寮監から「転校通知」を受けた翌日、美琴は、一人でとある公園のベンチに腰掛けていた。
そこへ、一人の少年が声をかけた。
そこへ、一人の少年が声をかけた。
「おっす」
「なんだ、アンタか……」
「なんか元気なさそうだな」
「なんだ、アンタか……」
「なんか元気なさそうだな」
声の主である上条は、美琴が記憶を失ってからは、どちらかというと影で見守るような行為を続けており、
積極的に声をかけてくるようなことはしてこなかった。
しかし、今日の美琴は最近では珍しく一人でいて、なおかつ何かに悩んでいそうな雰囲気を出していたため、
上条は声をかけることにしたのだった。
積極的に声をかけてくるようなことはしてこなかった。
しかし、今日の美琴は最近では珍しく一人でいて、なおかつ何かに悩んでいそうな雰囲気を出していたため、
上条は声をかけることにしたのだった。
「何かあったのか?」
「……あったといえばあったけど」
「……あったといえばあったけど」
美琴は昨日の晩、ルームメイトの黒子に相談したときの事を思い出す。
発狂したのかと思わんばかりの彼女の様子は、今思い返しても心が痛む。
その件もあって、美琴は転校の件について伝えるのを少し躊躇していた。
しかし、他の友人達へもそうなのだが、伝えないわけには行かなかった。
発狂したのかと思わんばかりの彼女の様子は、今思い返しても心が痛む。
その件もあって、美琴は転校の件について伝えるのを少し躊躇していた。
しかし、他の友人達へもそうなのだが、伝えないわけには行かなかった。
「常盤台絡みの事だから、今は黒子がなんとかしようとしてくれてるみたいなんだけど……」
白井は常磐台中学に抗議にいっているらしい。
しかし、寮監の話し振りから考えても、彼女と言えど学校の決定を覆すのは難しいだろう。
しかし、寮監の話し振りから考えても、彼女と言えど学校の決定を覆すのは難しいだろう。
「たぶん、どうにもならないでしょうね」
「そんなに大変なことなのか?」
「学校がさ……転校しろって」
「……は?」
「レベルの低い生徒は、在籍させるわけにはいかないんだってさ。……いろいろ、危ないとか言う理由で」
「そんなことで……」
「そんなに大変なことなのか?」
「学校がさ……転校しろって」
「……は?」
「レベルの低い生徒は、在籍させるわけにはいかないんだってさ。……いろいろ、危ないとか言う理由で」
「そんなことで……」
上条はそれなりにショックを受けているようだった。
あまり喜ぶべき事ではないのだが、上条がそんな様子を見せてくれたことに、美琴は心の奥でほっとしてた。
ただ、今の美琴には、その感覚がどこか不可解なものだった。
彼女の他の友人が悲しんでいたときには、この感覚は起こらなかった。何が違うのだろうか。
あまり喜ぶべき事ではないのだが、上条がそんな様子を見せてくれたことに、美琴は心の奥でほっとしてた。
ただ、今の美琴には、その感覚がどこか不可解なものだった。
彼女の他の友人が悲しんでいたときには、この感覚は起こらなかった。何が違うのだろうか。
推測も混じってはいるが、この少年とはそれなりに仲はいいものだと美琴は思っていた。
友人達同様、このくらいの反応はあって当然ではないか。
友人達同様、このくらいの反応はあって当然ではないか。
もしかすると、記憶を失う前の自分とコイツの関係は今とは違っていて、それほど仲は良くなかったのだろうか。
そして、今感じているのは、どこかに残っている昔の自分の感情なのだろうか。
そして、今感じているのは、どこかに残っている昔の自分の感情なのだろうか。
「ふーん。アンタも一応、寂しがってはくれるみたいね」
「当たり前だろ! ……ってか、お前はそれでいいのかよ!?」
「私は、今のままじゃダメだって思ってた」
「当たり前だろ! ……ってか、お前はそれでいいのかよ!?」
「私は、今のままじゃダメだって思ってた」
上条は美琴の言っている意味が理解できなかったようだ。
何も言わず続きを待っている。
何も言わず続きを待っている。
「前から考えてた。私は、アンタと黒子の負担になってる
アンタたちはそれでいいって言うんだと思うけど、私にはこのままでいいなんて思えない。
だから、もし、前の私の事を 誰も知らないようなところに引っ越したら、アンタたちはさすがに追ってこないだろうし、
そもそも危ないことも起こらないで、誰にも迷惑かけずに済むかもしれないとか、あるかもしれないでしょ。
……逃げるみたいで嫌なんだけどね。それに、みんなや、特に黒子には悪いとは思うけど……
もちろん、ここにいるみんなのことは絶対忘れたりなんかしないわ。
それに、いつか記憶も能力も取り戻せることがあったら、きっと帰ってくるから、アンタも心配しないで待ってて」
アンタたちはそれでいいって言うんだと思うけど、私にはこのままでいいなんて思えない。
だから、もし、前の私の事を 誰も知らないようなところに引っ越したら、アンタたちはさすがに追ってこないだろうし、
そもそも危ないことも起こらないで、誰にも迷惑かけずに済むかもしれないとか、あるかもしれないでしょ。
……逃げるみたいで嫌なんだけどね。それに、みんなや、特に黒子には悪いとは思うけど……
もちろん、ここにいるみんなのことは絶対忘れたりなんかしないわ。
それに、いつか記憶も能力も取り戻せることがあったら、きっと帰ってくるから、アンタも心配しないで待ってて」
上条に転校の事を伝えると、用は済んだかのように美琴はその場から去ろうとした。
上条は、そんな美琴の姿を、ただ見送ることしか出来なかった。
上条は、そんな美琴の姿を、ただ見送ることしか出来なかった。
「いつかって……いつなんだよ」
その場に一人残された上条のつぶやきは、誰にも届くことは無かった。
――――――
美琴が去った後、上条は寮に帰っていた。
転校の話を聞いたときから、上条の胸の奥にちょっとした痛みが発生しており、
そしてそれは、時間がたつにつれ大きくなってきていた。
転校の話を聞いたときから、上条の胸の奥にちょっとした痛みが発生しており、
そしてそれは、時間がたつにつれ大きくなってきていた。
「とうま、ねえとうまってば!!」
胸の痛みに耐えていたため、上条はインデックスが話しかけているのに気が付かなかった。
「ああ、わりい聞こえてなかった」
「さっきからずっと上の空なんだよ」
「すまん。で、どうしたんだ?」
「とうま。何かあったのがバレバレなんだよ。何に苦しんでるのか、さっさと白状して!」
「いや、でもなあ……」
「わたしにも言えないことなの?」
「いや、むしろお前には言いにくいことというか……」
「むむ、だったらなおさら見逃すことはできないかも!」
「はぁ、わかったよ……聞いたあとで怒らないでくれよ……」
「さっきからずっと上の空なんだよ」
「すまん。で、どうしたんだ?」
「とうま。何かあったのがバレバレなんだよ。何に苦しんでるのか、さっさと白状して!」
「いや、でもなあ……」
「わたしにも言えないことなの?」
「いや、むしろお前には言いにくいことというか……」
「むむ、だったらなおさら見逃すことはできないかも!」
「はぁ、わかったよ……聞いたあとで怒らないでくれよ……」
上条は観念し、インデックスに美琴とのことを全てを話した。
「……そっか」
インデックスは静かに上条の話を聞き、上条が話し終えると、ゆっくりと話し始めた。
「とうまは、自分のせいだとおもっているんだよね」
「ああ」
「でも、とうまは悪くないよ」
「そういうことじゃねえんだよ」
「じゃあ、とうまはどうなればよかったと思っているの?」
「……わかんねえよ」
「結局のところ、とうまが、どうしたいと思うかが全てじゃないかな」
「ああ」
「でも、とうまは悪くないよ」
「そういうことじゃねえんだよ」
「じゃあ、とうまはどうなればよかったと思っているの?」
「……わかんねえよ」
「結局のところ、とうまが、どうしたいと思うかが全てじゃないかな」
インデックスの言っていることの意味がわからず、上条は呆然とインデックスを見上げていた。
インデックスは一瞬だけ寂しそうな表情をした後
インデックスは一瞬だけ寂しそうな表情をした後
「こもえのところに行ってくるね。今のとうまは一人になったほうがいいと思うから……」
上条を一人にしてあげるという選択をした。
「……すまん」
上条は、素直にインデックスの厚意に甘えることにした。
一人になったあと、上条は考えていた。
インデックスに自分自身がどうしたいと思っているのかを問われたが、それが一番わからなかった。
美琴本人は、転校することを受け入れているようだった。
それに対して、嫌だから転校するなということは、かえってよくないのではないか。
だとするなら、自分にできることは何もないのではないかとも思える。
インデックスに自分自身がどうしたいと思っているのかを問われたが、それが一番わからなかった。
美琴本人は、転校することを受け入れているようだった。
それに対して、嫌だから転校するなということは、かえってよくないのではないか。
だとするなら、自分にできることは何もないのではないかとも思える。
そう結論付けようとしたが、何一つ納得できなかった。
上条の心の中で、よくわからない感覚が暴れている。
しかし、それが何であるかが、全く見えない。
上条の心の中で、よくわからない感覚が暴れている。
しかし、それが何であるかが、全く見えない。
一人残された部屋で、上条はじっと考えていた。
突然、上条の思考を中断させるかのような音が、静かな部屋に響いた。
玄関の方で何かが落ちたようだ。
突然、上条の思考を中断させるかのような音が、静かな部屋に響いた。
玄関の方で何かが落ちたようだ。
何かに惹かれるかのように、上条はドアの郵便受けを確認する。
そこには、中に何かが入っていると思われる封筒が入っていた。
そこには、中に何かが入っていると思われる封筒が入っていた。
差出人は、御坂美琴となっている。
その文字を見た瞬間、上条は即座に封を破り、中のものを取り出した。
その文字を見た瞬間、上条は即座に封を破り、中のものを取り出した。
「なんだこれ……レコーダーか?」
封筒の中に入っていたのは、小型のボイスレコーダーだった。
その中に、音声ファイルと思われるデータが一つだけ入っていた。
その中に、音声ファイルと思われるデータが一つだけ入っていた。
上条はそのファイルを再生した。
「えーっと、どうしよ……順番に言っていけばいいのかな……」
聞き覚えのある声だ。それも、ついさっきに。
それなのにどうしてか、長い間聞いていなかったような感じがする。
その理由はきっと、レコーダーから流れてくる声の主は、記憶を失う前の美琴だからだろう。
それなのにどうしてか、長い間聞いていなかったような感じがする。
その理由はきっと、レコーダーから流れてくる声の主は、記憶を失う前の美琴だからだろう。
「じゃあまずは、黒子から……」
ある程度予想していたが、録音されているのは美琴のメッセージだった。
どこか懐かしい感じがするその声を聞くと、上条は胸の奥が暖かくなっていくような気がした。
どこか懐かしい感じがするその声を聞くと、上条は胸の奥が暖かくなっていくような気がした。
彼女の友人達へと向けられたと思われるメッセージを、上条はしばらくの間、じっと聞き入っていた。
それにしても、あらかじめ録音してあったことといい、このメッセージは遺言のように聞こえてならない。
記憶を無くすことを事前に知ってでもいたのだろうか。
だとしたら……
記憶を無くすことを事前に知ってでもいたのだろうか。
だとしたら……
「じゃあ最後に…………か、上条……当麻」
上条の思考は美琴の声で中断された。
思えば、いつも名前で呼ばれずにアンタだのこの馬鹿だの呼ばれていた気がする。
それに関しても、記憶をなくしても変わってなかったなあなどと少しだけ感慨にふけっていた上条だったが、
美琴が次の言葉を語りだしたため、そちらへと意識を戻した。
思えば、いつも名前で呼ばれずにアンタだのこの馬鹿だの呼ばれていた気がする。
それに関しても、記憶をなくしても変わってなかったなあなどと少しだけ感慨にふけっていた上条だったが、
美琴が次の言葉を語りだしたため、そちらへと意識を戻した。
「その、アンタにはいつもきつく当たっちゃってた気がするけど、あれは別に怒ってたわけじゃなくて
半分くらいはアンタのせいな気もするけど、私も悪かったとは……って、違う。こうじゃない」
半分くらいはアンタのせいな気もするけど、私も悪かったとは……って、違う。こうじゃない」
先ほどまでとは違って、上条の良く知る美琴の姿がありありと見えてくるような口調だった。
正直なところ、これまでのメッセージは完璧なまでに「お姉様」「お嬢様」といった風に思えてしまい、
どこか上条の知っている美琴とは違うかのような違和感があった。
正直なところ、これまでのメッセージは完璧なまでに「お姉様」「お嬢様」といった風に思えてしまい、
どこか上条の知っている美琴とは違うかのような違和感があった。
「ずっと、アンタにはお礼を言わなきゃと思ってた。
アンタのことだから、自分が勝手にやったことだーなんて言うんだろうけど……
それでも私は、ずっと言いそびれちゃってたけど……ちゃんとお礼を言いたかった。
こんなことが無ければ、いつか向き合って言うつもりだったんだけどね……
アンタのことだから、自分が勝手にやったことだーなんて言うんだろうけど……
それでも私は、ずっと言いそびれちゃってたけど……ちゃんとお礼を言いたかった。
こんなことが無ければ、いつか向き合って言うつもりだったんだけどね……
あの実験から、私と妹達を救ってくれて……本当にありがとう。大覇星祭のときも……
アンタには本当に感謝してる。私が今もこうしていられるのは全部アンタのおかげよ。
アンタには本当に感謝してる。私が今もこうしていられるのは全部アンタのおかげよ。
だからっていうわけじゃないけど、もし、私がアンタを助けた結果どうにかなったとしても、
気に病んだりとかしちゃだめだからね」
気に病んだりとかしちゃだめだからね」
そこで美琴の言葉が途切れたため、上条は最後の美琴の言葉について自問した。
感謝されるのは嬉しいけど、あの実験を止めたのは、美琴達がいなくなるのが嫌だったからだ。
命を助けてもらって、その結果記憶を失わせることになるのは、どう考えてもつりあっていない。
感謝されるのは嬉しいけど、あの実験を止めたのは、美琴達がいなくなるのが嫌だったからだ。
命を助けてもらって、その結果記憶を失わせることになるのは、どう考えてもつりあっていない。
「あー、その、ごめん。実は、アンタには伝えたいことがまだ残ってるの」
突然、美琴の声が復活する。どうやらメッセージはまだ終わっていなかったようだ。
「でも、ここで言うのはちょっとなぁ……
何事もなかったら回収して消せば大丈夫かな……それに、もしもの事があったらやっぱり……」
何事もなかったら回収して消せば大丈夫かな……それに、もしもの事があったらやっぱり……」
独り言の後、若干の沈黙が続く。
しばらくすると、深呼吸をしたような音が聞こえた。そして、再び美琴が語りだした。
しばらくすると、深呼吸をしたような音が聞こえた。そして、再び美琴が語りだした。
「いつからかわからないけど、アンタを見かけたら、自然と目で追うようになってた。
それで声をかけたりするんだけど、いっつもアンタはそっけない態度ばっかりとるから、
悔しくて怒っちゃって、そんなのばっかりだったから、きっとアンタには誤解されてたと思う。
でも本当は、アンタと少しでも一緒にいたかっただけで……えっとね……だから、私が言いたいのは……
それで声をかけたりするんだけど、いっつもアンタはそっけない態度ばっかりとるから、
悔しくて怒っちゃって、そんなのばっかりだったから、きっとアンタには誤解されてたと思う。
でも本当は、アンタと少しでも一緒にいたかっただけで……えっとね……だから、私が言いたいのは……
私は、御坂美琴は、
アンタの、上条当麻のことが……大好きです」
アンタの、上条当麻のことが……大好きです」
そこで、レコーダーから流れていた美琴の声が途絶えた。
上条はその場で固まっていた。
上条はその場で固まっていた。
続きが流れてこないかずっと待っていたが、やがて音声ファイルの終了部分まで来たらしく、再生が停止した。
(最後に御坂はなんて言った……? 好き……? 御坂が、俺のことを……?)
上条の全身から力が抜ける。
立ったまま聞いていたはずだが、気が付くと、膝をつくような姿勢になっていた。
立ったまま聞いていたはずだが、気が付くと、膝をつくような姿勢になっていた。
大事なものを、失ってしまった気がする。
いや、正確には、今失われようとしている。
さっきまでわからなかった胸の痛みの正体を、ようやく上条は理解した。
いや、正確には、今失われようとしている。
さっきまでわからなかった胸の痛みの正体を、ようやく上条は理解した。
どうして気が付かなかったのだろうか。
通学路で、ふと彼女と会ったときに感じた居心地の良さの原因に。
彼女を悲しませるような事の全てから、彼女を守りたいと思った本当の理由に。
わざとからかってみせて、怒られることですら楽しいと思っていた原因に。
自暴自棄になっていたときに、そばに居てくれた彼女の存在が、自分の中でこれほどまでに大なものになっていたことに。
彼女を悲しませるような事の全てから、彼女を守りたいと思った本当の理由に。
わざとからかってみせて、怒られることですら楽しいと思っていた原因に。
自暴自棄になっていたときに、そばに居てくれた彼女の存在が、自分の中でこれほどまでに大なものになっていたことに。
そして、ほんの少し、彼女との距離が開くというだけで、こんなにも辛いと感じている原因に。
「ああ、そっか。俺は……あいつの事、好きだったんだな……」
口に出した瞬間、憑き物が落ちたかのように、上条は体が軽くなるように感じた。
そして、代わりにといわんばかりに、溢れるかのように焦燥感が沸き起こってくる。
そして、代わりにといわんばかりに、溢れるかのように焦燥感が沸き起こってくる。
このままでは、美琴が遠くに行ってしまう。
通学路で、偶然彼女とすれ違うことが無くなってしまう。
たまたま立ち寄った公園で、彼女と鉢合わせするということもなくなってしまう。
通学路で、偶然彼女とすれ違うことが無くなってしまう。
たまたま立ち寄った公園で、彼女と鉢合わせするということもなくなってしまう。
本当にそれでいいのか?
そんなの、嫌に決まっている。
でも、どうすればいい。どうしようもないじゃないか。
でも、どうすればいい。どうしようもないじゃないか。
(とうまは、どうしたいと思ってるのかな)
少し前にインデックスに言われた言葉が、上条の頭の中に響いた。
「俺がどうしたいって……? そんなの、決まってる」
上条から全ての迷いが消える。
(ありがとな。インデックス)
すぐさま携帯電話を取り出すと、美琴へと電話を掛ける。
しばらくのコールのあと、美琴が電話に出た。
「もしもし?」
「御坂か!? いま、どこにいる!?」
「今? ――駅だけど、それがどうかしたの?」
「ちょっと話があるんだけど……駅? どこかいくのか?」
「ん、まあ……手続きにね」
「御坂か!? いま、どこにいる!?」
「今? ――駅だけど、それがどうかしたの?」
「ちょっと話があるんだけど……駅? どこかいくのか?」
「ん、まあ……手続きにね」
美琴は何の手続きかはあえて言わなかったが、おそらくは転校の手続きだろう。
このまま行かせてたまるか。上条はそう強く思った。
このまま行かせてたまるか。上条はそう強く思った。
「今からそっちいくから! そこから動くな!」
そう言うと電話をきり、
次の瞬間には、上条は部屋の外へと駆け出していた。
次の瞬間には、上条は部屋の外へと駆け出していた。
「動くな、っていわれてもねえ。あと数分で電車きちゃうわよ……」
「お姉様。それでしたらやはり、日を改められた方が……」
「そ、そうですよ御坂さん。いくらなんでも急すぎですよ……」
「お姉様。それでしたらやはり、日を改められた方が……」
「そ、そうですよ御坂さん。いくらなんでも急すぎですよ……」
付き添い、というよりは引きとめのため、白井と初春が美琴に同行していた。
「うーん。でも一応、今日のうちに行けって言われてるからね……」
「そんなのは学校の都合ですわ! 第一、黒子はまだ諦めておりませんのよ!!」
「ちょっと黒子、声が大きいって……」
美琴の注意により声の大きさだけは下げるが、それでも白井の説得は続いた。
美琴がなんとかなだめようとしていたると、遠くから別の声が響いた。
美琴がなんとかなだめようとしていたると、遠くから別の声が響いた。
「御坂さーん!」
声の方向を見ると、佐天涙子が駆け寄ってきている。
「佐天さんまで……」
少し困った様子をする美琴。
佐天は美琴のところまで全力で走ってくると、荒れた息を整え
佐天は美琴のところまで全力で走ってくると、荒れた息を整え
「どうして黙って言っちゃおうとするんですかああ」
「ちょっと佐天さん、落ち着いて……」
「落ち着いてなんかいられませんよ!」
「今日はちょっとした手続きにいくだけだから。いったん帰ってくるから」
「でも!」
「ちょっと佐天さん、落ち着いて……」
「落ち着いてなんかいられませんよ!」
「今日はちょっとした手続きにいくだけだから。いったん帰ってくるから」
「でも!」
佐天が何かを言おうとしたところで、間もなく電車が到着するとのアナウンスが流れる。
泣きそうな顔になる白井達をどうなだめようか美琴が悩んでいると、誰かが彼女を呼ぶ声が聞こえた。
しかし、声の方向を見ても、誰もいない。
一瞬気のせいかとも思ったが、ふと、美琴は遠くのある一点に目を奪われた。
泣きそうな顔になる白井達をどうなだめようか美琴が悩んでいると、誰かが彼女を呼ぶ声が聞こえた。
しかし、声の方向を見ても、誰もいない。
一瞬気のせいかとも思ったが、ふと、美琴は遠くのある一点に目を奪われた。
美琴達のいる駅は、周囲と比べると高い位置にあり、周囲の建物もそれほど高層でもないため、
ガラス張りになっているホームから、それなりに遠くまで見渡せるような構造になっている。
そして、その駅へと続く大きな坂道を、一人の少年が必死に走っていた。
美琴の視線は、そんな彼の姿をしっかりと捉えていた。
ガラス張りになっているホームから、それなりに遠くまで見渡せるような構造になっている。
そして、その駅へと続く大きな坂道を、一人の少年が必死に走っていた。
美琴の視線は、そんな彼の姿をしっかりと捉えていた。
――――――
上条は美琴との電話が終わった後、全力で駅に向かって駆け出していた。
待ってくれとは言ったものの、今朝の美琴の様子では、先に行こうとしてしまうかもしれない。
その場合、電車が出るまでに到着できる可能性はほとんど無い。
しかし、上条はじっとしていることなどできなかった。
幸い、美琴がいまいる駅は、上条の寮からはそれほど離れていない。
もし美琴が少しでも迷ってくれていたら、間に合う可能性は出てくる。
その可能性を信じ、上条は駅に向かって全力疾走していた。
待ってくれとは言ったものの、今朝の美琴の様子では、先に行こうとしてしまうかもしれない。
その場合、電車が出るまでに到着できる可能性はほとんど無い。
しかし、上条はじっとしていることなどできなかった。
幸い、美琴がいまいる駅は、上条の寮からはそれほど離れていない。
もし美琴が少しでも迷ってくれていたら、間に合う可能性は出てくる。
その可能性を信じ、上条は駅に向かって全力疾走していた。
全力で走ること数分、上条は駅までもうすぐというところまでたどり着いた。
ホームにいる人がギリギリ見えるくらいの位置で、その中の美琴を発見する。
ホームにいる人がギリギリ見えるくらいの位置で、その中の美琴を発見する。
「御坂!」
届くはずは無いと思いつつも、上条は叫んだ。
しかし、その声が本当に届いたのか、美琴は上条の方へと視線を向けた。
しかし、その声が本当に届いたのか、美琴は上条の方へと視線を向けた。
(間に合った!)
上条がそう思った瞬間。上条と美琴の視線を、たった今到着したと思われる電車が遮った。
間に合わなかった。
一瞬だけそう思う上条だったが、それでも諦めることはできずに、美琴のいた駅のホームへと向かう。
間に合わなかった。
一瞬だけそう思う上条だったが、それでも諦めることはできずに、美琴のいた駅のホームへと向かう。
上条が駅に入り、改札を越えている間に、電車は走り出してしまう。
そして、上条はホームへの階段を駆け上がったところで、立ち尽くしている美琴を発見した。
そして、上条はホームへの階段を駆け上がったところで、立ち尽くしている美琴を発見した。
上条が美琴のもとへと駆け寄ってくる。
そこで、美琴は自分の思考がしばらくの間停止していることに気付いた。
そこで、美琴は自分の思考がしばらくの間停止していることに気付いた。
「え? なんで?」
思えば、駅の外を走っている上条の姿を発見し、目が合ったと思ったときから、美琴は動けなくなっていた。
上条が、ただ自分のためだけに全力で向かってきている。
そう理解した瞬間、美琴は自分の胸の奥が、だんだんと熱くなってきているような気がした。
そして一瞬思考が停止し、次に動き出したときには、上条がすぐそばまで近づいてきていた。
上条が、ただ自分のためだけに全力で向かってきている。
そう理解した瞬間、美琴は自分の胸の奥が、だんだんと熱くなってきているような気がした。
そして一瞬思考が停止し、次に動き出したときには、上条がすぐそばまで近づいてきていた。
上条はそんな美琴の様子に気付くことなく、美琴に声をかけてくる。
美琴の周囲には上条も見知った顔が何人かいたが、それは完全に意識の外に追いやっていた。
美琴の周囲には上条も見知った顔が何人かいたが、それは完全に意識の外に追いやっていた。
「御坂」
「な、なによ」
「いままで俺は、自分の気持ちに気付いてなかった」
「え?」
「今朝にお前が転校するって聞いたとき、軽くショックだった。
でも、家に帰ってから考えたら、軽くどころじゃなかった。
だんだん辛くなってきて、いてもたってもいられなってきて……
そんなとき、お前のメッセージを聞いて、それでわかったんだ」
「な、なんのことよ……」
「聞いてくれ御坂。俺は、お前の事が――」
「待って!!」
「な、なによ」
「いままで俺は、自分の気持ちに気付いてなかった」
「え?」
「今朝にお前が転校するって聞いたとき、軽くショックだった。
でも、家に帰ってから考えたら、軽くどころじゃなかった。
だんだん辛くなってきて、いてもたってもいられなってきて……
そんなとき、お前のメッセージを聞いて、それでわかったんだ」
「な、なんのことよ……」
「聞いてくれ御坂。俺は、お前の事が――」
「待って!!」
上条の言葉を、突然美琴が制止した。
「今はダメ!」
「御坂? どうしたんだ?」
「御坂? どうしたんだ?」
美琴は頭を両手で押さえて、急に苦しみだした。
そして、美琴の周囲には、青白い火花が飛び散っている。
能力は使えなくなっていたはずだが、この光景はどう見ても、美琴の能力が暴走して放電現象が起きているかのように思えた。
危険な状況であるため、誰も近寄れなくなっていたが、そこへ上条が飛び込んできた。
美琴を抱きかかえながら、右手をつかって美琴の能力の暴走を止める。
そして、美琴の周囲には、青白い火花が飛び散っている。
能力は使えなくなっていたはずだが、この光景はどう見ても、美琴の能力が暴走して放電現象が起きているかのように思えた。
危険な状況であるため、誰も近寄れなくなっていたが、そこへ上条が飛び込んできた。
美琴を抱きかかえながら、右手をつかって美琴の能力の暴走を止める。
「バカ、なにやってんだ!」
「わか、わかんない……頭が急に痛くなって……うぅ」
「わか、わかんない……頭が急に痛くなって……うぅ」
そう言うと、美琴は意識を失った。
――――――
先ほどの放電の後、しばらくまっても美琴の意識が戻らなかったため、心配した白井達が美琴を病院まで運んだ。
カエル顔の医者の診察によると、特に異常はみられないとのことだったが、
能力を使ったという白井達の証言により、意識を取り戻した後で念のため検査するということで、
意識が戻るまで空いていた病室で寝かされることになった。
結局、美琴が意識を取り戻したのは、翌日になってからだった。
カエル顔の医者の診察によると、特に異常はみられないとのことだったが、
能力を使ったという白井達の証言により、意識を取り戻した後で念のため検査するということで、
意識が戻るまで空いていた病室で寝かされることになった。
結局、美琴が意識を取り戻したのは、翌日になってからだった。
「あれ……私……どうして」
ベッドの真横で待機していた白井が、美琴に声をかける。
「お姉様、よくぞご無事で……」
話しながらボロボロと涙を流し始める。
「く、黒子……大げさすぎよ」
どうしたものかと美琴が戸惑っていると、白井のすぐ隣から声がかかった。
「体とかはなんともねえのか?」
目が覚めたときには気付いていなかったが、白井の隣には上条が座っていた。
上条の姿を目にした美琴の脳内に、気を失う前の光景がフラッシュバックする。
なぜだか物凄く恥ずかしい気分になり、美琴は物凄い勢いで布団を頭からかぶった。
上条の姿を目にした美琴の脳内に、気を失う前の光景がフラッシュバックする。
なぜだか物凄く恥ずかしい気分になり、美琴は物凄い勢いで布団を頭からかぶった。
「み、御坂?」
上条が声をかけるが、反応は無い。
それでは代わりにと、後ろから様子を眺めていた佐天が割り込んできた。
それでは代わりにと、後ろから様子を眺めていた佐天が割り込んできた。
「御坂さーん、上条さんが昨日の続きをやってくれるって言ってますよー?」
「いいいいい、今はいい!」
「佐天さん、さすがに俺もここでやるのはちょっと……」
「えー? でも、ギャラリーは前とほとんど変わらないじゃないですか」
「いや、確実に倍以上いるから! それに昨日は俺もちょっとおかしかったっていうか!」
「ええい、うるさいですの!」
「いいいいい、今はいい!」
「佐天さん、さすがに俺もここでやるのはちょっと……」
「えー? でも、ギャラリーは前とほとんど変わらないじゃないですか」
「いや、確実に倍以上いるから! それに昨日は俺もちょっとおかしかったっていうか!」
「ええい、うるさいですの!」
白井に遮られ、上条と佐天は静かになる。
「お姉様、それでお加減のほうは……」
白井に問われた美琴は、ゆっくりとベッドの上に身体を起こして、腕などを動かした。
「ん、何とも無いみたい」
その言葉に、その場にいた全員が安堵する。
「あーでも、なんだか記憶があやふな感じがする……
あれ? 私って、記憶喪失になってたんだっけ……?」
「お姉様……それでは……」
「なんだか、長い夢を見てたみたいな感じがするけど……記憶は戻ったみたい」
「お姉様ああああああああ」
あれ? 私って、記憶喪失になってたんだっけ……?」
「お姉様……それでは……」
「なんだか、長い夢を見てたみたいな感じがするけど……記憶は戻ったみたい」
「お姉様ああああああああ」
美琴に記憶が戻ったということの歓喜からか、白井が美琴に抱きついた。
「こら黒子、暴れるな」
ビリッという音とともに、少しこげた感がある白井がその場に崩れ落ちた。
しかし彼女は即座に復帰し、美琴に質問した。
しかし彼女は即座に復帰し、美琴に質問した。
「お姉様、いま、能力を……」
「あーそっか。そういえばそっちもできなくなってたんだった。
でも、能力が使えないなんて今じゃ全然実感がないなあ……ちょっと確認してみるわね」
「あーそっか。そういえばそっちもできなくなってたんだった。
でも、能力が使えないなんて今じゃ全然実感がないなあ……ちょっと確認してみるわね」
美琴は両手の指先を近づけ、軽く放電を行ってみた。
初めて能力を使ったときと同じように、青白い火花が発生した。
初めて能力を使ったときと同じように、青白い火花が発生した。
「うん。能力も問題なく使えそうよ」
「素晴らしいですわ」
「素晴らしいですわ」
またしても白井は大げさに喜び始めた。
「お姉様が能力を取り戻した以上、転校話を潰すことなど、造作も無いことですわよ」
「転校……? ああ、そういえば、転校とかいうふざけた話もあったわね……誰がするかっての」
「ああお姉様。なんとも力強いお言葉……ですが、お姉様のお手を煩わせる必要はありません。
わたくしがこれから、理事会に話しをつけてまいりますわ」
「転校……? ああ、そういえば、転校とかいうふざけた話もあったわね……誰がするかっての」
「ああお姉様。なんとも力強いお言葉……ですが、お姉様のお手を煩わせる必要はありません。
わたくしがこれから、理事会に話しをつけてまいりますわ」
そういうと、白井は突然テレポートを行い、姿を消した。
「え、黒子?」
さすがに展開に美琴も戸惑っている。
そんな中、初春と佐天がヒソヒソと話しをしていた。
「いまの、なんだかいつもの白井さんっぽくない気がします……譲ったんでしょうか?」
「譲ったって……誰に?」
「それは……ほら」
「ああー……でも、白井さんがよくもまあ」
「なんだかんだで、御坂さんを救ってくれたお礼なんじゃないですかね」
「素直じゃないなあ」
「譲ったって……誰に?」
「それは……ほら」
「ああー……でも、白井さんがよくもまあ」
「なんだかんだで、御坂さんを救ってくれたお礼なんじゃないですかね」
「素直じゃないなあ」
などと話している二人の間に、婚后が割り込んできた。
彼女も美琴を心配して見守っていた一人である。
彼女も美琴を心配して見守っていた一人である。
「お二人とも。差し出がましいようですが……
もしかすると、わたくし達は席を外したほうがよいのではないでしょうか?」
「あっ、そ、そうですね」
「えー、アタシめちゃくちゃこの後気になるんだけど……」
「佐天さん、邪魔しちゃダメです」
「ちぇー」
もしかすると、わたくし達は席を外したほうがよいのではないでしょうか?」
「あっ、そ、そうですね」
「えー、アタシめちゃくちゃこの後気になるんだけど……」
「佐天さん、邪魔しちゃダメです」
「ちぇー」
話がまとまったところで、初春が美琴に声をかける。
「御坂さん、私達ちょっと飲み物を買ってきます」
そして初春達が部屋を去り、部屋には上条と美琴の二人きりになった。
「な、なんか、みんないなくなっちゃったな……」
「う、うん……」
「う、うん……」
急に部屋が静かになったため、二人とも何を話していいのかわからずに、黙り込んでしまう。
しばらくして、このままではまずいと思った上条が話を切り出した。
しばらくして、このままではまずいと思った上条が話を切り出した。
「そういや、記憶無くしてたときのことも覚えてるのか?」
「うん、少し違和感がある気がするけど……アンタには、また世話になっちゃったわね」
「んなこといったら、そもそも俺を助けるためにやってくれたことだろ」
「そうかもしれないけど……」
「前からだけど、御坂にはいつも支えてもらってて、すげえ感謝してるんだぜ」
「それは、私だってアンタにはいつも助けてもらってるし……」
「うん、少し違和感がある気がするけど……アンタには、また世話になっちゃったわね」
「んなこといったら、そもそも俺を助けるためにやってくれたことだろ」
「そうかもしれないけど……」
「前からだけど、御坂にはいつも支えてもらってて、すげえ感謝してるんだぜ」
「それは、私だってアンタにはいつも助けてもらってるし……」
お互いに礼を言い合う状態になり、なんとなく気恥ずかしい感じになったため、
上条は一度その空気を変えることにした。
上条は一度その空気を変えることにした。
「そ、そういえば、どうして急に記憶が戻ったんだろうな」
「……」
「……」
記憶が戻った原因。美琴には、なんとなく理由がわかっていた。
「たぶん、記憶が無くなったのは、私が逃げてたからだと思う」
「逃げてた?」
「うん。あのときは、能力をギリギリまで使いすぎて、意識がどこかあやふやになってたんだと思う。
しかもあのときは、アンタと会うのが怖くなっちゃってたから」
「怖いって……俺、お前に何かしたのか?」
「だって、アンタはいろんな女の子と仲良くしてたし、特にあの時は……って、そんなことより」
「逃げてた?」
「うん。あのときは、能力をギリギリまで使いすぎて、意識がどこかあやふやになってたんだと思う。
しかもあのときは、アンタと会うのが怖くなっちゃってたから」
「怖いって……俺、お前に何かしたのか?」
「だって、アンタはいろんな女の子と仲良くしてたし、特にあの時は……って、そんなことより」
これ以上は自らの嫉妬の話になってしまうため、美琴は逸れてきた話を戻そうとする。
「記憶が戻ったのは、駅でアンタが……その……あんなことするから」
思い出して恥ずかしくなったのか、上条は黙って美琴の言葉を聞いている。
「あの時は凄く嬉しかった。でも、私は、記憶を無くしてる状態じゃなくて、「私」の状態でいるときに、
アンタの言葉を聞きたかった。ちょっとしたワガママかもね」
アンタの言葉を聞きたかった。ちょっとしたワガママかもね」
おそらくは、美琴はあの場で上条が告白してくるのだと察していた。
しかし、美琴としては、記憶を無くしている状態ではなく、一つ一つ想いを積み重ねてきた普段の状態で告白を受けたかったのだ。
なお、記憶を失っていた期間もまた大事な思い出であるため、元の記憶が戻ったときに失われることはなく、
大事な記憶として元の記憶に統合されたのだろう。
しかし、美琴としては、記憶を無くしている状態ではなく、一つ一つ想いを積み重ねてきた普段の状態で告白を受けたかったのだ。
なお、記憶を失っていた期間もまた大事な思い出であるため、元の記憶が戻ったときに失われることはなく、
大事な記憶として元の記憶に統合されたのだろう。
「ねえ。昨日の続き……言ってよ」
甘えるような表情で、美琴が上条に言う
「わ、わかった」
上条は思わず唾を飲み込むと、真剣な表情になって美琴と向き合った。
美琴もそんな上条を見て、緊張して全身を固くしている。
美琴もそんな上条を見て、緊張して全身を固くしている。
「わりい、あのときは何を言おうとか、いろいろと考えてたんだけど忘れちまったよ。
……だから、単刀直入に言うぞ」
……だから、単刀直入に言うぞ」
上条は美琴の手の上に自分の手をゆっくりと重ねながら、告げる。
「御坂……好きだ」
美琴は涙を浮かべつつ、上条の手を握り返した。
「うん、私も……好き」
ポロポロと涙をこぼす美琴。
そんな彼女がどうしようもなく愛おしくなって、上条はそっと美琴を抱き寄せた。
そんな彼女がどうしようもなく愛おしくなって、上条はそっと美琴を抱き寄せた。
「お前が転校するって聞いたとき、どうしようもないくらい辛くなった」
「アンタなんか、何度も何度も死にそうになってたじゃない。どれだけ心配したと思ってんのよ……」
「わりい。でも、もうお前に思いはさせねえから……だから」
「だから?」
「お前も、もうどこへも行かせねえからな」
「こっちのセリフよ。馬鹿……」
「アンタなんか、何度も何度も死にそうになってたじゃない。どれだけ心配したと思ってんのよ……」
「わりい。でも、もうお前に思いはさせねえから……だから」
「だから?」
「お前も、もうどこへも行かせねえからな」
「こっちのセリフよ。馬鹿……」
二人はそのまま抱き合いながら、ようやく掴んだ幸せをかみしめていた。