小ネタ 第六章合間 『次』の脅威は趣向が違った
「……ハッ!?」
上条はそこで目を覚ました。
ぼんやりと覚えているのは、先程の世界。
今回は、よく分からない謎の巨大ロボットに踏み潰されて上条死亡、という雑な物だった。
しかもロボット物は13回前の世界、「巨大ロボットや小惑星によって構わずに壊れていく世界」
とネタが被っており、オティヌスも大分精神が磨耗している事が伺える。
目を開けて初めに見えた物は、自室の天井だった。
ここはどうやらベッドの上らしい。と言っても、普段はインデックスが使っている為、
ここに寝るのは記憶を失ってからは初めてなのだが。
しかしやはりそうなると、それはここにはインデックスがいないという事になり、
ここも今まで同様、どこかズレた世界なのだろう。上条を追い詰める為の仕掛けがあるはずだ。
警戒しながら、上条はむくりと上半身を起こす。すると第一の異変に気づく。
上 「……俺、何で裸なの…?」
上条はパンツの一枚すら穿いてなかった。つまりは全裸である。
上条はいつも寝る時、こんなセクシー系大物女優のような寝姿にはならない。
パジャマなんて洒落た物は着たりしないが、少なくともTシャツにジャージ、
寒い夜は上にトレーナーを羽織るくらいの事はする。
これもオティヌスの仕掛けた罠の一つなのだろうか。しかし何の意味が?
と疑問を持ったのと同時に、玉子が焼ける香ばしい匂いが鼻の奥をくすぐった。
耳を澄ませば、パチパチとフライパンの上で踊っている音も聞こえてくる。
自分以外の誰かが、台所に立っているのだ。
真っ先に思いついたのはインデックスだ。元々彼女はこの部屋の住人なのだから。
しかしあのインデックスが朝食(今の正確な時間は分からないが)の用意なんてするだろうか。
いや、ここはオティヌスによって変革された世界だ。
インデックスがそんな普段なら絶対に有り得ない事をしていても不思議じゃない。
…などとさり気にヒドイ事を思いつつ、簡単に着替え、台所を覗き込む。
するとそこには、
美 「あ、お早う。ごめんね、起こしちゃった?」
上 「み……こ、と…?」
御坂美琴がそこにいた。
少女趣味な彼女らしく、フリフリで可愛らしいエプロンを着て、
菜箸を器用に使いフライパンの上の目玉焼きを皿に移している。
上 「な…んで…?」
美 「ご飯が出来たらちゃんと起こすつもりだったのよ?
だってあんなに気持ちよさそうに寝てたんだもん。何かいい夢でも見てた?」
上 「いや、そういう意味じゃなくて!」
今までのが夢だというなら、いい夢どころか悪夢だったが、そこについてツッコんだ訳ではない。
上 「美琴は何でここにいて、そして今何してんの!? この状況を説明してくれ!」
上条の問いに、美琴は「何を今更」と言わんばかりにため息をつく。
そして次にその口から出てきた返答は、上条の理解の範疇を優に超えている物だった。
美 「私がここにいるのはアンタと同棲してるから。私は今、朝食を作ってる途中。
他に何か聞きたい事はある? 寝ぼすけさん」
上 「同s……………」
思考停止。
美 「何、固まってんのよ。私の両親の所にも、一緒に挨拶しに行ったじゃない」
上 「……マジで?」
美 「マジで」
再び思考停止。
そもそも、何で同棲【そんなこと】になったのだろうか。
オティヌスが勝手に創り出した世界とはいえ、そこには『こうなった』理由が、背景があるはずだ。
そんな上条の疑問を読み取ったかのように、美琴が口を開く。
しかしその理由こそが、上条の心をへし折る為の、オティヌスの仕掛けだった。
美 「責任…ちゃんと取るって言ったでしょ?」
上 「責任…って…?」
カラカラに乾く上条の喉。嫌な予感しかしない。
美琴は頬を染めながら、自分のお腹をスリスリと優しく撫でる。
そして、
美 「……ここにはもう、新しい命が宿ってるんだから。しっかりしなさいよね、パパさん♡」
にっこりと笑う美琴。と対称的に絶望感に押しつぶれそうになる上条。
これはつまりつまりこれは、あれやこれやとなんやかんやがあった結果、
ここは高校一年生の上条当麻が、中学二年生の御坂美琴を、孕ませてしまった世界なのだ。
上 「え、ちょ、あ、なも、まっ、それ、いや、でも、しっ、がっ!!!」
何か言わなければならないのに、言葉が出てこない上条。
勢いはそのまま空回りし、両手は自然と美琴の肩をガッと掴む。
すると美琴はこう告げた。
美 「んもう……本当にエッチなんだから……『昨日の続き』はご飯食べてからにしましょ。
せっかく作ったのに、冷めたら勿体無いじゃない」
美琴は何か勘違いしているらしいが、そもそもこの世界ではその勘違いが正解なのかも知れない。
何故ならここは、美琴が上条との子を孕んでいるのが当たり前な世界なのだから。
上条は心の中で叫んだ。
上 (オティヌスさあああああん!!!? 何か今までとテイストが違いすぎやしませんか!?)
それを聞いていたのかいないのか、この様子を部屋の外から眺めていたオティヌスは、
『槍』を持ったまま冷静にポツリと呟いた。
オ 「………術式間違えた」