とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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上条+ゲコ太=美琴ホイホイ×2=ツン<デレ




上条は今、冬休みを利用して短期のアルバイトをしている。
毎月月末に(主に同居人のせいで)食費が底をつき、おかずが梅干しか沢庵だけになるのは、
もう嫌なのだ。せめて納豆とお味噌汁くらいは欲しいのである。
そんな涙ぐましい理由の下、補習の合間を縫って、汗水垂らしつつ労働に勤しんでいる訳だ。
なので彼は、今日も全身黄緑色の謎生物の着ぐるみを身に纏い、
道行く子供達にチラシと風船を無料配布しているのだった。

「ゲコ太」…確かそう呼ばれているこの謎生物は、どうやら生意気にも今度映画になるらしい。
要するに宣伝である。自分が配っているチラシにもそう書かれているのだから間違いない。
彼だって、何も伊達や酔狂で紙くずを撒き散らしている訳ではないのだ。お仕事なのだ。
殆ど突っ立っているだけでお金が貰えて、顔も隠せるから知り合いに会ってもバレない。
夏場は相当大変かも知れないが、幸いにも(不幸体質の彼に、「幸いにも」と言うのもどうかとは思うが)
今は冬だ。着ぐるみを着てても蒸し暑いという事なない。

時給が良い割には楽な仕事…………そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

しかし、いざ始めてみると中々ハードな業務内容だった。
基本的に、お客様はお子様だ。そして彼らは手加減という物を知らない。
体を触ってくる、よじ登ろうとする…というのはまだ可愛い方だが、
背後から蹴りを入れたり、頭をもぎ取ろうとしたり、もっと上級者は落書きをしようとする始末である。

(ううぅ…着ぐるみのバイトって結構疲れるんだな……)

子供達のパワフルかつ容赦のないコミュニケーション方法に、思わず心の中で愚痴を漏らす。
今日もお客さんでいっぱいだ。お陰で身動きが取れやしない。

しかしそんな中、九割九分九厘の客が小学生の中、一人だけ異彩を放っている人物がいる。
子供達に混じって明らかに身長が頭一つ抜けているその少女は、
常盤台中学の制服を着て、スカートの下には短パンを穿いている。
上条がバイトを始めたその初日にはすでにエンカウントされており、今ではすっかり常連だ。
ついでに言えば、実は上条のお知り合いでもある。
もっとも、上条はイメージを壊さないように着ぐるみを装備している間は声を出したりしていないので、
その少女はゲコ太の中身が上条である事は知らないのだが。

そして勿論、その少女は今日も現れる。
子供達の攻撃とは明らかに違う、かなり重みのある衝撃が背中を襲う。

「ゲェェェコ太あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

と背後からタックルしてきたのは御坂美琴だ。
本人的には抱擁のつもりだが、勢いがありすぎて完全にクリティカルヒットとなっている。

「っ!!!」

「ぅぐおっ!!?」という叫びを口の中で呑み込む。
美琴だけならともかく、他の大勢の子達の夢は守らなくてはならないのだ。
そんなゲコ太【かみじょう】の頑張りなど夢にも思わない美琴は、
好き勝手しながら好きな事を言ってくる。

美琴はゲコ太に抱きついた後、そのままの状態で顔をコシコシと擦り合わせ、

「ああんもうゲコ太ゲコ太~~~!!! 好き好き好き好き大好き~~~!!!
 何でこんなに可愛いのよも~~~!!! もうチューしちゃう!!! むー…」

と言いながら口を尖らせて迫ってくる。着ぐるみを相手にだ。
周りの子供達も引くくらいの溺愛っぷり。
子供達も、このお姉ちゃんが来るとゲコ太から離れるのだ。もはやモーゼの十戒状態である。



美琴の大胆行動(とは言っても、本人はあくまでも上条にではなく、ゲコ太に対してなのだが)に、
ちょっとドギマギする上条。しかし、今は仕事中なのだと思い直す。プロ根性である。バイトだけど。

上条は、このままでは仕事にならない為、営業妨害者【みこと】に対して抗議する。
喋れないので、身振り手振りで必死に伝えた。

『美琴さん!? ちょっとだけ退いてはいただけませんかね!?
 このままだと子供が寄り付かねーし、ノルマが達成できないんですよ!』

手足をワタワタとさせ、美琴にコミュニケーションを取ろうとするゲコ太。
その様子を見て、美琴はその真意を汲み取った。

「も~、そんなに喜んじゃって…仕方ないわね♪ じゃあもっとしてあげる!
 むちゅむちゅむちゅー!」

正直かなりドキドキしたが、今はそれ所ではない。プロ根性である。短期だけど。

それにしても、どうやら全然分かってくれていないようだ。
ビックリする程思いが伝わっていない。
が、その時だ。思わぬ所から、思わぬ助け舟が現れる。

「お、お姉様っ! お止めくださいまし! 少々みっともないですわよ!?」

風紀委員の腕章を光らせながら、白井が駆けつけてきた。
パトロールでもしていたのか、美琴をストーキングしていたのか。
あるいは子供の中の誰かが、美琴【へんなひと】がいると風紀委員に通報したのかも知れない。
まぁ理由はどうあれ、ともかく白井が駆けつけてきた。

白井が来てくれて助かった…………そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

「え~い、お離れになってくださいな!!!」
「や~あ~! 離れない~! ゲコ太だって嬉しがってるもん!!!」
「ああもう! このカエルの事となると見境がお無くなりになるのはお姉様の悪いクセですの!」
「ゲ、ゲコ太はカエルじゃないのよっ!!! ゲコ太はゲコ太なの!!!」
「それ以前に着ぐるみですのよ!!? 中身は小汚いおっさんかも知れませんのに!!!
 ハグやヴェーゼでしたらわたくしが思う存分お相手いたしますのぐへへへへ」
「ゲ、ゲ、ゲコ太に中身なんてある訳ないでしょっ!!!?
 ゲコ太はゲコ太だって何回言わせんのよっ!!! あと黒子にそんな事はしないから絶対」

大騒ぎする常盤台のお嬢様二人。正直、めっちゃ邪魔である。
とりあえずこの二人を何とかしなければ商売上がったりだ。下手をすればクビにもなり兼ねない。
上条は美琴と白井の間に割って入り、仲裁をしようとする。
だがやはり、そこは不幸で有名な上条さんだ。
どこの誰が捨てたのか、やけに意味ありげなバナナの皮を踏み、お約束通り上条は転倒する。
持っていたチラシは地面にばら撒かれ…いや、そちらは拾えば済むのだが、問題は風船の方だ。
空気よりも軽い風船さん達は、重力に逆らってふわふわとお空を飛んで行く。
上条がクビを覚悟した瞬間だった。

……と、思っていたのだが、白井が瞬時に瞬間移動し、空中で風船を全て回収すると、
そのまま再び地上に瞬間移動で帰ってきた。
見ていた野次馬達は「おー!」と歓声を上げて拍手をする。



「どうぞですの」

と言いながら、何事も無かったかのようにゲコ太へ風船を返却する白井。
何だかんだで彼女は風紀委員な訳で、恋敵であるどこぞの類人猿には厳しい態度を取るが、
基本的に一般市民には優しいのである。

「やるじゃない、黒子」
「いえ、これくらいは朝飯前ですので」

良かった。首の皮一枚でクビにならずに済んだのだ。
…そもそも、元々の原因はこの二人だとかそういう野暮な事は言いっこなしである。
ともあれ助かったので、上条は

「やー、悪い! ありがとな白井」

『うっかり』お礼を言ってしまった。
少し離れていた子供達には聞こえなかったが、
間近にいた美琴と白井にはハッキリと聞こえてしまったのだ。

「……何故わたくしの苗字を…? お姉様は『黒子』としか仰っておりませんのに……」
「そ、そそ、それにその声……ま、ままま、まさか!!!?」
「あっ……」

思いっきりバレた。
二人の顔が見る見る赤くなっていく。ただしそれぞれ、全く異なる理由で。

白井は単純に「怒り」である。
お姉様の大好きなキャラクターで気を引こうなんざ、腐りきった根性をお持ちのお猿さんですわね
ぶち殺してさしあげましょうか!!!、とまぁそんな感じである。

対して美琴は…言わずもがな。
ではここで少し、本日の美琴の言動をプレーバックしてみよう。

―――美琴はゲコ太に抱きついた後、そのままの状態で顔をコシコシと擦り合わせ―――
―――「好き好き好き好き大好き~~~!!!」―――
―――「もうチューしちゃう!!! むー…」―――
―――口を尖らせて迫ってくる―――
―――「じゃあもっとしてあげる! むちゅむちゅむちゅー!」―――

以上だ。
これらはつまり、たとえ本人にその意思は無かったとしても、上条に対して行った事である。
その事実を知ってしまった美琴は、

「う………うわああああああぁぁぁぁぁんんんんん!!!!!」

と、赤面したまま明後日の方向に走り出した。

「あ、お、お姉様!!? お待ちになってくださいましお姉様!!!
 ……くっ…今日の所は引いてさしあげますの!!! 覚えてやがれですわよ類人猿!!!」

その美琴を追って、白井も走り出した。
悪役が言いそうな、小物臭のハンパない捨て台詞を吐きながら。

嵐が去り、上条は正直な感想を心の中で漏らした。

(な…何だったんだ…?)



翌日。
上条はバイト先である広告代理店の事務室で、驚くべき報告を受ける。
どうやら今日からバイト仲間が増えるらしい。
ちなみに持ち場も上条と一緒の場所(本人の強い要望により)である。
全身ピンク色の謎生物…確かピョン子と呼ばれていたか。
その謎生物の着ぐるみをを身に纏い、道行く子供達にチラシと風船を無料配布するお仲間は、

「な…何故にお前がバイトなんかしなくちゃならんの…?」
「べ、べべべ別にいいでしょ何でだって!!! ア、アレよ! その………そう! 社会勉強!!
 だっ、だだ、だから『アンタと一緒にバイトしてみたいな~』とか思った訳じゃないのっ!!!
 ホントよ!? 勘違いしないでよねっ!!!」

常盤台中学の制服を着て、スカートの下には短パンを穿いている少女だった。









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