とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

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匿名ユーザー

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「よし。もう大丈夫」
私は鏡の中の私に自己暗示をかけ、ほっぺをぱしんとひとつ叩き、トイレを出た。

席へ戻ると、先ほどの公害レベルの騒音はどこへやら、2人は富士の樹海もかくやと思われる程に静まり返っていた。
そして、花飾りに塩もとい、青菜に塩といった様相をしている。
対する黒子は、目を瞑りながら腕を組み、仏頂面をしている。
どうやら、2人が黒子を怒らせる行為をとったらしい。

ここは私が先輩の貫禄を見せつけるべきだと息巻く。
「3人ともどうしたの?喧嘩?」
そう尋ねると、2人はばつが悪そうで、しどろもどろな返答を繰り返す。
そこへ、黒子からの一喝が入り、意を決した様に2人が口を開く。
「御坂さん、気分を悪くしてしまってごめんなさい」
「私、御坂さんが傷ついてるって白井さんに言われるまで気付かなくて……」

なんだ。
そんなことか。
もっと深刻な問題について議論を交わしているのかと思ったのに。
私の心配なんていうちっぽけな問題で、ここまで怒ったり萎れたりする必要はないのに。
そう考えていると、先ほどまでの怒りや悲しみも吹き飛び、
なんだか可笑しくなってきて、思わず吹き出してしまった。

いきなり笑い出した私を見て、皆は怪訝そうな表情を浮かべている。
おずおずと、黒子が私に問いかける。
「あの……お姉様?大丈夫ですの?」
「大丈夫よ。初春さんも佐天さんも気にしなくていいわよ。皆、心配してくれてありがとね」
私がそう返答すると、2人はパッと花が咲いた様に笑顔を取り戻し、黒子もやれやれといった表情を浮かべている。

確かにアイツの事をとやかく言われるのは気に食わないが、2人なりに励ましてくれていたのだろう。
感情の一人相撲を取るのはもうやめよう。
この繋がりだけは大事にしておきたいから。



「ふぉうふぃふぇふぁふぃふぁふぁふぁん、ふぉうふふふぁんふぉうふぃふぇふふぉふぇ?」
初春さんがいちごパフェを食べながらそう喋った。
喋ったというより、『口をもぐもぐするついでに音が出た』と言った方が正しいような気がする。
残念ながらちっとも聞き取る事が出来ない。
「初春さん、食べる喋るか、ふたつにひとつよ」
「……失礼しました。で、御坂さん。もうすぐ誕生日ですよね?」

誕生日?
誰の?
ああ私のか。
そういえばそんな日もあった様な気が。
確か誕生日はアイツと2人でどこかへ出かけて……

おっと危ない。
折角忘れようとしてるのに、傷口を自ら掘り返すとは。
それにしても、自分の誕生日を忘れるとはよほど心にゆとりが無かったのだろう。

「そういえばそうね。まぁ『何も予定は無い』けどね」
私は皮肉を込めた自虐を放つ。
初春さんは、それを知ってか知らずかスルーし、目を爛々とさせながら聞いてくる。
「そこでですよ!私たちでサプライズパーティをしようと思うんですけど、御坂さん来てくれませんか?」
さらにそこへ佐天さんの絶妙な合いの手が入る。
「私、最近御坂さんに遊んでもらってないなー。ってか初春、サプライズって言ったらサプライズじゃ無くない?」
「ああ!サプライズが!とにかく、パーっといきましょうよ!パーっと!」
「そうですよ!パーっといきましょうよ!」
花金ナイトフィーバーしているサラリーマンのようなことを宣う2人。
そんなことを言われては、私も乗らないわけにはいかない。
「そうね……パーっといこうかしら!」
「「やったー!」」
気を使ってくれているのか、ただ単に楽しいことがしたいのか、それとも純粋に私を祝おうと考えてくれているのか。
真相は私に分からないけど、とにかく心遣いが嬉しかった。
心がじんわりと暖かくなり、身体も元気になるのが分かった。
ことばひとつでこんなに簡単に気分が浮き沈みするのは、我ながら恥ずかしい限りだと思う。

しかし、レベル5だ何だと言われるが、私だって思春期まっただ中の女子中学生なのだ。
悲しいときには人一倍泣くし、嬉しいときには人一倍喜ぶ。

人はそれを繰り返して強くなるらしい。
そうして強くなった人が大人と呼ばれるのだ、と、誰かに聞いた言葉を思い出す。

私は大人になれるのだろうか。



「はぁーお腹いっぱいですー」
「初春、いちごパフェ6杯はやりすぎだと思うよ。店員さんの営業スマイルも引きつってたよ」
「いっちっごぱっふぇが、とっまらない!」

あの後初春さんがいちごパフェを食べ続け、私も佐天さんと2人で喋り続け、
存在感が吸血殺しもとい、存在感が空気になっていた黒子の意識を現世に呼び戻し、
(お姉様と2人っきりの誕生日が……と、うわ言をつぶやいていたが無視した)
そうこうしている内に時刻は18時をすぎていた。
店員からの(客席回転率!)という無言の圧力を背後から受け、
ロケット鉛筆の様に押し出される格好でファミレスを出る。

夕方18時、街は夕日によって橙色に染められていた。
歩道を歩く私たちに、ビルの隙間から差し込む夕日が突き刺さり、眩しくて思わず顔をしかめる。
しかし、ビルに埋もれ人工の光に溢れるこの街では、眩しくても自然の光である夕日が心地よく感じてしまう。

先を歩く佐天さんは、影を大きく伸ばしながら大股に歩いている。
どうやら市松模様のタイルの黒いところだけを踏んで歩いているようだ。
危なっかしい歩き方だが、元気一杯でリズミカルなその歩き方が、いかにも佐天さんらしい。

「御坂さん、少し答え辛い質問をしてもいいですか?」
たーん、たーんと、テンポ良くタイルを踏みながら、佐天さんが尋ねる。
「胸の大きさ以外ならいいわよ」
茶化すように答える私。
佐天さんは振り返らず、テンポを落とさず、リズムを変えずに尋ねる。
「彼氏さんのことはもう好きじゃないんですか?別れたままでいいんですか?」

なるほど。
確かに答え辛い。
だが、ここまで突っ込んだ質問だと、かえって答えやすい。
「……もちろん好きよ。でもこれ以上傷つきたくはない。だから付き合えない」
私は心の中を正直に打ち明けた。
普段はこんなに心の中を正直に話すことはないが、なぜか今はすらすらと話すことができる。
そこに佐天さんから核心を突いた言葉が飛んでくる。
「御坂さん、それを彼氏さんに言いましたか?」
「……それが言えたらこんなことになってないわ」
そうだ。
アイツの前でもこの正直さでいられたら、きっとこんな結末にならなかっただろう。
もし同じ結末でも、もっと傷つかずに済んだだろう。

「さっきはボロクソに言ったんですけど、彼氏さん、そんなに悪い人じゃないと思うんですよねー。
きっと何か理由があってアルバイトしてるんだと思いますよ」
「……でも、アイツの前じゃどうしても素直になれない。怖いんだと思う」
私は俯き気味になりながらつぶやく。

すると、前を歩いている佐天さんが、スカートを翻しながら右足を軸にしてくるっとふりかえる。
そして、私の目を真っ直ぐに見据えながらこう言った。
「御坂さんと彼氏さんはきっとやり直せます。あとは御坂さんの勇気とタイミング次第です」

夕日をバックに莞爾笑った佐天さんは、なんだか後光が差しているようで、神秘的で美しかった。
あまりの美しさに言葉を失い、ごくりと唾を飲む。
その神秘さと美しさも相まって、佐天さんの言葉は天啓にさえ思えた。
神からのお告げには素直に信じることにしよう。
「善処してみるわ」
「それでこその御坂さんです!」
佐天さんはひまわりのような満面の笑みを浮かべた。
この笑顔で落ちない男がいたら、きっとその人はアッチ系の人だろう。

が、その笑顔が変化する。
何か不思議なものを見つけたような表情だ。
「ところで、御坂さんの彼氏さんってツンツンの黒髪ですか?」
ツンツンの黒髪?
あまりにも突然な質問に驚きつつも首肯する。
なぜ佐天さんがアイツを知っているのだろう。
「じゃあもしかして、こっちに猛ダッシュしてくる人って彼氏さんですか?」
佐天さんが指差す先を見てみると、見慣れたツンツンの黒髪男が走って来るではないか。
その形相はいつになく真剣で、思わず心臓がどきりと鼓動する。

今、一番逢いたくなくて、
今、一番逢いたい人。



アイツがこちらへ向かってくる。

あと5秒でここへ来る。

4秒。

3秒。

2秒。

1秒。

0秒。

ああ、どうしよう!





「美琴!俺の話を聞いてごびゃぁっ!」





混乱した私は、思わずラリアットを食らわせてしまった。
走って勢いのついていたアイツは、首を軸にして盛大に回転した。
中国雑技団からスカウトがきそうな程、お見事な回転。

うむ、我ながら見事なラリアットだ。
スタンハンセンや長州力や佐々木健介等、名だたるラリアット使いにだって引けを取らないだろう。
私には新日からスカウトが来るかもしれない。

と、悠長なことを言っている場合ではない。
アイツは頭を地面にめり込ませてノビている。
殺人未遂罪で告訴されかねない大惨事だ。
佐天さん初春さんは唖然と、黒子はやれやれといった表情をしている。

「御坂さん……」
「これはいくらなんでも……」
「酷過ぎますわ……」

3人からの視線が、エベレストに吹きすさぶ吹雪のように冷たい。
このままでは視線による凍死という、前代未聞の悲劇になりかねない。

そして、それ以上にアイツへの申し訳ない気持ちで一杯になる。
何か伝えたいことがあったのに、それを無視してラリアット。
プロレスのようなラリアット。
とても見事なラリアット。

……………

「ごめんなさーーーーーーーーーーーーい!」

私ははぐれメタルの如き素早さでにげだした。



視界は黒一色だった。
目を開けているのに、開けているのかどうかわからない。
視覚を司る神経を根こそぎ奪われた、そう感じさせる程の圧倒的な黒だった。

そして、静寂が場を支配していた。
遠くで車の走る音が聞こえるような気がするが、あまりにも遠過ぎて判断できない。
まるで『無音』という音をヘッドホンで聞かされているようだ。

突然『パン!』という、無慈悲で乾いた破裂音が静寂を切り裂いた。
辺りには火薬の匂いが立ちこめる。
刹那「きゃあ!」と、誰かが悲鳴をあげる。
『パリン』と、ガラスの割れる音がし、足もとに何か液体が広がっていく。

見なくても分かる。

恐らく目の前の光景は惨憺たるものであろう。


突然、パッと照明が灯り、視界が戻る。

耳を塞ぎ、おびえる初春さん。
やれやれ、とため息をつく黒子。
クラッカーを持った佐天さん。
コーヒーポットの残骸とその中味の紅茶が床に散らばっている。
テーブルの上には『おたんじょうびおめでとう』というプレートのついたケーキ。

そう。
今日は私の誕生日パーティだ。



「まぁ、いろいろありましたが!」
「御坂さん!」
「お誕生日!」
「おめでとうございまーす!」


あの『大回転ウルトラ事件』の後。
黒子にこっぴどく叱られ、
佐天さんに護身術教えてください!と、頼まれ、
初春さんに大丈夫ですよと、励まされ。
何とかかんとか立ち直れた私であった。

さすがにアイツに謝らなければいけないと痛感し、おそるおそる携帯の電源を入れてみる。
何件かのメールと着信があったが、やっぱり怖くなって読まずに消去した。
黒ヤギさんと白ヤギさんは、きっとこんな気分だったのであろう。

そして、事態は何の解決も進展も見せないまま、
日本の国債のように問題を先送りにし続けて今日、私の誕生日を迎えたのであった。

佐天さんは自分の部屋をパーティ仕様に飾利もとい、飾り付けし、ケーキと料理も作ってくれた。
少し気合いを入れたという料理は、繚乱家政女学校の作る料理に引けを取らないものであった。
これで中学生。
まちがいなくいい嫁になる。

しかし、そのいい嫁候補が今、必死に謝っている。
原因はもちろん、先ほどのアレである。

「ごめんね初春!でも怯えてる初春も可愛かったなー」
「そんなの知りませんよ!もう!」
ぷりぷりと怒る初春さんをなだめすかし、ケーキを準備する佐天さん。
初春さんも半分許したらしく、もう意識の半分は目の前のケーキへ傾いている。
もはやこの甘党レベルは病的だ。

一方、黒子は何故かよそよそしそうにしながら携帯をいじる。
「サプライズを用意しておりますので、心してお待ちくださいまし」
と、意味深なことをパーティの前に言っていたので、その準備だろうか。




「「「ごちそうさまでしたー!」」」
「おそまつさまですー」
佐天さんお手製の料理とケーキは絶品だった。
再三再四繰り返すが、これで中学生。
将来有望である。
ちなみにケーキの半分以上は初春さんが平らげた。
あな恐ろしやと言うべきか。

そして、3人からそれぞれプレゼントを渡された。
初春さんは花柄の可愛らしい包み紙、
佐天さんは水玉のポップな包み紙、
黒子はドギツイピンクの包み紙。
ドギツイピンクから漂う妖艶なオーラから察するに、イヤな予感しかしない。
中を見ようと思ったが、全員に帰ってからにして欲しいと言われ、断念した。

楽しい時間というものはあっという間に終わってしまう。

アインシュタインが言った一般相対性理論によると、重力の強い場所では時間の流れが遅くなるという。
ということは、この部屋にかかる重力は他より弱いのだろうか。
そんなことを考えてしまうぐらい、時間の流れが早く感じた。

私はみんなに感謝の言葉を述べ、帰る支度をする。
すると、
「お待ちくださいまし。まだサプライズがありますの」
と、突然黒子が言った。

佐天さんも初春さんも事前に知らされていなかったらしく、きょとんとしている。
「私はお姉様が本当に望んでいるものをご用意いたしました。しばしお待ちくださいませ」
仰々しくお辞儀をすると、玄関の方へと歩いていく。
そして、戻って来た黒子の傍には。

見慣れた黒髪のツンツン頭。

今、一番逢いたくなくて、
今、一番逢いたい人。

上条当麻である。

「……敵に塩を送るようなことはしたくありませんが、お姉様が望んでおられることですから仕方ありませんわ」
不本意そうに言うが、その顔はニヤついている。
なんて憎たらしい後輩だ。
帰ったらお仕置きしてあげなくては。

「それでは邪魔者は消えますので、後はなんなりと」
そう言って佐天さんと初春さんを引き連れて部屋を出る黒子。
突然振り返り、鬼の形相でこう言った。
「ただし!過ちは犯さぬように!もしもの場合は全力をもって叩きつぶしますので!」
ふん!と鼻息荒く黒子は出て行った。
そして、部屋にアイツと2人残されてしまったのである。

「ぐっどらっく!」
佐天さんの声が遠くの方で聞こえる。

ちくしょう。
何がぐっどらっくなもんか。
気まずさで胃潰瘍を起こしそうだ。








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