面会謝絶の札がかけてある病室。突然敬語で話し出す美琴。
上条は、ある可能性について、美琴に問いかけずにはいられなかった。
上条は、ある可能性について、美琴に問いかけずにはいられなかった。
「もしかして……俺の事、覚えてないのか……?」
美琴はその問いかけに、ビクッとした反応を見せる。
そして、黙りこんだまま返事を返すことはなかった。
そして、黙りこんだまま返事を返すことはなかった。
その反応を見た上条の胸の中には、不安だけが広がっていく。
自分を助けた代償として、御坂は記憶を失ってしまったのだろうか。
自分を助けた代償として、御坂は記憶を失ってしまったのだろうか。
言葉が見つからず、表情を暗くしていく上条。
そんな上条を見た瞬間、美琴は一瞬何かを決意したような表情をした後、急に明い声で話しかけた。
そんな上条を見た瞬間、美琴は一瞬何かを決意したような表情をした後、急に明い声で話しかけた。
「なーんちゃって」
「……は?」
「んなわけないでしょー、ちゃんと覚えてるわよ。
ここにいたのはちょっと頭が痛かっただけよ。
……あ、もしかして、私がアンタのこと覚えてないって思ってビビッた?」
「……は?」
「んなわけないでしょー、ちゃんと覚えてるわよ。
ここにいたのはちょっと頭が痛かっただけよ。
……あ、もしかして、私がアンタのこと覚えてないって思ってビビッた?」
その口調は、上辺だけ聞く分には、いつもの美琴のものと違いはなかった。
しかし、上条は、美琴の声の中の、微妙な違和感に気付いていた。
しかし、上条は、美琴の声の中の、微妙な違和感に気付いていた。
美琴の声には、ほんのわずかにだが、緊張と怯えが混ざっている。
上条は、この状況でどうしてそんな声になるのかを知っていた。
なぜなら、上条は過去に、そんな声を出したことがあったからだ。
上条は、この状況でどうしてそんな声になるのかを知っていた。
なぜなら、上条は過去に、そんな声を出したことがあったからだ。
「……やめろよ」
「やめるって、何をよ?」
「そんなことしても、お前が苦しむだけだ」
「……アンタ、もしかして私が覚えてる振りしてるとでも思ってんの?」
「やめるって、何をよ?」
「そんなことしても、お前が苦しむだけだ」
「……アンタ、もしかして私が覚えてる振りしてるとでも思ってんの?」
そんな美琴の仕草の一つ一つが、どれもが同じように見えた。
記憶を無くした事を隠そうとしていた、かつての自分自身の姿と。
記憶を無くした事を隠そうとしていた、かつての自分自身の姿と。
上条は、美琴が記憶を失っていることを直感で確信していた。
それはつまり、以前の彼女にはもう会えないということになる。そう思うと途方もない喪失感に襲われる。
同時に、自分の病気を治した代償に、彼女の記憶が失われたようにも感じられ、大きな自責の念にかられる。
それはつまり、以前の彼女にはもう会えないということになる。そう思うと途方もない喪失感に襲われる。
同時に、自分の病気を治した代償に、彼女の記憶が失われたようにも感じられ、大きな自責の念にかられる。
しかし、もし美琴が記憶を失って、そのことを隠し通そうとしているのなら、上条にはやらなくてはいけない事があった。
彼女の記憶を奪った責任ということもあるが、それ以上に、かつて間違った道を歩んでしまった経験者として。
彼女の記憶を奪った責任ということもあるが、それ以上に、かつて間違った道を歩んでしまった経験者として。
「なあ、記憶喪失の人間が、周りにそれを隠して生きていこうとしたら、どうなると思う?」
「しつこいわね。私は覚えてるって――」
「じゃあ例えでいい」
「……さあ。よくわからないわね。そのうちボロが出ちゃうんじゃないかしら」
「うまくやれば出ないかもしれねえぜ。でもな、それって割と大変なんだよ」
「……」
「みんながさ、自分に話しかけてるのに、それが自分じゃない奴に話しかけてるように感じるんだ。うまくいえねえけど……」
「……まるで見てきたかのようなことを言うのね」
「ああ、だって俺がそうだったからな」
「しつこいわね。私は覚えてるって――」
「じゃあ例えでいい」
「……さあ。よくわからないわね。そのうちボロが出ちゃうんじゃないかしら」
「うまくやれば出ないかもしれねえぜ。でもな、それって割と大変なんだよ」
「……」
「みんながさ、自分に話しかけてるのに、それが自分じゃない奴に話しかけてるように感じるんだ。うまくいえねえけど……」
「……まるで見てきたかのようなことを言うのね」
「ああ、だって俺がそうだったからな」
美琴は、上条のその言葉を聞き、息を飲んだ。
「ちなみに、お前は俺が記憶喪失だって知ってたぜ」
美琴は「しまった」という表情をした後、諦めたように上条の疑いを認める。
「はぁ……私、演技力無いのかしら」
「いいや、いつもの御坂そのまんまだったぜ」
「でも、アンタは気付いたじゃない」
「……ま、経験者だからかな」
「そっか……アンタは、隠したりしなかったんだ」
「あー……いや……」
「?」
「知ってたのはお前と、あとほんの少しだけだ。一応まだ踏ん切りがつかねえから、黙っててくれると助かる」
「へえ。そんな奴が、私に偉そうに説教してたわけね。ま、私は別に言いふらしたりはしないから安心しなさい」
「すまん」
「いいや、いつもの御坂そのまんまだったぜ」
「でも、アンタは気付いたじゃない」
「……ま、経験者だからかな」
「そっか……アンタは、隠したりしなかったんだ」
「あー……いや……」
「?」
「知ってたのはお前と、あとほんの少しだけだ。一応まだ踏ん切りがつかねえから、黙っててくれると助かる」
「へえ。そんな奴が、私に偉そうに説教してたわけね。ま、私は別に言いふらしたりはしないから安心しなさい」
「すまん」
美琴はしばし、呆れたように上条を眺めていたが、やがて少しだけ笑い、答えた。
「わかったわよ」
それは、上条の助言通り、記憶喪失であることを隠すのをやめるという意味だった。
美琴は言葉を続ける。
美琴は言葉を続ける。
「まあそんなに深く考えなくても、そのうち、ふと治るかもしれないしね」
上条は美琴の「治る」という単語に反応する。
「記憶が戻るのか!?」
美琴は突然の上条の勢いに驚きつつも、なんとか現状について説明する。
「う、うん。なんか、お医者さんの言ってることだと、頭にはどこも異常なんか無いらしいの。
症状としては、情報が無くなってしまったわけじゃなくて、何かのきっかけで昔の記憶に繋がらなくなったっていう可能性が高いんだって」
「……そっか」
症状としては、情報が無くなってしまったわけじゃなくて、何かのきっかけで昔の記憶に繋がらなくなったっていう可能性が高いんだって」
「……そっか」
美琴の記憶は戻る。
そのことは、上条に想像以上の安堵感を与えていた。
上条は、美琴の記憶喪失の原因が自分にあると思い、
心の片隅では、こんなことになるなら自らの命を絶っておけばよかったとまで思い始めていた。
心の片隅では、こんなことになるなら自らの命を絶っておけばよかったとまで思い始めていた。
しかし、美琴の記憶が戻るというなら話は別だ。
美琴の記憶が治りさえすれば、みんなが無事で乗り切ったというハッピーエンドに落ち着けることができる。
美琴の記憶が治りさえすれば、みんなが無事で乗り切ったというハッピーエンドに落ち着けることができる。
自らの希望もこめて、上条は言った。
「記憶、早く戻るといいな」
「そうね……」
「そうね……」
少しの間、沈黙が続いた。
先に話し出したのは、美琴だった。
先に話し出したのは、美琴だった。
「ところでさ」
「ん?」
「話変わるけど、アンタと私って、どういう関係だったわけ?」
「ん?」
「話変わるけど、アンタと私って、どういう関係だったわけ?」
少し不安になりながら、美琴は上条に尋ねた。
美琴としては、友達と返されるのであればまだいい、
ただ、面会謝絶のはずのところに一番に来られたということや、
相当に親しげにしている様子から、ひょっとしたら恋人だった可能性もあると思っていた。
もしそうなら、非常に気まずいことになってしまう。少なくとも今の自分の心には、彼への恋愛感情は宿っていないのだ。
美琴としては、友達と返されるのであればまだいい、
ただ、面会謝絶のはずのところに一番に来られたということや、
相当に親しげにしている様子から、ひょっとしたら恋人だった可能性もあると思っていた。
もしそうなら、非常に気まずいことになってしまう。少なくとも今の自分の心には、彼への恋愛感情は宿っていないのだ。
「んー、関係ねえ。……友達、いやケンカ友達?……とか戦友とかかなあ」
美琴は上条の返事にホッとする。どうやら杞憂だったようだ。
「ふうん、ケンカ友達かあ。じゃあさ、アンタとやりあったら記憶が戻ったりするのかしら」
といい、美琴は不敵に笑う。
一方上条は、美琴が想像していた以上に過剰に反応した。
一方上条は、美琴が想像していた以上に過剰に反応した。
「おいちょっと待て! ここは病院だぞ! 電撃なんか出したら……」
「電撃?」
「ん? ……ああそっか、そこも覚えてねえんだな。
電撃ってのはお前の能力のことだよ。学園都市の超能力者の第3位で、常盤台の超電磁砲とか呼ばれてたんだぜ」
「へえ……」
「電撃?」
「ん? ……ああそっか、そこも覚えてねえんだな。
電撃ってのはお前の能力のことだよ。学園都市の超能力者の第3位で、常盤台の超電磁砲とか呼ばれてたんだぜ」
「へえ……」
美琴は自分の手を見つめ、何かを念じるかのような仕草を繰り返した。
上条は不審に思って問いかける。
上条は不審に思って問いかける。
「なにやってんの?」
美琴は少しがっかりしたような、そして寂しげな表情を浮かべた後、上条の質問に答えた。
「……あはは。なんか、能力の使い方も忘れちゃったみたい」
上条は、美琴のその言葉を聞いた瞬間に完全に固まってしまう。
「な、なによ。いくらなんでもびっくりしすぎじゃない?」
美琴が話しかけても反応は無い。
「おーい?」
数秒の後、上条はうめくように言葉を発した。
「……すまん」
「え?」
「俺のせいだ」
「え?」
「俺のせいだ」
記憶を失う前に上条の病気を治していた、ということを、美琴はカエル顔の医者から聞かされて知っていた。
そのため、上条が記憶喪失の責任は自分にあると思い込んでいることを、美琴にはすぐにわかった。
そのため、上条が記憶喪失の責任は自分にあると思い込んでいることを、美琴にはすぐにわかった。
「はぁ? 何言ってるのよアンタ。
それじゃあアンタは、あのまま死んでた方がよかったって言うの?」
「それは……」
「アンタが後悔したりなんかしたら、それは記憶を失う前の私に失礼なんじゃない?」
それじゃあアンタは、あのまま死んでた方がよかったって言うの?」
「それは……」
「アンタが後悔したりなんかしたら、それは記憶を失う前の私に失礼なんじゃない?」
上条はそれ以上言葉を続けられず、ただ俯くだけになってしまう。
「それにさ、記憶だってそのうち戻るかもしれないんだし。能力だってすぐに戻るかもしれないでしょ」
たしかにそうだ。全て元通りになるという可能性もまだある。
そして、上条にはそれにすがるしかできない。
そして、上条にはそれにすがるしかできない。
「ほら、そんな暗い顔してたら、アンタが病人みたいじゃない」
「……一応、俺も入院してたんだけどな」
「あれ、そうだっけ?」
「この思いっきり病院用の服見ればわかるだろ!?」
「……一応、俺も入院してたんだけどな」
「あれ、そうだっけ?」
「この思いっきり病院用の服見ればわかるだろ!?」
自分の着ている服を指差しながら主張する上条。
そんな反応を見て、美琴は苦笑する。
そんな反応を見て、美琴は苦笑する。
「少しは元気出たみたいじゃない」
「……全く。お前、本当に記憶なくなったのかよ。前の御坂と話してる時と何もかわんねえんぞ」
「そっか、こんな感じでやればいいのね」
「たぶん、友人にはもうちょっと控えたほうがいいぞ……」
「わかってるわよ」
「……全く。お前、本当に記憶なくなったのかよ。前の御坂と話してる時と何もかわんねえんぞ」
「そっか、こんな感じでやればいいのね」
「たぶん、友人にはもうちょっと控えたほうがいいぞ……」
「わかってるわよ」
お互いに軽口を叩き合った後、二人は同時に笑い合った。
「……きっと、すぐに直る」
「ん、ありがと」
「ん、ありがと」
その言葉に何の根拠も無いことなど二人ともわかっていた。
しかし、美琴は特に指摘したりせず、しばしの間二人は無言で時間を過ごしていた。
しかし、美琴は特に指摘したりせず、しばしの間二人は無言で時間を過ごしていた。
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それから数日、美琴は経過を見るために入院を続けていた。
入院中、以前からの友人達が代わる代わるお見舞いに来ていたが、美琴はその都度記憶喪失になったこと素直に打ち明けていた。
最初は戸惑い、悲しんでいた友人達だが、すぐに気を取り直し、なんとかして美琴を励ませるようにと、いろいろと気を遣ってくれていた。
美琴も最初のうちは気構えていたが、友人達の努力もあって、すぐに打ち解けることができていた。
入院中、以前からの友人達が代わる代わるお見舞いに来ていたが、美琴はその都度記憶喪失になったこと素直に打ち明けていた。
最初は戸惑い、悲しんでいた友人達だが、すぐに気を取り直し、なんとかして美琴を励ませるようにと、いろいろと気を遣ってくれていた。
美琴も最初のうちは気構えていたが、友人達の努力もあって、すぐに打ち解けることができていた。
そして、状態は変わらないまま美琴は退院して寮に戻ることになったが、
学校から「大事をとって休んでいるように」との連絡を受け、当分は寮で休養という扱いとなった。
記憶を失っている美琴としては、記憶を失う前の級友達に一斉に説明しなくてすむ分では気は楽だったが、
かといってただ休んでいるという気分にはならず、自主的に能力を取り戻す努力を行っていた。
学校から「大事をとって休んでいるように」との連絡を受け、当分は寮で休養という扱いとなった。
記憶を失っている美琴としては、記憶を失う前の級友達に一斉に説明しなくてすむ分では気は楽だったが、
かといってただ休んでいるという気分にはならず、自主的に能力を取り戻す努力を行っていた。
ただ、一人でずっとこもりっきりでは辛いだろうと、放課後の時間帯は毎日のように友人達に遊びに連れ出されていた。
この日は、最も頻繁につるんでいる白井黒子、初春飾利、佐天涙子と2人で遊びに出ていた。
この日は、最も頻繁につるんでいる白井黒子、初春飾利、佐天涙子と2人で遊びに出ていた。
途中で風紀委員である白井と初春が呼び出されてしまったため、美琴は佐天と雑談しながら道を歩いていた。
「そのときの御坂さん、すっごかったんですよ! もう一瞬でスキルアウト達をビリビリー! って!」
「そ、そうなんだ……」
「そ、そうなんだ……」
楽しそうに過去の武勇伝を語る佐天。しかし、美琴はそのときの事を思い出せないので、とりあえず相槌を打つしかできない。
自分の知らない自分の武勇伝を語られるというのも変な感じがする。
そんな美琴を尻目に、佐天は話しながらも何かを発見したようだ。
自分の知らない自分の武勇伝を語られるというのも変な感じがする。
そんな美琴を尻目に、佐天は話しながらも何かを発見したようだ。
「あ、あそこのクレープ屋さん!」
前方にクレープ屋を目指し、佐天が駆け出した。
あわてて美琴も佐天を追いかける。
あわてて美琴も佐天を追いかける。
「御坂さん。クレープ食べません?」
「ん……そうね。ちょうどお腹もすいてきたところだったし」
「ん……そうね。ちょうどお腹もすいてきたところだったし」
美琴は佐天の提案を受ける。
クレープを注文したのち、2人は近くにあったベンチに腰かけ、クレープを食べていた。
クレープを注文したのち、2人は近くにあったベンチに腰かけ、クレープを食べていた。
「このクレープ屋さんも、前に来たことがあるんですよ」
食べながら、佐天が話し出す。
「あの時、白井さんが大変だったんですよ。御坂さんのクレープを食べようとして」
「あはは……あの子はずっとそんな感じなのね……」
「てことは、今もそうなんですか?」
「んー、まあね。ちょっと過剰なスキンシップを求めてくるような感じ……」
「白井さんも変わりませんねえ。
……でも、今の御坂さんって能力を使えないんですよね? 撃退できないと危なくないですか?」
「危ないって……」
「あはは……あの子はずっとそんな感じなのね……」
「てことは、今もそうなんですか?」
「んー、まあね。ちょっと過剰なスキンシップを求めてくるような感じ……」
「白井さんも変わりませんねえ。
……でも、今の御坂さんって能力を使えないんですよね? 撃退できないと危なくないですか?」
「危ないって……」
美琴は、白井は以前と変わらないやり方で接してくれていて、普段がアレだったのだと思っていたが、
ひょっとして手加減されているのではないか。もしかするとより過激になるのではないか、と、美琴は軽い戦慄を覚えた。
ひょっとして手加減されているのではないか。もしかするとより過激になるのではないか、と、美琴は軽い戦慄を覚えた。
そのような感じで2人で雑談をしていると、突然誰かの声が割り込んでくる。
「ねえねえ君達。ちょっと俺らと遊ばない?」
声をかけてきたのは、いかにもガラの悪そうな男達だった。
「け、けっこうです!」
若干怯えながらも、佐天が即座に反応する。
「そんなこといわずにさー」
そんな佐天の反応を見て、不良達は調子づく。
さらに不良が一歩近づこうとしたところで、美琴が割り込んだ。
さらに不良が一歩近づこうとしたところで、美琴が割り込んだ。
「ちょっと! 嫌だって言ってんのがわからないの!?」
美琴の迫力に気圧され、男たちが一瞬怯む。
「佐天さん。行こ」
美琴は佐天の手を取り、その場を去ろうとした。
しかし、
「まあまあ、とりあえず話くらいいいじゃん」
男達の中の何人かが、美琴達の進路に立ちふさがる。
その中の一人が美琴たちに手を伸ばそうとしたとき
「何やってんだお前ら!」
別の声が割り込んできた。
聞き覚えのあるその声の方向を見ると、そこには上条が立っていた。
聞き覚えのあるその声の方向を見ると、そこには上条が立っていた。
ガラの悪い男達は、上条の割り込みに気分を害したようで
「ああ!? なんだてめえ、邪魔しようってかあ!?」
乱暴な口調で次々と威嚇を始める。
しかし、上条は彼らの言葉に一切怯むことはなく、ただじっと男達を見据えている。
そんな上条の態度にしびれを切らした一人が、上条に対して掴みかかろうとするが、
そこへさらなる乱入者が現れた。
しかし、上条は彼らの言葉に一切怯むことはなく、ただじっと男達を見据えている。
そんな上条の態度にしびれを切らした一人が、上条に対して掴みかかろうとするが、
そこへさらなる乱入者が現れた。
「ジャッジメントですの! あなた達、ここで何をしていらっしゃいますの!?」
白井黒子が乱入する。
「ジャッジメントか……チッ、面倒だしもういいや」
「ケッ、命拾いしたな」
「ケッ、命拾いしたな」
男達はジャッジメントという単語を聞くと、上条に対して捨て台詞を吐きながらその場を去った。
白井と上条は、男達が去っていくと同時に、美琴達に駆け寄った。
「お姉様。ご無事ですか?」
「ん、私達は何とも無いわよ。……ありがと。アンタもね」
「ん、私達は何とも無いわよ。……ありがと。アンタもね」
美琴は、白井や佐天よりは少し離れたところに立っていた上条に礼を言った。
「別に、俺は大したことはしてねえよ」
ぶっきらぼうに答える上条。
「いやいやー、あのときの上条さん、かっこ良かったですよ。ねえ御坂さん?」
記憶を失う前の美琴の事情をいろいろと知っている佐天が、若干からかい混じりで話しだした。
しかし、予想していたのとは違った美琴の表情を見て、佐天は次の言葉を続けられなかった。
美琴の表情は、一言でいうなら「申し訳ない」という感じだった。
しかし、予想していたのとは違った美琴の表情を見て、佐天は次の言葉を続けられなかった。
美琴の表情は、一言でいうなら「申し訳ない」という感じだった。
美琴は上条と白井に問いかける。
「助けてくれたことには純粋にありがたいって思ってるけど……アンタ達、さすがに出てくるのが早すぎない?」
「お、お姉様。私はジャッジメントとして通報を聞いて駆けつけただけで……」
「コイツからのでしょ?」
「お、お姉様。私はジャッジメントとして通報を聞いて駆けつけただけで……」
「コイツからのでしょ?」
美琴は肩をすくめながら言う。
「そ、それは……」
「ごめん。責める気はないのよ」
「ごめん。責める気はないのよ」
美琴が退院した後、上条と白井は常にといっていいほど美琴の護衛のようなことを行っていた。
最初のうちは普通に一緒に話していることが多かったのだが、上条が実は進級がかかっている補習をサボっており、
白井もジャッジメントの仕事を無視してまで一緒にいることが発覚し、美琴がその事を咎めまくったことがある。
そのとき以来、上条と白井は互いのスケジュールを確認しあい、美琴の様子をこそこそと伺うようなことをし始めていた。
最初のうちは普通に一緒に話していることが多かったのだが、上条が実は進級がかかっている補習をサボっており、
白井もジャッジメントの仕事を無視してまで一緒にいることが発覚し、美琴がその事を咎めまくったことがある。
そのとき以来、上条と白井は互いのスケジュールを確認しあい、美琴の様子をこそこそと伺うようなことをし始めていた。
「何度もいうけど、アンタ達にずっと張り付いて守ってもらわなくても、私は大丈夫だから」
「ですがお姉様……もしもという事もあり得ますので……」
「ですがお姉様……もしもという事もあり得ますので……」
美琴は白井の反論を聞き流し、上条に詰め寄った。
「アンタも、今日は補習とか大丈夫なんでしょうね?」
突然話を振られ、目を逸らす上条。
この反応からすると、またサボっている可能性が高い。
この反応からすると、またサボっている可能性が高い。
「どうしてそこまでして……」
と言いかけて、美琴は言葉を飲みこむ。
上条は今の美琴の記憶喪失の原因を作ったのは自分であると思っている。
だから自分の都合を二の次にするという理由が理解できないわけではない。ただ、納得ができない。
上条は今の美琴の記憶喪失の原因を作ったのは自分であると思っている。
だから自分の都合を二の次にするという理由が理解できないわけではない。ただ、納得ができない。
「私はアンタたちにそこまで守られなくても、自分でなんとかできるから……」
何度も行ってきた説得だった。
たしかに今の自分は超能力を使えなくなってはいるが、それでも今のようなことだったら切り抜けられる自信はある。
だから、上条にこれほどまでに負担をかける必要はないのだ。
たしかに今の自分は超能力を使えなくなってはいるが、それでも今のようなことだったら切り抜けられる自信はある。
だから、上条にこれほどまでに負担をかける必要はないのだ。
「わかってるって。今日もたまたま近くにいただけだから」
しかし、上条の反応はこの通り。
「嘘ね。今回で何回目だと思ってんのよ」
「……お前な。逆にこっちこそ言わせてもらうけど、今日で何回目だと思ってんだ!
今日みたいなのは仕方ねえけど、それ以外にもお前は普段から揉め事に首を突っ込みすぎなんだよ!」
「……お前な。逆にこっちこそ言わせてもらうけど、今日で何回目だと思ってんだ!
今日みたいなのは仕方ねえけど、それ以外にもお前は普段から揉め事に首を突っ込みすぎなんだよ!」
事件の野次馬や喧嘩の仲裁など、美琴は記憶を失う前から危険な事に首を突っ込むことが多かった。
記憶を失った後でも、その習性、性格は変わっておらず、危なさそうな人を見かけると、すぐに介入し、
それを心配して近くに潜んでいた上条や白井がフォローを行う、ということが多くなっていた。
記憶を失った後でも、その習性、性格は変わっておらず、危なさそうな人を見かけると、すぐに介入し、
それを心配して近くに潜んでいた上条や白井がフォローを行う、ということが多くなっていた。
「だから、私一人でも──」
「そりゃあ、前のお前だったら」
「そりゃあ、前のお前だったら」
上条の呟きが、美琴の言葉を遮った。
言ってすぐにまずいと思ったのか
言ってすぐにまずいと思ったのか
「すまん。今のは聞かなかったことにしてくれ」
上条は詫びる。
しかし、美琴黙って俯いてしまい、その場には沈黙が流れる。
しかし、美琴黙って俯いてしまい、その場には沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、はらはらとしながら様子を見守っていた佐天だった。
「だ、大丈夫ですよ。御坂さんはレベル1からレベル5に駆け上がった努力の人なんですから、きっとすぐに能力も取り戻せますって!」
「佐天さん……ごめんね、心配かけて」
「佐天さん……ごめんね、心配かけて」
佐天に礼を言うと、美琴は上条に向き直り、ビシリ、と指を突きつけた。
「いいわ、アンタがそこまでいうなら、とっとと能力が使えるようになってやるわよ。それで文句ないんでしょ!?」
「御坂、俺は別に……」
「うるさい! いつまでもナイト気取りでなんかいさせてやらないんだから。
あっという間に力を取り戻してやるから、覚悟しておくことね!
……いこ、佐天さん」
「御坂、俺は別に……」
「うるさい! いつまでもナイト気取りでなんかいさせてやらないんだから。
あっという間に力を取り戻してやるから、覚悟しておくことね!
……いこ、佐天さん」
美琴は佐天の手をとって歩き出す。
上条と白井は、そんな2人の姿をただ見送っていた。
上条と白井は、そんな2人の姿をただ見送っていた。
---
「はぁ……」
「あの、御坂さん。白井さん達も御坂さんのことを思ってやってくれてることですし」
「……うん、そうよね。確かに、あの子達が心配してくれてるのはありがたい事だとは思ってるわ。
でもね……なんか悔しいのよ」
「あ、それわかります。……アタシもそうだったから」
「佐天さんも?」
「アタシ、レベル0だから、みんなで一緒に事件を追ってたりしたときも、
危なそうになると、付いてきちゃ駄目って言われるんですよ」
「事件を追う、かぁ……佐天さんもなかなか凄いことしてるのね」
「あの、御坂さん。白井さん達も御坂さんのことを思ってやってくれてることですし」
「……うん、そうよね。確かに、あの子達が心配してくれてるのはありがたい事だとは思ってるわ。
でもね……なんか悔しいのよ」
「あ、それわかります。……アタシもそうだったから」
「佐天さんも?」
「アタシ、レベル0だから、みんなで一緒に事件を追ってたりしたときも、
危なそうになると、付いてきちゃ駄目って言われるんですよ」
「事件を追う、かぁ……佐天さんもなかなか凄いことしてるのね」
その美琴の言葉を聞いた佐天が少し吹き出す。
「御坂さんは、アタシなんかと比べ物にならないくらい、いろんな事件に首を突っ込んでたみたいですよ」
「そ、そうなんだ……」
「上条さんが心配するのもわかるなー」
「そ、そうなんだ……」
「上条さんが心配するのもわかるなー」
佐天はわざとらしく上条の名前を出して美琴の様子を伺う。
「アイツかあ。まあ、アイツのおかげでいろんな気苦労を負わずに済んだのは確かなんだけど……」
「ですよねですよね! さっきも御坂さんをかっこよく助けてくれましたし!」
「佐天さん、褒めすぎよ。アイツ、出席日数足りなくって進級ヤバイらしいのに……
もしこれで留年なんかしちゃったら、私のせいじゃない」
「でも、御坂さんって上条さんにとっては命の恩人ですから。そのくらい覚悟の上かもしれませんよ?
……それに、ひょっとしたら、もっと他の理由もあったりしたりして……」
「ですよねですよね! さっきも御坂さんをかっこよく助けてくれましたし!」
「佐天さん、褒めすぎよ。アイツ、出席日数足りなくって進級ヤバイらしいのに……
もしこれで留年なんかしちゃったら、私のせいじゃない」
「でも、御坂さんって上条さんにとっては命の恩人ですから。そのくらい覚悟の上かもしれませんよ?
……それに、ひょっとしたら、もっと他の理由もあったりしたりして……」
ニヤニヤしながら何かを想像し始めた佐天を放置して、美琴は軽い愚痴のようなものをこぼした。
「それにしたって、いくらなんでも過保護すぎるわよ。
もはやしつこいというか……こないだなんか夢にまで出てきたし……」
「夢!?」
もはやしつこいというか……こないだなんか夢にまで出てきたし……」
「夢!?」
美琴が小さく呟いた単語を、佐天は見逃さなかった。
「夢に上条さんが出てきたんですか!?」
「へ?」
「へぇ~。うんうん、やっぱりそうなんですね」
「へ?」
「へぇ~。うんうん、やっぱりそうなんですね」
何やら勝手に納得し始める佐天。
美琴にも彼女がどういう想像をしているのかは予測できたので、あわてて否定を始める。
美琴にも彼女がどういう想像をしているのかは予測できたので、あわてて否定を始める。
「た、たまたま夢に出てきただけだから! 別に私はアイツのことなんとも思ってないし!」
しかし佐天は何も言わず、「わかってますって」と言いたそうな表情で笑みを浮かべていた。
「あーもう! 佐天さん! 私帰り道こっちだから!」
丁度よく、2人の帰路が分かれる場所に来ていたため、美琴は逃げるように走り出した。
---
「全く、佐天さんったら……」
寮に戻った後、気分転換も兼ねて、美琴は能力開発関連の書籍を読みふけっていた。
美琴は今は能力が使えず、その鍛え方も一切わからない状態になっている。
そのため、なにかヒントはないか、と部屋にある参考書をひたすら読むことが日課になっていた。
しかし、先ほどの佐天との会話がチラチラと頭をよぎり、あまり集中できていなかった。
美琴は今は能力が使えず、その鍛え方も一切わからない状態になっている。
そのため、なにかヒントはないか、と部屋にある参考書をひたすら読むことが日課になっていた。
しかし、先ほどの佐天との会話がチラチラと頭をよぎり、あまり集中できていなかった。
(佐天さんからはそう見えるのかもしれないけど、多分、これは違う)
上条のことをどう思っているか。このことについては、美琴は入院中からあれこれと考えていた。
アイツがお見舞いに来て、一緒に喋っていたとき居心地がよかったのは確かだ。
そして、割と頻繁に夢に出てくるのも確かだ。
しかし、夢の中ではいつも喧嘩ばっかりしているので、色恋とはちょっと違う気がする。
それに何より、恋愛感情というのはもっと圧倒的なもので、相手の事を思ってはいてもたってもいられなくなる。
そのくらいのものだろうと、美琴は漠然と想像していた。
なぜそう考えるのかははっきりとしない。
漫画や小説を読んだ経験から、いつの間にか作られてイメージかもしれない。
もしかすると失った記憶にそのようなものがあったのかもしれない。
ただはっきりと言える事は、今の自分は上条にそこまでの感情は抱いていないということだ。
アイツがお見舞いに来て、一緒に喋っていたとき居心地がよかったのは確かだ。
そして、割と頻繁に夢に出てくるのも確かだ。
しかし、夢の中ではいつも喧嘩ばっかりしているので、色恋とはちょっと違う気がする。
それに何より、恋愛感情というのはもっと圧倒的なもので、相手の事を思ってはいてもたってもいられなくなる。
そのくらいのものだろうと、美琴は漠然と想像していた。
なぜそう考えるのかははっきりとしない。
漫画や小説を読んだ経験から、いつの間にか作られてイメージかもしれない。
もしかすると失った記憶にそのようなものがあったのかもしれない。
ただはっきりと言える事は、今の自分は上条にそこまでの感情は抱いていないということだ。
「ええい、そんなことはもういいから、集中集中」
美琴は再び参考書に目を落とす。
自分の感情の問題より、まずは能力を取り戻さなければならない。
上条も言っていたように、能力さえ取り戻せば、彼や白井に余計な心配をかけずにすむ。
それに、もしかすると、能力を取り戻すことがきっかけになって、記憶も取り戻せるかもしれない。
自分の感情の問題より、まずは能力を取り戻さなければならない。
上条も言っていたように、能力さえ取り戻せば、彼や白井に余計な心配をかけずにすむ。
それに、もしかすると、能力を取り戻すことがきっかけになって、記憶も取り戻せるかもしれない。
美琴が黙々と参考書を読んでいると、突然、ドアがノックされた。
同時に、寮監が部屋に入ってくる。
同時に、寮監が部屋に入ってくる。
「御坂、少し話があるからきてくれ」
そのまま寮監の部屋に連れられた美琴は、椅子に座って寮監と向かい合いながら、無言の時間を過ごしていた。
(なんだろう……このプレッシャー……)
記憶がないとしても、体が覚えているのだろうか。
美琴はなんとも言えない恐怖を感じていた。
一方寮監は、以前の記憶の無い美琴にはわからなかったが、普段の姿とは違い、決まりの悪い表情を浮かべ、発言をためらっていた。
美琴はなんとも言えない恐怖を感じていた。
一方寮監は、以前の記憶の無い美琴にはわからなかったが、普段の姿とは違い、決まりの悪い表情を浮かべ、発言をためらっていた。
「御坂」
ようやく寮監が口を開く。
「能力は使えるようになったか?」
「……いえ」
「…………そうか」
「……いえ」
「…………そうか」
寮監は一度目を瞑り、一呼吸したあと、美琴に大して強いまなざしを向けた。
どうやら、何かを話す覚悟が固まったらしい。
どうやら、何かを話す覚悟が固まったらしい。
「今日、常盤台の理事会でお前に関する審議が行われた。その結果を伝える」
「理事会?」
「そうだ。……だがその前に。御坂、常盤台の入学条件は覚えているか?」
「……はい」
「理事会?」
「そうだ。……だがその前に。御坂、常盤台の入学条件は覚えているか?」
「……はい」
常盤台は、最低でもレベル3の能力を持っていなければ入学することはできない。
「しかし、お前は今だレベル0だ。よって学校は、そのような状態のお前の出席を認めることはできない」
美琴に対する出席禁止措置は、彼女を気遣ってのものではなかったようだ。
「そして、中学生に対しそのような制限を長く続けることは、社会的に問題とされる可能性がある。
つまりだ、もしこのままお前に能力が戻らなかった場合……」
つまりだ、もしこのままお前に能力が戻らなかった場合……」
一呼吸おき、寮監は告げた。
「……お前には、この学区から離れた、どこかの学校へ転校してもらうことになる」