4日目 雪の日には
身を刺すような寒さを感じ美琴は目を覚ました。辺りはまだ真っ暗で夜が明けるのは当分先のようである。
「なんだ、まだ3時じゃない…………」
このままもう一眠りしようと思っていた美琴だったが、不意に尿意を催し、トイレに行こうと思い立つ。
すやすやと静かに寝息を立てる打ち止めを起こさぬように注意しながら起き上がり、側においてあったカーディガンをパジャマの上から羽織り立ち上がる。
すやすやと静かに寝息を立てる打ち止めを起こさぬように注意しながら起き上がり、側においてあったカーディガンをパジャマの上から羽織り立ち上がる。
「打ち止め、さっきはありがとね」
上条に風呂あがりに裸を見られた美琴をなだめ、落ち着かせたのは打ち止めだった。打ち止めは、上条がジュースをこぼし拭く物を取りに来たところを偶然美琴と不幸にも遭遇してしまったことをあっさりと言い当てた。
必死に上条を庇う打ち止めの姿に美琴は落ち着きを取り戻し、上条が出てくるまでそっとしておこうと思うのだった。
必死に上条を庇う打ち止めの姿に美琴は落ち着きを取り戻し、上条が出てくるまでそっとしておこうと思うのだった。
「しっかし寒いわね。雪でも降ってるんじゃないかしら」
美琴はブルリと体を震わせ、窓に近づきカーテンの隙間から外を確認する。マンションの最上階から見える学園都市の夜景に息を呑みつつ、その夜景に幾つもの淡くて白い筋が落ちていくのを確認する。
「これは積もりそうね」
実際にもう雪はかなり積もっているのではないか、静かに舞い落ちていく雪をぼんやりと眺めながらそんなことを思う。
「おっといけないわ。トイレ行こ……」
美琴はそっとカーテンを閉じると、物音を立てないように寝室を出てトイレへと向かう。すぐに用を足して、戻ろうとした美琴はリビングで何か聞こえてくるような気がして立ち止まる。
「これ、当麻の部屋から……」
耳を澄まして、物音の原因を探していた美琴は思い切って上条のいる寝室へと近づく。鍵はかかったままなので、そっと耳を扉に当てて中の様子を伺う。
「…………ことぉ、み……と、みこと、みことぉおおおおお」
今までに聞いたことのない叫び声で美琴の名を何度も繰り返す上条に、美琴は激しく戸惑いを覚える。
(え、あいつ、何で私の名前を連呼してるの……それにこれって……)
上条が何をしているのか察した美琴は羞恥で顔が真っ赤になるのを感じた。恥ずかしくてすぐに耳を離してその場を立ち去ろうとするが、体がいうことを聞かない。
まるで何かに取り憑かれたかのような感覚に美琴は我を忘れながら、中の様子に意識を集中させる。
まるで何かに取り憑かれたかのような感覚に美琴は我を忘れながら、中の様子に意識を集中させる。
「みことぉ…………うう…………」
今までで一番大きな声で美琴の名を叫んだ上条はすぐに呻き声を上げ、その後は静かになった。
(本当に私を……にして…………)
美琴は未だに今起きた出来事を信じることができなかった。中学生と思いガキ扱いしていた美琴を上条がそういう対象と見てくれていた、それに対する喜びと戸惑いはまだ中学生の美琴にとっては刺激が大きかった。
「お、俺は……なんてことを…………」
もぞもぞと動き出した上条がポツリと呟いた声に美琴は我に返り、ここから立ち去らなければと思い立つ。そして物音を立てないようにそっとその場を離れ、打ち止めのいる寝室へと戻る。
美琴はその後に呟いた上条の謝罪の言葉を聞くことなく、そのまま眠りにつくのだった。
美琴はその後に呟いた上条の謝罪の言葉を聞くことなく、そのまま眠りにつくのだった。
一日で一番気温が下がるのは明け方だということは有名である。あまり雪の積もることのない学園都市を雪原へと変えた凍てつくような寒さに上条の意識は一気に覚醒する。
そしてまだ体の芯に残る倦怠感と心に残る罪悪感で気分は最悪だった。普段なら呟く不幸だという言葉が出ないほどに。
そしてまだ体の芯に残る倦怠感と心に残る罪悪感で気分は最悪だった。普段なら呟く不幸だという言葉が出ないほどに。
「不幸だなんて言える立場じゃねーんだよ…………」
上条は自嘲気味に呟く。美琴の裸を見たばかりか、それに欲情しあまつさえ欲望に負けて汚してしまった自分が情けなくて上条は顔をしかめる。
「これからアイツとどう顔向けすりゃいいんだよ……」
ここ数日で前に比べ美琴との距離はだいぶ縮まった気がする。美琴は上条のことを信頼してくれているのだ。それを裏切った自分が情けなくて仕方なかった。
それに打ち止めにも美琴とギクシャクしたところを見せたくはなかった。美琴から上条がしたことを聞いているはずだ。打ち止めにも合わす顔がなかった。
それに打ち止めにも美琴とギクシャクしたところを見せたくはなかった。美琴から上条がしたことを聞いているはずだ。打ち止めにも合わす顔がなかった。
「すまねぇ、美琴、打ち止め…………」
まるで泣き顔を見られたくないかのように枕に顔をうずめながら、上条はひたすら2人に謝罪の言葉を繰り返す。
美琴や打ち止めが起こしに来ても出ることなくそのまま無視した。
それからどれくらい経っただろうか、誰かが再びドアをノックする音がして上条はぼんやりとした意識を元に戻す。
美琴や打ち止めが起こしに来ても出ることなくそのまま無視した。
それからどれくらい経っただろうか、誰かが再びドアをノックする音がして上条はぼんやりとした意識を元に戻す。
「お兄ちゃん、起きてるってミサカはミサカは聞いてみる」
「…………」
「昨日のことを気にしてるのかな? ミサカはミサカは昨日のお兄ちゃんとお姉ちゃんの事故を思い出して呟いてみる」
「…………」
「昨日のことを気にしてるのかな? ミサカはミサカは昨日のお兄ちゃんとお姉ちゃんの事故を思い出して呟いてみる」
打ち止めは上条が反応しないにも関わらず淡々と続ける。
「お姉ちゃんは怒ってないよ? びっくりしたのは確かだけどってミサカはミサカはお兄ちゃんが気に揉んでいることを想像してみる」
「………………」
「それに今はお姉ちゃんいないから、本当に起きてるならミサカに顔を見せてほしいなってミサカはミサカは告げてみる」
「………………」
「それに今はお姉ちゃんいないから、本当に起きてるならミサカに顔を見せてほしいなってミサカはミサカは告げてみる」
打ち止めの言葉に上条はのろのろと起き上がり、鍵を解除し扉を開く。
「おっはよーってミサカはミサカはお兄ちゃんの胸にダイブ!」
ダラダラとした動きで現れた上条に打ち止めは飛びつき、上条の胸に頬をスリスリさせる。
「ごめんな、打ち止め」
「何で謝るのかな、ってミサカはミサカは首を傾げてみる」
「それに謝るならお姉ちゃんにじゃないかなってミサカはミサカはお姉ちゃんは怒ってないから素直に謝れば大丈夫だよってこっそり教えてみる」
「何で謝るのかな、ってミサカはミサカは首を傾げてみる」
「それに謝るならお姉ちゃんにじゃないかなってミサカはミサカはお姉ちゃんは怒ってないから素直に謝れば大丈夫だよってこっそり教えてみる」
上条の表情がすぐれないことをすぐに察知した打ち止めは努めて明るい声で上条を励ます。
「だけど……」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが仲良くないとミサカも楽しくないんだよ」
「打ち止め…………」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが仲良くないとミサカも楽しくないんだよ」
「打ち止め…………」
シュンとする打ち止めに上条の罪悪感は増すばかりだった。
「とりあえず、ご飯食べようよ。ご飯食べると少しは落ち着くよ?」
打ち止めは美琴がラップを包んで置いてあった朝食を手に取り、電子レンジを起動する。ブーンと独特の作動音が、上条と打ち止めの間をゆっくりと流れる。
打ち止めは小さい体を忙しなく動かしながら、食器を準備したり、冷蔵庫から余り物を取り出したりと甲斐甲斐しく準備を行なっている。
そんな打ち止めの後ろ姿は美琴そっくりで、やっぱりクローン、いや姉妹なんだなと上条はどこか思ってしまう。
打ち止めは小さい体を忙しなく動かしながら、食器を準備したり、冷蔵庫から余り物を取り出したりと甲斐甲斐しく準備を行なっている。
そんな打ち止めの後ろ姿は美琴そっくりで、やっぱりクローン、いや姉妹なんだなと上条はどこか思ってしまう。
「はい、おまたせってミサカはミサカは綺麗に並べた食事を誇ってみる」
「サンキューな、打ち止め」
「サンキューな、打ち止め」
打ち止めの美琴とそっくりな優しさに心が少しだけ穏やかになるのを感じながら、上条は美琴が作った料理を一心不乱に口にするのだった。
幾人もの通行人や車に踏みしめられ汚れてしまった雪の上をぼんやりと美琴は歩いていた。ゴボゴボとブーツが道路にコーティングされた雪を踏みしめる音だけが静寂の中にただ響きわたっている。
「アイツ、出て来なかったな…………」
美琴は、部屋から反応無く出て来なかった上条のことを思い返し、寂しい気分になる。上条に無視されることはよくあることなので、少しは慣れていたはずだった。それでも心のどこかを走る痛みは以前よりもずっと強く切ない。
(ご飯、食べてくれなかったなぁ)
うまいうまいと何度も連呼し、打ち止めと他愛のない話をしながら食事をする上条の姿が思い浮かぶ。その様子は仲のいい兄妹のようであり、親子のようですらあった。そしてそれを微笑ましげに眺めるのが美琴は好きだった。
一緒に御飯を食べる、それだけのことが美琴にとっては素晴らしく幸福なことにいつしかなっていた。
一緒に御飯を食べる、それだけのことが美琴にとっては素晴らしく幸福なことにいつしかなっていた。
(一緒に買物行ったり、ゲームしたり色々したけど、それもできなくなるのかな…………)
ここ数日、上条と過ごした時間が走馬灯のように美琴の頭のなかを駆け巡る。美琴が選んだ服を大いに喜んでいる姿、打ち止め共々ゲームで圧倒し半泣きにさせた姿、上条との日常的な非日常は、美琴に様々な上条を見せてくれた。
(やっぱり…………、あのことが関係してるのかな)
深夜に聞いた今までにない上条の苦しげで切ない声。そして求められていた自分。中学生の美琴にとってそれは未知のものであり、友人や先輩から聞いた話くらいしかわからない。知識としては知っていてもそれはあくまでも想像――ファンタジーでしかないのだ。
上条も思春期の男子高校生だ。そういうことに興味がないはずがない。そしてその対象に自分が含まれていたことを知る喜びと、それがもたらす恐怖が美琴の中でせめぎ合っていた。
上条も思春期の男子高校生だ。そういうことに興味がないはずがない。そしてその対象に自分が含まれていたことを知る喜びと、それがもたらす恐怖が美琴の中でせめぎ合っていた。
(当麻の顔が見たい……けど、アイツと今顔を合わせたらどうなるかわからないから会いたくない。はぁ、これじゃダメダメじゃない)
打ち止めにはお昼と晩の材料を買ってくるから上条が出てきたらご飯食べさせてとは言ってきたが、これではまるで逃げているようではないか。
「はぁ…………」
「お姉様?」
「お姉様?」
自分の不甲斐なさに大きなため息を吐いた美琴にいつもの聞き慣れた、それでいて久しぶりな声が聞こえてくる。
「どうかなさいましたの、こんなところでため息を吐かれるなんて」
いつもなら問答無用で抱きついてくる美琴のルームメイトで妹分の白井黒子が珍しいものを見たという感じで近づいてくる。
「黒子、何でアンタがこんなところに……」
「それはこちらのセリフですわ。確かお姉さまは実験の協力だったはず」
「それはこちらのセリフですわ。確かお姉さまは実験の協力だったはず」
場合によってはお姉様を補導せねばなりませんのとジャッジメントの腕章をいたずらっぽく出した白井は、無理に笑おうとする美琴の姿に違和感を覚えた。
「買い出しよ。ごはん係、私なのよ」
「そういうことですの。わたくしはお昼を利用してジャッジメントの詰所で少し仕事をやろうと思って出てきたところでしたの」
「納得したわ」
「ところでお姉様、お昼はまだですか? 黒子とランチでもご一緒していただければと」
「そういうことですの。わたくしはお昼を利用してジャッジメントの詰所で少し仕事をやろうと思って出てきたところでしたの」
「納得したわ」
「ところでお姉様、お昼はまだですか? 黒子とランチでもご一緒していただければと」
時刻はちょうど12時になろうかというところだった。ジャッジメントの詰所で申し訳ないですがと白井は前置きしながら、元気の無い美琴を努めて明るく誘う。
「あーでも私……」
「お姉様、そんな顔でお戻りになるのですか? お姉様は常盤台のエース、いつものように凛々しくあられないといけないのですよ」
「お姉様、そんな顔でお戻りになるのですか? お姉様は常盤台のエース、いつものように凛々しくあられないといけないのですよ」
白井の言葉に美琴は少しムスっとしたように表情を固くする。
「私…………、やっぱりご飯作らないといけないから…………」
「そんな顔して美味しいご飯を作れるんですの?」
「そんな顔して美味しいご飯を作れるんですの?」
白井の鋭い視線と言葉に踵を返し駆け出そうとする美琴の足はピタリと止まってしまう。
「お姉様……黒子はいつでもお姉様の味方です。何か抱えていらっしゃるならそれを少しはわたくしにも分けてくれませんか?」
話すと少しは楽になりますわよと、今までと違い優しい声音で語りかける白井に、美琴は背を向けたままその場に崩れ落ちてしまう。
「これはよっぽど重症ですわね」
白井は今までに夏のあの時に見た時のようで少し雰囲気の違う、それでいて今にも消えてしまいそうな美琴の姿を見て思う。そしてそんな姿を誰にも見せたくなかった。
やれやれとつぶやくと白井は、美琴にそっと近づきその背中を優しく撫でながら、連続テレポートを開始するのだった。
やれやれとつぶやくと白井は、美琴にそっと近づきその背中を優しく撫でながら、連続テレポートを開始するのだった。
上条の様子がおかしくなったのはいつからだろうかと打ち止めは思い返す。打ち止めはお兄ちゃんがお姉ちゃんの裸を見てしまった事件の現場に直接立ち会ったわけではないのでその時の上条の様子はわからないが、きっとそれだけではあんな状態にはならないと思う。
打ち止めの知る上条は、どこまでも優しくお人よしで人のために体を張れるすごい人だ。一方通行とは違った意味で、それこそお兄ちゃんと言える存在となってくれたことに打ち止めは大きな喜びを感じていた。
それだけにお姉ちゃんとの関係が今朝に入ってぎくしゃくしてきたのが、なんとなく嫌だった。
お姉ちゃんはお兄ちゃんのことが好きだ。それは見ててよくわかるし、あの親しい距離感を歯がゆく羨ましく思う妹達が多いのを打ち止めはよく知っていた。ミサカネットワークにおいて、妹達の感情はダイレクトに他の個体にも伝わるのだから。
ふと打ち止めは、上条が昨日、10032号とお昼ごはんを食べたことを思い出した。あの時、彼女はミサカネットワークから自身を外した。本当ならそれを全国中継し、他の妹達を羨まさせてもおかしくないのに。
もしかすると2人の間に何かあったのかもしれない。それは今の打ち止めには窺い知れない。
こういう時にはどうすればいいのだろうか、打ち止めは迷った末、ある人物に電話をかけることにする。
行き場のない打ち止めと一方通行を快く引き取って、家族として迎え入れてくれた母親のような存在――黄泉川愛穂に。
上条は美琴のご飯を食べたあと、また部屋に戻ってしまっている。多分、しばらく出てこないだろう。
玄関へそっと向かい、音を立てないようにしながら外へと出る。携帯電話のアドレス帳から黄泉川の番号を探し出し、打ち止めはボタンを押す。
打ち止めの知る上条は、どこまでも優しくお人よしで人のために体を張れるすごい人だ。一方通行とは違った意味で、それこそお兄ちゃんと言える存在となってくれたことに打ち止めは大きな喜びを感じていた。
それだけにお姉ちゃんとの関係が今朝に入ってぎくしゃくしてきたのが、なんとなく嫌だった。
お姉ちゃんはお兄ちゃんのことが好きだ。それは見ててよくわかるし、あの親しい距離感を歯がゆく羨ましく思う妹達が多いのを打ち止めはよく知っていた。ミサカネットワークにおいて、妹達の感情はダイレクトに他の個体にも伝わるのだから。
ふと打ち止めは、上条が昨日、10032号とお昼ごはんを食べたことを思い出した。あの時、彼女はミサカネットワークから自身を外した。本当ならそれを全国中継し、他の妹達を羨まさせてもおかしくないのに。
もしかすると2人の間に何かあったのかもしれない。それは今の打ち止めには窺い知れない。
こういう時にはどうすればいいのだろうか、打ち止めは迷った末、ある人物に電話をかけることにする。
行き場のない打ち止めと一方通行を快く引き取って、家族として迎え入れてくれた母親のような存在――黄泉川愛穂に。
上条は美琴のご飯を食べたあと、また部屋に戻ってしまっている。多分、しばらく出てこないだろう。
玄関へそっと向かい、音を立てないようにしながら外へと出る。携帯電話のアドレス帳から黄泉川の番号を探し出し、打ち止めはボタンを押す。
『もしもし、打ち止めじゃん? どうかしたじゃん?』
数コールの後、黄泉川の間延びした声が聞こえてくる。
「あ、ヨミカワ。ちょっと相談したいことがあるんだけどいいかなってミサカはミサカはヨミカワの都合を気にしてみる」
『全然問題ないじゃん。ちょうどお昼休憩でしばらく時間はある』
「それじゃあ、話していいかな?」
『ドンドン話すじゃん』
『全然問題ないじゃん。ちょうどお昼休憩でしばらく時間はある』
「それじゃあ、話していいかな?」
『ドンドン話すじゃん』
黄泉川の許可を貰い、打ち止めは今日あった出来事を読み皮に説明していく。上条と美琴の双方と面識のある黄泉川は2人の普段と違った一面にいろいろ感心しながらそれを聞いていく。
「というわけで、ミサカはどうしていいかわからないんだ」
『ふむ、難しい問題じゃん? でもそれはあの2人が自分らで解決しないといけないものじゃん。だから打ち止めは大変かもしれないけど、今までどおり、普通に2人と接していくんじゃん』
『ふむ、難しい問題じゃん? でもそれはあの2人が自分らで解決しないといけないものじゃん。だから打ち止めは大変かもしれないけど、今までどおり、普通に2人と接していくんじゃん』
黄泉川は諭すように打ち止めに語りかける。打ち止めはそれを真剣に聞きながらも電話越しに頷く。
「ありがと、ヨミカワ! ミサカはヨミカワのアドバイスで頑張ってみるね」
『それがいいじゃん。お兄ちゃんも、お姉ちゃんも年頃じゃん? 打ち止めも後何年かすれば2人の気持ちがわかるよ』
『それがいいじゃん。お兄ちゃんも、お姉ちゃんも年頃じゃん? 打ち止めも後何年かすれば2人の気持ちがわかるよ』
黄泉川は笑いながらそう言って電話を切った。打ち止めは通路から垣間見える空模様がどんよりと曇っていて、時折白いものが降りてきているのに気がついた。
まだまだ雪は降り続きそうだ。打ち止めは体を震わせながら、部屋の中へと戻るのだった。
まだまだ雪は降り続きそうだ。打ち止めは体を震わせながら、部屋の中へと戻るのだった。
ジャッジメント177支部はシンと静寂に包まれており、人の姿は白井と美琴の他に見えなかった。
「お姉様、紅茶ですの。どうぞ」
ケトルからカップにお湯を注いだものを白井はソファーで体育座りしたままの美琴に持ってくる。顔は未だに伏せられており、その表情をうかがい知ることは出来ない。
「ねえ、黒子。私どうすればいいんだろ…………」
顔を膝に埋めたまま、美琴はポツリと呟く。
「お話は後ですわ。まずはお顔をお上げになって、お昼を頂きましょう」
白井は顔を拭くタオルなども用意しておりますのと美琴を気遣ってあれこれ取り出す。そんな白井の優しさに美琴は感謝と罪悪感を覚える。
「ちょっと後ろ向いててくれる?」
「ええ、ごゆっくりですの」
「ええ、ごゆっくりですの」
近くにおいてあった温かいタオルを手に取り、固まりきった顔に当てる。じんわりとした暖かさが白井の優しさのように感じられる。
「もういいわよ、ありがとね。黒子」
「お気になさらず。サンドイッチくらいしかありませんが、どうぞ」
「お気になさらず。サンドイッチくらいしかありませんが、どうぞ」
白井は、自分の昼食として用意したサンドイッチや支部においてある初春貯蔵のお菓子などを机に置き、美琴に食べましょうと促す。
「今度は初春さんや佐天さんと一緒にお昼食べたいわね」
「ええ、ぜひやりましょう」
「ええ、ぜひやりましょう」
美琴の言葉に白井は穏やかな笑みを浮かべ、ここにいない仲間2人のことを思い出す。きっと賑やかで楽しくなるはずだ。
「ようやく気分は落ち着いてこられましたか?」
「う、うん。ありがとね、黒子」
「礼を言うのはまだ早いですわよ、お姉様。そろそろお話いただけませんの?」
「う、うん。ありがとね、黒子」
「礼を言うのはまだ早いですわよ、お姉様。そろそろお話いただけませんの?」
いつものように明るく振舞おうとする美琴の表情が白井の言葉によって再び固まる。そして観念したように、一つ息を吐き、白井と向き合う。
「ねえ、黒子。これから言うことを聞いてもアンタは私の味方でいて、私を応援してくれる?」
「もちろんですわ。お姉様がそれで幸せになられるなら黒子は本望ですの」
「もちろんですわ。お姉様がそれで幸せになられるなら黒子は本望ですの」
美琴は白井がしっかり頷いたのを見ると真剣な表情で口を開く。
「私はアイツのことが、上条当麻のことが…………好きなの」
「…………やはり、あの類人猿……いえ、あの殿方が原因でしたか」
「…………やはり、あの類人猿……いえ、あの殿方が原因でしたか」
白井はどこか忌々しげにため息を付き、想定していた事態の中の1つであることを悟る。
美琴はそれから簡単にここ数日のことを語った。上条や打ち止めと一緒に生活することになったこと(打ち止めは従妹ということにしておいた)、昨日上条に裸を事故とは言え見られてしまったこと。
美琴はそれから簡単にここ数日のことを語った。上条や打ち止めと一緒に生活することになったこと(打ち止めは従妹ということにしておいた)、昨日上条に裸を事故とは言え見られてしまったこと。
「はぁ、またあの類人猿は…………。それでお姉様は、あの殿方に裸を見られていたことを気に揉んでおられたのですの?」
きっと裸を見られたことは直接の原因じゃないのだろうと白井は予想しながらも敢えて尋ねる。
「ううん。そうじゃない。それはタオルを巻いて出なかった私にも責任があると思うし…………」
そこで美琴は1つ言葉を区切り、そのまま沈黙してしまう。白井は続きを促すことはせず、美琴が次の言葉を口にするまでじっと待つ。そして想像もしていなかったことを口にする。
「もし私がアンタのことを思ってしてたらどう思う?」
白井の意識はそこでぽかんとフリーズしてしまうのだった。
「今なんと仰りましたの……」
「え、だからもし私がアンタのことを思ってしてたらどう思うって……」
「お姉様ぁあああああああああああああああああ」
「落ち着けぇやゴラァああああああああああああああああ」
「え、だからもし私がアンタのことを思ってしてたらどう思うって……」
「お姉様ぁあああああああああああああああああ」
「落ち着けぇやゴラァああああああああああああああああ」
案の定いつもの白井へと戻ってしまうのだった。そして美琴の電撃による反撃をビリビリと食らってしまう。
「はっ、わたくしは!」
「アンタねぇ…………。私は真剣に聞いてるのよ」
「アンタねぇ…………。私は真剣に聞いてるのよ」
白井は美琴の今までに見たこともない表情を目の当たりにして悟る。美琴の悩みが何であるのか、そして美琴がどういう答えを選ぶのか。
「お姉様」
「何よ?」
「わたくし、白井黒子はお姉様のことをお慕いしておりますの。いつもそばに居てほしいと思っていますの。大好きですの」
「アンタ、何言って……」
「わたくしは本気ですの。今、ここでお返事を聞かせてくださりませんか?」
「何よ?」
「わたくし、白井黒子はお姉様のことをお慕いしておりますの。いつもそばに居てほしいと思っていますの。大好きですの」
「アンタ、何言って……」
「わたくしは本気ですの。今、ここでお返事を聞かせてくださりませんか?」
白井の突然の告白に美琴は戸惑いを覚える。冗談を言っている表情には全く見えない。美琴は白井が初めて真正面からぶつかってきたことを悟った。そして自分の気持ちに従い、黒子に向き合う。
「ごめん、黒子。私はアンタの気持ちに答えられない」
「何でですの。わたくしならお姉様を受け入れられる。受け入れる覚悟が出来ておりますの! あの類人猿にその覚悟がおありだと思いまして?」
「黒子! いくらアンタでも当麻のことを悪く言うのは!」
「でしたら覚悟をお決めになってください、お姉様」
「何でですの。わたくしならお姉様を受け入れられる。受け入れる覚悟が出来ておりますの! あの類人猿にその覚悟がおありだと思いまして?」
「黒子! いくらアンタでも当麻のことを悪く言うのは!」
「でしたら覚悟をお決めになってください、お姉様」
白井は不意に笑みを浮かべ、美琴に今までの激しい口調と打って変わって、諭すように囁いた。
「喜ばしいことではありませんか。お姉さまのことを上条さんが女として見ていることは。今までの片思いから少なくとも恋愛対象に入ったのですよ」
「そ、それは、そうだけど…………」
「今までお姉様は上条さんの綺麗で素晴らしい面しか見ていなかったのですから、戸惑うのは当然かもしれません。ですが、上条さんの弱さを知れたことはお姉様にとっても大きなことなのですよ」
「それでも、やっぱり、そういうのは怖いし…………」
「そ、それは、そうだけど…………」
「今までお姉様は上条さんの綺麗で素晴らしい面しか見ていなかったのですから、戸惑うのは当然かもしれません。ですが、上条さんの弱さを知れたことはお姉様にとっても大きなことなのですよ」
「それでも、やっぱり、そういうのは怖いし…………」
美琴は少しだけ顔を赤くしながら、白井の言葉を否定しようとする。
「お姉様、先程も言いましたが、覚悟をお決めになってくださいな」
「でも、今の私にアイツのそういうことを受け入れるのは…………」
「いいえ、違います。お姉様、お姉様は上条さんと向き合うのが怖くなっているだけですの。あの方の男を垣間見、怖気づいている……」
「そう、かもしれない…………」
「だからまずは上条さんとしっかり向き合ってくださいな。そしてお姉様がどうしたいか、上条さんに何をしてあげたいか、それを見極めるのですの」
「でも、今の私にアイツのそういうことを受け入れるのは…………」
「いいえ、違います。お姉様、お姉様は上条さんと向き合うのが怖くなっているだけですの。あの方の男を垣間見、怖気づいている……」
「そう、かもしれない…………」
「だからまずは上条さんとしっかり向き合ってくださいな。そしてお姉様がどうしたいか、上条さんに何をしてあげたいか、それを見極めるのですの」
白井はテレポートで美琴の隣に移ると、そっと美琴の背中を優しく撫でながら呟く。
「黒子………………」
「お姉様、頑張ってくださいな。超電磁砲のようにお姉さまの心をまっすぐぶつかれば上条さんにもきっと伝わるはずですの」
「ありがとね、黒子。こんな私だけどこれからもアンタと一緒に付き合っていっていい?」
「何を水臭いことを仰ってますの? わたくしはお姉様のパートナーですの、これからもそれは変わりませんわ」
「…………うん、それじゃあ私は行くね。あの2人がお腹空かせて待ってるだろうし」
「お姉様、頑張ってくださいな。超電磁砲のようにお姉さまの心をまっすぐぶつかれば上条さんにもきっと伝わるはずですの」
「ありがとね、黒子。こんな私だけどこれからもアンタと一緒に付き合っていっていい?」
「何を水臭いことを仰ってますの? わたくしはお姉様のパートナーですの、これからもそれは変わりませんわ」
「…………うん、それじゃあ私は行くね。あの2人がお腹空かせて待ってるだろうし」
美琴は表情を和らげて立ち上がり、笑みを浮かべる。白井もそれに返事をするかのように笑みを浮かべてこう告げる。
「そうそう、今夜も寒くなるそうですし、食欲旺盛な殿方のことを考えたら鍋などいかがでしょう?」
「そうする!」
「そうする!」
勢い良く駆け出していく美琴の背中をじっと眺めながら白井は小さく1つ息を吐く。美琴の姿が見えなくなったのを確認すると、もう一つ大きくため息を付いた。
「お姉様、頑張ってください。そして上条さん、お姉様を泣かしたら許しませんの」
フフフと不敵な笑みを浮かべて金属針を磨き始める白井。その後初春がやってきてその様子に恐怖を覚えるまで、白井は金属針を丹念に磨いていたという……。