とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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終章その後 甘くて優しい話の前に辛くて厳しい現実が




一見どこにでもある喫茶店のオープンテラスで食蜂は、
当たり前の食材を使って当たり前のプロが当たり前に美味しく作ったレアチーズケーキを食べていた。
11月も半ばを迎えて、そろそろ外の空気が冷たく感じてくる季節であるが、
食蜂はここからの眺めが気に入っているらしく、頑なにテラス席から離れようとはしなかった。

普段の彼女からは想像出来ないほどに柔らかい笑みを浮かべ、
何か『優しい記憶』を思い出しながら、ケーキを口に運ぶ。
しかしそんな緩やかで心地の良い午後は、
突如として隣の席に現れた女によって、ぶち壊される事となる。

芹 「『彼』が入院しているからって、病院を眺めながらニマニマしているのはどうかと思うけど。
   お前のやっている事を世間では何と言うか知っているか? それは『ストーカー』と言うのだけど」

食蜂は思わず、「ガヂッ!」と手にしていたフォークを強く噛み、
自分の世界に浸る時間を潰してくれたその者の名を、忌々しそうに呟く。

食 「…雲川芹亜ぁ……何の用件力かしらぁ?
   できる事なら、あなたとは顔を合わせたくも無いし口もききたく無いんだけどぉ?
   って言うかぁ! 別に病院を眺めてた訳じゃないしぃ!
   その手前力にある公園を眺めてたのよぉ!」

確かに、この喫茶店の目の前には、一台の車が停まった小さな公園がある。
そこはかつて、雲川の陰謀によって上条が食蜂のぱんつを脱がそうとした公園だったりするのだが、
まぁ、それは置いといて、道を挟んだその奥に、カエル顔の医者がいる病院があるのだ。
食蜂の言っていたように、彼女は確かに公園の方を見ていたのかも知れないが、
奥の病院とも無関係ではなさそうなので、雲川は疑わしそうにジト目で食蜂を睨む。

芹 「ふ~~~ん…?」

食 「なっ、何よぉ! その疑心力に満ちてる目はぁ!? 本当なんだからねぇ!
   それと質問には答えなさいよぉ! あなた、何しに来たのぉ!?
   まぁた、わざわざ暗殺力の高い手駒まで用意してぇ!」

気付けば食蜂の胸の真ん中には、レーザーポインターが当てられている。
どうやら、また間抜けなグラサン暗殺者とやらがこちらを狙っているようだ。

芹 「お前と対峙するんだ。警戒は必要だけど。
   それに私がここに来たのは、頼まれてたビジネスの結果をお前に伝える為なんだけど?」

食 「ビジネスぅ?」

芹 「『ストロビラ』だよ」

言うと雲川は、鞄から髪の毛よりも細い繊維状の物を取り出した。

芹 「詳しく調べたが、やはりコイツの中には何のデータも入って無かったけど。
   つまり、お前と『彼』との思い出は紛れも無い本物だったという訳だな。
   アー、ホントウニヨカッタネー!」

食 「……その情報力、今更すぎて何の価値も無いんだけどぉ?
   それと心の底から気持ちの込もって無い祝福の言葉をどうもありがとぉ!」

再びいがみ合う巨乳と巨乳。
しかし雲川がふと何かに気付き、公園の方に目を向けた。食蜂も釣られてそちらを向くと、

食 「み、御坂さんっ!?」


そこにはベンチの上で仰向けになりながら漫画を読む、もう一人の常盤台のレベル5の姿があった。
先程までは、手前に停めてあった車が邪魔で奥のベンチまで見えなかったが、
いつの間にかその車もどこかへと行っており、その奥の様子が見えるようになったのだ。
雲川の考察によれば、

芹 「あれは…楽しみにしていた新刊が発売されてたけど寮に帰るまで我慢できなくて、
   帰る途中でいい感じのベンチを見つけたから座って読み始めたが、
   首を下に向けて読むのに疲れてしまい、『じゃあ仰向けになって読もう』と思い立った…
   というところだろうけど」

らしい。まるで見ていたかのような雲川の観察眼に、若干引く食蜂である。
しかし、異変はそれで留まらなかった。『誰か』が、ベンチ近づいて行ったのである。
食蜂と雲川の二人は、思わずその『誰か』を凝視した。
お互い息を呑み、会話も忘れる程に集中して。

公園の奥の病院。
先程説明をしたが、そこはカエル顔の医者がいる病院だ。
そしてそこには、今、「とある患者」が入院している。
そう、最初に雲川が話した『彼』である。

『彼』はリハビリついでに病院を出て、散歩をしていたのだった。
そして散歩の途中で食蜂達がいる喫茶店の前の公園を通ったところ、
何かに気付いて急いで駆けつけて行ったのだ。
美琴が仰向けで漫画を読んでいる、そのベンチに。

上 「あれ? お前、そんなトコで何をやっているんだ?」

近づいたその『彼』が美琴に話かける。
急いで行った割には、特に何もなさ気な声のトーンだった。
しかし対する美琴は、急に話しかけられてテンパりだす。

美 「のぉわああああっ!!! な、ななな何よ! 急に話しかけないでよ!
   こ…心の準備とか、そういうのが色々と………ごにょごにょ…」

いつもは「スルーするな」とか言っているくせに、
声をかけられたらかけられたで、この体たらくである。
会話をするだけで心の準備が必要とか、どんだけ余裕が無いのか。

上 「いやぁ、話しかけんなっつっても…いや……うん、お前がいいんならいいけどさ。
   別にこんなの言う義理はないんだし……
   ああ、うん……でも、やっぱりこれは駄目だよな」

いつもの『彼』らしくない口ごもり方に、眉をひそめる美琴。

美 「何よ。言いたい事があるなら、ハッキリ言いなさいよね」

上 「じゃあ言うけど…お前、大の字で寝転がっているから、
   ここから見るとスカートの中がすごい事になっているぞ。
   全体的に袋とじにしておきなさいっていうか」

美 「は? スカートの中なんて短パン穿いてるから―――」

『彼』のツッコミに返そうとした美琴だったが、彼女は瞬時に今朝の出来事を思い出し、口が止まった。
実は今朝、登校中に白井から「いいかげんその短パンを穿くクセを何とかしてくださいまし!」と、
短パンの部分だけ強制的に脱が【テレポート】され、そのままだったのだ。
つまり現在スカートの下は、現役JCの生おパンツが露になっている、という事だ。
そこに気付いた美琴は、

美 「んにゃあああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!!!///」

と顔全体を真っ赤にさせて、手に持っていた漫画本も放り投げ、
慌てて立ち上がってスカートを押さえる。
しかしかなり慌てていたせいでバランスを崩し、足がもつれた美琴は、
そのまま『彼』の腕にガシイ!! と絡みつく。直後、『彼』もまた赤面した。


上 「当たってる! なんか腕にお前のが当たってるんだって!!」

美 「うううううっさいわねっ!!! こっちはそれどころじゃないのよ!!!///」

上 「たとえどんなに慎ましくても、女性の胸は女性の胸なんだっ!」

美 「んだとゴルァッ!!! アンタ私にケンカ売ってんの!?」

ゼィゼィと息を切らせながら、言い争う美琴と『彼』。
その後もしばらく口喧嘩は続いていたが、それもやがて落ち着いた。

上 「はぁ、はぁ…何つーか前から思ってたけどさ、お前って俺と同じで不幸体質なんじゃあ……」

美 「……え…? ア…アンタと同じ…?///
   って! 何をトキメいてんのよ私はっ! いや、トキメいてなんかないけどさ!」

上 「ほら~、何かやっぱ俺と同じにおいだよ。心配だから、ちょっとコレ持っとけ」
   病院で『ご自由にお取りください』って置いてあったヤツだから、気にしなくていいぞ」

そう言いながら『彼』が入院用のパジャマのポケットから取り出したのは、
防災向けのホイッスルだった。

上 「ヤバくなったらそいつを使えよ。ひょっとしたら、助けてやれるチャンスも増えるかもしれない」

こんな物でも『彼』からのプレゼントだ。
美琴は先程とは少し意味合いの違う赤面をしながらそれを受け取り、

美 「あ……ありが、と…///」

と呟く。しかしこんな態度を続けていたら、
流石の『彼』でも自分の気持ちに気付いてしまうんじゃないかと思い直し、気丈に振る舞う。
実際は、その程度で気持ちに気付ける程、『彼』の鈍感力は甘くはないのだが。

美 「あ…あー! こんな物、本当に役に立つのかしらねー!」

しかし気丈に振る舞って「私は何も感じてませんよ」アピールをする為に、
ホイッスルを口に咥えた結果、

上 「さあな。でも普通に悲鳴を出すよりも喉を傷めないで済むぞ。
   さっき試してみたけどかなりうるさい音が出たし」

ぴひゅるえっっっ!!!??? と、とんでもなくひずんだ音を公園に鳴り響かせてしまった。

美 「なっ、ばっ、それ、か、かか、間、接……キッ…キキキキキーっ!!!!!///」

上 「うおう、どうしたっ!!?」

美琴が急に爆発した理由など分かる訳もない『彼』は、この状況に、ただただアワアワするのだった。

そして、その様子の一部始終を喫茶店から見ていた食蜂は、
とんでもない既視感を覚えながら、こめかみに血管を浮き上がらせていた。
隣の雲川も何か思うところがあるようで、青筋を立てながら話しかける。

芹 「……なぁ、もはや我々がいがみ合っている場合では無い気がするのだけど…!」

食蜂も応える。

食 「あらぁ、奇遇力ねぇ…私もそう思っていたところよぉ……
   敵の敵は味方って事かしらぁ…?」

瞬間、二人は何の合図もしていないのに、同時に飛び出して突撃した。

食 「うおりゃああああああああ!!!」

芹 「どうりゃああああああああ!!!」

キャラ崩壊する程の雄叫びを上げながら突進した先は、
勿論、美琴と『上条当麻』がいる公園のベンチ、である。

一方、雲川の命令で今までずっと食蜂を狙っていた暗殺者は、
スコープとサングラス越しにこの騒動を見ており、最後に一言こう漏らした。

土 「カミやん……お前、どんだけだぜい…」










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