とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集


― バレンタイン ―


 先程上条は美琴に対して喧嘩の事は自分は気にしていないと言った。
 しかし上条の本音を言えばそんな訳はなく、当然初めは怒っていた。
 上条が美琴を気にしているからとか、そんなことは関係ない。
 美琴は自分をほったらかしにしてカエルのキャラに夢中だったので、手持ち無沙汰になった彼は満腹状態特有の眠気に特に抵抗もせずに眠っただけである。
 確かに寝たのは悪かったとは思ってはいるが、それ以上に何やらよく分からない理由で突然キレられて怒らないはずがない。
 上条は確かに、美琴を呼びかける前まではは怒っていた。
 そう、彼女の悲しそうな、未来には絶望しかないとも言いたげ顔を見るまでは。
 彼女は以前に鉄橋で見たまでとはいかずとも、少なくとも似たような雰囲気を出していた。
 さっきファミレスで食事をしている時までは確かに明るく、幸せそうな雰囲気で、いつもの美琴とはまた一味違った惹かれるようなものを感じさせていたのだが、今はそのようなものの名残は微塵も感じられない。
 今彼女の表情にあるのは未来への絶望と過去への後悔、そして不安。
 それを見た瞬間、上条の心のうちにあった怒りなどどこかに消えてしまった。

(……なんつー顔してんだよ)

 何が美琴を一変させたのだろうか。
 上条に思い当たるものはファミレスでの喧嘩。
 それにしてもここまでになるのかとも思うが他の心当たりはない。
 恐らく喧嘩が原因で何かの感情が連鎖的につながり、結果的にここまでになる程の巨大な感情になってしまったのだろう。
 その何かとは何か。
 いつも彼女が自分と会うとき気にしていること、つまり自分の反応だ。
 美琴は極端なまでに自分の行動に反応する。
 楽しいと言えば、彼女も嬉しそうに笑い。
 楽しくないと言えば、彼女は落ち込む。
 それは裏を返せば、彼女の反応で自分の行動はわかる。
 今は自分は何もしていない、よって今美琴をここまでにしているのは恐らく彼女の頭の中の自分の行動だ。
 美琴の中の自分がこの状況を楽しくないとでも言っているのだろうか。
 確かにさっきは怒っていた。
 けれども、今日の事自体は上条もそれなりに楽しみにはしていた。

(俺はお前のそんな顔を見に来たんじゃねーよ……つーか、お前が笑ってないと、俺も嫌なんだよ……)

 それを言えば笑顔が戻るだろうか。
 そう思った瞬間、上条は知らない内に美琴の名を呼んでいた。




「―――単にネックレスって言っても色々あるなぁ……んで御坂、結局どれがいいんだ?」

 二人はファミレスから少し離れた大通りに出ており、御坂妹にネックレスを買ったときと同じような出店で、その店の商品を眺めていた。
 出店のネックレスと言っても勿論、種類から値段まで様々な物がある。
 明らかに対象年齢が低い子供向けのようなものもあれば、所謂給料三カ月分といわれそうな高級感ただよう大人なものなど。
 そういう状況であることもあり、あまりそういう物に詳しくはない上条にとってはどうしても目移りしてしまい、美琴に選択を任せる。
 美琴はそれを聞いて頷くが、ここに着いた時から何やら1つのものを凝視しており他のものを見ていない。

「なんだ?お前それがいいのか?」
「えっ?あっ、うん……」
「そっか、んじゃそれ買うよ」

 美琴が見ていたネックレスは上条でもなんとか買える値段で、そこまで高価なものでも、少女趣味が爆発したようなものでもなく、むしろデザインとしてはシンプルなものだった。
 上条は手にとってよくみるとそれは何語かも意味もわからないが『Te amo todo el tiempo』と書いてある金属製の薄い板状のものがかけてあり、色はこれ以上ないくらいの純白である。

「えっと、これでいいんだよな?」
「うん……あ、あと…」
「ん?」
「あ、アンタも、もし私が同じの買ってプレゼントしたら、その……ネックレスつけてくれる?」

 何を考えているんだこいつは、と上条は内心思う。
 これはさっきファミレスで奢ってもらったお礼という名目で上条が美琴に贈るものであり、言ってしまえば機嫌を少しでも良くしてもらおうと彼が思案した"作戦"である。
 それなのに何故またお礼の品に対してお礼をするのかという疑問。
 そしてもし受けとってしまえばまたお礼をしなくてはならないだろう、と堂々巡りになってしまうということへの不安。
 これら二つの要因が重なり上条は断ろうとしていた、

「………ダメ、かな?」

(ッ!!!!)

 が、ここで美琴による涙目&上目遣いと、今にも不安という重圧に押しつぶされてしまいそうな彼女の弱く、心細い声が上条の心を刺激する。
 そこでさらに上条は思案する。
 恐らくイエスと言えば、待っているのは美琴の極上の幸せそうな笑顔と堂々巡りによる多大な出費。
 そしてノーと言えば、待っているのは彼女の落ち込んだ顔と上条家の家計をの安寧。
 どちらも上条にとって一長一短、メリットもデメリットもとてつもなく大きい。
 故に彼は非常に困った。
 彼が美琴の顔を横目で見ると、やはり表情はさっきと変わらず不安そうな顔をしている。

(御坂をとるか家計をとるか……家計はなんとかなるかもしれない。そもそもまだ堂々巡りになると決まったわけじゃねえ。ただ今のこいつは……うぅ…というか何で今日の御坂はこんないたいけな少女になってんだよ!!)

「別に、嫌なら無理はしなくてもいいからね?」
「……わかった、もし買うなら着けるよ」
「本当に?」
「ああ……どのみち、そんな顔で頼まれたら断れねーよ。」

 予想通り上条が言葉を発すると、美琴は笑顔になった。
 彼は喜んでいるそこへ横やりをいれるようで少し気が引けたが、今後のために念を押しておく。

「その代わり、これ以上のお礼は上条さんの財布によろしくありませんので勘弁な」
「別にいいわよ。私が買った『コレ』をアンタが着けることに意義があるんだから」
「ふーん…ま、とりあえず勘定を済ませるか」

 上条には美琴の言っていることの意図はわからない。
 単にペアで身に付けていたいだけなのか、他に意味があるのかもわからない。
 しかし、彼はその意味はわからずとも、彼女の表情を変えれただけでも何故だか安心できた。
 彼女の満面の笑顔をまた見ることができて、上条自身もまた笑顔になれた。
 何故だかは彼自身よくわからないでいる。
 ただなんとなく、ふとそう思えていた。
 だが、その感情が意味することは、上条としてはあまり考えたくない種類の感情であるということは上条はまだ気づいていない。
 だが、ただ一つだけ確実に認めたことはあった。

(やっぱり、俺はこいつの笑顔が見ていたいんだろうな)

 彼女の笑顔を見て、上条は何の迷いもなく素直にそう思えた。




 ―――二人は買い物を終えると、早速ネックレスを渡そうとする上条を美琴が制止して、当てもなくぶらぶらとゆっくり辺りを歩き始めた。
 しかし、ゆっくり歩いてはいるものの、先ほどの買い物の後から二人の会話は続いていない。
 今まで会話の主導権を握っていた美琴が黙り込んでいるためだ。
 今日という日において、美琴はほぼ一日中喋りっぱなしと言ってもいいほど喋っていた。
 その彼女があれから何の言葉も発しない。
 上条としても、この空気は先程の彼女の表情を見た時のような嫌な感じこそないが、ただ非常に居づらい。

「……なあ御坂、お前門限は大丈夫なのか?」
「大丈夫だから、気にしないで」

 沈黙に耐えきれなくなった上条がその沈黙を破ったとしても、このように美琴が一言で一蹴する。
 そしてまた彼女は黙り込み、会話が続かない。
 さっきからこれの繰り返しだ。
 美琴は何かを真剣な表情で考えているようではあるが、上条にはわからない。
 そうこうしている内に彼らは今日の待ち合わせ場所に着いていた。
 ここは上条の寮と常盤台の寮のおよそ中間点。

「……なあ、することが無いのならここらで解散した方がいいんじゃないか?」
「あ……ちょ、ちょっと待ってよ」
「なんだ?まだやることあるのか?」
「えっと……とりあえずあそこに座んない?」

 美琴が指差したのは自販機が置いてある場所から、少し離れた場所にあるベンチである。
 美琴に言われるがまま上条はベンチの前にまで連れて行かれ、二人は拳二つ分ほどの間を空けてベンチに座った。

「ねぇ…今日って何日か知ってるわよね?」
「何日って、2月の14日だろ?」

 美琴の質問に対して、上条はさも当然のように答える。

「そう、2月14日。今日はバレンタイン……」

 美琴はなにやら感慨深げに呟くと、天を仰いだ。
 今日の空は雲が一つなく、冬だからか人工の光に溢れている学園都市としては珍しく星が燦然と輝いていた。
 その星を眺めていた美琴の横顔を、上条はそっと盗み見る。
 その表情は、上条にはどこか不安と期待とが入り混じっているような複雑な表情に思えた。
 しかし、どこか強張っているところも見受けられるその表情にも、上条は形容しがたい、口で言い表しにくい感情に襲われた。 
 それは先ほど彼女の笑顔を見たときと似たような感情。
 そしてしばらくその状態が続き少しの沈黙の後、その星を見て落ち着いたのか、美琴の表情は堅いものから柔らかいものへと変わる。
 そして、その表情のまま上条の前へ立つと1、2度の深呼吸の後に彼女は自分のカバンから何かを取り出した。

「というわけで、これ…」
「……あの、これは?」
「流れを読みなさいよ、バカ。この流れはどう考えてもチョコでしょうが」

 美琴は顔を真っ赤に染めつつも、上条への視線は逸らさずに言い切った。
 上条はそれを受けとると中から確かにほのかなチョコの香りがした。
 中身を見るまでもない、これは明らかに手作りであることがわかる。
 一見丁寧に包装されているが、所々で店の包装とは違う暖かさを感じさせるものがあった。 

「見てわかると思うけど、それは手作りだから。……んでね、なんでそれを渡したかを、これから言うから」

 そう、上条にはわからないことがあった。
 それはどうして自分に渡すのか、ということ。
 この日は日本中の女の子達ががそれぞれの想い人にチョコを渡して想いを告げる日。
 それなのにどうしてこの御坂美琴は自分にチョコを渡したのか、彼にはわからなかった。
 いや、薄々感ずいてはいるがわかりたくなかった。
 しかも相手はよりにもよって、自分が気にしている御坂美琴。
 ある意味彼が一番渡されたくない相手かもしれない。
 上条は不幸な人間だ。
 その不幸体質故に、自分が好意を向ける相手、そして自分に好意を向ける相手を不幸にしてしまうのではないかということを彼は恐れている。
 自分を不幸にするために……
 もしも彼女が自分を好いているのであれば、先ほど述べた条件が重なり、より不幸なことがおとずれるのではないかかとも思っている。
 だから上条は美琴からはあまり好意を向けてほしくない。
 なまじ自分が彼女に少しながらも好意を向けているだけに。

「あのね…私は、アンタが…上条当麻が好き。何でかとか、いつからかとか、そんなのはよくわかんない……多分、理由も挙げられないくらい好きなんだと思う。いつの間にか好きになってた、私の頭はアンタでいっぱいになってた」
「………………」
「今までずっとやきもきしてた。私はいつまでたっても素直も接することはできないし、アンタのそばにはいつも誰か女の人がいたし、しかもその女の人とも仲良さそうにしてた。だからずっと不安だった。ずっと、ずっとアンタのことを好きでいたのに、こんなにも好きでいるのにこの感情が実を結ばないじゃないかって」

 上条はそのまま黙って美琴の告白を聞き続ける。
 ただ、黙って。

「でも私はそんなのは絶対嫌だった。だから、ずっと好きなのに素直でいられない自分とはもうさよならするために、私自身の今後のために、その決意の証として今日本命のチョコを渡した。……私は上条当麻のことが好き、大好き。だから、だから……私と付き合ってくれませんか?」

 上条が感ずいていたことは当たっていた。
 同時に彼が恐れていたことが起きた。
 彼女、御坂美琴が自分に恋心を抱いている。
 それ自体は本当は上条の本能の部分としてはかなり嬉しいことである。
 だが上条の理性はそれを許さない。
 ここで受けてしまえば彼女を不幸にしてしまう。
 以前に絶望した彼女を見てしまっているだけに、それだけは避けたかった。

「………返事は?」
「………ダメだ、俺はお前とは付き合えない」
「っ!!」

 美琴は上条の言葉を聞いた瞬間、突如目の前が真っ暗になった気がした。
 勇気を振り絞って告白した結果が、彼からの拒絶。
 それは絶対に考えたくはなかったこと。
 さっきの告白は勇気を振り絞ってちゃんと言った、そこに自分のミスはない。
 じゃあどこで…?

「なん、で…?どうして?お願い、理由を聞かせて」

 上条は上条で彼女のその声を聞いて、胸が痛んだ。
 彼女の声は小さく、今にも消え入ってしまいそうなほどかすれていた。
 だが上条は美琴の顔は見なかった、いや、見れなかった。
 今、自分が彼女の顔を見てしまえば決意が鈍ってしまう。
 上条はここは心を鬼にして答えた。

「俺はそんなにお前のことが好きじゃない。がさつで、年下なのに生意気、何かとつけてビリビリする。そんなやつとは付き合えない」
「ッ!!…嘘よ……だってあんたはさっき店の前で…」
「ああ、確かに俺は今日を楽しみにしてたと言った。だが別にそれはお前と会うこと指して言ったわけじゃない。義理チョコでももらえないかと思ったからだ」

 美琴は上条の言うことを信じたくはなかった、途中からは耳を塞いで何も聞きたくなかった。
 上条が自分を好きではない、遠回しに嫌いとまで言っている。
 遠回しに言う辺りは彼の優しさなのだろうが、そんなものは気休めにもならない。
 何かを言おうとしたが、上条はさっきから自分を見てくれていない、見たくないのかと思った。
 そう思うと彼女は何も言えなかった。
 大好きな彼からの手痛い拒絶。
 頭は、すべての思考を停止している。
 美琴は目から溢れでる涙を拭わず、背を向けてそれ以上何も言わずに走り去った。




 走り去ってゆく美琴の背中を見て、上条はさっき以上に胸が痛んだ。
 自分にはこれでいい、これでよかったんだ言い聞かせてはいた。
 しかし、数分前とは逆に今度は理性ではなく本能の方が強く、よかったとは決して認めようとはしなかった。
 理性はこれでよかったと言っている、本能は心底後悔している。
 今日で彼女と会うことは終わりになってしまうのではないかとも思えてきた。
 あんな酷いフリ方をしたから当然だとわかってはいても、それがどうしようもなく悲しい。
 なんで自分はこんなに後悔しているんだ?
 答えがくるはずもないのに、自分にそう問いかけると、不思議なことにも答えは返ってきた。

 自分は実は御坂美琴が気になる程度ではなく、好きなのではないか?

 案外返ってきた答えは簡単で、そう自覚すると彼女の顔、声、動作、全てがフラッシュバックする。
 今思うと今日に限らず今まで彼女に会った時、笑顔を見た時はとても安心できた。
 自分はこんなにも彼女を大事にしていたではないか、こんなにも好きだったではないか。
 だが、もう何もかもが遅い。
 気づいた時にはもう既に失っていた。
 時間は決して元には戻らない。
 今こうしている間にも時は過ぎる。 

「御坂ッ………!!」

 彼女の名前を呼んでも彼女はもうここにはいない。
 遠くを見ても影も見えない。
 今有るのは彼女から受け取ったバレンタインのチョコと、彼女に贈るはずだったネックレス。
 恐らく、彼女はもう自分の前から現れないだろう。
 あれだけ言われて、好きなまま現れるわけがない。
 異常に悲しくなった上条はもらったチョコの包装をとく。
 中身はチョコではなく、チョコのケーキだった。

「……美味い」

 入っていたケーキは本当に美味しく、中身だけどこかの有名店のものなのではないかと思うくらいだった。

「本当に、悪いことしたかな…」

 さっきのことを脳内で繰り返す。
 あの彼女の声は忘れられない。
 ただ、多分時間が戻っても同じことをするだろう。
 それほど上条は彼女を不幸にはしたくなかった。
 しかし、美琴の付き合うことによる不幸と付き合わないことによる不幸とでは、どちらが彼女にとって大きな不幸であるかは、まだ彼は知らない。
 上条はまだしばらくはそのベンチからは離れたいとは思わなかった。 




 同日、常盤台女子寮前

「ははっ……ホント、馬鹿みたい…」

 美琴はあの後走り続け、寮の前にまで来ると疲れたのか歩いていた。

「そうよね…あれだけ、雑な態度してたら嫌われるわよね…」

 美琴はまだショックから抜けていない。
 上条が自分を嫌っていたという事実、嫌う理由、彼女には何故だか納得できてしまった。
 会う度に電撃、罵倒を重ねていけば嫌われて当然。
 彼女にはもう先の事はもう何も見えない。
 唯一の支えであり、想い人である上条が自分を拒絶した。
 たったこれだけでも彼女を壊すのには十分過ぎる。
 ポケットには彼に贈るはずだったネックレスの袋。
 思えば送らなくて正解だったかもしれない。
 自分を嫌っている人にはあまりにこのネックレスは重すぎる。
 彼女はまだ悲しみから抜けていないものの、少しながら安堵した。
 時間はもう門限をとっくに過ぎている時間であり、美琴はいつも門限破りをしたときと同じように寮の裏手にまわり、彼女の後輩の少女、白井黒子を呼ぶ。
 電話をすると、すぐに黒子は美琴の前に現れた。

「……?お姉様…?何かありましたの?何やら顔色が悪そうに見えますの…」

 今目の前に現れた彼女が不思議に思うほど、自分の顔はひどいらしい。
 さらに彼女は自分の予定を知っている。
 隠し事は無駄だと思い、何があったのか話す。

「……あのね、アンタの知っての通り、今日アイツと会ってたの……それで、帰り際に…ひくっ…アイツに告白…したんだけど……」

 言葉の途中で美琴の枯れていたはずの涙がまた溢れだす。

「フラれちゃった……アイツ、私のこと…嫌いなんだって」
「なっ…!!」

 あまりに黒子にとって衝撃的な事実に彼女は絶句する。
 何故なら黒子は昨日上条に会っている、そして御坂美琴をどう思っているかまで聞いた。
 また、それを言った上条の目には偽りの色など全くないように見えた、いや、あれはないと確信できる程真っすぐな目をしていたのを見た。
 だからこそ、今日黒子は美琴がフラれるようなことは絶対ないと思ってた。

「な、なぜですの!?あの方は昨日確かに…!!」
「えっ…?昨日、何かあったの……?」
「お姉様、落ち着いて聞いて下さい。」
「う、うん」
「私は昨日上条さんに会いました。そして私は彼がお姉様をどう思っているか聞きましたの」
「なっ…!」

 美琴は驚いた。
 昨日の会っていたのは彼女も知っていたが、内容があまりに飛びすぎている。
 言い返そうとも思ったが、今は黙って聞くことにした。 

「その時、上条さんこう言いましたわ『御坂のことは気にしている』と」
「えっ…?……で、でもそっちが嘘じゃ…」
「いいえ、あれは嘘ではないと断言できますわ。それに、あの方はこの黒子が認めた方なのですから間違いないですの」

 さっきの発言もなかなかに衝撃的ではあったが、この事実はそれ以上に衝撃的だった。
 確かにあの時は自分の目を全く見ようともしていなかった。
 それに、そもそもよく考えてみれば上条の理由には色んな矛盾点というより、多少無理があったところもある。
 ではなぜあんな嘘を?
 今度はその疑問が浮かび上がってきた。 

「それは私にはわかりませんが、黒子に言えることはそれは確実に嘘であることですの。上条さんのことですわ、何か事情があるのかもしれません。ですからお姉様、今ならまだ間に合います、真意を確かめて来てください」
「う、うん…わかった!」

 一抹の期待と、疑問とを抱いた美琴は、彼との先ほどの場所へと一目散に駆けていった。




 黒子の話を聞いてから美琴の目には段々生気が戻ってきており、変わりにその目には軽い怒りが宿り始めていた。
 美琴がさっき上条と別れた所まで戻ると、そこには何故だかまだ彼がいた。
 そして何をしているのか、と隠れて覗いて見るとなにやら涙を流しながら自分が渡したケーキを食べていた。

(な、なんで涙流しもって食べてんのよ!……やっぱり黒子の言ってたことは…)

 それを美琴が見ていると、先程の後輩の言葉を思い出し、彼女はいてもたってもいられなくなっていた。
 気付けば美琴は隠れていたことも忘れ、上条の前に立っていた。 

「なっ…!御坂どうして…!!」
「聞いたわよ…黒子に…」

 上条はいきなり現れるはずかないと思っていた美琴が目の前に現れたことにより混乱していた。
 そんな中、彼女の発言。
 上条は昨日の黒子と何かを思い出す。
 思い出したのは、約束を守る覚悟があるかどうか、御坂美琴をどう思っているか……

「ッ!!」
「アンタ……嘘ついてるのは私と黒子、どっちなわけ?」
「そ、それは……」
「私の目を見て答えなさい!!!」

 上条は美琴の質問に対して、目を逸らそうとしていた。
 だが、そこへ美琴が一喝する。
 それにより上条は背筋を伸ばし、美琴の目を見る。
 彼はもう逃げられないと思ったのか、小さいため息をついて、さっきとは打って変わってしっかり美琴を睨みながら答える。 

「……ああ、そうだよ…白井の言った通り、俺はお前が、御坂美琴が好きだよ!」

 それは美琴がずっと聞きたかった言葉であった。
 彼女はそれ自体はとても嬉しいと思った。
 だが、そうなるとやはり一つ疑問が浮き上がってくる。

「なんで、さっきは嘘吐いたの…?」
「……」
「アンタのことだから何か事情があるんだろうって黒子は言ってた。私もそう思う。……お願い、教えて」

 美琴はさっきまでとはいかずとも、声はどこか力がない。
 上条としても、もうこれ以上は美琴のこんな声は聞きたくなかった。

「理由は…俺が不幸だからだ」
「……?」
「俺はさ、怖いんだよ。俺が誰かを想い、誰かに想われることでその誰かに不幸が訪れてしまうことが…。別に実例があるわけじゃないし、そうならないかもしれない。……けど、怖いんだよ、嫌なんだよ」

 理由を聞いてみればやはり、上条らしいとも言える理由だった。
 他人を気遣うあまり、自分を省みないところ。
 そして自分が救った後の相手の気持ちをろくに考えていないところが。
 美琴は彼の恐れていることは真っ当な意見だとも思った。
 それでも、彼女は上条に対して怒りを覚えずにはいられなかった。

「だから俺はわざとあんな言い方をした。お前を遠ざけて、お前の俺への好意をなくさせることで……」
「バカ!!」
「は…?」
「アンタ、本当にバカ。なんでそんな重大なことを自己完結しちゃってんの?……アンタが、私にああ言ったときどれだけ傷ついたと思ってんの?」

 美琴の内から溢れる上条への怒りと想いが彼女を支配する。
 今、美琴は止まらない。

「好き合うことで起こる不幸?そんなの、アンタにあんなことを言われた不幸に比べれば何でもないわよ!!どうして断る前に相談してくれなかったの?私が話を聞いてからでも遅くはないでしょう!?」

 彼女の感情が益々高ぶる。
 声は段々と大きくなってゆき、今日何度目かの涙も流していた。

「私は…アンタと一緒にいられない方が嫌。アンタにあんな言い方される方がずっと嫌。もし本当にアンタが私のことが好きで、もし本当に私の幸せを願うなら……!!」
「御坂!!」

 美琴は涙を流しているのを隠すために俯いていたため、突然自分を覆ったものが何か理解できなかった。
 だが、涙を流しつつも顔を上げるとそこには辛そうな表情をした上条の顔があり、そこでようやく自分の状況を理解できた。
 美琴は今上条に抱きしめられている。
 それを理解した彼女は話すのをやめ、上条の背中へと手をまわすと、顔を彼の胸にうずめ、大人しくなった。
 今は間近に感じられる上条の温もりを、存在をより味わうために。

「ごめん、俺なりのお前を想う気持ちの行動が逆にお前をより苦しめることになるとは思わなかった」
「……」
「こんな、こんな俺だけど……俺と付き合ってくれるか?」
「……始めからそう言ってるし、しかも私はアンタ…と、当麻じゃないと嫌なんだから」
「そっか……じゃあ御坂…いや、美琴。俺と付き合うことでお前に不幸が起こるかもしれない、それ自体は俺自身はあまりよしとは思わない。けどだ」

 彼は一旦言葉切る。
 そして今度は腕の中にいる美琴の目をしっかりと見ながら、

「お前が俺と離れることがより大きな不幸だと言うなら、俺はいつでもお前のそばにいてやる。たとえお前に不幸が起きても、だ」
「うん……私も…たとえ不幸が起きても、アンタのそばは絶対に離れない。……それが、私にとっての一番の幸福だから…」

 そう言うと、しばらくの間二人は黙りながらお互いに見つめ合い、

 ―――次第に二人の影の距離をゼロにした。

 夜空の星は依然として、燦然と輝いていた。
 まるで、今結ばれた2人を祝福するかのように…


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー