とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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ドリンク・トリップ・ハニートラップ




「迂闊」…美琴の脳裏に浮かんでいた言葉は、正にその二文字だった。

その日、常盤台中学の二年生は合同体育でマラソンをしたのだが、
周りからの「当然、御坂様なら一着でゴールなられるのでしょうね」という期待の目と、
食蜂の「そうよねぇ。御坂さんって私と違って、運動力『だけ』は抜群だしぃ」という煽りに耐え切れず、
マラソンでやってはいけない事ベスト5には入るであろう、
「スタートからゴールまで全力疾走」をして他の生徒をぶっちぎったのである。

だがそのおかげで現在絶賛疲労困憊中であり、寮に帰った彼女は、
部屋の冷蔵庫に入っていた栄養ドリンクを一気飲みしてしまったのだ。
自分の物では無い…という事は必然的に、ルームメイトである白井の物だったのだろう。
しかし勝手に飲んでしまっても白井は怒るような小さい器ではないだろうし、
後で謝ってお金を払えばいいかと、疲れていた美琴はそれに手を出してしまったのだ。

結果、確かに疲れは吹っ飛んだ気がした。
だが代わりに、美琴の体は疲労以上の状態異常に襲われていたのだ。

「はぁっ! はぁっ! ……な、何、コレ!? 体…が…熱、い…?」

全身の火照りが止まらない。
少し動くだけで体は「ピクン」と跳ね、思わずイケナイ部分が「きゅん…」としてしまう。
これはまさか…

「もしか、して…これ……黒子、の…『パソコン部品』…!?」

白井は品名に『PC部品』と書かれた【ぎそうした】怪しげな薬品を何度もお取り寄せしている。
これまでは美琴も警戒していた為、何だかんだと回避してきたのだが、
白井本人が風紀委員の仕事でいない今、どうやら飲んでしまったらしいのだ。
その、『PC部品』を。

おそらくは、白井が以前にスポーツドリンクに仕込んだ薬と同じ物だろう。
しかも白井ですらドリンクに紛らわせて薄めた薬を、事も有ろうに一本丸々原液で飲んでしまった。
その効果は先に述べた通りだ。即効性、持続力は勿論、効力その物も非常に強力である。

美琴は自分自身に電撃を与え、どうにかなってしまいそうな体と頭を刺激し、
無理やりにでも働かせる。

「はぁ…はぁ……とにか、く、ここか、ら、離れな、きゃ…」

万一こんな状況を白井に見られたら、何をされるか分かった物ではない。
それどころか美琴自身もこの状態で迫られたら、
白井にやぶさかでなく身を委ねてしまう可能性も無きにしも非ずだ。
理性が働いている内に、どこか誰もいない場所で、この火照りを『発散』させる必要がある。
…どのようにして『発散』させるかは、まぁ、うん。察してあげてほしい。

美琴は一歩一歩ゆっくりと足を動かしながら、部屋を出る。
目指すは近くのビジネスホテルだ。

「んっ! あ、くっ…! はっ、ん! ぁんんっ!!!」

が、歩くたびに身体は敏感に反応してしまう。
果たして彼女は、無事にホテルまで辿り着く事は出来るのだろうか。


 ◇


美琴はフラフラしながらも、第七学区の街を歩いていた。
寮から出て僅か200mの歩き慣れた道を、たっぷり10分もの時間をかけて、ゆっくり進む。
足をガクガクさせつつも、気を抜かないようにしっかりと理性を保つ。
だが目的のビジネスホテルは、まだ先だ。

「ホン…トに、厄、介…ね……はぁ、はぁ…こ、の薬…!」

気力を振り絞り、飲んでしまった薬に対して、悪態を一言漏らす。
黙っていると身体の疼きが激しくなってしまいそうで、
とりあえずこうやって何とかして、ギリギリ冷静さを保っている状態だ。
逆に言えば、それほどまでに切羽詰っている状態でもあり、
何かを切っ掛けに緊張の糸が切れてしまう恐れは充分にあるとも言える。

そして直後、その不安は的中する事となる。


目的地であるホテルまであと数十メートルまで差し掛かった所に、一軒のネットカフェがある。
そこを通り過ぎようとした瞬間に彼女は、ある意味で、
今もっとも会いたくない人物に声をかけられたのだ。

「どうした美琴? もしかして、どこか調子が悪いのか?」

美琴の様子が明らかにおかしい事を一目で見抜き、買い物帰りらしくレジ袋を両手にブラ下げ、
有難迷惑にも心配して声をかけてきたのは、美琴の想い人でもある少年、上条であった。

―――そして―――ふと―――目が合った―――瞬間―――美琴の―――理性は―――

「おい、美こt――――――――っ!!!?」
「んっ♡ れお…ちゅっぷ♡ くちゅくちゅ…んっぁっ♡ ちゅるちゅるっ♡」

上条には、何が起こったのか一瞬分からなかった。
絶対に有り得ないであろう美琴の行動と、それに伴って生じた自分の体験が、
余りにも予想の範囲外だった為に脳が現実に追いついていないのだ。

突然だった。突然上条は、美琴に唇を奪われたのだ。しかも所謂ディープ・キスである。
美琴の舌は容赦なく上条の口内に侵入し、クチュクチュと卑猥な音を立てながら上条の舌と絡み合う。
口の中で唾液が、泡立つ程に激しく。
ちなみにこれが、上条にとってのファースト・キスであった。そして勿論、美琴にとっても。

「っっっっっぶはっ!!! ちょ、み、みこ、みこ、美琴さんっ!!?
 こここ、これはちょっと冗談じゃ済まされませんですことよ!!?」

無事脳内で演算が終了し、自分の身に何が起きたのか整理がついた上条は、
人生最大級の赤面をしながら美琴を引き剥がす。
まだ物足りなそうにヒクヒクしている美琴の唇と舌からは、先程まで絡んでいた二人の唾液が、
「ツツー…」と糸を引き、まるで吊り橋のような形を成していた。

「やぁらぁ………もっろぉ~…」

はぁはぁと荒い息をしながら、まさかの催促【おねだり】。
美琴の目の中にはハートマークが浮かび上がって(いるような気がして)おり、
尋常でない事態が進行中である事が分かる。

魔術か超能力かは謎だし、誰が何の為にこんな事をしたのかも知らないが、
とりあえず『美琴は明らかに精神操作されている』と確信した上条は、右手で美琴の頭に触れてみる。

………おかしい。何も起きない。いや、それどころか、

「あんっ!♡ アンタに触られるだけで…すごく…ドキドキしちゃう………
 もっと…もっと触って!? 私の色んな所……アンタに…触れてほしいの…」

何故か症状が悪化した。
異常事態である事は間違いないのだが、しかしどうやら異能の力は働いていないらしい。
理屈に関係なく問答無用で異能の力を打ち消せる上条にとって、それは逆に厄介である。

(ど、どうする!? 冥土帰し【いつものいしゃ】に診せるか!? いやでも今は…)

確かに、現状では医者に診せるのが一番なのだろう。だが今はそれが出来ないのだ。
上条御用達の病院は、ここから更に歩かなければならない。
「救急車を呼ぶ」、という手もあるが、救急車と言えど呼んだ瞬間に来てくれる訳ではない。
電話してから到着するまでの数分間に、美琴が『何を仕出かしてしまうか』分かったものではないのだ。
しかし早急にここを離れた方が良いのは確かだ。何故なら、

「うわっ…街中でやるか普通?」
「アレって常盤台の制服じゃない? お嬢様でもあんな事するのね」
「チッ…! 男の方、爆発しろ!」
「エッロいなオイ…AVの撮影か何かか?」
「通報しますた」
「お姉ちゃーん。あの人たち何してるの?」
「しっ! 見ちゃいけません!」

いつの間にか周りがザワついている。まぁ、当然だろう。
こんな人通りの多い場所で、路チューでベロチューなどしていたら目立つに決まっている。

上条は、これからどうすればいいのかという問題を保留【さきおくり】して、
とりあえず目の前のネットカフェに、美琴を引き連れて避難した【にげこんだ】のだった。
『人目につかない場所』という利点が、実は墓穴である事など、
事を焦っている上条は気づかなかったのである。


ネットカフェに急いで入った上条は、美琴を連れて直ぐ様個室に逃げ込んだ。

受付を済ませている間にも美琴は不自然なまでにくっついており、
抱き付きながら上条の耳を甘噛みしつつ、息を吹きかけたり耳元で「ねぇ、早くぅ…♡」と囁いたりと、
本当にもうやりたい放題だった。
店員もあからさまに不振な目で見つめていたが、店内でイチャつくカップルはさほど珍しくもないので、
意外とすんなり通された。

「さて、と。とりあえずどうすっかなああぁっ!!?」

個室に入り、上条はこれからどう行動を取るべきかを考えようとした矢先の事だった。
二人きりになった瞬間、突如その場で美琴に押し倒されたのだ。
上条は知る由も無いが、美琴は怪しげな薬の効果で、もはや我慢の限界を迎えていたらしい。
道端でバッタリと好きな人に会い、理性を放り出してしまった美琴ではあるが、
それでも今までは人目についていた事もあり、自分を抑えていたのだ。

そう。『アレ』でもまだ抑えていた方なのである。恐ろしい事に。

だが今は二人っきりで個室。邪魔は入らない。
つまり美琴を抑えていたリミッターは、たった今、完全に外れてしまったのだ。

美琴は上条に馬乗りになり、制服のボタンを一つずつ外していく。
しかしそれを、紳士()である上条が黙って見ている訳もなく、
最後のボタンを外そうとした美琴の手を掴み、阻止した。

「ちょおおおお!!! みみ、みこ、美琴さん!!? 何をしようとしていらっしゃるので!?
 そ、そ、そういう事は上条さん、イケナイと思うな~!? もっと自分を大切にだな!」

しかし上条の説得も意味を成さず、美琴は瞳を潤ませながら一言。

「……抱いて?」

上条と対話をせずに、一方的に自分の要求を伝える。
…いや、要求と言うより欲求と言った方が正しいか。
心の中の天使と悪魔の戦いに、思わず悪魔の応援をしてしまいそうになる上条だが、
首をブンブンと振り回し、どうにかこうにか理性を保つ。

「い、いいか美琴? 落ち着いて聞けよ? お前は今、明らかにおかしな事になってんだ。
 だからその感情も本当の気持ちじゃなくてだな、つまり―――」

上条が再び説得を試み始めた。だがその瞬間、美琴がとんでもない行動に出た。
小さく「うるさいなぁ…」と呟くと、急に上条をギュッと抱き締めた。そしてそのまま、

「うりゃ~、ビリビリ~!」
「おがががががががっ!!!?」

そのまま放電したのだ。いつの日か、初めて上条との勝負に勝った、あの時のように。
上条は意識はあるものの痺れて動けなくなり、その隙に美琴は、
今度は上条の制服を脱がしにかかったのだ。

「ぐっ! み、美琴! それ、は、マジで駄目、だって!」
「だ~い丈夫よ。私だって初めてなんらから~」
「そう、いう! 意味じゃな、くて! 好きな奴以、外と、こ、んな事は、だな!」
「ならいいじゃない。私アンタの事…好きだもん」
「いや、だ、から! それは美琴、の身に、何、かが起こ、って、るからであ、って!
 本、当に俺の事が好、き、な訳じゃ、な――――――っっっ!!!!?」

痺れて途切れ途切れに言葉を紡ぐ上条の口を、二度目のキスで黙らせる美琴。
そして口を離した美琴は、トドメの一言を上条に告げる。

「……お願い、もう…我慢できないの」


上条は思わず生唾を呑み込んでしまった。
正直、美琴の事は可愛いと思っているし、紳士と言えども女の子にここまでされてしまったら、
DTには抗う事は出来ない。
しかも今ならば、「痺れて動けませんでした」という免罪符もオマケで付いてきている。
辛うじて右手首から上は動くが、それだけでは自分の体に触れられず、
全身の痺れを取り去る事は不可能だ。
そして美琴に起きている異常事態も、異能の力以外の働きによる物の為、
仮に触れられても意味が無い。
大声を出して助けを呼ぼうにも、舌の痺れで途切れ途切れにしか話せず、
しかも個室内にしか聞こえない程度の音量しか発せないときたもんだ。
つまり、今の上条には、例え下心が無くとも、美琴に身を任せる他には何も出来ないのである。
まぁ…下心は思いっきりあるようだが。

お互いに半裸の状態で、美琴がそのまま覆い被さってきた時、上条も覚悟(?)を決めた。
だが次の瞬間、上条は驚くべき事態を目の当たりにする事となる。

「……? あれ、美琴?」
「……………すー…くー」

美琴は上条に覆い被さったまま、可愛らしい寝息を立てていた。
何と言うか、想像してた展開と違うのである。

忘れているかも知れないが、元々美琴はマラソンで疲れていたのだ。
そしてここまで緊張状態が続いて気を張っていたが、ここにきて限界を迎えたのだ。
いや、『そっちの意味』での限界ではなくて、だ。
人間の三大欲求の内の二つ、性欲と睡眠欲がピークになり、結果、睡眠欲が勝ったのだった。
上条にとっては『不幸』な事に。

自分の胸に横たわりながら、幸せそうな寝顔で「むにゃむにゃ」と言っている美琴を見つめながら、
上条はポツリと呟く。

「助か、った…のか?」

安堵と、ほんの少しの残念さを混ぜながら、大きな溜息を吐く上条。
未だに全身の痺れは取れず、何がなにやら分からない事件だったが、
とりあえず自然と解決したらしい。

「とりあ、えず、美琴、が起きた、ら、話を聞け、ばいい、か……」

そう言い残し、上条も目を瞑る。
動けない以上、今はただ何も考えず、この数分で一気に消費した体力を回復させるのが先決だ。

上条は美琴に抱き締められたまま、夢の世界へと旅立つのであった。











































「不純異性交友している男女が入って行ったって通報があったのはこの店じゃん?」
「そのようですわね。全く嘆かわしいったらありゃしませんの!」
「あっはっは! まぁ、若いんだし気持ちも分かるじゃんね」
「教師たる貴方がそのような事を仰っては、問題になりますわよ!?」
「まぁまぁ、そういきり立つなじゃん?
 こうして腕利きの風紀委員と警備員がいるんだし、相手も懲りるじゃんよ」
「とっ捕まえて反省するような輩でしたら楽なのですけども…
 はぁ…どこのどちらさんかはご存知ありませんが、
 お姉様の爪の垢でも煎じて飲ませて差し上げたいですわよ!」
「案外、中にいるのはその『お姉様』だったりするかもじゃんよ?
 報告によれば、女性の方は常盤台の制服を着ていたとの情報もあるみたいじゃん」
「縁起でもない事を仰らないでくださいまし!!!
 お姉様はそのような不埒で不届きで破廉恥な淫春行為など致しませんわよ!!!
 もし仮に万が一そのような行為に及んだとしても、その相手はこのわたくしが―――」
「ああ、はいはい。分かったじゃん。
 じゃあさっそく、その不埒で不届きで破廉恥な淫春行為をしてる奴らをしょっぴきに行くじゃんよ」

外でそんな会話が繰り広げられているとは露知らず、
上条は僅かな時間だけ眠りに就くのであった。
数十秒後、とんでもない不幸が待ち受けている事など知る由もなく―――









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