とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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匿名ユーザー

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良くも悪くも学園都市は実力主義だ。
力のある者は待遇も環境も収入も優遇される。
力のない者は待遇も環境も収入も冷遇される。

しかし、学園都市の言う「力」は「能力」なのだ。

たとえ私を地獄から救ってくれる「力」を持っていても。
たとえ学園都市最強のレベル5を倒せる「力」を持っていても。
たとえ世界を救う「力」を持っていても。

アイツの「能力」はレベル0。

アイツは特別な『時間割り』も施されず、
ごく普通の高校のごく普通な男子寮に住み、
私の何百分の一の奨学金でやりくりしなければいけない。

そして私はレベル5。

私には数多くの研究機関がつくし、
学園都市でも有数の名門校、常盤台中学の女子寮に住み、
メジャーリーガーを何人か雇える程度の貯金もある。

二人の間には、待遇、環境、収入、3つの面で大きな隔たりが存在するのだ。
故に「価値観の相違」という、カップルが別れる原因ベスト3に入るであろう問題が大きく横たわっているのである。
特に収入という面では、アイツと私の間にはマリアナ海峡の如き、圧倒的で絶対的な溝が存在するのだ。

卵1パック68円の文字に狂喜乱舞し、たとえ雨が降ろうが槍が降ろうがスーパーへ向かうという、アイツの価値観が私には理解できない。

コインロッカーの代用として、服を着替える為だけにホテルを利用する私の価値観が、アイツには理解できないという。

だから、アイツが口を開く度に「お金がない」とつぶやく心境を、私は理解できない。

でも、理解できないと言って無視するつもりもなく。
かといって露骨に金銭を送るという、人の尊厳をロードローラーで踏みつぶすような事もしない。

だけど。
その問題を一人で抱え込まれるのは黙っていられない。
食費が無いなら私が料理を作ってあげることもできる。
持ち前の不幸で財布を無くすというのなら、私が財布を預かってあげることもできる。
住む家が無いというのなら…

…これはいつかの楽しみにとっておこう。

とにかく。
問題を一人で抱え込むことだけはして欲しくない。
まるで「お前には関係ない」「お前には分からないだろう」
と、冷たくあしらわれているように感じてしまうのだ。



さて。
本題に入ろう。

アイツがアルバイトを始めた。
理由を聞こうにもはぐらかされるばかりで一向に答えてくれない。
なんとか聞き出した情報によると、友人が住むパン屋さんで働いているらしい。
早朝の仕込みの手伝いをした後学校へ行き、学校が終わる夕方からは販売の担当に回るらしい。
さらに土日は早朝から夕方までのフルタイム出勤。

太古の昔に習った「労働基準法第4章32条」や「36協定」といった単語が脳裏をよぎる。
だが個人経営のパン屋さんにとっては「馬耳東風」「牛に経文」貴重な働き手を逃す手はないらしい。
その友人からは「上やんが来てくれたおかげでボク、ごっつう楽なったわ。まぁアウシュビッツが網走刑務所になったようなもんやけど」
と、感謝されてるのか貶されてるのか分からないコメントを頂いたらしい。

数々の死地と修羅場を乗り越えて来たアイツだが、所詮高校生に(ツンツンの)毛が生えた程度。
そんな生活をしていて身体が保つ訳がない。
見る見るうちに窶れていき、会話をしていても常に上の空。
いつか「教室に放置したまま夏休みが明け、水槽の水が全て乾燥して干涸びたグッピー」のようになってしまうに違いない。

そして何よりも私が恐れていた事。

二人で逢う時間が格段に減ったのである。
付き合ってからは週に5日は一緒に遊んでいたものが、
爆破カウントダウンよろしく、4、3、2、1、と減っていった。

私がもっと遊びたいと言えばアルバイトの日数は減ったであろう。
しかし、木山先生にも指摘された私の性格(私は断固として認めたくないけど…)「ツンデレ」が邪魔をするのだ。
当麻からの
「お前寂しいんじゃねーの?もっと遊びたかったら言えよ」
という一言にも
「べっ別に寂しくなんかないんだからね!」
という、テンプレート通りの回答をしてしまった。

そして、ついに今週唯一逢う予定だった日は
「ごめんなさあ。すこしねかせたくださ」
とだけ書かれたメールによって、私の希望もろとも霧散してしまった。

我慢の限界であった。
爆破カウントダウンとは、私の堪忍袋のものだったのである。

私よりもアルバイトが大事なのではないか。
アルバイトで他の女を誑かしているのではないか。
その女のことで頭がいっぱいなのではないか。
来週の私の誕生日も忘れ去られたのではないか。
逢いたいという気持ちも、好きだという気持ちも、全て私の一人相撲だったというのではないか。
たまたま手頃な所に私がいたからから付き合ったというのではないか。
たまたまその私がレベル5だったから付き合ったというのではないか。
レベル5の奨学金が目当てだったから付き合ったというのではないか。
そもそも『妹達』の一件も全て仕組まれていたのではないか。

ありもしない被害妄想が頭の中でぐちゃぐちゃに暴れ回り、
不安や苛立がヘドロの様に渦巻き胸の中が苦しくなる。
当麻からの優しい心使いも、素直になれない自分の心が邪魔をする。
地獄に垂らされたクモの糸を、自らの手で切断し、そのクモの糸を恨めしげに睨む。
お釈迦様も蓮池の淵からさぞかし愉快にご覧じていることだろう。

そして苦しみから逃れる為に私はある決断をした。
それは決断というより、素直になれない自分への苛立を当麻へ転嫁し、ただただ目の前の苦しみから逃れたいだけの、放棄と称すべき卑怯な行為。
私は1件のメールを送信し、携帯の電源を落とした。

「もうしらない。さよなら。」

それ以降、携帯の電源を入れる事は無かった。








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