恋愛相談
美琴はアイスコーヒーを一口飲み、喉を潤した。
「その、本当に大した事じゃないんだけど、いつだったかな、私が5、6人ほどの不良だか武装無能力集団だかに絡まれた事があったのよ。で、その時余計な茶々を入れてきたのがアイツってわけ。そこから腐れ縁が始まったのよ」
「へー」
「ね、大した事じゃないでしょ」
そう言いながら美琴は再びアイスコーヒーを口にした。
「ま、まあ確かに、それだけ聞くと、ちょっとかっこいい出会い、くらいにしかなりませんね」
「何言ってるのよ、ちっともかっこよくなんてないわよ。だいたいアイツ、知り合いのふりして私を連れて逃げようとしたのよ。奴らをぶっ飛ばそうともせずに、最初っから逃げる前提の行動。さすがにこれをかっこいいと言うつもりは私にはないわね」
「なるほど」
「それにあの時、アイツったら私のことをガキ呼ばわりしてさ。正直言って電撃で消し炭にした不良どもよりアイツの方が頭に来たわよ」
「はあ。あれ? 結局、武装無能力集団は御坂さんがやっつけちゃったんですか」
「そのくせ逃げ足だけはやたらと速いのよ」
「逃げ足、ですか」
「そう、おかげでこっちは何度も門限破りさせられたわ」
「え? ち、ちょっと待ってください御坂さん」
「どうしたの?」
今まで相づちを打っていた佐天が突然話を遮ってきたため美琴は首を傾げた。
「どうして門限破り? それも何度とは?」
「街で見かける度にアイツを追いかけてたからよ。そりゃ一晩中追いかけてたから、門限破りするしかないじゃない。でしょ」
「でしょって、そもそもどうして追いかけるなんて事に」
「だってムカツくじゃない! 助けに来てくれた時は私もちょっとは感謝しようと思ったのよ、学園都市の男にもたまにはまともな奴がいるんだって。それなのに人をガキ呼ばわりして馬鹿にするなんてさ。それじゃ感謝しようとした私が馬鹿みたいじゃない! だから勝負申し込みまくってたのよ。一度くらいはぶっ飛ばしてやらないと気が済まない、と思って。なのにアイツってば私からずっと逃げてるし!」
「それは御坂さんが、相手の都合も考えず問答無用で勝負を挑んで追いかけ回すからじゃ……。あの、追いかけ回すってひょっとして、この間みたいに電撃バチバチィっとしながら、だったりします?」
「当然」
美琴は大きく胸を張った。
「そりゃ誰だって逃げますよ……」
佐天は呆れたようにため息をついた。
「そうかしら?」
「結局御坂さんって、その時のことが原因でカミジョウさんを追いかけ回してたんですか。それも何度も門限破りをするほど頻繁に」
「そうよ」
「そうですか、色気の欠片もない話ですね……」
「? とにかく、こんな感じでアイツとのよくわかんない付き合いが始まったのよ。それからは、まあ、色々、あって……アイツも私も、それなりに忙しくなって。追いかけっこは自然になくなっていって……」
「色々」と言った瞬間、美琴の脳裏には絶対能力進化実験の悪夢や命を落とした妹達の顔が浮かんだが、美琴はそのことに起因する感情の変化を一切表情には表さなかった。
これはもちろん佐天や初春に対する美琴なりの精一杯の友情によるものである。
「…………」
ほんの少し心にできたさざ波を打ち消すため、美琴はアイスコーヒーを飲み干した。
「それで、追いかけるうちに御坂さんの心にカミジョウさんが入り込んじゃってたってわけですか?」
「えと、まあなんと言うか、そんな感じ……」
「ん? うーん、でもそれって、ちょっと足りなくないですか?」
「足りない?」
「はい。そうやって意識していったっていうのは事実なんでしょうけど、何かもう少し強いきっかけがあったんじゃないんですか?」
佐天の目がほんの少し細くなった。
「え……」
「それも八月の終わりくらいに」
「…………」
美琴は努めて冷静を装ったままゴクリとつばを飲み込んだ。
「その、本当に大した事じゃないんだけど、いつだったかな、私が5、6人ほどの不良だか武装無能力集団だかに絡まれた事があったのよ。で、その時余計な茶々を入れてきたのがアイツってわけ。そこから腐れ縁が始まったのよ」
「へー」
「ね、大した事じゃないでしょ」
そう言いながら美琴は再びアイスコーヒーを口にした。
「ま、まあ確かに、それだけ聞くと、ちょっとかっこいい出会い、くらいにしかなりませんね」
「何言ってるのよ、ちっともかっこよくなんてないわよ。だいたいアイツ、知り合いのふりして私を連れて逃げようとしたのよ。奴らをぶっ飛ばそうともせずに、最初っから逃げる前提の行動。さすがにこれをかっこいいと言うつもりは私にはないわね」
「なるほど」
「それにあの時、アイツったら私のことをガキ呼ばわりしてさ。正直言って電撃で消し炭にした不良どもよりアイツの方が頭に来たわよ」
「はあ。あれ? 結局、武装無能力集団は御坂さんがやっつけちゃったんですか」
「そのくせ逃げ足だけはやたらと速いのよ」
「逃げ足、ですか」
「そう、おかげでこっちは何度も門限破りさせられたわ」
「え? ち、ちょっと待ってください御坂さん」
「どうしたの?」
今まで相づちを打っていた佐天が突然話を遮ってきたため美琴は首を傾げた。
「どうして門限破り? それも何度とは?」
「街で見かける度にアイツを追いかけてたからよ。そりゃ一晩中追いかけてたから、門限破りするしかないじゃない。でしょ」
「でしょって、そもそもどうして追いかけるなんて事に」
「だってムカツくじゃない! 助けに来てくれた時は私もちょっとは感謝しようと思ったのよ、学園都市の男にもたまにはまともな奴がいるんだって。それなのに人をガキ呼ばわりして馬鹿にするなんてさ。それじゃ感謝しようとした私が馬鹿みたいじゃない! だから勝負申し込みまくってたのよ。一度くらいはぶっ飛ばしてやらないと気が済まない、と思って。なのにアイツってば私からずっと逃げてるし!」
「それは御坂さんが、相手の都合も考えず問答無用で勝負を挑んで追いかけ回すからじゃ……。あの、追いかけ回すってひょっとして、この間みたいに電撃バチバチィっとしながら、だったりします?」
「当然」
美琴は大きく胸を張った。
「そりゃ誰だって逃げますよ……」
佐天は呆れたようにため息をついた。
「そうかしら?」
「結局御坂さんって、その時のことが原因でカミジョウさんを追いかけ回してたんですか。それも何度も門限破りをするほど頻繁に」
「そうよ」
「そうですか、色気の欠片もない話ですね……」
「? とにかく、こんな感じでアイツとのよくわかんない付き合いが始まったのよ。それからは、まあ、色々、あって……アイツも私も、それなりに忙しくなって。追いかけっこは自然になくなっていって……」
「色々」と言った瞬間、美琴の脳裏には絶対能力進化実験の悪夢や命を落とした妹達の顔が浮かんだが、美琴はそのことに起因する感情の変化を一切表情には表さなかった。
これはもちろん佐天や初春に対する美琴なりの精一杯の友情によるものである。
「…………」
ほんの少し心にできたさざ波を打ち消すため、美琴はアイスコーヒーを飲み干した。
「それで、追いかけるうちに御坂さんの心にカミジョウさんが入り込んじゃってたってわけですか?」
「えと、まあなんと言うか、そんな感じ……」
「ん? うーん、でもそれって、ちょっと足りなくないですか?」
「足りない?」
「はい。そうやって意識していったっていうのは事実なんでしょうけど、何かもう少し強いきっかけがあったんじゃないんですか?」
佐天の目がほんの少し細くなった。
「え……」
「それも八月の終わりくらいに」
「…………」
美琴は努めて冷静を装ったままゴクリとつばを飲み込んだ。
美琴は思った。
八月に起こった上条当麻への御坂美琴の認識を決定的に変えた事件、つまり絶対能力進化実験の事は美琴と上条以外誰も知らないはず。
知らないはず、いや、特に今、美琴の目の前にいる少女達は絶対に知ってはならない事件。
それは学園都市の闇に触れていない佐天や初春の安全を守るためにも絶対そうあるべきもの、そうでなくてはならないものだからだ。
だからこそ美琴はどれだけ絶望に打ちひしがれようともあの事件を一人で解決しようとしたのだ。
なのに美琴の目の前の佐天涙子という少女は、何か感づいているような様子を見せている。
いったい佐天は何を知っているのだろうか。
美琴は背中に冷たいものが流れるのを感じていた。
八月に起こった上条当麻への御坂美琴の認識を決定的に変えた事件、つまり絶対能力進化実験の事は美琴と上条以外誰も知らないはず。
知らないはず、いや、特に今、美琴の目の前にいる少女達は絶対に知ってはならない事件。
それは学園都市の闇に触れていない佐天や初春の安全を守るためにも絶対そうあるべきもの、そうでなくてはならないものだからだ。
だからこそ美琴はどれだけ絶望に打ちひしがれようともあの事件を一人で解決しようとしたのだ。
なのに美琴の目の前の佐天涙子という少女は、何か感づいているような様子を見せている。
いったい佐天は何を知っているのだろうか。
美琴は背中に冷たいものが流れるのを感じていた。
美琴が動揺している前で、佐天は隣にいる初春の質問に答えていた。
「佐天さん、八月の終わりに何があったんですか?」
「え? あのね初春――」
「…………」
美琴の心に緊張が走る。
「八月の終わり頃に、あたし、御坂さんに頼まれてクッキーの焼き方教えたのよ。今だからわかるんだけど、あれってカミジョウさんへのプレゼントだったのよね。あのとき御坂さんは全力で否定してたし、相手の名前すら教えてくれなかったんだけど。まあそれはいいとして。とにかくこの事実から、八月の終わり頃の御坂さんには、カミジョウさんに何らかのお礼をしなければならない理由があったって事がわかるでしょ。つまりここから、八月に二人の間には何か感動的な出来事があったって推論が成り立つわけ。えへん、どうよ初春! この名探偵ルイコ・ホームズの名推理!」
佐天は得意げな顔をして胸を張った。
しかもどこから取り出したのか、鹿撃ち帽までいつの間にかかぶっていた。
「佐天さん、八月の終わりに何があったんですか?」
「え? あのね初春――」
「…………」
美琴の心に緊張が走る。
「八月の終わり頃に、あたし、御坂さんに頼まれてクッキーの焼き方教えたのよ。今だからわかるんだけど、あれってカミジョウさんへのプレゼントだったのよね。あのとき御坂さんは全力で否定してたし、相手の名前すら教えてくれなかったんだけど。まあそれはいいとして。とにかくこの事実から、八月の終わり頃の御坂さんには、カミジョウさんに何らかのお礼をしなければならない理由があったって事がわかるでしょ。つまりここから、八月に二人の間には何か感動的な出来事があったって推論が成り立つわけ。えへん、どうよ初春! この名探偵ルイコ・ホームズの名推理!」
佐天は得意げな顔をして胸を張った。
しかもどこから取り出したのか、鹿撃ち帽までいつの間にかかぶっていた。
「…………」
結局、美琴の心配は杞憂だったらしい。
佐天は何も知らず、あくまで推理として美琴と上条の間に何かあったのでは、と考えていただけだったのだ。
美琴は全身から力が抜けていくのがハッキリとわかった。
結局、美琴の心配は杞憂だったらしい。
佐天は何も知らず、あくまで推理として美琴と上条の間に何かあったのでは、と考えていただけだったのだ。
美琴は全身から力が抜けていくのがハッキリとわかった。
そんな美琴の感情の変化を知らないであろう佐天は、美琴に顔をぐいと近づけた。
「ね、御坂さん。あのクッキーってカミジョウさんにプレゼントするためだったんですよね? あたしの推理、合ってますよね! 二人の間にドラマのような何かがあったんですよね!!」
美琴は顔を若干引きつらせながら、顔の前で手を横に振った。
「えーっと、ないわよ別に、これと言って」
「えー! そうなんですか!?」
「そうよ。だいたいあの時あった事って、ちょっと怪我したのをアイツに助けてもらったって事くらいだもの。クッキーだってそのお礼のためだったんだし。だから残念でした、ルイコ・ホームズさん。あなたの推理は外れよ」
決して嘘ではないが、美琴は事実とは大きく異なる事を告げた。
美琴の心に若干の罪悪感が過ぎる。
「なーんだ、てっきりドラマとか漫画とかみたいな何かあったもんだとばっかり……」
美琴の言葉に、佐天は思いきり不満そうな表情になる。
「ほんと、ごめんね佐天さん」
美琴は掌を顔の前で立て片目をつぶり、謝罪のポーズを取った。
「そうですか……」
佐天は大きくため息をつくとドリンクバーに移動し、そこから三人分のジュースを取ってきてそれぞれの前に置いた。
「ね、御坂さん。あのクッキーってカミジョウさんにプレゼントするためだったんですよね? あたしの推理、合ってますよね! 二人の間にドラマのような何かがあったんですよね!!」
美琴は顔を若干引きつらせながら、顔の前で手を横に振った。
「えーっと、ないわよ別に、これと言って」
「えー! そうなんですか!?」
「そうよ。だいたいあの時あった事って、ちょっと怪我したのをアイツに助けてもらったって事くらいだもの。クッキーだってそのお礼のためだったんだし。だから残念でした、ルイコ・ホームズさん。あなたの推理は外れよ」
決して嘘ではないが、美琴は事実とは大きく異なる事を告げた。
美琴の心に若干の罪悪感が過ぎる。
「なーんだ、てっきりドラマとか漫画とかみたいな何かあったもんだとばっかり……」
美琴の言葉に、佐天は思いきり不満そうな表情になる。
「ほんと、ごめんね佐天さん」
美琴は掌を顔の前で立て片目をつぶり、謝罪のポーズを取った。
「そうですか……」
佐天は大きくため息をつくとドリンクバーに移動し、そこから三人分のジュースを取ってきてそれぞれの前に置いた。
「クッキー作ってる時の御坂さん、一世一代の大勝負って感じがしたんですけど。そんな大きな事はなかったんですね」
「佐天さん!」
ややつまらなさそうにつぶやいた佐天に対し初春が大声を出した。
「何つまらなさそうにしてるんですか! 大きな出来事がないって事は、逆に言えば御坂さん達はゆっくりゆっくり愛情を育んでいったって事になりますよ。最初はただのケンカ相手。でも思い出が重なるうちに、知らず知らず愛情が……なんて、それはそれですごくドラマティックじゃないですか! でしょう!」
「そ、そうね、そう考えれば……すごくアリね! なるほど、こういうドラマもあるわけか、やるわね初春。さすがあたしの片腕」
「えへへへ」
佐天に褒められ、初春は嬉しそうな顔になった。
そんな初春を見ながら佐天はうんうんとうなずいた。
「それで、ここから先はあたし達も知ってる事ばっかりなんですよね。夏休み最後の日にわざわざ常盤台の寮の前でカミジョウさんをナンパしてデートしたり、学芸都市から帰ってきてからデートしたり、お好み焼き屋でデートしたり、お弁当作るようになったり、放課後は二人で勉強したり……」
佐天は顎に指を当てた。
「御坂さん。これでなんで付き合ってないんですか?」
「佐天さん!」
ややつまらなさそうにつぶやいた佐天に対し初春が大声を出した。
「何つまらなさそうにしてるんですか! 大きな出来事がないって事は、逆に言えば御坂さん達はゆっくりゆっくり愛情を育んでいったって事になりますよ。最初はただのケンカ相手。でも思い出が重なるうちに、知らず知らず愛情が……なんて、それはそれですごくドラマティックじゃないですか! でしょう!」
「そ、そうね、そう考えれば……すごくアリね! なるほど、こういうドラマもあるわけか、やるわね初春。さすがあたしの片腕」
「えへへへ」
佐天に褒められ、初春は嬉しそうな顔になった。
そんな初春を見ながら佐天はうんうんとうなずいた。
「それで、ここから先はあたし達も知ってる事ばっかりなんですよね。夏休み最後の日にわざわざ常盤台の寮の前でカミジョウさんをナンパしてデートしたり、学芸都市から帰ってきてからデートしたり、お好み焼き屋でデートしたり、お弁当作るようになったり、放課後は二人で勉強したり……」
佐天は顎に指を当てた。
「御坂さん。これでなんで付き合ってないんですか?」
美琴は再び顔を引きつらせた。けれどその表情には朱みがかかっており、彼女が決して嫌な気分でない事は誰の目にも明らかだった。
「え! だ、だって、なんでって言われても、私達が付き合ってないのは事実だからそれ以上言いようがないし」
「デートやらなんやらしまくってるくせに」
「あ、あれはその! だからそんなデートなんかじゃないわよ! 夏休み最後のやつは私につきまとってたしつこいストーカー男を追い払うためだし、お好み焼き屋は欠食児童だったアイツに食事奢っただけだし、ちゃんとしたデートなんて、そんな。それに、お弁当は料理の練習だし」
「そういう名目で、てだけですよね」
「う……。それは、その。だから後、べ、勉強だってアイツが困ってるから、優しい私が助けてあげてるだけだし」
「御坂さん、どうしてそう理屈つけなきゃ会えないんですか。普通に会えばいいのに」
初春と佐天は呆れ顔になった。
「だって、だって! アイツはそんな、甘い気持ちなんか、絶対ない、から、こんな理屈でもつけないと、ちゃんと、私になんか会って、くれない……」
そこまで言うと美琴は辛そうにぎゅっと唇を噛んだ。
その気持ちは佐天達にも伝わった。
「御坂さん……」
「え! だ、だって、なんでって言われても、私達が付き合ってないのは事実だからそれ以上言いようがないし」
「デートやらなんやらしまくってるくせに」
「あ、あれはその! だからそんなデートなんかじゃないわよ! 夏休み最後のやつは私につきまとってたしつこいストーカー男を追い払うためだし、お好み焼き屋は欠食児童だったアイツに食事奢っただけだし、ちゃんとしたデートなんて、そんな。それに、お弁当は料理の練習だし」
「そういう名目で、てだけですよね」
「う……。それは、その。だから後、べ、勉強だってアイツが困ってるから、優しい私が助けてあげてるだけだし」
「御坂さん、どうしてそう理屈つけなきゃ会えないんですか。普通に会えばいいのに」
初春と佐天は呆れ顔になった。
「だって、だって! アイツはそんな、甘い気持ちなんか、絶対ない、から、こんな理屈でもつけないと、ちゃんと、私になんか会って、くれない……」
そこまで言うと美琴は辛そうにぎゅっと唇を噛んだ。
その気持ちは佐天達にも伝わった。
「御坂さん……」
「ああ、もう!」
美琴と同じく辛そうな表情をした初春とは対照的に、佐天は険しい表情でバンと机を叩いた。
その音に美琴は体をびくりと震わせた。
「御坂さん、確認しますよ!」
「は、はい」
「御坂さんとカミジョウさん、お二人の関係はどこまで進んでるんですか?」
「か、関係って、だからそれはその……」
「だからウジウジしないでください! 御坂さんらしくない! お二人が付き合ってないって事はわかりました。だから、キスはしたのかとか、お泊まりはしたのか、とかそういう具体的な事を言ってください!」
「き、キスぅ! おと、と、お泊まりぃ!」
佐天の言葉に美琴は目を丸くした。
「そうです! したんですか、してないんですか!」
美琴は今日一番とも言えるほど顔を真っ赤にして顔をぶんぶんと横に振った。
「してない、してない! そんなのできるわけないじゃない!!」
「つまりこの間の公園デートのあれ、キス未遂が精一杯だった、と」
「そうそう。……え!? なんであのデートの内容知ってるの!?」
「白井さんと一緒に風紀委員の監視カメラで見てたからですよ。ちなみに録画してましたから固法先輩も見てますよ……って、そんな事はどうでもいいです」
「よ、よくないわよ!」
「いいんです! とにかく御坂さん。あなたの気持ちはよくわかりました! いつもの御坂さんではあり得ないほどのその消極的態度からも、あなたの切ないほどの本気度は伝わってきました! だからやりましょう! この柵川中学のエンジェルシスターズ、佐天涙子と初春飾利が、あなたの恋を全面的にバックアップします!」
「佐天さん……。でも……私は別に、あの、アイツのお弁当を作ってあげられる今のままでも十分……」
美琴は未だに暗い表情のまま渋る。
「何を言ってるんですか!」
佐天は美琴の顔をキッとにらみつけた。
「御坂さんの話を聞いていてあたし、ピンと来たんです。カミジョウさんって結構モテるタイプだと」
「モテる? アイツが?」
「はい。だってカミジョウさんって大勢の不良に囲まれた女の子を、下心もなく自然に助けちゃう人なんですよ。助けられた女の子からしたら完全に王子様じゃないですか、カミジョウさん。女の子って、ちょいワル系と同じくらいこういう王子様的男の人に弱いんですよね」
「で、でもあの時のアイツは――」
「助け方なんて問題じゃありません。普通の人なら怖じ気づいちゃうような人助けを自然にする、その好意そのものが王子様だって言ってるんです! 御坂さんはご自分が強いから助け方に意見があるかもしれませんけど、普通女の子はそんなところ気にしませんよ、助けられた事が重要なんです! きっとカミジョウさん、あっちこっちでそんな事してますよ!」
「え――」
「そうしてカミジョウさんの事を知り、その良さを知った人はきっと御坂さん以外にもいるはずです。ううん、たとえ今いなくても近い将来きっと現れます! ルイコ・ホームズは嘘を言いません。あたしの分析と推理は完璧です! そうなったら遅いんです、わかりますよね御坂さん!」
美琴と同じく辛そうな表情をした初春とは対照的に、佐天は険しい表情でバンと机を叩いた。
その音に美琴は体をびくりと震わせた。
「御坂さん、確認しますよ!」
「は、はい」
「御坂さんとカミジョウさん、お二人の関係はどこまで進んでるんですか?」
「か、関係って、だからそれはその……」
「だからウジウジしないでください! 御坂さんらしくない! お二人が付き合ってないって事はわかりました。だから、キスはしたのかとか、お泊まりはしたのか、とかそういう具体的な事を言ってください!」
「き、キスぅ! おと、と、お泊まりぃ!」
佐天の言葉に美琴は目を丸くした。
「そうです! したんですか、してないんですか!」
美琴は今日一番とも言えるほど顔を真っ赤にして顔をぶんぶんと横に振った。
「してない、してない! そんなのできるわけないじゃない!!」
「つまりこの間の公園デートのあれ、キス未遂が精一杯だった、と」
「そうそう。……え!? なんであのデートの内容知ってるの!?」
「白井さんと一緒に風紀委員の監視カメラで見てたからですよ。ちなみに録画してましたから固法先輩も見てますよ……って、そんな事はどうでもいいです」
「よ、よくないわよ!」
「いいんです! とにかく御坂さん。あなたの気持ちはよくわかりました! いつもの御坂さんではあり得ないほどのその消極的態度からも、あなたの切ないほどの本気度は伝わってきました! だからやりましょう! この柵川中学のエンジェルシスターズ、佐天涙子と初春飾利が、あなたの恋を全面的にバックアップします!」
「佐天さん……。でも……私は別に、あの、アイツのお弁当を作ってあげられる今のままでも十分……」
美琴は未だに暗い表情のまま渋る。
「何を言ってるんですか!」
佐天は美琴の顔をキッとにらみつけた。
「御坂さんの話を聞いていてあたし、ピンと来たんです。カミジョウさんって結構モテるタイプだと」
「モテる? アイツが?」
「はい。だってカミジョウさんって大勢の不良に囲まれた女の子を、下心もなく自然に助けちゃう人なんですよ。助けられた女の子からしたら完全に王子様じゃないですか、カミジョウさん。女の子って、ちょいワル系と同じくらいこういう王子様的男の人に弱いんですよね」
「で、でもあの時のアイツは――」
「助け方なんて問題じゃありません。普通の人なら怖じ気づいちゃうような人助けを自然にする、その好意そのものが王子様だって言ってるんです! 御坂さんはご自分が強いから助け方に意見があるかもしれませんけど、普通女の子はそんなところ気にしませんよ、助けられた事が重要なんです! きっとカミジョウさん、あっちこっちでそんな事してますよ!」
「え――」
「そうしてカミジョウさんの事を知り、その良さを知った人はきっと御坂さん以外にもいるはずです。ううん、たとえ今いなくても近い将来きっと現れます! ルイコ・ホームズは嘘を言いません。あたしの分析と推理は完璧です! そうなったら遅いんです、わかりますよね御坂さん!」
「…………」
佐天の言葉を聞く美琴の脳裏に、インデックス、吹寄、風斬、姫神、といった上条と親しい女性の姿が浮かんだ。彼女達はみな美しく魅力的で、自分よりもはるかに上条の側にいるのにふさわしい、美琴にはそう思えた。
しかも彼女達の存在はあくまで美琴が知っている範囲であり、おそらく上条と親しい女性はきっと他にも大勢いるのだろう。
なんとなくだが美琴の女としてのカンがそう告げている。
それと同時に美琴の心をえぐったのは、上条がインデックスと同居していると知った時の絶望や、去っていく吹寄を上条が追いかけようとした時の喪失感であった。
いくらインデックスや吹寄が上条と共にいるのにふさわしくても、それでも、あんな思いは二度としたくない、美琴は心の底からそう思った。
佐天の言葉を聞く美琴の脳裏に、インデックス、吹寄、風斬、姫神、といった上条と親しい女性の姿が浮かんだ。彼女達はみな美しく魅力的で、自分よりもはるかに上条の側にいるのにふさわしい、美琴にはそう思えた。
しかも彼女達の存在はあくまで美琴が知っている範囲であり、おそらく上条と親しい女性はきっと他にも大勢いるのだろう。
なんとなくだが美琴の女としてのカンがそう告げている。
それと同時に美琴の心をえぐったのは、上条がインデックスと同居していると知った時の絶望や、去っていく吹寄を上条が追いかけようとした時の喪失感であった。
いくらインデックスや吹寄が上条と共にいるのにふさわしくても、それでも、あんな思いは二度としたくない、美琴は心の底からそう思った。
心に徐々に灯がともり始めた美琴に、佐天はさらに語り続けた。
「大切なお友達である御坂さんの恋、あたしは絶対に叶えてもらいたいんです! 恋は戦争なんです! 攻撃しなきゃ負けるんです! やりましょう、御坂さん!! カミジョウさんの事、好きなんですよね!!」
「大切なお友達である御坂さんの恋、あたしは絶対に叶えてもらいたいんです! 恋は戦争なんです! 攻撃しなきゃ負けるんです! やりましょう、御坂さん!! カミジョウさんの事、好きなんですよね!!」
美琴は小さくうなずき、心を決めた。
「佐天さん……ありがとう」
美琴は佐天の手をぎゅっと握り頭を下げた。
「頑張りましょう、御坂さん!」
佐天も美琴の手をぎゅっと握り返した。
「佐天さん……ありがとう」
美琴は佐天の手をぎゅっと握り頭を下げた。
「頑張りましょう、御坂さん!」
佐天も美琴の手をぎゅっと握り返した。
「エンジェルシスターズってなんですか、それ……。だいたい、学校でも誰かの恋愛相談に乗った事なんて一度もなかったはずですよね、佐天さん。それにいつまで鹿撃ち帽をかぶってるんですか。シャーロックさんは、挿絵を除けば本編で一度も鹿撃ち帽なんてかぶっていないはずですよ」
少し場違いな空気を漂わせている美琴と佐天を見ながら、初春はゆっくりと頭を振った。
「御坂さんの応援そのものは大賛成ですけど。佐天さん、むしろ私達は何もしない方が上手くいくんじゃないでしょうか……」
初春は紅茶を一口飲むと小首を傾げた。
「あれ? そういえば御坂さん、カミジョウさんが好きだって事、いつの間にか自覚してたんですね。しかももう隠すつもりなんてさらさらないくらい開き直ってる、と」
少し場違いな空気を漂わせている美琴と佐天を見ながら、初春はゆっくりと頭を振った。
「御坂さんの応援そのものは大賛成ですけど。佐天さん、むしろ私達は何もしない方が上手くいくんじゃないでしょうか……」
初春は紅茶を一口飲むと小首を傾げた。
「あれ? そういえば御坂さん、カミジョウさんが好きだって事、いつの間にか自覚してたんですね。しかももう隠すつもりなんてさらさらないくらい開き直ってる、と」
一時間後。
上条攻略のために美琴から二人の現状を改めて聞いた佐天は目を閉じ、深々とため息をついていた。
一方美琴はそんな佐天の前でしゅんと肩をすくませていた。
上条攻略のために美琴から二人の現状を改めて聞いた佐天は目を閉じ、深々とため息をついていた。
一方美琴はそんな佐天の前でしゅんと肩をすくませていた。
「まさか、ここまでだったとは」
「面目ない、です」
佐天は片目を薄く開けた。
「御坂さん、いくら恥ずかしいからって、自分の想い人をアンタ呼ばわりはまずくありませんか?」
「や、やっぱり、そう思う?」
「当然です」
両目を開けた佐天は美琴をキッとにらみつけた。
それに対し美琴はしどろもどろに言い訳を始める。
「で、でもね、私達ってケンカばっかりしてたわけだから、その時はアンタって呼んでてもおかしくないわけだし、それがね、今も続いてても」
「じゃあなんですか御坂さん? 御坂さんはそのケンカ友達をこれからもずっと続けていくつもりなんですか?」
「それは……」
「面目ない、です」
佐天は片目を薄く開けた。
「御坂さん、いくら恥ずかしいからって、自分の想い人をアンタ呼ばわりはまずくありませんか?」
「や、やっぱり、そう思う?」
「当然です」
両目を開けた佐天は美琴をキッとにらみつけた。
それに対し美琴はしどろもどろに言い訳を始める。
「で、でもね、私達ってケンカばっかりしてたわけだから、その時はアンタって呼んでてもおかしくないわけだし、それがね、今も続いてても」
「じゃあなんですか御坂さん? 御坂さんはそのケンカ友達をこれからもずっと続けていくつもりなんですか?」
「それは……」
「御坂さんはずっと仲のよいケンカ友達止まり。方やどこかの御坂さんではない女性は上条さんにとって誰よりも大切な唯一無二の存在に。それでいいんですか?」
「けど佐天さん。あのね、たかが呼び方一つでいくらなんでもそこまで……」
「一事が万事です。呼び方って、相手のことをどう認識してるかって事に繋がるんですよ。納得できませんか? それじゃあ視点変えてみましょう。カミジョウさんは、御坂さんのことをどう呼んでるんですか?」
「アイツが?」
「カミジョウさんが、です」
「アイ、じゃなくて、その、上条、当麻さんは、私のことを、御坂って。それから、たまにビリビリ」
「はあ? な、なんですか、それ!? 名字はともかくビリビリって! ほとんど悪口じゃないですか!」
佐天は目を丸くした。
「……やっぱり。そう思う?」
「思いますよ! 正直、ちょっとカミジョウさんを見損ないましたよ、あたし。まさか女の子相手にビリビリなんて」
佐天は憤り鼻息を荒くした。
「でしょ!」
美琴は身を乗り出した。
「やっぱり失礼よね! そんな呼び方されたら怒ったって仕方ないわよね!」
「はい、仕方ないですね。ですが御坂さん」
「はい?」
「そう呼ばれたからって、いきなりプッツン起こして電撃で追いかけ回したりは、してませんよね?」
「え」
「ま、せ、ん、よ、ね?」
佐天はゆっくり一文字ずつ区切りながら美琴に問うた。
「……それは、その、追いかけて、ます」
言いにくそうに話す美琴の返事を聞いた佐天は、盛大にため息をついた。
同じように初春もため息をついていた。
「けど佐天さん。あのね、たかが呼び方一つでいくらなんでもそこまで……」
「一事が万事です。呼び方って、相手のことをどう認識してるかって事に繋がるんですよ。納得できませんか? それじゃあ視点変えてみましょう。カミジョウさんは、御坂さんのことをどう呼んでるんですか?」
「アイツが?」
「カミジョウさんが、です」
「アイ、じゃなくて、その、上条、当麻さんは、私のことを、御坂って。それから、たまにビリビリ」
「はあ? な、なんですか、それ!? 名字はともかくビリビリって! ほとんど悪口じゃないですか!」
佐天は目を丸くした。
「……やっぱり。そう思う?」
「思いますよ! 正直、ちょっとカミジョウさんを見損ないましたよ、あたし。まさか女の子相手にビリビリなんて」
佐天は憤り鼻息を荒くした。
「でしょ!」
美琴は身を乗り出した。
「やっぱり失礼よね! そんな呼び方されたら怒ったって仕方ないわよね!」
「はい、仕方ないですね。ですが御坂さん」
「はい?」
「そう呼ばれたからって、いきなりプッツン起こして電撃で追いかけ回したりは、してませんよね?」
「え」
「ま、せ、ん、よ、ね?」
佐天はゆっくり一文字ずつ区切りながら美琴に問うた。
「……それは、その、追いかけて、ます」
言いにくそうに話す美琴の返事を聞いた佐天は、盛大にため息をついた。
同じように初春もため息をついていた。
初春はそのまま佐天の言葉を引き継いだ。
「それじゃ説得力ないじゃないですか。ビリビリを地でいっちゃ」
「だって……」
「だってじゃありません! ……もう。ですがこれで決まりですね」
「何が?」
「カミジョウさん陥落作戦の第一弾、ですよ。お互いを名前で呼び合おう! これです」
「名前で?」
「そうです。カミジョウさんは美琴、御坂さんは当麻、そう呼び合うんです」
「え――! いきなりそんなハードなミッションを!?」
「……大してハードでもないでしょう。たかが名前で呼び合うくらい。恋人ならむしろ当然です」
「た、確かに、それはそうだけど。でも……」
「じゃあ御坂さん、結婚してもカミジョウさんのことをアンタって呼ぶんですか? パパとママになっても子供の前でそう呼び合うんですか?」
「け、けけけけけケッコン! パパパパパパママママママ! 子供、もももも……」
「です。将来的にはそうなりたいんですよね?」
「え、えとととと……」
「ですよね?」
「……うん」
念を押してきた初春の言葉にしばらく逡巡していた美琴は、やがて恥ずかしそうにこくりとうなずいた。
「はい、よくできました」
その様子を見た初春は満足そうにうなずいた。
「それじゃ説得力ないじゃないですか。ビリビリを地でいっちゃ」
「だって……」
「だってじゃありません! ……もう。ですがこれで決まりですね」
「何が?」
「カミジョウさん陥落作戦の第一弾、ですよ。お互いを名前で呼び合おう! これです」
「名前で?」
「そうです。カミジョウさんは美琴、御坂さんは当麻、そう呼び合うんです」
「え――! いきなりそんなハードなミッションを!?」
「……大してハードでもないでしょう。たかが名前で呼び合うくらい。恋人ならむしろ当然です」
「た、確かに、それはそうだけど。でも……」
「じゃあ御坂さん、結婚してもカミジョウさんのことをアンタって呼ぶんですか? パパとママになっても子供の前でそう呼び合うんですか?」
「け、けけけけけケッコン! パパパパパパママママママ! 子供、もももも……」
「です。将来的にはそうなりたいんですよね?」
「え、えとととと……」
「ですよね?」
「……うん」
念を押してきた初春の言葉にしばらく逡巡していた美琴は、やがて恥ずかしそうにこくりとうなずいた。
「はい、よくできました」
その様子を見た初春は満足そうにうなずいた。
佐天はそんな初春を若干引き気味に見ていた。
「初春、アンタ相変わらずここぞと言うところでは飛ばすわね」
「何がですか? ごく普通の会話じゃないですか」
「…………」
苦虫を噛みつぶしたような表情になった佐天から美琴に視線を戻した初春は、にっこりとほほえんだ。
「初春、アンタ相変わらずここぞと言うところでは飛ばすわね」
「何がですか? ごく普通の会話じゃないですか」
「…………」
苦虫を噛みつぶしたような表情になった佐天から美琴に視線を戻した初春は、にっこりとほほえんだ。
「それじゃあちょっと練習してみましょうか」
「練習?」
「はい、ここにカミジョウさんがいる、と思って、当麻って呼んでみてください」
「え、ええええっと、えっと……」
「ほら、勇気を出して」
「…………」
美琴は目を閉じ何度もうなずくと、口を開け必死で声を出し始めた。
「と、とととととと、ととう」
「ほら、頑張って」
「とう……ま」
ようやくそう言った美琴は力尽きたように椅子の背にもたれかかった。
その様子はまさに疲労困憊という感じであった。
「練習?」
「はい、ここにカミジョウさんがいる、と思って、当麻って呼んでみてください」
「え、ええええっと、えっと……」
「ほら、勇気を出して」
「…………」
美琴は目を閉じ何度もうなずくと、口を開け必死で声を出し始めた。
「と、とととととと、ととう」
「ほら、頑張って」
「とう……ま」
ようやくそう言った美琴は力尽きたように椅子の背にもたれかかった。
その様子はまさに疲労困憊という感じであった。
しかし初春も佐天も美琴に容赦する気は全くない。
佐天は手をパンパンと手を軽く二回叩いた。
「はい、それじゃあもう一回。今度は詰まらないでください」
「ま、また!?」
「一回で練習が終わるわけないじゃないですか。はい、どうぞ」
「う、ううう」
体を起こした美琴は両手でしっかりジュースの入ったコップを握ると、目を閉じ呼吸を整え始めた。
ゆっくりと鼻から息を吸い、口から少しずつ息を吐き出しピタリと止めた。
「ととととと、とう、とうとうとう……」
「御坂さん、カミジョウさんとの幸せな未来を思い浮かべて頑張ってください。お子さんは何人ですか? 大きな犬を飼ったりするんですか?」
初春が美琴を激励する。
「とうとう、とうととととと――!」
佐天は手をパンパンと手を軽く二回叩いた。
「はい、それじゃあもう一回。今度は詰まらないでください」
「ま、また!?」
「一回で練習が終わるわけないじゃないですか。はい、どうぞ」
「う、ううう」
体を起こした美琴は両手でしっかりジュースの入ったコップを握ると、目を閉じ呼吸を整え始めた。
ゆっくりと鼻から息を吸い、口から少しずつ息を吐き出しピタリと止めた。
「ととととと、とう、とうとうとう……」
「御坂さん、カミジョウさんとの幸せな未来を思い浮かべて頑張ってください。お子さんは何人ですか? 大きな犬を飼ったりするんですか?」
初春が美琴を激励する。
「とうとう、とうととととと――!」
美琴が顔を真っ赤にしながらなんとか上条の名前を言おうとした瞬間、彼女の持つジュースが沸騰を始めた。
興奮した美琴から漏れ出る電気が流れる事によって、ジュースが温められたからだ。
佐天達はあわてて美琴を制しようとした。
「み、御坂さん、ち、ちょっとジュース、なんか沸騰してますよって御坂さん、電気が、電気が!」
「御坂さん、電気止めてください! わわ! ネットブックとか携帯とかもう大変です、壊れちゃいますよ!!」
「とととととと……」
しかし緊張して興奮状態にある美琴から漏れる電流は止まらない。いや、美琴自身にはもはや止められない。
それは人体にはさほど影響はないとはいえ、電化製品には深刻な影響を与え始めていた。
興奮した美琴から漏れ出る電気が流れる事によって、ジュースが温められたからだ。
佐天達はあわてて美琴を制しようとした。
「み、御坂さん、ち、ちょっとジュース、なんか沸騰してますよって御坂さん、電気が、電気が!」
「御坂さん、電気止めてください! わわ! ネットブックとか携帯とかもう大変です、壊れちゃいますよ!!」
「とととととと……」
しかし緊張して興奮状態にある美琴から漏れる電流は止まらない。いや、美琴自身にはもはや止められない。
それは人体にはさほど影響はないとはいえ、電化製品には深刻な影響を与え始めていた。
「キャー、何これー!」
「イヤー!」
「イヤー!」
美琴が漏らす電気はすぐに店中に広がり、店のあちこちから阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえだした。
「御坂さ――ん! 勘弁してくださ――い!」
「御坂さ――ん! 勘弁してくださ――い!」
「……ハッ!」
佐天達の数度にわたる叫び声にようやく正気を取り戻した美琴は、周りの惨状を確認すると佐天達と共にそそくさと店を後にした。
佐天達の数度にわたる叫び声にようやく正気を取り戻した美琴は、周りの惨状を確認すると佐天達と共にそそくさと店を後にした。
余談だが、後日この店や居合わせた客に対して美琴が謝罪や弁償をする羽目になったのは言うまでもない。
店を後にした美琴達は、公園のベンチに座って肩で息をしていた。
「びっくりした……」
やがて、ようやく人心地付いた美琴が申し訳なさそうに佐天と初春に頭を下げた。
「ごめんね、佐天さんも初春さんも」
美琴の謝罪に対し、佐天も初春もゆっくりと首を横に振った。
「いえ、あたし達も悪かったですし」
「確かにちょっと調子に乗りすぎましたね。あの店や他のお客さんにも悪い事しちゃいました」
「今度、ちゃんと謝罪に行っておくわ……」
美琴は深々とため息をついた。
「びっくりした……」
やがて、ようやく人心地付いた美琴が申し訳なさそうに佐天と初春に頭を下げた。
「ごめんね、佐天さんも初春さんも」
美琴の謝罪に対し、佐天も初春もゆっくりと首を横に振った。
「いえ、あたし達も悪かったですし」
「確かにちょっと調子に乗りすぎましたね。あの店や他のお客さんにも悪い事しちゃいました」
「今度、ちゃんと謝罪に行っておくわ……」
美琴は深々とため息をついた。
初春は小首を傾げた。
「御坂さん、私お店で思わず叫んじゃいましたけど、あの電気ってやっぱり御坂さんが出してたもの、なんですよね?」
「…………」
美琴は申し訳なさそうにこくりとうなずいた。
「そうですか。念のために聞きますけど、わざとあんな事したわけじゃ、ないですよね?」
「当然よ。なんで私があんな、みんなに迷惑かけるような事をしなきゃいけないのよ。少なくとも、わざとじゃないわ、絶対に」
「それを聞いて安心しました。でも、それじゃあどうしてあんな事に? 御坂さんはレベル5の電撃使いなんですから、あんな事本来起こさないはずですよね?」
「それは、その、自分でもよくわかんないのよ」
「え。マジですか?」
「大マジ」
顔を引きつらせた初春に、美琴は悔しそうな表情で答えた。
「私に限って能力が暴走するなんて、電流が漏れるなんてあり得ないはずなのよ。だって私はレベル5なのよ、自分だけの現実なんて完璧に制御できてるはずなのよ。なのに、どうして……」
「御坂さん……」
唇をぎゅっと噛んだ美琴を辛そうに初春は見つめるが、その傍らで佐天が得意そうな顔をして立ち上がった。
「御坂さん、私お店で思わず叫んじゃいましたけど、あの電気ってやっぱり御坂さんが出してたもの、なんですよね?」
「…………」
美琴は申し訳なさそうにこくりとうなずいた。
「そうですか。念のために聞きますけど、わざとあんな事したわけじゃ、ないですよね?」
「当然よ。なんで私があんな、みんなに迷惑かけるような事をしなきゃいけないのよ。少なくとも、わざとじゃないわ、絶対に」
「それを聞いて安心しました。でも、それじゃあどうしてあんな事に? 御坂さんはレベル5の電撃使いなんですから、あんな事本来起こさないはずですよね?」
「それは、その、自分でもよくわかんないのよ」
「え。マジですか?」
「大マジ」
顔を引きつらせた初春に、美琴は悔しそうな表情で答えた。
「私に限って能力が暴走するなんて、電流が漏れるなんてあり得ないはずなのよ。だって私はレベル5なのよ、自分だけの現実なんて完璧に制御できてるはずなのよ。なのに、どうして……」
「御坂さん……」
唇をぎゅっと噛んだ美琴を辛そうに初春は見つめるが、その傍らで佐天が得意そうな顔をして立ち上がった。
「ふっふーん、あたし、わかっちゃったかも」
「何が?」
「どうしたんですか佐天さん、いきなり?」
「だ、か、ら、わかっちゃったのよ、御坂さんの不調の原因」
佐天は得意そうな顔のまま人差し指を振った。そのまま鹿撃ち帽のつばをピンと指ではじく。
美琴は立ち上がり、佐天の肩をぐっと掴んだ。
「え、本当なの佐天さん!? 本当にわかったの!?」
美琴の迫力はかなりのものだったが、佐天は気にする事もなくその表情をさらに得意そうなものにした。
「はい、ルイコ・ホームズは名探偵ですからね。謎は全て解けました! だからまずは落ち着いてください」
そう言いながら佐天は美琴の手を外すと、彼女をベンチに座らせた。
「本当ですかぁ?」
初春はそんな佐天をジト目で見た。
「何よ、初春、疑うの?」
「疑うも何もぉ、私、ルイコ・ホームズなんて言葉自体、今日初めて聞きましたしぃ。だいたいそのネーミングセンス自体、子供っぽいですしぃ」
初春は嫌みたらしく語尾を伸ばして佐天に茶々を入れた。
佐天は初春の態度に唇を尖らせた。
「ふーん。あたしってそんなに子供っぽいんだ。こーんなパンツ履いてる初春に言われるくらいに」
佐天は初春のスカートの前部を大きく捲りあげた。
「あ、かわいいカピバラ親子のアップリケ。新作じゃない」
「な……」
初春は涙目になってスカートを押さえた。
「何するんですか佐天さん、スカートは捲らないでってお願いしてるのに!」
「ちょっとしたコミュニケーションじゃない、減るもんじゃなし気にしない気にしない」
「減らなくても私の自尊心が傷つきます!」
「はいはい、わかったわ、今日の所はもう止めてあげるわよ」
「金輪際止めてください!」
「ハッハッハ。愛い奴よのう、初春飾利くん」
カラカラと笑っていた佐天は、その表情を真面目なものに変えた。
「何が?」
「どうしたんですか佐天さん、いきなり?」
「だ、か、ら、わかっちゃったのよ、御坂さんの不調の原因」
佐天は得意そうな顔のまま人差し指を振った。そのまま鹿撃ち帽のつばをピンと指ではじく。
美琴は立ち上がり、佐天の肩をぐっと掴んだ。
「え、本当なの佐天さん!? 本当にわかったの!?」
美琴の迫力はかなりのものだったが、佐天は気にする事もなくその表情をさらに得意そうなものにした。
「はい、ルイコ・ホームズは名探偵ですからね。謎は全て解けました! だからまずは落ち着いてください」
そう言いながら佐天は美琴の手を外すと、彼女をベンチに座らせた。
「本当ですかぁ?」
初春はそんな佐天をジト目で見た。
「何よ、初春、疑うの?」
「疑うも何もぉ、私、ルイコ・ホームズなんて言葉自体、今日初めて聞きましたしぃ。だいたいそのネーミングセンス自体、子供っぽいですしぃ」
初春は嫌みたらしく語尾を伸ばして佐天に茶々を入れた。
佐天は初春の態度に唇を尖らせた。
「ふーん。あたしってそんなに子供っぽいんだ。こーんなパンツ履いてる初春に言われるくらいに」
佐天は初春のスカートの前部を大きく捲りあげた。
「あ、かわいいカピバラ親子のアップリケ。新作じゃない」
「な……」
初春は涙目になってスカートを押さえた。
「何するんですか佐天さん、スカートは捲らないでってお願いしてるのに!」
「ちょっとしたコミュニケーションじゃない、減るもんじゃなし気にしない気にしない」
「減らなくても私の自尊心が傷つきます!」
「はいはい、わかったわ、今日の所はもう止めてあげるわよ」
「金輪際止めてください!」
「ハッハッハ。愛い奴よのう、初春飾利くん」
カラカラと笑っていた佐天は、その表情を真面目なものに変えた。
「てなわけで、そんなに疑うんならやってみせるわよ、ワトソン、いやさかわいいかわいいカピバラさんパンツの初春くん」
佐天は涙目ながらも自分への疑いのまなざしを変えない初春から視線を外すと、美琴の方を向いた。
「さて」
ニヤリと笑みを浮かべた佐天は美琴の耳元へ口を寄せると、ポソッと一言つぶやいた。
「…………!」
その瞬間、美琴の顔は真っ赤になり、彼女の周りの空気は電気を帯び始めた。明らかに先ほどの喫茶店での現象と同じく美琴の能力の暴走である。
「ね」
佐天は初春にウインクをした。
「ほんとですね……。で、御坂さんに何を言ったんですか、佐天さん?」
不思議そうな初春に佐天はニヤリとした笑みを返した。
「簡単よ、『カミジョウさんの事どう思ってます?』って聞いたら一発でこうなっちゃったの。つまり御坂さんは――」
「カミジョウさんが絡んだらこうなる、と?」
「ご名答」
佐天はうんうんとうなずいた。
「すごいです。でも佐天さん」
「うん?」
「またヤバくなってますよ」
「あ」
初春の指摘通り、佐天の一言から妄想が暴走し始めた美琴の漏電は酷い有様になり始めていた。
「どうって、え、それって好きかって事よね。それ、それはそれでまあ確かにそうなわけで。で、それなら私はアイツとこれからどう、えっと――」
あわてて佐天達は美琴を止めに入った。
「御坂さ――ん、戻ってきてくださ――い!!」
佐天は涙目ながらも自分への疑いのまなざしを変えない初春から視線を外すと、美琴の方を向いた。
「さて」
ニヤリと笑みを浮かべた佐天は美琴の耳元へ口を寄せると、ポソッと一言つぶやいた。
「…………!」
その瞬間、美琴の顔は真っ赤になり、彼女の周りの空気は電気を帯び始めた。明らかに先ほどの喫茶店での現象と同じく美琴の能力の暴走である。
「ね」
佐天は初春にウインクをした。
「ほんとですね……。で、御坂さんに何を言ったんですか、佐天さん?」
不思議そうな初春に佐天はニヤリとした笑みを返した。
「簡単よ、『カミジョウさんの事どう思ってます?』って聞いたら一発でこうなっちゃったの。つまり御坂さんは――」
「カミジョウさんが絡んだらこうなる、と?」
「ご名答」
佐天はうんうんとうなずいた。
「すごいです。でも佐天さん」
「うん?」
「またヤバくなってますよ」
「あ」
初春の指摘通り、佐天の一言から妄想が暴走し始めた美琴の漏電は酷い有様になり始めていた。
「どうって、え、それって好きかって事よね。それ、それはそれでまあ確かにそうなわけで。で、それなら私はアイツとこれからどう、えっと――」
あわてて佐天達は美琴を止めに入った。
「御坂さ――ん、戻ってきてくださ――い!!」
その後、なんとか冷静さを取り戻した美琴だったが、彼女と、そんな彼女をなだめすかしきった佐天や初春は疲労困憊になってしまっていた。
疲れ切った三人は互いに肩を寄せ合うようにベンチに座り込んでいた。
疲れ切った三人は互いに肩を寄せ合うようにベンチに座り込んでいた。
「ごめんね二人とも、本当」
小さくなる美琴に佐天は大きくため息をついた。
「御坂さん、カミジョウさん陥落作戦第二弾、行きましょう」
「え! 第一弾もまだなのに!?」
「同時にですよ」
驚く美琴に佐天は疲れ切った表情で応えた。
「そ、そう。で、何をするの?」
「電気のビリビリ、抑えましょう。このままだと色々まずいと思います、カミジョウさんの心証的にも体力的にも」
「あ、それなら大丈夫よ。アイツに電撃ぶつけないように最近気を遣ってるし」
「そうなんですか。それじゃあ、漏電の方は? そっちもしないようにしてますか?」
「えと、そ、それは、して、ない……」
佐天の質問に美琴は肩をすくませる。
「じゃあそれはやりましょう。特にこれからカミジョウさんとの距離が近づく度に御坂さんはこういう事になっちゃいそうですから。ね」
「…………」
「ね」
「わかりました……」
美琴は小さくため息をつきながらこくりとうなずいた。
小さくなる美琴に佐天は大きくため息をついた。
「御坂さん、カミジョウさん陥落作戦第二弾、行きましょう」
「え! 第一弾もまだなのに!?」
「同時にですよ」
驚く美琴に佐天は疲れ切った表情で応えた。
「そ、そう。で、何をするの?」
「電気のビリビリ、抑えましょう。このままだと色々まずいと思います、カミジョウさんの心証的にも体力的にも」
「あ、それなら大丈夫よ。アイツに電撃ぶつけないように最近気を遣ってるし」
「そうなんですか。それじゃあ、漏電の方は? そっちもしないようにしてますか?」
「えと、そ、それは、して、ない……」
佐天の質問に美琴は肩をすくませる。
「じゃあそれはやりましょう。特にこれからカミジョウさんとの距離が近づく度に御坂さんはこういう事になっちゃいそうですから。ね」
「…………」
「ね」
「わかりました……」
美琴は小さくため息をつきながらこくりとうなずいた。
結局この日は三人は体力的に限界だったため、美琴の上条当麻陥落作戦は明日以降に持ち越し、という事になったのだった。
「とりあえず、今から携帯ショップに行きませんか? 携帯の修理、頼まないといけませんし」
「賛成」
「二人とも、ごめんね……」
「とりあえず、今から携帯ショップに行きませんか? 携帯の修理、頼まないといけませんし」
「賛成」
「二人とも、ごめんね……」