第6.5章
少女は走っていた。
夜の学園都市を駆け抜けていた。
向かう場所は第一〇〇三二次実験に割り当てられた操車場。
夜の学園都市を駆け抜けていた。
向かう場所は第一〇〇三二次実験に割り当てられた操車場。
(…………ここには何でも解決してくれるママはいない)
前日、公園で子猫を愛でていた自分のクローンに出会ってしまった。
彼女は無情にも悪夢のような実験が継続中であることを少女に告げた。
少女の胸の内に絶望の二文字が広がった。自分のしてきたことが徒労に終わり慟哭した。
その場にいたクローンに八つ当たりしてしまうほど気が狂いそうになった。
だからと言って諦めるわけにはいかなかった。
夕方、最後の手段として考えていた『樹形図の設計者』を狂わす、という作戦は頓挫した。三週間ほど前に何者かに破壊されたことを知ってどうにもならなくなった。
彼女は無情にも悪夢のような実験が継続中であることを少女に告げた。
少女の胸の内に絶望の二文字が広がった。自分のしてきたことが徒労に終わり慟哭した。
その場にいたクローンに八つ当たりしてしまうほど気が狂いそうになった。
だからと言って諦めるわけにはいかなかった。
夕方、最後の手段として考えていた『樹形図の設計者』を狂わす、という作戦は頓挫した。三週間ほど前に何者かに破壊されたことを知ってどうにもならなくなった。
(…………神頼みしたって都合よく奇跡なんて起こらない)
その足で、放心状態で近くにある研究施設をぶっ潰した。
しかし、その場で内なる声が『無駄』であることを残酷にも告げてくれた。
どうすればいいか分からなくなった。
時間が来るまで鉄橋で泣いた。たった一人で泣いた。
誰にも見られることも聞かれることもなくたった一人で弱音を吐いて涙を落した。
どうにもならない無限地獄の中、たった一人で思い悩んだ少女は一つ結論を出した。
しかし、その場で内なる声が『無駄』であることを残酷にも告げてくれた。
どうすればいいか分からなくなった。
時間が来るまで鉄橋で泣いた。たった一人で泣いた。
誰にも見られることも聞かれることもなくたった一人で弱音を吐いて涙を落した。
どうにもならない無限地獄の中、たった一人で思い悩んだ少女は一つ結論を出した。
(…………泣き叫んだら来てくれるヒーローなんていない)
少女は心中でずっと叫んでいた。
誰かに縋りたかった。
助けてと願っていた。
しかし、それは叶わない願い。
一万人以上も見殺しにした自分に救いの手が差し伸べられることはないことを突き付けられた現実。
だったら、自分も命を賭けて。
自分の手で実験を中止に追い込むしかない。
そう考えて少女は走り出した。
誰かに縋りたかった。
助けてと願っていた。
しかし、それは叶わない願い。
一万人以上も見殺しにした自分に救いの手が差し伸べられることはないことを突き付けられた現実。
だったら、自分も命を賭けて。
自分の手で実験を中止に追い込むしかない。
そう考えて少女は走り出した。
(……………………、)
本当はたった一人。
自分の味方をしてくれそうな少年が現れてくれることを心のどこかで期待していた。
しかし、その少年は現れなかった。
幾度となく勝負を挑んで、それでも勝てなかった少年。
レベル5の自分を凌駕するその少年ならば。
いつもなんだかんだ言いながら付き合ってくれる優しい少年ならば。
全てを打ち明ければ助けてくれるような気がしていたのだ。
しかし、少年は現れなかった。
自分の味方をしてくれそうな少年が現れてくれることを心のどこかで期待していた。
しかし、その少年は現れなかった。
幾度となく勝負を挑んで、それでも勝てなかった少年。
レベル5の自分を凌駕するその少年ならば。
いつもなんだかんだ言いながら付き合ってくれる優しい少年ならば。
全てを打ち明ければ助けてくれるような気がしていたのだ。
しかし、少年は現れなかった。
一万人以上も見殺しにした自分を構ってくれる存在がいることを期待するなんて虫が良い話だ。
少女はそう考えて苦笑を浮かべた。
そして、到着した。
思った以上に時間を食っていた。
第一〇〇三二次実験場。
命を賭ける、と思っていながら、体は恐怖に竦んでいたのかもしれない。
そう思った。
しかし、目の前の現実を見せられて全ての思考は吹っ飛んだ。
居ても立っても居られなくなった。
即座に現場に飛びこむ。
「その子から離れなさい!」
まっすぐ、相手を見据えて叫んだ。
「あン?」
対して、相手は肩越しにこちらに視線を向けてきただけだ。
もっとも、それだけで少女の中に再び絶望的な恐怖が渦巻いてくる。
だからと言って逃げ出すわけにはいかない。
ここまで来てしまった以上、やるしかない。
少女はそう考えて苦笑を浮かべた。
そして、到着した。
思った以上に時間を食っていた。
第一〇〇三二次実験場。
命を賭ける、と思っていながら、体は恐怖に竦んでいたのかもしれない。
そう思った。
しかし、目の前の現実を見せられて全ての思考は吹っ飛んだ。
居ても立っても居られなくなった。
即座に現場に飛びこむ。
「その子から離れなさい!」
まっすぐ、相手を見据えて叫んだ。
「あン?」
対して、相手は肩越しにこちらに視線を向けてきただけだ。
もっとも、それだけで少女の中に再び絶望的な恐怖が渦巻いてくる。
だからと言って逃げ出すわけにはいかない。
ここまで来てしまった以上、やるしかない。
「その子から離れなさいって言ってんのよ!」
少女=御坂美琴は吼えた。自らを奮い立たせるためにありたっけの声を出して叫んだ。
少女=御坂美琴は吼えた。自らを奮い立たせるためにありたっけの声を出して叫んだ。
自分のクローン=妹達の無残な姿を見せられて。
でもまだ、生きている姿を確認できて。
今度は、殺される前に飛び出せた。
あの日は、『電車』の一車両だったが、今回は妹達に『コンテナ』が落ちてくる前に飛び出せた。
もう逃げることはできない。
もうやるしかない。
「何だ、またテメエか……あーあ、参ったねこりゃ。前にコイツらにはテメエには手を出すな、って言われてンだが、ソイツをぶっ殺すにやテメエを排除するしかねエしなァ。オイ、先に言ってやる。死にたくなかったら消えろ格下」
相手=一方通行は御坂美琴を見据えてぶっきらぼうに、面倒臭そうに呟いた。
「馬鹿言わないでよ。だったら、この場に飛び出してこないわよ」
が、美琴は、頬に恐怖の汗を浮かばせながらも一方通行を睨みつけて言い返す。
全身が恐怖で委縮しているのは分かっている。
それでも御坂美琴は一方通行の前に立ちはだかる。
「じゃあ何? 殺されても文句は言えねェってことになるンだが構わねェか? 俺自身はソイツを殺さねェと今日の実験が終わらねェ。前回は『終わった後』だったから、アイツらは止めに来たけど、今回は止めに来ねェぜ?」
「承知のうえよ!」
「ほぉ…………そンじゃま、始めっとすっか……?」
呟き、一方通行はすっと両手を柔らかく握って軽く開き、
同時に、美琴はポケットからコインを取り出して構えた。
「あン? またそのシケた『切り札』なの?」
「うるさい! 今度こそアンタに当ててやる!」
言い募る美琴だが、それは建前でしかない。
当然だ。
美琴はこの実験を終わらせるために『自らの死』を選んだ。しかも、それは『樹形図の設計者』が導き出した一八五手の決着ではなく、最初の一手という『実験の根本』を覆そうという手段で。
つまり、反射される『超電磁砲』をその身に受けて全てを終わらせるつもりなのである。
でもまだ、生きている姿を確認できて。
今度は、殺される前に飛び出せた。
あの日は、『電車』の一車両だったが、今回は妹達に『コンテナ』が落ちてくる前に飛び出せた。
もう逃げることはできない。
もうやるしかない。
「何だ、またテメエか……あーあ、参ったねこりゃ。前にコイツらにはテメエには手を出すな、って言われてンだが、ソイツをぶっ殺すにやテメエを排除するしかねエしなァ。オイ、先に言ってやる。死にたくなかったら消えろ格下」
相手=一方通行は御坂美琴を見据えてぶっきらぼうに、面倒臭そうに呟いた。
「馬鹿言わないでよ。だったら、この場に飛び出してこないわよ」
が、美琴は、頬に恐怖の汗を浮かばせながらも一方通行を睨みつけて言い返す。
全身が恐怖で委縮しているのは分かっている。
それでも御坂美琴は一方通行の前に立ちはだかる。
「じゃあ何? 殺されても文句は言えねェってことになるンだが構わねェか? 俺自身はソイツを殺さねェと今日の実験が終わらねェ。前回は『終わった後』だったから、アイツらは止めに来たけど、今回は止めに来ねェぜ?」
「承知のうえよ!」
「ほぉ…………そンじゃま、始めっとすっか……?」
呟き、一方通行はすっと両手を柔らかく握って軽く開き、
同時に、美琴はポケットからコインを取り出して構えた。
「あン? またそのシケた『切り札』なの?」
「うるさい! 今度こそアンタに当ててやる!」
言い募る美琴だが、それは建前でしかない。
当然だ。
美琴はこの実験を終わらせるために『自らの死』を選んだ。しかも、それは『樹形図の設計者』が導き出した一八五手の決着ではなく、最初の一手という『実験の根本』を覆そうという手段で。
つまり、反射される『超電磁砲』をその身に受けて全てを終わらせるつもりなのである。
「いっけえええええええええええええええええええええええええええええ!!」
咆哮一閃! 美琴は勢いよくコインを弾いた!
音速の三倍で解き放たれたクリムゾンのエネルギー破。
通常の相手、一方通行と『あの馬鹿』以外の相手であれば一撃必殺の美琴の切り札。
おそらく、第二位の垣根提督や第四位の麦野沈利でさえも、自らの能力と相殺はできても弾き返すことはできないであろう光の弾丸。
その身に受ければ、御坂美琴自身も粉々になるであろう閃光を一方通行めがけて解き放ったのだ!
「けっ、無駄だ無駄だ」
嘲笑を浮かべて一方通行が『反射』!
光の弾丸は、今度は美琴へと狙いを変える!
美琴はその身に受ける覚悟を固めていた。
いや、固めていたはずだったのだ。
しかし――――
「なっ!?」
美琴は解らなかった。
気がつけば、回転レシーブの要領でかわしてしまっていた。
「どうして…………」
美琴は愕然とした。己の行動が信じられなかった。
「くっくっくっくっく……なるほどな。テメエ、さては今の反射された一撃を受けるつもりで撃ちやがったな?」
一方通行のセリフにギクッとする美琴。
「ヒャーヒャッヒャッヒャッヒャ! 無駄無駄無駄なンだよォ! 『樹形図の設計者』の予測シミュレート一八五手前にテメエが死んて終わらせようってか? 悪ィが、そいつは無理だ!!」
「…………アンタも知ってたのね? けど、実験の根幹は『私がアンタに一八五手で負ける実力』よ! それが覆れば実験は続けられないわ!」
「じゃ、何でテメエは今避けた?」
「――――!!」
「クックックック、『樹形図の設計者』を舐めてねェか? アレがただ単に『一八五手』を導き出すわけねェだろうが」
「どういうことよ?」
「オイオイ、今、身をもって知ったじゃねェか。人に限らず『生き物』ってのはな、『命に関わる危険』が迫ると、己の意思がどうあれ『本能的に回避』しちまうンだぜ。それも計算に入れての『一八五手』なンだよ」
一方通行の衝撃の発言に御坂美琴は頭の中がショックの鐘が鳴り響いた。
背景が自分も含めて協調反転されたような気がした。
「つまりだ。実験を終わらせるにゃ、『俺がレベル6になる』か、『俺が最強でなくなる』か、の二択しかねえってわけなンだが、そこんトコ、楽しく理解してくれてンのかァ?」
「くっ!」
美琴は立ち上がった。
実験を終わらせる方法が自らの死ではなかったことを思い知らされてしまった以上、やることは一つしかない。
万が一の確率でしかないことをやるしかないのだ。
しかも、それが『樹形図の設計者』の思うツボだと解っていながら、だ。
「なら! アンタを『最強の座』から引きずり下ろす!」
レベル5同士の戦いである以上、何かの間違いで美琴が勝ったとしても、それは誤差の範囲内で済まされるかもしれない。
だから『何かの間違い』で『勝利する』ことは許されない。
明らかに『誰の目から見ても』美琴が『勝利した』でなければならない。
そんなことができるのか?
美琴は心の内で悲観的になる。
が、そんなことを言っても始まらない。妹達を救うために、自らの罪を償うために、今まで動いてきたのに諦めることなど許されない。それなら最初から見て見ないふりをすれば良かっただけだ。
「そンじゃま、今度こそ、本当にゲーム開始だ!」
言って、一方通行は地を蹴った!
咆哮一閃! 美琴は勢いよくコインを弾いた!
音速の三倍で解き放たれたクリムゾンのエネルギー破。
通常の相手、一方通行と『あの馬鹿』以外の相手であれば一撃必殺の美琴の切り札。
おそらく、第二位の垣根提督や第四位の麦野沈利でさえも、自らの能力と相殺はできても弾き返すことはできないであろう光の弾丸。
その身に受ければ、御坂美琴自身も粉々になるであろう閃光を一方通行めがけて解き放ったのだ!
「けっ、無駄だ無駄だ」
嘲笑を浮かべて一方通行が『反射』!
光の弾丸は、今度は美琴へと狙いを変える!
美琴はその身に受ける覚悟を固めていた。
いや、固めていたはずだったのだ。
しかし――――
「なっ!?」
美琴は解らなかった。
気がつけば、回転レシーブの要領でかわしてしまっていた。
「どうして…………」
美琴は愕然とした。己の行動が信じられなかった。
「くっくっくっくっく……なるほどな。テメエ、さては今の反射された一撃を受けるつもりで撃ちやがったな?」
一方通行のセリフにギクッとする美琴。
「ヒャーヒャッヒャッヒャッヒャ! 無駄無駄無駄なンだよォ! 『樹形図の設計者』の予測シミュレート一八五手前にテメエが死んて終わらせようってか? 悪ィが、そいつは無理だ!!」
「…………アンタも知ってたのね? けど、実験の根幹は『私がアンタに一八五手で負ける実力』よ! それが覆れば実験は続けられないわ!」
「じゃ、何でテメエは今避けた?」
「――――!!」
「クックックック、『樹形図の設計者』を舐めてねェか? アレがただ単に『一八五手』を導き出すわけねェだろうが」
「どういうことよ?」
「オイオイ、今、身をもって知ったじゃねェか。人に限らず『生き物』ってのはな、『命に関わる危険』が迫ると、己の意思がどうあれ『本能的に回避』しちまうンだぜ。それも計算に入れての『一八五手』なンだよ」
一方通行の衝撃の発言に御坂美琴は頭の中がショックの鐘が鳴り響いた。
背景が自分も含めて協調反転されたような気がした。
「つまりだ。実験を終わらせるにゃ、『俺がレベル6になる』か、『俺が最強でなくなる』か、の二択しかねえってわけなンだが、そこんトコ、楽しく理解してくれてンのかァ?」
「くっ!」
美琴は立ち上がった。
実験を終わらせる方法が自らの死ではなかったことを思い知らされてしまった以上、やることは一つしかない。
万が一の確率でしかないことをやるしかないのだ。
しかも、それが『樹形図の設計者』の思うツボだと解っていながら、だ。
「なら! アンタを『最強の座』から引きずり下ろす!」
レベル5同士の戦いである以上、何かの間違いで美琴が勝ったとしても、それは誤差の範囲内で済まされるかもしれない。
だから『何かの間違い』で『勝利する』ことは許されない。
明らかに『誰の目から見ても』美琴が『勝利した』でなければならない。
そんなことができるのか?
美琴は心の内で悲観的になる。
が、そんなことを言っても始まらない。妹達を救うために、自らの罪を償うために、今まで動いてきたのに諦めることなど許されない。それなら最初から見て見ないふりをすれば良かっただけだ。
「そンじゃま、今度こそ、本当にゲーム開始だ!」
言って、一方通行は地を蹴った!
当然、結果は見えていた。
美琴の繰り出す攻撃は何一つ通じない。
電撃だろうと、砂鉄の嵐だろうと、砂鉄の剣だろうと、空気を電気分解して一方通行の周りにイオンを創り出そうと、全てが弾き飛ばされ、逆に一方通行の攻撃はすべてが当たる。
しかし、美琴の『本能』がどうしても『死』という最後の一線を越えさせない。
「かはっ!」
美琴は肩を押さえて、座り込み、背を周りに突き刺さった鉄骨に預けていた。
制服の裾はところどころ破れ、露わになっている手足、顔、髪は痣と埃まみれになっていた。
もちろん、一方通行は無傷だ。
美琴の繰り出す攻撃は何一つ通じない。
電撃だろうと、砂鉄の嵐だろうと、砂鉄の剣だろうと、空気を電気分解して一方通行の周りにイオンを創り出そうと、全てが弾き飛ばされ、逆に一方通行の攻撃はすべてが当たる。
しかし、美琴の『本能』がどうしても『死』という最後の一線を越えさせない。
「かはっ!」
美琴は肩を押さえて、座り込み、背を周りに突き刺さった鉄骨に預けていた。
制服の裾はところどころ破れ、露わになっている手足、顔、髪は痣と埃まみれになっていた。
もちろん、一方通行は無傷だ。
「あ~あ。つまンねェなぁ……レベル5同士なンで、もうちっと楽しめるかと思ってたンだが……」
拍子抜けした表情で頭を掻く一方通行。
「こりゃ視力検査と同じだな。アレは二.〇までしか計れねエわけだが、テメエは二.〇でも、俺は一〇.〇くらいありながら『二.〇』って判断されてるってコトなンだろうぜ…………」
やる気が失せた声で呟いてから、一方通行が美琴へと、無造作に手を伸ばす。
しかし、美琴に蓄積されたダメージは小さくない。一方通行のゆっくり伸ばされる手でさえもかわすことが困難なほどに。
「そろそろ、終わりにすっか?」
好事家のような笑いで一方通行は御坂美琴へと手を伸ばす。
その手が美琴に触れれば、美琴は体中の血管が爆発する。
逃げ場はない。
となれば、
「お?」
突然、一方通行の目の前で美琴の体がドシュウ!と音を立てて吹っ飛んだ。
むろん、一方通行がやったのではない。
美琴が自分自身を飛ばしたのだ。
(磁力による強制離脱! ダメージになるからやりたくなかったんだけど!)
がつん、と鉄製のコンテナに背中から激突!
「くはっ!」
一度、息を吐いた時、そこには赤いものが混じっていた。
そのまま、ズリズリと背中を滑らせて落ちていき、再び座り込む。息も荒い。
「…………お姉さま……、とミサカは呼びかけます…………」
どうやら、飛んだ方向は妹達の傍のコンテナだったらしい。
「何よ…………?」
「お姉さま……逃げてください、とミサカは警告します…………」
「――――っ!」
「ミサカは…………必要な機材と薬品があれば、ボタン一つでいくらでも自動生産できる、単価にして十八万円で作られる実験動物です…………お姉さまが命をかけてまで守る価値のない……………」
「誰がそんなことを言ったの……?」
美琴の声に怒気が孕んでいた。
「え…………?」
「誰が『私が命をかけてまで守る価値が無い』なんて言ったの? って聞いてんのよ!」
「そ、それは…………」
「周りに『実験動物』って言われたからって、ハイハイ頷いてんじゃないわよ! だいたい、実験動物ならどうしてアンタは『私があげたワッペン』を後生大事に抱えてくれたのよ! どうして私にミルクティーを要求してきたのよ!! どうしてあの子猫を助けようって協力を求めてきたのよ!!」
美琴の剣幕に妹達は押し黙った。
「いい? あの行動一つ一つは『アンタがアンタとして』居たいからの行動なの。アンタは『動いていること』って言うかもしんないけど、アレは『生きていること』の喜びを表したものなのよ!」
「ですが…………」
「じゃあもう一つ聞くわ。どうして私に逃げろって言うの?」
「それは……ミサカはミサカのためにお姉さまが殺されるのは忍びないと思い……、とミサカはお姉さまを気遣った結果で…………」
「何で『実験動物』のアンタが『私を気遣う』の?」
「…………………」
「それが『心』よ。アンタはアンタ以外の誰でも無い『アンタ』って証よ。実験動物なんかじゃない、『人』としてのアンタの『心』よ」
美琴は立ち上がった。怒りがダメージを和らげた。
いや、正確には、怒りがダメージを忘れさせた。
「お姉さま…………」
「だから私は戦う。正直言うと、ここに来るまでは『死のう』と思っていたけど、今は違う。アンタを助ける手段が一方通行を倒すしかない、なら抗い続けるまでよ!」
御坂美琴は勇ましく吠えた。
――――!!
刹那、『死』ではなく『生』を選択した美琴の頭の中で閃光が走った。
生きようとする本能が、御坂美琴の演算能力を強烈にプッシュしたのだ。
拍子抜けした表情で頭を掻く一方通行。
「こりゃ視力検査と同じだな。アレは二.〇までしか計れねエわけだが、テメエは二.〇でも、俺は一〇.〇くらいありながら『二.〇』って判断されてるってコトなンだろうぜ…………」
やる気が失せた声で呟いてから、一方通行が美琴へと、無造作に手を伸ばす。
しかし、美琴に蓄積されたダメージは小さくない。一方通行のゆっくり伸ばされる手でさえもかわすことが困難なほどに。
「そろそろ、終わりにすっか?」
好事家のような笑いで一方通行は御坂美琴へと手を伸ばす。
その手が美琴に触れれば、美琴は体中の血管が爆発する。
逃げ場はない。
となれば、
「お?」
突然、一方通行の目の前で美琴の体がドシュウ!と音を立てて吹っ飛んだ。
むろん、一方通行がやったのではない。
美琴が自分自身を飛ばしたのだ。
(磁力による強制離脱! ダメージになるからやりたくなかったんだけど!)
がつん、と鉄製のコンテナに背中から激突!
「くはっ!」
一度、息を吐いた時、そこには赤いものが混じっていた。
そのまま、ズリズリと背中を滑らせて落ちていき、再び座り込む。息も荒い。
「…………お姉さま……、とミサカは呼びかけます…………」
どうやら、飛んだ方向は妹達の傍のコンテナだったらしい。
「何よ…………?」
「お姉さま……逃げてください、とミサカは警告します…………」
「――――っ!」
「ミサカは…………必要な機材と薬品があれば、ボタン一つでいくらでも自動生産できる、単価にして十八万円で作られる実験動物です…………お姉さまが命をかけてまで守る価値のない……………」
「誰がそんなことを言ったの……?」
美琴の声に怒気が孕んでいた。
「え…………?」
「誰が『私が命をかけてまで守る価値が無い』なんて言ったの? って聞いてんのよ!」
「そ、それは…………」
「周りに『実験動物』って言われたからって、ハイハイ頷いてんじゃないわよ! だいたい、実験動物ならどうしてアンタは『私があげたワッペン』を後生大事に抱えてくれたのよ! どうして私にミルクティーを要求してきたのよ!! どうしてあの子猫を助けようって協力を求めてきたのよ!!」
美琴の剣幕に妹達は押し黙った。
「いい? あの行動一つ一つは『アンタがアンタとして』居たいからの行動なの。アンタは『動いていること』って言うかもしんないけど、アレは『生きていること』の喜びを表したものなのよ!」
「ですが…………」
「じゃあもう一つ聞くわ。どうして私に逃げろって言うの?」
「それは……ミサカはミサカのためにお姉さまが殺されるのは忍びないと思い……、とミサカはお姉さまを気遣った結果で…………」
「何で『実験動物』のアンタが『私を気遣う』の?」
「…………………」
「それが『心』よ。アンタはアンタ以外の誰でも無い『アンタ』って証よ。実験動物なんかじゃない、『人』としてのアンタの『心』よ」
美琴は立ち上がった。怒りがダメージを和らげた。
いや、正確には、怒りがダメージを忘れさせた。
「お姉さま…………」
「だから私は戦う。正直言うと、ここに来るまでは『死のう』と思っていたけど、今は違う。アンタを助ける手段が一方通行を倒すしかない、なら抗い続けるまでよ!」
御坂美琴は勇ましく吠えた。
――――!!
刹那、『死』ではなく『生』を選択した美琴の頭の中で閃光が走った。
生きようとする本能が、御坂美琴の演算能力を強烈にプッシュしたのだ。
(反射……ベクトル操作…………でも、根本を『重力の操作』とするなら…………)
美琴は頭脳を高速回転させる。
これまでの一方通行の攻撃パターンを頭の中で分析し、解析を進めていく。
そして、たどり着いた。
ついに、見つけ出した。
一方通行の『ベクトル操作』に対する突破口を。
御坂美琴の『電撃使い』としての能力で対抗できる策を。
ニヤッと、美琴は自然に笑みが浮かんだ。
「あン?」
無造作にゆっくりと近づいてきていた一方通行がいぶかしげな声を漏らして、
「ふふっ」
美琴は思わず声を漏らして笑った。
「何だ?」
「あー、はっはっはっはっはっは! 何だ簡単なことじゃない! 何が最強の力よ! 何が第一位よ!」
美琴は高らかに笑った。
「オマエ……気でも狂ったか…………?」
「うふふ、いいえ、私は正常よ。ま、アンタを攻略できる方法が分かったんでテンションあがっちゃったんだけど」
両手を広げて言い募る美琴。
「俺を、攻略できる?」
「ええ、見せてあげるわ!」
一方通行の疑問の声に応えるように、美琴は頭髪を一櫛、跳ねあげて電撃を発射。
「はァ……何かと思えば…………って、がっ!?」
ため息を吐こうとした一方通行に、なんと美琴の電撃が当たったのだ。
「て、テメエ…………?」
「ふふん。言ったでしょ。アンタを攻略できる方法が分かったって」
言って、もう一発打つ。
これも当たる。
当たれば生身の体の一方通行にもダメージはある。
一方通行はベクトルを操作して間合いを取った。
「な、何が……?」
「教えてあげるわ。なんたって知ってもどうにもならないしね」
「―――――!!」
腕を組み、勝利の笑みを向ける美琴に一方通行は声にならない驚嘆を表した。
「解ってしまえば単純なことだったわ。アンタはこの世のすべてのベクトルを操る。言い換えれば『全ての重力』を操作している」
「………………」
「さて、重力って聞いて何かピンと来ない? 私の能力と兼ね合わせると」
「――――電……磁力!?」
「その通り! そして磁力には常にS極とN極が存在する! アンタのベクトル操作=重力を分析解析、磁力に変換して、S極とN極を見出す! アンタのこれまでの攻撃で充分解析できたわよ! 私は常に『アンタに引き合う磁力を乗せた電撃』を撃てば、アンタは反射してるつもりが引き寄せてしまうって結果を招く!」
説明を終えて、美琴はダッシュをかけた。
もう躊躇う必要はまったくない。
美琴にとって一方通行はすでに最強でも敵わない存在でも無くなったからだ。
「チッ!」
それは一方通行にも理解できることだった。
美琴は頭脳を高速回転させる。
これまでの一方通行の攻撃パターンを頭の中で分析し、解析を進めていく。
そして、たどり着いた。
ついに、見つけ出した。
一方通行の『ベクトル操作』に対する突破口を。
御坂美琴の『電撃使い』としての能力で対抗できる策を。
ニヤッと、美琴は自然に笑みが浮かんだ。
「あン?」
無造作にゆっくりと近づいてきていた一方通行がいぶかしげな声を漏らして、
「ふふっ」
美琴は思わず声を漏らして笑った。
「何だ?」
「あー、はっはっはっはっはっは! 何だ簡単なことじゃない! 何が最強の力よ! 何が第一位よ!」
美琴は高らかに笑った。
「オマエ……気でも狂ったか…………?」
「うふふ、いいえ、私は正常よ。ま、アンタを攻略できる方法が分かったんでテンションあがっちゃったんだけど」
両手を広げて言い募る美琴。
「俺を、攻略できる?」
「ええ、見せてあげるわ!」
一方通行の疑問の声に応えるように、美琴は頭髪を一櫛、跳ねあげて電撃を発射。
「はァ……何かと思えば…………って、がっ!?」
ため息を吐こうとした一方通行に、なんと美琴の電撃が当たったのだ。
「て、テメエ…………?」
「ふふん。言ったでしょ。アンタを攻略できる方法が分かったって」
言って、もう一発打つ。
これも当たる。
当たれば生身の体の一方通行にもダメージはある。
一方通行はベクトルを操作して間合いを取った。
「な、何が……?」
「教えてあげるわ。なんたって知ってもどうにもならないしね」
「―――――!!」
腕を組み、勝利の笑みを向ける美琴に一方通行は声にならない驚嘆を表した。
「解ってしまえば単純なことだったわ。アンタはこの世のすべてのベクトルを操る。言い換えれば『全ての重力』を操作している」
「………………」
「さて、重力って聞いて何かピンと来ない? 私の能力と兼ね合わせると」
「――――電……磁力!?」
「その通り! そして磁力には常にS極とN極が存在する! アンタのベクトル操作=重力を分析解析、磁力に変換して、S極とN極を見出す! アンタのこれまでの攻撃で充分解析できたわよ! 私は常に『アンタに引き合う磁力を乗せた電撃』を撃てば、アンタは反射してるつもりが引き寄せてしまうって結果を招く!」
説明を終えて、美琴はダッシュをかけた。
もう躊躇う必要はまったくない。
美琴にとって一方通行はすでに最強でも敵わない存在でも無くなったからだ。
「チッ!」
それは一方通行にも理解できることだった。
形勢は一気に逆転した。
美琴の電撃が、砂鉄の攻撃が全てヒットする。
一方通行は、周りのコンテナや鉄骨を盾にするしかできず、例えコンテナや鉄骨を美琴めがけて放とうが、それは美琴の『電磁力』によって弾かれる。
ならば、自身で間合いを詰めて直接攻撃、と行きたいところだが、猛スピードで間合いを詰めようとも、ベクトル操作を磁力変換され、S極とN極を創り出す美琴の電磁力発動によって反発し、間合いを与えてしまって、逆に、遠距離反撃を喰らう羽目になってしまうのである。
これでは一方通行は八方ふさがりだ。
美琴の電撃が、砂鉄の攻撃が全てヒットする。
一方通行は、周りのコンテナや鉄骨を盾にするしかできず、例えコンテナや鉄骨を美琴めがけて放とうが、それは美琴の『電磁力』によって弾かれる。
ならば、自身で間合いを詰めて直接攻撃、と行きたいところだが、猛スピードで間合いを詰めようとも、ベクトル操作を磁力変換され、S極とN極を創り出す美琴の電磁力発動によって反発し、間合いを与えてしまって、逆に、遠距離反撃を喰らう羽目になってしまうのである。
これでは一方通行は八方ふさがりだ。
「ぐおっ!!」
一方通行は美琴の何撃目かの攻撃をまともに受けてもんどりうった。
「ハァ、ハァ、ハァ……これで……実験が終わる…………」
美琴は一つ深呼吸した。
一方通行は操車場、砂利の上に大の字になって考えいてた。
(クソが……この俺が格下の能力に抑え込まれるなンざ…………もう少し……で、『無敵』が手に入るってのに…………)
一方通行の頭の中を、この実験についてが再確認されていく。
実験に対しての協力要請。
過去一〇〇三一回の実験。
そのすべてが詳細に流れてくる。
妹達がクローンであり、出来損ないであり、乱造品であり、人形である、という認識を一方通行は持っている。
そう教えられたから持っている。
アレは人間ではない、と。
しかし、クローン製作のためのDNAマップ提供者、オリジナルは彼女たちをクローンでも出来損ないでも乱造品でも人形でも無い、一人の『人間』として見ていることは分かる。
今、目の前の死に損ないの妹達を命がけで守ろうとしているのは分かる。
だが、一方通行には、なぜ、そうまでしてクローンを守ろうとするのかが分からない。
そのことがオリジナルの力を引き上げたことが分からない。
一方通行が教えられたのは、戦闘経験による成長速度の促進であり、『誰かを守る』という意思が成長を促すとは思ってもみなかったのである。
いや違う。
一方通行の頭の中で内なる声が聞こえてきた。
オリジナルは自身の能力を何一つ引き上げてなどいない。
学園都市二三〇万人の頂点、レベル5の第三位の力は変わってなどいない。
ただ単に、『その攻撃』が一方通行を捉えることができた、それだけなのだ。
その方法を見つけ出したから、一方通行に攻撃を加えることができた、だけだ。
『攻撃が当たる』から、一方通行を押しているだけなのだ。
当然だ。
一方通行の能力はあくまでも『ベクトル操作』。相手を直接『攻撃』するための力ではなく、『ベクトルを操って』何かを『武器にして』攻撃する力なのだ。
では、その『ベクトル操作』が何らかの手段で破られたとしたら?
それでは、極端な話、レベル5ではなくレベル1の力でも『異能の力』が当たれば、通用するということにならないか。
ましてや、一方通行はその『最強の能力』ゆえ、鍛える必要もなく、身体そのものは脆弱といっても過言ではないのだ。
だとすれば。
一方通行は考える。
今、この窮地を脱するベクトル操作とは何か。
オリジナルの電撃攻撃をかわすことができないのであれば、抑え込む力とは何なのか。
無い物ねだりはできない。
そんな時間などない。
一方通行は考える。
この間、わずかコンマ八秒。
そして――――
「く、」
見つけた。
最大の武器を。
オリジナルを確実にねじ伏せられる力を。
『電磁力』程度ではどうにもならない力を。
「くか、」
一方通行の不気味な声が聞こえてきて美琴は立ち止まった。一方通行から何か、危険な何かを感じ取ったからだ。
しかしもう遅い。
「くかき、」
一方通行の力は触れたモノの『向き』を変えるというもの。運動量、熱量、電力量、それがどんな力かは問わず、ただ『向き』があるものならば全ての力を自在に操るもの。例外は美琴が見つけ出した『ベクトルの磁力変換』のみ。
「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけきくくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかか――――ッ!!」
ならば。
この手が、大気に流れる風の『向き』を掴み取れば。
世界中にくまなく流れる、巨大な風の動きそのすべてを手中に収めることが可能――――!
一方通行は美琴の何撃目かの攻撃をまともに受けてもんどりうった。
「ハァ、ハァ、ハァ……これで……実験が終わる…………」
美琴は一つ深呼吸した。
一方通行は操車場、砂利の上に大の字になって考えいてた。
(クソが……この俺が格下の能力に抑え込まれるなンざ…………もう少し……で、『無敵』が手に入るってのに…………)
一方通行の頭の中を、この実験についてが再確認されていく。
実験に対しての協力要請。
過去一〇〇三一回の実験。
そのすべてが詳細に流れてくる。
妹達がクローンであり、出来損ないであり、乱造品であり、人形である、という認識を一方通行は持っている。
そう教えられたから持っている。
アレは人間ではない、と。
しかし、クローン製作のためのDNAマップ提供者、オリジナルは彼女たちをクローンでも出来損ないでも乱造品でも人形でも無い、一人の『人間』として見ていることは分かる。
今、目の前の死に損ないの妹達を命がけで守ろうとしているのは分かる。
だが、一方通行には、なぜ、そうまでしてクローンを守ろうとするのかが分からない。
そのことがオリジナルの力を引き上げたことが分からない。
一方通行が教えられたのは、戦闘経験による成長速度の促進であり、『誰かを守る』という意思が成長を促すとは思ってもみなかったのである。
いや違う。
一方通行の頭の中で内なる声が聞こえてきた。
オリジナルは自身の能力を何一つ引き上げてなどいない。
学園都市二三〇万人の頂点、レベル5の第三位の力は変わってなどいない。
ただ単に、『その攻撃』が一方通行を捉えることができた、それだけなのだ。
その方法を見つけ出したから、一方通行に攻撃を加えることができた、だけだ。
『攻撃が当たる』から、一方通行を押しているだけなのだ。
当然だ。
一方通行の能力はあくまでも『ベクトル操作』。相手を直接『攻撃』するための力ではなく、『ベクトルを操って』何かを『武器にして』攻撃する力なのだ。
では、その『ベクトル操作』が何らかの手段で破られたとしたら?
それでは、極端な話、レベル5ではなくレベル1の力でも『異能の力』が当たれば、通用するということにならないか。
ましてや、一方通行はその『最強の能力』ゆえ、鍛える必要もなく、身体そのものは脆弱といっても過言ではないのだ。
だとすれば。
一方通行は考える。
今、この窮地を脱するベクトル操作とは何か。
オリジナルの電撃攻撃をかわすことができないのであれば、抑え込む力とは何なのか。
無い物ねだりはできない。
そんな時間などない。
一方通行は考える。
この間、わずかコンマ八秒。
そして――――
「く、」
見つけた。
最大の武器を。
オリジナルを確実にねじ伏せられる力を。
『電磁力』程度ではどうにもならない力を。
「くか、」
一方通行の不気味な声が聞こえてきて美琴は立ち止まった。一方通行から何か、危険な何かを感じ取ったからだ。
しかしもう遅い。
「くかき、」
一方通行の力は触れたモノの『向き』を変えるというもの。運動量、熱量、電力量、それがどんな力かは問わず、ただ『向き』があるものならば全ての力を自在に操るもの。例外は美琴が見つけ出した『ベクトルの磁力変換』のみ。
「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけきくくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかか――――ッ!!」
ならば。
この手が、大気に流れる風の『向き』を掴み取れば。
世界中にくまなく流れる、巨大な風の動きそのすべてを手中に収めることが可能――――!
轟!!と音を立てて、風の流れが渦を紡ぐ!
一方通行が両手で何かを掴もうとするがごとく天に突き上げたその先で。
「なっ!?」
声を上げる美琴だが遅い!
殺せ、と一方通行が言葉を紡いだ刹那、風速一二〇メートルの暴風が美琴に襲いかかった!
むろん、その威力は美琴の肉体を吹き飛ばすことなど造作でも無い!
「きゃあああああああああああああああ!!」
抗う術を持たず、美琴は後方に吹き飛ばされる! その先には巨大な鉄塔!
「―――――って、なぁめぇんなぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!」
しかし、そこは美琴もレベル5の猛者!
そのハイレベルな演算能力が即座に対抗策を導き出す!
風圧から抜け出すことはできなくとも、鉄塔に激突すことを回避する手段を弾き出す!
鉄塔に対して『反発磁力』を展開!
『押される力』を急速に『抑え込み』、鉄塔にぶつかる直前、『磁力の反発』で横向きに着地!
そのまま、飛び降りて、これまた磁力の力で衝撃を和らげて、大地に降り立つ。
前を見据えてみれば、一方通行がゆらりと、前髪の影に瞳を隠して、立ち上がっていた。
「…………咄嗟に思い付いたンだが、こりゃ、相当の威力だなァ……『反射』とは違って、『向き』を自分の意思で変更させる場合は『元の向き』と『変更する向き』を考慮しなけりゃなンねェわけなンだが………この付近の『大気』だけでもこの威力…………くっ、」
美琴はハッとした。
さっきまでの一方通行じゃないことがはっきりと悟れて。
さっきまでの敗色濃厚だった表情が一変していて。
声を上げて哄笑していて。
「クッ……カッーカッカッカッカッカッカッ! なるほどな! 確かに『強い相手』と戦うとレベルアップするってのは本当のようだなァ! 超電磁砲!」
一方通行が初めて美琴のことを二つ名で呼んだ。
格下でもオリジナルでもない。
御坂美琴の代名詞である『超電磁砲』と呼んだのだ。
それはすなわち。
一方通行が御坂美琴を『真の敵』として認めたからだ。
一方通行が御坂美琴を『対等の存在』として認めたからだ。
この瞬間、一方通行は自分が『最強ではなくなったこと』を認めたのだ。
だが、それは一瞬。
「だからよォ――――愉快なことを思いついた。テメエに対する『敬意』でコイツをくれてやるぜ!!」
吼えると同時に、一方通行は再び両手を天へと掲げた。
瞬間、大気が渦を巻いて再び集まり出す。
「…………何を?」
美琴は周囲に吹き荒れる暴風に耐えるしかできない。
台風並みの暴風が吹き荒れている以上、コインを取り出すことすらままならないのはもちろん、照準すら合わせられないので超電磁砲を撃つことはできない。
ならば、拡散型の電撃を、と展開させてはみるが、大気の渦に飲み込まれてしまう。
なす術はない。
ただ一方通行のやることを眺めるしかできない。
しかもそこには、風の大気の塊が眩い白色光を放っていた。
(高電離気体【プラズマ】――――!)
美琴の全身が、いきなり北極海の海の底に落とされたように凍りついた。
空気は圧縮されることによって熱を持つ。
あまりの圧縮率で凝縮された空気は摂氏一〇〇〇〇度を越える高熱の塊と化す。
電撃使いとしての御坂美琴は学園都市最強最高の実力者であり、それは何も『能力』に限定されるものではなく、『知識』についても同義なのである。
そんな美琴の頭脳が導き出した答えは――――
一方通行が両手で何かを掴もうとするがごとく天に突き上げたその先で。
「なっ!?」
声を上げる美琴だが遅い!
殺せ、と一方通行が言葉を紡いだ刹那、風速一二〇メートルの暴風が美琴に襲いかかった!
むろん、その威力は美琴の肉体を吹き飛ばすことなど造作でも無い!
「きゃあああああああああああああああ!!」
抗う術を持たず、美琴は後方に吹き飛ばされる! その先には巨大な鉄塔!
「―――――って、なぁめぇんなぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!」
しかし、そこは美琴もレベル5の猛者!
そのハイレベルな演算能力が即座に対抗策を導き出す!
風圧から抜け出すことはできなくとも、鉄塔に激突すことを回避する手段を弾き出す!
鉄塔に対して『反発磁力』を展開!
『押される力』を急速に『抑え込み』、鉄塔にぶつかる直前、『磁力の反発』で横向きに着地!
そのまま、飛び降りて、これまた磁力の力で衝撃を和らげて、大地に降り立つ。
前を見据えてみれば、一方通行がゆらりと、前髪の影に瞳を隠して、立ち上がっていた。
「…………咄嗟に思い付いたンだが、こりゃ、相当の威力だなァ……『反射』とは違って、『向き』を自分の意思で変更させる場合は『元の向き』と『変更する向き』を考慮しなけりゃなンねェわけなンだが………この付近の『大気』だけでもこの威力…………くっ、」
美琴はハッとした。
さっきまでの一方通行じゃないことがはっきりと悟れて。
さっきまでの敗色濃厚だった表情が一変していて。
声を上げて哄笑していて。
「クッ……カッーカッカッカッカッカッカッ! なるほどな! 確かに『強い相手』と戦うとレベルアップするってのは本当のようだなァ! 超電磁砲!」
一方通行が初めて美琴のことを二つ名で呼んだ。
格下でもオリジナルでもない。
御坂美琴の代名詞である『超電磁砲』と呼んだのだ。
それはすなわち。
一方通行が御坂美琴を『真の敵』として認めたからだ。
一方通行が御坂美琴を『対等の存在』として認めたからだ。
この瞬間、一方通行は自分が『最強ではなくなったこと』を認めたのだ。
だが、それは一瞬。
「だからよォ――――愉快なことを思いついた。テメエに対する『敬意』でコイツをくれてやるぜ!!」
吼えると同時に、一方通行は再び両手を天へと掲げた。
瞬間、大気が渦を巻いて再び集まり出す。
「…………何を?」
美琴は周囲に吹き荒れる暴風に耐えるしかできない。
台風並みの暴風が吹き荒れている以上、コインを取り出すことすらままならないのはもちろん、照準すら合わせられないので超電磁砲を撃つことはできない。
ならば、拡散型の電撃を、と展開させてはみるが、大気の渦に飲み込まれてしまう。
なす術はない。
ただ一方通行のやることを眺めるしかできない。
しかもそこには、風の大気の塊が眩い白色光を放っていた。
(高電離気体【プラズマ】――――!)
美琴の全身が、いきなり北極海の海の底に落とされたように凍りついた。
空気は圧縮されることによって熱を持つ。
あまりの圧縮率で凝縮された空気は摂氏一〇〇〇〇度を越える高熱の塊と化す。
電撃使いとしての御坂美琴は学園都市最強最高の実力者であり、それは何も『能力』に限定されるものではなく、『知識』についても同義なのである。
そんな美琴の頭脳が導き出した答えは――――
『アレを防ぐことはできない』
絶望的な答えしか見出せなかった。
まさか、土壇場でこんなどんでん返しが待っているとは思わなかった。
追い詰めらた野獣に『生き抜くため』の新しい力を引き出させる結果になろうとは思わなかった。
まさか、土壇場でこんなどんでん返しが待っているとは思わなかった。
追い詰めらた野獣に『生き抜くため』の新しい力を引き出させる結果になろうとは思わなかった。
プラズマは『電撃』でどうにかなるものではない。
確かに、プラズマは原子を陽イオンと電子に分離されたものだ。だから、電撃使いの力で『電子』を陽イオンに組み込んで原子に戻すことはできるかもしれないが、そんなもの時間稼ぎにすらならない。なぜなら一方通行は大気がある限り、半永久的に再構成できるからだ。
なぜならプラズマの元は『風』なのだ。
とすれば、『風使い』が大気を乱す以外、あのプラズマを拡散させる手段はないのだ。
美琴は歯噛みした。
結局は、一方通行に勝てないのだと悔しくなった。
あそこまで追いつめたのに。
勝利まであと一歩だったというのに。
それなのに、結局は『第一位』という壁に阻まれてしまうのかと、妹達を救えないのかと慟哭した。
確かに、プラズマは原子を陽イオンと電子に分離されたものだ。だから、電撃使いの力で『電子』を陽イオンに組み込んで原子に戻すことはできるかもしれないが、そんなもの時間稼ぎにすらならない。なぜなら一方通行は大気がある限り、半永久的に再構成できるからだ。
なぜならプラズマの元は『風』なのだ。
とすれば、『風使い』が大気を乱す以外、あのプラズマを拡散させる手段はないのだ。
美琴は歯噛みした。
結局は、一方通行に勝てないのだと悔しくなった。
あそこまで追いつめたのに。
勝利まであと一歩だったというのに。
それなのに、結局は『第一位』という壁に阻まれてしまうのかと、妹達を救えないのかと慟哭した。
しかし、それでも意外なところから御坂美琴に救いの手が差し伸べられる。
「何だ!?」
突然、上空の空気の塊が揺らいだのが見て取れて、一方通行は驚嘆の声を上げた。
(チッ……計算を誤ったのか…………)
舌打ちしてから、再び圧縮させようとして、
しかし、空気の塊は一方通行の計算をあざ笑うがごとく、拡散の一途を辿る。
(何だ? 俺の計算式に狂いはねえ――――!)
一方通行は気が付いた。
大気の流れ、風の流れがかなり不自然なことに。
一方通行の演算とは必ず逆の方へと流れることに。
(待てよ。聞いたことがあンぞ。確か、発電機のモーターってのはマイクロ波を浴びせっと回転するって話が――――!)
学園都市の発電機とは何か。
答えはそれだ。
一方通行は、ある方向へと視線を合わせた。
そこにいるのは打ちのめしたはずの妹達だ。
しかし、違った。
そこにいたのは一方通行の敵だった。
今にも倒れそうな体を無理矢理奮い立たせて、体中が悲鳴を上げている激痛にさえも堪えて一方通行を睨みつける『敵』だった。
「この、ヤロウ…………っ!」
「ミサカも…………」
息絶え絶えに妹達は言い募る。
「ミサカも…………お姉さまを…………守ります、とミサカは……ここに……宣言します………ミサカに……命の価値を……心を吹き込んでくれたお姉さまに報いるために……、とミサカは戦う決意を新たに………します…………」
学園都市には九九六八人の妹達がいる。
その妹達が、今この場にいる一〇〇三二号の見ているものをミサカネットワークを通じて、学園都市中にある『風力発電用のプロペラ』を操っているのだ。
そしてそれはそのまま。
一方通行が御坂美琴を倒すために、まず先に倒さなければならない相手が妹達であることを意味していた。
しかし、それが意味することは逆に一方通行を再度、追い詰めることにもなる。
「殺す!」
吼えて一方通行は地を蹴った。
今、この場にいる妹達さえ殺してしまえば大気のコントロールを取り戻せるからだ。
もっとも、
「させると思う?」
一方通行のスピードを凌駕したかのように、彼と妹達の間に割ってくる影一つ!
「なっ!?」
気付いた時はもう遅い!
「ちぇいさー!!」
掛け声とともに繰り出された上段回し蹴りは、まともに一方通行の側頭部にヒットした!
突然、上空の空気の塊が揺らいだのが見て取れて、一方通行は驚嘆の声を上げた。
(チッ……計算を誤ったのか…………)
舌打ちしてから、再び圧縮させようとして、
しかし、空気の塊は一方通行の計算をあざ笑うがごとく、拡散の一途を辿る。
(何だ? 俺の計算式に狂いはねえ――――!)
一方通行は気が付いた。
大気の流れ、風の流れがかなり不自然なことに。
一方通行の演算とは必ず逆の方へと流れることに。
(待てよ。聞いたことがあンぞ。確か、発電機のモーターってのはマイクロ波を浴びせっと回転するって話が――――!)
学園都市の発電機とは何か。
答えはそれだ。
一方通行は、ある方向へと視線を合わせた。
そこにいるのは打ちのめしたはずの妹達だ。
しかし、違った。
そこにいたのは一方通行の敵だった。
今にも倒れそうな体を無理矢理奮い立たせて、体中が悲鳴を上げている激痛にさえも堪えて一方通行を睨みつける『敵』だった。
「この、ヤロウ…………っ!」
「ミサカも…………」
息絶え絶えに妹達は言い募る。
「ミサカも…………お姉さまを…………守ります、とミサカは……ここに……宣言します………ミサカに……命の価値を……心を吹き込んでくれたお姉さまに報いるために……、とミサカは戦う決意を新たに………します…………」
学園都市には九九六八人の妹達がいる。
その妹達が、今この場にいる一〇〇三二号の見ているものをミサカネットワークを通じて、学園都市中にある『風力発電用のプロペラ』を操っているのだ。
そしてそれはそのまま。
一方通行が御坂美琴を倒すために、まず先に倒さなければならない相手が妹達であることを意味していた。
しかし、それが意味することは逆に一方通行を再度、追い詰めることにもなる。
「殺す!」
吼えて一方通行は地を蹴った。
今、この場にいる妹達さえ殺してしまえば大気のコントロールを取り戻せるからだ。
もっとも、
「させると思う?」
一方通行のスピードを凌駕したかのように、彼と妹達の間に割ってくる影一つ!
「なっ!?」
気付いた時はもう遅い!
「ちぇいさー!!」
掛け声とともに繰り出された上段回し蹴りは、まともに一方通行の側頭部にヒットした!
一方通行は頭に血が上っていて周囲に気を配るのを忘れていた。
しかも、妹達を攻撃するために『反射を切って』いた。
その一瞬の隙を完全に突かれたのだ!
「お姉さま……」
「ありがと。おかげで助かったわ」
美琴がとびっきりのウインクを妹達に見せる。
しかし、即座に一方通行に向き直り、
「これで終わりよ、一方通行。もうアンタに手は残されていない」
「くっ…………」
大気を操る力を捥がれた今、通常ベクトル操作では美琴に敵わないので、これで一方通行は本当に追い詰められた。
静かに。
再び、美琴はコインを構えて一方通行へと突きつける。
「この実験に協力するのを止めなさい。そうすれば、この場は見逃してあげる」
「………………」
「できないなら、私がアンタを『殺す』。樹形図の設計者は『一方通行以外でレベル6に到達することはない』という予測シュミレートを弾き出している。なら、アンタがいなくなる以外で実験を止める方法が無いなら私は躊躇わない」
「………………」
宣言がハッタリではないことを証明するがごとく、美琴は全身を火花でスパークさせる。
「できないと思ってる? 悪いけど、私は善人じゃない。だって、私はもうアンタと同じで一万人以上の妹達を殺しているのよ。今さら躊躇いなんてしないわ」
「…………そりゃ、テメエの思い込みだ……実際に殺したのは俺だ……テメエじゃねェ…………」
「同じよ。私がDNAマップを提供しなきゃ、起こらなかった惨劇なんだから」
「ちっ…………」
「さあ、どうするの? 三つ数える内に結論を出しなさい」
以前、とある研究室に忍び込んだときに出くわしたボディーガードに対して言ったセリフを今度は一方通行に突き付ける美琴。
対する一方通行は、
(クソが……この俺がここでやられるってか…………無敵の称号を諦めろってか…………だったら、今まで一万人以上殺してきたのは何のためなンだっつうの…………!)
諦め切れなかった。
当然だ。
学園都市最強ゆえに、突っかかって来る鬱陶しい馬鹿は後を絶たなかった。
町中でケンカを売られるなんざ当たり前。
時に留守中の部屋を荒らされることさえあった。
そんな生活に嫌気がさし、誰も突っかかって来ない『無敵』を望んだのは一方通行の意思だ。
たとえそれが学園都市側の意向だとしても、受け入れたのは一方通行の決断によるものだ。
それを約半分までこなした。
ここまでやって引き返すことなどできなかった。
今の一方通行は、ある意味、それが妹達に報いる唯一の方法だとも思っていた。
殺されるためだけに生み出された存在、妹達。
しかし、だからと言って彼女たちは存在しなかったわけではない。確かにそこにいたのだ。
ならば彼女たちが生きた証を残してやらなければならない。
それが『レベル6』だということを一方通行は自分に言い聞かせてきた。
もちろん、一方通行はそれを否定するだろう。しかし、それでは一方通行がこの実験中、何度も何度も妹達に話しかけたりはしない。罵ったりはしない。
それは一方通行の心の奥底だけが知っていたことだ。
本当はこの実験を続ける気などなかったと。
妹達が「もう戦いたくない」と言うのを待っていたと。
実験を取りやめる大義名分が欲しかったのだと。
ところが、すでに一方通行は後戻りできないところまで来てしまっていた。
最初の方は思わなかったが、一万回以上も顔を付き合わせていれば、嫌でも情が湧く。
もちろん、一方通行は否定するだろうが、心の奥底では、そうは思わない。
それが人間だ。現に一方通行は自分に襲い掛かってくる馬鹿を殺したことは一度もない。
だから『レベル6』を諦めるわけにはいかない。
「――――三つ」
御坂美琴が静かに告げる。
しかも、妹達を攻撃するために『反射を切って』いた。
その一瞬の隙を完全に突かれたのだ!
「お姉さま……」
「ありがと。おかげで助かったわ」
美琴がとびっきりのウインクを妹達に見せる。
しかし、即座に一方通行に向き直り、
「これで終わりよ、一方通行。もうアンタに手は残されていない」
「くっ…………」
大気を操る力を捥がれた今、通常ベクトル操作では美琴に敵わないので、これで一方通行は本当に追い詰められた。
静かに。
再び、美琴はコインを構えて一方通行へと突きつける。
「この実験に協力するのを止めなさい。そうすれば、この場は見逃してあげる」
「………………」
「できないなら、私がアンタを『殺す』。樹形図の設計者は『一方通行以外でレベル6に到達することはない』という予測シュミレートを弾き出している。なら、アンタがいなくなる以外で実験を止める方法が無いなら私は躊躇わない」
「………………」
宣言がハッタリではないことを証明するがごとく、美琴は全身を火花でスパークさせる。
「できないと思ってる? 悪いけど、私は善人じゃない。だって、私はもうアンタと同じで一万人以上の妹達を殺しているのよ。今さら躊躇いなんてしないわ」
「…………そりゃ、テメエの思い込みだ……実際に殺したのは俺だ……テメエじゃねェ…………」
「同じよ。私がDNAマップを提供しなきゃ、起こらなかった惨劇なんだから」
「ちっ…………」
「さあ、どうするの? 三つ数える内に結論を出しなさい」
以前、とある研究室に忍び込んだときに出くわしたボディーガードに対して言ったセリフを今度は一方通行に突き付ける美琴。
対する一方通行は、
(クソが……この俺がここでやられるってか…………無敵の称号を諦めろってか…………だったら、今まで一万人以上殺してきたのは何のためなンだっつうの…………!)
諦め切れなかった。
当然だ。
学園都市最強ゆえに、突っかかって来る鬱陶しい馬鹿は後を絶たなかった。
町中でケンカを売られるなんざ当たり前。
時に留守中の部屋を荒らされることさえあった。
そんな生活に嫌気がさし、誰も突っかかって来ない『無敵』を望んだのは一方通行の意思だ。
たとえそれが学園都市側の意向だとしても、受け入れたのは一方通行の決断によるものだ。
それを約半分までこなした。
ここまでやって引き返すことなどできなかった。
今の一方通行は、ある意味、それが妹達に報いる唯一の方法だとも思っていた。
殺されるためだけに生み出された存在、妹達。
しかし、だからと言って彼女たちは存在しなかったわけではない。確かにそこにいたのだ。
ならば彼女たちが生きた証を残してやらなければならない。
それが『レベル6』だということを一方通行は自分に言い聞かせてきた。
もちろん、一方通行はそれを否定するだろう。しかし、それでは一方通行がこの実験中、何度も何度も妹達に話しかけたりはしない。罵ったりはしない。
それは一方通行の心の奥底だけが知っていたことだ。
本当はこの実験を続ける気などなかったと。
妹達が「もう戦いたくない」と言うのを待っていたと。
実験を取りやめる大義名分が欲しかったのだと。
ところが、すでに一方通行は後戻りできないところまで来てしまっていた。
最初の方は思わなかったが、一万回以上も顔を付き合わせていれば、嫌でも情が湧く。
もちろん、一方通行は否定するだろうが、心の奥底では、そうは思わない。
それが人間だ。現に一方通行は自分に襲い掛かってくる馬鹿を殺したことは一度もない。
だから『レベル6』を諦めるわけにはいかない。
「――――三つ」
御坂美琴が静かに告げる。
「答えは?」
冷徹に聞いてくる。
一方通行は答えられない。いや、沈黙が答えだ。
「そう――――だったら、私も容赦しない――――」
言って、美琴が全身のスパークにさらに拍車をかけた。
「この一撃をアンタは避けられない。避ける術はないのよ。でも安心して。アンタが背負ってきた業の深さはこれからは私が背負う」
ぎりっと一方通行は歯噛みした。
何かないかと。
この土壇場でも何かないかと頭の中を高速回転させて模索する。
この場でベクトル操作できるもの。
大気は、超電磁砲の後ろにいる妹達に阻まれている。
鉄骨レールやコンテナは超電磁砲には通じない。
そして、超電磁砲の電撃はベクトル操作の磁力に引き寄せられる。
何もないのか。
操れるものは何もないのか。
一方通行は頭を高速回転させる。
(くそ…………あの電磁力を止めるためには…………)
フル回転させる。
「終わりよ! 一方通行!」
吼えて、美琴はコインを撃ち出した!
二度目の、いや前の河原の分を数えると三度目になる超電磁砲を!
文字通り、三度目の正直となるための超電磁砲を撃ち出したのだ!
「クソッタレェェェェええええええええええええええええええ!!」
一方通行になす術はない!
――――はずだったのだが、
冷徹に聞いてくる。
一方通行は答えられない。いや、沈黙が答えだ。
「そう――――だったら、私も容赦しない――――」
言って、美琴が全身のスパークにさらに拍車をかけた。
「この一撃をアンタは避けられない。避ける術はないのよ。でも安心して。アンタが背負ってきた業の深さはこれからは私が背負う」
ぎりっと一方通行は歯噛みした。
何かないかと。
この土壇場でも何かないかと頭の中を高速回転させて模索する。
この場でベクトル操作できるもの。
大気は、超電磁砲の後ろにいる妹達に阻まれている。
鉄骨レールやコンテナは超電磁砲には通じない。
そして、超電磁砲の電撃はベクトル操作の磁力に引き寄せられる。
何もないのか。
操れるものは何もないのか。
一方通行は頭を高速回転させる。
(くそ…………あの電磁力を止めるためには…………)
フル回転させる。
「終わりよ! 一方通行!」
吼えて、美琴はコインを撃ち出した!
二度目の、いや前の河原の分を数えると三度目になる超電磁砲を!
文字通り、三度目の正直となるための超電磁砲を撃ち出したのだ!
「クソッタレェェェェええええええええええええええええええ!!」
一方通行になす術はない!
――――はずだったのだが、
――――――!!
一方通行は言った。
生物は『本能』によって『命の危険』を無意識に回避する行動をとる、と。
御坂美琴は身を持ってそれを知った。
『死のう』と頭で決めていたのに、体が言うことを聞かなかったその時に知った。
しかし、それは何も『御坂美琴だけ』に当て嵌まることではない。
一方通行とて『一人の人間』なのだ。
『本能』で『身の危険を回避する』生物なのだ。
生物は『本能』によって『命の危険』を無意識に回避する行動をとる、と。
御坂美琴は身を持ってそれを知った。
『死のう』と頭で決めていたのに、体が言うことを聞かなかったその時に知った。
しかし、それは何も『御坂美琴だけ』に当て嵌まることではない。
一方通行とて『一人の人間』なのだ。
『本能』で『身の危険を回避する』生物なのだ。
一方通行は最初、何が起こったのか分からなかった。
無意識に何かをベクトル操作したとしか思わなかった。
だが、それは今、この状況を逆転させるための決定的で絶対的な手段だった。
無意識に何かをベクトル操作したとしか思わなかった。
だが、それは今、この状況を逆転させるための決定的で絶対的な手段だった。
「これ、は…………」
超電磁砲の光線が一方通行と御坂美琴の間で止まっていた。
御坂美琴と妹達の瞳が自分を捉えているようにも見えなかった。
今、この場の全てが停止していた。
まさかと思った。
恐る恐る光線の軌道から体を少しだけズラした。
瞬間、再び光線が音速の三倍をもって一方通行へと向かってきた。
正確には、ついさっきまで一方通行のいた場所へと。
もちろん、今は誰もいない。
大地を線上に黒焦げにしただけだ。
「え?」
美琴にも分からなかった。
今、何が起こったのか分からなかった。
回避不能の一撃を放ったはずなのに、一方通行に避けられたことが分からなかった。
ニヤリ、と一方通行は笑った。
一方通行は何が起こったのかを理解した。
自分が何を『ベクトル操作』したのかを理解した。
「クックックックックック……………」
再び、笑いが込み上げてくる。
敗北の、絶望の淵に立たされた焦燥感が霧散し、新しい段階へと引き上げられたことを確信した自分に高揚感を与えてくれる。
もう、超電磁砲は敵ではなくなった。
「ギャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハっ!」
堪えられなくなって声を上げた。
一方通行は笑いが止まらなかった。
そしてひとしきり笑ってから――――
ギン、と御坂美琴を睨みつける。
その瞳は勝利の確信に満ちていた。
「超電磁砲! テメエの負けだァァァァァあああああああああああああああああああああああ!!」
吼えて、一方通行は地を蹴った!
足の裏のベクトルを爆発させて地を蹴った!
「くっ!」
御坂美琴は再び、コインを取り出し、一方通行をロックオン!
「なら、もう一発よ!」
美琴は叫んで再び超電磁砲を発射した。
超電磁砲の光線が一方通行と御坂美琴の間で止まっていた。
御坂美琴と妹達の瞳が自分を捉えているようにも見えなかった。
今、この場の全てが停止していた。
まさかと思った。
恐る恐る光線の軌道から体を少しだけズラした。
瞬間、再び光線が音速の三倍をもって一方通行へと向かってきた。
正確には、ついさっきまで一方通行のいた場所へと。
もちろん、今は誰もいない。
大地を線上に黒焦げにしただけだ。
「え?」
美琴にも分からなかった。
今、何が起こったのか分からなかった。
回避不能の一撃を放ったはずなのに、一方通行に避けられたことが分からなかった。
ニヤリ、と一方通行は笑った。
一方通行は何が起こったのかを理解した。
自分が何を『ベクトル操作』したのかを理解した。
「クックックックックック……………」
再び、笑いが込み上げてくる。
敗北の、絶望の淵に立たされた焦燥感が霧散し、新しい段階へと引き上げられたことを確信した自分に高揚感を与えてくれる。
もう、超電磁砲は敵ではなくなった。
「ギャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハっ!」
堪えられなくなって声を上げた。
一方通行は笑いが止まらなかった。
そしてひとしきり笑ってから――――
ギン、と御坂美琴を睨みつける。
その瞳は勝利の確信に満ちていた。
「超電磁砲! テメエの負けだァァァァァあああああああああああああああああああああああ!!」
吼えて、一方通行は地を蹴った!
足の裏のベクトルを爆発させて地を蹴った!
「くっ!」
御坂美琴は再び、コインを取り出し、一方通行をロックオン!
「なら、もう一発よ!」
美琴は叫んで再び超電磁砲を発射した。
それが――――御坂美琴のこの世で最後に撃つ超電磁砲となるとも知らず―――――ではなく、気付くこともなく―――――