とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part09

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匿名ユーザー

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「どうしたっていうのよ?待ちなさいってば」

ミサカミコトは再度、同じ言葉を繰り返した。

「まさか、なんでだよ。アイツがやったって言うのか、そんなヤツじゃないだろ」

それも耳に入らないのか電話を閉じたあと、上条はどこへ行くともなく、早足で歩いていた。

「だから、一人で悩んでないで話しなさいよ、いつも『私』に言われてるでしょ」

追いすがるミサカミコトが注意を促すが

「ん、ああ御坂か、必ずアイツに謝らせてやるからな」

上条の心はここに無いようだった。

「もう、『私』じゃなくてミサカミコト!正気に戻りなさいっば!」

呼び戻すため、

「うおっ」

美琴がしたように電撃を放つ。

「ナニすんだ、御坂?危ないじゃっ!」

息が合ったコントのように上条が右手で防ぐ。

「ってアレ?」

そして誰が電撃を放ったか、気づく。

「気がついた?」

「あ、ああ」

申し訳無さそうな、どこか気持ちのやり場がないように見える上条。

その上条に

「まず、アイツって誰?」

ミサカミコトは情報を求めた。

「そのアイツって言うのはステイルって名前の魔術師」

「魔術師?」

「ああ、ほらグレムリンとか、それとかレイヴィアにレッサー達の」

「学園都市の超能力とは別の方式で異能を操る連中ね」

「そう、そう」

「で、その魔術師の一人のステイルって人?そいつが怪しいと思うアンタの根拠は?」

「いや、黄泉川先生の話だと能力者の可能性は低いだろ?」

「そうね、別の法則を持つ者なら可能かもね」

「だろ?そのうえでステイルは炎の魔術を得意としてんだ、ルーンとか言って」

「ルーンね……それだけ?他の、その魔術師?でも可能じゃないの?」

「それは……俺も考えたさ、そのうえでステイルの居場所を尋ねたら学園都市にいる可能性が高いんだ」

「なるほどね、証拠とも言えないけど偶々が重なってる訳ね」

「ああ、こんな事をする奴じゃないはずなんだ、確かめねーと」

「アンタの友達になるの?」

「友達?アイツが?」

「それなりに信頼してるんじゃないの?」

「ぐっ」

「くすっ」

「笑うところか?」

友人とかでは無い、と上条は思う。ただ信頼しているかと尋ねられたら、肯定の意味で言葉が詰まる。つまりステイルとはそんな関係と言えたが笑われるのは堪らない。



「あはははは」

「いや、マジで悩んでんですけどミサカミコトさん?」

「あはは、なんで悩んでるか分かってる?」

「え」

「そのステイルって人がそんな事する人じゃないと思ってるからよ」

「あー、でもステイル、必要と思ったらやりかねねーからな」

「アンタがそう思うステイルって人が主犯なら何か事情があったんでしょ」

「だから、それを聞くために」

「そうは見えなかったわよ、心ここに在らず、とりあえず殴りに行くって感じで……落ち着いた?」

ミサカミコトが質問を続けていたのは理由があった。状況を把握したいからではなく、上条に考える時間を与えて落ち着いて貰う為であった。

「え、あー」

上条も取り憑かれたような焦燥感、留まってはいられないジレた感覚が修まっていた。

「その、すまなかった」

そして自分に囚われミサカミコトを置き去りにしようとした事を謝る。

「いいわよ、それぐらい、昔の『私』に対する仕打ちに比べたら」

ダラダラと汗が流れそうになる。

「そんなに、えーと酷かったか?」

最後はか細い声。

「今はだいぶマシよ、頼るって事を覚えたからじゃない?」

「頼るか……」

今の上条を形成したモノ、それは記憶喪失に尽きる。他者から見た記憶喪失前の上条を記憶喪失後の上条と相違ないように見せるためだった。特に他者から見た記憶喪失前の上条とはインデックスから見た上条を差す。記憶喪失の原因となったと思しきインデックスに責任を思わせないためだった。
記憶喪失後の上条はインデックスから見た上条を演じた。

「頼りなさい、『私』を」

それは正義とか悪ではなく、心の赴くまま、人から見たらヒーローと呼ばれるような姿だった。それがカッチリと今の上条と当てはまったところがあった。

「そうだな、心配かけちまったら意味ねえよな」

が、それは同時に独り善がりな自己満足な側面もあった。記憶喪失は自分が背負う荷であり、自らの行為は上条がしたい事をしているだけであり他者に預ける物ではなかった。

「頼られたら『私』は嬉しいんだから」

第三次大戦の時、記憶喪失という重荷を降ろした。それからである、在らねばならぬ指標が失せ、悩みを抱えるようになったのは。

「助かる」

ハワイからバケージシティ、思いのまま行動した結果が重くのしかかった。



それを救ってくれたのは美琴の言葉であり、トールがぶん殴ってくれたお陰もあり、仲間が支えてくれた事が大きい。

一人で背負い切れない物を背負おうとしていた。

「それは『私』に言いなさい」

突っかかって来る少女であり、次に庇護対象となり危険な事に自分の面倒事に関わらせてはならない少女だった。そして上条の横にいつの間にか並んでいた、一昨日までは。

「御坂にか……」

呼び戻す、必ず呼び戻す。

「いや、ミサカミコトにも謝っとかないとな」

「それはいいのよ、どうせ期間限定なんだから……アンタが救わないといけないのはミサカミコトではなく、御坂美琴と妹達」

口を滑らしてしまった。

「礼ぐらいは……期間限定?」

「そりゃ期間限定でしょ。ミサカミコトは妹達に戻るまでの一時的な存在なんだから」

新たな重荷になるわけにはいかなかった。妹達、御坂美琴、ミサカミコト、それぞれの人格は並び立てない。それを悟らせるつもりはなかった。

「そのミサカミコトって妹達の性格が変わっただけだよな?」

とも言えるが、全くの別人格が宿っているとも言えるのだ。

「まあ、そうよね」

しかしミサカミコトは上条にそうとしか言えない。

妹達に戻った時、ミサカミコトというこの人格がどうなるのか単に消えてしまうモノなのかは分からない。

上条には元に戻るだけ、それだけの理解でいて欲しかった。

「そうよ、一時的に変調をきたしてるだけよ、『私』が戻ればあのイヤミったらしい第一位に頼まなくても元に戻るんだから頑張ってよ」

「頑張れ言われてもな、記憶を探って御坂を刺激するんだから、俺じゃなくミサカミコトが……なんか呼びにくいよな」

「何が?」

「フルネームで呼んでるとさ、なんかおかしくないか? それに人前だと御坂を呼んでるみたい、つーか今人がいるところで御坂の名前呼んでいいもんか?」

「それは考えてなかったわね……うーん、とりあえずこのミサカミコトはミクでいいかな?」

「ミク?」

「元の個体番号は10039号、それで呼ぶのもおかしいでしょ、10039号だから下二桁を取ってミク」

「安易と言うか……偶々それで呼べるのが運が良かった言うべきなのか」

「ほー、呼びにくい言ってるアンタのために考えてあげたのにそーゆー風に言いますか」

「いえ、感謝してます、どうかミクさんと呼ばせて下さい」

「いいわよ、それでステイルって人、どこにいるの?会いに行くんでしょ?犯人かどうかは別にしても参考になる話しは聞けるでしょうから」

「…………」

空を仰ぐ上条、その背中をダラダラと汗が今度こそ流れていた。

「まさか、居場所も解らないで急いでたの?」

上条は答えに窮する。闇雲に歩いていたのが答えであるからして。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「ごめんなさい」

「知らなかったのね」

ミサカミコトの呆れた声が低く地を這うように聞こえる。

ステイルが学園都市を訪れたのは上条の記憶にある限り6回。

一度目は上条が記憶喪失に陥った際、記憶にはないもののほぼ間違いない。あとは三沢塾、オルソラ、エンディミオンに大覇星祭、レイヴィアに始めて会った時にも来ていた。

「外」の人間としては一年足らずのうちにしょっちゅう学園都市に顔を出している。

その割には上条はステイルが学園都市内で何処に滞在していたか知らない。

勢いこんでみたものの、改めて考えるとステイルを探す手掛かりがほとんど無かった。

「仕方ないわね、まずは入国記録があるか調べてみるわ、あれば滞在先もわかるでしょ、ないと手当たり次第に監視カメラを調べるか、ホントは初春さんに頼めればいいんだけど、今回はそうもいかないわね、人海戦術でやってみましょうか」

「その、お世話になります」



そして上条から犯人ではないかと疑われてしまったステイルがどうしているかと云うと

「もぬけの殻か」

「ここもカムフラージュの施設だったかにゃー」

土御門と二人で、ある研究施設に踏み込んでいた。しかし、既に廃棄された跡だった、手掛かりと言える物は残されていない。

そもそも、この施設の前に幾つか踏み込んだ先も同じ状態、最初から何もない本命を隠すための偽のアジトである可能性があった。

「規模としては小さい組織のはずにゃー」

「小さいのかい?これで」

「カムフラージュの施設を幾つか用意してあるのは用心深いだけにゃー、規模が大きければ拠点を複数構えて生残性を高めるぜい」

「ふう」

ステイルはタバコに火を付ける。

「イライラすんのかにゃー、ステイル」

「そう思うなら、その口調は辞めてくれないかな」

「ステイル?面倒をかけられているのはオレの方だぜい」

「それは」

「どうなるかにゃー、ステイルのミスで魔術が科学側に解明されたってことになれば」

面白くない未来だった。ただでさえ第三次大戦後、科学側優勢の図式ができている。

「全く全部回収ぐらいしとけ」

「確かにそれは僕のミスだよ、だけどルーンのカード一つから解明されるとは思わないさ、だいたいこの街の人間は拒絶反応を起こして魔術は使えないじゃないか」

「甘いんだよ、舞夏が作るデザート並みに甘いぜい、魔術を使って拒絶反応を起こすのは開発を受けた能力者だけだ、学園都市の人口230万のうち180万が開発を受けた学生だ、なら残りの50万はどーだ?」

「それはそうでも、学園都市では超能力の研究が」

「そーだ、学園都市では超能力の研究が中心だ、だがなそれはSystemに至る道に早道だって理由で主流になってるだけぜよ、別に他の研究に情熱を燃やしてる研究者がいないわけじゃない」

学園都市の闇そのものと言える木原一族、学園都市に多大な貢献ももたらすが、その本質は科学的興味を満たすこと、彼らにしてみれば超能力もそのための道具でしかない。木原を名乗らなくてもこの学園都市には同類が多勢存在する。

「上層部は魔術の存在を認識している、だからと言って魔術の実態を理解しているわけじゃないんだ、オレが学園都市に入り込んでいるのと同様に当然、魔術について知りたがる人間がいてもおかしくない」

目的がそれとは限らないが木原でも一族の幼い少女を供して魔術の実験を行った事がある。古くはまだイギリス清教との交流が厳しくなかった頃、能力者による魔術の
実験もあった。その実験により能力者が魔術を使用すると拒絶反応を起こす事が解っているのだ。

「その上で9月30日、あの事件で学園都市の超能力とは別の魔術の存在を公表した。そして第三次大戦にグレムリンがやった事に目を惹かれた輩が出て来ることをオレは警戒してたんだぜい?」

「・・・・・・」

何も言えないステイル。

「ところがだ、お仲間と思っていたステイルに」

この男に仲間意識があるのか疑問であり、ステイルは憮然とする。

「しょっちゅう学園都市にやって来るたびに派手に魔術を使ったうえ、肝心のルーンを置き忘れるとはとんだ裏切りぜよ」

裏切りは土御門のキャッチフレーズだとステイルは言いたいが、反省しなければならなかった。土御門が言うように学園都市の解析力を甘く見ていたのだ。

実のところ土御門も怪しい気配に気がついたのは最近の事である。口にしたように第三次大戦にグレムリンといった魔術絡みの大事が立て続けにあり、改めて調査してみた結果であった。
土御門自身も学園都市に侵入している魔術師を数人知っているがその者達に研究者側からの接触もない事もあり、あまり大事とは捉えてはいなかった。才能がない者が才能ある者に追いつく技術と言ってもすぐに身につく技術でもない。やはり超能力研究が主流であり魔術に興味を惹かれる者、積極的に研究してみようと思う者はいない、とたかをくくっていたと言える。
それが調査を進めるうちに不確かな情報が入る。記号を記したカードで火を起こす実験が行われているとか、そのカードは火災現場で拾われた物を模した物だとか、不審火を映した監視カメラの映像が何処かに引き取られているとか、怪しことこの上なかった。
そして土御門は決定的な証拠としてルーンが描かれたカードを入手する事になる。

おかげでステイルは学園都市に呼び寄せられ、責任を取るはめになっていた。

ただ、まだ全容までは見えていない、誰が魔術を使用しているのか不明であった。



「死んでない?」

「その通り」

「じゃあ、これは夢の中?」

「ではない事は理解しているのではないかな」

「そうだけど」

「もう見当はついているだろ」

「AIM拡散力場」

「正解、君は死んだと思った時、意識を飛ばしAIM拡散力場に入った、今の君はAIM思考体だ」

「臨死体験てこういうモノなのかしら」

「原理的には似たようなモノだね」

「望むようにってことは私が望めば帰れるってことね」

その時、美琴にはエイワスが笑ったように見えた。思考体であるが故にそれは思考体が受ける感覚にすぎない。

それ以前に輝きを放つエイワスは超然として見え、表情があるようにも見えなかった。

何か落とし穴がある、美琴はそう思った。

「急ぐ必要はない」

やはりという気持ちになる。
これまでの会話を思い出す。

「依頼主は早く安心したいんじゃ?」

「それも、面白くない」

「何がしたいかわからないわね」

「努力する姿を見たい、ということになるのかな」

「アンタが、ね」

「ちなみに帰るにしても帰り方が解るかね」

「・・・教えてくれそうもないはね」

「教えてあげても良いが、現状では不可能だな」

「囚われの姫君」

「監視役の『ドラゴン』」

「アンタがいれば私が起こしかねない災厄も起きない」

「情報量の差だね」

「情報圧に格段の違いがあるアンタがいれば私が起こすことは抑制されてしまう、私が帰りたいと望んでもアンタを突破しない限り無理、私は籠の鳥でアンタは私を閉じ込めておく檻ってわけ?」

「諦めるかね?」

「冗談、何としてでも帰ってやるわよ」

「それは楽しみだ、私は突破を志す者を愛する」




「初春、何か判りましたの?」

「白石さん、そう何度も尋ねられても、今判ってるのは発火能力でいて発火能力じゃないってことぐらいですよ」

「早く犯人を捕まえませんとお姉様に申し訳たちませの」

「私も早く何とか犯人を捕まえたいのはやまやまですって」

「でしたら」

「まだ、関係してるか判りませんけど」

「何かありますの?」

「一昨日以外にもボヤ騒ぎが幾つか以前に起こっているようなんです」

「そんな事があったのでしたら」

「当然、注目されます、放火なら注意も呼びかけられたでしょう」

「それが無いと」

「ええ、空き地での焚き火程度でしたから」

「注目されなかった、と」

「はい」

それが関係しているか二人にはわからなかった、しかし漠然とした予感がよぎる。

そしてその夜、炎が燃え上がった。








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