幸』な現実があっても、それを『不幸だ』と笑い飛ばし
 誰かに降りかかる『不幸』な現実は、その右手で打ち砕く。
 それが当然だと思っていたし、そう生きてきたことを自負する想いも少しはあった。

 だが、今回の件に関して彼は本当に落ち込んでいた。
 もしかすると、生まれて初めて『不幸』に負けてしまったのかも知れない。
 それほどに打ち拉がれてしまっていたのだ。

(上)「ああ、……不幸だ……」

 つーか、そんなに見たかったのか?
 美琴のエプロン姿。
 どれだけ『エプロン属性』なんだよ?

(上)『ウルセえなぁ……。イイじゃねえかよ……』
(作者:以下(作))『アレ? 聞こえてた?』
(上)『オレにとってはエプロンは『萌え』なんだよ。『萌え』』
(作)『へー』
(上)『あーーーーーッ!? 今サラッとスルーしやがったなッ!?』
(作)『い、いやまぁ……、気持ちは分からなくはないけど……』
(上)『愛しの彼女が、オレのために料理をしてくれる時に、絶対不可欠な必須アイテムなんだよッ!!!!!!!』
(作)『……そんなに熱く語られてもなぁ……』
(土)『そうぜよ! エプロンに『萌え』ない奴は居ないんだぜい』
(作)『いきなり、変なのが出て来たな……』
(土)『エプロンのないメイド服なんてメイド服じゃないんだにゃー』
(作)『ほら……。話が変な方向に行きだしたぞ……』
(上)『オマエはメイド服だったら何でもイイんだろうが!? オレが言いたいのはエプロンのコトだよッ!!!』
(土)『上やんこそメイド服の素晴らしさを全然理解しとらんにゃー。メイド服あってのエプロンぜよ!!!』
(上)『イイや、エプロンはどんな服にも似合うんだ。メイド服限定じゃない!!!』
(土)『エプロンはメイド服が一番映えるんだぜい!!! 普通の服なんて邪道だにゃー』
(青)『イイや、エプロンの王道ははだ『ボグッ!!!!!!!』』
(上・土・作)『オマエは出て来るな!!!!!!!』
(青)『何で、僕だけこんな扱いなんやぁぁぁ……』

 と、オチが付いたところで話を進めます。


  Scene_8  【とある高校の職員室】

(小)「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん……」

 いつも元気な小萌先生が、机に向かって唸っていた。

(黄)「月詠先生、何をそんなに唸ってるじゃん?」
(小)「あ、黄泉川先生。昨夜は楽しかったですー」
(黄)「イヤイヤ、コッチこそ楽しかったじゃん。トコロで、何をそんなに唸ってるんじゃんよ?」
(小)「実はですねー、上条ちゃんに出す課題の量のことで悩んでいるんですよー」
(黄)「課題の量?」
(小)「はい。実はこれくらいの量になりそうなんですけどねー」

 そう言って小萌先生は机の横に置かれている段ボール箱を『ポンポン』と叩く。

(黄)「え?」
(小)「これをやって貰わないと、留年が決定的になってしまうのですよー」
(黄)「そんなサラッと……、でもこれ、3箱あるじゃんよ?」
(小)「そうなんですよねー」

 そこに置かれている段ボール箱は、椅子に座っている小萌先生の肩程まで積まれており、誰でも動かせるようにキャスターの上に乗せられていた。
 これを小萌先生が押しているのを前から見たら、段ボール箱だけが動いているように見えるだろう。

(小)「問題は、上条ちゃんがこの量の課題を来週末までにこなせるかどうかなんですよねー」
(黄)「え?」
(小)「上条ちゃんは能力系の点数が稼げないから、こういう方法で点数を稼ぐしかないのですー」
(黄)「それにしたって、来週末って……。あんまりにも急すぎるじゃん?」
(小)「その後に戦争で延び延びになっていた『一端覧祭』が控えてますからねー。その準備期間に食い込んじゃうと、上条ちゃんがクラスのみんなと楽しめないのですー」
(黄)「それはそうだろうけど……」
(小)「それに、これでもかなり抑えたのですよー」
(黄)「冗談……じゃん?」
(小)「いえいえ、冗談では済まないのですー。まあ、ほとんどはその課題を解くための参考書とか文献なんですけどねー」
(黄)「……先生、ワザとじゃないじゃんね?」
(小)「え? 何のコトですー? 私が悩んでいるのは上条ちゃんのことではなく、この課題を上条ちゃんと一緒にやってくれる人のコトなのですよー」
(黄)「ヘッ!? それってどういうコトじゃん?」
(小)「授業を受けていない上条ちゃんでは、この課題を解くことは出来ないのですー。だから、それを一緒にやってくれる人が居る訳なのですよー」
(黄)「フム……」
(小)「まあ、授業を受けていても、上条ちゃんだったら解けないでしょうけど……」
(黄)「……ああ、そういうコトね。つまり、この参考書なり文献なりを上条のオツムに分かるようにサポート出来る人材がいる。という訳じゃんね?」
(小)「そうなのですー。でも、吹寄ちゃんは既に『一端覧祭』の実行委員として活動し始めてますから、お願い出来ないのですー」
(黄)「だから、誰に頼むかを悩んでいる……と言うことじゃんか……」
(小)「完全下校時刻を過ぎる補習は出来ないですしー」
(黄)「そうじゃんねー」
(小)「そうなのですー。う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん……」
(黄)「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん……」

 という風に、もう一人悩む人が増えてしまったようである。
 その様子を屋上から伺っている人影があった。

(芹)「なるほどね。月詠先生の様子がチョットおかしいとは思ったんだけど。そういう裏があった訳ね。これはチョット使えそうだけど。フフフ……」

 そう言うと雲川芹亜は校門の方に目を移し、誰かの姿を捉えると校舎の中に姿を消した。

 先程、屋上から様子を伺っていると言ったが、彼女は別に職員室を覗いていた訳ではない。
 第一に彼女が居た屋上から職員室は見えない。
 何故なら、職員室は彼女が居た位置の真下にあるからだ。
 では、何故その様子を伺い知ることが出来たのか?
 雲川芹亜はその『能力』で二人の教師の会話をずっと拾っていたのである。
 そうすることで、二人の会話はまるで彼女の目の前で起こっているコトの如く、手に取るように分かってしまうと言う訳だ。

 さて、この後事態は急展開することになる?


  Scene_9  【とある高校 1年7組の教室】

『キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン』

(上)「お、終わったぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
(小)「上条ちゃん、ご苦労様なのですー。でもまだ初日ですからねー。それに、これから少し付き合って欲しいところがあるので、校門前で待っていて下さいですー」
(上)「えッ!? あッ、イヤ……あの小萌先生。オレ、これから買い物に行ってメシの支度を……」
(小)「そんなコトをしているヒマはないのですー。イイから一緒に付いて来て下さいなのですー」
(上)「は、ハア……」

 元々、小萌先生には逆らえないように『インプリンティング』されている上条さん。
 仕方無く、校門前で小萌先生を待つことにする。
 しばらくすると……


  Scene_10  【とある高校の校門前】

『ヒイイイイイイイイイイン……』

 という軽快なモーター音と共に、警備員(アンチスキル)用のパトカーが上条の横に止まった。
 別に悪いことをしている訳ではないのだが、その『三又の矛』をモチーフにしたデザインを見るとかなりの重圧を感じてしまう。
 だが良く見ると、運転席にはいつもは緑色のジャージを着て長い髪を後ろで纏めているだけの黄泉川先生が、警備員の正装をして乗っていた。

(黄)「ほら、上条。サッサと乗るじゃん?」
(上)「えッ? 黄泉川先生? あ、あの、小萌先生は?」
(小)「コッチですよ、上条ちゃん」

 後部座席を見ると、真ん中に小萌先生が『チョコン』と座っていた。
 チョット大きめのチャイルドシートで、4点掛けのシートベルトをしている。

(小)「上条ちゃんはコッチですよー」

 小萌先生はそう言って、自分の右側を『ポンポン』と叩く。

(上)「あ……ハイ」

 上条は言われるまま車の右側に回り込み、右側の後部座席に乗り込む。

(上)「あ、あの……小萌先生? これからドコに行くんですか?」
(小)「多分上条ちゃんも良く知っているトコロですよー。詳しい事はそこに着いたら教えてあげるのですー」
(上)「は、ハア……」
(黄)「それじゃあ行くじゃん」
(小)「あ、黄泉川先生。その前に……」
(黄)「分かってるじゃんよ。シートベルトをシッカリしとくじゃん」
(上)「あ、……ハイ」

 慌てて、シートベルトをかける上条。
 『カチッ』とベルトの金具を差し込む。
 すると、シートベルトが身体に密着するように自動的に調整された。

(黄)「今日はコイツのテストも兼ねてるから、チョット飛ばすじゃん」
(上)「え……テストって?」
(小)「お、お手柔らかにお願いするのですー……」
(上)「あ、あの……」
(黄)「じゃあ、行っくじゃ~んよっ!!!」

 黄泉川がアクセルペダルを半分ほど踏み込む。
 すると……

『ギュンッ!!!!!』

 四本のタイヤが一瞬悲鳴を上げたかと思うと、上条はシートに縫い付けられるような圧倒的な『G』を味わうことになる。

(上)「ぐええッ!?」

 第三次世界大戦で、ロシアの制空権を問答無用で奪取したあの超音速爆撃機のベーステクノロジーになった超音速旅客機。
 それに無理矢理乗せられた忌まわしい記憶が蘇る。

(上)(なッ、何だこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?)

 もはや、声すら出せない。
 声を出す余裕すらないのだ。
 自動車が出す加速ではない。
 それはもはや航空機レベルのそれであった。
 だが、航空機と自動車では絶対的に異なることがある。
 それが次に上条に襲いかかる。

『ギャン! ギャン!! ギャン!!! ギャン!!!!』

 四本のタイヤがこれでもかという程悲鳴を上げる。
 交差点が近付いた(といってもかなり先なのだが)ので黄泉川がブレーキペダルを踏んだのだ。
 途端に今度は逆方向への『-(マイナス)G』が上条を襲う。
 身体がシートベルトに押し付けられ、内臓が圧迫される。

(上)(ぐええええええ……)

 時間にしてどれ程だったのだろう?
 数秒だったのか?
 それとも数瞬だったのか?
 感覚的には数分間のようにも感じられた。
 その『-G』が次の瞬間『フッ』と消えた。

(上)(た、助かった……)

 と思ったら……

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』

 上条の代わりに四本のタイヤが悲鳴を上げる。
 と同時に今度は強烈な斜め後方からの『横G』が上条を襲った。
 黄泉川は減速しきれないパトカーをブレーキングドリフトに移行させ、交差点に進入。
 ゼロカウンターで車体が出口を向いた瞬間、フル加速を敢行するため黄泉川は躊躇なくアクセルペダルを踏みつける。

『ギュン!!!』
『ドンッ!!!!!』

 二つの擬音がほぼ同時に重なる。
 そして、スタート時に勝るとも劣らない『加速G』が再び上条をシートに縫い付ける。

(上)「オッ、降ろしてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 やっとの事で出せた悲鳴。
 だが、その悲鳴は誰にも聞かれることなく、パトカーの発するサイレンにかき消されるのだった。


  Scene_11  【第七学区内 常盤台中学学生寮前】

(黄)「さ、着いたじゃん」
(上)「ゼエ、ゼエ、ゼエ、ゼエ……」

 上条は既に、青息吐息である。
 ココに来るまでの間『G』を感じなかった時間の方が短かったのは確かだろう。
 市街地でパトカーによる『ジェットコースター』を体験したようなものだ。

(上)「し、死ぬかと思った……」

 これまで世界中で、様々な戦場を駆け抜けてきた上条だったが、今回の経験はさすがに未体験ゾーンだったようだ。

(小)「さすが、黄泉川先生なのですー。良い腕してるのですー」

 同じ後部座席に四点式シートベルトのチャイルドシートに乗せられた幼児先生はかなり満喫されたご様子だが……。

(上)「ふ、不幸だ……」
(黄)「上条、何呆けてるじゃん? まあ、イイ。ちょっと待ってるじゃん」

 そう言うと、黄泉川はパトカーを降りていった。
 黄泉川に声をかけられ、何とか落ち着いてきた上条であったが……ふと周りを見ると、見慣れた景色がそこにあることに気が付く。

(上)「アレ? ココって……」

 車内からキョロキョロと辺りを見回す。
 左側に見慣れた建物が見える。

(上)「えッ!? ココって、まさか……」

 慌ててシートベルトを外して外に出ようとする。
 だが、手が震えてシートベルトが外せない。
 見かねた小萌先生が自分のベルトを外して、上条のベルトも同じように外してくれた。

(上)「あ、ありがとうございます。先生……」
(小)「いえいえ、どういたしましてなのですー」

 小萌先生にお礼を言って、車外に飛び出そうとする。
 が……、ドアが開かない。
 ロックがかかっている訳ではない。
 だが、ドアが開かないのである。

(上)「アレッ!? ……何で……開かないんだよッ!?」
(小)「黄泉川先生~。上条ちゃんが外に出たいみたいなんですけどー」
(黄)「ッたく……。待ってろって言ったじゃんよ……」

 と、小萌先生に呼ばれた黄泉川先生がブツブツ言いながら、右側のドアを外から開ける。
 すると、それまで開かなかったはずのドアが普通に開く。

(上)「えッ!? な、何で?」
(黄)「指紋認証登録してないと、開かないようになってるじゃん。こう見えてもコイツは最新鋭じゃんよ」

 慌てて顔を出した上条に向かって、ニヤリと笑って黄泉川先生がそう言った。

(寮)「これが最新鋭の駆動鎧(パワードスーツ)なのか? 黄泉川」

 と、歩道の方から声がした。
 上条は外に出てそちらを見る。
 すると、そこには……
 三角形のメガネから鋭い眼光を放つ女性と、常盤台の制服を着た少女が一人俯いて立っていた。

(上)「え? み、美琴?」
(琴)「え? あ……と、当麻……」


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