とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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青いカーネーションの花言葉




どこにでもある街のお花屋さん。本日はそのお花屋さんにとって、一年で指折りの『忙しい日』だ。
5月の第2日曜日は「母の日」。そう、カーネーションの売り上げが、粉塵爆発を起こす日なのだ。
この日だけでもバイトが欲しいと思う店舗も少なくなく、店員さん達は在庫確認と接客に追われている。

そしてここにも、店員を忙しく働かせ、花屋の売り上げに貢献しようとしている親子連れが一組。
30~40代らしきツンツン頭の男性と、その娘と思われる10歳前後の少女だ。
二人は店の前で、腕を組みながら仁王立ちしている。

「……いいか麻琴。本当の勝負はこれからだぞ…?」
「うん…分かってるよパパ…!」

お花なんてファンシーな物の代名詞を購入するとは思えない程、二人には気合が込められている。
心なしか、バックでは炎が燃えている気さえする。イノケンティウスさんでもいるかのようだ。

「いつもママにはお世話になりっぱなしだもんなぁ…できるだけ、いいのを選んであげたいよな?」
「うん! ママ、喜んでくれるといいなぁ~!」

どうやら、二人の気合の入り所はそこにあるらしい。
大好きなママに少しでも幸せになってもらいたいという、家族の愛である。

二人は意を決して、店の中に足を踏み入れた。

やはり店内は混雑していた。
さほど大きい店舗ではなかったが、それでも人通りが絶える事はなかった。
次々に売られていくカーネーション。
それでも売り切れにならないように、店員がせかせかと倉庫から出しては、すぐに店頭に並べている。

出されては売られ、出されては売られを繰り返すカーネーションを見つめながら、二人は悩んだ。
「どの色にしようか」、と。
カーネーションは意外と色のバリエーションが多く、
特に父親の方は「赤いのしかない」と思っていたようで、軽くショックを受けている。

「ねぇパパ、どれにする? どれが一番、ママが喜んでくれる?」
「う、う~ん…そうだな……いっそ、全色買っちゃうってのは―――」
「それはちょっと、センスが無いと思う」
「―――ですよねー」

娘にセンスを疑われ、アッサリと引き下がる父である。

「やっぱりママの好きな色がいいんじゃない?」
「ママの好きな色か…確か緑だったよな? 緑、緑…あ、ダメだ。緑はねーわ」

緑色のカーネーションもない事はないのだが、珍しいタイプなので大型店でないと売っていない。
なので仕方なく、今ある物から選ぶ。

「じゃあ、麻琴の好きな色を買おうか」
「いいの? あたしのじゃないのに」
「大丈夫。麻琴が選んでくれた物なら、ママ絶対喜ぶから」

父親にそう言われ、「ホント~?」と返しながらも、顔は、にへら~とさせる娘。

「じゃあね! じゃあ、あたし青がいい!」
「ん! 青ならいっぱいあるな」

そんなこんながあり、青いカーネーションの花束を買った親娘なのであった。


母親は、洗濯物のシーツを取り込みながら、変にニヤニヤしている夫と娘を怪訝な顔で見つめていた。

「えっ…何?」
「えへへ~、ママ! 今日は何の日だ!?」

娘の問いに、母は首をひねる。5月11日…それは何か特別な日だっただろうかと。
こどもの日…は一週間ほど前に祝った。自分の誕生日…も5月2日に祝ってもらった。
しかし今日は特に何かイベントはない筈である。

「んー…ごめんギブ。何の日なの?」

母の答えに満足し、娘は後ろに隠し持っていた花束を母親の前に差し出した。

「ジャーン! 今日は『母の日』だよ! ママ! いつもお家のお仕事ありがとう!」
「つー訳で、今日はママは家事お休みだ。
 残りは俺がやっとくから、ママはテレビ観ながらお茶でも飲んでなさい」

夫が朗らかに笑いながら、残りの洗濯物を引き継ぐ。

「ああ、そっか! 今日って第2日曜か……」

毎日家事をやっていると、曜日の感覚が鈍ってくるものである。
本日が母の日なのだと、今やっと気づいた母であった。

差し出された花束を受け取り、そのまま娘を抱き締めて、母はその精一杯の愛情で包み込んだ。

「ありがと~麻琴ちゃん! ママすっごく嬉しい!」
「ホント!? ねぇホント!?」
「もっちろん! アナタもありがとうね!」
「気にすんなって! こんな時でもないと、感謝の言葉って言いにくいからさ」

そして振り向きながら、干してある衣類を無造作に洗濯かごに詰め込む夫にも礼を言う。
そんな事したらシワになるのだが、今の母は機嫌がいいので気にならなかったりする。

「ねぇねぇどう!? 色はあたしが選んだんだよ!」
「うん! とっても綺麗!」

淡く青いその花は、陽の光に照らされ優しく輝いていた。
ちなみに青いカーネーションの花言葉は―――



「はー、美味しかったー!」
「ごちそうさま、アナタ」
「おう、お粗末さん」

この日の昼食は夫が作り、「今日はママは家事お休み」を有言実行していた。
空になった食器をカチャカチャと重ね、そのままキッチンまで持っていく。

「そういえば、アナタの手料理って久しぶりに食べたわね」
「そうだっけか?」

母はキッチンに向かって、食器を洗い始めた夫に背中越しに話しかける。

「たまには作ってよ」
「いや~、でもやっぱママの作ったモンの方が美味いからなぁ…」
「え~? …あ、じゃあ麻琴ちゃんの意見も聞いてみましょうか」

母は娘の方に振り向き、尋ねてみた。

「ねぇ、麻琴ちゃん。麻琴ちゃんもたまには、パパの作る物が食べたいわよね?」

すると娘は腕を組み、その問いを真剣に考える。

「んー…パパのもママのも、どっちも食べたいっていうのはダメ?」

娘の答えに、両親はたまらず吹き出す。

「ぷっ! そっか、麻琴ちゃんはどっちも食べたいんだ」
「あはは! 麻琴は欲張りだな」
「えーっ!? ダメなの~!?」

午後の空気は和やかに流れるのであった。



「あっ、そうだ。ママ、ちょっといいか?」
「なぁに?」

洗い物の途中だが、夫は妻を呼び出した。
夫はエプロンで手を拭くと、ズボンのポケットから小さな箱を取り出す。

「カーネーションとは別にプレゼント。昨日たまたま、ママに似合いそうなヘアピン見つけてさ」
「えっ、い、いいの? この前、誕生日プレゼント貰ったばっかなのに…」
「いいのいいの。その為にお小遣い切り詰めてたんだから」

恥ずかしそうに頭を掻く夫に、妻は薄紅色に顔を染め、思わず夫を抱き締めていた。
先程に娘を抱き締めた時とは、少し違う愛情を込めて。

「……ありがとう。すごい嬉しい…」
「ん…まぁ、その…喜んで貰えたんなら……俺も嬉しいけど…」

ほんのり甘い空気が二人を包む。トクントクンという、お互いの心臓の音が混じり合っていた。
しかしここで、両親が抱き合っている姿を見た娘が、

「あー、いいなー! あたしもギュ~ってしたーい!」

とブーたれてきた。夫と妻は互いに見つめ、クスッと笑う。

「いいわよ。麻琴ちゃんもいらっしゃい」
「ほら、おいで。麻琴」
「わーい! むぎゅ~~~っ!」

この瞬間、妻は頬を緩めつつ心の底からこう思っていた。
青いカーネーションの、その花言葉の意味―――

(「永遠の幸福」…って、こういう事を言うんでしょうね………なんてね♪)









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