とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

8-839

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集

小ネタ 少しだけ



「おーい、御坂」

ぼーっと道を歩いていたときに、アイツに呼ばれた。
ドキドキと高鳴る心をどうにか抑えて、動揺が顔に出ないようにゆっくりと振り向く。

「な、なによ?」

これだけ注意しても、どもってしまう。鼓動の高鳴りも抑えがききそうにない。
情けないな、と自分でも思う。でも、この想いは理屈じゃない。

「いや、別に用があったわけじゃねぇんだけどな。歩いてるの見かけたからよ」

鼻の頭をポリポリと掻き、『迷惑だったか』とまで言う。
これだからコイツは…………ワザとらしく溜息をついてやる。
人の気持ちなんか全然気付かない癖に、やたらと気にかけてくる。
こっちの身にもなって欲しい。

「で、お嬢様に気易く話しかけて来て、ナンパのつもり?」

仕返しがてら、ちょっとだけ悪戯してみる。
コイツが困るのも、仕返しって言うのが言い訳である事も知ってるけど。
素直に、なれない。
変にお嬢様ぶったりしてない分、素直な私は出せてるとは思うんだけど……まだ、何かが違う気がする。

「ナンパって……うーん。そんな下心があったわけじゃねぇんだけどな」

予想通り、すっかり困り顔のアイツ。
ここで『そうだ、ナンパだ。付き合え!』なんて言ってくれれば楽になるのに。
気付かれないくらい小さく、口を尖らせる。アイツに期待するのが馬鹿なのかもしれないけど。
もう一度、溜息をつく。

「まぁいいわ。せっかくだし、お茶でも付き合いなさいよ」
「あれ?いつの間にか、上条さんがナンパされてますよ?」

アイツの言葉に、顔が熱くなるのを感じる。
いつもなら調子にのんなと電撃を飛ばすところだけど、ぐっと我慢して。
今日は少しだけ、ほんの少しだけ、素直になってみる。

「ほら、行くわよ」
「ちょ、ちょっと、御坂さん!?」

アイツの右手を掴んでカフェを目指す。
私よりも大きい、暖かい手を握って。
砂鉄の剣も、渾身の落雷も、私の不幸さえも消し去る右手は、こうしていると普通の手にしか見えない。
しぶしぶといった表情をしながらも付き合ってくれるアイツの顔を見て、頬が緩む。
見られない様に少しだけ顔をうつむけて。
今はこんな状態だけど、いつかは素直に微笑みあえるように。
そんな淡い想いをのせて、繋いだ手に少しだけ力を込める。

「早く行くわよ」
「はいはい。分かりました。お付き合いしますよー」

そっと握り返してくれた右手が、堪らなく愛おしく思えた。


ウィキ募集バナー