とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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匿名ユーザー

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とにかく行動を起こさなければ。
ちらりとアイツの方を見ると、真っ直ぐにこっちを見つめている。
あまりの視線の鋭さに思わずたじろぐ。

まさか。
この前の一件や、メールの件で怒っているのか。
恐怖が私の心を支配する。
言葉が喉で目詰まりを起こしてなかなか出てこない。
まるで見えざる手で喉を締め付けられているようだ。
喉から言葉が出ない代わりに、喉から心臓が出てきそうだ。
その心臓の鼓動は、ヘビメタバンドの2バスの如く16分でドコドコと。
テンポは240を軽く超えてそうだ。
もしそうなったら軽く死んでしまうが。

兎に角謝らなければ。
あの一件は100%私のせいだし、メールの件も私の言葉不足のせいという一面もある。
そもそも私が一方的な取引解消通告をしただけで、アイツからの言葉は何一つ聞いていない。
これで、
「あいつが悪い」
なんて開き直る奴がいたら、そいつはレベル5クラスの大馬鹿者だろう。
私の能力はレベル5だが、阿呆レベルまで5になるつもりはない。
私は軽く深呼吸をし、アイツの方に向き直り、頭を下げた。

「ごめんなさい!」

よし。
ちゃんと謝ることが出来た。
一人の人間にとっては当たり前の小さな一歩であるが、私にとっては大きな飛躍である。
許してもらえなくてもいい。
そう思えるぐらい清々しい気分になる。

アイツの反応が気になり、頭をあげる。
アイツは口を半開きにさせて唖然、呆然といった不可思議な表情をしている。
やはり、謝れば済むと考えていた私が甘かったのであろうか。
もう一度頭を下げる。

「ごめんなさい!」
そう言うや否や、アイツがいきなり飛びかかってくる。
何事かと驚く間もなく、私の肩をがっしり掴む。
「いやいやいやいや!どうして美琴さんが謝るのですか!?悪いのは100%俺だろ!?」





コイツは何を言ってるのだろう。
勝手に連絡を無視され、道中でラリアットを決められ、それでも自分が100%悪いと言うのか。
納得がいかない。
「はぁ!?どう考えても私の方が悪いに決まってんじゃん!」
「いーや!俺の方が悪いね!彼女ほったらかしてバイトに明け暮れるなんて人間のクズがすることだ!」
「出会い頭にラリアットぶちかます人間こそゴミ人間よ!」
「あれはお前が怒ってたからだろ?美琴には怒る権利もあるし、当然ラリアットする権利もある。義務と言っても過言じゃねぇ!」
「何よ!都合の悪い時だけ権利とか義務とか言わないで!私が素直じゃなかったから悪いのよ!」
「美琴が話をし辛い状況にした俺の方にこそ問題があると思うね!」
「私が悪いのよ!『卵か鶏、どっちが先に生まれたか』みたいな醜い争いはやめてよ!」
「『鶏が先に生まれた』が答えだ!そして今回の『鶏』は俺の方だ!」
「何よ!」
「何だよ!」

……
…………
………………
……………………

「ぷっ!」
「ぶふっ!」
「「わはははははははは!!!!」」

何だこの茶番劇は。
お互いに自分を卑下し合ってまた喧嘩になるとは。
阿呆過ぎるにも程がある。

でも。
この関係こそ私たちなのだ。
これでこその私たちなのだ。

「……とにかく、ごめんね。当麻」
「……ああ。こっちこそごめんな。美琴」

許してもらえた。
むしろ怒っていなかった。

そう安堵した瞬間、全身の筋肉が弛緩してしまい、思わず床に座り込む。
当麻は焦りの表情を浮かべ、顔を寄せる。
「美琴!大丈夫か!?」
「大丈夫……ちょっと安心しちゃって……」
私がそう微笑みかけると、当麻も応えるようにやんわりと微笑む。
当麻の笑顔を見た瞬間、再び心臓がおおきく、どくん、と鼓動した。
その鼓動がセルモーターとなったのか、私の心臓は回転数を上げ始めた。

それにしても。
当麻の笑顔を見たのはいつ以来だろうか。

アルバイトをし始めた時の笑顔は、
「googleで『笑顔』と検索して、適当にヒットした画像を印刷して、そのまま張り付けてみました」
的な、まさに『取って付けた様な』笑顔で。
末期にはその笑顔どころか顔すら見ることもままならず、
いつか撮った当麻とのツーショットを胸に、一人ベッドに籠って泣いたものだ。

そして、今日、私の誕生日。
何ヶ月かぶりに見た当麻の笑顔は、苦悩や悲壮、憤怒といった感情を全て吹き飛ばすパワーを持っていた。
私が欲しかったもの、私が本当に必要としていたもの。

当麻の笑顔だ。



それにしても。
胸の鼓動が収まらない。

目の前にいる当麻にこの鼓動が聞かれないか心配になる。
聞かれたって何てことはないが…………

やっぱり恥ずかしい。

「なぁ、美琴。もしかして心臓バクバクいってないか?」
「な!なななななななななんでア、アアアアアンタがしっしってんのよ!?」
聞かれていた!
そう分かった瞬間、鼓動がさらにテンポアップし始めた。
鏡を見ないと分からないが、恐らく顔は真っ赤だろう。
「俺もバクバクいってるから多分一緒だと思ってな」
そう言って再び莞爾笑う当麻。
その笑顔がそもそもの原因だということには恐らく気付いていない。

しかし、どうして当麻がドキドキするのだろう?
こんなことでは動じない強靭な精神を持っている筈なのに。
そう考えていると、当麻はすっと立ち上がり、何かを取り出した。
「美琴。こっちへ来てくれ」
促されて当麻の前に立つ。
当麻は片膝をつき、臙脂色の小さな箱を掲げた。



「美琴、お誕生日おめでとう」

驚きのあまり、口輪筋が職場放棄してしまい、口閉める機能を失ってしまった。
魂はケベック辺りまで小旅行に出かけて行き、私の脳は活動停止状態になっていた。

「おーい、美琴さーん?」
当麻からの呼びかけにより、何とか意識を取り戻し、その箱を見る。
臙脂色の箱の中には、燦然と輝く銀色の指輪があった。

シンプルなデザインだけど、シンプル故に力強い輝きを放っている。
一目見ただけで『それなりのもの』だということが分かる。
こう言っては何だけど、私から見て『それなりのもの』ということは、
当麻から見れば『相当なもの』ということになる。

そうか。
そうだったのか。
とある少年の名探偵じゃないけど、謎は全て解けた。

当麻は指輪をプレゼントしたかった。
でもお金が無いからアルバイトをするしかない。
アルバイトをし始めたけど、秘密だから内容は話せない。
それを早とちりした私が一方的に別れを切り出した。

当麻の事情を知らないまま。
当麻の事情を知ろうともしないまま。

「ごめんね。私、当麻のこと全く考えずにあんな酷いことして……」
私はしゅんとなって謝るが、当麻はすかさず否定する。
「プレゼント貰ったときは『ごめん』じゃないだろ?」
当麻は優しい。
分かりきっていたことだが、改めて実感する。
心が満たされじんわり暖かくなっていく。
「ありがとね。当麻」
「どういたしまして。それよりも折角なんだから早く見てくれよ」

箱の中に納められた指輪を手にとってみる。
見た目から想像されるもの以上の重さを感じる。
きっと当麻の様々な思いが込められているからだろう。

内側に何か文字が刻まれているのを見つける。
しかし、突然視界が霞んできて、何が書いてあるのかはっきり読めない。
こんな大事な時に、私の目は何て役立たずなんだろう。

その原因を探ろうと、手を目に当ててみる。

濡れていた。

そう。
なんてことはない話だ。

私はいつの間にか涙を流していただけなのだ。
涙を流している、と理解した瞬間、涙の大波が押し寄せて来て、止めどなく溢れ出た。
滂沱の涙とはまさにこのことを言うのだろう。

涙を雨にたとえるとするなら。
あの時は、荒れ狂う嵐のような雨。
今は、砂漠に降る奇跡のような恵みの雨。
同じ雨でも雲泥の差である。

あの時ベッドで流した涙は悲しかったから。
今、ここで流している涙は嬉しかったから。
量も成分も同じものなはずなのに、心中どうしてこうも違うのだろう。

そして、涙は心の中の汚いものを流していき、
心の中には当麻への愛情だけが残った。



どちらからともなく、2人は近寄っていく。
当麻は腕をまわして軽く包み込むように抱く。
私はただひたすらすがるように当麻の服を掴む。
そして、当麻は見下ろし、私は見上げる。
まるで電磁石が仕込まれているかのように、

当麻の顔が近づいていき……
私の顔が引き寄せられていき……

私と当麻は、唇を介して繋がった。

全身が火照っている。
とりわけ顔は自然発火しそうなほど熱い。
唇には今もあの感触が残っている。

「……なんか、恥ずかしいな」
「……うん」

当麻が話しかけてくるが、今はその顔を直視することができない。
今顔を見ると、私の顔は臨界点を突破し『原子崩し』してしまうだろう。

しかし、堪えようのない感情が私の心の中に襲いかかる。

もっと当麻と触れ合いたい。
もっと当麻とキスしたい。
もっと当麻と繋がっていたい。

圧倒的な感情の高ぶりが、私の心を支配していく。

そして、心の中での『羞恥心』と『欲望』のせめぎ合いの結果、
『欲望』が圧倒的大差で勝利した。

「当麻、もう一回……お願いしてもいい?」

そう言い終わるや否や、当麻は私の唇を塞いだ。
そっと目をとじ、当麻のキスに応える。
腰にまわされている当麻の腕の力が増し、窒息してしまいそうな程、きつく抱かれる。
背後では衣擦れのような『シュン』という音がする。



ああ。
このまま融けて当麻と一緒になるのも悪くないな。

なんてバカなことをぼんやり思いつつ、目を開けてみる。
当麻の目は閉じたままで、髪の毛と同じツンツンのまつげが印象的だ。
目を閉じた顔は幼く見え、ともすれば私より年下に見える。

かわいい。

思わずふっと息をもらすと、当麻はその気配を察知したのか、目を開いた。

いや。

目を『見開いた』と言うべきだろうか。
まるでこの世の終わりを見たような。
アイスホッケーのマスクを被り、チェーンソーを持った男が現れたような。
そんな形相を浮かべている。

なにが起きたのだろう。
『目を開いたら私が橋田壽賀子になっていた』とでもいうのだろうか。
しかし、どうやら私の後ろに何かあるようだ。
「んー!んー!」
と、パッション屋良のような悲痛な叫びをあげている。

その時である。

「おい」

背後からドスの効いた重低音ボイスが聞こえてくる。
思わず当麻から離れ、後ろを振り返ってみる。

そこには『鬼』が立っていた。



全身に纏ったオーラは世紀末覇者『拳王』のようで。
その憤怒の表情は京都の東寺に祀られている『不動明王』のようで。
ケーキ用のナイフを持った姿は『マグロを解体しています』と言わんばかりで。
『マグロ』が何の暗語かは推して知るべし。

私はその『鬼』を見たことがある。
白井黒子。
いや、『白井黒子だったもの』と表現するべきか。
その姿とオーラは、並の人間なら失神させられる程の覇気を持っている。

『鬼』は話す。
女子中学生とは思えない重低音で。
デスメタルバンド『meshuggah』のイェンスだってこんな声は出ないだろう。
「私は忠告をした。『もしもの場合は全力をもって叩きつぶす』と」
あまりのオーラに私は震え、当麻は脂汗を流しながら息をのむ。
「よって今から死刑を実行する。覚悟しやがれ腐れ類人猿がぁぁぁぁ!!!!」

『鬼』が襲いかかる。
「処刑(ジャッジメント)の時間だァ!さっさとぶち殺されやがれ類人猿!」
私と当麻は一目散に玄関に走って逃げる。
靴も履かず、振り返らず、一目散に走って逃げる。

「なんだか、楽しいね!」
走りながら私は呼びかける。
「どこがだよ!アイツの目つき見たか?アレはマジで殺る目だ!暗部にだってあんな逸材いねぇぞ!」
確かにごもっともなご意見で。

でも、人生前途洋々より前途多難の方が楽しいに決まっている。
有馬記念より中山大障害の方が楽しいのと同じだ。
黒子だってちゃんと分かってくれるはずだ。……多分。

「でもこっちのほうが私たちらしくていいじゃない!」
「まぁ、確かにな。……とりあえず感傷にひたるのは逃げ切ってからにさせてくれー!」
そう叫びながら当麻は猛スピードでどこかへ消えていった。
「おらおらおら!愉快なオブジェになりたくなかったらもっと必死になりやがれェ!」
『鬼』は私を追い抜き、当麻を追っていく。
その時の『鬼』の表情は、怒っているけどどこか楽しげで、ちょっぴり寂しげだった。
形式上怒っているが、本当は祝福してくれているのだろう。
テレポートを使わないのが何よりもの証拠だ。
本当に素直になれない子だ。

……私もだけど。

とにかく。
ありがとう。黒子。
私は優しい後輩達に感謝する。
こうして再び当麻と一緒になれたのは、あなたたちのおかげなのだから。

そして、本当に優しい当麻に感謝する。
こうして生きていられるのも、
人を愛する苦しさと素晴らしさを教えられたのも、
全てあなたのおかげなのだから。



あなたは昔言った。
「俺の右手は運命の赤い糸まで切っちまうから彼女ができない」
と。
あの時は素直になれなくて、
「良かったじゃない!彼女が出来ない言い訳が出来て!まぁ彼女は出来ないままだけどね!」
なんて言って、茶化して肯定した。

しかし、赤い糸伝説はそもそも間違っているのだ。
本来は赤い『糸』ではなく赤い『縄』だったのだ。
場所も『手の小指』ではなく『足首』を繋ぐもの。

そう。
当麻の右手は関係ないのである。

そもそも赤い糸なんて必要ない。
赤い縄も必要ない。
いつ、どこにいても、なにがあっても2人は引き寄せられるのだから。

まるで神様が見えない手で私たちを操っているように。
世界はそういう仕組みになっているらしい。










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