とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part4

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後編


上条は湧き上がる暖かい感情のまま、美琴を抱きしめる。
「ありがとな、―――美琴。お前は、分かってくれているんだな。」
初めて名前で呼んでもらった美琴は、それだけで満たされた気分になる。
「オデコにとはいえ、俺の記憶じゃ初めてのキスだからな?軽い気持ちじゃねえから、安心しろ。」

上条は美琴の腕をポンポンと叩き、
「じゃあ戻るか。親たち待たせすぎだしな」
「うん…」
名残惜しそうに美琴は抱擁を解くと、かわりに手をしっかり握ってきた。
「じゃ、戻ろ♪」

手をつなぎ、ベランダまで戻ると、美琴は手を離してホテル内に早足で駆け込み、
ご心配おかけしましたっ、もう大丈夫です!と親たちに挨拶していた。
上条も頭を掻きながら、親たちに会釈し、テーブルの前に座る。


美鈴が「コホン」と咳払いし、改めて仕切る体勢に入る。
「さて、擬似お見合いというテーマで始めたお食事会ですが、親たちの想像以上の展開になっております!
 まだまだ時間はありますし、食事しながら歓談と参りましょー♪」
パチパチパチ~、と皆が拍手する。
「じゃ、お屠蘇が用意してありますから、年長者の刀夜さん、年少者の美琴ちゃんに注いでもらえますか?」
「よしよし」

長方形の中テーブルだが、6人が余裕を持って座れている。
刀夜は身を乗り出して、美琴が差し出す杯に注ぐ。美琴はちょっと躊躇ったのちに、くいっと杯をあける。
「おー、いい飲みっぷりだ」
美琴は刀夜に褒められて「えへへ、ありがとうございます」と微笑みながら、代わりにお調子を受け取る。
「本来、あとは年少者から順繰りに年上の人に回して行くんだろうけど」
美鈴は上条にちらっと視線を飛ばし、
「ま、美琴ちゃんが他の人に注いでいった方が華があるし、あとは美琴ちゃんお願い」
「はーい」

美琴は上条にお調子の口を差し出す。
(参ったな、仕草の一つ一つが可愛らしい)と、上条はドギマギしつつ、杯を差し出す。
注がれたお酒を一息に飲み干すと、カッと喉が熱くなった。当然飲みなれてないが、強い酒に感じる。
美琴はにっこり微笑むと、席をたって美鈴と詩菜の側へ向かった。


(アイツ、様になってるなあ。こういう礼儀作法も常盤台中では学ばせてるんかね?)
今日のわずか数時間で、美琴の知らなかった姿がどんどん見えてくる。
今まではほんの一部しか見えていなかった、いや、知ろうともしてこなかったという事か。
わがままで、怒りっぽくて、人の話は聞かずに、何かあるとすぐにビリビリを放っている姿―――
そんな、本質でもない姿を『御坂美琴』だと認識してた自分を殴りたくなってくる。
注いで回っている美琴を眺めながら、上条はそんなことばかり考えていた。

『お屠蘇のひととき』が終わり、「懐石おせち」なる食事へと移った。
上条刀夜は海外営業、御坂旅掛はコンサルタントということで、やたらと話がうまく、
父親たちに話させておけば場は放っておいても盛り上がっていた。
美琴も振られると、いくらでも話すネタはあるらしく、上条との出会いの話など面白おかしく話している。
(これが初めて顔合わせる家族かね?親戚以上じゃねーかこれじゃ)と上条はこっそり思っていた。

異変に気付いたのはほぼ皆同時だった。
刀夜が営業のノリなのか、合間合間でお調子を美琴に注ごうとし、美琴も特に嫌がる素振りもみせずに杯をあける。
5~6回目あたりから、どうも美琴の口調があやしくなりだした。
「そうしたらでしゅね、当麻しゃんが、私の前にしゅぱぱぱっと立ってでしゅね、盾になってくれたんでしゅよ!」
「ちょっ、ちょっと美琴ストップ!オマエ大丈夫か?酔っ払ってるだろ!」
上条が慌ててまわりこみ、美琴の両肩をつかんで軽く揺さぶる。

「私はLV5でしゅよ?酔っ払うわけないでしょっ?」
「訳わかんねーよ。」
「当麻くん、悪いけどちょっと外に連れてって、涼ませてあげて。水用意しとくわ。
 そんなに飲んだわけじゃないから、すぐ抜けると思う」
美鈴が上条に指示し、詩菜が案内係にペットボトルの水を手配させる。

支えてあげれば普通には歩けるらしく、あまり苦労もせずベンチまで美琴を連れてくることはできた。
美鈴がかけより、ペットボトルを上条に渡しつつ、「しっかり介抱してあげるのよ♪」とウィンクして去っていく。
あの親たち、こういう状況でも楽しんでやがるな…と思いつつ、目をトロンとさせている美琴の横に座る。
そこで、ハッと思い出した。
母親、御坂美鈴の酔っ払った姿を。あの『構って構って攻撃』を。
コイツもまさか…?


美琴はせっかく楽しく話していたのに、急に話の腰を折られて不満であった。
しかし、なんで不満になったのかを次の瞬間に忘れ、今度はどこかに連れて行かれるのを自覚した。
しかし、周りに誰もいなくなったので寂しくなった。でも何か、横に暖かい存在がある。
顔を向けてみると、大好きな人が心配そうに見つめている。
あれ、このひとに私、大好きって言ったっけ?言った!言ったはず!
じゃあもう隠すものはなにもない―――とりあえず…


美琴は暴れだした。

厳密には暴れると言うより、ポジションに不満があるようで、上条のまわりでどこに座るのがいいか悩んでいるようだ。
とりあえず上条は面食らいながらも、そのまま動かずにいた。
結局、美琴は上条のヒザの上に横座り、腕を上条の首に回すと…
まるでネコが顔をすりよせるように、上条の頬あたりに顔を押し付け始めた!

さすがの上条もこれには完全硬直する。
(コイツはネコ化するのか!これはやばい、耐えれるか俺!?)
とにかくすり寄せてくる。頬と頬がすり寄せられたとき、あまりの柔らかさに上条はトロけそうになる。
ちなみにこの状態は、ネコ化と言うよりも、罰ゲーム前などで白井黒子が目撃した、
朝方の『枕スリスリ状態』がリアルで出てしまったものである。

(いかんいかんいかん、シャレならんってー!)
聞き取れないが、何か呟いている。そのせいか吐息も耳にかかったりするため、上条の理性も暴発寸前だ。
しかし、だんだんと動きが鈍くなって来たかと思うと、急に脱力し、やがて眠りだした。
危なかった、本当に危なかった―――、と上条は安堵の思いとともに、美琴への愛しさが格段に増しているのを感じた。

このままじゃ風邪ひくなこりゃ、と、
上条は美琴をお姫様ダッコし、ホテル内に戻って、柔らかなソファーに優しく降ろした。
毛布を借り、膝枕の形で美琴を寝かせ、毛布を軽くかける。

すうすうと眠る美琴の頭をなでながら、上条は考えにふける。

美琴は夢と現実の間でまどろんでいた。今、夢をみている状態だと自覚している、そんな状態。
人にはゼッタイ話せない、意中の人とイチャイチャする夢…
夢から覚めると、枕を抱きしめている現実。いつもの自分の部屋の風景。
ああ、今日も…嫌だなあ。でも、行かなきゃ…
夢の中でため息をつくと、勇気を出して目を開ける。

その人が、上から至近距離で見つめていた。


美琴の顔が真っ赤になっていく。
「な、ななな?」
「酔いは冷めてるみてえだな。ほら」
上条は美琴の体を起こし、ソファと平行に寝かせていた体勢から、普通に座らせた。
ペットボトルの口を開け、美琴の口あたりにペットボトルを差し出す。
美琴はまだ頭が整理できてないようだったが、ペットボトルを手に取り、水を口に含む。

「あれ…どこまでが夢なのかしら」
ぼんやりとした口調と共に、顔色も頬に朱が差した程度に戻ってきた。
上条は周りを見渡す。ここは離れであり、美琴が寝ている間ほとんど人は通らず、今も無人だ。
そして、美琴が寝てる間に、結論は出ていた。
「どこまでと聞かれても、俺にゃ分かんねーけど」


美琴は、今度はその瞬間の姿を見ることができた。
自分の唇に、そっと唇を重ねてきた上条を。


唇をゆっくり離すと、上条は改めてソファーに座り直す。美琴は固まったままだ。
「これは夢じゃなく現実、ってことだ。
 お前を意識しだして、1時間少々でこのザマですよ。今までよくスルーしてたもんだ…」
上条は美琴をじっと見つめ。
「改めて誓う。愛する御坂美琴と、その周りの世界を守る。―――これでどうかな」

美琴の瞳がみるみるうちに潤み出す。
「どうして…?どうして私にこんな幸せなことが起こるの?私神様に何かしたっ…け?」
かすかにうつむいて、首をふる。
「こわい、こわいよ当麻。こんなのありえないよお…」
「何言ってんだオマエは。『ありえない事をありえると信じた』からこそのLV5だろ。これもその一つってことさ」

「…も、もう1回。現実な…」
最後まで言おうとした言葉は、唇ごと上条に奪われた。

「…う、嬉しいけど、全部不意打ちってどうなのよ…」
「バーカ、待ち構えた顔になんて、恥ずかしくてできねーよ」
そう言って、上条は両手を組んで、肘を膝に当てた体勢になる。
1時間前、美琴が思いのたけを上条にぶつけた、あの時の構図と同じだ。
美琴は、何か真剣な話をしたがっている?と思い、じっと上条の後頭部を見つめる。

「こうなると、分かって貰わなきゃいけないことが、ある…」
「例えば、あのシスター?」
「…ああ。アイツ、インデックスなんて変な名前だと思うだろ。実際本名かどうか知らねえけど…
 で、その名が示す通り、一度見聴きしたものは決して忘れない完全記憶能力って能力持ってんだよ」
「か、完全記憶?」
「ハッキリ言ってとんでもねえ能力だよな。…そして、その能力は俺から言わせると悪用され…
 『10万3000冊の魔道書』の内容を記憶させられている」
「まどうしょ?」
「まあ、禁断の書とでも思ってくれればいいさ。そのせいで、その内容を狙う追っ手が後を絶たない。」
「それでいつも、当麻は色々事件に巻き込まれてるってこと?」
「家に匿っているからな。事件そのものは俺のせいの時も多々あるけど」
上条は体勢を起こしてソファにもたれかけ、頭の後ろで腕を組む。

へえそうなの、と美琴は相槌を打とうとして、首をかしげる。
「匿うってどういうこと?」
「ハタから見れば同居とか同棲って言うんだろな…」
「えーと、毎日2人っきりで、一緒に、住んでる、ってこと?」
「そうなるな」
上条は、もうこれは美琴がどんな反応を取るかで話の仕方も変わってくるな、と考え、一旦黙りこむ。

美琴は何やら考えている風だったが、特に激昂するわけでもなく、普通に口を開いた。
「やっぱり確認はしたい…どこまでの仲?」
「夜はバスルームで鍵かけて寝てる、俺は。スキンシップは噛み付き程度、俺が一方的にやられ役だが。」
「ほかには?」
「炊事洗濯全部俺だし、アイツはほんとテレビ見てるか、ゴハン食べたい遊ぼう遊ぼうと言ってるだけだな」
「…それがホントなら、ただの子供じゃないの?」
「その通りなんだ。デカイ秘密を持ってるし、守ってあげなきゃとは思うが、今のところ癒し系としか、だな」
「うーん…」

上条はヒステリックな反応を想定していたが、美琴が黙りこんだので、話を続けることにした。
「あいつは、追っ手が入り込みにくい学園都市に逃げ込んできた。知り合いもないのに。
 そこで出会った俺、助けたらしい俺しか、頼る人がいねえんだ…。一人では生活能力もないしな。
 そんな子を追い出す訳にいかねえし、そんな気もない」
だから、と言葉を切る。
「美琴、お前がどう願おうとも、この生活だけは変えられない。これだけは申し訳ないが、譲れねえ」

美琴は即答だった。
「そんな事言わないわよ。事情があるんじゃしょうがないじゃない」
「…」
「要は上条当麻にはもれなくシスター付だけど、それでも愛せるか?って事でしょ」
「すごい事言われてる気がするが、まあ、そういうことです」
「じゃあ間に挟まれた当麻が苦労するだけでしょ。私はあの子さえ受け入れてくりゃ問題ないわ」
「…やたら物分り良すぎて、何かワナがないかとビクビクものなんですが…」

「…どの道、そんな生活なんて終わりが来るでしょ。嫌味じゃなくて、さ」
上条はギクリとする。
「きっとターニングポイントが来ると思う。その時一緒に考えましょうよ。」
ふふふ、と上条は笑うと、いきなり美琴の首に腕を回し、軽くヘッドロックを掛けた!

「な、なにすんのよ!」
「やっぱ俺の選択は間違ってなかった!美琴!いい子だいい子だ!」
「いたいー!やめてよセット崩れるじゃない」
腕を離すと、美琴はジト目で上条を睨みつけてきた。そんな顔も可愛い。

「なんか色々考えてた時間が無駄だったな。美琴と話せば数分で済む話になっちまった」


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