とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

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匿名ユーザー

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第1章 ②家族と絆と…


上条が現在乗っているのは神奈川のとある町に向かう電車の中である。
何故上条が本来外出許可が出づらい学園都市の外にいるかというと一つの大きな理由があった。
学園都市第一位を上条が撃破したことにより無能力者がレベル5を倒したという噂が広まり、
学園都市に住まうバイオレンスな不良連中が学園都市第一位を倒した上条を標的とするサバイバルゲームが始まってしまったこと。
学園都市第一位が倒されたという情報は実は学園都市にとってあまり有益な情報でないため、
上条は学園都市の騒動が収まるまで外への退去を命じられたわけである。
そして電車に揺られる上条の隣には恋人で学園都市に対する反逆のパートナーである美琴が座っている。
本来なら美琴のような高位能力者には無能力者である上条以上に学園都市からの外出許可は出づらい。
上条が不審に思い美琴に尋ねるとちょっとした裏技を使ったらしい。
上条は美琴が何か危険なことをしたのではないかと不安になるが、
美琴は上条に黙って危険なことはしないと約束していたので美琴の言葉を信じることにした。
上条は電車の中でも手を繋ぎ続けている美琴の手を握る自分の右手に少し力を込める。

「当麻?」

突然手を強く握られ、美琴は何事かと上条の横顔を見つめる。
本当だったらこんな華奢な手をしている女の子を危険な目に遭わせたくない。
ただ上条が好きになったのは他でもない誰かのために戦おうとする美琴だった。
だから上条は学園都市に巣食う闇と戦おうとする美琴の意思を尊重する。
そして何があってもそんな美琴のことを守ろうと決意を固めているのだった。
そんな上条の心境を察したのか、美琴は上条の体に凭れ掛かるように体を預けてくる。
これから二人が行おうとしているのは学園都市に対する反逆の最低限の下準備だ。
二人が行おうとしていることを両親達に説明し、身の安全を確保することに務めてもらう。
もちろん100%安全なことなんてありえない。
それでも二人は学園都市と戦うことを決意していた。
電車を降りて駅から出ると上条の両親である刀夜と詩菜が出迎えてくれた。

「父さん、母さん」

美琴は詩菜の見た目の若さにビックリするが、上条に並んで刀夜と詩菜の二人に挨拶をする。

「はじめまして、御坂美琴と申します。
 当麻さんとお付き合いさせていただいております」

すると刀夜も詩菜も嬉しそうに美琴に向かって微笑みかける。

「いやー、当麻がこんなに綺麗なお嬢さんを連れて来るとは思ってなかったよ」

「あらあら刀夜さんったら、そんなに顔を綻ばせて」

刀夜と詩菜に心から歓迎されていることを感じ、美琴にも自然と笑みが零れる。

「しかし両家を挟んで話したいことがあるなんて…
 まさか当麻さん、美琴さんを傷物にしたわけじゃありませんよね?」

「ちょっ母さん、何言ってるの!?
 俺達はまだ健全な付き合いしかしてないっつーの!!」



上条が慌てふためていると四人の前に一台の車が停まった。
車の中から出てきたのは美琴の両親である旅掛と美鈴だった。
美琴が詩菜の若さにビックリしたように上条も美鈴の若さに衝撃を受ける。
そして派手なシャツにスーツを着ている何処かのチンピラを思わせる旅掛の姿に若干ビビるが、旅掛と美鈴に向かって挨拶する。

「は、はじめまして、上条当麻といいます。
 美琴さんとお付き合いさせて…」

すると旅掛は上条が自己紹介を終える前に上条の肩に手を置き、上条の目をジッと見据えた。
やはり女の子の方の父親には歓迎されないかと思った上条だったが、旅掛の視線に害意のようなものはなかった。
そして上条は何となく旅掛から目を逸らしてはいけないような気がして、旅掛の目を見据え返す。

「上条君」

「はい」

「美琴ちゃんが男を連れてくると聞いた時はどうやって諦めさせようと思ったものだが…
 君は想像を遥かに超えて強い目をしている」

そして旅掛は耳打ちするように上条に言った。

(美琴ちゃんを助けてくれてありがとう。
 君のような男になら安心して美琴ちゃんを任せられる)

「えっ?」

(君のご両親には全てを話すわけにいかないのは分かっているが、俺は美琴ちゃんから妹達の件も絶対能力進化の件も聞いている。
 君には感謝してもしきれない、本当にありがとう)

(い、いえ、俺が美琴さんと妹達の皆を助けたいと思ってしただけですから)

旅掛は上条の言葉に満足そうに頷くと、今度は上条の父である刀夜の方に目を向けた。

「しかし美琴ちゃんの彼氏がロンドンで会ったあなたの息子とは世の中狭いものですね」

「本当ですね」

そう言って父親達は互いにがっしりと握手を交わす。
父親達が知り合いだったことにも驚きだが、母親達もあっという間に仲良くなったようで両家の相性は最高に良かったらしい。

「さて立ち話もなんですから我が家に向かいましょう。
 当麻たちの大切な話とやらも聞かなければなりませんし」

そう言って刀夜は車に乗り込み、上条家の車に続いて御坂家の車も発進する。
そして駅から数十分ほどの場所にある上条の実家へと向かうのだった。
実家に着き上条が家の中に入ると、何となくだが違和感を感じる。
家の中の所々に空白があるような気がするのだ。
上条が不思議に思っていると母の詩菜がその理由を教えてくれた。

「刀夜さんって海外のお守りを収集するのが趣味だったでしょう。
 でも当麻さんが美琴さんを連れてくるのに少々薄気味悪かったから全部処分したんですよ」

記憶喪失の上条が何故刀夜にそんな趣味があるのかは知らないが、確かに大切な人とその家族に変な印象は与えたくない。
詩菜の働きに感謝しながら上条はテーブルを囲んだ椅子に座るのだった。

「それじゃあ話すな」

「ちょっと待ちなさい」

上条が話を始めようとするのを刀夜が遮った。

「まずは初めに私達から美琴さんやご両親にお話しなければならないことがある」

「私達にですか?」

刀夜と詩菜は少し沈んだ顔をして言った。

「美琴さんは不幸という言葉を信じますか?」



「当麻さんは昔、疫病神と呼ばれていました」

詩菜は苦虫を噛み潰すような表情をして言った。

「当麻さんは昔から不幸な人間でした。
 そしてその不幸ゆえに周りから疎まれ、そして蔑まれてきました。
 それは子供だけに及ばず、大の大人でさえも同じでした。
 子供達は疫病神と言って当麻さんの顔を目掛けて石を投げ、
 当麻さんが怪我を負っても大人達は注意するどころか逆に嘲笑う始末だったんです」

美琴は目の前の女性が何を言っているか理解できなかった。
ただ吐き気がするほど胸糞が悪い話であり、そして記憶喪失である上条にこの話が耐えられるか心配になった。
隣に座る上条を見ると何処となく顔が青褪めているように見える。
当たり前だ、初めて知る自分の過去がここまで悲惨なものだったのだ。
美琴は詩菜に止めるように言おうとしたが、上条がそれを制した。

「だから美琴さんには当麻さんと付き合うことは考え直していただきたいんです。
 美琴さんが当麻さんのことを本当に慕ってくれているのは理解してるつもりです。
 そして当麻さんが美琴さんのことを大切にしてることも…
 だからこそ美琴さんに何かあったら当麻さんが…」

しかし詩菜が言い終える前に美琴が机を叩く音で詩菜の話は中断された。

「勝手なこと言わないでよ!!
 確かに当麻は不幸かもしれない、でも当麻の不幸が私を救ってくれた。
 当麻は不幸にも私に関わったがために、私や大事な家族を救うために学園都市最大の怪物と戦って大怪我を負った。
 そして不幸にも私の傍にいることを選んでくれた故に、これからまた危険に巻き込まれようとしている。
 当麻を危険な目に遭わせた私が言える義理じゃないのは分かってる。
 でも当麻の一番の味方でなきゃならない親のアンタ達が当麻の不幸を言い訳に、
 当麻と私の気持ちを無視して私達の仲を引き裂こうっていうなら、その幻想を打ち砕いてみせる!!」

美琴は捲し上げるように一息も吐かずに言い切った。
美琴の迫力に刀夜と詩菜は面食らった顔をして驚いている。
そして美琴と上条のなり染めを知る旅掛は美琴の肩に手を置いて言った。

「俺は何があっても美琴ちゃんの味方のつもりです。
 そして今は詳しいことは話せませんが、美琴ちゃんの言う不幸が何かも知っています。
 その美琴ちゃんの不幸に上条君は正面から立ち向かい、美琴ちゃんのことを救ってくれた。
 確かに今の話を聞いて不安にならない親はいません。
 でもそれ以上に上条君なら美琴ちゃんのことを幸せに出来ると信じている。
 まあ例え上条さんの本心じゃないとしても、美琴ちゃんの気持ちは伝わったんじゃないですか?」

「本心じゃないって、どういうこと!?」

すると顔を俯けていた刀夜が上条と美琴の顔を見て言った。

「…すまない、美琴さんの気持ちを試すために言ったんだ」

「試すためって、そんなことのために当麻を傷つけるような真似をして!?」

「…今話したことは全て本当のことなんだよ。
 時には借金を抱えた男に包丁で刺されたことすらあった。
 だから当麻の過去も含めて当麻の全てを受け入れてくれるか美琴さんのことを試すようなことをした。
 美琴さんの言う通り、親は子の一番の味方であるべきだと私達も思ってる。
 でも当麻は私達以上の味方が出来たようだ」

「パパもママも当麻の過去を知ってたの?」

「ええ、事前に上条さんからお話を聞いていたわ。
 上条さんは当麻君の幸せを心から願っていたの。
 だから隠し事はなしでこれから付き合っていけるよう、辛い過去も私達に話してくださったのよ」

「ごめんなさい。
 何も知らないのに刀夜さんと詩菜さんを責めるような真似をして」

美琴は目に涙を浮かべながら刀夜と詩菜に深く頭を下げた。
そしてそんな美琴の様子を見て涙を流す。

「当麻のことをこんなに想ってくれる子が現われるなんて、私達は夢にも思わなかった。
 ありがとう、美琴さん。
 もしよければ、これからも当麻のことをよろしくお願いします」

「はい!!」

刀夜の言葉に美琴は力強く頷くのだった。



そして上条は旅掛と美鈴に向かって頭を下げた。

「すみません、本当はこんなことがあったなら俺から話をしなければいけないのに。
 ただ本当は最初に話すつもりだったんですが、実は俺…記憶喪失なんです」

そのことについては何も知らなかった両親達は驚きの声をあげる。

「ほら、一ヶ月前に俺が頭に大怪我を負ったことがあったろ?
 その時にエピソード記憶…つまり思い出だけ全て失ってしまったんだ。
 本当はお見舞いに来てくれた時に全て話しておけば良かったんだろうけど…
 心の何処かで拒絶されるような気がして黙ってたんだ。
 騙すような真似をしてゴメン」

今度は刀夜と詩菜に向かって上条は頭を下げる。
そんな上条の様子を見て刀夜も詩菜も戸惑いを隠せなかったが、次第に落ち着きを取り戻した。

「そうか、当麻なら自分の過去を大切な人に隠すようなことはしないと思っていたが…
 記憶喪失だったら話しようがないからな」

「旅掛さん、美鈴さん。
 両親達の話や俺が記憶を失ってからこの一ヶ月で経験したことからも、俺の不幸は折り紙つきです。
 俺はこれから出来ることなら美琴さんのことを生涯支えていきたいと思っています。
 でも支えるどころか逆に美琴さんに重荷を背負わせることになるかもしれない…」

上条の言葉の最後は消え入るようなものだった。
旅掛もこの程度で折れるような男だったら二人の交際を考え直さなければならないと思ったその時…
しかし上条は俯けた顔を上げて旅掛と美鈴の見据えるとハッキリとした声で言った。

「でも俺が呼び寄せる不幸以上に美琴さんのことを幸せにして、必ず美琴さんのことを守り抜いてみせます。
 だから俺と美琴さんの交際の許可をください!!」

「上条君、先ほども言ったように俺は上条君なら美琴ちゃんを君の不幸以上に幸せに出来ると考えている。
 だから美琴ちゃんを不幸から救った自分に自信をもって堂々としていなさい。
 君は誰かに恥じるようなことは何もないのだから」

「…ありがとうございます」

「しかし君達ほど前途多難な道を歩もうとしているカップルも珍しい。
 全てを忘れ幸せに生きることも出来るんだよ」

「パパ、何を言って!?」

旅掛の言葉に美琴も上条も困惑の色を浮かべる。
旅掛の言葉は自分達がしようとしていることを全て知っているかのような口ぶりだった。

「美琴ちゃんの性格と先ほどの言葉から考えれば、何をしようとしているか見当はつく。
 でも二人が歩もうとしているのは茨の道だ、親としては賛成できない」

事情が分からない他の両親達は何の話をしているか理解できないようだった。

「でも私は学園都市の闇を放っておくことは出来ない」

「…そう言うと思ったよ。
 上条君、すまないね。
 上条君の不幸なんかより美琴ちゃんが行おうとしている厄介ごとのほうがよっぽど性質が悪い」

「いえ、そういう所も含めて俺は美琴のことを支えてあげたいと思ってますから」

「ありがとう。
 では君達が行おうとしていることに対して一つだけアドバイスしよう。
 これから先、必ず君達の動きを後押しすような出来事が起こる。
 だから時期を見誤らずに今は普通の生活を送って、来るべき時に備えて力を蓄えることだ」

「…わかりました」

上条も美琴も旅掛の言葉に頷く。
旅掛が一体何者なのか疑問は膨れ上がるばかりだが、少なくとも美琴のことを裏切るような真似はしないことは分かる。

「だから今は特に私達のことは気にする必要はない。
 ただし孫の顔を見るにはまだ早いからな」

旅掛の茶化した様子の発言に上条も美琴も肩透かしをくらう。
こうして両家を挟んだ顔合わせは終わり、上条の記憶喪失のことだけが刀夜と詩菜に重く圧し掛かったが、
刀夜も詩菜も上条が何処も変わっていないことを悟り、上条家の三人は特に蟠りもなく再び家族として歩み始めた。
そして8月31日、上条と美琴はもう一人の実験の当事者と再会することになるのだった。









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