とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集



第1章 ③罪を背負いし者と最後の妹


一方通行は死を覚悟していた。

(例え、俺がどンなに腐っていてもよォ。
 誰かを助けようと言い出す事すら馬鹿馬鹿しく思われるほどの、どうしよォもねェ人間のクズだったとしてもさァ)

目の前の1万人以上殺してきた少女と同じ顔をした幼い少女…打ち止めを蝕むウィルスを駆除する治療は間も無く終わる。
しかしその前に天井亜雄の放った銃弾が自分の頭を撃ち抜くだろう。
まるで走馬灯のように自分の過去が頭の中を巡りぬける。
初めて妹達を殺した時は本当に殺すつもりなど無かった。
ただ去ろうとした自分に00001号が発砲して言うなれば自害したようなものだった。
だがその瞬間、一方通行は自分の中の何かが壊れたような気がした。
誰も傷つけないために目指した無敵。
しかし無敵になるためには2万人の命を奪わなければならない。
絶対的な矛盾が一方通行に妹達を殺すことを踏み止まらせていた。
しかし皮肉にも妹達の一人の行動が一方通行の中の何かを徹底的に壊してしまったのだった。

(このガキは本当ォは俺が殺したくなかったなンてほざきやがった。
 確かに俺は殺すことに戸惑いはあったかもしれねェ。
 でもそれならあの三下が妹達の一人を助けに来た段階で、実験を止めなきゃなンなかったはずだァ。
 だが俺は実験を止めるどころか止めに入った三下を殺そォとした。
 いくらこのガキが俺の性善説を説こォとも、俺の性根が悪であることには間違いねェ。
 でもよォ…)

間近に迫ってくる弾丸を肌で感じながら一方通行は神に祈るように願う。

(それでもこのガキが犠牲になっていい訳がねェ。
 だからもし糞ったれなこの世の中に神様がいるってェなら…
 ほんの少しでいいから時間を、俺に時間をくれェ!!)

そして一方通行の願いに応えるように奇跡がその場に舞い降りる。
治療を終えるより早く一方通行の頭を撃ち抜くはずだった弾丸が一方通行を襲うことはなかった。
そして打ち止めの治療を終え一方通行の意識が現実に戻った時、
一方通行の目に飛び込んできたのは実験を止めた上条が天井亜雄を殴り飛ばす姿だった。
辺りを見渡すと美琴がこちらに向けて手を伸ばしているのが分かる。

(そォか、オリジナルが磁力を使って弾丸を止めたのか)

皮肉なものだ、一番自分を恨んでいるであろう相手に命を救われた。
そして美琴の後ろには芳川桔梗の姿が見える。
自分のやるべきことは終わった。
しかしその場を去ろうとする一方通行のことを上条が呼び止めた。



「待てよ、逃げてるんじゃねえぞ」

「俺が逃げるだとォ?
 おい三下、てめェ誰に向かって口を利ィてるのか分かってンのかァ?」

「助けた女の子に顔も見せずに立ち去ろうとする気障野郎だろ?」

「…」

ふざけた奴だと一方通行は思う。
あれだけの死闘を演じておきながら、この男は自分に臆することなく話しかけてくる。
もう一回戦ったら絶対に自分が勝つと一方通行はそう思っていたが、
いざ上条を前にするとこの男に自分は勝つことは出来ない、そう思わせる何かがあった。

「何で今になってお前が妹達の一人を助けようとしたのかは分からねえ。
 でもお前は身を呈してあの子を救おうとした。
 そうさせるだけの何かがあの子との間であったんじゃねえか?」

「だったらどォだっていうンだよ!?
 今更アイツらに頭を下げて許しを請えってェのか!?
 1万人以上殺した俺がどンな面して…」

「甘えるなよ。
 どんな理由があったにせよ、お前は1万人の命を奪ったんだ。
 そういう意味では実験の発端になったDNAマップを提供した美琴にも罪はあるかもしれない。
 でもお前の罪と美琴の罪は比較にならない、このことは言わなくても分かるな?」

「…」

「美琴はその罪を背負って前に進もうとしている。
 そしてお前も妹達に対する贖罪のために命を懸けようとした、違うか?」

「…そンなに立派なもンじゃねェ。
 あのガキはこんなクズな俺に…アイツらを虐殺した俺に笑顔を向けてくれた。
 それで柄にも無くあのガキを助けてェと思っちまった。
 俺には誰かを助けるよォな資格なンてねェのによォ」

「誰かを助けるのに資格なんて関係ねえよ。
 例えお前にどんな罪があろうとも誰かを助けちゃいけない理由になんてならねえ」

「…」

「お前は一生を懸けてその罪を償っていくんだ。
 そしてその罪から目を逸らしちゃいけないと俺は思う。
 俺の言ってることはお前にとって残酷なことだっていうことは分かってる。
 でも罪から逃げないためにも自分が犠牲にしたもの、そして守ったものをきちんと正面から見据えろ。
 一人でお前がやったことを背負えとは言わない、俺も実験を止めた責任は果たすつもりだ。
 だからお前に支えが必要になった時は、俺も一緒に背負ってやるから」

目の前の少年が何を言っているか一方通行は理解できない。
何故この少年が自分の罪を一緒に背負う必要がある?
でも目の前の少年からは自分が今まで散々見てきた打算や策略めいたものは感じない。
それはあの少女が自分に向けてくれた笑顔と同じ害意のない、何処か心を落ち着かせる表情だった。
そして少年は一方通行に向かって左手を差し出す。
自分がその手を掴んでいいかは分からない。
でもそこには自分が本当に欲しかったもの、無敵なんて力ではない何かが詰まっている気がした。
一方通行の他者との関わり合いに反射は既に必要なくなっていた。



一方通行は上条に並んで芳川が乗ってきた車に詰まれた培養器の中にいる打ち止めを見つめていた。
意識が戻ったのか打ち止めは上条と一方通行を見ると二人に微笑みかける。
そして上条の横には美琴が並んで立っていた。

「…オリジナル」

「…なに?」

「今更謝って済む問題じゃねェことは分かってる。
 だが、本当にすまなかっ…」

しかし一方通行が謝罪の言葉を口にする前に美琴がそれを遮った。

「謝る相手が違うでしょ。
 そして本当に私達が謝らなきゃいけない相手はもうこの世界にいない」

「…」

「私達の罪はそれこそ一生を以って償っても許されないものだと思う。
 でも私は自分の罪から逃げることはしない、罪を背負って生きていく。
 だからアンタも謝って楽になろうなんて考えてるんじゃないわよ」

美琴は隣に立つ上条の手を握りながら己の罪から逃げないことを、もう一人の加害者に向かって宣言する。
その表情には自信の罪に対する後悔、そして一方通行への複雑な感情など様々なものが蠢いていた。
そしてそんな美琴の横顔を見ながら上条は美琴のこれからを支えることを改めて誓う。
それと同様に上条はもう一人の罪を背負った少年の横顔を眺める。
言葉を発しない一方通行の表情から感情を読み取ることは出来なかった。
ただ何か一方通行の中で変わったことことだけは感じ取れる。
それが一方通行が元々持ち合わせていたものなのか、新しく一方通行の中に芽生えたものなのかは分からない。
しかし一方通行が同じ過ちを二度と繰り返さないことだけは理解出来た。
二人が真の意味で和解することはないと上条は思う。
それでも二人が見据える未来が同じ方向に向かっていることを上条は願うのだった。
そして長かった夏休みが明け二学期が始まる。
しかし二学期の初日から上条たちを待っていたのは、とんでもない大事件なのだった。








ウィキ募集バナー