とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある抱擁の懐石料理【フルコース】




[前菜・あすなろ抱きのテリーヌ]


美琴は時計をチラチラと見ながら、ひたすら約束の相手が来るのを待っていた。
待ち人である美琴の恋人は、その不幸体質が災いして(本人の意思とは関係なく)遅刻の常習犯だ。
なので美琴もデートで待たされる事は慣れているのだがしかし、
それでもやはり、ソワソワはしてしまうのである。

「……はぁ…遅いわね…」

そんな溜息を吐いたその時だった。

「だ~れだ?」
「わきゃっ!!?」

突然、美琴の視界が真っ暗になる。そして、目の辺りがじわりと温かくなる。
誰だも何も声で丸分かりだし、そもそもレベル5にこんな事をやってのけるの命知らずは、
学園都市広しと言えども限られてくる。
例えば美琴のビリビリを無効化できる能力者とか、美琴が気を許している相手…つまりは恋人とか。
まぁ、そのどちらもではあるのだが。

「……随分とベタな事をしてくれるじゃない…」
「いや~、やっぱり一度はやっておこうと思ってな」

悪びれもなくそう言ってきたのは上条だ。
しかし美琴は、遅刻したのに「ごめん」の一言もない上条に対して頬を膨らませる。

「あ、あれ? ミコっちゃん、もしかして怒っていらっしゃる…?」
「べっつにー!? アンタが時間に遅れるのは、いつもの事だしー!?」

やはり軽く不機嫌だ。女性が機嫌を損ねると大抵よろしくない事が起きるのは、
経験上よく分かっているので、上条はここで美琴のご機嫌を取りに行こうとする。

「ひにゃっ!!?」

ムギュ。
上条が背後から、美琴のお腹に手を回すように抱き付いてきた。

「えっと……ごめんな? ちょっと色々あってさ…」

甘く低い声と吐息が、美琴の耳をくすぐる。
そんな風に後ろから抱き締められながら優しく囁かれてしまったら、美琴は、

「わわわ分かったから! 許してあげりゅかりゃ離れてぇぇぇぇぇ!!!」

と顔を真っ赤にしながら絶叫するしかないのである。




[生野菜・肩の抱き寄せ新鮮サラダ]


美琴から無事に許しを貰った(?)ので、二人は目的地へと歩き出す。
本日のデートは映画鑑賞。美琴お気に入りの映画監督、ビバリー=シースルーの新作映画である。
そして勿論ジャンルは恋愛映画。恋人達は映画を観ながら、主演俳優に自分を重ねて、
イチャイチャとストロベリったりするのだ。はよ爆発しろ。

「そう言や、映画の時間って大丈夫か?」
「うん大丈夫大丈夫。新作だし、一日に5回上映するから」

上条が遅刻する事を想定して、余裕を持った計画。流石は上条の彼女である。
上条も「ふ~ん、そっか」と相槌を打ちながら、並んで歩いていたのだがその時。

「っ!!! 危ねっ!」
「ぴみゃっ!!?」

ムギュ。
上条が横から、美琴の肩を掴んで抱き寄せたのだ。

「あっぶね~…おい、ボーっとすんなよ。さっき、前から自転車来てたぞ?」
「…えっ!!? あ、ああ、うん…ご、ごめん今度から気をつける…」

予期せぬハプニングで、いつぞやのツーショット写真の時のような格好となってしまい、
美琴はドキドキするのだった。


[スープ・コトコト煮込んだあててんのよポタージュ]


「うわっ! 結構、混んでるな…」
「休日だし、日本での公開が解禁したばかりだからね。私も楽しみにしてたし」

映画館に着いた二人は、その人混みに圧倒されつつも、割といい席に座る。
せっかくのデートで変なケチを付けなくなかったのだろう。美琴が前もって予約していたのだ。
だが。

「ふぁっ…ああぁ……」
「ちょっ、アンタ!? 途中で寝たりしないでよ!?」
「うっ…! が、頑張る…」

座ってさっそくあくびをする上条に、美琴が釘を刺す。
確かに、上条のようなタイプに恋愛映画は、ちょっとした子守唄代わりだ。
ならば何故わざわざ恋愛映画をチョイスしたのか。
美琴だってアクションやホラーは好きな筈である。だがそれでは色気的なモノが足りないのだ。
恋人同士で観るのなら、やっぱり恋愛映画でウットリしたいじゃないか。
しかし先程も説明したように、せっかくのデートで変なケチを付けたくはない。
美琴は上条の眠気を一発で覚まさせようと、こんな行動に出る。

「っ!!? ちょ、み、美琴さんっ!!? 何だか腕に、やわらか~い感触があるのですが!?」
「し、知ってるわよ、わざとよわざと! さっきまでの仕返し!」

ムギュ。
美琴が隣の席から、上条の腕を抱き締めてきたのだ。

「し、仕返しって何のだよ!」
「私をドキドキさせた仕返し! 次は私がアンタをドキドキさせる番なんだから!」
「そんな番は知りませんがっ!?」

だが美琴が腕を離す事はなく、2時間にわたる上映中、上条は眠気とは無関係な状態になっていた。
ただしだからと言って映画の内容が頭に入ってくる訳でもなく、
その間に何をしていたかと言えば、美琴が胸を押し付けてくる自分の腕に、
全神経を集中させていたのだった。




[パン・おんぶを練り込んだバゲット]


「ん~! 結構面白かったわね! 最後ちょっと泣いちゃった!」
「お、おう…そうだな」

映画館を出ながらそんな会話をする二人だが、
上条は終始映画どころの騒ぎじゃなかったので、面白かったかどうかも泣けたかどうかも分からない。
それでも感想を述べるなら、『柔らかかった』とか『気持ち良かった』である。
しかしそんな事を言うとまたこじれるので、美琴に意見を合わせる小心者の上条。
と、そんな時だった。

「それでさー、途中でヒロインの女優さんがケーキを食べる所でいっつっ!!!?」
「っ!!? お、おい美琴!?」

ふいに、美琴は足を挫いてしまう。原因は足元不注意だ。
上条との会話に集中してしまい、下に小さな窪みがある事に気が付かなかったのである。

「っつー……」
「あー、もう何やってんだよ。ちょっと足、見せてみろ」

上条はその場で、美琴の靴と靴下を脱がす。ちょっとした路上ストリップである。

「腫れ…てはいないようだけど、歩かない方がいいな」
「だ、大丈夫よこれくらい。第一、歩かずにどうやってアンタんちに痛たた…」

この後は上条の寮でまったり自室デートする予定なのだが、ここからまだ距離がある。
しかしご覧の通り美琴を無理に歩かせる訳にはいかないので。

「しゃーねぇな。しっかりつかまってろよ?」
「…え? えっ!? ちょ、なな、何をっ!」

ムギュ。
上条がリュックサックでも背負うかのように、美琴を負ぶっていた。

「お、降ろしてよ恥ずかしいじゃない! まさかこのままアンタんちまで行くつもりなの!?」
「そりゃそうだろ。
 今は大した事ないかも知れないけど、無理させたら悪化するかも分からないし」
「だ、だ、だから大丈夫だってばっ!」
「ダ~メ! 大人しくしてなさい」
「~~~っ!!!」

美琴は結局その恥ずかしい格好のまま、街を移動させられる事となった。
周りの視線とクスクスした笑い声が、彼女の自分だけの現実を崩壊させたのは言うまでもない。


[魚料理・シェフの気まぐれだいしゅきホールドムニエル]


「ただいまー、っと」
「……ぁぅ…」

上条が普段住んでいる寮部屋へと帰ってきた二人。
美琴はここまでの道中でSAN値がガリガリと削られたが、
上条は気にした様子もなく、そのまま美琴をそっと床に降ろす。
ちなみに、上条と同居しているインデックスとオティヌス(+スフィンクス)は、今ここにはいない。
上条が今日、美琴とデートする事は知っていたので、半分は気を遣い、
もう半分は見せ付けられるのが嫌なので避難した。
今頃は小萌先生のアパートで、ブツブツ文句を言いながら鍋でも突いている事だろう。

「安静にしてれば大丈夫だとは思うけど、悪化するようならちゃんと病院行けよ?
 とりあえず湿布持ってくるから」
「……………」

言いながら救急箱を探す上条の後ろ姿を、美琴は軽く睨みつける。
何だこの敗北感は。こっちが散々恥ずかしい思いをしたと言うのに、この男はケロっとしていやがる。
悔しい。悔しいし、何か腹立つ。なので美琴は、映画館の時と同じように、仕返しを敢行する。
美琴は上条の背後からそ~っと近付き、「ねぇ!」と声を掛けた。
そして上条がこちらを振り向いた瞬間。

「…ん? どうしt…おうっわ!!?」

ムギュ。
美琴が、上条の胸に飛び付き手を上条の首の後ろに回してガッシリとロックした。

「ちょ、みみこ美琴さん! 無理しちゃダメって言ったばかりなんですけど!?」
「ちちち地に足を付けなきゃ平気よっ! それよりどう!? 恥ずかしいでしょ!」

確かに恥ずかしいが、それは美琴も同様だ。
と言うか、どちらかと言えば美琴の方がダメージがデカそうである。
美琴は耳まで真っ赤にしながら、ギュ~ッとその手に力を込める。何をやっているのだ、この二人は。




[ソルベ・お姫様抱っこのサッパリシャーベット]


何だか分からないが、美琴が急に大胆な行動に出てきて困惑する上条。
「恥ずかしいでしょ」とか言われたが、そもそも恥ずかしかったら何なのだ。
それに上条的には、「恥ずかしい」よりも「嬉しい」の方が割合が高い。
とは言え、美琴は足を挫いているので、これ以上、力を入れさせる訳にはいかないだろう。
名残惜しいが、上条は美琴をそっと降ろす事にした。

「はいはい。じゃあ、今度もゆっくり降ろしますからね」
「何その大人の対応!? また何か負けた気ぶn………みょわっ!!?」

ムギュ。
上条が、美琴の背中と膝裏を抱えて持ち上げる。

「わわわっ!? ちょっと!」

しかし美琴は上条の首に手を回しているままなので、完全にお姫様抱っこ状態になってしまった。
ある意味、さっきのおんぶよりも恥ずかしい。美琴、またも敗北(?)である。

「お……降ろしなさいよ馬鹿ぁ…!」
「…いやだから、降ろすって言ってんじゃん」




[肉料理・国産ハグ100%の和風ソテー]


美琴をゆっくりと降ろした上条は、改めて彼女と正面から向き合い、問いただす。

「美琴どうしたんだ? 何か映画館を出た辺りから様子がおかしいぞ」
「っ! だっ、誰のせいだと思ってんのよ!?」

美琴の様子がおかしくなったのは、足を挫いて上条におんぶされて見世物にもされるという、
恥辱を味わったからなのだが、そんな事に気付きもしない上条である。

「アンタが…あんな事するから……ドキドキしちゃって……
 でも仕返ししても、全然効果ないし…ドキドキしてくれないし…」

しかし美琴のこの告発で、理不尽この上ない理屈ではあるが、動機は何となく分かった。
要するに映画を観ていた時のように仕返ししたかったらしいのだが、失敗したという事だ。
上条は「あー…」と声を漏らしながら自分の頭をポリポリかき、そして。

「……べあっ!?」

ムギュ。
上条が正面から、美琴の腰に腕を回してギュッと抱き締めた。

「か、上条さんだってドキドキしてますよ、そりゃ」
「えっ、ホ、ホント…?」
「当たり前だろ。好きな女の子にギュってされて、ドキドキしない男がおりますか!
 その証拠にほら、心臓の音、聞こえるだろ?」

胸と胸が合わさったこの状況では、お互いの心音がダイレクトに伝わってしまう。
確かに、いつもよりも速く脈を打っている事が分かる。

「な?」
「………うん…」

安心したのか何なのか、とりあえず美琴は落ち着きを取り戻した。
そして上条の匂いと体温に包まれながら、こちらも負けじと抱き締め返すのだった。


[フルーツ・季節のナデナデのヨシヨシソース掛け]


「んにゅんにゅ…えへへへへへへぇ~」

謎の言語を発しながら、幸せそうに笑う美琴。上条にハグされて自分もハグして、夢心地な気分らしい。
こんなフニャフニャな顔を見せられたら、上条も更に可愛がってあげたくなってしまう。なので。

「…んっ……にゃんか…ふわふわしゅりゅ…」

ムギュ。
上条が、美琴を抱き締めたまま頭を撫でた。

「もっとしてぇ…?」
「へいへい」

少しずつ、美琴が甘えん坊モードになってきている。
度重なるドキドキでリミッターでも外れたのだろうか。心なしか、目もとろんとしてきている。
上条は子供でもあやすかのように、そのまま美琴をヨシヨシした。
美琴は気持ち良さそうに、ゴロゴロと唸るのだった。まんまニャンコである。




[デザート・たっぷり膝抱っこを使った濃厚タルト]


上条は今、美琴に胡坐をかかされている。
膝の上には当然のように美琴が座り、上条の胸を座椅子代わりにもたれかかっている。
これも先程、美琴の中のリミッターが外れた影響だろう。もう甘々な状態が止まらないのだ。

「ミコっちゃ~ん? そろそろ上条さんの足が痺れてきたのですが~?」
「ダメー! 私が足を挫いたからって心配してきたのは当麻の方でしょ?
 だからこうやって、何かに寄りかかってなきゃいけないの!
 それに私、今は電気流してないわよ?」
「…いや、痺れたってそういう意味じゃないよ」

駄目だ。今の美琴に何を言っても、聞く耳を持っちゃくれない。
ここは相手のフィールドに立つ必要がある。相手のフィールド…つまりは抱き締め返しを。

「ふにゃっ!!?」

ムギュ。
上条が座ったまま背後から、美琴のお腹に手を回すように抱き付いてきた。

「んふふ~…当麻も甘々?」

しかし効果は薄い。
いや正確に言えば効果はあるようだが、逆に美琴を益々とろとろにさせてしまう。
いつものようにテンパらせる事は出来なくなってしまったようだ。しかし上条はこうも思った。

(これはアレですかね。上条さんも本能に任せた方がいい流れなんですかね。
 って言うか我慢なんて出来るか俺だって甘えたいわギュ~~~ッ!!!)

背後から、力いっぱい抱き締めた。何かもうムチャクチャしたかったのだ。




[ドリンク・食後の絞りたて抱き枕ジュース]


ひとしきり座椅子条さんを堪能すると、美琴は突然その場でゴロンと横になる。
しかし先程までの甘々な雰囲気とは少々異なり、妙に艶っぽいというか色気が溢れている。
今度は何をさせる気なのかと上条が不思議そうな顔をすると。

「当麻も寝て…?」

と、ワガママ姫様からのご命令。言われた通り、上条も仕方なく横になる。そして。

「えいっ!」
「でしょうね~。何となく分かってましたよ、上条さんは」

ムギュ。
美琴が横になったまま、上条を抱き締めてきたのだ。

「…こうしてると何だか落ち着く……不思議…ドキドキはずっと止まらないままなのに…」
「俺もだよ」
「ふふっ。なにそれ」
「美琴が先に言ったんだろ?」

二人は笑い合い、そのまま優しく口付けをした。
この幸せな時間が永遠に続けばいいと、誓い合うかのように―――




[裏メインディッシュ・肉汁たっぷり正常iゲフンゲフン]


深夜。
上条と美琴は二人でベッドに入り、ディープ・キスをしながら抱き合っていた。
が、何が起こっているのか詳しく説明する事は出来ないので、そこら辺はファンタジーとしておこう。










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