とある二組の夫婦事情
-居酒屋-
上条「相談があるんだが」
浜面「大将が俺に?」
上条「ちょっと周りに聞ける奴がいなくてさ」
浜面「なんか頼られてる感じで嬉しいな。それで一体何の相談なんだ?」
上条「実は……セックスレスになったかも知れないんだよ」
浜面「マジ!?」
上条「ここ最近ずっと無くてさ。しかも最近距離を取られてる感じがするんだ」
浜面「そりゃ本当にレスかも知れねぇな」
上条「なんか嫌われるようなことしたのかと不安になってるんだ」
浜面「分かる……」
上条「分かってくれるか?」
浜面「実は俺のところもそうなんだよ」
上条「そうだったのか? 仲良くやってるもんだとばっかり」
浜面「仲良くやってる=セックスするってことじゃ無いんだよ」
上条「まぁそりゃそうですけど」
浜面「子供に一度見られ掛けたことがあってさ。あの時はプロレスごっこで誤魔化したけど、あれ以来一気に減ったんだよぉ」
上条「なんか知らんが、頑張れ」
浜面「今なんか年に2、3回だぞ? 週1になって、月1になって、3ヶ月に1回になって……」
上条「年2、3回か……」
浜面「しかも2回戦に行くことは絶対に無いし」
上条「えっ、何で?」
浜面「昔から理后は終わったらすぐ寝ちゃうんだよ」
上条「ん? じゃあもしかしてこれまでもずっと1回で終わり?」
浜面「おう。まぁさすがに今は何回もやる気力は無ぇけど、10代の頃はキツかったぜ?」
上条「昔ほどは無理だよな」
浜面「それで大将は最後にやったのはいつなんだ?」
上条「先週……」
浜面「…………は?」
上条「先週の日曜日だからほぼ2週間」
浜面「……ちなみにこれまでのペースは?」
上条「週3」
浜面「俺と大将は永遠に分かり合えない」
上条「さっきまでは分かるって言ってたじゃねぇか!」
浜面「ふざけんなっ!! 週3って何だ!? どこのラブラブ新婚カップルだ!?」
上条「だからその分、2週間も無かったらレスになったかと思うだろ!」
浜面「そう言うのはせめて月1になってから言え!」
上条「でもこの調子じゃ1ヶ月なんてあっという間だぞ?」
浜面「そりゃまぁそうだけど」
上条「これまで2連続で断られたことなんて無かったのに、昨日で3連続だ」
浜面「……なんかあったんじゃねぇの?」
上条「なんかって何だよ?」
浜面「例えば男が出来たとか」
上条「そんなことはあり得ない」
浜面「怖いからガンつけないで下さい」
上条「絶対にあり得ないからなっ!!」
浜面「分かった分かった。それじゃあ体調が悪いとか?」
上条「それも無いと思うけどな。休まず仕事に行ってるし」
浜面「そうでも無いとなると思いつかないぞ」
上条「俺も全然心当たりが無いんだよな。ある日突然だったし」
浜面「う~ん。悪いな、力になれなくて」
上条「いやまぁいいよ。俺こそ悪かった。贅沢言ってたみたいで」
浜面「あんまりもう触れないで。悲しくなって来たから」
上条「とりあえず今日は飲もう。俺が誘ったんだから、俺の奢りでいいし」
浜面「マジで? じゃあガンガン頼んじゃおうかな」
-浜面家-
浜面「ってことがあってさぁ」
滝壺「そうなんだ」
浜面「まぁあいつらにも倦怠期が訪れたってことなのかね」
滝壺「はまづらは私達も倦怠期になってると思うの?」
浜面「いや、そういう訳じゃねぇんだけど、そのもうちょっと仲良くしたいなぁ~なんて」
滝壺「仲良くしてると思うけど」
浜面「そうじゃなくて、だからその夜に仲良くしたいってこと。ってことで今日はダメ?」
滝壺「…………ダメ」
浜面「左様ですか……」
滝壺「そう言えば先週、みさかがむすじめの病院から出て来るのを見たよ」
浜面「結標ってことは、産婦人科の病院から?」
滝壺「何か溜息吐いて、元気が無さそうに見えた」
浜面「産婦人科なのに溜息ってことは、本当に病気か何かなのか?」
滝壺「さぁ?」
浜面「学園都市の医療でも治せないくらい深刻だとか」
滝壺「考え過ぎだと思う」
-また居酒屋-
浜面「本当に病気かも知れないんだよ」
上条「……何で?」
浜面「うちの嫁が産婦人科から溜息吐いて出て来たのを見たらしいんだ」
上条「それは本当に美琴だったのか? 妹達じゃなくて?」
浜面「嫁の能力知ってるだろ? 人違いはあり得ねぇって」
上条「産婦人科から出て来て溜息ってどういうことだよ!!」
浜面「俺に怒鳴られても知らねぇよ!」
上条「……悪い」
浜面「もしかしたら不治の病だとか」
上条「不治の病って……」
浜面「断っとくけど、仮定の話だぞ。ただ、そうじゃなきゃ病院から溜息吐いて出て来るとは思えねぇし」
上条「そんな……」
浜面「もしかしたらそれが大将に言い出し辛くて、距離を取ってるのかも」
上条「確かに思い当たる節がある」
浜面「例えば?」
上条「ちょっと前、腹の辺りを抑えてたんだよ。腹でも痛いのか?って聞いたら違うって言われたけど」
浜面「なんか臓器系の病気かも知れねぇな」
上条「どうしたらいいんだよ。不治の病なんて」
浜面「……分からねぇ。俺だって理后がもしそうなったら、と思うと冷静でいられる自信が無い」
上条「頭の中がグチャグチャだし、何を言えばいいか分からねぇよ」
浜面「でも向き合うしかねぇだろ? 夫婦なんだからさ」
上条「夫婦か……」
浜面「辛い時も苦しい時も一緒にいるのが夫婦だ」
上条「……そうだよな。目を逸らしていても始まらないよな」
浜面「おう! 逃げても問題は解決しないなら、立ち向かうしかねぇ!」
上条「サンキュー。なんか吹っ切れた」
浜面「お役に立てたようで光栄だ」
上条「じゃあ悪いけど俺もう帰るわ。金置いとくから」
浜面「一杯も飲まないのか?」
上条「やると決めたんだから、今すぐ行動だろ」
-上条家-
上条「ただいま!」
美琴「おかえり~。随分早かったわね」
上条「美琴……ちょっといいか?」
美琴「う、うん。どうしたの、そんな真面目な顔して?」
上条「お前さ……俺に何か隠してるだろ?」
美琴「えっ?」
上条「知ってるんだよ、病院から出て来て落ち込んでたこととかさ」
美琴「な、何で……」
上条「そりゃ夫婦でも隠し事はあるさ。でも、そういう大事なことは隠しっこ無しだ」
美琴「あぅ……」
上条「俺の心構えは出来てる。言ってくれ」
美琴「その心の準備が……」
上条「どんなことがあろうと俺は美琴を愛してる!」
美琴「と、当麻。私も当麻のこと愛してる!」
上条「俺たちは夫婦なんだから、一緒に立ち向かおう」
美琴「う、うん」
上条「教えてくれ」
美琴「実は閉経……しちゃったみたいなの……」
上条「…………………………は?」
美琴「もう当麻との赤ちゃんが産めないかと思ったら私……」
上条「ちょ、ちょっと待って」
美琴「ふぇ?」
上条「あの……何か病気になったとかじゃ無いの?」
美琴「……病気なんてなって無いわよ?」
上条「不治の病とかは?」
美琴「誰が?」
上条「いや……すまん。上条さんの勘違いだったらしいです」
美琴「もしかして私が不治の病にでも掛かったと思ったの?」
上条「はい……」
美琴「ぷっ……あはははははは」
上条「笑うなよ」
美琴「だ、だって……あははははは」
上条「そ、そういう美琴だって閉経程度で思い悩んでさ」
美琴「閉経程度!? 私にとっては人生の一大事よっ!」
上条「と言うか美琴たんはまだ子供欲しかったの!?」
美琴「美琴たん言うな! 当麻との子供なら一万人いてもいいわよ!」
上条「さすがに一万人はちょっと……」
美琴「もう、こっちは清水の舞台から飛び降りる気持ちで告白したのに」
上条「でもまぁ良かったよ」
美琴「え?」
上条「美琴が死んじゃったら、上条さんも悲しくて死んじゃうかも知れないし」
美琴「え、えへへへへへへ」
上条「久しぶりに漏電してるぞ!?」
美琴「ふにゃー」
-またまた居酒屋-
上条「ってことだった」
浜面「お、おう」
上条「騒がせて悪かったな」
浜面「あ~まぁ病気じゃなくて良かったよ。それにこっちこそ不安煽るようなこと言ってすまん」
上条「いいって。最初から直接聞いていれば良かったんだし」
浜面「つーか大将のところも孫いるよな?」
上条「ああ。でもやっぱり孫と子供は違うしさ」
浜面「そりゃ分かる。孫には無責任になりがちだからな」
上条「可愛い可愛いって甘やかしてればいいから楽だ」
浜面「それより実は俺と理后がレスじゃ無くなりそうなんだ」
上条「マジで?」
浜面「あんなアドバイスしたしさ、俺たちも話し合ったんだよ」
上条「それで?」
浜面「歳取ったから俺にあんまり見られたく無かったんだとよ」
上条「そういう理由だったのか」
浜面「もうその場で押し倒したわ」
上条「お前も新婚とか人の事言えねぇじゃねぇか」
浜面「なんだかんだで俺たちって」
上条「嫁が好きなんだよな」
終わり