小ネタ 大覇星祭四日目。種目『男子騎馬戦』。
美琴(アイツ、今日は男子騎馬戦に出場するんだったわよね。大覇星祭も折り返しでこれだけ点差がついたらもうアイツに勝ち目はないけど、棒倒しみたいな番狂わせも起きるかもしれないし。一応偵察しておかないとね、偵察。間違っても応援じゃないんだから)
美琴(さて、アイツはどこに……ってええええ? 何でアイツが陣羽織と鉢金付けてるの? あの馬鹿の学校はアイツを大将に据えたの? アイツ一年でしょ、何で?)
美琴(……ああ、なるほど。アイツ幻想殺しがあるから避雷針代わりにされたのか。それなら納得ね。でもアイツ、無駄にカリスマあるし大将に選ばれてもおかしくないわよね……って違う! 何で私がアイツをほめてるのよ)
美琴(始まった! え? アイツいきなり一騎駆け……じゃない! 逃げてる! 初っぱなから逃げてる。うわ、その後ろから赤組が総出で追いかけてる!? 何で? どうして? アイツは一人で囮役? あ、違う。これもしかしてウロボロスの陣? 赤組の後ろから白組が総力上げて追いかけてる! 何で騎馬戦ごときでこんなレベルの布陣敷いてるのよ!)
美琴(まずい! アイツの正面から赤組大将が単騎で来た! わ、組み合いになった! 向こうは三年っぽいし体格差もあるしどう考えたって勝てないわよ! 逃げなさいよ馬鹿!)
美琴(とりあえず一対一では勝ったみたいだけど、今度はアイツの両サイドから赤組が仕掛けて来た! 馬鹿避けなさい! ってちょっと、殴られてる? 騎馬戦なんだから騎馬つぶさなくたって鉢巻取ればおしまいでしょ? 何で殴り合いになってんの? あの馬鹿もご丁寧に相手するんじゃないわよ!)
美琴(まずい、団子になった! アイツの騎馬も頑張ってるけどあれじゃ力負けでつぶされちゃう! 逃げて! 逃げなさいよ! ここで逃げたって誰もアンタのこと責めたりしないんだから!)
美琴「頑張れ! あと少し! 後一〇秒耐えて! 五、四、三、二、一……よかった。ようやく終了の笛……。まったく、ドキドキさせんじゃないわよ。赤組がえーと二三、二四、二五騎残ったのね。アイツのほうは……アイツを含めて……二四、二五、二六騎で白の勝ち! やったぁ! ……あ」
美琴(ついうっかりアイツの応援してた……。まったく、偵察しに来たのに私ったら熱くなっちゃって馬鹿みたい。アイツの学校はアイツ以外全滅だから、ポイントは全然入らないし、これでまたうちとの点差は開いたわね。ふ、ふんっだ)
美琴(……アイツ退院したばっかりだったのにまた生傷こさえてたわよね。大丈夫かな……。そ、そうよ、ライバルの負けっぷりを笑いに行くならどうって事ないでしょ。そう、そうよちょっと様子見に行くだけ。別に激励しに行くワケじゃないんだから)
騎馬戦終了後。
上条「イテテテ……。病院出たばっかりだってのに四方八方からボコボコにされて、大将なんか引き受けるんじゃなかったぜ。あー痛ぇ、救護テントで手当てしてもらうか……あれ、御坂? 救急箱持って何でこんな所にいるんだ?」
美琴「べ、別に。いちゃ悪い?」
上条「いちゃ悪い、ってことはないが……あ痛! いきなり傷口に消毒液かけんじゃねぇ!」
美琴「ちょっとアンタ、傷だらけじゃない。……見せなさいよ。手当てしてあげる」
上条「手当てって……」
美琴「あ、アンタ頑張ってたみたいだから、ハンデよハンデ。悪い?」
上条「ハンデ、って……。お前、それ持ってわざわざここまで来たのかよ? 常盤台の集合場所はここから三ブロック先じゃなかったか?」
美琴「そそそ、そんなことはないわよ! 偶然よ偶然」
上条「その救急箱思い切り『常盤台中学』って書いてあるじゃねーか。……ありがとな、御坂。救護テント混んでるみたいだから助かった」
美琴「だからたまたまだって言ってるでしょ! ほら、顔をこっちに向けて。絆創膏貼ってあげるから」
上条「しかしお前、良いタイミングで来たな。まるで騎馬戦が終わって解散するのに合わせて……。あれ、もしかしてお前応援に来てくれたのか?」
美琴「お、おおお応援じゃないわよ偵察よ! アンタの学校が点数取れるかどうか威力偵察に来ただけよ」
上条「威力偵察って……お嬢様が使う単語じゃねぇぞそれ。あーいいや、お前が次に出る競技って何だ?」
美琴「障害物競走。……まったく、罰ゲーム相手の出場競技くらい事前にチェックしておきなさいよ。私はアンタの出る競技全部チェックしておいたのに馬鹿みたいじゃない」
上条「え? お前俺の出る競技全部チェックしたの? そんなのうちのクラスじゃ吹寄くらいしか知らねーぞ? よく調べ上げたな」
美琴「べべべ、別にアンタが何の競技に出るのか気になって書庫にアクセスしたり出場登録表調べ上げたりなんかしてないんだから!」
上条「何でそう物騒な例えしか出てこないんだよ……。ま、いっか。お前の応援に行ってやるよ。障害物競走はたしか第七~第八競技場だっけ? ゴールあたりで見ててやる」
美琴「ず、ずいぶん余裕じゃない? アンタうちの学校との点数差確認したの? とてもじゃないけど挽回できる余地はないわよ?」
上条「俺以外に欠員が結構出てるって初日に言っただろうが。しかも昨日の直接対決でお前んところにボコボコにされて、どのみち勝てっこねーんだから素直に応援するっつってんだよ」
美琴「…………えっと、あの、それって」
上条「何時から始まるか知らねーけど、第七競技場ってのはこっから結構あったよな。行こうぜ。手当てのお礼ってほどじゃないけど、送ってってやる」
美琴「うん。……ありがと」