とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part20

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第1章 ①魔術師の誘い


「たこ焼き、いかがっすかー!!」

とある高校の校庭で、上条は自分のクラスの出展であるたこ焼き屋の前でいわゆる売り子をしていた。
しかし笑ってしまうくらい客足が悪い。
いや客足が悪いというよりは客が各方面に分散してしまっている。
それも上条の通う高校の出展の大半が食料品の出店というアンバランスな状況だからだ。
本来学校は出展の種類を制限しバランスがよくなるよう配慮するものだが、
下手に生徒の自主性に任してしまったために食料品の屋台が校庭に並び立つという結果になってしまっていた。

「カミやんのフラグ建築能力に依存しても客足が伸びないとは…
 このままじゃ材料費だけで赤字決定なんだぜい!!」

「でも他のクラスに比べたら、まだいい方なんやないの?
 大覇星祭でカミやんが有名になったお陰で、物珍しさで寄ってってくれるお客さんもいるみたいやし…
 隣のフランクフルト店なんて…何だか見てるだけで可愛そうになってきたわ」

上条のクラスの隣の屋台では上級生が暇を玩び、カードゲームを始めてる始末だった。

「このご時勢にトランプってところが何とも哀愁を帯びてるが、このままじゃウチのクラスも人事じゃなくなりそうだな」

と上条が不安を口にした時、上条と土御門は底知れぬ圧迫感に背筋を凍らせた。
青髪ピアスは特に何かに気付いた様子もなく、たこ焼きを作る手伝いに屋台に戻っていた。
気配がした方向を上条と土御門が見ると、そこには一人の中性的な顔をした少年がチョコバナナを片手に佇んでいた。
思わず身構えた土御門のことを上条が制止する。

「へぇー、戦闘に関しちゃまるで素人って聞いてたけど中々雰囲気あるじゃん。
 それなのに何であの程度の奴に負けちゃったわけ?」

「…その言い方だと神の右席ってわけじゃないな、何者だ?」

「取り合えず元グレムリンの直接戦闘担当、雷神トールとでも名乗っておこうかね」

「グレムリンだと、機械に悪戯する妖精のことか?
 でもそんな組織の名前聞いたことが…」

「物知りだね、でも犬に構ってる暇はないんだ。
 俺が用があるのはこの場じゃ上条ちゃんだけだからさ」

トールという少年が静かに放ったプレッシャーに土御門は押し黙る。

「それで俺に何の用だ?」

「何か上条ちゃんを見てるとウズウズするな。
 中身がドロドロの癖に全くブレることがない筋が通ってやがる。
 本当は思いっきり喧嘩をしたいとこだけど、今日は上条ちゃんにお願いしたことがあって来たんだ」

「お願いだと?」

「俺と一緒に戦ってくれないか?」

少年の登場と共に上条の日常は終わりを告げようとしていた。



「もうすぐ戦争が起こるぜ」

学園都市内のファミレスに四人の少年と一人の少女が集まっていた。
ファミレスの六人席に腰を掛けているのは上条、美琴、一方通行、垣根、トールの五人。
トールは窓の外に見える景色を見ながら何処か他人事のように呟くように言った。
それに対して垣根は何処か忌々しげに毒づくように言う。

「科学と魔術が本格的にぶつかり合う時が来たって訳か…」

しかし垣根の言葉にトールは首を横に振りながら溜息を吐いた。

「…そんなに単純な話だったら良かったんだがね」

「そいつはどォいう意味だ?」

一方通行が口にコーヒーカップを運びながらトールに尋ねる。

「お宅ら科学側の人間の組織と違って、魔術師の組織構造はそんなに単純じゃないってことさ」

その場にいた全員はトールが説明を続けるのを待つ。

「魔術師っていうのは宗教、あるいは神話に則って力を使うことが殆どだ。
 そして上条ちゃんが対立した神の右席っていうのは十字教に属し十字教の神話に則って魔術を使う、
 ある意味では真の十字教魔術師ってところだ。
 だが魔術師っていうのは十字教に所属していながらも平気で異教と呼べる他の神話に基づく魔術を使いやがる奴がいる。
 まあ要するに自分の目的のためなら手段を選ばない節操がない連中で、組織を作るのにはあまり向いてないのさ。
 十字教は本来唯一神を崇める宗教なのに他の神話を利用するなんておかしいだろ?」

しかし宗教関係にあまり詳しくないトール以外の四人はキョトンとしてしまう。

「あー、例えば上条ちゃんの知り合いにステイルって奴がいるだろ。
 アイツはルーン文字、まあルーン文字っていってもゲルマンや北欧など種類があるんだが…
 とにかくアイツはルーン文字を使っているが、伝承に基づけばルーン文字は北欧神話の主神オーディンが生み出したとされている。
 でもイギリス清教に所属するアイツがある意味では異教と呼べる北欧神話の産物を使うのはおかしいだろう?」

言われて見ればその通りだった。
ステイルは十字教を進行する神父なのに他の神話の魔術を使うのは道理に合わない気がする。

「っていうか何でステイルのことを知ってるんだ?」

「ああ、何かアイツが無茶やってるところに出くわしてね。
 何かガムシャラに力を手に入れようとしてる姿が他人事に思えなくて、少しばかり力を貸してやったんだよ。
 アイツが使う魔術はさっき言った通り北欧神話に連なるもので、俺との相性が良かったからな」

上条の質問にトールは特に気にした様子もなく普通に答える。



「あなたの名前って北欧神話に出てくるアース神族の中でも特別強力な力を持つ雷神トールに由来するの?」

「へー、美琴ちゃん物知りだね。
 とても科学に染まりきった街の人間とは思えないぜ」

「魔術師と事を構える以上、知識はあるに越したことがないからね。
 私もあなたの言う通り、十字教の人間が他の神話に基づく魔術を使うのは疑問だった。
 天草式みたいに特別な歴史背景があるならまだしもね。
 もしかして魔術側で内部分裂が起ころうとでもしてるの?」

「…上条ちゃんといい美琴ちゃんといい、科学側にも面白い人間がたくさんいるんだな。
 美琴ちゃんの言う通りだ、魔術側で大きな戦いが起ころうとしている」

「なら俺達にとったら大万歳じゃねえの?
 勝手に敵が潰しあってくれるんだから」

垣根は茶化すように言った。
言い方は悪いが垣根の意見に他の科学側の三人も納得していた。

「垣根君の言いたいことは分かるよ。
 でも戦争が起こって犠牲になるのは罪のない一般人が殆どだ」

「裏の世界の戦いなのに一般人が犠牲になるってェのはどォいうことだ?」

「今回魔術サイドで起ころうとしてる戦いは十字教とその他の文化圏に所属する魔術師との戦いだ。
 十字教っていうとどうして迫害されたほうに目が行きやすいが、それ以上に他の信仰に対して迫害を行ってきた。
 そのツケが今になって回ってきたってわけさ。
 何時の時代だって迫害されるのは上の人間じゃない、民衆だろ?」

「そォいうことか、糞ったれ…」

「そして十字教に対する最大の敵が俺が所属していたグレムリンってわけ。
 構成員の数が多いわけじゃないけど、その実力は幹部に至っては神の右席を上回っている」

その言葉に上条は今はない左腕が疼く気がした。
美琴はそんな上条の表情を心配そうに見つめている。

「それでお前は俺達に何を望むんだ?」

「出来れば第三勢力として戦いから一般人を救うのに協力して欲しいんだ」

「でも俺達が介入したら、学園都市にまで火の粉が降り注ぐんじゃ…」

「それについては気にする必要はない」

その時、一人の「人間」が何の前触れもなくその場に現われる。

「人間」に対して全員臨戦体勢になる中、「人間」は特に動じることもなく言葉を続ける。

「君達は自分の思うままに行動したまえ。
 降りかかる火の粉は必ず私が払ってみせよう」

「てめェの言葉を信用できると思ってやがるのか!!」

「全てプランのためだ、それ以上でも以下でもない。
 別に君達の信用を得る必要はない、君達が戦争を放っておくなら別に構わないさ」

「チッ!!」



そしてちょうどその頃…

「無駄な抵抗はせずに、その霊装を俺様に渡せ」

「あの子に必ず害が及ぶものを君のような人間に渡すと思っているのか?」

「貴様の上司の許可は既に得ているぞ」

「あの女狐が例え何を許可しようとも、僕はあの子の笑顔を守るためなら何だってする」

「このままでは十字教に属する全ての人間に害が及ぶのだぞ」

「言っただろう、あの子の笑顔のためなら何だってすると」

「…たかが教会の道具に随分とご執心なものだ」

「あの子は道具なんかじゃない!!」

そう叫ぶ少年の手に炎によって形作られた剣が出現する。

「一介の魔術師ごときが俺様に敵うと本気で思っているのか?
 …貴様のその哀れな幻影を圧倒的な力で破壊してやろう」

そう言った男の肩から本来あるべき腕とは別に、
出来損ないの翼のような不格好な五本指を備えた巨人の腕のような歪な光の塊が出現した。

「…それが聖なる右か。
 不完全とはいえ天使長ミカエルの力そのもの、確かにその力は圧倒的だ」

「…貴様も十字教徒なら分かるだろ、この力の意味が?」

「確かに以前の僕なら手も足も出ずに敗れ去っただろう。
 実際に今も僕の実力は君に遠く及ばない」

「ならば何故…」

「…僕の実力はね!!」

男が尋ね終える前に少年は懐からある一本の杖を取り出す。

「…霊装か?
 だがそんな杖を一本取り出したところで…」

「北欧神話は武器の神話だ」

「何を言っている!?」

「英雄の物語から神々の黄昏まで、その全てにおいて武器が物語の中枢を成す。
 それは黒小人の伝承にも顕著に現われてるんだけど、まあその話は置いておこう」

「…」

「僕は才能がないから様々な代償を支払って力を得てきたけど、コイツを使うために支払った代償は飛び切りだった。
 でもそのお陰であの子を君程度の人間から救う力を得ることは出来たよ」

「俺様を侮りすぎてはいまいか?
 貴様程度の魔術師がいくら足掻いたところで…」

しかし男が言い終える前に、圧倒的なプレッシャーが場を支配する。

「…悪いが、あの子のためにも君にはここで消し炭になってもらう!!
 現われたまえ、破滅の杖レーヴァテインよ!!」

人知れぬ場所で一人の天才と呼ばれる魔術師と通常の魔術師を遥かに超越した男が激突した。
この戦いの結末がやがて訪れる魔術と科学を巻き込んだ戦いの行方を左右することになるのだった。










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