とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

2章

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                第二章 それは偶然か必然か ~ 十二月一日



「あー。今日も疲れた疲れたぜ疲れましたよ三段活用? 上条さんはもう心身ともにへとへとです。
インデックスは小萌先生のとこで焼肉パーティーらしいし、今日のところは久しぶりにファミレスで
優雅に晩飯でも食いますか」

 放課後、上条は上機嫌で雑踏の中を歩いていた。いや、実際には上機嫌などではなく、ここ数日
の不幸続きで逆にハイになっているといったところか。
 彼の不幸?は今日も例外ではなく、六限目が体育だったのだが、諸事情により授業に遅刻した上
条は罰として校庭を約四キロ分ぐるぐると走らされ、帰り際に小萌先生から『上条ちゃんはバカなの
で課題をプレゼントです。期限は明日までに必ずですよー』と例の如く大量の宿題を渡され、学校の
正門前では車に轢かれそうになり、さらには美琴とデートの約束をしていたのだがドタキャンされて
しまった。
 ちなみにデートのドタキャンは、カエル顔の医者と御坂妹から呼び出しを喰らったとのことで、心配
になった上条は俺も一緒に付いて行くと言ったのだが、『私と妹の問題だからアンタがいちゃダメな
のよ』とのことで断られてしまった。ただ、十九時に病院へ来るようにとのご命令は下りている。
 という訳で、それまで何もすることがない上条は、久しぶりにちゃんとしたご飯でも食べようかななど
と考えた結果、ファミレスでも寄って腹ごしらえと時間潰しでもしようということに決めたのであるが……。

「んー? あの変なツインテールは白井か?」

 前方にふらふらと歩く見知った少女の存在を認めた。

「なにやってんだあいつ。ぼーっとしてるっぽいけど」


                    *


(はぁ…。一体どうしてしまったというのでしょう。訳が解りませんの……)

 白井黒子は、自身の胸中を支配しつつある莫大な感情に戸惑いを隠せずにいた。

 白井は今、学生で多くあふれる放課後の第七学区を一人で歩いている。ただ、他の多くの学生た
ちとは違い、彼女はここで遊んでいる訳ではない。風紀委員として巡回しているのだ。白井は人一倍
の正義感と、決して悪を許さないという強く堅い意思を持つ人間である。だからこそ、彼女は『風紀委
員』であるし、どんなに危険で大きな悪に対しても、その幼さの残る小さな体で立ち向かう。そんな揺
るぎない強く堅い意思は、彼女にとって憧れの存在となるお姉様――白井のルームメイトであり、学
園都市の頂点・超能力者(レベル5)の第三位である『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴を想い慕う
気持ちも変わらない……はずであった。
 白井は今、学生で多くあふれる放課後の第七学区を一人で歩いている。風紀委員として巡回して
いるのだ。しかし、彼女は周囲の光景をはっきりと認識していない。なぜなら、白井は今かつてない
ほどの莫大な“何か”という感情に戸惑い、悩んでいるからだ。最近見た映画やドラマなど、いろいろ
な事を考えても、目を凝らして周囲を見回してみても、気付いた時にはその“何か”について考え悩ん
でしまっているのである。
(それもこれもすべてあの殿方のせいですの。ええ、絶対そうですの)

 白井が今、ぐるぐると同じ思考を繰り返しているのには大きな訳がある。彼女が想い慕うお姉様、
つまり御坂美琴に、上条当麻という彼氏(こいびと)ができてしまったからだ。そして、その事実を
知ったとき、自分の胸の奥底から“何か”という感情が溢れ出したからだ。
 美琴と上条が付き合っていることを本人たちは公表していない。黒子は先の事情により知ってしま
っているが、それ以外に“事実”を知るものはいない。しかし、常盤台中学の校内では既に様々な噂
が飛び交っていて、美琴を祝福する者や妬む者も存在する。今の白井が“どちらの立場なのか”と
問われれば、間違いなく祝福する者ではないと断言できる。嫉妬しているのだ。しかし、その嫉妬と
は一体“何に対して嫉妬”なのだろうか。
 なぜ自分がそんなくだらないことを繰り返し考えているのかは解らない。しかし、頭の中では美琴
と上条のことばかり考えてしまう。本当に、そんなことばかり考えて歩いていた。周囲の喧騒など耳
に入らない。周囲の風景など目に入らない。だからだろう、目の前に地下街の入口があることにも
気づかず、白井はそのまま足を踏み出してしまった。

「ッ――!」

 一瞬の出来事だった。足元にあるべき地面が“突然無くなった”。
 いや、違う。白井は地下街の入口で階段を踏み外したのだ。

 地下街というものは意外と深いもので、万が一転倒してしまった場合、ビル二階分もの階段を一
気に転げ落ちるような場所だって存在するのだ。下手をすれば骨折どころでは済まない。人間とは
とても弱い生き物である。打ち所が悪ければ、たった1メートルの高さから落下しただけでも簡単に
命を失うのだ。

 白井の能力は大能力者(レベル4)の『空間移動(テレポート)』である。空間移動では、三次元上、
つまり普段我々が認識している“この空間”に存在するものを、そのまま目的の場所へ投げるように
飛ばすのではなく、座標を一一次元上の埋論値に置き換えて空間を再把握・計算し、物体が今現在
ある座標から指定した座標へ“転送する”のである。三次元上からは一旦“消滅”させ、移動先の空
間を押しのけて“出現”するような格好になるのだ。
 例えば鋼鉄の棒をまっすぐ立て、そこへ薄い紙切れを転送したとする。その棒のうち紙を転送され
た場所は、転送したもの・されたものの強度に関係なく、その転送した紙の分だけ上下左右に押しの
けられてしまう。もし棒の平面積より紙の平面積が広ければ、柱は完全に分割・切断されてしまうだ
ろう。壁や土の中に物体を転送して、埋め込んでしまうことだって可能だ。白井が被疑者確保や護身
用として良く使う『金属の矢』もこれの応用なのである。
 しかし、一見攻撃性が高くまた移動便利に見える白井の能力だが、ご存知の通り重大な欠点が、
大きく言って二つある。
 一つとして、自らの体表面に触れているか、着衣やアクセサリーなどの体表面から極めて近い距
離、つまり能力の有効範囲内にあるもの以外は移動できないのだ。その為、遠くにあるものを移動
させる――例えば飲み物や雑誌などを、置いてある場所から自らの手元に転送させる、といった便
利な使い方は残念ながら出来ない。
 そしてもう一つの欠点が、非常に複雑な一一次元上の埋論値に置き換えなければ空間把握・座
標計算を行えないため、正確な移動や転送のためには高い集中力と極めて高度な演算能力が求
められる。能力を発動する際に突然の衝撃などにより集中力が途切れてしまうと、正確な座標計算
が出来なくなり、能力が無効化(キャンセル)されたり転送を失敗してしまう。

 つまり、現在の状況下では、白井は自身の能力を使用して安全な場所へ自身を転送することも、
衝撃緩和のためにクッションとなりうる物体を下に準備することもできない。自身の能力など、何の
役にも立たないのだ。重力に逆らうことも、危険を回避することもできない。
 そして――――

「…ぇ?」

 白井は、階段を転げ落ちることはなかった。
 能力が使えたのではない。誰かが白井の右腕を掴んだのだ。

「おい、大丈夫か!? お前何やってんだよ、危うく大ケガするところだったぞ」
「……か、上条さん。すみませんの、少し考え事をしていたもので。おかげで助かりましたわ」
「ったく、気をつけろよな。まぁ、ケガしなくて何よりだ。お前いつも一人で突っ走ってそうだし、これ以
上ケガされちゃ困るしな。つーか考え事? 悩みでもあるなら、この上条さんが何でもお聞き致しま
すよ」
 上条はそう言うが、白井の悩み事の原因がまさか自分と美琴にあるなんて思っていないだろう。
実際、上条は「風紀委員での仕事が大変なんだろうな」程度にしか考えていない。確かに白井以外
の人間からしたら、そちらのほうが重要なのだろうし。
「ご心配いただいて光栄ですわ。ただ、せっかくですが考え事のほうは大丈夫ですの。風紀委員の
支部でもうすぐ大掃除があるのですが、片付けなければならない書類が多いもので、今から頭が痛
くなっていただけですから」
 白井は上条の胸元にぶら下がる、どこかで見たようなオープンハートのネックレスに気付いた。
彼女の心の中の“何か”傷む。それが“何なのか”、そして何故痛むのかはわからない。
「あら? 随分と可愛らしいネックレスされてますのね」
「あ、ああ。……男がピンクのハートってやっぱ変か?」
「別に、趣味は人それぞれですわよ。あと、せっかく助けて頂いたのに申し訳ないですが、今わたくし
とても忙しいもので……。お礼は後日必ず致しますの」
 忙しいなんていうのは嘘だ。白井は今暇であり、だからこそ支部に詰めずに巡回をしているのだ。
ではなぜ忙しいなんて言ったか? それは、なぜか上条の前から早く立ち去りたくなったのだ。しか
し、それがなぜかはわからない。
「お礼? 別にいらねーよ。お礼してもらうために助けた訳じゃねえしさ。お前がケガしないで済んだ
んだから、それだけで十分」
「あなた、本当に無条件で人を助けるんですのね……。ですが、お礼はわたくしが勝手にさせて頂き
ますの。……それでは」
「ああ、気をつけろよ」
 歩き始めた白井は、「あ、それと……」と何かを思い出したように立ち止まると、上条の方へと振り
返り、

「わたくしのお姉様にちょっかい出されましたら、例え命の恩人であろうと決して許しませんので、
そのつもりで」

 にこやかな笑顔で上条にそう告げ、再び歩き出した。

 その笑顔は、皮肉や当てつけではなく、“彼女なりの強がり”であった。

                    *


 上条はかかりつけと言っても差し支えないほどまでに来なれた病院の前にいた。といっても彼の
体に異常はないし、入院患者の見舞いに来た訳ではない。そもそも時間は既に十九時であって、
本来ならば部外者は出入りできない時間だ。ではなぜここにいるかというと、この病院に入院して
(住んで)いるとある少女に会いに来るようにと、美琴から呼ばれていたからだ。
 妹達(シスターズ)――御坂美琴の軍用量産型体細胞クローンのうち、上条から御坂妹と呼ばれ
ている検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号を含む数名の“ミサカ”は、かつての絶対能力進
化(レベル6シフト)計画の中止後にこの病院へ保護された。ここで彼女たちはそれぞれが“ひとりの
人間として”、制限があるとはいえ普通に(と言えるかは別だが)生活できるようになったのだ。

「どっから入りゃいいんだ? つーかこんな時間に一体何なんだ??」
 上条は病院の前で立ち尽くしていた。正面玄関はすでに閉まっていて、どこから入ればいいのか
わからない。まさか救急入口から入る訳にはいかんだろう。美琴にメールしてみようかと思ったが、
院内では携帯の電源を切っているだろうから意味ないだろうと判断した結果、こうして途方に暮れ
てしまっている。
 恐らく帰宅するところであろう職員が、上条を怪訝な表情で見ている。はっきり言って、こんな時間
にこんな場所をうろつく男は不審者以外の何者でもない。そして、その職員と思わしき男性が上条
に近づく。
「あの、どうなさいました? 何かご用でしょうか。面会時間は十七時までですが」
「い、いや、別にあやしい者では」
 その返答はおもいっきり不審さをアピールするようなものである。どう返答すればよいかわからな
かった上条はついうろたえ、職員が彼を不審者として通報しようとする。そこに、突然第三者からの
声がかかった。
「どうしたんだい?」
「せ、先生! この少年がうろついていたもので」
「ああ。いいんだよ? 彼は僕の知り合いだからね?」
 カエルのような顔をした医者が誤解を解く。
「はー助かった……。先生、ありがとうございます。いや、一体どこから入ればいいのかと……」
「ああ、それはすまないことをしたね? 彼女、入り方を君に伝えていなかったんだね?」
 カエル顔の医者はそう言うと、上条を職員通用口へと案内した。そして、白衣の胸ポケットからID
カードを取り出すと、
「君のIDは登録してあるからね? これ、上条クンのIDカードだ。いつでも好きな時に入っていいよ?」
「……、はい??」
 カエル顔は、さも当然とでも言うように、
「君はとても重要な関係者だよ? 自由に出入りできるのは当たり前の事じゃないかい?」
「……あの、先生。なぜこのわたくし上条当麻がとても重要な関係者なんでせう?」
「とても重要な関係者だからに決まっているからだね?」
 それは答えになってない、という言葉は飲み込んでおくとして、なぜか上条は自分の行く先が不安
でたまらないのであった。
 結局、カエル顔の先生(美琴曰くリアルゲコ太)に案内されるがまま病院内へと足を踏み入れた上条
だったが、先生は医局へ戻るとのことで、一人で御坂妹の“部屋”へと向かうことになった。

 臨床研究エリア――この病院にはそう呼ばれる区画がある。位置的に関係者以外が訪れることは
ないと言ってもいいほど静まったエリアで、その一部では同じ身体の少女たちが一〇人ほど生活して
おり、事実上そこは少女たちのための場所になっている。
 その臨床研究エリアへと入ってすぐ、上条の目になにやら奇妙な光景が飛び込んできた。そこには
色違いのパステルカラーで無地の、ブラウスタイプのパジャマを着た四人の少女と、常盤台中学の冬
服を着た一人の少女が、“姉妹ゲンカをしていた”。

「またコソコソと汚い真似をしていたのですね! とミサカ一〇〇三二号はコイツを非難します!」
 サックスのパジャマを着た、少年から唯一“御坂妹”と呼ばれる少女がそう声を張り上げると、
「ちょっとあんた! なんで私より“大きいのよ”!」
 ベージュのブレザーを着た、彼女たちのお姉様である御坂美琴が怒り、
「み、ミサカは自らに迫る危機を――――ッ!」
 ピンクのパジャマを着た、いま四人から取り囲まれている一九〇九〇号は、
「逃がしません! とミサカ一三五七七号は実力行使します」
 オレンジのパジャマを着た少女に“上半身を脱がされ”、
「やはり明らかに大きいです、とミサカ一〇〇三九号は報告します!」
 パープルのパジャマを着た少女に“胸を後ろから揉むように鷲掴みにされた”。

 そして、上条にとって不幸なことに、

「い、いや、見ないで下さい、とミサカは……」

 人一倍恥ずかしがりな一九〇九〇号が、上条を見つけてしまった。






                    *


 ここで状況を説明しておこう。 
 上条当麻と呼ばれるツンツン頭の高校生はいま、一九〇九〇号を除く四人の少女からフルボッコ
にされ、床にへたり込んでいる。

 一般的に、女性はパジャマの下にはブラジャーをつけない。これは寝る時に圧迫感があったり、ワ
イヤー入りのブラの場合これが刺さったりして痛いからだ。だからこそ、パジャマ姿の彼女たちはいま
ブラをつけていないし、もしそのブラウスタイプのパジャマの前ボタンを全部開放させたらどうなるかは
わかるであろう。
 つまり上条当麻は、いま顔を赤く染め涙目で自分の身体をぎゅっと抱きしめるようにしている一九〇
九〇号の胸をばっちりと見てしまったのだ。一応上条を擁護すると、胸の大きさについて揉めた少女
たちが実力行使した際、偶然上条が来てしまい見えてしまった、ということで、決して上条がケダモノ
になった訳ではない。
 しかし、見てしまったという事実は変らないため、美琴と三人の妹達から鉄拳制裁を喰らった訳で、
上条によると「ふ、不幸、だ……」とのことである。

 妹達――それは“造られた心”を持った“造られた実験動物”であった。しかし、とある事件での
とある少年の行動や言動がきっかけとなって、“自らの心”を持った“一人の少女”へと少しずつ
変っていった。

 あれから三ヶ月以上が経ち、彼女たちはかなりの個性が出始めている。彼女たちが着ているパジ
ャマの色もその表れだ。性格・趣味・趣向など、それぞれがそれぞれの“人間”へと成長を遂げている。
多くの妹達は感情や表情が多彩になり、自然な笑顔も見せるようになった。一九〇九〇号の恥ずか
しがり屋という“個性”、御坂妹の表情が相変わらず乏しめという“個性”。それらは決して造られたも
のではない、彼女たちの自然なものなのだ。

 閑話休題。
 上条はいま四人の同じ顔をした少女から睨まれている。理由は先の通りだ。

「あんた! ナニ人の許可もなく勝手に妹の胸見てんのよ!」
「いくらミサカがコイツの愛玩奴隷だからといって、これは許せません。とミサカはこの浮気男を睨み
つけます」
「今の一〇〇三二号の奴隷宣言は聞き逃せません! と、ミサカは初めて会う当麻様に心奪われそ
うになるのを我慢しながら二人を交互に睨みつけます」
「また一九〇九〇号は抜け駆けしようとしてますね? とミサカ一〇〇三九号は――」
「だから不可抗力だあああ!」
 矢継ぎ早に飛び交う同じ顔の少女たちの言葉。
 そして弁明する上条。

 どういうわけか美琴と妹達は口調のみならず声色まで違うので、一人だけ別の声の美琴は聞き分
けがつくし、首にかかるネックレスでも見分けはつく。また、御坂妹は他の妹達より表情が乏しめ(穏
やかとも言う)であり、これまた首にかかるネックレスで見分けがつく。しかし、小っこいのを除いた他
の妹達に会うのは今回が初めてであり、恥ずかしがり屋で口調がごにょごにょした一九〇九〇号は
すぐに掴めたが、後の二人はまったく見分けがつかない。
 とりあえず今回はパジャマの色(一人は制服だが)で見分けることにした上条は、自らに怒りをぶつ
ける“妹達に”、こう声をかけてしまった。

「そ、そうだ、お前ら、そのパジャマ似合ってるじゃねえか」

 少女たちの怒りの声が止んだ。(お姉様を除く)

 そして、唯一隅で黙って顔を赤くしていた一九〇九〇号が、
「あ、あの、可愛い……、ですか? と、ミサカは不安になりつつ聞いてみます」
 と上条に問いかけ、
「え? ああ、可愛いと思うぞ」
 と上条が上条らしからぬ答えを返したことにより、
「か、可愛いと言ってもらえました、とミサカの胸は幸せでいっぱいになってしまいます」
 と彼女は喜んでいたが、
「「「「……。」」」」
 無言の怒りのような重圧が、ひしひしと上条に伝わってくる。
「あんたは……、」
「は、はい?」
「そんなに恥らう妹が好きかこのシスコンがぁぁぁあ!」
「ち、違う! そういう訳じゃねえええ!」
「では、姉妹セットでご購入ということですね? とミサカはこの粗大ゴミを見下ろしながら問います」
「粗大ゴミはこんな所に放置せず病院裏の集積所へ捨てるべきです。とミサカは一三五七七号はす
ぐに実行しようと考えつつ提案します」
「粗大ゴミは勿体無いのでリサイクルすべきではないでしょうか。と、一〇〇三九号は独占を狙いつ
つ――」
「ちょっとアンタたち、私の彼氏を粗大ゴミ扱いしてんじゃないわよ!」
「粗大ゴミは粗大ゴミです。とミサカは空気の読めないお姉様の発言に苛立ちを――」

                    *


 結局、再び?燃え上がった姉妹ゲンカに巻き込まれ、何の為に病院へ行ったんだかまったくわから
ないうちに、お怒りモードの美琴に連れられ外へ出た。なぜ怒っているのか問いかけたところ、「アン
タがあの子たちにまで手を出すからでしょうがどバカ!」と怒鳴られた。どうやらさらに怒らせてしまっ
たらしい。
 仕方がないので少し恥ずかしいが抱きしめてキスしてやったら、途端に猫モードにシフトチェンジ
したらしくおとなしくなった。最近ようやく美琴の扱い方がわかってきたかもしれない。

「アンタね、ちょっとは人の気持ち考えなさいよ」
「だから悪かったって。ほら、ヤシの実サイダーおごってやるからさ」
「い、いらないわよそんなもの。モノで釣れると思ったら大間違いなんだから。だいたい、私は飲み物
より、あ、アンタが……」
 美琴は顔を赤く染めながら上条の顔を見上げていた。
「俺が、どうしたのか?」
「……ッ! このバカ!」
 これは可愛すぎる訳で……。
 しかし、ぎゅっと抱きしめたくなる衝動はぐっとこらえ、気になっていたことを聞いてみた。
「そういえばさ、結局何だったんだ? お前はなんだかずっと姉妹ゲンカしてたし、なんか知らねえ
けど勝手に俺のIDカード作られてて関係者扱いされたし」
「え? あ、あー……、それね。私はあの子達に呼ばれたから行ったのよ。話しがあるからってね」
「話?」
「そう。なんかアンタと手つないで歩いてるところ見られちゃったらしくてねー。問い詰められただけよ」
「何だそんなことか……。てっきりあいつらに何かあったんかと心配してたんだぜ」
「……、あったと言えばあったわね、一人。胸とかお腹とか腕とか」
「は、はい?」
 恥ずかしがり屋さんのスタイルの件を引きずっているらしい。
 ちなみに抜け駆けの常習犯さんは、引き締まったウエストだけでなくバストも大きくなっている。
美琴や妹達の中で最もスタイルが良いらしいが上条はそれを知る由もない。
「なんでもないわよ! こっちの話」
「あのー、すげえ気になるんですが」
「気にすんなバカ」
「バカで悪かったですよー。じゃなくて、じゃあ関係者ってのは何なんだ? 勝手に俺の写真がIDカー
ドに転写されてるんだが」
 重要なのはそこである。上条の個人情報・写真などをもとにIDカードが作られていて、さらに指紋
なども登録されていた。本人の知らないうちに、だ。
「あー、それねー。私のIDカード作るって言うから、あんたのもついでに作ってもらったのよ」
「テメェかッ! 何勝手に作らせんだよ!!」
「いいじゃない。アンタはあの子達のお兄ちゃんなんだからね」
「お、お兄ちゃん?」
「私はあの子達の姉なのよ? その姉の彼氏は兄みたいなもんじゃない。だいたい、アンタがあの子
達を助けてくれたんだし、懐かれてるんだから立派な関係者よ」
「あのなぁ、それは否定しないけどな、一言くらい何かあってもというか本人の許可くらい取るだろふ
つう」
「ゴチャゴチャうるさいわね。せっかく夜に星空の下を二人で歩いてるんだから、手つなぐとかもっと
そういう雰囲気作りなさいよ」
 そう言って、美琴は上条の右手を握った。が、
「ダメ。今は強引なお嬢様にお説教タイムです。とにかく、何で俺のID作らせたんだ? ついでじゃなく
てなんか理由あるんだろ? 正直に言いなさい」
「ないわよ」
 さらり、即答である。そして美琴は続ける。
「あったほうが無いより便利じゃない。それに、これからはアンタが関係者として病院へ行くことも増え
るんだから」
「何で増えんだよ」
「私としては悔しいけど……、アンタも知ってる通り、あの子達はアンタの存在を必要としてるのよ?
 だからたまにでいいからアンタも“あの子達の家”に遊びに行ってあげること。おっけー?」
「遊びにって何だ? 何しろって?」
「雑談したりするだけでいいのよ。あの子達は“上条当麻という異性がいるから個性が出る”の。悔し
いけどね。あ、許可なく浮気したらダメよ? 音速十倍以上で一〇センチくらいの鉄球を超電磁砲で
プレゼント」
 さらっととんでもないことを言う。しかし怒らせたら本当にされそうで恐いのだが。
「じゅ、十倍!? 三倍じゃねえのかよ?」
「三倍は公称値よ。コインを五十メートルプールの水に向かって限界まで手加減して音速の三倍毎分
八連発、それ以上だと測れないどころかプールが消滅するし。やったことないけど、巨大な金属の塊
でも本気でぶっ放したら、衝撃波で学園都市どころか都心まで吹っ飛ぶんじゃない?」
「いや、あの、やったことあったらもう俺どころか東京都民ほとんど死んでますから」
「大丈夫よ。もしそうなってもアンタだったら私を止めてくれるでしょ? 当麻には負けないけどこの右
手には勝てないわよ」
 そう言って、美琴は自分の左手を握り締める上条の右手を引き上げた。幻想殺し(イマジンブレイ
カー)――それは美琴にとっては敵であり必須でもある大切な彼の手。以前ほど漏電することはなく
なったとはいえ、やはり不意打ちされたり妙に意識してしまうと漏電してしまうので、そんな時は右手
で止めてもらわなくてはならない。
「っていうか話はぐらかしすぎだろお前!」
「いいじゃない!」
 美琴はクスリと笑い、
「私のため妹のため。裏も表も無いんだから、アンタはそう考えてればいいのよー」
「あ、おい待てコラ!」

 上条の手を離し、タッ、と走り出す美琴。
 そして美琴を上条が追う。

 いつもとは逆の追いかけっこが、星空の下で始まった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
          12月1日 
        ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  今日、街で考え事をしながら歩いていて
  つい周りが見えなくなってしまいましたの。
   気付いた時には階段を転落しそうになり、
  能力も使えず大怪我を覚悟したところ、
     あの腐れ類人猿がまたしても
   わたくしを助けてくださいましたの。
  そんなことで高感度をあげて、お姉様を
     奪おうなんて百年早いですわ。
         ケッケッケ。

    でも、本当に助かりましたの。

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