小ネタ 義理じゃないなら…? 上条当麻編
小ネタ 義理じゃないなら…? 御坂美琴編 | の続編です。 |
2月14日 上条当麻は朝から非常に憂鬱だった。
記憶がなくても【おぼえてなくても】知識はある【しっている】。本日はバレンタインデーだ。
日本式バレンタイン。それはモテない男にとって、一年で最もいや~な日なのだ。
(ふっ、去年までの記憶がなくても今までの経験から分かりますよ。上条さんが今年貰うチョコは0だ!!
土御門は舞夏から貰えるだろうから、青髪と傷の舐めあいでもするんだろうなぁ……虚しい……
…いや待てよ? もしかしたら姫神から義理の一つくらい貰えるかも…普段から結構仲がいいし……
うおっし! 希望が出てきた!!)
と、何とかテンションをローからハイに切り替えた上条は、布団をたたんで風呂場から出る。
だがここで、彼はまさかの光景を目の当たりにするのだ。
いつもならまだ寝ているはずのインデックスが起きている。
いや、それだけでなく彼女は泣いていたのだ。手には食べかけの板チョコを持ったままで。
「ど、どうしたんだインデックス!?」
「…あのね…昨日テレビで…バレンタインデーには…いつも感謝してる人に…チョコを贈るって
…言ってたから…これとうまにあげようと思って…我慢してて…でも……」
誘惑に負けてちょっと食べちゃった訳だ。
「うわ~~~ん!!! ごめんねとうま~~~!!!」
上条は泣きじゃくるインデックスの頭を撫でた。その気持ちだけで十分だ。今日一日頑張れる。
このほっこりした気分のまま、彼は学校へと向かった。
これは何かのドッキリか、と彼は思っていた。
通学路で、校門で、昇降口で、教室で、彼はあらゆる場所でチョコを渡されていたのだ。
いやそれだけではない。下駄箱や机の中にも、所狭しとチョコが詰め込まれている。
ありえない。
インデックスからの一個だけで奇跡なのだ。こんなことがあるわけが無い。
そんな彼の思いとは裏腹に、まだまだチョコは増えていく。
姫神からはもちろん、吹寄、雲川先輩、同じクラスの女子、別のクラスの女子、上級生……
どんだけフラグ建ててたんだこの男は。
当然ながら、クラスの男子からは一人二発ずつぶん殴られた。(青髪からは五発貰った)
ちなみにその大量のチョコレートは、一時的に小萌先生に没収されたのだが、返してもらった時に一個増えていた気がする。
不思議に思い小萌先生に聞いてみると、
「そ、そんなことはないのですよ!! 気のせいなのです!!」
と、赤くなって否定してたので、きっと気のせいなのだろう。
大量のチョコを抱えて寮に帰ると、彼はさらに驚かされた。
イギリスから、ダンボール7箱分のチョコが届いていたのだ。
五和や神裂等天草式から、オルソラやシェリー等女子寮から、さらにはアニェーゼ部隊からも。
ただ一番のビックリは、王室派からも届いた事だ。
(な、何してんだ? あそこの姫様は……)
全くである。
(それにしても、全部義理とはいえやっぱり嬉しいよな。
きっとモテない上条さんを哀れんでくれたんだろうけど……
持つべきものは友ってヤツだな! うん!)
その中の9割9分は本命なのだが。
やはり彼女達の想いはこの鈍感【ボンクラ】には届かなかったらしい。可哀相に。
夕方になり、上条は晩御飯の用意、インデックスは不機嫌にチョコを貪っている。
彼女は上条が帰ってきた時、大量のお菓子を抱えていたので大いに喜んだのだが、
それがバレンタインで貰ったチョコだと知るや、途端に機嫌が悪くなったのだ。
上条にはその理由が分からないだろうが……
と、そこへ「ピンポーン!」とチャイムが鳴る。
誰だろうと出てみると、
「あれ?御坂! どうかしたのか?こんな時間に」
立っていたのは美琴だった。
「まぁ立ち話もなんだし、中入れよ」
「い、いやいいの!! ココココレ渡しに来ただけだから!!!」
そう言って美琴は、大き目の紙袋からケーキの箱を取り出した。
綺麗にラッピングされていることから、おそらく市販のものと思っていたのだが、
「い、いちおう…てて、手作りだから……」
「マジで!? これを!? はぁ~~…すげぇなお前」
「そ、そんなこと…ないわよ……」
上条に素直に褒められて、顔を赤くする美琴。
そんな様子にも気付かず、上条はひたすら感心している。
すると、箱の間にメッセージカードが挟まれているのに気が付いた。
彼は何の気もなしに、そのカードを手にとって読んでみた。
『いつもいつもありがとう。普段言えないけど、本当はアンタに感謝してる。
P.S. 気持ちを込めて作ったんだから、ちゃんと味わってね?』
それは小さなカードに書かれた、精一杯の気持ちだった。上条から自然と笑みがこぼれる。
だがカード【それ】を、バッ!と美琴に奪われた。
「あああ後で読みなさいよ!!! は、は、恥ずかしいじゃない!!!」
「悪い、もう読んじゃった」
ぁぅ~、とさらに真っ赤になる美琴。それが面白くなり、上条はさらに美琴をいじめたくなってくる。
「なぁ、ちょっとだけ開けていいか?」
「ふぇ!? いまここで!?」
「中に入るとインデックスに食われちまうかもしれないしさ。
気持ちが込められたケーキってのがどんなのか、ちょっとだけ味見させてくれよ」
ニヤニヤしながらそんなことを言う上条に、美琴は何かもう、目も合わせられない状態になっていた。
恥ずかしすぎてここから消え去りたいが、上条の感想も気になる。そんな乙女心である。
リボンを解き、箱を開ける。するとそこには……
「…『義理』」
「そ、そうよ!義理なんだから!」
「……『じゃないから』…?」
「そ、そうよ!義理じゃないか―――へ?」
ケーキの真ん中にでかでかと書かれた「義理」の文字。その下にはちっちゃく「じゃないから」と書かれている。
ラッピングしている時は、浮かれていて気付かなかったのだ。
だがおかしい。そんなこと書いた覚えは無い。ということは……
(さ、佐天さん~~~~!!!?)
今頃気が付いてももう遅い。上条も固まっているのだから。
「ここここれは違くて!!!義理じゃないけど義理であって!!!だからそういうあれじゃなくて!!!」
「……そっか…これがお前の気持ちなんだな」
上条の真剣な表情。とうとう伝わってしまったのだ。その想いが。
美琴は高鳴る胸を押さえた。
上条の応えとは―――――
「アレだろ、友チョコってヤツ。この前テレビで見たぞ」
「………………うん………それでいいや…………」
やはりこの鈍感【アホンダラ】には届かなかった。可哀相に。
美琴と別れ、上条は部屋に戻る。
「お客さん、誰だったのかな?」
「ああ、御坂だったよ。 ほれ、友チョコ貰ったぞ」
「……とうま、友チョコっていうのは女性同士で贈りあうチョコのことなんだよ。テレビでやってたもん」
「……へ?」
「だから短髪からのそれは、義理チョコっていうんだよ」
だがしかし、このケーキには「義理じゃないから」とはっきり書かれている。
(えっと…これは義理チョコではなくて、友チョコでもなくて……
ってことはまさか…いやいやそんなはずは…いやでも、気持ちを込めて作ったって……アレ~?)
その夜彼は、考えすぎて知恵熱を出した。そのまま悩み続けろコンチクショー。