とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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匿名ユーザー

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― バレンタイン ―


「そういえばさ、昨日黒子と何を話してたわけ?」
「うん?」

 美琴は疑問に思ってはいた。
 夕方頃に寮を出発した時、さらについ先ほど寮から出発する時の黒子の反応は、以前の彼女ならまずありえない反応だったからだ。
 以前の彼女なら、自分が男と会うと知ったらすぐさまそれを止めようとし、自分が男に泣かされたと知ればすぐさまその男を抹殺しようとさえするだろう。
 しかし、今日の黒子の反応はそれとは程遠く、自分の応援までしてくれた。
 もっとも、それのおかげで結ばれたのだからとても美琴は感謝はしているのだが…

「昨日を境に、あの子のアンタに対する態度が豹変したのよ?……一体、どんな手を使ったの?」
「ひ、豹変…?俺はただ、あいつがする質問に答えて、そんでもってあいつがいきなり勝負しろって言うから勝負して、最後にまた質問に答えただけだぞ?」

 その上条の言うところの、"だけ"であそこまで人を変えられるものなのか。
 否、人間そんな簡単に変わるはずがない。
 一体どんな質問であるのかは美琴は皆目見当もつかないが、恐らくその質問が重要であることなのは流石にわかる。

「勝負はことは大体あの子から聞いて、アンタがあの子を傷つけてないのは知ってるからいいんだけどさ、じゃあその質問って一体何を聞かれたのよ?」
「お前、白井に全部聞いたからここに戻って来たんじゃないのか?」
「私が知ってるっていうか、聞いたのは、ほら……あ、アンタが私を…どう思ってるか、ってとこだけで……とにかく詳細は私はよく知らないの!」
「……なるほどな、それでわざわざ戻ってきたわけだ。……まぁ今となってはあいつにちゃんと言って正解だったのかもな」

 よかったよかった、と上条はなにやら天を仰いで呟いた。
 彼が何故よかったと言い、天を仰ぎつつも少しほっとした表情をみせているのかは美琴にはよくわかる。
 今自分がこうしていられるのはそのおかげなのであり、彼にも同様のことが言えるはずなのだから。
 事実、美琴自身今回の件に関しては黒子に対しては多大な感謝の念を抱いている。
 彼女の進言のおかげで暗かった気分も一気に吹き飛び、代わりにこの上ない幸せを得ることができたのだ。
 これで感謝の念を抱かないのであれば、それは最早人としてどうであろうか。
 本当に、心の底から彼女の先輩であることはよかったと思える。

「……じゃあ、他の質問は?」
「ん~、確か約束についての真偽と覚悟、それと俺がなんで強くいられるのか、だったかな」
「約束…?それって何の約束なの?というか、アンタは何て答えたの?」

 上条は美琴のその質問に対して、彼にしては珍しく照れくさそうに頬をかきながら目をそらした。
 だが、美琴はもちろんそれを許さず、上条の首を半ば強引に自分の方へ向ける
 すると彼から奇声があがり、強引に首を反転させたことへの反論もしてくるが、今の彼女は全く気にしない。
 美琴に言わせれば、今回の件でかなりの心的ダメージを負わされたわけなので、それくらいのわがままは許されてもいいはず。
 今日は彼に拒否権など存在しない。
 とりあえず早く話せと目を以て促した。

「……約束ってのは、その……『御坂美琴とその周りの世界を守る』ってやつで、それについての質問には嘘はない。今も、そしてこれからそれを守ってゆく覚悟もあるって答えた」
「あ…」

 それを聞いた美琴は、一瞬にして顔を真っ赤に染めた。
 上条は知らないだろうが、美琴はその約束自体を実は美琴自身がその約束を交わす場面に立ち合わせていたので知っていた。
 しかし、それは上条と偽物の海原が約束を交わしているところを立ち聞きしていたにすぎず、面と向かって言われたものではない。
 だから正面から言われたわけではないので、いざ言われると嬉し恥ずかしい。

「……も、もう一個は?」
「えっと、なんで強くいられるかっていうのは……何かを守りたいって気持ちが強いんじゃないか、白井の件に関してはその約束を守りたいからじゃないのかって言った」
「ふ、ふーん…」

 なんだそんなこと、とも言いたげな反応を美琴はみせるが、内心はそんなに冷めてはいなかった。
 恐らく上条の自分を守りたいという気持ちが、又はそうしてゆく覚悟が人一倍強いと感じたからこそ、黒子は彼を認めただろうと美琴は思った。
 なので先ほどまで抱いていた疑問はたった今解決した。
 だが今では彼女の心の中に新しい感情が芽生え、そして暴れまわっている。
 その感情とは言うまでもなく、喜びや感動、さらに言うなれば羞恥。
 今まで自分の中で溜め込んでいた上条への想いがやっと通じ、しかも彼が自分をここまで大事に思っている。
 これらはもう美琴にとって言葉では表現できない程の無上の喜びと感動を美琴に与えた。
 これほどまでの幸福を、喜びを感じたことなど、今までにあっただろうか。
 そう言い切ってくれたことで、ここまで居心地がよくなることなどあっただろうか。

「美琴…?お前大丈夫か?なんか顔赤いけど、熱でもあるのか?」

 そう思っていた手前に上条は美琴を案じ、彼女の額へ手をあて、目を覗き込む。
 二人の顔と顔の距離、それは僅か数センチ。
 今までの状態でもすでに美琴は限界が近かった。
 極限まで居心地がよくなり、また妙な恥ずかしさもあり、心の中で暴れまわっている大きな大きな感情の渦を制御しきれない。

「み、美琴さん…?何故、そこまで体をばちばちさせているのでせうか?」
「ふ…」
「ふ…?」

 しかし、美琴の我慢ももうすでに限界点を迎える。
 それの決定打となったのは、上条の突然の接近。
 限界を迎えた美琴は感情を制御をやめ、そして逆に抑えられていた感情は今、暴走する。

「ふにゃー」
「ふにゃーじゃねぇぇぇええええええええええええ!!!!」

 学園都市の超能力者の能力が暴走し、辺り一帯に何億ボルトもの電流が迸り、辺りは一瞬まばゆい閃光に包まれた。




「―――う…ん……」
「おっ、気がついたか?」
「……私、どのくらい寝てた?」
「んー20分くらいだと思うぞ?時間みてないから詳しくはわかんねーけど」

 どうやら自分は20分程寝ていたらしい。
 辺りをちらりと横目でみると、先ほどまでとさほど風景は変わらないが、時間はかなり遅いであろうことはわかった。
 でも彼女にはわからないこともあった。
 自分はベンチの上で横になっているはずなのに、頭の下の感触はベンチのそれではなく、柔らかい。
 しかも、なぜか彼の顔が真上にあった。
 これではまるで……

「ッ!!??」

 この状況を説明するのに最も適しているであろう単語を頭に思い浮かべると、美琴は即座に起き上がろうとした。


「おっと、まだ寝ててもいいぞ。あまり調子よくないだろうし、今日は疲れただろ」

 ―――が、それを即座に上条に止められる。
 上条は美琴の肩をつかみ、ゆっくりと彼女をまた元の体制へと戻した。
 美琴としてはこれもやはり本心では良いものではあるので特に抵抗は見せなかったが、精神的にはあまり良くはないのも確かだ。
 さっきのように、すでにいつ気絶してもいいというくらいにまで美琴は居心地を良くしていた。

(これはう、嬉しいんだけど……恥ずかしいし、居心地が良すぎるじゃにゃい…)

 何か話題を、意識を何かにそらせようと美琴は思案するが、こういう時に限ってそういった話題は出てこない。
 普段ならば他愛もない話の話題などわざわざ考えなくても浮かんでくるのだが、いざ考えるとこうなるものである。
 焦った美琴は、何かないかと身の回りのものへと意識を移し、そこでふとポケットに何かの存在を感じた。
 ファミレスの後に寄った出店で買ったネックレスの袋だ。
 これしかない、しかも夢叶い晴れて彼と付き合えることが確定した今こそ、これを渡す絶好の機会でもある。
 そう思った美琴はなんとか上条の制止を振り切り、正面へ立つと、早速ネックレスが入っている袋を開けて、中身を取り出す。

「あの、これ…」
「ん?おお、そういえばまだ渡してなかったな」

 上条は美琴にあわせ、袋を開けて中身を取り出し、ネックレスを彼女に差し出した。

「……違う」
「は…?もしかして上条さんは買うやつを間違えましたか!?」
「そっちじゃなくて!その……と、当麻がそれを私にかけてほしいの」
「へ…?なんでわざわざ?」
「いいから!……お願い」
「……?ま、まぁいいけどよ」

 そう言って、上条は美琴にネックレスをかけるために近づく。
 距離としては先ほど抱き合っていた時に比べれば遠いかもしれないが、普通に考えれば十分近い。
 おまけに想いが通じあったとは言え、まだそうなって一時間程。
 ましてや、今まで長い間片思いを続けてきた意中の相手。
 そう簡単に彼女の性格も変わるはずもなく、やろうと思えばキスもできなくはない位置にある彼の顔をまともに見れないでいる。
 しかしそれも束の間。
 カチャという金属音と上条のよし、という声とともに彼は美琴から離れていった。

「これでいいか?」
「ぅ、ぅん……ありがと」

 今美琴の首元には、しっかりとネックレスがさがっている。
 ある文字が刻まれた、純白のネックレスが。

「ちなみに聞くけどさ…」
「なんだ?」
「このネックレスに込められてる意味は……わからない、わよね?」
「なんだ、やっぱり何か意味あるのか。わからねーけど、どういう意味なんだ?」
「い、いや、わからないならいいの。いずれ言うから……と、とにかく!今は恥ずかしすぎて言えない」

 はあ?と少し納得いかないと言うような顔を上条は見せるが、やはり美琴はそんなことは気にしない。
 これに込められた意味はそんな簡単に言えるような軽々しいものではないのだから。
 まして話し手は美琴。
 先程のキスや抱擁でさえ、場の雰囲気に後押しされてやっとできたくらいなのだ。
 雰囲気もない今は、羞恥が絶対に先行して言えないだろう。

「と、当麻にもかけてあげるから」
「???ああ、頼む…」

 上条がしたのと同様に美琴は彼に近づき、首にネックレスをかける。
 始めは戸惑い、手も震えていたが、そこまでの時間はかからなかった。
 上条の首にかけられたネックレスを見ると照れくささはあるものの、美琴の心はそれを自分でかけれたことによる満足感でいっぱいだった。
 自分が買ってほしいと言ったあるお揃いのネックレスをお互いに首に下げ、しかも今彼は自分の言うことを聞いてくれる、聞かせることができる。
 美琴はこの満足感をより満喫するために、この状況をより満喫するために、ちょっとした策を思いついた。

「ねえ、当麻。当麻は私に酷いこと言ったわよね?」
「……言いましたね」

 今美琴が上条を見る目は甘えた上目遣い。
 彼女を上条は受け入れたとはいえ、やはりそれはまだまだ間もないこと。
 いくら上条とて、美琴と同じくまだこの状況に慣れていないのだ。
 そこへこの彼女のこの態度、この視線。
 これは彼の精神衛生上非常によくない。
 鉄壁の理性に定評がある(自称)上条だって健全な男子高校生であることには変わりない。
 間もないとはいえ、自分の彼女が上目遣いで甘えてくるのに対してくるものがないわけがない。
 美琴のこの表情を見て、次に発せられる言葉を推測しながらも、内心では理性と本能の葛藤が繰り広げられている。
 さらに同時に、彼の不幸センサーもビリビリ反応もしていた。

「じゃあ、私が何かしても怒らないわよね?」
「(やっぱりきたか…)……」

 必死で否定したい、拒否したい、そんな気持ちで上条はいっぱいだったが、美琴の言い分と目を見たら断れない。
 確かに今日上条は美琴に対して、あまり喜ばしいことではない行動をとってしまった。
 例えそれを訂正したとはいえ、その事実が揺らぐことなど、あり得ないのだ。
 それが上条も拒否したいという気持ちに、歯止めをかける。

「じゃあ、今から30分間、私が何しても抵抗しない、いいわね?」
「……………」
「黙ってるってことは拒否しないってことよね?まぁしたくてもできないんだろうけどさ。まぁとにかく、契約成立ってことで。……では」


◆         ◇         ◆         ◇         ◆


「―――えへへ……んじゃ名残惜しいけど、今日は流石にもう帰るね。今日はありがと」
「あ、あぁ……今日は色々とありがとな。ケーキ美味かったぞ。気が向いたらまた作ってくれ」
「!?そ、そそそそう?あ、ありがとう……じゃあまた今度作るわね、またね!」
「またな~」

 上条は満足そうな顔をした美琴を見えなくなるまで見届けると、ようやく帰路についた。

「ああ、不幸だった……」

 結論を言うと、上条は普段の御坂美琴からは考えられないような攻撃を受けた。
 甘えた態度、言葉、行動。
 年齢が戻っているのではないかと思うくらい、美琴は彼に甘えていた。
 今まで内にため込んできた分を一気に放出した感じだ。
 30分経った時は本当に残念そうな顔をしていた。
 だがあれをもう少しされていたら上条の理性は崩壊していただろう。
 できればあれはもうされたくないと上条は思った。
 もしされれば、今度は絶対に理性を保てないという自信が上条にはある

(……にしても、今日のあいつ)

 今彼の頭にあるのは今日のことと美琴で埋め尽くされていた。
 相手が中学生という点で、多少の罪悪感こそあるが、それは自分が周りを気にしなければいい話。
 上条もまた美琴が好きなことには変わりはないのだから。

(……今日あいつには色んな顔させちまったなあ…)

 それよりも上条が気にしていたのは今日の美琴のことである。
 今日の彼女は幸せそうな顔、嬉しそうな顔、恥ずかしそうな顔、と色んな顔をしていた。
 それらは上条にとっては良いものだ。
 だが同時に、悲しみにくれた顔、絶望に満ちた顔もしていた。
 上条は以前誓った、彼女にもうこんな絶望の顔はさせないと。
 上条は以前約束を交わした、とある魔術師に『御坂美琴とその周りの世界を守る』と。
 上条は昨日断言した、白井黒子に絶対に彼女を悲しませないと。
 けれども、今日の出来事はそれらを同時に破ったことになる。
 何かを守りたいと強く願う彼にとってはこれは許し難いことだ。
 だから改めて誓う。
 御坂美琴を一番不幸にすることが彼女のそばを離れることで、一番幸せにすることが彼女のそばにいることならば、

 ―――彼女のそばはもう離れてやらない、と。

 不思議と何も抵抗はない。
 気恥ずかしさもない。
 それほど自分は彼女を想っていたのだろう。

(今なら断言できるよ……俺は御坂美琴が心から好きだと)

 上条は首にかけられたネックレスを握りしめ、心の中でそう言い切った。




 同日、常盤台女子寮

「えへへ……」
「お姉様……いい加減黒子の前でそのニヤついた顔をするのは止めてくださいまし」

 お姉様こと、御坂美琴は上条と別れた後からずっと顔を緩ませていた。
 走っている時、黒子を外に呼んだ時、お風呂に入っている時、そして今、ずっと緩みきった顔はいつもの凛々しい顔の面影すら見れない。
 黒子は覚えている。
 確かに数時間前は彼女は泣きじゃくって、悲しみにくれた顔をしていた。
 それが今はどうだ。
 その表情には悲しみなど微塵もなく、幸せオーラが体中から滲み出ている。 

「えへへ……だって聞いてよ黒子、今日のアイツったら……キャー!」
「お姉様……」

 さっきから話題の上条についてのノロケを延々と聞かされていた黒子としてはもう勘弁してほしかった。
 黒子は確かに美琴の幸せを願って、美琴を再度上条の元へ送り込んだ。
 そして確かに美琴は幸せそうな顔をして帰ってきて、あまつさえ自分に感謝の言葉とその意を込めて抱きつかれたりもしたので、始めは送り出して本当によかったとは思っていた。
 そう始めの内は。
 だが美琴を部屋にいれて、とりあえず時間も遅いので風呂に入れると、風呂場から何故か奇妙な笑い声を聞いた。
 そして風呂から上がって、美琴が口を開けば話題はアイツこと上条当麻のことしか言わない。
 しまいには『えへへ…』と悦に入って、彼女の耳は何も聞こえなくなっていた。
 それを見た黒子は段々、疑問を覚えるようになっていた。
 本当に送り出してよかったのかと。
 今はまだ初日ということで浮かれているだけかもしれない。
 それならいい。
 だがもし今後もこのようなことが続くと流石にキツい。

(まあ、お姉様のことですからきっと戻ってくれるでしょう……)

 黒子はそう思ってはいたが、今後さらにこれよりもひどいことが起こるということを彼女はまだ知らない。

(とにかく、上条さんがここまでお姉様を幸せそうにしたのは事実ですが、束の間とは言え悲しませたのも事実ですの。……ですから、この責任はきちんと取ってもらいますわよ?)

 後日、上条の元に今度は容赦なく金属矢を放ってくる鬼神と化した白井黒子が現れるが、それはまた別のお話。

 今は二人の間を妨げるものは何もない。
 今二人の間にあるのは今日結ばれたお互いに離れないという誓いと好意。


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