上琴歴史狂想曲 1
プロローグ~未来から来た謎の少年~
上条当麻は、いつもの通り授業や悪友共との絡みで一日のエネルギーの大半を削り取られて、
いつも通りこれからスーパーの特売経由で帰宅するところだ。いつもと違うところが
ただ一つあるとすれば、年末が差し迫っている12月なので教職員もかなり忙しいらしく、
補習の代わりに大量の課題が渡されていることぐらいだろうか。まぁそれでも超負担なので、
上条「はぁ……不幸だ」
と、いつも通り呟きながらスーパーに向かっている。
御坂美琴は、いつもの通り授業が終わり、いつもの通り白井黒子が風紀委員(ジャッジメント)の仕事で
別行動になったので、これまたいつも通り例の自販機の公園に上条当麻を待ち伏せるべく向かっている。
いつもと違うところがただ一つあるとすれば、それはもちろんクリスマスや冬休みが近いこともあって、
どのようにして上条との予定を取り付けるべきか、目的と性格(ツンデレ)の狭間で揺れ動いてるところか。
美琴(どうやってアイツの予定に予約を入れようか…やっぱ直球で言わなきゃダメ?…いやいや、そんなの
絶対ムリ!でも他に良い作戦なんてもう1つも浮かばないし…あーもう!どうすれば良いのよ!!////)
と、脳内で迷走しながらいつもの自販機の公園に向かっている。
自販機の公園前。いつも通りジュースを支えるバネが緩くて某女子中学生が「ちぇいさー!」と叫び蹴ると
ジュースが1個ランダムで取り出し口に出てくる。その自販機の周りは、いつも通り人がほとんど居ない。
いつもと違うところがただ一つあるとすれば…
??「っ痛ぇ~…まったくこの機体は相変わらず落下衝撃をあまり緩和しないから痛くて仕方ねぇ」
謎の少年(?)が、謎の機体の中から妙なことを呟きながら這い出て来た事だろうか。
??「…さてと、人が来て面倒な事になる前に、さっさとこの機体を畳んでスーツケース型に…」
と、呟きながら作業をしている真っ最中に
美琴「ちょろっと~?アンタいったい何をしてるのかしら~?」
まだ機体がスーツケース型にギリギリなってない状況で御坂美琴が到着。謎の少年は冷や汗をかきながら
??「か…(ゴホゴホッ)…み、御坂美琴さん、ですか。はじめまして」
と苦笑いを浮かべながら体ごと振り返る。
美琴「なんでアンタ、初対面のはずの私の名前をフルネームで知ってるのよ…ってかアンタ!
何なのよその機械は!スーツケース型にして誤魔化そうとしてるみたいだけど、
いったいソレ使って何をしようとしてたのよ!全部包み隠さず話してごらんなさい!!」
妙に刺々しい美琴である。それもそのはず、今ここに居る謎の少年は、見た目年齢は高校生かもう少し上、
目つきは某鈍感大王の普段みたいにだるそうな感じで、頭髪は某ウニ頭の男子高校生と同じ真っ黒。
ただ髪型はウニではなくストレート型である。しかしきちんと手入れすればツヤのあるサラサラ髪なのに
おそらく丸一日ぐらい手入れを怠ったのか少々脂が付いてて、長さも目にかかるぐらいの長さである。
つまり、気が短い人が見ればすぐイラッとくる見た目だと言えよう。
??「あ~…コレは今から何かするのではなく、事後の片付けをしてる真っ最中なんです。
そもそもこの機体はタイムマシンで、俺は未来から来た特別部隊の者です。証拠にほら、
この機体のこの部分に、出発点と到着点の年代を指定する装置があるじゃないですか。」
一応、美琴も機械を覗き込んで確認する。確かに謎の少年が指したのはそれっぽい感じの装置だし、
キャリバー(型式番号)もこの時代の形式とは違うため、少なくとも現代の学園都市内の物ではない。
美琴「ふぅ~ん。確かにコレ自体は現代の物じゃない以上、アンタも未来人なのは確かなようね…」
??「御理解頂けて誠に嬉しく存じます」
しかし、美琴にとって真に問題なのは『この少年がどの時代の人間なのか』ではない。
美琴「んで、このマシンに乗って来たアンタは何の部隊の人で、いったいどういう任務で来たのかしら?
それと、私の事も知ってるみたいだけど、どんな理由で知ってるのかも全部説明してもらうわよ?」
少年の冷や汗が更に増した。今の質問に対する答えを端から端まで全部答えれば理解してもらえるだろうが、
それはそれで必要以上に色々と喋る事になり、結果としてタイムパラドックス的な事になりかねないのだ。
もちろん、そんな事を引き起こす訳にはいかない。上官にその点はしっかり釘を刺されているからだ。
しかし、その旨を説明しても美琴には納得してもらえなかった。非常に難儀である。
美琴「ほほ~ぅ? それじゃこうすれば真実を喋るかし(バチバチッ)……ら!?」
電撃の槍(致死量ではなく激痛程度のレベルの)を一発ぶちかまそうとしたが、軽々と回避されてしまった。
美琴「な、なんでアンタはこうも簡単に回避出来るのよ! どっかの電撃効かない奴にも
イラッときたけど、こんな簡単に避けられちゃもっとイライラしちゃうじゃないの!」
??「ふぅ…発動される前の『能力の余波』とでも言いますか、それを読み取った訳です。
特に俺はそのテの波動に対して敏感なので、方向や強度もだいたい予測出来るのです。」
なんて奴だ…しかしこれで攻撃を止める美琴ではないのは言うまでもない。
美琴「ふーん、だったら………そう簡単に避けられない攻撃をすれば問題無い訳ねッ!」
一発では回避されると判断し、向きや着弾タイミングをずらした複数の電撃を繰り出した
いくら予測出来ようがどうしようが、こんな多弾攻撃など『回避』出来る訳がない―――――
??「…そりゃ!!!」(ビリビリッ)
―――――と思いきや、周りの金属片を電撃で掻き集め、全弾の避雷針代わりにして防いだ。
美琴「はぁ!?…アンタまさか多重能力者!?…いや理論上は不可能なハズ…どういうこと!?」
??「余波の感知は能力ではなく体質なのですよ。俺の能力は『電撃使い』…まぁレベルは4ですが」
チートキャラかお前は!と脳内でツッコむ美琴。しかし相手の能力が判ればあとは何をするかというと…
美琴「ほほぉ~う!?レベルは4か…じゃあコレなら回避も防御も出来ないわね」
ポケットからコインを取り出し構えた。もちろん超電磁砲の構えである。確かに寸前まで微調整が効いて
直接電撃で攻撃してないので避雷針も立てられない。今度こそ回避や防御をする手段は存在するハズがない。
しかし少年は諦めない。美琴がコインを上に弾いた瞬間、大きく横にステップを踏んだ。
美琴(そんな事をしても無駄よ…寸前で向きをそっちに修正して発射出来るんだから―――って、え!?)
ただ、回避や防御の手段が無いというのは『発射された後』の事である。発射前に対抗すれば話は別である。
少年はステップを踏んだ先の更に斜め下に右手を伸ばし、全力で螺旋(らせん)状に電撃を放った。
美琴「んな!?」
少年の放った螺旋状の電撃が電気を流したコイルのような状態となり、それによって金属片(コイン)がコイルの磁力で
美琴から見て斜め後ろに吹き飛ばされた。少年はそのまま右手をクッションにし着地し、身体を反転させる。
美琴「あ、あ、アンタ!本当に私より下のレベルなわけ!?今の電撃の威力それほど弱く――――
と、ここで
上条「お、御坂……と、誰だお前?」
上条当麻登場である。理由はどうあれさっきまで能力戦闘してたなんて事は隠したい美琴は、
そ知らぬ顔で「あぁアンタか」と挨拶をした。対して『誰だお前?』と言われた少年は
??「と…(ゲフンゲフンッ)…」
上条「…『と』?」
??「当麻さんですね?上条当麻さん。はじめまして」
苦笑いを浮かべながら脳内で『なんとか誤魔化せた』と安堵する少年。しかし
上条「…なんでお前、初対面の俺の名前知ってるんだ?」
至極当然の疑問を上条が口にした。
??「あぁ、先ほど御坂さんにも説明したのですが、俺は未来の特殊部隊から来た者で―――」
上条「ふむふむ…っておいお前、なんでお前の足元に血が垂れているんだ!?」
美琴が『ゑ!?』と驚いた顔をし、少年が『ギクッ』といった感じの表情をした。
よく見ると少年はさっきから右手を隠したままだ。上条が手を見せるように促すと…
上条「ちょ、お前いったいどこでこんなケガしてやがったんだ!?」
美琴「アンタさっきまでこんなケガしてなかったでしょ!?どういうこと!?」
確かに美琴の攻撃は一発も当たってないし、手をクッションに使うだけでここまでひどいケガはしない。
??「あー、これも先ほど御坂さんに説明したんですが、俺の体は『能力の余波』にかなり敏感なんですよ。
しかしこの体質は俺自身の能力の『余波』にも反応してしまいまして、さっき全力で能力使ってしまい
結果、皮と毛細血管が裂けて広範囲の擦り傷状のケガが出来てしまうんです。まぁ明日には治りますが」
上条「お前…俺と同じぐらい不便な体質してるのな」
美琴「全力が出せないって、すごく厄介な体質ね…」
作者も書いていてそう思う。自分の能力で大怪我なんて嫌すぎる。
??「…と、まぁ話がそれてしまいましたが、ここで話題を俺の素性の件に戻しますね。
俺は未来の時間・歴史保護部隊の隊員で、佐藤 波踏(さとう なみふみ)と申します」
上条「時間・歴史保護部隊ぃ?」
美琴「名前から察するに…勝手に歴史を改竄されないように保護活動する部隊かしら?」
波踏「はい、正確には保護プラス、改竄しようとする者を逮捕または狙撃することもありますが」
意外と大層な部隊があるもんだ。まぁタイムマシンで時間を移動できるようになったら
都合の悪い過去を変えたい人が続出しそうなので、出来れば在ってほしい部隊なのだが。
上条「んで、佐藤は―――
波踏「あ、俺のことは下の名前で呼んでください。苗字だと現地で他人とかぶりがちで混乱が多いので」
上条「んーあぁそうだな。波踏は今回いったいどういう任務でこっちに来たんだ?」
美琴「あーそれ、私もさっきから聞いてたんだけど、全然答えてくれないのよね…」
今の美琴の台詞を聞いて上条が「そっかーじゃあ任務の内容は聞けないのかー」と言いそうになった次の瞬間、
波踏「…そうですね、ちょうど保護対象者が目の前に居る事ですし、説明しましょうか」
上条&美琴「「…はい!?」」
二人の、間の抜けた声が同時に聞こえた。次の瞬間―――
波踏「上条当麻さん、あなたの命が狙われてます」