とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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それが美琴の悩む理由




ここはいつものファミレス。
美琴はいつもの席で、スプーンをカチャカチャと回してカップの中の紅茶をかき混ぜている。
よく見る光景だが、しかし本日美琴と共にテーブルを囲むのは、白井初春佐天【いつものメンバー】ではない。
現在、彼女が付き合っている男性【かれし】・上条である。
上条は今、ドリンクバーでウーロン茶をおかわりする為に席を外しているのだが、
待っている間、美琴はどこか浮かない表情を作りながら軽く嘆息する。
せっかくの上条とのデートだというのに、である。

実は彼女、ここ最近、ある大きな悩みを抱えているのだ。
それは付き合う前ならば頭に過ぎりもしなかった悩みだった。
付き合ったからこそ、そして付き合ってしばらく経ち、
心にも多少の余裕が出来たからこその悩みなのだ。
美琴は目を伏せて、紅茶の水面に映った自分の顔を見つめながら、
誰に言うでもなくポツリと呟く。内に秘めた、その悩みを。

「…はぁ………最近、アイツとキスしてないなぁ……」

さぁ、急速にどうでもよくなってまいりました。
つまるところ美琴の悩み(笑)とやらは、上条とのキスがご無沙汰なのだという事だ。

付き合い始めの頃は人目…は流石にはばかってはいたが、頻繁にキスしていた。
自分から誘った事は無いが、事ある毎に上条が唇を奪ってきていたのである。
しかしどういう訳か、少し前から上条がキスしなくなってしまった。
美琴としては、「やっ! ダ、ダメよ…」とか「ちょっとは我慢しなさいよね…」とか、
そんな事を言いつつも心の中では『もっとしてほしい』とか思っていたので、
今のこの状況は、何だか面白くない。

「……キス…飽きちゃったのかな…? それとも…私に飽き―――」

それ以上は怖くて考えられなかった。
美琴は頭に浮かびそうになった事を忘れ去るように、頭をブンブンと振る。
そして上条とのキスを思い出すように、自分の唇を人差し指でスッと触れた。
と、そんなタイミングで、

「ん? どうした美琴。何か俯いちゃったりして」

コップになみなみとウーロン茶を注いで、暢気な顔をした上条がご帰宅してきやがった。

「…別に何でもないわよ」
「そうか? ならいいんだけど…けど何かあるんだったらちゃんと言えよな。
 美琴って何でもかんでも一人で抱えて、誰にも言おうとしない悪いクセがあるからな」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」

目の前の上条は、美琴の悩みなど何処吹く風だと言わんばかりにいつも通りで【アホづらをぶらさげていて】、
美琴もほんの少し気が楽になる。
だがしかし、美琴の悩みが根本的に解決した訳ではない。
上条は何故キスしてくれないのか。そしてどうすればキスできるのか。
その解決法を見出さない限り、美琴は今夜『も』悶々としてしまう事だろう。
美琴【こっち】から「キスしてほしいな…?」と誘ってしまえば何よりも早いのだが、

(でも…私からそんな事を言ったら、エッチな女の子だって思われるかも知れないし……)

純情すぎて無理なようだ。上条からすれば、エッチな女の子【みこと】は大歓迎だと思うのだが。
なので美琴は、
「そう言えばさっき、ウーロン茶なのにミルクとガムシロ入れようとしちゃってさぁ~」
と非常にどうでもいい話をしているこのツンツン頭に、
何とかしてキスしてもらおうと画策する。と言うか美琴は美琴で、どんだけキスしたいのか。

「そしたら隣のお客さんがさ―――」
「…あっ、ごめん! ちょっと目にゴミが入っちゃった」

上条が話しをしている途中だが、ふいに「目にゴミが入った」と言って目を瞑る美琴。
どうやら自分が目を瞑れば、その隙にキスしてくれるんじゃあないかと期待したようだ。
浅い作戦である。

「大丈夫か? ちょっとトイレ行って、手洗い場で目ぇ洗ってきた方がいいんじゃないか?」
「……ん。大丈夫、もう取れたっぽいから」

が、作戦失敗である。
割と長い時間、正確に言えば一分ほど目を瞑っていたのだが、上条はキスしてこなかった。
だが美琴はまだ諦めない。プランAが失敗したのなら、プランBに移行すれば済むだけの話だ。

「あっ、ちょっとアンタのウーロン飲んでもいい?」
「ん? ああ、全然いいぞ」


そう確認を取ると、美琴は上条の持ってきたコップを手に取り、
中に刺さっているストローを口に含み、そのまま唇をほんの少し尖らせてアヒル口を作る。
どうやら自分が唇を突き出せば、そこからキスしてくれるんじゃあないかと期待したようだ。
薄っぺらい作戦である。
ちなみに自分の紅茶を使わずに、わざわざ上条のウーロン茶を使ったのは、
ホットの紅茶にはストローがついておらず、アヒル口を作れないからだ。

「ウーロンもたまに飲むと美味いよな」
「ゴクゴク……うん、美味しかった」

が、作戦失敗である。
割と多い量、正確に言えばコップの半分くらいは飲んでしまったのだが、上条はキスしてこなかった。
しかしそれでも美琴は諦めない。プランBでも駄目なら、次はプランCがある。

「あ…あー! 何か最近、お口が寂しいなー!」

美琴はさり気なく(と本人は思っている)そんな事を言って、アピールする。
ついでに目も瞑り、唇も尖らせる。今までの作戦も総動員である。
酷い作戦である。

「…あっ、ならガムか何か買ってこようか? 確かレジ横に食後に噛む用のが売ってたから―――」

が、作戦失敗である。
「お口が寂しい」という美琴の発言を、そのままの意味で受け取った上条は、
ガムを買いに立ち上がろうとしたのだ。
その瞬間、上条目掛けて紫電が走る。その電源は勿論、目の前の美琴だ。

「ぅおうっ!!? 何か久々だなこれ!」

上条は右手でそれを打ち消しながら、どこか懐かしいやり取り【ノリ】に少しだけ嬉しくなった。
だが、もしも当たったら思うとやっぱり怖いので、一応は抗議してみる。

「あの~…美琴さん? わたくし何か、美琴さんを怒らせるような事をしましたかね…?」

ただし抗議は弱気であった。
すると美琴は、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すように声を荒げた。店内に響き渡る音量で。

「あ・ん・た・ねぇっ!!!
 さっきから私がお膳立てしてあげてるんだから、ちょっとはキスしようとしなさいよっ!
 3回チャンスあげたのよっ!? 3回もよっ!!?
 なのにアンタ、全然乗ってきてくれないし…あんなに頑張ったのに…
 ってか私がここまでしなくちゃなんないのも、
 アンタが最近キスしてくれないからじゃないのよっ! 全部アンタのせいなんだから!
 何なのよ! 以前は何も言わなくてもキスしてきたクセに!
 不満があるなら言いなさいよ! 飽きたなら…飽きたならそう言えばいいじゃないの馬鹿っ!!!」

美琴はぜーぜーと息を切らしながら、内に秘めていた物を全てぶちまけた。
主張している事は無茶苦茶だが、とりあえず気持ちは伝えすぎるくらい伝えられた。
その気持ちをぶつけられた上条は、「あー…」と気まずそうに頬をポリポリとかく。

「あー…あのな? 美琴…俺は別に、キスする事に飽きたとかそんなんじゃないぞ?
 って言うか、むしろ出来るもんならもっとしたいくらいでな?」
「なら! 何でしてくれないのよ!」

すると上条は困り顔を浮かべつつも照れながら、その理由を口にする。

「いや…段々キスだけじゃ我慢できなくなっちゃってさ…
 キスしたら『その先』もしたくなるから、自重しようかと思いまして……」
「…? 『その先』って―――」

と、言いかけた所で『その先』とやらが何なのかを理解し、顔を瞬間沸騰させる美琴。

「ななななな、ばっ! アア、アンタ! そそ、それって!」
「うん、だからな? それは流石に、『まだ早い』んじゃないかな~、と…」
「そ、そそ、そう、ね……『まだ早い』…わね……」

すると美琴は赤面したまま俯いてしまい、上条は照れたまま天井を見上げる。
そのまま数秒間沈黙が流れた。…のだが、意外な事にその沈黙を破ったのか美琴だった。

「あ……あの、さ。べ、別に…わた、私は別にいいわよ…?
 その…そっ、そそそ、『その先』とか…しちゃ…って、も……だかr」

その瞬間、上条は美琴にキスをしていた。あれほど待ち望んでいた、上条からのキス。
美琴はゆっくりと目を閉じながら、その幸せな数秒間を噛み締めるのだった。

はいはい良かったね。じゃあもう解散解散。










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