とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part02

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第2章


「――――申し訳ございませんでした。わたくしとしたことが取り乱してしまいまして」
「あ……」
 白井黒子は涙が収まると同時に、やや落ち込んではいたが、それでも平静を取り戻して、上条の胸から離れる。
 少女が少年に抱きついた。
 にも拘らず、白井の表情には一切の照れも入っていなければ、羞恥も入っていなかった。
 それは単純に白井にとって、今、この場にいる上条は異性ではなかった、ただそれだけの話。
「あなたに八つ当たりしてしまったことを心よりお詫び申し上げます。お姉さまを救えなかった、ということではわたくしも同罪ですの」
 上条は愕然からくる硬直からはまだ抜け出せていなかった。
「それではごきげんよう。この町で暮らす限り、どこかでお会いするかもしれませんから、さよならは言わないでおきますわ」
 すっと佇まいよく、白井は踵を返して静かに立ち去ろうとして、
「お、おい!」
 それを、ようやく硬直から脱した上条は呼びとめた。
「何ですの?」
「…………今の話、本当なのか…………?」
 上条は神妙に問いかける。この場にひとときの沈黙が訪れて。
 振り向きもせず、白井黒子は言葉を紡ぐ。
「…………あなた様がお姉さまにどのような感情を抱いているかは存じ上げませんが、お姉さまのことを少しでも気に留めておいででしたことは、お姉さまにとって喜ばしいことですわ」
「……まあ、アレだけ突っかかって来られりゃ…………」
「事あるごとにあなた様のことを話されていたお姉さまの表情は本当に晴れやかで嬉しそうで、それでいて愛おしいそうでした。当時のわたくしはよく嫉妬を覚えましたの」
「…………いや、俺が聞きたいのは…………」
「上条さんがお姉さまに恋慕の情を抱いていないのであれば、その方があなた様にとって良いことですわ。だって――――」
 ここで白井は振り返った。
 その顔は寂しげに笑っていて。
 しかし、その瞳からは堪え切れない涙がこぼれていて。
「わたくしのように………ならず……に済むのですから…………」
「――――白井!?」
「お姉さまとのことは………遠い思い出に……過去を振り返った時に…………笑って話せる懐かしさを感じるだけで済むのですから…………」
「…………っ!!」
 上条当麻の胸の内に罪悪感が波紋のように広がっていく。
「それではごめんあそばせ」
 呟き、白井は姿を消した。
 空間移動能力。
 しばしの間、上条は悔恨に身を震わせながら佇み、
 冬の寒風さえも彼の中に生じた熱さを冷やすことはできなかった。




(御坂が殺された!? んなわけねえだろ!! 白井の悪い冗談に決まっている!!)



 夜の町を。
 彼が居住するアパートへと。
 上条は全速力で駆けていた。
 ぎりっと歯を軋ませながら。
 白井に告げられた事実を否定し続けながら。
(俺が聞いたのは白井の口からだけだ! 御坂と白井が俺をからかってるだけだ!! あいつらならやりかねん!!)
 自力で動かせないエレベータの中でも上条は、結構酷い人物評価を下しながら必死に否定し続ける。
 ちーん。
 学生寮の七階に着き、扉が開くと同時に上条はダッシュをかけた。
 向かう先は自室。
 目的は自室にいる同居人。
「インデックス!」
 ノックをすることも、呼び鈴を鳴らすことも無く、上条は勢いよく扉を開けた。
「と、とうま!? どうしたんだよ!? いきなり怒声を上げて!? もしかして私がとうまの帰りを待たないで冷蔵庫の中を全部食べてしまったことに怒ってるのかな!?」
「んなこた、どうでもいい!! それくらいお前ならやりかねんから怒るだけ無駄だ!!」
「あ! なんかそれはそれで腹立たしいかも! とうまが私をどういう目で見てるかよく分かったんだよ――――って、え!?」
 いきなり両肩を力いっぱい掴まれてインデックスは素っ頓狂な声を上げた。
 そのまま、怒涛の押しを受けて、部屋の壁に押し付けられて、
「と、とうま……? えっと、私……心の準備が…………」
 結構迫力満点に詰め寄る上条に、顔を赤くしてしどろもどろしながら答えるインデックス。
 が、上条はインデックスのそんな乙女な心情などどこ吹く風で、
「インデックス…………一つだけ、俺の質問に答えてくれ…………」
「う、うん…………!」
 インデックスの首肯を確認してから、上条は一度息を吐く。
 意を決して、



「お前…………御坂を知っているか…………?」



 もし、白井の言うとおり、御坂美琴が8月21日に殺されたなら、美琴とは9月1日まで面識が無かったインデックスは当然、彼女を知っているわけがない。
 インデックスが美琴を知っているか知らないか。
 白井の言葉の真偽を確かめるための方法として、これ以上、確実な方法はこの世界には存在しない。
 なぜなら、インデックスは完全記憶能力者だからだ。
 一度見た顔を忘れるはずがないからだ。
 お互い自己紹介していないとしても、その場で上条は御坂という名を呼んでいたから名前を記憶しているはずだからだ。
 そして、上条が期待していて、しかも希望している答えは――――



「みさか、って――――とうま! 短髪と会ってたの!?」



 インデックスの答えそのものだった。
 その瞬間、上条の焦燥から来ていた緊張感は四散した。



 インデックスから見れば、上条はそうとう間の抜けた顔をしていたことだろう。
 しかし、インデックスはそんな上条の表情なんぞどうでもよくて、
「とうま……まさかとは思うけど……いつも補習とかで遅いのは嘘で本当は短髪といつも会ってたとか……?」
「ばーか。んなわけねえだろ」
 インデックスの険悪な視線をものともせず、一つ安堵のため息を吐いて、上条はインデックスを解放した。
「ホントなのかな?」
「しつこいな。俺だって疲れているときに疲れる奴には会いたかねえよ」
 なおも詰め寄るインデックスに、苦笑で返す上条。
「まったく……あの短髪は事あるごとにとうまにちょっかいかけてくるし、私にケンカ売ってくるし……」
 インデックスがブツブツ呟いて、しかし、上条はインデックスのその愚痴がどこか心地よかった。
 悪い冗談を聞かされた後だったからかもしれない。
 普段の美琴を感じさせるインデックスの言葉は、上条に大きな安堵感を与えてくれた。
 それは、今、この時に御坂美琴が存在していることを教えてくれるからだ。
(てことは、あのストラップは俺がどこかで失くしたんだな。うわ、やっべー……これが御坂に知られたら俺が御坂に殺されるんじゃね………?)
 などと思いながらもそれでも上条には笑顔が浮かぶ。
「とうま?」
「ああ、すまんすまん。そういや、お前、冷蔵庫の中身、全部喰っちまったんだよな?」
「う゛……!」
「いいっていいって。遅かった俺が悪いんだ。そうだ。どうせ、お前まだ食えるだろ? 今日は豪勢に、とまではいけないけれど外食しようぜ」
「ほんと!」
「おう」
「ありがとうなんだよ、とうま! じゃ、早速行くんだよ!」
 先ほどまでの怒りもどこへやら。
 上機嫌でスキップを踏むインデックスの後ろを上条は付いていく。
(ったく、あいつら……悪い冗談にも程があるぞ…………)
 一度、常盤台中学の学生寮がある方向へと視線を移して。




 さて、上条当麻は一つ、失念していたことがあった。
 心臓に悪い話を聞かされて、
 それが悪い冗談だと知らされて、
 安心してしまったのがまずかったのかもしれない。
 たまたま立ち寄ったファミレスが『大食いキャンペーン』を張っていて、『ジャンボスパゲティを三十分間でたらい上げたらタダ』というインデックスに挑戦しているような催しをやっていたものだから、インデックスをけしかけて。
 そこで、相当の時間をつぶしたのは真剣にまずかったかもしれない。
 もちろん、お店側の挑戦を撥ね退けたインデックスに感心してしまったのも良くなかっただろう。
 なぜならば、


「上条ちゃん? 上条ちゃんには先生の気持ちが伝わらないのですかー?」
「いえいえ滅相もございません。ですからこうして、本日も先生の補習を喜んで受けさせていただいております、はい」
 翌日の放課後。
 上条当麻は、見た目十二歳くらいの担任、月詠小萌の呆れた視線に見下ろされながら、平身低頭、土下座に勤しんでいた。
 無理もない。
 昨日の分の宿題をまったく手つかずだったことを思い出したのは、本日、登校途中に月詠小萌の車を見た時だった。
 そう、上条当麻は、己の救いようのない成績と出席日数の穴埋めのための宿題を忘れてしまっていたのだ。
「はぁ……上条ちゃん? 上条ちゃんを留年させたくない先生の気持ちを分かってほしいのですー」
「はい。もちろんです。海より深く山より大きく反省しております」
「まあ、遊び盛りの上条ちゃんに毎日鬼のように宿題を課していた先生にも非はありますから今回は大目に見ますけど、二度目はありませんからね?」
「ははあ! 勿体ないお言葉でございます!」
「うん、よろしい。では今日の補習を始めましょー」
「はーい………」
 月詠小萌と上条当麻。
 今日もまた、二人だけの授業が始まる。
 もちろん、何も起こるわけがなく、いや小萌は何度か怒るかもしれないが。




「あー何だ。今日で三日連続、というかその前くらいから毎日同じことやってるよな俺…………」
 今日も今日とて残業帰りのサラリーマンのようにふらふらしながら重い足取りで、どっぷり日が暮れた後に帰宅の途に付いている。
 やっぱり、あの自販機がある公園を使って学生寮までの道のりをショートカットする上条当麻は珍しく、本当に珍しく、今、この場に御坂美琴か白井黒子が現れることを、ある意味、期待していた。
 いつもなら、スル―スキルを如何なく発揮させて美琴を激怒させている上条は周囲に気を配ってまで二人に会えることを、最低でもどちらか一人には会えることを望んでいた。
 何と言っても、昨日の白井の冗談はあまりにタチが悪すぎた。しかも迫真の演技過ぎた。
 おかげで今日の小萌の説教に繋がったと言っても過言ではない。
 一言、文句を言ってやらないと気が済まない。
 例え、昨日が四月一日だったとしても許すわけにはいかない。
 そんなわけで、上条は二人を待つことにした。
 もちろん、それは上条の逆恨みでしかないのだが、そんなところまで上条の頭は回らない。
 というわけで、自販機に目を移し、



「ちっ……あいつら……こっちが会いたくないときはホイホイ出てくるくせに、今日みたいに待っているときに限って出て来ないのかよ…………」
 しっかりと硬貨を入れて、カレースープをすすりつつ、寒空の下で、自販機の前で一時間ほど待ってみたが二人が現れる気配はなかった。
 昨日以上に遅くなったがために、部屋に戻っていきなりインデックスに噛みつかれたのは。
 さすがに今回ばかりは不幸ではなく自業自得としか言いようが無かった。




「おー感心です。上条ちゃん。今日はちゃんと宿題をやってきたのですねー」
「へっへっへっへ。俺だってやる時はやるんです。ですから今日は…………」
「はい。今日も張り切って補習と行きましょー」
「やっぱりですか…………」
 上機嫌な笑顔の小萌に、上条は首をかくんとさせた。
 無理もない。
 何と言っても昨日出された分は二日分で、やっぱり鬼のような量だったのだ。
 いったい「先生にも非がある」と言ったのは何だったのだろう。
 とは言え、二日連続でやらない訳に行くわけもなく、上条はほぼ徹夜で仕上げたのだ。
 如何に十代、体力が有り余っている高校生でも徹夜は辛いものだ。それが遊びに費やしたならともかく、勉強に費やしたとなればその疲れは倍増する。
「おや? 上条ちゃん、この宿題、ぱらぱら見てみましたけど、ほとんど合ってますよ? 本当に頑張ったんですねー」
「へ?」
「うんうん。上条ちゃんもやればできるじゃないですかー。これで能力開発の方も上向いてくればいいのですが、それはさておきまして、あの最底辺の正解率をここまで上げられるなんて大したものですよー」
「そ、そうですか? ああ、それはきっと先生の教え方が良かったからですよ。マジで感謝します」
「えへへ。ありがとうです上条ちゃん。でも、本人が努力した結果は本人のものなのですよー。先生は生徒のお手伝いをしているだけですから」
 今日の小萌はすこぶる機嫌が良さそうだ。もしかしたらご褒美に今日の補習を、口先三寸によっては回避してもらえるのではないかというくらい。
「そうですねー一度、上条ちゃんにはお話したことありましたけど、努力の成果を最高の結果で示してくれたのは常盤台中学の超電磁砲の御坂美琴さんです。何と言っても彼女はレベル1からレベル5に躍進した学生の鏡と言ってもいい存在でしたからねー。上条ちゃんも御坂さんのように、いいえ、むしろ御坂さん以上に向上してくれることを先生は期待してますよー」
(って、ここでも御坂の名前かよ……)
 上条はちょっと苦笑を浮かべた。本当にあの女子中学生は有名で学園都市でも模範となる存在なんだと知らされる。
 自分と接しているときのあの姿からはまったく想像できないが。



「そうですね。俺もレベル5とは言いませんけど他の成績は引き上げたいです」
「よろしい。というわけで、今日も張り切って補習と行きましょー」
「って、えええええええええええ!?」
「どうしたんです? そんな素っ頓狂な声をあげて」
「いや……その……」
「言ったじゃないですか。先生は上条ちゃんに御坂さんのようになってほしい、と。そして、上条ちゃんも了承してくれたじゃないですかー。でも、そのためにはまずこの補習を全部片付けてからでないと、スタート地点にすら立てませんよー」
 ふふん、と鼻を鳴らして、指を立ててまで恍惚に語る小萌の理論展開に上条は完全に敗北した。
 今日もまた、二人だけの補習が始まる。




「とうま!」
「あれ? インデックス、お前どうしてここに?」
 補習を終え、校門をくぐったところで、上条は意外な出迎えに目をぱちくりさせた。
「決まってるんだよ。毎日毎日毎日毎日遅く帰ってくるし、一昨日は短髪の名前を出したし、昨日はいつも以上に遅かったし、本当に補習なのかどうか確かめに来たんだよ」
 両手を腰に当てて薄い胸をふんぞり返らせるインデックスはちょっと怒っていた。
「はぁ……どうせ迎えに来てくれるなら、他校の女子生徒がもじもじしながら『か、上条君、一緒に帰ろ……』と言って恥ずかしそうに近寄ってきてくれるシチュの方がベストですな」
「何か言った?」
「いや何も」
 話を打ち切って、上条とインデックスは肩を並べて歩き出す。
 しばらく歩くとやっぱり、あの自販機のある公園に入っていた。
「とうま、いつもここから帰ってるの?」
「おう。学生寮までなら表通りに出るよりこっちの方が近いからな」
「そうなの? ふーん。じゃ、今度から私もとうまを迎えに行くときはここを通るんだよ」
「ついでに、この先に自販機があるんでちょうどいい」
「自販機! ということはとうま! 今日は私にも奢ってくれるんだね!?」
「分かった分かった」
 そんな馬鹿話に花を咲かせながら二人は自販機へと向かう。
「あ……!」
 声を漏らしたのはどちらだったのか。
 今日は自販機の前に先客がいた。
 既に夜に包まれているのに、上条とインデックス以外にこの場にいる者がいた。
 どうやら目の前の相手は何を買うか迷っているらしい。
 後ろ姿からでも分かる。
 『彼女』は腕組みして首を傾げていたからだ。
 亜麻色で肩までの長さの髪。
 学園都市では知らない者がいないと言われるベージュのブレザーにチェックが入ったほとんど太ももの付け根までしかない短いプリッツスカート。
 冬なのにコートを着ていない、というのはおそらく『彼女』は自身の能力を駆使して、防寒対策が万全だからなのだろう。
 その証拠に、バチバチと身体の周りに火花を散らせている。
 どちらとも言えないが、漏らした声が『彼女』の耳にも届いたらしい。
 少女はゆっくりと振り返った。
 その姿は、上条当麻とインデックスの二人が想像していた通りの容姿だった。
 学園都市二三〇万人の頂点、七人――――いや、一昨日、新たに一人誕生したようだから八人しかいない超能力者【レベル5】の第三位。
 御坂美琴がそこにいた。



「むーっ!!」
 インデックスが憤慨して、御坂美琴へとずかずか歩み寄る。
「短髪! とうまに何の用! 私の承諾なしにとうまと会おうなんて絶対許さないかも!!」
 ビシッと指を突き付けて、美琴にひとつ文句を付けてから、再びインデックスは肩越しに上条を睨みつけ、
「とうま! やっぱり短髪と会っていたんだね!! 私を待ちぼうけさせておいてこれは許せない……か、も……?」
 が、視線の先にいた上条当麻の様子にインデックスの怒りは収まっていき、それはそのまま戸惑いへと変わった。
 対する上条は言葉を失っていた。
 目の前にいる存在に愕然としたのだ。
 姿形は紛うことのない御坂美琴。
 しかし、上条には分かる。分かってしまう。
 本人と決定的に違う証拠を突き付けられて。
 今、目の前にいるのは『御坂美琴本人ではない』ことが分かってしまう。
 ヘアカラーと同じ瞳の色が違う。輝きが違う。




「ここ三日ほど、あなたの姿をここで見かけているという情報をキャッチしていました。よって、それを確かめに馳せ参じた次第です、とミサカは運命の出会いに心をときめかせます。ぽっ」




 そこにいたのは、学園都市が創り上げた御坂美琴のクローン、
 上条からは『御坂妹』と呼ばれる妹達の一人であった。
「口で言うなんてあざといんだよ!」
 そんな御坂妹のセリフを聞いて、再びインデックスに怒りの炎が再点火する。
「おや、あなたもいたのですか? 小さくて気が付きませんでした、とミサカはあなたではなく上条さんを見つめながら素直な心情を吐露します」
「また馬鹿にして~~~~~~~~!! 身長は確かに負けてるけど胸の大きさはそんなに変わらないくせに!!」
「むっ……その一言は聞き捨てなりません、とミサカはあなたを睨みつけます。ぷっ、見栄を張るのはどうかと思いますよ、とミサカはあなたの胸部辺りを指差して吹き出します」
「お、おい……インデックス………」
 上条は恐る恐るインデックスに問いかけた。
 しかしそれは、愛想笑いを浮かべて宥めるものではなく、明らかに顔面蒼白になって。
 愕然に体を震わせて。



 そして、上条当麻は自分が一昨日、インデックスにした質問の仕方を間違えていたことに気が付いた。
 御坂妹は一人称を『ミサカ』と言っている。
 ならば「御坂を知っているか?」という質問では、インデックスには「ミサカを知っているか?」に聞こえるのだ。
「……お前の知っている『みさか』って、そっちの『みさか』なのか…………?」
「はぁ? 何言ってるんだよとうま! みさかって言えば、この変な喋り方する短髪に決まってるかも!」
「はぁ……あなただけにはミサカの喋り方について変呼ばわりされるのは心外です、とミサカは思いっきり嘆息します」
「むがあああああ!! また馬鹿にしてえええええええええええ!!」
 もっとも、だからと言って、今の上条の恐怖に等しい焦燥はインデックスの鬼のような形相を持ってしても晴れはしない。
「い、インデックス……一昨日と同じ質問だけど、もう少し詳しく聞いていいか………?」
「何!?」
 ほとんど恫喝に促すインデックス。
 しかし、そんなインデックスでも上条は、『インデックス』には恐怖を感じない。
 むしろ、今からする質問の方に恐怖を感じてしまっている。
 比べ物にならないほどの寒気に支配された恐怖を。
 聞くべきか聞かぬべきか。
 いや、だからと言って聞かない訳にはいかない。
 賽を投げたのは上条当麻の方だ。
 今、取りやめたとしても、インデックスが間髪いれず追及してくるのは目に見えている。
 上条は意を決して、



「…………『御坂美琴』って女を知っているか…………?」



 対するインデックスの答えは即答だった。



「誰なんだよ!? ひょっとして、とうま、私の知らないところでまた別の女の人とお知り合いになっていたのかな!?」



 別の意味でインデックスが追求してきそうな勢いだったが、上条はインデックスの『誰なんだよ』以降の言葉は耳に入っていなかった。
 一度でも見聞きしたものは、決して忘れることができない完全記憶能力を持つインデックスが。
 上条の周りにいる女子の中でも美琴に対しては、ひときわ対抗心を抱いているインデックスが。
 白井黒子が上条と出会ったと言った九月一日に(上条の記憶では)一緒にいたインデックスが。
 九月三十日に風斬氷華を助けるために美琴の助けを必要とし、相談したはずのインデックスが。
 御坂美琴を知らない、と言ったのだ。
 御坂美琴を知らない、と言ってしまったのだ。
 そのフレーズが意味することはたった一つ。
 今、この世界から。
 御坂美琴という存在は消えてしまっている、ということに他ならなかった。









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