あま~い! 甘いよ、甘すぎるよ。新婚一年目ぐらい甘いよぉ
モテようと思って、イメチェンしようとしてる男がいたんですよ~ | の続編です。 |
美琴は一度ゆっくりと深呼吸した。
そしてそのまま自分の頬を両手で「パチン!」と叩き、自らに気合いを入れる。
これから始まる猛特訓に最後まで耐え抜く為だ。
「…よし!」と一言だけ言いながら、目を見開き前を見据える。
厳しい能力開発を受け、レベル5となった彼女を以ってしても、
そこまでしなければならない『特訓』とは、一体如何なる物なのだろうか。
「じゃ…じゃじゃじゃあっ!
今日もアアア、アンタのその…イメチェン化計画! 始めるわよっ!」
「おう」
ただし、特訓するのは美琴の方ではなかったようだが。
◇
『上条イメチェン化計画』…その名の通りの計画【ちゃばん】である。
実は以前、上条は「このままモテないのは嫌だ」とかふざけた事を抜かして、
今の自分を変えるべくイメチェンしようとした。
上条が挑んだイメチェンは『俺様キャラ』へのシフトチェンジだったのだが、
美琴はその実験台にされてしまい、壁ドンされるわ顎クイされるわ、しかも最後には、
「キスは…夜までお預けな」
なんて事を耳元で言われちゃうもんだから、
美琴は胸を「キュン…」どころか「ズキュウウウン!」とされてしまったのだった。
しかし、そんな爆弾を野放しにはできない。
放っておいたら自分以外の犠牲者が出るかも知れない。
なので美琴は、この戦いに自分一人だけで挑むと心に決めたのだ。
決して『俺様』な上条を独り占めしたい訳ではない。美琴本人が言うのだから間違いないだろう。
◇
と、いう訳で。
「じゃ…じゃじゃじゃあっ!
今日もアアア、アンタのその…イメチェン化計画! 始めるわよっ!」
「おう」
今日も特訓(笑)が始まるのだった。
「でで、で!? …今日は一体…な…何をするつもりなのよ…?」
「今日は…そうだな。キザったらしい台詞でも練習してみようかな」
「キザ…?」
「ああ」
上条が言うには、「口に出すのが恥ずかしい事」を言われると女性は喜ぶのだそうだ。
また少女マンガか、もしくは三流の女性誌でも読んで、おベンキョウでもしたきたのだろう。
情報源も怪しいが、その情報その物もどうなのだろう。
「口に出すのが恥ずかしい事」を言われると女性は喜ぶ…との事だが、
それ完全に「ただしイケメンに限る」ではないだろうか。しかも、
(アンタ割と普段からキザな事とか言ってんじゃないのよ!)
である。しかし上条は無自覚なのだ。
美琴は軽く肩を竦め、手のひらが上になるように右手を差し出して「続きをどうぞ」のポーズを取る。
すると上条は「お言葉に甘えて」とばかりに、美琴の目の前にずいと立った。
「ひゃいっ!?」
と美琴が声を出すのと同時に、上条は親指で美琴の唇をスッと撫でる。
そしてクスッと笑い、一言。
「……美琴の唇って柔らかいんだな。思わずキスしたくなっちまうよ」
瞬間、「ボヒュン!」という音と煙を出しながら、美琴は真っ赤になった。
やはり俺様条さんの破壊力はハンパない。
「どう? どう? 俺、今かなり恥ずかしい事言ってみたんだけど!」
「いや…あにょ……け…結構なお手前で……」
頭をフラフラさせながら、何故か茶道のような受け答えする美琴。
成功した(?)上条は気を良くし、次の実験を始める。
おもむろに美琴の背中に手を回し、そのまま抱き寄せたのだ。
「にゃにゃっ!?」
と美琴が声を出すのと同時に、上条は抱き締めた腕にギュッと力を込める。
そして美琴の耳元で、ボソッと一言。
「…悪い…美琴が可愛すぎたから、つい……」
瞬間、「ボバーン!」という音と煙を出しながら、美琴は真っ赤になった。
やはり俺様条さんの破壊力は以下略。
「今度のは!? 今度のは、どうだった!?」
「あああ、あのその、よ、よよよ、よかろうもん!」
背筋をピンと伸ばしながら、何故か博多弁で受け答えする美琴。
神奈川生まれ学園都市【とうきょう】育ちのクセに。
「良し! じゃあ次は日常会話にキザな台詞を織り交ぜていくか!」
「まっ! まだ続けるのっ!?」
正直「もうやめて! とっくに美琴のライフはゼロよ!」な状態なのだが、
上条はお構いなしに続ける。と言うか、美琴がそんな状態なのだと気付いていないのだ。
鈍感【かみじょう】だから。
「つー訳で、今から普通に会話な。はい、スタート!」
「え!? や、あぇ…きょ……今日はいい天気ねー!」
日常会話をしろと言われて、とっさに出てくる話題が天気の事である。ベタすぎる。
しかし上条は、そんなベタな話題【てんかい】すらも肥やしにする。
「そうだな…日の光がキラキラして、美琴の笑顔がより一層眩しくなっちゃったな」
「ひむっ!? そ、そそ、そう……あ、きょ、今日は冬にしては暖かいものね!」
「確かに…温かいな。美琴と一緒にいると心がポカポカしてきてさ」
「ぎみゅっ!? えええ、ええと、あの、き、昨日何食べた!?」
「今すぐ美琴を食べちゃいたいです」
「たたたた食べっ!!? きょ…きょうは…そにょ……いい…てんき…ね………」
「もっと甘えてもいいんだぜ…?」
「ほにょ……あ、の……き、きの、う…にゃ、にゃにたべひゃ…?」
「俺さ、美琴以外じゃ駄目みたいなんだ」
「ひゃえ……いみゃむほろふなもりょにうおみえわぬりゃふぁふん………」
「だからもう、俺と付き合っちゃえばいいんじゃないか?」
………何だこれ。
ツッコミどころが多すぎて面倒なので、ツッコミは各々で自由にやってほしい。
「このまま美琴と一緒に……」
「ちょちょちょちょっと待って! きょ、きょきょ、今日のところはこれくらいにしない!?」
薬でも大量に摂取しすぎると毒になる。
これ以上、上条の特訓に付き合い続けると『どうにかなってしまいそう』なので、
美琴は一時中断を提案した。
「え、あ…そう? まだまだ用意してた台詞はいっぱいあったんだけど」
「いや、いいから! それは、ホラ…また明日って事で!」
「んー…そうか」
若干、消化不良気味な上条ではあるが、
相手役【みこと】がこれ以上やりたくないと言うのであれば、無理強いは出来ない。
なのでここは上条【じぶん】が折れる。
「分かった。じゃあ続きは明日にするか」
「ホッ…」
その一言に安堵する美琴。
しかし最後に上条からの止め【サプライズ】が待っていた。
去り際に上条は、最もシンプルで最も破壊力のある一言を試してきた。
「あ、そうだ。美琴………愛してる」
心臓が
跳ね上がった
上条が「どう? 今のドキッとした?」と聞こうとした矢先、
美琴はついに『どうにかなってしまった』のだった。