とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part08

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匿名ユーザー

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第7章(前編)


 少女は走っていた。
 夜の学園都市を駆け抜けていた。
 向かう場所は第一〇〇三二次実験に割り当てられた操車場。


(…………ここには何でも解決してくれるママはいない)


 前日、公園で子猫を愛でていた自分のクローンに出会ってしまった。
 彼女は無情にも悪夢のような実験が継続中であることを少女に告げた。
 少女の胸の内に絶望の二文字が広がった。自分のしてきたことが徒労に終わり慟哭した。
 その場にいたクローンに八つ当たりしてしまうほど気が狂いそうになった。
 だからと言って諦めるわけにはいかなかった。
 夕方、最後の手段として考えていた『樹形図の設計者』を狂わす、という作戦は頓挫した。三週間ほど前に何者かに破壊されたことを知ってどうにもならなくなった。


(…………神頼みしたって都合よく奇跡なんて起こらない)


 その足で、放心状態で近くにある研究施設をぶっ潰した。
 しかし、その場で内なる声が『無駄』であることを残酷にも告げてくれた。
 どうすればいいか分からなくなった。
 時間が来るまで鉄橋で泣いた。たった一人で泣いた。
 誰にも見られることも聞かれることもなくたった一人で弱音を吐いて涙を落した。
 どうにもならない無限地獄の中、たった一人で思い悩んだ少女は一つ結論を出した。


(…………泣き叫んだら来てくれるヒーローなんていない)


 少女は心中でずっと叫んでいた。
 誰かに縋りたかった。
 助けてと願っていた。
 しかし、それは叶わない願い。
 一万人以上も見殺しにした自分に救いの手が差し伸べられることはないことを突き付けられた現実。
 だったら、自分も命を賭けて。
 自分の手で実験を中止に追い込むしかない。
 そう考えて少女は走り出した。


(……………………、)


 本当はたった一人。
 自分の味方をしてくれそうな少年が現れてくれることを心のどこかで期待していた。
 しかし、その少年は現れなかった。
 幾度となく勝負を挑んで、それでも勝てなかった少年。
 レベル5の自分を凌駕するその少年ならば。
 いつもなんだかんだ言いながら付き合ってくれる優しい少年ならば。
 全てを打ち明ければ助けてくれるような気がしていたのだ。
 しかし、少年は現れなかった。



 一万人以上も見殺しにした自分を構ってくれる存在がいることを期待するなんて虫が良い話だ。
 少女はそう考えて苦笑を浮かべた。
 そして、到着した。
 思った以上に時間を食っていた。
 第一〇〇三二次実験場。
 命を賭ける、と思っていながら、体は恐怖に竦んでいたのかもしれない。
 そう思った。
 しかし、目の前の現実を見せられて全ての思考は吹っ飛んだ。
 居ても立っても居られなくなった。
 即座に現場に飛びこむ。
「その子から離れなさい!」
 まっすぐ、相手を見据えて叫んだ。
「あン?」
 対して、相手は肩越しにこちらに視線を向けてきただけだ。
 もっとも、それだけで少女の中に再び絶望的な恐怖が渦巻いてくる。
 だからと言って逃げ出すわけにはいかない。
 ここまで来てしまった以上、やるしかない。




「その子から離れなさいって言ってんのよ!」
 少女=御坂美琴は吼えた。自らを奮い立たせるためにありたっけの声を出して叫んだ。




 自分のクローン=妹達の無残な姿を見せられて。
 でもまだ、生きている姿を確認できて。
 今度は、殺される前に飛び出せた。
 あの日は、『車両』だったが、今回は妹達に『コンテナ』が落ちてくる前に飛び出せた。
 もう逃げることはできない。
 もうやるしかない。
「何だ、またテメエか……あ~あ、参ったねこりゃ。前にコイツらにはテメエには手を出すな、って言われてンだが、ソイツをぶっ殺すにやテメエを排除するしかねエしなァ。オイ、先に言ってやる。死にたくなかったら消えろ格下」
 相手=一方通行は御坂美琴を見据えてぶっきらぼうに、面倒臭そうに呟いた。
「馬鹿言わないでよ。だったら、この場に飛び出してこないわよ」
 が、美琴は、頬に恐怖の汗を浮かばせながらも一方通行を睨みつけて言い返す。
 全身が恐怖で委縮しているのは分かっている。
 それでも御坂美琴は一方通行の前に立ちはだかる。
「じゃあ何? 殺されても文句は言えねェってことになるンだが構わねェか? 俺自身はソイツを殺さねェと今日の実験が終わらねェ。前回は『終わった後』だったから、アイツらは止めに来たけど、今回は止めに来ねェぜ?」
「承知のうえよ!」
「ほぉ…………そンじゃま、始めっとすっか……?」
 呟き、一方通行はすっと両手を柔らかく握って軽く開き、
 同時に、美琴はポケットからコインを取り出して構えた。
「あン? またそのシケた『切り札』なの?」
「うるさい! 今度こそアンタに当ててやる!」
 言い募る美琴だが、それは建前でしかない。
 当然だ。
 美琴はこの実験を終わらせるために『自らの死』を選んだ。しかも、それは『樹形図の設計者』が導き出した一八五手の決着ではなく、最初の一手という『実験の根本』を覆そうという手段で。
 つまり、反射される『超電磁砲』をその身に受けて全てを終わらせるつもりなのである。



「いっけえええええええええええええええええええええええええええええ!!」
 咆哮一閃! 美琴は勢いよくコインを弾いた!
 音速の三倍で解き放たれたクリムゾンのエネルギー破。
 通常の相手、一方通行と『あの馬鹿』以外の相手であれば一撃必殺の美琴の切り札。
 おそらく、第二位の垣根提督や第四位の麦野沈利でさえも、自らの能力と相殺はできても弾き返すことはできないであろう光の弾丸。
 その身に受ければ、御坂美琴自身も粉々になるであろう閃光を一方通行めがけて解き放ったのだ!
「けっ、無駄だ無駄だ」
 嘲笑を浮かべて一方通行が『反射』!
 光の弾丸は、今度は美琴へと狙いを変える!
 美琴はその身に受ける覚悟を固めていた。
 いや、固めていたはずだったのだ。
 しかし――――
「なっ!?」
 美琴は解らなかった。
 気がつけば、回転レシーブの要領でかわしてしまっていた。
「どうして…………」
 美琴は愕然とした。己の行動が信じられなかった。
「くっくっくっくっく……なるほどな。テメエ、さては今の反射された一撃を受けるつもりで撃ちやがったな?」
 一方通行のセリフにギクッとする美琴。
「ヒャーヒャッヒャッヒャッヒャ! 無駄無駄無駄なンだよォ! 『樹形図の設計者』の予測シミュレート一八五手前にテメエが死んて終わらせようってか? 悪ィが、そいつは無理だ!!」
「…………アンタも知ってたのね? けど、実験の根幹は『私がアンタに一八五手で負ける実力』よ! それが覆れば実験は続けられないわ!」
「じゃ、何でテメエは今避けた?」
「――――!!」
「クックックック、『樹形図の設計者』を舐めてねェか? アレがただ単に『一八五手』を導き出すわけねェだろうが」
「どういうことよ?」
「オイオイ、今、身をもって知ったじゃねェか。人に限らず『生き物』ってのはな、『命に関わる危険』が迫ると、己の意思がどうあれ『本能的に回避』しちまうンだぜ。それも計算に入れての『一八五手』なンだよ」
 一方通行の衝撃の発言に御坂美琴は頭の中がショックの鐘が鳴り響いた。
 背景が自分も含めて協調反転されたような気がした。
「つまりだ。実験を終わらせるにゃ、『俺がレベル6になる』か、『俺が最強でなくなる』か、の二択しかねえってわけなンだが、そこんトコ、楽しく理解してくれてンのかァ?」
「くっ!」
 美琴は立ち上がった。
 実験を終わらせる方法が自らの死ではなかったことを思い知らされてしまった以上、やることは一つしかない。
 万が一の確率でしかないことをやるしかないのだ。
 しかも、それが『樹形図の設計者』の思うツボだと解っていながら、だ。
「なら! アンタを『最強の座』から引きずり下ろす!」
 レベル5同士の戦いである以上、何かの間違いで美琴が勝ったとしても、それは誤差の範囲内で済まされるかもしれない。
 だから『何かの間違い』で『勝利する』ことは許されない。
 明らかに『誰の目から見ても』美琴が『勝利した』でなければならない。
 そんなことができるのか?
 美琴は心の内で悲観的になる。
 が、そんなことを言っても始まらない。妹達を救うために、自らの罪を償うために、今まで動いてきたのに諦めることなど許されない。それなら最初から見て見ないふりをすれば良かっただけだ。
「そンじゃま、今度こそ、本当にゲーム開始だ!」
 言って、一方通行は地を蹴った!



 当然、結果は見えていた。
 美琴の繰り出す攻撃は何一つ通じない。
 電撃だろうと、砂鉄の嵐だろうと、砂鉄の剣だろうと、空気を電気分解して一方通行の周りにオゾンを創り出そうと、全てが弾き飛ばされ、逆に一方通行の攻撃はすべてが当たる。
 しかし、美琴の『本能』がどうしても『死』という最後の一線を越えさせない。
「かはっ!」
 美琴は肩を押さえて、座り込み、背を周りに突き刺さった鉄骨に預けていた。
 制服の裾はところどころ破れ、露わになっている手足、顔、髪は痣と埃まみれになっていた。
 もちろん、一方通行は無傷だ。
「あ~あ。つまンねェなぁ……レベル5同士なンで、もうちっと楽しめるかと思ってたンだが……」
 拍子抜けした表情で頭を掻く一方通行。
「こりゃ視力検査と同じだな。アレは二.〇までしか計れねエわけだが、テメエは二.〇でも、俺は一〇.〇くらいありながら『二.〇』って判断されてるってコトなンだろうぜ…………」
 やる気が失せた声で呟いてから、一方通行が美琴へと、無造作に手を伸ばす。
 しかし、美琴に蓄積されたダメージは小さくない。一方通行のゆっくり伸ばされる手でさえもかわすことが困難なほどに。
「そろそろ、終わりにすっか?」
 好事家のような笑いで一方通行は御坂美琴へと手を伸ばす。
 その手が美琴に触れれば、美琴は体中の血管が爆発する。
 逃げ場はない。



 しかし、運命がここで分岐する。



「ンな!?」
 一方通行が思わず戸惑った声を漏らした。
 己の目に留まることなく、その場にいたはずの美琴が、文字通り掻き消えたからだ。
「どういうことだ!?」
 一方通行が辺りを見回す。
 そして見つけた。
 自分と距離を置いて立っている御坂美琴の姿を。
 ただし、その肩を誰かに預けて立っている姿で。
 美琴に肩を貸す実験場に現れた新たな乱入者が一方通行に鋭い視線を向けている。
 美琴と同じく常盤台の制服に身を包んだツインテールの少女。




 白井黒子がそこにいた。




「黒子? アンタ!?」
 美琴は思わず声を上げた。
 絶体絶命のピンチに颯爽と登場したのが、想像の範疇にすらなかった後輩だったからだ。
 対する白井は、一方通行から距離を、言い換えれば間合いを置いて、視線は一方通行から外さない。
「水くさいですわ、お姉さま」
「え?」
「黒子ではお姉さまのお力になれないと、支えになれないと、そう考えておられたのでしょう。確かにこの当時のわたくしではそう思われても仕方がありませんが」
「な、何を言ってるの? 私はただ、私のことで黒子や初春さんや佐天さんに迷惑をかけるわけにはいかないって…………」
「分かっています。お姉さまの優しさは誰よりも、このわたくしが分かっています。しかし、優しさは残酷さと表裏一体であることをご理解くださいませ」
「――――――っ!!」
「ですが、黒子は馬鹿な後輩なのです。お姉さまの苦しんでおられる姿を見せられて、黙ったままでいるとでも思いましたの?」
「う…………」
「妹達、レベル6シフト計画、DNAマップ、一方通行、電撃使いによる施設破壊」
「なっ!?」
「だからこそ、わたくしはここに来たのですわ」
 白井はとびっきりの笑顔を見せた。
 美琴は驚嘆した。
 今、上げた単語を知っているということは、白井は全てを知っていることになるからだ。
 それでなお、美琴の味方でいることを宣言したも同然なのだ。
「それに」
 言って、白井は今度は片目をつぶった少し呆れた笑顔になって視線を別の方向へと向ける。
「そう言ったお馬鹿さんはわたくしだけではありませんけど」
 つられて美琴は視線を白井が見ている方向へと移して、
「あ…………!」
 そこに佇んでいた存在に思わず声を漏らしていた。
 ここには何でも解決してくれるママはいない。
 困った時だけ神頼みしたって奇跡なんて起こるわけがない。
 そう思っていた。
 一万人以上を見殺しにした自分に救いの手が差し伸べられる資格なんてないと思っていた。
「うあ…………」
 思わず声が漏れた。
 目頭が熱くなった。
 威風堂々佇むその姿に涙を堪えられなかった。
 お節介焼きの年上の少年。
 自分を一人の少女として見てくれる少年。
 レベル5の自分を凌駕する少年。
 それに何より、誰よりも自分を助けてくれるかもしれないと、心のどこかで期待していた少年。
 泣き叫んでいたら、それを聞いて駆けつけてくれるヒーローなんて居ないと思っていたのに。



 上条当麻が妹達を守るように、彼女の前に立って一方通行を睨みつけていた。



「あなた、は……とミサカは愕然とします………」
 妹達は突然、自分の目の前に現れた、このツンツン頭の少年に見覚えがった。
 今日の夕方、一緒に猫の餌をやって、猫の育て方の本を買ってくれた少年。
 そして、第一〇〇三一次実験の現場を目撃されてしまった少年。
 どうやって、ここに辿り着いたのだか。
 どうやって、この実験のことを知ったのか。
 妹達はどう考えても分からなかった。
 この少年がここに来ることなどあり得ないはずだったのだ。
 夕方の一件だけでここを知ることなどできないはずだったのだ。
 茫然と少年を見ていた妹達の傍に、これまたいきなり二人の少女が現れた。
 一人は、自分たちの素体。妹達を守るために一方通行に戦いを挑んだ偉大な姉。
 もう一人は、妹達は初めて見る顔だった。
 ツインテールのあどけない少女だった。
「白井、二人を頼むぜ」
「ええ、任せてくださいませ」
 ツンツン頭の少年とツインテールの少女が、どこか不敵な笑顔でそんな会話を交わしていることが不思議でならなかった。
 そして、少年が右こぶしを力強く握りしめて、力強く一歩を踏み出す。
 妹達はぎょっとした。
 妹達の素体、御坂美琴はゾッとした。
 なぜなら彼が一歩を踏み出した方向は紛れもなく、一方通行に向かって、だったからだ。
「ちょっとアンタ……まさか…………」
 美琴は冷たい汗が頬を伝っていくのを感じた。
「何をする気ですか?、とミサカはあなたに問いかけます」
 目を見開き、妹達も美琴と同じことを考えた。
 あの少年の表情はどう見ても話し合いをしよう、なんて顔じゃない。
 一方通行に戦いを挑む、そんな顔でしかない。
 少年はそんな声を背に受けて、しかし力強く歩みを進める。
 対して一方通行は足をとめた。
「何だァ? 今日はやけに闖入者が多いじゃねェか。ったく、この実験、ひょっとして外部に駄々漏れなんじゃねェだろうなァ?」
 一方通行はどこか面倒臭そうに言った。
 上条当麻は一方通行まで五メートルのところで足をとめた。
「で、お前とあのツインテールの女は何な訳?」
 本当に世間話をするような軽い口調で問いかける一方通行。
「ここで、お前と相対するってことは意味することは一つだと思うが?」
 上条当麻はわざと質問に対して質問で答えた。
 それも、誰しもが答えが分かっている質問だった。
「ほォ? それはつまり、この俺が学園都市最強の超能力者と知っていてケンカを売りにきた、って解釈していいわけなンか?」
 一方通行の笑みが深くなった。獰猛に深くなった。
「ケンカを売りに来たんじゃねえ。この実験を止めに来たんだ」
 上条当麻は一方通行を真っ直ぐ見据えて宣言した。
「は?」
「この実験を止める方法は簡単だ。お前が『最強』じゃなくなった時点で終わりだ」
「え? 何? お前が俺を止めンの? はぁ……テメエがどんな能力者か知らねェけど、俺に勝てるとでも思ってンの? 俺、さっき言ったよな? 俺が学園都市最強のレベル5だって、そこんトコ、ちゃんと理解して喋ってンのか?」
 一方通行の笑いは止まらない。
「無茶よ! アンタがどんな能力を持っているかはだいたい分かってるけど、それでもそいつに勝とうなんて無理よ!」
 美琴は悲痛の叫びを上げた。



「というか、アンタは何のために戦うつもりでここに来たのよ!? どうして、アンタが一方通行に挑む理由があんのよ!?」
 確かに御坂美琴は上条当麻が助けに来てくれることを望んでいた。
 本当は望んではいけないのに望んでいた。
 しかし、実際に助けに来てくれてしまうと、今度は上条の命の心配をしてしまう。
 助けに来てくれた、それだけで美琴はすべてが救われた気がしたのだ。
 だから、上条には戦ってほしくない。傷付いてほしくない、という気持ちが爆発する。
 いったい、どんな事情があってこの少年がここに来たのかはまったく分からないが、それでも一方通行に挑むということは、傷付くどころか命の心配さえ、しなければならなくなるのだ。
 上条は答えた。
「決まってんだろ。この実験はすべて間違っている。そんなもん認めるわけにはいかねえ」
 美琴は愕然とした。
 この実験は確かに異常だ。そして、この実験のことを知っているということは、この少年は一方通行の『力』も知っているはずなのだ。
 しかしだからと言って『認めたくない』だけで、自分の命を賭けられるはずがない。そんな馬鹿がこの世にいるとは思えない。
 一体、どんな大義名分で自分の命を賭けているのだ?
 美琴のようにDNAマップを提供したならまだ分かる。
 罪悪感と責任感で止めようとするならまだ分かる。
 もちろん、上条にそんなものはない。 
 だから、美琴には分からない。
 何のために上条当麻が戦おうとしているのかが分からない。
 それは妹達も同じだった。
 確かに妹達と上条は夕方に出会っている。また、実験現場を目撃されてしまっている。
 だが、それだけだ。
 それだけでどうして、この場に現れて、一方通行に挑むのかまでは分からない。
 妹達は自分の命に価値を見いだせない。
 それゆえ、自分のために上条当麻が来た、などとは微塵も考えていない。
「未来のためですわ」
「「は?」」、とミサカは疑問の声を漏らします」
 二人の問いに答えてくれたのは白井黒子だった。
 その視線は上条と一方通行に向いたままだ。
「上条さんはお姉さまとお姉さまの周りの世界の未来のために戦いに来たのです。もちろん、その世界にはお姉さまの妹さんも含まれますわ」
 白井のセリフは奇しくも上条当麻がアステカの魔術師に誓った言葉とほぼ同じだった。
 白井黒子は、上条当麻が『御坂美琴とその周りの世界を守る』と言った約束のことなど知らないにも拘らず。
 この時はまだ、御坂美琴もまた、上条当麻のその宣誓を知らないにも拘らず。
 上条当麻には今の白井黒子の言葉は聞こえなかったにも拘らず。
 上条当麻は、意識的にしろ無意識的にしろ、『その誓い』を貫き通すためにここに来たのかもしれない。
「私の……未来……って、そう言えば黒子。あいつもそうだけど、アンタ、何で冬服着てるの? 今はまだ八月よ?」
「…………」
「黒子?」
「…………信じてもらえないかもしれませんが、信じていただけますか?」
「意味分かんない」
「でしたら、お話できませんわ」
「分かった。信じるわよ。少なくとも私を一方通行の毒手から救い出してくれたのはアンタなんだから命の恩人を信じないなんて真似は出来ないわ」
「ありがとうございます」
 白井は一礼してから、真っ直ぐ美琴の瞳を見た。



「わたくしと上条さんは今から約四ヶ月後の世界からお姉さまをお助けに参上いたしましたの」



 その一言が、きっかけになったわけでもないのだが。
 白井がそう言って、美琴と妹達が絶句した瞬間、



 上条当麻と一方通行の戦いの火ぶたが切って落とされた。








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