キス魔条ドラキュラ
第五学区。
ここは大学や短大などが多い学区であり、
その性質上、居酒屋などの未成年が利用できない施設も多い。
『彼ら』が今どんちゃん騒ぎをしているのも、そんな居酒屋の一室なのだが、
その片隅で御坂美琴は少々居心地が悪そうに、一人寂しくウーロン茶をチビチビと飲んでいた。
(どうすんのよ…この惨状……)
美琴の目の前に広がるのは、
「あれ~? ちょっと~、お酒が足りらいじゃんよ~! ビール追加してくれじゃ~ん!?」
「黄泉川先生。ちょっと飲みすぎ。いくら何でも。羽目を外し………むにゃむにゃ」
「おいこら姫神! 私の膝を枕代わりに寝ないんでほしいんだけど!?
…あっ、でも上条当麻なら話は別だけど」
「おいおい先輩~…ボクはカミやんやあらへんよ?
でもでも、先輩がええんやったら遠慮なくゲブラァッ!!!」
「教育的指導!なのです! 全くもう…いいですか皆さん? お酒は飲んでも飲まれるな、なのですよ?
先生のように適度な量を嗜むのが大人としてのですね―――」
「そうは言っても小萌先生、すでに一人で焼酎3本空けてるぜい? それでもまだ飲むのかにゃー?」
「…確かに、黄泉川先生も小萌先生も飲みすぎね。
上条当麻ー! 貴様ちょっとスポーツドリンクでも注文してき…って、あれ?
上条当麻はどこ行ったのかしら?」
まさに「二次会」のあるべき姿が広がっていた。
みんな泥酔…という訳ではないが、ほろ酔いの良い気分の状態で盛り上がっている。
だがそんな中、一人だけへべれけになっている人物が一人。
「にゃっほ~、ミコっちゃ~ん…そ~んな所で飲んでないで~、上条さんにお酌してくらはいよ~」
頭にネクタイを巻き、一次会のお土産である折り詰めの寿司の紐を指で摘み、千鳥足で近づいてくる、
いつぞやと同じ姿の上条当麻がそこにいた。
「…何でアンタだけ、そんなにベロベロなのよ……なに? お酒弱いの?」
「失敬でありますな! 上条さんはベロベロなじょでわあるぃみゃしぇむどばおふめんぴゃらぼて」
「後半、何言ってるのか全然分かんないんだけどっ!!?」
美琴が酔っ払いの相手をしている間に、今のこの状況が一体何なのかを説明させて頂こう。
実は先程まで、とある高校の同窓会が開かれていたのだ。
美琴も、上条たちが3年に上がる年にその高校へ進学したので、こうして呼ばれているのである。
(ちなみに、中学時代は「常盤台の超電磁砲」と異名を持っていた美琴が、
なぜ上条たちの通うような平凡な高校へと進学したのかは…まぁ、察していただけるだろう)
そして一次会が終わり、仲の良かったグループ同士に分かれての二次会となった訳だが、
上条たちは二十歳以上(上条だけは早生まれなので、他とは違いギリギリ二十歳)なのでお酒を飲み、
ただ一人の未成年である美琴はシラフだったのだ。
そんなただでさえ気まずい状況なのに、ここにきての絡み酒だ。面倒くさいにも程がある。
「ほ~らぁ~…ミコっちゃんも飲みねい飲みねい」
「だっからぁ! 私はまだ19なんだってば! あぁもう、うっとうしい!」
美琴は上条の背中に手を回し、肩を貸して立ち上がった。
そして近くにいたサングラスの男に、小声で話しかける。
「あの…すみません。何かコイツだけめんどい事【へべれけ】になってるんで、もう連れて帰します」
「…おっ? お持ち帰りかにゃー?」
「違いますよっ!!!」
慌てて言葉を返す美琴だが、確かにそうにしか見えない。
「冗談冗談。カミやんはこの前二十歳になったばっかで、酒を飲むのも今日が初めてだったから、
飲むペースが分かんなかったのかにゃー?
まぁ確かにもう帰した方が良さそうだし、介抱頼んだぜい」
サングラスの男はそう言うと、上条の代わりにスポーツドリンクを注文し始めた。
美琴は後の事をサングラスの男に託し、上条を抱えて二次会の会場を後にした。
他の者に気づかれると面倒くさそうなので、あくまでもこっそりと。
ビジネスホテルである。
上条を担いで店を出た美琴だったが、完全下校時刻などとっくに過ぎており、終電も間に合わなかった。
当然、美琴の住む寮にも上条の住む寮にも帰れず、こうしてビジネスホテルにチェックインしたのだが、
若い男女が酔った勢いでホテルに宿泊するというのはつまりはそういう訳で―――
「いやいやいやいやないないないないっ!!!!!」
―――はないらしい。
美琴は担いでいた上条をベッドの上に放ると、この現状がどんなものなのかを改めて冷静に分析し、
自ら導き出した結論を自分自身で否定する。
あのサングラスの男も言っていたではないか。これはあくまでも、ただの「介抱」なのだ。
だが上条の様子を見るに、美琴の頭に浮かんだような危険は無さそうだ。
今の上条は確かに酔ってはいるが、酒の勢いで『何か』をする程の余裕もないくらいに泥酔している。
おそらく、このまま放っておけば勝手に潰れて眠ってしまうだろう。
とでも思っていたのだろうが、そうはいかなかった。
美琴がシャワーでも浴びる為(変な意味ではなく)に、その場を離れて浴室に向かおうかとした瞬間、
彼女の右腕が何者かに掴まれた。
いや、何者かもなにも、この空間には美琴の他にもう一人しかいない。
「えっ!!? な、ど、どうしたのよ急に!?」
振り返ると、勿論そこには上条がいた。
上条は先程までとは打って変わって、目をパッチリと開けて美琴の腕を掴んでいる。
「美琴が…逃げようとするからだろ?」
「ふぁえっ!!? ア、アア、アンタ! ま、ま、ま、まさか最初から酔ってなかったのっ!?」
ハッキリとした受け答え。とても酔っているとは思えない。
もしかして上条は、美琴をホテルへ連れ込む為にわざと酔っ払ったフリをしていたのだろうか。
「当たり前だろ? 美琴の××を××する為に、上条さんは××を××させて、××××」
「……………」
いや、やっぱり酔っ払っているようだ。
上条は普段、こんなストレートな放送禁止用語【ドしもネタ】を堂々と言うキャラではない。
それは(美琴は知らないが)オリアナ姉さんの仕事である。
本来ならば、上条からのお誘いなど、なんやかんや言い訳しつつも、
最終的には甘んじて受け入れてしまう美琴であるが、今回は状況が状況だ。美琴も軽い溜息を吐き、
「あー…はいはい。とりあえず寝ときなさい。明日起こしてあげるから」
とあしらい、再び浴室に足を運ぼうとする。
しかしその塩対応な態度が、逆に上条の何かに火を点けてしまったようだ。
上条は掴んでいた美琴の腕を、そのままグイッと引っ張り、
自分が横になっているベッドへと引きずり込む。
「きゃっ!!? ちょ、何すんのよ!」
「さっきも言ったろ? 美琴が逃げようとするからだよ」
すると上条は、「もう逃がさない」と言わんばかりに美琴を押し倒す形で覆いかぶさり、
そのままの状態で両手を掴んだ。
「ちょ、馬鹿っ! アンタ自分が何してるか分かってんのっ!?
こういう事はお酒が入ってない時に……その………ゴニョゴニョ…」
真っ赤に染めた顔を背け、何やらごにょごにょと言い出す美琴。
本気で嫌ならば電撃の一発でもお見舞いすれば済む話なのだが、そうしない時点でお察しである。
そんな美琴の様子を理解しているのかいないのか、上条は「くすっ」と笑い、
美琴の耳元で甘い言葉を囁く。
「美琴の肌って綺麗だよな…スベスベしてて……思わずキスしたくなっちまうよ」
「は、はぁっ!!? な、なな、何バカな事言ってんのよアンタはっ!?」
と言いつつも、未だに抵抗する様子のない美琴。お察しである。
だが上条は、そんな美琴の態度を「酔っ払いを相手にしている事に対する余裕」だと解釈し、
少々ムッとしたのでトドメを刺しにきた。
「……じゃあ今から、俺が酔ってないって事を証明してやるよ」
「何よ…きゅ、急に真剣な顔しちゃ………んむっ…………………………?」
一瞬、美琴には何が起きたのか分からなかった。
唇に何か柔らかい物が当たったかと思ったら、口から鼻にかけてお酒の臭いが通り抜ける。
そして、上条の顔がいつの間にか間近に迫っていた。
「…!!!!!!!!???」
と、現状を把握した美琴は、ここにきてようやく抵抗し、上条を突き飛ばしたのだった。
「なっ!!! ばっ!!! は、はじ、はじ、初めてっ!!! キッ!!! キキキッ!!!」
これでもかと言うくらい赤面しながら非難の言葉をかけようとしている美琴だが、
聞いているのかいないのか、上条はさらりとスルーして、
キスしたばかりの唇をぺロリと舌なめずりしながら、自分の言いたい事だけを伝える。
「何、驚いてんだよ。美琴だって気持ち良かっただろ? なんたって……美琴は俺の事、好きだもんな」
「っ!!!?」
心臓が止まるかと思うほど、上条の口から有り得ない言葉が。
どうやら酔い条さんは、上条さんよりも遥かに女性の心を理解する力が高いらしい。皮肉な事に。
「それに…俺も気持ち良かったしな。美琴の唇って、俺とキスする為に存在してたんじゃねーの?
けど足りないな。もっと美琴と…キスしたい」
しかも歯の浮くような事までサラリと言ってのける。
どうやら酔い条さんは、普段は眠っている上条さんの野生的な部分をさらけ出し、
キス魔へと変貌してしまうようだ。
上条は再び美琴に近づき、今度は両手で美琴の顔を掴んだ。そしてそのまま、
「んんんっ!!!!?」
二度目のキスをした。
一度目よりも長く、いやらしく、舌を絡ませた大人のキスを。
「んーっ!!! んーっ!!!」
最初は抵抗しようとした美琴だったが、
「んっ……んー♡」
やがて上条の執拗な舌使いに陥落し、力も抜けて上条に身を委ねるようになり、
「んぶっ…♡ ちゅくちゅく…ぷちゅるっ♡ ぁ、んは♡ れぉ、れろ♡ あっ、んぷぁっ!♡」
いつしか自分からも舌を動かすようになっていた。
上条が唇を離すと、「あっ、だめぇ…もっとぉ~…♡」と顔をトロけさせながらおねだりまでする程に。
上条は美琴の表情と言葉に満足するように目を細め、
素直におねだりが出来たご褒美をあげてあげる。
「じゃあ…これからもっとキスしてあげるよ。…美琴の身体中に、な」
すると上条は、キスという名の愛撫をし始めた。
唇から頬。
「ふあっ!? くすぐったい…よ、ぉ……♡」
頬から耳たぶ。
「あ、っん! だ、め! そこ、弱いん…りゃからぁっ……♡」
耳たぶから首筋。
「あっ、ひゃっ!? んっく、あ、やっぁ……感じ…ちゃ、うぅうっ!♡」
首筋から鎖骨。
「んんっ♡ あっ、はぁ…♡ こ、れ以上は、ぁ…も、もう…♡ んくぅぅっ!♡」
もはや身体のどこを攻められても敏感に反応してしまい、卑猥な声を漏らしてしまう。
上条が先程、「美琴の唇は俺とキスする為に存在してた」と冗談半分に言っていたが、
あながち間違ってもいないらしい。
美琴の身体は今こうして、上条にキスされ、舐られる為に存在しているのだから。
そして美琴の身体もまた、そうなる事を望んでいるのだから。
唇から下へ下へと這っていった上条の舌だが、胸元に来たところでピタッと止まる。
「……胸【ここ】は後のお楽しみに、だな」
どうやら上条は上条で、プランのような物があるらしい。
後のお楽しみという事は、つまりは後のお楽しみという事だ。
上条は美琴の服をグイッと上にずらし、露になったおへそをチロチロと舐める【キスをする】。
「やっ…! ちょ、やめっ! あっ、んっ…♡ 変な、とこぉお!
あ、はぁ…♡ 舐めな、い、でぇぁあんっ!♡」
「ちゅぷっ、ちゅぶ……そんな可愛い声出しながら言われても、説得力ないぜ…?」
レロレロとおへそを堪能した上条は、一言。
「……美琴の身体って、どこも柔らかくて甘いんだな。とっても…美味しいよ」
「は…恥ずか…しい事…言わ…ないで…よ…馬鹿ぁ……」
今にも泣き出しそうな声を出しながら、真っ赤な顔を手で覆う美琴。
そんな事を言われたら、益々イジメたくなってくるのが男の性という物だ。
「じゃあ…もっと恥ずかしい事してあげようか…?」
そして上条は―――
―――そこで目を覚ました。
「…あー…変な夢見ちまった……」
上条が見た夢は、同窓会の帰りに美琴とビジネスホテルに泊まり、
自分が美琴のあんな所やそんな所に、あんな事やそんな事をしてしまったという、夢のような夢だった。
「ははは……はは……はぁ…何なんですかね?
もしかして上条さんってば、相当『溜まって』らっしゃるんでせうか…?」
頭をかきながら、ベッドの掛け布団を剥がす上条。しかしここで違和感が。
(…ん? 『ベッド』の掛け布団…?)
現在、上条は大学に進学しており、当然ながら高校時代の寮には住んでいない。
しかしながらライフスタイルが大きく変わったかと言われれば、決してそうではなく、
やはり高校時代同様、浴槽に布団を敷いて寝ているのだ。
ベッドは勿論、腹ペコシスターとミニミニ魔神と三毛猫(オス)が占領しているのである。
つまり、普段ならベッドで寝ている筈がないのである。
しかしそれは、まだ異変の序章にすぎなかった。ふと隣を見ると、そこにはなぜか、
「あっ…♡ あっ…♡」
と虚ろな目をして、顔を上気させ、だらしなくヨダレを垂らし、着衣を乱らせて、
「ビクンビクン」と痙攣する美琴の姿がそこにあったから。
一瞬あまりの出来事に思考が停止しかけた上条だったが、うわ言のように呟いた、
「せき…に、ん……とって…も…らう、んりゃ、からぁ~………♡」
という美琴の一言に、顔が真っ青になった。
「せっ! せせせ、責任って!!? 責任って何ですか美琴さんっ!!!?」
上条は絶叫した。
ちなみにだが、数年先に上条が正式に『責任』を取る事になるのだが、それはまた別の話である。