とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part08

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― ホワイトデー ―


「―――あの二人、良い雰囲気になってきましたね…。始めは無理を言ったせいかギクシャクしてましたが、結果オーライです」
「御坂さんって気を許した人にはあんな顔するんだ……。この時の御坂さん、かわいい…」
「お、お姉様ったら……私にもあんな顔をされたことないのに…」

 二人が自分達だけの世界に入った時と同じ頃、それに比例して初春と佐天はテンションが増し、黒子は自分でも見たことのないような表情をする美琴を見てショックを受けていた。
 なんやかんやで美琴と上条が二人で話を始めてから30分近く経っており、当然のごとくファミレスで待機している三人はそれを観察している。
 始めは前述の通り、ギクシャクしていたため初春と佐天は若干の後悔をしていた。
 しかし段々外から見ているだけでもわかるほど、彼らの雰囲気は一変。
 彼女達の心にはもう後悔など既に存在しない。
 むしろ特に初春と佐天のテンションは上がる一方で、そのテンションはおかしな方向にまで向いていた。

「うう…会話が聞けないのが残念!!……一体二人はどんな会話してるんだろう」
「わからないなら想像(妄想)するまでですよ佐天さん!!」
「!?……そうだね、初春。…あたし、大事なこと忘れてたよ!!」
「そうですよ!佐天さんともあろう人が何言ってるんですか!」
「……」

 二人は調子がうなぎ登りで上がってゆき、どこかの劇のワンシーンにも似たものをやり始める。
 一方で黒子はそんな二人を静観していた。
 単に二人を止めるのが馬鹿馬鹿しくもあり、面倒なのこともあるが、そこそこ人通りのある大通りの片道で、真っ昼間にもかかわらず桃色空間を醸し出す上条と美琴の様子を見て、少し複雑な心境だったからである。
 自分が最も慕う人物、御坂美琴の相手である上条ことは彼女も認めた。
 しかも、二人が結ばれるに至るまでの最大の立役者は自分だと言っても過言ではないだろう。
 だからこそ複雑だった。
 この頃は平日休日問わず、美琴はほとんど毎日上条と一緒に時間を過ごす。
 偶に夜に寮で話をしたとしても、自分と美琴の話題は上条の事ばかり。

 ―――つまり、美琴は自分のことを全く見てくれない。

 黒子は美琴を最も慕っていているからこそ、彼女の幸せも願ってはいる。
 反面、全く構ってくれないのも寂しい。
 美琴が自分から離れ、どこかに行ってしまうようで。
 認めたはずなのに、自分から応援して二人を結ばせたのに、この感情は止まらない。
 黒子はただひたすらにこれから生まれる寂寥感に駆られていた。




「……ところで、今何時だ?」
「今は……うわっ、もう一時前だ。となると一時間近くしゃべってたのかしら?」

 ファミレスで三人(主に二人)に観察されているとも露知らず、あれからさらに30分程経っていた。
 正確にはファミレスの中の三人のみならず、道ゆく人達もジロジロ見たりしていたのだが、もちろん二人は気づいていない。

「一時!?やべえ、そろそろ取りかかんねえと……って俺まだ飯も食ってねえし!!」
「そ、そうなの…?ならもっと早くに言ってくれればよかったのに…。なんならご飯一緒に食べる?」
「へ…?」

 美琴からの誘いに上条は迷う。
 しかし、受けてしまえばまた時間がかかってしまうのは必然。
 しかも上条には知る由もないが、ファミレスには佐天と初春という厄介な存在もいる。
 一度捕まれば、簡単に逃がす二人ではない。
 とにかく今の上条には時間がなかった。

「……悪い!また今度な!……というか明日にしようか?いや、それがいいうんそうしよう」
「うん…え?……ええ!?」
「何をそんな驚いてるんだよ。それじゃあ美琴、またな!」

 返事を待たずして、上条は美琴に背を向け走り出す。

「へ?あ、ちょ、ちょっと当麻、待ちなさいってば!!」
「詳しくはまた夜にでも連絡すっからぁー!!」

 美琴の制止にも構わず、上条は顔だけを彼女に向けて叫びながら走り、その姿を消した。

「……ってことは明日はアイツとご飯食べてからどっか行って、アイツ手作りのお菓子もらえるってことなのかな…?……えへへ」

 美琴は一人呟いて、明日にあるであろうデートを想像して無意識に顔を緩ませた。
 その様子は事情を知っている者達から見れば、思うところがある場面だろうが、知らない者達から見れば、奇妙なものとして映ったかもしれない。
 美琴は数分その場で立ち尽くした後、後輩達の待つファミレスへ戻った。
 そこに行き着くまでの彼女の足取りは三人の狙い通り、ふわふわとして浮き足立っている。
 とは言え、この計画の立案者たる一人はあまり素直に喜べずにいるのだが…

(こ、これは…!?)
(計算通りです!)

 美琴が未だに顔を緩ませた状態で元の席に着くと、待ってましたと言わんばかりに佐天と初春が彼女にくいつく。
 二人のテンションは先程からの妄想やらで最高潮に達しており、留まるところを知らない。

「み、みみ御坂さん!?お話を、私達にお土産話を――!!」
「今はそういう気分ですよね!?そうですよね!?是非とも話してください!!」
「うえぇっ!?ちょ、ちょっとアンタ達…!?」
「今は反論は受け付けません。さぁ、早く!」

 実際、今の美琴の気分は先程話していたところの"そういう気分"だ。
 放っておけば恥ずかしがらず、自然と口を開いていただろう。
 いつもなら黒子に対して聞かれてもないのにしゃべっていた。
 だが今は執拗に求められている。
 流石に"そういう気分"だからといっても、こうなれば恥ずかしさが先行する。

「えっと…とりあえず落ち着こう、ね?」
「御坂さん、私達ずっと待ってたんです」
「……は?」
「私達は御坂さんと彼氏さんが楽しくお喋りをしている間中、帰らずにここでず―っと待ってたんですよ、えぇ一時間も!」
「うっ!」
「人をそこまで待たせてたんですから、お話くらいいいでしょう?」
「…………はぃ」

 美琴にとって初春は後輩。
 しかも能力者としても美琴は超能力者であるのに対して、初春は低能力者。
 にもかかわらず、今は美琴が初春に完全に屈しているその光景は、以前学園都市最強の超能力者の第一位を学園都市最弱の無能力者が倒す光景に似たものがあったかもしれない。
 しかも初春にはまだ佐天という味方がいる。
 孤立無援の状態の美琴には、逃げ場など存在しない。

「……じゃあ何を話せばいいの?」
「そうですねぇ……やっぱり、まずはバレンタインの時が聞きたいです」
「……バレンタイン?」
「結局あの後どうなったか…私、心配で心配…」
「ですよねー。相談の成果とかも聞きたいですし」
「ちょ、ちょっと待ってね……本気で?
「「本気です♪」」
「………」

 とっさに美琴は黒子の方を向くも、黒子は我関せずと言わんばかりに反応せず、 お上品にお茶を飲んでいる。
 いつも二人は息ピッタリで美琴は普段ならそれが羨ましくも思っていた。
 だが今日この時だけはそうは思えず、彼女の目には二人はやたらと憎たらしく映った。

(ば、バレンタインって……アレを言うの!?む、無理!恥ずかしすぎる!!)

 バレンタインには色々なことがあった。
 会ってすぐに手を繋ぎ、二人で食事をし、ネックレスを買い、そしてケーキを渡して告白。
 それは一度は断られたに思えたが、それは実は嘘でちゃんと受け入れてくれたこと。
 そして、

(き、きききキスもしちゃったわよ!?そ、それにすっごい甘えちゃったし……こんなのを言えと!?)

 実を言うと、その日の詳細は黒子にすら言っていない。
 概要こそ帰ってきた直後の気分でしゃべったものの、流石に後半にしたことまでは言えなかった。
 あの時の気分でも言えなかったことが、勿論今の中途半端な気分で言えるはずがない。
 美琴は横目で二人の様子を確認する。
 目を星のように輝かせてという表現はまさにこの時に使うべきものだろう。
 二人の期待に満ちた目には、確かに擬似的な星を美琴は見た。
 とても断れる雰囲気ではない。

「御坂さん」
「?」

 顔を赤く染め、頭を抱える美琴を見かねたのか初春が口を開く。

「早く言わないと、衛星のカメラをハックして見ちゃいますけど?」
「!?」

 初春はニッコリと小悪魔的笑みを美琴に向けながら、自前のノートパソコンの起動準備にかかる。
 美琴は彼女のハッキングの腕が能力により補強された自分と同等かそれ以上なことは承知済みだ。
 そんな彼女が真剣にハッキングにかかればどうなるか。
 リスクはあるだろうが、恐らく衛星の監視カメラでさえできてしまうかもしれない。
 口で言うのはなんとでもなる。
 だがアレを見られるのは美琴としては色々終わってしまう。
 後輩達にベタベタな自分を見られるなど決してあってはならない。

「話す!ちゃんと話すからそれだけは止めて!!」
「そうですか?ではお願いします(まあ、どちらにせよ見ますけど♪)」
(う、初春怖っ!)

 初春の隣にいる佐天であっても少し聞き取り辛い程の声量での初春の呟きに、佐天は若干の恐怖を覚えた。
 こういうこともあり、実は初春の中ではバレンタインに何があったかさほど重要ではない。
 全く重要ではないわけではないが、それよりも見たかったものがあったため優先順位はそれよりも下だ。
 その彼女にとってより重要なことは美琴の恥じらう顔を見ることだった。
 後輩の前では凛々しい美琴の恥じらう顔は彼女達にとっては非常にレアなのである。
 当の美琴はその呟きが聞こえるわけもなく、真っ赤になった顔を隠すように俯きながら、ぽつぽつと口を開いていく。

「ば、バレンタインは……始めは待ち合わせをして、その後ご飯食べに行って、店に寄って、最後に待ち合わせ場所に戻って話をして解散しました!以上です!」
「ちょ…!まとめすぎじゃないですか!?」
「そ、そんなことないわよ?だって別にバレンタインのこと話せとしか…」

 美琴そこまで言ったところで、鋭い視線が自分に向けられていることに気づく。
 その視線の主、初春はやはり小悪魔的笑みを向けつつ、手はものすごい速さでパソコンのキーボードをたたいていた。
 語らずもわかる、これは『聞きたいことはそれじゃない、早くしないとハッキングは完了しますよ?』と言っている。
 美琴はそのあまりの速さに思わず息をのむ。

「だぁ――!!じゃ何聞きたいか具体的に言ってよ!答えるから!!」
「いいんですか!?じゃあじゃあ…」

 最早自暴自棄になりかけの美琴を見て、初春は手を止める。
 佐天は少しの思考の後に、顔を上げて、

「……手はつなぎましたか?」
「手!?……つ、つないだけど。で、でもそれはなんか成り行きでそうなったというか、無意識の内につないだというか……」

 後の方になればなるほど、言葉に勢いはなくなり、小声になってゆく。
 一方、佐天と初春はさらにテンションを上げた。

「(か、かわいい…)結局、チョコは何を贈ったですか?」
「ケーキ渡した。……一応、美味しいって言われた」
「(まあこんな顔されたら大抵の人は落ちますよねぇ…)さっき店に寄ってって言いましたよね?何の店ですか?そして何買ったんですか?」
「んと、アクセサリーショップに寄って……コレをお揃いで買った」

 そう言って美琴は首に掛けていたネックレスを見せる。
 これには佐天と初春のみならず、今まで黙っていた黒子も覗きこむ。

(ッ!!これは…!!)
「うわぁキレイですね……ん?この文字は…?初春わかる?」
「いや、わからないですね…英語、でもないみたいですし……御坂さん、これは?」
「え?い、いや、それはただその形が気にいったからで、別に意味なんてないわよ?」

 ははは、と美琴は軽く笑いながら答えた。
 佐天と初春は多少の疑問は覚えつつも、それでも納得したようで、ネックレスを美琴に返す。
 しかし、黒子は違っていた。
 卒業後には生徒を社会で活躍できるようにすることを目指して教育をする常盤台中学は、グローバル化へ向かっている世界でも通用するように、多種多様な言語を教える。
 一般の高校では習わない言語さえも。
 だから黒子には書かれていることが読めた、いや、読めてしまった。
 そして、文字とは関係ない他の意味までも…

(お姉様、そうなんですね…そこまで上条さんを…)

 普段の美琴なら、この黒子の微妙な変化もわかったかもしれない。
 だが今の美琴は目の前のやたらとつっかかってくる二人の対応で精一杯だった。
 そんな今の美琴に、今の黒子の微妙な変化には気付けるわけもない。

「こ、告白はいつしたんですか?」
「……最後、待ち合わせ場所でした」
「何て言ったんです?」
「えぇ!?む、無理!それは流石に言えない!!」

 美琴は手も顔も精一杯横に振り、断固拒否の態勢をとる。

「(流石にこれは無理っぽいですね…)じゃあ…キスはしたんですか?」
「き、きききキス!?や、やだなあ、まだ初日よ?そんなのするわけ……」
「え!したんですか!?うわぁ御坂さんって、意外ににそういうとこは積極的なんですねぇ」
「なんでそうなんのよ!それに、初めにしてきたのはあっち、よ………あっ」

 美琴はわかりやすい誘導尋問にもかかわらず、自ら地雷を踏んだ。
 それには美琴のみならず、その場にいる全員がしばらく言葉を失っていた。
 そして、美琴はあまりの恥ずかしさによりただでさえ赤かった顔が、さらにみるみるうちに赤く染まってゆき、

「…ふ」
「「…ふ?」」
「ふにゃー」
「「えええぇぇぇぇぇ!!!???ちょっと御坂さ―――ん!!!!!」」

 辺りに美琴の漏電した電撃が迸る。
 無論、その対策の要の上条当麻は今ここにはいない。
 その日、そのファミレスはたった一つの出来事により、当分の間営業停止にまで追い込まれたが、そのことを美琴は起きたのちに知ることとなる。


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