とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part1

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だれでも歓迎! 編集


12月31日。御坂美琴は携帯を仕舞い、駅のホームに向かっていた。
天気も良く、予報でもしばらく快晴が続くらしい。
旅行には理想的な気候であり、帰省とはいえ美琴はご機嫌だった。

(12時50分か。ちょっとお土産に時間かかりすぎちゃったかな……)
美琴はベンチに座って荷物を足元に置き、軽く目を瞑った。
午前中にデパートでお土産を見繕っていると、ファンシーグッズ特設会場があり、
つい立ち寄ってしまったのが運のツキである。
今ご機嫌の理由の一つに、その至高の時間を味わっていたというのも外せない。

(それにしても、今年は色々ありすぎたわね……ほとんどあの馬鹿絡みの気がするけど)
グラビトン事件・レベルアッパー・シスターズ・大覇星祭・戦争・一端覧祭等々……
あの少年と出会ってから、何かが変わった、と思う。
今まではLV5への努力といった、自分の世界に留まっていた。自分でどうにか解決できていた。
しかし、自分が敵わぬ相手が立て続けに現れ、そしてどうにもできない事件も立て続けに続いた。
……そして、そのどうにもできない事を。あの少年は良くわからないうちに解決してしまう。
(敵わない、な……)
思考の渦はぐるぐると、あの少年中心にまわる。
少し考え込むと、すぐこういった思考の渦に巻き込まれ……つまりは四六時中、あの少年の事を考えているのだった。

ふと、我に返ると、ベンチの隣に誰か座っている。
「! な、なんで? なんでいるの!?」
思考の中心、上条当麻が不思議そうな目でこちらを見つめながら、座っていた。
「いや、声かけようと思ったんだが……眠ってるのかと思って近づいたら」
「……」
「なんか幸せそうに口が緩んだりしてるのを見てると、声を掛けづら」
「最ッ低!女の子の寝顔眺めてニヤニヤしてるなんて!」
真っ赤になりながら噛み付く。むろん、インデックスのように本当に噛んではいない。
(み、見られた///)
上条はすかさず右手を美琴の頭をポンポンとなでるように叩き、
「まーまー落ち着け。旅行前にカリカリしたってつまらんっしょ。っと、電車来たみたいだぞ」
「ア、アンタねえ……」
さりげなく右手で電撃を封じられ、頭をなでられては、気を失わないようにするのが精一杯である。
「って、アンタもこれ乗るの」
「ああ、帰省だ。明後日には戻るつもりだけどな」

意外にも中は空いていた。帰省なら日程的に遅すぎるし、旅行なら朝から出かけるということで、空白の時間帯らしい。
車内はボックスシートタイプのみの中距離移動型車両で、上条当麻は席の確保のためキョロキョロしている。
「あそこにすっか」
言いながら突き進み、窓際にどっかと座り込み、荷物を向かいの座席に放り投げた。
「……」
「ん?どうしたんだ御坂?座れば?」
(と、隣か向かいか……それ以前に一緒に座るなんて。1時間以上も……会話持たないっ!)
「……一緒に座るのが嫌ならそれでもいいけど、上条さんは非常に悲しいですねー」
「す、座るわよ!窓際が気持ちよさそうだな、て思っただけ!あ、いい、いい、そのままで」
席を変わろうとした上条を止め、美琴は顔を赤らめながら隣に座る。
(なにこのラッキーイベント!さっきの顔見られたのはマズったけど)
内心ガッツポーズの美琴である。
電車が動き出し、心地よい風が流れてくる。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

「御坂も……帰省っぽいな?今頃?」
「うん、LV5はちょっと学園都市の外に出る制限がきつくって。3日しか出られないのよ」
美琴は軽くため息をつく。
「だから、必然的に元旦とその前後の2日を使って3日間というわけ。私も明後日には戻らなきゃね」
「厳しいなそりゃ。俺はたいした制限はないけど、ま、同じく3日間の帰省申告だわ」
「……珍しく、あの子が一緒じゃないのね」
「ん?インデックスか?アイツは友達と正月旅行にな。おせちバイキングツアーとか言ってたな」
伝聞系にしてるが、これは上条の作戦である。
流石に実家へインデックスを連れて行くのはハードルが高すぎるため、先生と姫神を巻き込み、
2泊3日ツアーを企画した次第である。はらぺこシスターはニコニコしながら今朝旅立っていった。
なお、一応保護者という立場もあり、嫌味を言われつつもステイルに代役をお願いしていたりする。

ひとまず天敵がいないことに安堵した美琴は、肝心なことを聞いてないことに気付く。
「ふーん、で、実家てドコなの?」
「……ま、お前には言える事だけど、アレのせいで、今回帰省は初めてってことになるんだわ」
「あっ……記憶、ね」
「というわけで、こうやってプリントアウトはしてきたが、初めての土地なんだな」
ごそごそと胸の隠しから地図を取り出す。
「うーん、厄介な問題よね……ちょっと見せてね。……え!?」
「知ってる場所か?」
「知ってるも何も、私と駅一緒じゃない。もろ隣町よ。歩いていける距離」
顔を見合わせる。

「ま、まああたしは早くから学園都市に入ったから、どこかで出会ってたとかいう可能性は低いけど」
(運命?これは運命?よくわからないけど!)
美琴は幼少の頃、年上の男の子と約束したようなフラグが無かったか思い出そうとするが、流石に無かった。
「こんなことってあるのねえ……」
「まー土地勘あるのは助かった。そうだ御坂」
「ん?」
「悪いけど実家まで付いてきてくんない?」
「は?え、えーーーっ?」
美琴はあまりの急展開に頭が付いていかない。
「いや、今思ったんだけどな。帰り道でさ、昔の知り合いに会ったらマズイかな、と」
「あー……」
「一人だと誤魔化すの難しいし、過去話になりがちだけどさ、御坂がいれば」
「あー了解了解。か、彼女の振りしてればいいんでしょ!」
「(そこまで言ってないが)ま、まあそうしてくれると助かる」
「海原の時の逆パターンでしょ。まっかせなさーい!」

美琴の頭はフル回転しはじめた。
(これは大チャンス。カモン知り合い!)
名前で呼んだり、抱きついたりしても、『これは演技!』で誤魔化せる。
いやまてよ、えてしてこういう時は知り合いに会わないもんだ。それならこういう手も……と考え込む美琴。
上条は『まかせなさい宣言』の後、何やらブツブツ言い出した美琴に恐る恐る問いかける。
「もしもし?御坂さん?おーい」
「おし、じゃあ」
美琴は上条の方を見ず、早口でしゃべりだす。
「駅着いたら、もう、こ、恋人モードでいきましょう。いきなりだと不自然だし」
「は?はい?」
「何かご不満でも?」
「い、いえ……お嬢様のおっしゃる通りに(なんだこの迫力は)」
「着いて、電車降りたら私はアンタの事名前で呼ぶから。アンタも名前で呼ぶのよ。で、腕くんで歩く」
流石に上条もそれを想像して赤くなる。
「い、いきなりすぎやしませんか?」
「恋人だったら普通のことでしょー?なに照れてんのよー」
といいながら決して美琴は上条を見ようとしない。
上条は頭をポリポリと掻きながら、
「ま、お願いした立場だしな。旅の恥は書き捨て、ってな!」
そう言うやいなや、左手で美琴の細い左肩を掴み、引き寄せた!
「! きゃっ!」
「じゃあこれも普通だよな?練習だ練習……て、御坂?」
上条としては『調子に乗んな!このクソ馬鹿!』とドつかれて、ややピンクっぽい気配を打ち消そうとしたのだが。

元々ギリギリのテンションで話していた美琴は、ふにゃー化を通り過ぎて気を失っていた。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

幸い、御坂美琴は呼び掛けにすぐ応じ、意識は取り戻したが、ちょっとフラフラしているようだ。
「なにお前は舞い上がってるんだ。ほら、いいから寄りかかって休んでろ」
「う、うん。ごめんね」
おとなしく上条の肩に頭を乗せてきた美琴に、上条も硬直状態である。
(ぬおお、平常心平常心。くっそ、素直な御坂ってのもやりにくいっ……)
「最近、さ」
美琴が小さな声で話しだした。話しかけてるのか独り言なのか判別がつかない。
「ううん、ちょっと前から自分のコントロールができなくなってきててね」
「感情が高ぶったりすると、漏電っていうのかな、制御不能になったりして」
「ようやく、漏電みたいなのは押さえられるようになったけど、今みたいに」
「意識がとんじゃったりしちゃうのよね。感情を制御出来ずになにがLV5よ、ってね」
「パーソナルリアリティを自在に使いこなしてると思ってたけど」
「何のことはない、自分が何も知らないから極めることができただけで」
「LV5前に、今のこの感情があったら、きっとLV5になれなかった。あまりにこの感情は大きすぎる」
「そうよ、低いLVの子たちはこの感情に邪魔されて前へ……進めないのよ。人として当たり前よ……ね……」
美琴はそのまま、すぅすぅと眠りだした。制御不能なのは涙もなのか、1粒流れ落ちた。

上条はじっとこの言葉を聞いていた。
内容を理解しているとは言えないが、御坂美琴の苦悩が垣間見えたような気がした。
見たところ、美琴には対等な立場の人間がいない。
悩みを抱えていても、後輩には頼れない。
外に出せない苦悩は、形を変えて上条にぶつけられていたのだろう。
前に白井黒子に言われたときは意味が良く分からなかったが、今なら分かる気がする。
「やれやれ……助けてと言ってくれれば、上条さんはいつでも駆けつけますけどねっ、と」
右手でポケットをまさぐり、ハンカチを取り出すと、美琴の涙の跡を拭いてあげた。
ハンカチを持った右手を見て、こればっかりは役に立たないな、と肩をすくめる。

上条は気づいていない。美琴の苦悩は右手ではなく、上条そのものでしか解決できない事を。

目的の駅の事前アナウンスが流れると、起こすまでもなく美琴は目を覚ました。
上条は寝たフリをし(実際うつらうつらしてたのだが)、美琴の様子を窺うことにした。
だんだん現状を把握しだしたらしく、次第に真っ赤になったと思えば、ガバッ!と上条から離れる。
衣服の乱れを直し、手鏡をカバンから取り出すと顔をチェックし、なにやらため息をつく。
と、その時上条の携帯が震えだした。セットしておいたアラームだ。
グッドタイミング、と思いながら上条は目を開ける。
「あ~、この天気で車内にいるとうつらうつらしちまうなー。よく眠れたか?」
真っ赤になって美琴は無言である。
「え、と、次の駅だよな?降りる準備しようぜ?」
美琴は頷くが、やっぱり話してくれない。
流石に鈍感な上条も、美琴が恥ずかしさで一杯になってるのは分かっている。
天の岩戸に閉じこもってしまった電撃姫を、どう引っ張り出すか……上条はしばし思案する。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

1時間半ほどかけ、ようやく到着。
荷物は2人とも大したことはなく、担いでささっと降りる。
「さて、と。では行きますかね美琴さん?」
「えっ?」
美琴はようやく反応した。
上条はこうなったら、とショック療法……恥ずかしい状態を維持させて、吹っ切れさせようと考えたのだ。
そのために名前で呼び、腕を組めるように手を腰に当てる。

美琴はパニック状態をずっと押さえ込むのに精一杯であった。
車内で何を口走ったか、そしてずっと寄りかかって寝ていた事実に平常心は完全に吹き飛んでいた。
どうやって電車から降りたのかも分からない状態の所へ……
『……美琴さん?』
「えっ?」素で反応してしまった。えっ、コイツが呼んでくれたの?
「美琴・当麻で呼び合う約束だろ?ホレ行くぞ美琴」

その時、美琴の中で何かが弾けた。
嬉しさ・喜びが恥ずかしさを上回った瞬間であった。
恥ずかしさで引き結んだ口、固い表情が、一気に花開くように笑顔に変わった。
「う……うん!……行っくぞぉ当麻ァ!」
ガッ!と腕を通して、引っ張る。
「ちょっとマテ!急にキャラ変えんな!」
「変わってないわよ!御坂美琴ちゃんはこんなのよ!と、当麻こそアタフタしてんじゃないわよ」
今だけは。今だけは夢にまで見たこういった掛け合いを。悔い無くやってみせる!

上条当麻は驚いていた。何より、先程の笑顔には自分の何かを貫かれた。
あの笑顔を生み出すために何かできないか。
あの笑顔を守るために何かできないか。
あの笑顔を独占することはできないか。
……そういった魔力が込められた笑顔だった。
(つくづく女の子って……魔物とは良く言ったもんだよ。こりゃヤベエな)

上条には実は好みは特にない。
設定として、寮の管理人タイプの年上の女性だと土御門達には伝えているが、これはほとんどネタである。
幸せになれれば何でもいい、俺を好いてくれる人であれば……と何でも来い状態なのである。
ただ、中学生以下は倫理上マズイという精神的ブロックがかかっており、
生半可なアプローチではそのブロックの前に撃ち落とされてしまうのである。
しかし、今。そのブロックにヒビが入ろうとしていた……

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

改札を出ると、美琴は右手を上げて伸びをした。左腕は上条の右腕に絡めてある。
「んー、1年ぶりだなー、っと。当麻、さっそく家に向かう?」
美琴は意識して名前を呼ぶようにした。だんだんスムーズに出せてきた気がする。
「そうだなー。何時に帰るとか連絡してねーから、美琴が良ければどっかで食ってからでもいいぞ?」
上条は御坂妹と話すときに、使い分けのため「美琴」を多用しているため、特に抵抗はないが、やはり照れくさい。
駅前広場にはまばらにベンチが点在しており、相談のため2人並んで腰を落とす。
「お腹は空いてないけど……そういえば明日なんだけどさ」
「明日?元旦だよな」
「せっかくだし初詣いかない?近場に神社あるし……って当麻の知り合い居そうだから嫌かな。まあ場所はともかく、どう?」
「ああいいよ。場所は美琴が決めて欲しいけど。でも家族で行かなくていいのか?」
「おっけー。家族でならそれこそ近場でいいから。2回別々の神様にお願いしたって、バチあたらんでしょー」
美琴が絡めている腕をさらにぎゅっと強めた、その時。

「不純異性交遊にはバチを与えてもい・い・の・かなぁ~」

斜め後方からの声に、2人の動きが止まる。
美琴の顔は一気に縦線が入る。
「マズった……そういや学園の駅の改札で、乗る電車伝えてたわ私……」
固まっている美琴を横目に、上条は振り返る。
「うげっ!」
何でそこまで驚くの?と美琴も振り返って、また固まる。
「あらあらあら~。当麻さんがいいお嬢さんを家に連れてくる日を夢見てたけど、こんなに早く実現するなんてねぇ」
両家のママ、御坂美鈴と上条詩菜が満面の笑みで、そこに居た。

「な、なんで母さんがここに!美鈴さんと一緒って、なんで!」
上条は流石にこれは予想外だったらしい。
「美琴さんが帰ってくる電車を、美鈴さんが教えてくれてねぇ。当麻さん今日帰るって言ってたし、ひょっとして、とね」
「まー、入れ違いになっちゃマズイから、刀夜氏には家に残って貰って。アタシたちは車で待ち構えていたと」
「両家が連絡取り合ってるなんて聞いてないわよ……」
美琴が頭を抱える。流石に絡めた腕を外しており、むしろやや離れてさえいる。
「しかし美琴ちゃん、でかしたっ!まさかここまで進展させて帰ってくるなんて、ママびっくりよ。何があったの?ね?」
「当麻さん、まだ美琴さん中学生なんだから、オイタはいけませんよ?でもお付き合いは大歓迎ですよ~」

実を言うと、美琴からするとこの展開は嫌ではなかった。偽装ではなく、本当の恋人でありたいのだから。
母親に弱みを握られたような気分は癪だが、相手の母親に認めて貰ったのはこの上ない。
この展開に参ってるのは上条当麻のみだ。
(偽装であることをバラすことは、記憶喪失の話につながっちまう。)
(かといって、このまま偽装を続けたら、更にドツボにはまる気配が濃厚……)
(御坂が好きとか嫌いとかじゃなく、中学生相手だぞ……こ、こんななし崩し的に人生が決まっちまうのか?)

「ふ、不幸だ……」
弱々しくつぶやく上条の横で、御坂美琴は小さい声でだがハッキリと言った。
「当麻が止めたいなら、止めてもいいわよ。ちょっと残念だけど、さ」


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