とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある二人の掌中之珠




上条当麻と御坂美琴は現在、地下街にあるゲームセンターの中に居た。
プリントシールのゲーム筐体に最近追加されたゲコ太のフレームで撮影をしたいと主張する美琴と、そんな小っ恥ずかしい事出来るかと反対する上条。
そんなやり取りを数十分ほど行っていたのだが、ゲームセンターの店員のお姉さんに、やや引きずった笑みを浮かべられながら遠まわしに「さっさと撮れよ」と告げられて現在。
ツーショット撮影というものに二人は再び手を焼かされている。

以前とは違いペア契約の証明の為のものではなく、ただ単純にプライベートで撮影するという事が妙な緊張感を生んでいた。
前回撮影した時のように、通行人が居ることも無ければ、白井黒子が空間移動【テレポート】で現れ、上条の後頭部にドロップキックをしてくることもない為、他人の眼を気にせずに済むのだが。

あまり広くはないゲーム筐体の中。他人の眼も無い。まだ分からないが白井が現れる心配もない。
しかし、逆にそれが美琴と上条を撮影どころでは無くしていた。
上条は美琴の髪からする匂いに体を強ばらせ、美琴に至っては意中の彼と個室で二人きりと、ここがゲーム筐体の中だという事すら忘れつつあった。

『鉄壁の理性』を持つと自称する上条はブンブンと頭を振り、匂いから意識を遠ざけると以前も解けなかった疑問を投げかけた。
「で、恋人役って結局何すりゃいいんだよ?」
「にょわっ!?」
妄想空間の真っ只中にいた美琴は『恋人』という言葉に反応し、現実へと帰還した。
恋人。
実際、それを夢見ている美琴としては、こうしたいそうしたい等と様々な願いがあるのだが、ツンデレ要素を持つ美琴が素直に言葉に出来るわけもなく。
「……、」
恋人なら何をやっても恋人なのだという事に今日も気づけない、やはり、まだまだお若い二人だった。

午後四時過ぎ。
上条と美琴はゲームセンターを後にしていた。
数時間居たが、彼らがゲームセンターでしたのはプリントシールの撮影のみ。
あれから数時間もの間、「表情が固まってんぞ」「重心遠ざけんな!!」「目が泳いでんぞ」「ふにゃー」
といったやり取りを得て一枚のプリントシールを入手したのだが、上条はすっかり憔悴しきっていた。

御坂美琴。
彼女は最近、急におかしくなる事がある。その時は決まって「ふにゃー」と言い、電気を放出するという変な癖がある。
あのゲーム筐体内でそれが三度、ならばと思い、幻想殺しであらかじめ触れてようと美琴の肩に手を置くと、美琴は顔を真っ赤にし何故か両目を閉じるわで撮影に時間がかかったのだ。
現在、そのお嬢様は真っ赤な顔をしながら、それでいてニヤついたような表情でプリントシールを眺めている。
時折、小さな声で「ふにゃふにゃ」言っているが、もう気のせいだと思いたい。

耳に聞こえる声に少しウンザリしながらも、上条は同時に嬉しく思った。
こんな表情をした彼女をこれまで見たことがない。何だ、ちゃんと笑えるじゃねえか、と。
(普段もそれくらい笑ってたら可愛いのにな)
言葉にはせず、上条は密かにそう思うのであった。



さて、地下街から出た上条と美琴は現在、第六学区に向かって歩いている。
あの後、一通りプリントシールを眺め終えたからか、やけに上機嫌な美琴と地下街をぶらぶらしていたのだが、これと言ってめぼしい物もなく地上に出てきた。
地上に出てからも、宛もなく散策をしていると美琴が「あそこに行こっか」と遠くの方を指で指した。
美琴が指を指している物は、第六学区にあるテーマパークの中にある観覧車であった。

同居人であるインデックス。
彼女がイギリスに帰っても、『不幸』が口癖の上条のお財布事情はあまり変わらなかった。
その為、第六学区まで徒歩で移動してきた上条と美琴の脚は若干の悲鳴を上げ、テーマパークに着くやいなやベンチに座り込みグルグル廻る観覧車を呆然と眺めている。

時刻は五時半を過ぎた。緩やかに沈んで行く太陽が空を茜色に染め上げ始める。
各アトラクションの点検をする為、今日はいつもより閉園時間が早いと、園内に流れるガイダンスが告げている。
上条はいつも通りの口調で「さっさと乗って帰ろうぜ」と言うと、美琴の方へと視線を移す。
「……そうね」と視線に気付いた美琴も上条の方を見る。
上条は、小刻みに震える美琴の変化に気付けない。

観覧車に乗る為に並んでいる最中、美琴がポツリと呟いた。
「一つ頼みがあるのよ。私、最近よく漏電するじゃない? 観覧車に乗ってる時に漏電すると流石にヤバいからさ......その、ア、アンタの右手を貸して欲しいのよ」
「別にいいけど、どうするんだ?」
「……こうするの」
少し赤みのかかった顔をした美琴がその言葉を言うと同時に右手を握る。
ハッキリと右手を握られ、女の子特有の柔らかさにドギマギした上条は「恋人ごっこだから仕方ねえよな」と自分に言い聞かせるように告げると、美琴の左手を静かに握った。

午後六時。本日、最終便の観覧車に揺られながら宙に浮かんでいく。
群青色に変わりつつある空にポツポツと星が見え始める。
星空とパノラマの街、その光と光の真ん中らへんに二人は居る。
上条は右手の中にある温もりを意識しないように、外を眺めている少女を見つめる。
星空を眺めてるであろう横顔はどこか悲しげで、時々、指をギュッと強く握ってくる。

その度に「どうしたんだ? 何かあったのか?」と尋ねるのだが、どんな問いかけをしても「大丈夫だから」と美琴は下手な笑顔を浮かべる。
「大丈夫じゃねえだろ!!」
そう言おうとした瞬間、ガタン。と観覧車が揺れた。
係員がドアを開けるのを合図に、十分間の浮遊旅行の終わりを上条は知った。


閉園するテーマパークの出口を抜け、第七学区に向けて歩き出す。
一言も話さず、ただ歩き続けていたのだが、突然、美琴が立ち止まり繋ぎっぱなしだった左手を離すと、静寂の中で歌うように言った。

「初めて能力が使えるようになった夜の事なんだけどね。布団の中に潜って、一晩中小さな火花を散らしてた。それが星の瞬きみたいでさ。大きくなって、もっと強くなったら、いつか……って ね」

「……。」
その言葉が何を言いたいのか、上条には分からなかった。
美琴は何か言いたそうな顔で上条の事を睨んでいた。口はぴったりと閉じて、言葉どころか吐息さえ漏らさないように見えた。
上条も美琴も、黙る。
やがて、ポツリと彼女は言った。
「……今日はありがと。アンチスキルに補導されない内に帰りましょう」

彼女は何でもないように笑っていたが、どこか寂しそうに瞳の色が揺らいでいるような、そんな気がした。
歩き出した美琴までの四十センチくらいの距離が、ふいに五センチくらい余分に離れる。
突然激しい感情が湧き上がる。ここで行かせたらこの先、もう会えなくなる。
そんな予感が上条の頭に過ぎる。待てよ! とっさに手を伸ばして肩を掴んだ。

美琴が立ち止まる。たっぷりと時間をおいて、ゆっくり振り返る。
「ーーどうしたのよ?」
ずっと深い場所が、ぞくっと震えた。
ただただ静かで、優しくて、冷たい声。
にこりともしていない顔。ものすごく強い意志に満ちた静かな目。

結局、何も言えるわけがなかった。

何も言うなという、強い拒絶だった。







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