部屋訪問
上条当麻と御坂美琴が付き合いはじめて1年の月日が流れた。
美琴は常盤台中学を卒業し、上条の通う高校へと進学をしていた。
それと同時に美琴は常盤台中学の学生寮を出て、1人暮らしという自由な生活を続けていた。
そんなある日、美琴の部屋に初めて上条を招待したのであった。
「へー、美琴の部屋ってやっぱりきれいに片付けられてるんだなー。余計な物が置いてなくて、すごく頭のいい部屋って感じがするなー」
上条は感心して美琴の部屋を見回した。今まで何度も上条の寮に美琴が来たことはあったが、
美琴の部屋に入ったのは初めてだったので少し緊張している。
そんな上条の様子を見て、美琴は微笑んだ。
上条を招待するために、半日以上かけて部屋を掃除して子ども扱いされないために内装も大人っぽく変えていたのであった。
「さーって、ちょっとキッチン借りるぞー」
「え、どうして急に?」
「ほら、いつも俺の部屋で美琴に料理を作ってもらってるだろ? だから今日はそのお返しに俺がここで何か作ってやるよ」
「そんなこと気にしてくれてたんだ……」
上条のさりげない思いやりを美琴は嬉しく思った。
「そういえば、当麻の料理って食べたこと無いなー」
「美琴ほどの腕じゃないけどな、1人暮らしが長かったり居候のシスターの為だったりで結構料理スキルあるんだぜ」
「そっか、あの子は毎日当麻の料理を食べてたんだ……」
美琴の言葉は少しだけ悲しみを含ませていた。
インデックスとは上条の件でいろいろとあったのだが、上条が自分を選んでくれたことで決着がついた。
現在インデックスは小萌の家に居候として住み着いている、美琴とは親友のような関係でもある。
「よーし、それじゃ準備始めるかー」
「じゃ、お言葉に甘えようかな」
「冷蔵庫の中見せてもらっていいか?」
そう言いながら、すばやく立つと冷蔵庫に向かって歩いていった。
「うん、中に入ってるものだったら好きなのを使って……」
と言いかけて、美琴は、はっと腰を浮かした。
「カエルソーセージにカエルチーズ、クマのハチミツレモンジュースとムサシノ牛乳……」
冷蔵庫の中身を見た上条は不審な顔で美琴を見つめた。
美琴の顔がどんどん赤くなっていく。
「それは……、味が気に入ってるから買ってるのよ! 当麻も食べたらきっと気に入るわよ!」
「そんなもんか……」
「それにカエルとクマじゃないわ、ゲコ太ときるぐまーよ」
「ふーん、ちょっと喉が渇いたからジュース飲んでいいか?」
「うん! 絶対気に入ると思うわ!」
「コップってどこにある?」
「コップだったら、そこの戸棚にあるから適当に使って……」
と言いかけて、美琴はまたしても自分の失敗に気付いてしまった。
待って! 待ってよ! 止めようとしたが時すでに遅し。
「あー、今度はゲコ太がプリントされてる食器か、美琴って本当に好きなんだなー」
上条はそう言いながら1枚の皿を示した。美琴は必死に言い訳を考えている。
(マズイ、このままじゃ当麻に子供扱いされちゃう! 何とかしないと)
「……それは、この間スーパーのキャンペーンで貰った物なの、せっかく貰ったんだから使わないともったいないかなーって」
「なるほどな、上条さんも貰ったものは全て有効利用しますからねー」
「そうよ! だから断じてそんな意味じゃ無いのよ!」
そして、数時間の時間が過ぎた。
初めて上条の手料理を食べた美琴は満足して、上条に膝枕をしてもらいながら寝転んでいる。
季節はまだ4月、夜になると少し冷え込む季節なのである。
「ちょっと寒いわね」
「そうか? じゃあ毛布出してやるよ、このクローゼットの中にあるのか?」
上条はクローゼットを開けようとしたとき
「ダメ、その戸は開けちゃダメ!」
「え? もう開けt」
上条は思いっきり戸を開けていた。
その瞬間、雪崩のごとく大量の何かが降ってきて、上条は悲鳴を上げて突っ伏した。
しばらくして、上条が顔を上げると、そこには大量のぬいぐるみと2メートルもあるであろう巨大ゲコ太抱き枕が存在していた。
「またゲコ太か……」
茫然と呟く上条に、美琴は言い訳が見つからず凍り付いていた。
「美琴がゲコ太が好きだってことは知ってたから別に驚きはしないが、この量と大きさはびっくりしたけど」
「だって、仕方ないじゃない……、今まで常盤台の寮で規則が厳しくてずっと我慢してたんだから……」
「まー気にすんなって、美琴がどんなものが好きでも俺は気にしないぞ?」
「当麻……、その手に持ってるのは何?」
「え? これ? 何だろ?」
そう言いながら手に持ってる何かを広げた。
そしてその正体は―――
「ゲコ太のパンツか?」
そう、ゲコ太がプリントされている美琴の下着だった。
それが下着と認識されると同時に上条の顔面に電撃を乗せた美琴の右ストレートが飛んでいった。
「痛ってー、いきなり何するんだよ美琴!」
「アンタが私の下着を―――」
終わった、この下着だけは見られるわけにはいかなかった。
明日から私は完全に子供扱いされる、どれだけ大人ぶってもダメなんだ……
「下着? あー、さっきの……、プッ」
上条は思わず噴出してしまった。
さすがにゲコ太パンツは―――
「笑ったわね……」
美琴は顔面蒼白になり唇を振るわせた。
「いや、笑ってなんか」
上条はしまったというように口をつぐんだ。
「いいや笑った! そうよ! 私はゲコ太が好きよ! ゲコ太のグッズを見つけたら衝動買いしてしまう!
だけどそれがそんなにおかしいの? そんなにゲコ太が好きが悪いことなの?」
次の瞬間、上条は大量のぬいぐるみに襲われた。
美琴がありとあらゆるぬいぐるみを上条に向かって投げつけているのである。
「わー! ちょっと落ち着けって美琴!」
「うるさい、うるさい、うるさい!」
今の美琴には何を言っても無駄だと判断した上条は、襲ってくるぬいぐるみをかわしながら、
なんとか美琴の元へとたどりついて美琴を抱きしめた。
「ひとつだけ教えてくれ、美琴」
「なっ、何を?」
「俺とゲコ太、どっちが大切なんだ?」
「そんなこと当麻に決まってんじゃない! いちいち聞かないでよ馬鹿!」
「ならいいだろ?」
そして2人はベッドに倒れこんだ。
その後、2人がどうなったのかは読者のご想像にお任せします。