第三章 とある学生の日常風景 ~ 十二月四日
1
「……不幸だ」
わたくしこと上条当麻は、今日も朝からその言葉を呟いてしまった。
事の始まりは朝五時丁度。
学生にとってはまだまだ早すぎる時間に、“彼女を名乗る謎の女”からのモーニングコールで強制
的に起床させられ、仕方がないのでまずトイレを済ませようと立ち上がったところ、風呂と洗面所の
間にある段差に左足小指を強打し爪が割れ出血、絆創膏と消毒液を取り出すため救急箱を空ける
と、消毒液は中身が空っぽで絆創膏は糊が劣化してベトベトのヌチャヌチャ。仕方が無いので台所
のお湯で患部を軽く洗い流そうとしたら、瞬間湯沸かし器から熱湯が吹き出し患部周辺を火傷。急
いで冷水をかけたら急激な温度変化で出血がひどくなり痛みも激増。そんなことをドタバタとしてい
ると、起床したらしい食料ブラックホールさんに「朝からうるさいんだよとうま!」などと頭を噛み付か
れ負傷。仕方が無いので足の怪我を放置し暴食シスターさんのために朝食を作ろうとしたら、なぜ
かガスコンロの火がつかなかったため魚を焼けずパンに変更。トースターを引っ張り出し電源を入
れると突然ショートし故障。インスタントラーメンは買いだめしていたはずなのに在庫ゼロ。そんなこ
とをやっているうちに時間は八時を過ぎ、どうしようもないので暴食シスターは放置して朝食も摂ら
ず足の痛みを我慢しながら学校へ向かい全速前進……。
こういった具合で、今朝は普段の数倍以上の不幸を一気に味わっている上条さんなのです。ちな
みに、走っている最中に危うく犬のフンを踏みそうになって不幸指数が一〇上昇、現段階での上条
さんの不幸指数は既に一〇〇を軽く突破している。
「――、ぉ――ぅ」
(ちょっとくらい幸せな朝を迎えたいなーなんて想ったりする上条さんですが、そんな上条さんの前に
幸福の女神様など現れる訳がないことくらい、この上条さんが一番解っていますことよ……)
「―ぇ、―麻――よう」
「はっ……、クソ、時間が……」
「おはよう当麻」
「……。」
「当麻ぁ!」
「あー足いてえよ……、なんで朝からこんな目に……」
「ちょっと当麻っ!」
「うわ! つーか全然間に合わねえじゃねーか!」
「ちょっと! あんたよアンタっ! スルーすんな!!」
バチン、バチッ!と音をたて、スパークブルーに輝く火花が飛び散る。
普段の彼であれば、既にこの時点で気付いていたであろう。しかし、今の彼は必死なのだ。“そん
なもの”に気付く余裕など無いし、そもそも気付いていたとして相手をしてる余裕なんてないのだ。
しかし、当然のように怒り狂った“そんなもの”は威力を増す。
「しかも今日の1限って小萌先生じゃねえか! まずい、拙すぎる!!」
「あぁぁんたぁぁぁぁぁあっ! 私を無視すんなぁぁあ!!」
瞬間、“公称”十億ボルトの、実際にはそれを余裕で越えていると推定される特別高圧電流『雷撃
の槍』が上条を背後から襲う。まるで雷鳴のような、ズドン!!という爆音が天地に響き渡る。辺りを
行く学生たちは一斉に悲鳴を上げ、ある者は逃げ惑い、ある者は腰を抜かし、ある者は風紀委員
(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)に通報しようとする。
突然(と上条は思っている)の出来事に驚き、闇雲に右手を振り回す。彼の右手が『雷撃の槍』に
触れた瞬間、その電撃は全て打ち消される。
「うおわぁぁ何だ何だ何ですか!? 誰だいきなり! 新手のストーカーか!? 東京都公衆に著しく
迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反で風紀委員か警備員に訴えてやる!」
誰だも何も、こんな攻撃を上条に向かって平気で打ち出せる人物は限られている訳で。
そして、全ての原因は、御坂スルー伝説を打ち立てるツンツン頭の高校生ご本人な訳で。
「アンタがスルーするからでしょうが!! 大体ナニ? せっかくこっちからおはようって挨拶してやっ
てんのに、アンタは自分の彼女をスルー? 人をストーカー呼ばわりするとはいい度胸じゃない!
大体、迷惑防止条例より殺人未遂の現行犯でしょ常識的に考えて!!」
上条が振り向いたそこには、見た者全てを恐怖で震え上がらせる憤怒の雷神(上条の彼女)様が
いらっしゃった訳でして。ちなみに上条さんとしては、なぜ幸福の女神様のご登場を願ったら悪鬼の
雷神様がご登場なさってしまうのでせう?と疑問に感じてしまう訳です。
「って美琴か! 挨拶も何もお前いつもいきなり『雷撃の槍』ぶっ放してくるじゃねえか。つーか、殺人
未遂だって自覚するような攻撃が、お前ん中ではおはようの挨拶なんですか? 上条さんはもっと
平和の朝を望んでいますのことよ?」
「なーにがいきなりよ! さっきだって七回も呼んだじゃない。大体アンタ、朝の電話もメールも全部
スルーしてるじゃない! 何なのよ全部スルーって。何度も何度も連絡取ろうとしてた私がバカみ
たいじゃない!」
とまあこんな感じで、自分の彼女様を恐怖の雷神様に進化させてしまった己の華麗なるスルーっ
ぷりに、上条はまったく気付いていないのだった。
「あぁぁ、こんなのの彼氏になっちまったばっかりに……、不幸だ…………」
ズドン! ふぎゃあぁぁあ!!
学生にとってはまだまだ早すぎる時間に、“彼女を名乗る謎の女”からのモーニングコールで強制
的に起床させられ、仕方がないのでまずトイレを済ませようと立ち上がったところ、風呂と洗面所の
間にある段差に左足小指を強打し爪が割れ出血、絆創膏と消毒液を取り出すため救急箱を空ける
と、消毒液は中身が空っぽで絆創膏は糊が劣化してベトベトのヌチャヌチャ。仕方が無いので台所
のお湯で患部を軽く洗い流そうとしたら、瞬間湯沸かし器から熱湯が吹き出し患部周辺を火傷。急
いで冷水をかけたら急激な温度変化で出血がひどくなり痛みも激増。そんなことをドタバタとしてい
ると、起床したらしい食料ブラックホールさんに「朝からうるさいんだよとうま!」などと頭を噛み付か
れ負傷。仕方が無いので足の怪我を放置し暴食シスターさんのために朝食を作ろうとしたら、なぜ
かガスコンロの火がつかなかったため魚を焼けずパンに変更。トースターを引っ張り出し電源を入
れると突然ショートし故障。インスタントラーメンは買いだめしていたはずなのに在庫ゼロ。そんなこ
とをやっているうちに時間は八時を過ぎ、どうしようもないので暴食シスターは放置して朝食も摂ら
ず足の痛みを我慢しながら学校へ向かい全速前進……。
こういった具合で、今朝は普段の数倍以上の不幸を一気に味わっている上条さんなのです。ちな
みに、走っている最中に危うく犬のフンを踏みそうになって不幸指数が一〇上昇、現段階での上条
さんの不幸指数は既に一〇〇を軽く突破している。
「――、ぉ――ぅ」
(ちょっとくらい幸せな朝を迎えたいなーなんて想ったりする上条さんですが、そんな上条さんの前に
幸福の女神様など現れる訳がないことくらい、この上条さんが一番解っていますことよ……)
「―ぇ、―麻――よう」
「はっ……、クソ、時間が……」
「おはよう当麻」
「……。」
「当麻ぁ!」
「あー足いてえよ……、なんで朝からこんな目に……」
「ちょっと当麻っ!」
「うわ! つーか全然間に合わねえじゃねーか!」
「ちょっと! あんたよアンタっ! スルーすんな!!」
バチン、バチッ!と音をたて、スパークブルーに輝く火花が飛び散る。
普段の彼であれば、既にこの時点で気付いていたであろう。しかし、今の彼は必死なのだ。“そん
なもの”に気付く余裕など無いし、そもそも気付いていたとして相手をしてる余裕なんてないのだ。
しかし、当然のように怒り狂った“そんなもの”は威力を増す。
「しかも今日の1限って小萌先生じゃねえか! まずい、拙すぎる!!」
「あぁぁんたぁぁぁぁぁあっ! 私を無視すんなぁぁあ!!」
瞬間、“公称”十億ボルトの、実際にはそれを余裕で越えていると推定される特別高圧電流『雷撃
の槍』が上条を背後から襲う。まるで雷鳴のような、ズドン!!という爆音が天地に響き渡る。辺りを
行く学生たちは一斉に悲鳴を上げ、ある者は逃げ惑い、ある者は腰を抜かし、ある者は風紀委員
(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)に通報しようとする。
突然(と上条は思っている)の出来事に驚き、闇雲に右手を振り回す。彼の右手が『雷撃の槍』に
触れた瞬間、その電撃は全て打ち消される。
「うおわぁぁ何だ何だ何ですか!? 誰だいきなり! 新手のストーカーか!? 東京都公衆に著しく
迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反で風紀委員か警備員に訴えてやる!」
誰だも何も、こんな攻撃を上条に向かって平気で打ち出せる人物は限られている訳で。
そして、全ての原因は、御坂スルー伝説を打ち立てるツンツン頭の高校生ご本人な訳で。
「アンタがスルーするからでしょうが!! 大体ナニ? せっかくこっちからおはようって挨拶してやっ
てんのに、アンタは自分の彼女をスルー? 人をストーカー呼ばわりするとはいい度胸じゃない!
大体、迷惑防止条例より殺人未遂の現行犯でしょ常識的に考えて!!」
上条が振り向いたそこには、見た者全てを恐怖で震え上がらせる憤怒の雷神(上条の彼女)様が
いらっしゃった訳でして。ちなみに上条さんとしては、なぜ幸福の女神様のご登場を願ったら悪鬼の
雷神様がご登場なさってしまうのでせう?と疑問に感じてしまう訳です。
「って美琴か! 挨拶も何もお前いつもいきなり『雷撃の槍』ぶっ放してくるじゃねえか。つーか、殺人
未遂だって自覚するような攻撃が、お前ん中ではおはようの挨拶なんですか? 上条さんはもっと
平和の朝を望んでいますのことよ?」
「なーにがいきなりよ! さっきだって七回も呼んだじゃない。大体アンタ、朝の電話もメールも全部
スルーしてるじゃない! 何なのよ全部スルーって。何度も何度も連絡取ろうとしてた私がバカみ
たいじゃない!」
とまあこんな感じで、自分の彼女様を恐怖の雷神様に進化させてしまった己の華麗なるスルーっ
ぷりに、上条はまったく気付いていないのだった。
「あぁぁ、こんなのの彼氏になっちまったばっかりに……、不幸だ…………」
ズドン! ふぎゃあぁぁあ!!
……こうして、今日も彼らの愉快で楽しい一日が幕を開けたのだった。
2
時は昼休み、ここはとある高校の一年七組教室。
三馬鹿こと黒髪ツンツン・金髪グラサン・青髪ピアスの三名は、体育後の昼食&昼休みという幸福
の時間を満喫している。
「あー、もう腹いっぱいだにゃー。やっぱり舞夏の手作り弁当は最高ぜよ」
「また自慢が始まったわ! どうせモテないボクは味気ないパンしか食われへんねん!」
「それはお前の下宿先のパン屋で売れ残った物持ってきてるからだろうが!」
「何やカミやん。売れ残りとは聞き捨てならへんなぁ。カミやんはあっちこっちでフラグ建てまくってる
さかい頼めば手作り愛妻弁当貰い食べ放題やから、売れ残ってるボクの気持ちは解らへんのや!」
「うるせえこのエセ関西弁の新潟野郎! あっちこっちな訳ねえだろ」
「カミやん。いい加減自分が旗男だと言うことを自覚しろ。そしてそろそろ本命絞らないとクラスの女
子たちに殺されるぜよ」
いつものことである。こいつらは騒がしいことこの上ない連中なのである。
しかし、たとえどんなにも騒がしかろうと、彼らこそがこのクラスを明るくしている功労者であること
は、みんな認めていることであり事実だ。だが、それも今この瞬間まで。
「……ねぇ上条くん、ちょっと良いかな?」
「ん? どうした?」
突然女子が割って入ってきた。ちなみに、笑顔がとても可憐な彼女は男子からかなり人気がある
ほうだ。なお、上条はクラスのほとんどの女子たち、さらには一万人もの女性にフラグを建てておき
ながら、それをずっと回収せずに(最近一つだけ回収したが)自分がフラグを建てたことすら気付か
ず、しかもそれらを完全にスルーしてきた超鈍感精神の持ち主である。そんな上条には、彼女が普
段見せるとびっきりの笑顔だって何の意味も為さない。
「そのハートっぽいネックレスどうしたの? 上条くんがアクセサリーとか着けてるのって、いままで見
なかったけど」
瞬間、上条の胸元にクラスメイト全員の視線が突き刺さった。
四限の体育で着替えたからだろうか、いつもは服の下につけているネックレスが今日に限ってシャ
ツの上に露出している。
(!! 拙い!)
慌ててももう遅い。即座にクラス中から質問の嵐が飛び始め、彼を追い詰める。
「そ、そう言われてみれば、カミやん何やそのネックレス」
「おいおい、これはどういうことなんだにゃーカミやん!」
「また上条か」
「まさか、上条お前また裏切るつもりだな!」
「それ。いつから」
「お前ら暴れるな!」
「カミやん説明するぜよ!」
「上条当麻、貴様また騒ぐつもりか!」
一気に襲い掛かるクラスメイトや憤怒の吹寄様(おでこDX)に恐れをなした上条は、
「っていうかこれは別に特に深い意味があるものではなくてですねいやだから自分で気に入ったん
で露天で買って着けてるだけですだから誰かから貰った訳でも誰かに贈った訳でもペアネックレス
だったりする訳でもないんです本当です信じてくださいごめんなさいでした――!」
即座に言い訳から土下座へ方針転換した。その行為は、自分自身を更に言い逃れの出来ない窮地に追い詰め、苦しめることになる。
「ペアネックレスだって。上条くんって彼女居たんだぁ。へぇー」
「相手はやっぱり可愛い子なんだろうねー」
女子たちまでもが上条に謎の怒りの視線をぶつける。
「あ、あの、なんかみなさん恐いというか怖いです…よ?」
「カミやん貴様ッ吐け! 誰に手を出したんだにゃーッッ!!」
「うぎゃぁぁ! 首がッ…お、おお、お前らっ、やめ――ッ殴るなーッ!」
「カミやんまさかあの銀髪碧眼つるぺたロリシスターに手ぇ出したんか!?」
「つるぺたロリ!? 上条ってやっぱりロリコンだったのか!」
「ロリコン!? じゃあ私たちは最初から相手にされてなかったってこと!?」
上条に嫉妬する男子諸君。そして、同じく嫉妬に燃える女子諸君。つまり、上条vsクラス全員の構
図が一瞬にして出来上がった。
暴れる上条、取り押さえ殴りかかる男子連中。そして上条のポケットから誰かが携帯を抜き取り、
「バカいいんちょ!」と叫んだ直後、「とったでー!」と、青髪の手に投げ渡される。
三馬鹿こと黒髪ツンツン・金髪グラサン・青髪ピアスの三名は、体育後の昼食&昼休みという幸福
の時間を満喫している。
「あー、もう腹いっぱいだにゃー。やっぱり舞夏の手作り弁当は最高ぜよ」
「また自慢が始まったわ! どうせモテないボクは味気ないパンしか食われへんねん!」
「それはお前の下宿先のパン屋で売れ残った物持ってきてるからだろうが!」
「何やカミやん。売れ残りとは聞き捨てならへんなぁ。カミやんはあっちこっちでフラグ建てまくってる
さかい頼めば手作り愛妻弁当貰い食べ放題やから、売れ残ってるボクの気持ちは解らへんのや!」
「うるせえこのエセ関西弁の新潟野郎! あっちこっちな訳ねえだろ」
「カミやん。いい加減自分が旗男だと言うことを自覚しろ。そしてそろそろ本命絞らないとクラスの女
子たちに殺されるぜよ」
いつものことである。こいつらは騒がしいことこの上ない連中なのである。
しかし、たとえどんなにも騒がしかろうと、彼らこそがこのクラスを明るくしている功労者であること
は、みんな認めていることであり事実だ。だが、それも今この瞬間まで。
「……ねぇ上条くん、ちょっと良いかな?」
「ん? どうした?」
突然女子が割って入ってきた。ちなみに、笑顔がとても可憐な彼女は男子からかなり人気がある
ほうだ。なお、上条はクラスのほとんどの女子たち、さらには一万人もの女性にフラグを建てておき
ながら、それをずっと回収せずに(最近一つだけ回収したが)自分がフラグを建てたことすら気付か
ず、しかもそれらを完全にスルーしてきた超鈍感精神の持ち主である。そんな上条には、彼女が普
段見せるとびっきりの笑顔だって何の意味も為さない。
「そのハートっぽいネックレスどうしたの? 上条くんがアクセサリーとか着けてるのって、いままで見
なかったけど」
瞬間、上条の胸元にクラスメイト全員の視線が突き刺さった。
四限の体育で着替えたからだろうか、いつもは服の下につけているネックレスが今日に限ってシャ
ツの上に露出している。
(!! 拙い!)
慌ててももう遅い。即座にクラス中から質問の嵐が飛び始め、彼を追い詰める。
「そ、そう言われてみれば、カミやん何やそのネックレス」
「おいおい、これはどういうことなんだにゃーカミやん!」
「また上条か」
「まさか、上条お前また裏切るつもりだな!」
「それ。いつから」
「お前ら暴れるな!」
「カミやん説明するぜよ!」
「上条当麻、貴様また騒ぐつもりか!」
一気に襲い掛かるクラスメイトや憤怒の吹寄様(おでこDX)に恐れをなした上条は、
「っていうかこれは別に特に深い意味があるものではなくてですねいやだから自分で気に入ったん
で露天で買って着けてるだけですだから誰かから貰った訳でも誰かに贈った訳でもペアネックレス
だったりする訳でもないんです本当です信じてくださいごめんなさいでした――!」
即座に言い訳から土下座へ方針転換した。その行為は、自分自身を更に言い逃れの出来ない窮地に追い詰め、苦しめることになる。
「ペアネックレスだって。上条くんって彼女居たんだぁ。へぇー」
「相手はやっぱり可愛い子なんだろうねー」
女子たちまでもが上条に謎の怒りの視線をぶつける。
「あ、あの、なんかみなさん恐いというか怖いです…よ?」
「カミやん貴様ッ吐け! 誰に手を出したんだにゃーッッ!!」
「うぎゃぁぁ! 首がッ…お、おお、お前らっ、やめ――ッ殴るなーッ!」
「カミやんまさかあの銀髪碧眼つるぺたロリシスターに手ぇ出したんか!?」
「つるぺたロリ!? 上条ってやっぱりロリコンだったのか!」
「ロリコン!? じゃあ私たちは最初から相手にされてなかったってこと!?」
上条に嫉妬する男子諸君。そして、同じく嫉妬に燃える女子諸君。つまり、上条vsクラス全員の構
図が一瞬にして出来上がった。
暴れる上条、取り押さえ殴りかかる男子連中。そして上条のポケットから誰かが携帯を抜き取り、
「バカいいんちょ!」と叫んだ直後、「とったでー!」と、青髪の手に投げ渡される。
「ぐあぁっ! 携帯はやめろ、見るなぁぁッ!」
待受――パソコンで言えばデスクトップに相当する場所である。
みなさんご存知の通り、そこにはパソコンと同様に好みの画像を壁紙として表示できる機能がつい
ている。世の恋人さんたちは、待受にプリクラやら写メやらで撮ったツーショットだったりする画像を
そこに表示させていたりする。ちなみに、最近のプリクラのシステムや筐体には様々なおまけ機能
があり、撮った画像にタッチペンで絵や文字を描きこめたり、画像をいろいろ加工したりして、出来上
がった画像をシールにプリントするだけでなく、メールで携帯などに送信できたりするのだ。
ちなみに、これまたみなさんご存知の通り、恋人同士のプリというのはけっこうハメを外して恥ずか
しいプリを撮ってみたりするものである。
みなさんご存知の通り、そこにはパソコンと同様に好みの画像を壁紙として表示できる機能がつい
ている。世の恋人さんたちは、待受にプリクラやら写メやらで撮ったツーショットだったりする画像を
そこに表示させていたりする。ちなみに、最近のプリクラのシステムや筐体には様々なおまけ機能
があり、撮った画像にタッチペンで絵や文字を描きこめたり、画像をいろいろ加工したりして、出来上
がった画像をシールにプリントするだけでなく、メールで携帯などに送信できたりするのだ。
ちなみに、これまたみなさんご存知の通り、恋人同士のプリというのはけっこうハメを外して恥ずか
しいプリを撮ってみたりするものである。
――キスしていた。お口とお口で。
そして、画像にはピンクやライトグリーンなど、パステル系カラーの影がついた白線で、
れーるがん 無能力者!
みこと vs とうま
みこと vs とうま
などと描き込まれていた。まさしく年頃の女の子的に。
きっと、勢いか何かで、この二人は恥ずかしいプリを撮っちゃったんだろう。
……さっきまでの喧騒が嘘のように、周囲はしんと静まり返っていた。
いや、普通に考えれば上条はイジられるタイミングだろうし、男子たちは暴れてもおかしく無いだろ
うし、女子たちはキャーキャー嬉し恥かしと騒いでもおかしくないはずだ。なのになぜか。
みんな固まっていたのだ。
そして、驚きと疑問を感じていたのだ。
この、画像左側の『みこと』って言う美少女、というか『常盤台の制服』を着た女子中学生は誰デス
カ?『れーるがん』って何デスカ?と。
……さっきまでの喧騒が嘘のように、周囲はしんと静まり返っていた。
いや、普通に考えれば上条はイジられるタイミングだろうし、男子たちは暴れてもおかしく無いだろ
うし、女子たちはキャーキャー嬉し恥かしと騒いでもおかしくないはずだ。なのになぜか。
みんな固まっていたのだ。
そして、驚きと疑問を感じていたのだ。
この、画像左側の『みこと』って言う美少女、というか『常盤台の制服』を着た女子中学生は誰デス
カ?『れーるがん』って何デスカ?と。
多少話が逸れるが、この学園都市で『常盤台の超電磁砲(レールガン)』とは超有名人である。そ
れも、“知らぬ者などいないと言ってもいいほど”の、だ。
れも、“知らぬ者などいないと言ってもいいほど”の、だ。
――何のチカラも持たない普通の少女は、学園都市で超能力開発を受けて低能力者(レベル1)と
なった。それから、地道に努力を重ね、どんなに高く立ちふさがる壁すらも、諦めずに頑張って頑
張って頑張って乗り超え、そして超能力者(レベル5)まで昇りつめた――
なった。それから、地道に努力を重ね、どんなに高く立ちふさがる壁すらも、諦めずに頑張って頑
張って頑張って乗り超え、そして超能力者(レベル5)まで昇りつめた――
そんな彼女の経歴は、努力で強いチカラを手に入れた実例として、授業中に紹介されることも多々
ある。つまり、人口の八割を学生が占めるこの街では、彼女の存在は誰もが知っている常識である
し、そんな有名人ゆえ噂話だって絶えない。ある意味、超能力者の中で一番知られた存在かもしれ
ない。
しかし普通は、授業や噂で聞いたことがある有名人、程度の知識しか持っていない。仮にそんな有
名な少女が目の前に居たとしても、その少女の姿を見たとしても、その少女があの『超電磁砲』だと
はまさか思わないだろう。後からそれを知って驚いたりするのだ。件の画像左側の『みこと』という少
女だって、ぱっと見どこにでも居る普通の少女でしかないのである。
しかし、その画像の『みこと』という少女が着ている服が『常盤台の制服』で、さらに『れーるがん』と
いう単語が追加されれば話は別である。みこと・常盤台・れーるがん。そこから導き出される答えは
たった一つしか存在しない。それすなわち、超名門お嬢様学校・私立常盤台中学校のエース、学園
都市の第三位『超電磁砲』御坂美琴――――
ある。つまり、人口の八割を学生が占めるこの街では、彼女の存在は誰もが知っている常識である
し、そんな有名人ゆえ噂話だって絶えない。ある意味、超能力者の中で一番知られた存在かもしれ
ない。
しかし普通は、授業や噂で聞いたことがある有名人、程度の知識しか持っていない。仮にそんな有
名な少女が目の前に居たとしても、その少女の姿を見たとしても、その少女があの『超電磁砲』だと
はまさか思わないだろう。後からそれを知って驚いたりするのだ。件の画像左側の『みこと』という少
女だって、ぱっと見どこにでも居る普通の少女でしかないのである。
しかし、その画像の『みこと』という少女が着ている服が『常盤台の制服』で、さらに『れーるがん』と
いう単語が追加されれば話は別である。みこと・常盤台・れーるがん。そこから導き出される答えは
たった一つしか存在しない。それすなわち、超名門お嬢様学校・私立常盤台中学校のエース、学園
都市の第三位『超電磁砲』御坂美琴――――
つまり、上条当麻と、あの超電磁砲がキスをしている、という事実。
「……、カミやん、この娘、まさかほんまに常盤台のエース様なんか?」
とある青髪の超変態男の発言をきっかけに、どっと質問の嵐が巻き起こった。
3
「あぁ……、ひどい目にあった」
放課後の街を歩く上条当麻。
不幸の星に生まれた上条は、あの後超絶なまでの、それこそ言葉の集団リンチとも言えるほどの
質問攻めや暴言を受け、心身ともに疲れ果てていた。常盤台だ超能力者だ超電磁砲だ何だ何だと
コノヤロウとぎゃーぎゃー騒いだ挙句、騒ぎを聞いて駆けつけた小萌先生は何故か突然泣き出し、
親船先生と災誤先生による愛(おに)の説教。俺が一体何をした!と叫びたいところだが、今回は飲
み込んでおくことにする。ちなみに、上条は結局最後まで黙秘権を行使し続けた。まあ、何と言うか
不幸だ……。
不幸の星に生まれた上条は、あの後超絶なまでの、それこそ言葉の集団リンチとも言えるほどの
質問攻めや暴言を受け、心身ともに疲れ果てていた。常盤台だ超能力者だ超電磁砲だ何だ何だと
コノヤロウとぎゃーぎゃー騒いだ挙句、騒ぎを聞いて駆けつけた小萌先生は何故か突然泣き出し、
親船先生と災誤先生による愛(おに)の説教。俺が一体何をした!と叫びたいところだが、今回は飲
み込んでおくことにする。ちなみに、上条は結局最後まで黙秘権を行使し続けた。まあ、何と言うか
不幸だ……。
「ん、美琴? あんなところで何やってんだ?」
上条の視線の先には、公園の隅で丸くなるようにしゃがんだ美琴がいた。恐らく猫に餌でもあげよ
うと頑張っているのだろう。少し離れた場所に一匹の白猫の姿が見える。
とりあえず、なんとか猫に餌をやろうと頑張っている美琴に声をかけようかと思った上条が数歩踏
み出したとき、視界に決して見てはならない不審な“者”が入ってきてしまった。それは、右手にデジ
タルビデオカメラのような物を持ち、自販機の陰に隠れるように美琴の様子を覗う、
うと頑張っているのだろう。少し離れた場所に一匹の白猫の姿が見える。
とりあえず、なんとか猫に餌をやろうと頑張っている美琴に声をかけようかと思った上条が数歩踏
み出したとき、視界に決して見てはならない不審な“者”が入ってきてしまった。それは、右手にデジ
タルビデオカメラのような物を持ち、自販機の陰に隠れるように美琴の様子を覗う、
「おい何やってんだ白井黒子」
「ぎぇっ!! ……はぁ、なんだ、上条さんではありませんの。脅かさないでくださいな」
「デジカメなんて持って盗撮か? 風紀委員がそんなんでいいんかよ」
「何をおっしゃいますの? もちろん良いに決まっているではありませんの」
白井はさも当然といった顔で真剣にそう言うと、直後いきなりニヤニヤとあぶない笑みを浮かべ始
め、「幾度(いくたび)猫に逃げられても健気に餌を与えようとするお姉様。うひひっ、これは風紀委
員として記録しておかなければなりませんわー」と、風紀委員としてあるまじき発言をしている。
どこからか、テテーン、という効果音が聞こえた気がした。白井の変態さを目の当たりにして上条
の頭もどうにかなっちまったっぽい。
「……お前、本当に変態さんだな」
「もう変態でも何でも良いですのよー」
自販機の陰から有名校の制服を着た女子中学生にカメラを向ける人物。正直誰がどう見ても変
態、不審者、いや危険人物である。この近辺で最近多発している痴女事件の犯人はコイツなので
はないだろうかと思う。「ハァハァ……お姉様ぁーん」などと言っている辺り、特にアヤシイ。
謎の危険を感じた上条は、白井(ヘンタイ)はそのまま放置することとして、とりあえず美琴に後ろか
ら近づき声をかける。
「よう美琴、今日はその白猫ちゃんとお戯れか?」
「ん? あぁ当麻。ってアンタ! 今朝はよくも私をスルーしてくれたわね!!」
フーッ、フーッ! と、まさしく猫のように威嚇する。どうやら今朝のことでまだお怒りらしい。しかし、
怒った美琴が身体中をバチバチと帯電させるせいで、
「あっ! 猫逃げちゃったじゃない!」
白猫は少し離れたところへ逃げ、そしてこちらの様子を警戒しつつ伺っている。
「俺のせいかよ!」
「……、アンタのせいじゃないわよ。やっぱり触ろうとすると逃げちゃうのよね……」
はぁ、と溜息を吐きつつ、寂しげに猫を眺めていた。
こういうとき、自分は何をすれば良いのか。それを理解している上条は、そっと美琴の髪の毛を梳
くように頭へ触れる。すると、にゃあ、と小さく鳴いた白猫が、猫缶が置かれた美琴の足元まで寄って
くる。
「ほんと、ずるいわね。アンタ」
「こんなことでよろしければ、いつでもこの上条さんがご一緒しますよ」
美琴は幸せそうに、白猫の喉元を撫でる。
美琴が初めて猫に触れることが出来たのはたった数日前のことだ。その時も上条は今と同じよう
に美琴の頭を撫でてやった。はじめて触れる動物のぬくもりや触れることが出来た嬉しさに、美琴は
涙をこぼしながら笑った。そのひとときがとても幸せに感じて、あれからも何度か美琴にこうしてあげ
ている。
「この前聞いたわよ? アンタあの日、妹にも同じことしてあげてたみたいね」
少しジトっと湿りっぽい視線を向けながら言う。
「ん、ああ。“いぬ”か」
「何よそれ」と美琴は微笑み、「黒猫じゃない」
「いや、“いぬ”だよ。それか“徳川家康”」
「訳わかんないわよ、何よそれ」
「そういう名前らしいぞ。猫なのに、いぬ」
「なに言ってんの? 名前は大和(やまと)だって言ってたわよ、あの子」
「?? まさか今度は『黒猫ヤマトの宅急便』じゃないだろうな……」
幸せそうに微笑む美琴の髪を、右手で優しく撫でる。
上条に身を委ねながら、美琴は白猫をぎゅっと抱きしめた。
「本当にありがとね。私や私の大切な妹のこと、守ってくれて」
「ああ。これからも、な」
「デジカメなんて持って盗撮か? 風紀委員がそんなんでいいんかよ」
「何をおっしゃいますの? もちろん良いに決まっているではありませんの」
白井はさも当然といった顔で真剣にそう言うと、直後いきなりニヤニヤとあぶない笑みを浮かべ始
め、「幾度(いくたび)猫に逃げられても健気に餌を与えようとするお姉様。うひひっ、これは風紀委
員として記録しておかなければなりませんわー」と、風紀委員としてあるまじき発言をしている。
どこからか、テテーン、という効果音が聞こえた気がした。白井の変態さを目の当たりにして上条
の頭もどうにかなっちまったっぽい。
「……お前、本当に変態さんだな」
「もう変態でも何でも良いですのよー」
自販機の陰から有名校の制服を着た女子中学生にカメラを向ける人物。正直誰がどう見ても変
態、不審者、いや危険人物である。この近辺で最近多発している痴女事件の犯人はコイツなので
はないだろうかと思う。「ハァハァ……お姉様ぁーん」などと言っている辺り、特にアヤシイ。
謎の危険を感じた上条は、白井(ヘンタイ)はそのまま放置することとして、とりあえず美琴に後ろか
ら近づき声をかける。
「よう美琴、今日はその白猫ちゃんとお戯れか?」
「ん? あぁ当麻。ってアンタ! 今朝はよくも私をスルーしてくれたわね!!」
フーッ、フーッ! と、まさしく猫のように威嚇する。どうやら今朝のことでまだお怒りらしい。しかし、
怒った美琴が身体中をバチバチと帯電させるせいで、
「あっ! 猫逃げちゃったじゃない!」
白猫は少し離れたところへ逃げ、そしてこちらの様子を警戒しつつ伺っている。
「俺のせいかよ!」
「……、アンタのせいじゃないわよ。やっぱり触ろうとすると逃げちゃうのよね……」
はぁ、と溜息を吐きつつ、寂しげに猫を眺めていた。
こういうとき、自分は何をすれば良いのか。それを理解している上条は、そっと美琴の髪の毛を梳
くように頭へ触れる。すると、にゃあ、と小さく鳴いた白猫が、猫缶が置かれた美琴の足元まで寄って
くる。
「ほんと、ずるいわね。アンタ」
「こんなことでよろしければ、いつでもこの上条さんがご一緒しますよ」
美琴は幸せそうに、白猫の喉元を撫でる。
美琴が初めて猫に触れることが出来たのはたった数日前のことだ。その時も上条は今と同じよう
に美琴の頭を撫でてやった。はじめて触れる動物のぬくもりや触れることが出来た嬉しさに、美琴は
涙をこぼしながら笑った。そのひとときがとても幸せに感じて、あれからも何度か美琴にこうしてあげ
ている。
「この前聞いたわよ? アンタあの日、妹にも同じことしてあげてたみたいね」
少しジトっと湿りっぽい視線を向けながら言う。
「ん、ああ。“いぬ”か」
「何よそれ」と美琴は微笑み、「黒猫じゃない」
「いや、“いぬ”だよ。それか“徳川家康”」
「訳わかんないわよ、何よそれ」
「そういう名前らしいぞ。猫なのに、いぬ」
「なに言ってんの? 名前は大和(やまと)だって言ってたわよ、あの子」
「?? まさか今度は『黒猫ヤマトの宅急便』じゃないだろうな……」
幸せそうに微笑む美琴の髪を、右手で優しく撫でる。
上条に身を委ねながら、美琴は白猫をぎゅっと抱きしめた。
「本当にありがとね。私や私の大切な妹のこと、守ってくれて」
「ああ。これからも、な」
美琴の頬が、いつもより色づいているように感じた。
冬の夕日が、そんな二人を暖かく包み込む。
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12月4日
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お姉様がいつもの様に、健気に猫へ
餌を与えようとされていたのですが、
やはり猫は逃げてしまいましたの。
ところが突然あの殿方が現れてお姉様に
触れると、猫はお姉様に近寄って
餌を食べ始めましたの。
猫と戯れるお姉様萌えましたわ~
12月4日
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お姉様がいつもの様に、健気に猫へ
餌を与えようとされていたのですが、
やはり猫は逃げてしまいましたの。
ところが突然あの殿方が現れてお姉様に
触れると、猫はお姉様に近寄って
餌を食べ始めましたの。
猫と戯れるお姉様萌えましたわ~
それにしても、あの殿方やりますわね。
黙って見ている訳には参りませんの。
黙って見ている訳には参りませんの。
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