小ネタ おいかけっこ
学園都市のとある川沿いにて行われているのは男女二名による追いかっけっこ。
一口に『追いかけっこ』と言っても、鬼ごっこのような可愛らしいものではない。
『待てよ―』『ほぉら、捕まえてみなさいよ―』なんてキャッキャウフフな展開でもない。
あくまで2人は本気で追いかけっこをしている。
度々、後ろから追う少女がビリビリと電撃を飛ばしては前を走る少年に打ち消されている。
傍から見れば驚くべき光景かもしれないが、当の本人たちには『いつものこと』である。
「待てやこらぁぁぁっ!」
「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
これまた『いつものセリフ』を飛ばしあう。
逃げる少年、上条当麻は川沿い道から河川敷に降りると、追いかけてきた少女、御坂美琴に向き直る。
上条から遅れること十数秒、美琴も河川敷に降りる。両者の間は約20メートル。
「はぁ……はぁ…観念、したのかしら?」
「いやいや、ちょっと休憩したかっただけだ」
美琴が肩で息をする一方で、上条はそれほど疲れている様子はない。実際に口にはしないものの、上条の言う『休憩』はあくまで『美琴のための休憩』なのだ。
以前は疲れるだけの辛いイベントであったこの『追いかっけっこ』であるが、最近では楽しくなってきた、というのが上条の思いである。
ビリビリと電撃を飛ばしてくることには閉口するが、単純に美琴とじゃれ合うことが楽しいのである。
「あー、上条さんは疲れましたよ」
上条は小芝居のような仕草でやれやれと肩をすくめると、その場にドカッと腰をおろす。
「はぁ…休憩、ねぇ………」
美琴もふぅと息を吐くと、座っている上条めがけて雷撃の槍を放つ。
「油断大敵っ!!」
「うわぁっ!?」
ビリビリッ、バキンッ!!お決まりの音が鳴り、雷撃の槍は上条の右手に突き刺さり、綺麗に打ち消された。
きれいさっぱり、いつも通りに打ち消した上条であるが、その顔は恐怖で彩られている。言葉にすれば『あぶねぇぇっ!!』という顔だ。
「テメェ!!さすがにそれはねぇだろうが」
「ふんっ、油断する方が悪いのよっ!」
隙を突いての攻撃さえも打ち消された美琴はムスーッとしている。
上条は付き合いきれん、といった表情で美琴を見る。我儘な妹に振り回されている兄のような顔だ。
「ったく、人が折角、気を利かせて休憩取ろうぜ、って言ってやったのによ」
「ほほーう、気を利かせて?」
先程の膨れ顔から一転、美琴の顔は、にまーと嫌な感じの笑いを浮かべている。
「アンタ、もしかして私との追いかけ合いが楽しいんじゃないの?」
「…………」
「ふっ、ドMだったか」
「んなっ!?御坂っ、どこでそんな言葉覚えてきやがったっ?」
上条は年下の少女に『ドM』扱いされたショックよりも、お嬢様がそんな言葉を吐く事に驚愕する。
「だから、女の子に夢みんなよー、って言ったじゃない」
「はぁ、デートを妄想するだけで顔を真っ赤にしてしまう様な純情少女はもう絶滅したんでせうか……」
上条はガクッと頭を垂れる。
実際には、上条の目の前に居る少女は限りなく『純情少女』なのだが、今の上条は知る由もない。
「これだから『年齢=彼女いない歴』の奴は困るのよね」
美琴はふんと胸を張り、少しだけ偉そうに言う。自分も『年齢=彼氏いない歴』なのだが、そんなのは無視だ。
「ってことはだ。『年齢≠彼女いない歴』になれば、ちょっとは分かるわけだな?」
「えっ………そ、そうなんじゃない?」
なるほど、と上条は腕を組む。何かを考えるかのようにうーんと首を捻っている。
「つっても、そう簡単に彼女できたら苦労しなよな」
「ね、ねぇっ」
「あん?」
上条が美琴を見る。チラチラとこちらを見ながら頬を染めているレベル5がいた。
「……もし、もしだけど」
美琴は胸元で手をモジモジと絡み合わせると、意を決したように上条に目を合わせる。
「アンタが良ければ、私がなってあげてもいいって言うか………」
「な、なにが言いたいんでせうか?」
突然、照れながら喋りだした美琴に、上条は首を傾げる。ポーズ自体はさっきと同じだが、考えてる事はまるで違う。
「だから、私がアンタの彼女になってあげるって言ってんの!」
美琴の顔は真っ赤である。トマトや赤鬼もビックリの赤ら顔は、耳どころか首まで至っている。
上条はハッとした顔をすると、自分の頬を思いっきりつねる。
「御坂がこんなこと言うなんて、コレは夢です。目覚めろっ、俺!」
上条が自分の頬と格闘しているとき、美琴はさっきと違う意味で頬を赤くし、ビリビリと帯電していた。
「アンタはぁ………目ぇ覚ましてやるぅぅぅっっ!!」
「ぎゃぁぁぁぁっ!?不幸だぁぁぁぁ」
追い駆けっこはまだまだ終わらない。