とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

704

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

スーパー彼女のスーパーデート




「頼む美琴! 俺と付き合ってくれ!」

出会い頭、上条からそんな事を言われた美琴である。
いつものように上条の高校付近で上条を待ち伏せ、
上条が下校してきた瞬間を狙って偶然を装い声を掛け、
そのまま一緒に並んで帰ろうと画策していた美琴だったのだが、
この日は上条から声を掛けられ、力強く手を握られ、そしていきなりの告白である。
しかし美琴とて、いい加減に上条の性格と無自覚フラグ能力は熟知している。
どうせこの後、「スーパーまで付き合ってくれ」とかそういうオチが待っているのだろうと、
冷静に、あくまでも冷静に対処した。

「つききつ付きゃ合うってどどどどういう意味にゃのかしらっ!!?
 それに手とかそんないきなり握って手ぇ握じんわ熱なてっ!!!」

まぁ、冷静に対処できてると思うのは美琴の勝手な訳で。
あっという間に顔を茹で上がらせ、目も泳がせる美琴に対し、
上条は気にせず、美琴の想像した通りの台詞を吐いてきた。

「ホント頼む! スーパーまで付き合ってくれ!
 今日は卵だけでなく、米やトイレットペーパーまで安いんだ!
 丁度どれも切れかけてて困ってたし、買い足そうと思ってた所だったんだよ!
 でもやっぱりそれらは、お一人様お一つまでだから、
 美琴が来てくれるとスゲー助かるんだ! レジに二回並ぶ必要もなくなるし!」

やはりである。予想はしていたし、何度も同じ手に引っかかるような美琴でもないので、
特にショックを受ける事もなく、普通に、あくまでも普通に対応した。

「ああ……うん、分かってたし…そんなの全然分かってたしね…」

まぁ、普通に対応できてると思うのは美琴の勝手な訳で。
あっという間にガックリと肩を落とし、深い溜息を吐く美琴に対し、
上条は気にせず、握ったままの美琴の手をブンブンを上下させた。

「うおおおおぉぉおありがとう!!! もう大好きですよミコっちゃんっ!!!」

まるで宝くじでも当たったかのような喜びようである。
何気に「大好き」とか言ってはいるが、これも『そういう意味』ではないのは明らかだ。
なので美琴は冷静に、あくまでも冷s

「だだだだだ大好きいいいいいいいい!!!?」

もはやコントである。


 ◇


ここは上条がよく来るスーパーマーケット。
ご贔屓にしている理由は、安いからというのも勿論あるが、
それよりも通っている高校や自分の住んでいる寮から一番近いから、という方が大きいらしい。

上条はいつも通りに慣れた手付きでカートの上に買い物カゴを乗せ、入り口へと足を運ばせる。
いつも通りでない所は、その隣に美琴がいる事だけである。

「さ~って、まずは青果コーナーからだな」

カートをカラカラと押し、上条は目の前の野菜や果物達を見回す。
ここでの上条のお目当ては、主にもやしとバナナである。
もやしは栄養価が高く基本的にどんな料理にでも合い、そして何より『  安  い  』。
バナナはインデックスのおやつ代わりだ。甘くて量も多く、何より『  安  い  』。
…何だか胸が切なくなるような理由だが仕方ない。

と、上条がそんな事を思っている横で、美琴は全く関係ない事を考えていた。

(一緒にスーパーでお買い物……って!
 も、もも、もしかしてこれって周りから見たら、私達ふ、ふふふ、夫婦っ!
 とかに見えちゃうんじゃないのっ!!? そ、そんなのちょっとだけ困るんですけど!!!)

お互いに学校の制服を着ているクセに何を言っているのかこの子は。よくて恋人だろうに。
しかも困るのも『ちょっとだけ』でいいのかレベル5の第三位。
勝手な妄想で勝手にアワアワしている美琴は、勝手に周りからの視線が気になってくる。
そんな状態なので、ちょっと上条から「おい美琴?」と肩をポンと叩かれただけで、

「にゃあああああああああっ!!! な、なな、何っ!!?」

と大声を出してしまう。

「い、いや…『何?』はむしろ上条さんのセリフだと思うのですが…
 急に顔を真っ赤にして周りをキョロキョロしてるんで何事かと思って声掛けただけなのに、
 そんなに驚かれるとはこちらがビックリです…」
「あっ、いや、その…ちょ、ちょろっとアンタとふ―――」

言いかけてハッとした。まさか上条を目の前にして、
『アンタと夫婦だと思われちゃってたらどうしようと思って』なんて言える訳がない。

「……ふ?」

訝しそうな目でこちらを見つめる上条に対して、美琴は、

「…ふ………ふにゃー」

とりあえず誤魔化し(?)た。
もう『ふにゃー』という単語を聞くだけで、条件反射的に美琴の頭を右手で抑えてしまう上条。
今回はいつもの気絶する時の無自覚『ふにゃー』ではなく、
美琴がこの場を誤魔化す為に行った自覚あり『ふにゃー』なので漏電はしなかったが、
スーパーの中【こんなばしょ】で漏電なんかされた日には、上条は最悪出禁になってしまう。

「あっぶねー……急にどうしたよ美琴!? ここまでで何かふにゃる要素あったか!?」

ふにゃる要素は基本的に上条自身なのだが、そこには気付いていない鈍感野郎上条。
今回も当然、分かる訳がない。

「い、いや何でもないのよ!!? ただ私とアンタがまるでふ―――」

言いかけてハッとした。まさか上条を目の前にして以下略。

「……ふ?」
「…ふ………ふにゃー」

以下、同じ事が数回あるので割愛。


 ◇


青果コーナーを通り過ぎると、鮮魚コーナーや精肉コーナーが見えてくる。
奨学金支給日から数日間となれば話は別だが、今現在は月末の支給日前であり、
上条家の主なタンパク源は玉子料理や豆腐や納豆などの大豆製品となる為、
ここは素通りする予定だ。…何だか目頭が熱くなってくるような理由だが仕方ない。
しかしである。そんな貧b…もとい、苦労話とは無縁のお嬢様は、
素通りしようとする上条に疑問を感じちゃったりする。

「…? お肉とかお魚は買わないの?
 ……あっ、そっか! 寮部屋【いえ】の冷蔵庫にストックがあるのね」

もうやめて! とっくに上条さんのライフはゼロよ!
まさか「おぜぜが足りないの」とは男として、そして高校生【としうえ】としてのプライドが許せず、

「そ、そうなんですよ~! 冷蔵庫にまだ余ってたからな~! マグロの大トロと松坂牛!」

と大見得を切る上条。そんないらないプライドなど、捨ててしまえばいいのに。
しかもナメられないように、できるだけ高級そうな魚と肉をチョイスしたかったのだろう。
とっさに出てきた名前がマグロの大トロと松坂牛という、見事な程の安直さである。
だが美琴は。

「あ~、分かる! 美味しいけど脂っこいから途中からキツくなって、
 全部食べきれずに、つい残しちゃうのよね」

まさかの分かられてしまった。
美琴からの返答に上条は表情を『無』にして、「ソウデスネー…」と呟いた。
女の子とはいえ中学生の胃袋でキツくなる程の油というのは、
おそらく質ではなく量の問題だろう。
つまり美琴は、かなりの頻度で食いきれなくなるくらいの大トロやら松坂牛やらを、
どこからか頂いているという事なのだろうか。常盤台ェ…。
しかしだからなのか、美琴はスーパーのやっすいやっすいお肉に興味津々だ。
100gでギリギリ百円台の豚ばらブロックを見て、
「どうやって採算がとれてるのかしら…」とか呟く始末である。常盤台ェ…。
そんな中だ。

「お一つご試食いかがですかー?」

試食販売をしている店員の声が聞こえてきて、上条と美琴は思わずそちらに顔を向けた。
食欲をそそる香ばしい匂いと肉が焼けるいい音。
その場で焼いたウインナーに楊枝を刺して、店員は周囲の客に笑顔を振りまいている。

「せっかくだから食べてみましょうよ」
「んー…そうだな」

上条としては全く買う気は無いが、試食でお金は取られない。
故に上条は、試食は必ず行う事にしている。それが彼の数少ない楽しみの一つでもあるのだ。
…もう泣いちゃってもいいかも知れない。

「じゃあ、二ついただきます」
「はい、どうぞー!」

上条は店員が手に持っている小皿から、ウインナーの刺さった楊枝を二本取る。
そしてそのまま一本は自分の口に持っていき、もう一本は―――

「ん。ふぉら【ほら】、みほほもくひあけへ【みこともくちあけて】」
「………え?」

もう一本は、美琴の口まで持っていったのである。
そう、お決まりの「あ~ん」パターンなのである。

「えええっ!!? あ、その、いや…そんな、こ、こここ心の準備的なアレがまだ…」

試食一つするだけで、どんな準備的なアレが必要だと言うのか。

「もぐもぐもぐ…ごくん! ほれ、とっとと食わんとお店にも迷惑だろ?」
「ちょ、待―――」

上条は半ば強引に美琴のお口へウインナーを挿入する。
字面にすると何だかとても卑猥に感じるが、事実なのでどうしようもない。

「どうよ?」
「もむもむ……ひょへも【とても】……おいひぃれふ【おいしいです】……」

正直、味だの香りだの食感だのを感じる余裕など今の美琴にはなく、
真っ赤な顔から煙をモクモクと出しながら、俯いてモソモソと租借している。
店員も初々しいカップル(だと思われている)に「あらあらうふふ」と含み笑いしつつも、
自分の仕事は全うするべく袋詰め【ちょうりまえ】のウインナーを上条に差し出す。

「よろしかったらこち「あっ、すみません。間に合ってますので」らお一ついかが……」

しかし食い気味に断る上条。
先程「とっとと食わんとお店にも迷惑だろ」とか美琴に偉そうに語っていたが、
どちらが迷惑なのかは一目瞭然である。

ちなみに、その間に美琴はどうなっているのかと聞かれれば。

「あ~んとか…あ~んとかされちゃへへへへへへへへ…」

だらしない顔で、だらしない笑いを漏らしていたのだった。


 ◇


上条は床に手と膝をつけた状態で真っ白になったまま固まっていた。
上条の右手に宿っている幻想殺し。
それは異能の力ならば、魔術だろうと超能力だろうと打ち消す代物だ。
しかしその副作用として、神の加護とやらも無意識に打ち消してしまい、
彼は不幸体質となってしまっている。つまり何が言いたいかと言うと、だ。

「卵も米もトイレットペーパーも売り切れとか……不幸だ…」

こういう事である。
彼は今日よりにもよって、お目当ての品だけが買えなかったのである。
先程の店員さん目線からすれば、「ざまぁw」ではあるが。
しかし美琴は不思議そうな顔を上条に向ける。

「…? 何言ってんのよ。卵もお米もペーパーも、腐る程あるじゃない」

確かに美琴の言う通り、このスーパーから全ての卵と米とトイレットペーパーが消えた訳ではない。
訳ではないが、しかし。

「あのなぁ! それらは特売品じゃなくて、通常価格のヤツなの!
 俺が求めてたのは、お一人お一つまでの安いヤツで!」
「でも、こっちの卵もあっちのお米も、
 アンタが買おうとしてたのと味はそんなに変わんないんでしょ?
 ペーパーだって、こっちの方が使い心地良さそうだし」
「味っ!? 使い心地っ!?」

上条は愕然とした。誰が味だの使い心地の話などしただろうか。
そりゃ上条だって、できる事ならお値段も商品のグレードも、
ちょい高めのヤツを買いたいに決まっている。
しかし先立つものが無ければ無い袖も振れずフトコロも寂しい状態なのだからどうしようもない。
常盤台のお嬢様は、とことんお金に困った事がないらしく、
当たり前のように、安いのが無かったら高いのを買えばいいという暴論を振りかざしてくる。
きっとパンが無ければ普通にお菓子を食べるのだろう。

「いやいやいや! それじゃあ来た意味が…って、おい!」

上条が美琴に対して、ちょっとしたお説教を食らわせてやろうとした矢先、
美琴は一番高い卵と、米と、トイレットペーパーを買い物カゴに入れてきやがった。

「何してんの!!? ちょ、この卵、一個でウン百円とかしてるんですけどっ!!?」

これには第三次世界大戦の戦場を潜り抜けてきた上条でも、顔面蒼白にならざるを得ない。
だが美琴も、流石に上条がこんなに高い買い物をする訳がない事くらいは分かっている。

「な~にテンパってんのよアンタは。それ全部、私が買ってあげるわよ」
「………へ? マジで?」
「うん。だって無いと困るんでしょ?」

アッサリと、それはもうアッサリと肯定する美琴。
瞬間、気付けば上条は思いっきり美琴を抱き締めていた。

「うおおおおおマジかああああああ!!! もうミコっちゃん超愛してるっ!!!」

そして告白。男として、そして高校生としてのプライドどこに落としてきた。
ついでに美琴は。

「ああああああ愛してりゅとくぁにゃぬぃいべっきゃらのまふぉいむぇぷほぱららい!!!!!」

うん。何言ってんのか全然分かんね。


 ◇


この日、上条(とインデックスとオティヌス)は、
高級卵と高級な米で作った超高級卵かけご飯に舌鼓を打ち、
高級なトイレットペーパーでケツを拭いた。

そして美琴は、終始何かを思い出してはポケ~ッとしたりニヤニヤしたりしていた。

しかしそれぞれの部屋で、それぞれの同居人(ルームメイト)に、
「ところでとうま! 今日はどうしてこんなに美味しい玉子を買えたのかな!?」
「お姉様。何だか今日はとてもご機嫌な様子ですが、何か良い事でもありましたの?」
と聞かれ、誤魔化しきれずに結局は不幸な目に遭うのだった。上条一人だけが。










タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー