とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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橋の下の決闘・上条vs黒妻



「ここでいいよな?」
上条当麻は足を止めて言う。
「ああ、いいとこ知ってんじゃん。」
「ルールはどうしますかねー」
「金的目潰しは当然無し。まあ恨みがあるわけじゃねえし、お互い無茶な事はやめとくか」
「OK」
「それじゃ…いつでも来な」
そう言って、黒妻綿流は軽く拳を前に出し、構えた。

御坂美琴は佐天涙子と2人で土手を歩いていた。買い物の帰りである。
「夕焼けが綺麗ね~」
「ですねえ。陽が落ちるのが早くなって…あれえ?」
「どしたの?」
「あそこ、ケンカですかね?あの橋の下。」
確かに2人が殴り合っているように見える。
(昔、アイツと戦った場所だなあ)と頭の中を掠める。
「どうします?」
「ほっときゃいいと思うけど。一対一なら邪魔しちゃ悪いし」


(強ぇ…)
上条は唸る。タイマンは何度も経験があったが、これほどの技術を持った男は初めてだ。
速さと体捌きがハンパではない。
普通では捕らえきれないため、カウンター狙いの戦い方になってしまっている。
(くそっ、ジリ貧だ)

(なんだコイツのタフさは)
戦ってみると、最初はそれほど強いとは感じなかった。
しかし、戦い続けるうちに異常な打たれ強さ、ヒットポイントのズラし方に舌を巻き始めた。
3発入れても普通に1発返してくる。しかもそれが重い。
華奢な体では考えにくい重さで、まともに食らえば一撃で沈みかねない。
(ちっ、スタミナ勝負は不利だ。早くケリつけねえと)


「なっ、何やってんのよアンタたち!」
御坂美琴が慌てて駆け寄る。
男の一人がツンツン頭と分かった瞬間、もう走り出していた。
走りながら、相手の顔を認識し、更に驚く。
(確か、黒妻ワタル!)
佐天涙子も遅れて走ってきた。

「御坂くるな!邪魔すんじゃねえ!」
後ろからの声が御坂美琴だとすぐ分かった上条は、視線を動かさず怒鳴る。
それを聞いた、黒妻がバックステップで間合いを取る。
「お前あの子の知り合いか」
「ああ、空気読めねえ奴でな、すまん」
「いや、俺も知ってる。…ちょっと気が削がれたし、一時休戦だ」
「! …分かった」
上条も一旦下がり、ただ弛緩しないよう黒妻への視線は外さない。

「な、なにしてんのよ。やめなさい…よ」
「お前が気にする事じゃねえ。明るいうちに帰れ。」
上条の返事は冷たい。
美琴は明らかな拒絶に怯んだが、ならばと黒妻に声を掛ける。
「アンタも!何が理由よ!」
「ソレだよ」
黒妻は土手のブロック際に置いてあるビニール袋を指差す。
それを聞いた佐天涙子の目が光り、だだっと駆け寄ると、ビニール袋を確認する。

「へ?」
「佐天さん!それなに!?」
「…2リットルの…牛乳にしか見えませんけど。『ムサシノ牛乳』」


「そこの店の特売でな、最後の一本だったんだよ」
黒妻綿流は息を整えながら美琴に向かって話す。
「ソイツと取り合いになってな。話しているうちに上条当麻と知って」
上条に視線を移す。
「スキルアウト内じゃコイツに負けた奴多いんだよ。ちょっと腕が知りたくてな、戦うことにしたのさ」

「…アンタたち馬鹿じゃないの?くっだらない」
「もういいだろ、黒妻サン。やろうぜ」
上条が黒妻に近づく。
「いや待て、いい事思いついた。」
「いい事?」
「勝った方は牛乳に加え、そのお姫様にキスできる。どうだ?」

「「「なっ!」」」
美琴も上条も佐天も驚く。
「じゃあいくぜ!」
有無をいわさず、黒妻は一気に間合いを詰め、上条に中段前蹴りを打ち込む。
辛うじてそれは止めたが、上条は動揺を止められない。
「ま、待て、そんな条件…!」
「ほらほら、舌噛むぞ!」
左手で顔面に入れるフェイントに引っかかり、右手でボディを打ち込まれた上条の体がくの字に曲がる。
「ぐうっ!」
しかし追い打ちの回し蹴りはブロックし、上条は体勢を整える。
「くそっ、ひとまず考えんのはヤメだ!いくぜ!」
一呼吸置いた上条は、黒妻に飛びかかった。

(な、なんでこんな事に?)
いきなり賞品にされてしまった美琴は呆然としていた。
「うわあ…どっちが勝ってもキスですかあ…うひゃあ」
佐天は横でニヤニヤしっぱなしである。
「正直、どっちも顔はカッコ良くないですか?戦ってるせいもあると思いますけど」
美琴は答えない。というより思考回路がショートしていた。


(に…してもコイツは何で倒れねえ?タフさにも程があるぜ)
明らかに黒妻が優勢であった。
もう4~5発に1発しか上条は返せなくなっている。
「そろそろギブアップしねえか?息もあがってるぞ」
上条は答えない。目の輝きは全く失われていない。
(仕方ねえ、腕の一本でも貰って、それでケリつけるか)
と、思った時、上条が左足で大きく踏み込んできた。
すかさず、黒妻は左足で上条の左脚内股に下段蹴りを叩き込む。
完全に入った、という思いと同時にゾクッ!と寒気がした。
(しまった!ワナ…)
左足をエサにした上条の右足中段蹴りが、モロに黒妻の胴に、横から突き刺さる!
アバラが何本かやられ、怯んだ黒妻に。
更にステップインした上条の右腕のストレートが、色男の顔面を打ち抜いた。


ただのケンカのレベルを超えていた。
黒妻綿流は上条の渾身のストレートを食らってなお、立ち上がってきた。
戦況は五分だが、黒妻の動きが悪くなってきている。
「御坂さん、御坂さん、ちょっとこれ以上は絶対ヤバイですよ。」
「でも…私にも止められないわよ。」
「で、電撃とか…」
「それも考えたけど…」
これ程の男の勝負を止めたら、一生上条に嫌われそうな気がする。

「あの、思いついた事あるんですけど」
佐天は美琴に耳打ちする。
「えーーーーーっ!ちょっとそれ、私死ぬほど恥ずかしいじゃない!」
「でも、こんなチャンスそうそうないですよ。」
「スルーされたら、私、最高の馬鹿じゃない?」
「大丈夫です!それは流石にあたしがフォローしますから!」
あまりにお馬鹿な提案だ…しかし。
彼らも引っ込みがつかないのが感じられる…私がピエロになれば、ひょっとして。

「わかった。やる!」
「さすが御坂さん!」
佐天はもうニヤニヤが止まらない。
美琴は彼らの戦いの5メートルほどまで近づいた。
すうっと深呼吸する。


『やめてっ!あたしのために戦うのは、やめてえっ!』


2人の動きが、止まった。

黒妻が手の平を前に出し、そのまま尻餅をついた。
上条も、膝から崩れ落ちる。
2人して、恥ずかしさで真っ赤になっている美琴を見つめる。
「きゃーー!やったやった御坂さんー!(パチパチパチ!)」
佐天が美琴に駆け寄り、拍手する。

「くっはっはっは。まあお姫様がこう言ってるし、このへんでどうだ?」
「ああ、しょうがないっすね。」
集中力も切れてしまった。もう体は動かない。
「引き分けか…賞品2つあるし、片方ずつで。選ばせてやるよ」
「俺は御坂にします。黒妻サンは牛乳で」
「ちっ、俺もソッチがいいんだがな。まあ、年下に譲ってやるよ」
「しかし、強いっすね。参考になりました」
「お前どれだけバケモンと戦ってきてんだよ。タフさ滅茶苦茶だぜ」

何だか戦い終わった男同士の友情モードになりつつある2人を見て、美琴は。
恥ずかしいセリフを言わされた挙句、ほとんどスルーされている状況に、バチバチと物騒なモノをまといはじめていた。
「アーンーターらーは!」

「やべっ、黒妻サン逃げろ!」
「ああ、じゃあ牛乳もらってく。また戦ろうぜ!」
「また!」
黒妻と上条は別々に逃げ出す。

「ま、待ちなさいよ!しょ、賞品の私はどうすりゃいいのよ!」
ピタ、と上条は足を止める。
「ああ、他の奴にキスさせるわけにいかないと思っただけだから。んじゃな!」
と叫ぶやいなや、どこにそんな体力残ってたのかと思えるぐらい、見事に走り去った。

佐天涙子がニヤニヤしながら美琴に近づく。
「残念でしたねー、御坂さん」
「な、何いってんのよ!」
「上条さん…でしたっけ。他の奴にキスさせるわけにいかない…か。うわー意味深」
「! もう佐天さん! …私たちも帰ろっ!」
夕暮れの中、走り出した美琴の顔は、幸せにあふれた笑顔となっていた。


Fin.


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