とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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そして始まるドタバタな日常


「んー!今日は時間に間に合いそうだな、…いやまだ油断はできねぇ…いつもこの辺で…」

そう呟くのは上条当麻。今日は彼女である御坂美琴とデートの為、公園に向かって歩いていた。
軽く一伸びすると腕時計に目をやる、時刻は8:45分。待ち合わせ15分前。
いつも待ち合わせに遅れてしまう彼は、早く出かけるなど努力はしているものの、
不幸体質が災いし、何かトラブルに巻き込まれてしまい遅刻を繰り返していた。
今日は特に何事もなく真っ直ぐ公園に向かうことが出来ている。このまま行けば時間通りに付くはずだ。
しかし、そんなに上手く行くはずもなく、彼に近づく人影が現れる。

「お義兄様ではありませんか、おはようございます、とミサカはお義兄様に朝の挨拶をします」
「…御坂妹…」
「なんですかその反応は、とミサカはお義兄様の対応に不機嫌になります」
「すまん!今日は美琴とデートなんだ!遅れたくないからまた今度!」
「…そういうことでしたら仕方ありません、とミサカは…!!」

適当に会話を済ませ場を去ろうとする当麻。右手を軽く上げると公園に向かって歩き出す。
丁度その時、横を通過しようとした車から投げ捨てられた空き缶が当麻の後頭部に向かって飛んでいく。
それを見た御坂妹はバチィ!!と咄嗟に電撃を放ち、空き缶の軌道を逸らす。
弾かれた空き缶は当麻の横を通過し、カン、カンっと音を立てて、当麻の前に転がった。

「危ない所でした、とミサカは己の迎撃能力の高さを猛アピールしてみます。
 怪我はありませんか?とミサカは無事だと思いつつも問いかけます」
「さんきゅーな御坂妹、おかげで無傷で済んだよ」
「礼には及びません、ですがこのまま行かせるとまたトラブルが起こりそうなので近くまでご一緒します、とミサカは護衛役を買って出ます」
「そうか?ならお言葉に甘えてお願いしようかな」
「任せてください、とミサカは決死の覚悟で護衛を勤める事を決意します」
「んな大げさな…」

待ち合わせ場所まで何が起こるか分からないので遅刻を回避する為にも護衛を雇うことにした当麻。
二人は並んで歩いていく。その間も御坂妹は電磁波の反射によって当麻に近づくものに警戒しながら歩いている。
しかし、思いのほか何も起こらずに、無事公園の入り口に辿り着く事に成功する。

「ではミサカはここで失礼します、とミサカは護衛の任務終了を告げます」
「そっか、わざわざありがとな」
「それと、ここで少し待ってから待ち合わせ場所に行く事と、ミサカと来た事はお姉様に内緒にしておいた方がいいですよ、とミサカは助言を与えます」
「…?なんでだ?」
「はぁ…、とミサカはお義兄様の鈍感さに頭を痛めます」
「?」

頭に?マークを浮べ、首を傾げる当麻にぺこりと頭を下げ「では」と言い残し立ち去る御坂妹。
残された当麻は疑問に思いつつも待ち合わせ場所に向かっていく。
いつもの自販機の前には既に美琴が待っていた。常盤台の制服に身を包み、まだかな?といった様子で空を見上げていた。

「悪ぃ、待たせたな美琴」
「…今日は雪でも降るのかしら…?」

当麻の声に振り向き、驚く美琴。信じられないといった様子で快晴の空を見上げる。

「何気に酷いですね美琴サン」
「だって、当麻が時間前に来るなんてありえないもん」
「俺だってやる時はやるんですよ!」
「…でも罰は与えるからね、一回分」
「な!?何故ですか姫!?何故そのような仕打ちを!?」
「時間前に来れたのってあの子のおかげでしょ?」
「………えーと、…はい」
「…やっぱりか、あのねぇ…彼女とのデート前に他の女と歩いてくるってどうなのよ?」
「…」

当麻がバラさずともバレていた。それはそうだろう、空き缶の迎撃、電磁波センサーなど能力を使用してた御坂妹。
それが遠くから徐々に近づき、手前で遠ざかったと思ったら当麻の到着。これでバレないはずがない。
あっさり白状した彼に溜息を付くと、美琴は腕を組み当麻を睨み付ける。
そんな威圧感に晒されている当麻はいつの間にか土下座をしていた。

「ま、あの子の事だからアンタが時間通りに来れるように気を効かせただけだと思うけどね。
 だから今回は一回で許してあげるわ。でも、次はないわよ?」
「はい…」
「私はこれでも当麻が自分の力で時間通りに来る日を楽しみにしてるんだからね?そうじゃなかったら寮まで迎えに行ってるわよ」
「…努力します」
「よろしい、んじゃ行きましょうか」

当麻を立たせ、手を繋ぎ歩き出す。なんだかんだ言って時間前に合流できたことに満足しているようだ。
そしていつもの喫茶店に入ると奥の席(ほぼ指定席)へ座る。
二人がここに来る時はデートの目的地が決まっていない時だ。遠出する時は前日までに決めるが、
そういった予定がないときはここでのんびりとした後、何処に行くのか決めるという事をしている。

「美琴はどっか行きたい所あるか?」
「う~ん、この間はあの子の事で振り回しちゃったし当麻が決めていいわよ?」
「俺自体は特にないぞ?一緒にいられればそれでいいし」
「んな!?ば、馬鹿!何言ってんのよ!こんな所で…」

突然の言葉に赤くなる美琴。昔に比べて耐性が付いたとはいえ、こういった不意打ちにはまだまだ弱い。
それを知ってか知らずか当麻はニヤニヤしながら追撃に入る。

「あれれ?美琴サン、どうしたんですか?顔が真っ赤ですよ!?」
「赤くなってなんかない!それとニヤニヤすんな!」
「そんなに照れなくても…まあ可愛いから見てて楽しいけどな」
「も、もう!知らない!」

当麻の攻撃に耐えかねた美琴はテーブルに突っ伏すと『うー』と唸りだした。
そんな彼女を見てくすくすと笑うと右手を頭の上に乗せそのまま撫でる。
すると、美琴は顔を少しだけ上げ恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに目を細めている。
その顔を見た当麻は

(――――――――なんですか、この可愛い生き物は)

と心の中で呟くのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あの後、恥ずかしさであれ以上顔を上げられなくなった美琴と完全に思考停止し、
頭を撫でたまま固まってしまった当麻はその様子を心配した店員によって復帰させられる。
そして二人は慌てて頭を下げるとそそくさと喫茶店を後にした。

「全く、アンタのせいでまた恥かいちゃったじゃない」
「ちょっと調子に乗りすぎちまったな、すまん」
「…でもあの言葉は嬉しかったわよ。それで結局この後どうしようか?」
「あ~そうだなぁ、たまには部屋でのんびりすっか?」
「そうね、それでいいわよ。それじゃあお昼と夕飯作ってあげるから、買い物行きましょうか」
「うい~」
「何食べたい?この美琴様がリクエストに答えてあげるわよ」
「ん~、それじゃハンバーグ」
「いいわよ、それじゃー商店街へ行きましょー」

することが決まり、早速動き出す二人。テンションも高く、繋いだ手を前後に振りながら商店街を目指して歩いていく。
1時間程で買い物を済ませ、当麻の部屋へと到着する二人。美琴は早速昼ご飯の準備に取り掛かる。

「お昼は何でもいいの?」
「ああ、任せる」
「そうね~、って当麻、冷蔵にご飯が入ってるんだけど」
「あ」
「あ、じゃないわよ。これ何時の?」
「昨日の夜炊いたやつ」
「それなら大丈夫ね、炒飯でいい?」
「おう、なんか手伝う事あるか?」
「ん~?それじゃあ買ってきた物の片付けお願い」
「了解~」

美琴は冷蔵庫を開け、残った食材を取り出し作るものを決めるとカエル柄のエプロン(部屋に置いてある)を付け、調理を始める。
当麻は台所から聞こえるトントントントンという小気味良い音を聞きながら冷蔵庫に食材を入れていく。

「当麻ー卵ちょうだーい」
「卵は~っと、ほれ」
「ありがと」
「どういたしまして」
「ふんふんふ~ん♪」

鼻歌混じりに炒飯を作る美琴。テキパキと動く彼女は、必要なものがあると当麻に指示を飛ばす。
当麻も片付けをしつつ美琴の指示通り動く。そうこうするうちに炒飯は出来上がり、食卓に着く。

「それではいただきま~す」
「いただきます」
「モグモグ…」
「どうかな?」
「相変わらず美琴の作るものは美味いな~このご飯のパラパラ具合といい、味付けも丁度いいな」
「ま、当然よね。この私が作ったんだから」
「こんなのが食べれるなんて…上条さんは嬉しいのですよ…」
「大げさね…、これくらいならいつでも作ってあげるわよ」
「本当ですか!?あ~なんか幸せだなぁ~」
「ふふ」

そう言って顔を緩める当麻を見る美琴も思わず顔が綻ぶ。その笑顔は二人が食事を終えるまで続いていた。
片付けを終え手持ち無沙汰になった二人はベッドを背もたれにして並んでいた。

「ん、ん~…眠くなってきちゃった」
「ふぁ~、俺もさっきから眠気が…寝るならベッド使っていいぞ」
「ん、うん…でも熟睡しちゃうと夜寝れなくなっちゃうからここでいい」
「そうか?なら俺がベッド使う」「ダメ」
「当麻もそこで寝るの、これが今日のば…つ……」
「…寝ちまったか、ったく風邪引いても知らねぇぞ」

当麻の肩にもたれかかり、スースーと安らかな寝息を立て始めた美琴。

(相変わらずこの寝顔はヤバイな…えい)
「んにゅ」
(―――――つんつん)
「ん、ん~」
(やばい、可愛い過ぎ、それそれ)
「んにゃ、ん~」
(癖になりそうだなこれ…)

美琴の頬をつんつんと突く当麻はそのたびに反応する美琴が堪らないらしく、暫く続ける。
やがて満足すると寄りかかる美琴を支えるようにして眠りに付くのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ピンポーン
あれからどれほど時間がたっただろう?インターホンの鳴る音を聞き当麻は目を覚ます。
ピンポーン
もう一度インターホンが鳴る。

「はいはい、今出ますよ~っと」
「ん…とぉま…」

スッと立ち上がり玄関に向かう当麻。美琴の方は隣の気配が無くなった為か寝言を言う。

「どちら様ですか~?」

そう言いながら玄関のドアを開ける当麻。するとそこにいたのは…
何やら大きな袋を担いでいる御坂妹だった。

「こんにちわ、とミサカはお義兄様に挨拶をします」
「御坂妹?どうした?」
「ミサカは検体番号10039号です、とミサカはバッジを受け取ったミサカであることを説明します」
「お~、あの時はチケットサンキューな」
「礼には及びません、所でこれを置きたいのですが、とミサカは肩に乗せたものがいい加減重たくなってきたのをアピールします」
「ああ、悪い。んでそれ何だ?」
「米です、とミサカは袋の中身の正体を明かします」

ドスンっと音を立てて置きながらミサカ10039号は説明する。

「米?…どうしたんだこれ?」
「商店街の福引で当てました、とミサカは己の運の良さを誇示します。
 しかし、ミサカは病院で食事が支給されていますのでこの米は必要ありません、とミサカは説明します」
「…もしかして?」
「はい、お察しの通り苦学生であるお義兄様に差し上げる為に持ってきました、とミサカはここに持ってきた理由を説明します」
「…御坂妹ぉ…」
「なんでしょうか?とミサカは半泣きのお義兄様に若干引きつつも返事をします」
「あ、ありがとぉおお―――――っ!!!」

ガバッ!米(20kg)を手に入れた当麻は涙を流しながらミサカ10039号に抱きつく。
突然の事態に驚き、暫く固まっていた10039号だったが、ある人物を見てしまったので落ち着いて対処を始める。

「お義兄様、嬉しいのは分かりますが、少し離れていただけませんか、とミサカは少し残念ながらも後ろが怖いので離れるように言います」
「あ、ああ、そうだった、悪ぃ、つい嬉しくなっちまってな」
「ではミサカはこの辺で失礼します、とミサカは」「待ちなさい」
「!?」

ミサカ10039号は当麻から開放されると即座に撤退を開始しようとする…が
その言葉は途中で遮られ、あまりに低い声色に思わず当麻が振り返る。そこにいたのは…

「…アンタ達そこで何してるのかしら」

先ほどまで幸せそうに寝ていたはずの―――――

「大声が聞こえたから慌てて来てみれば…」

あれほど可愛らしかった寝顔の持ち主が―――――

「こんなところでいちゃいちゃすんなやこら――――!」

バチバチィ!と電撃を発生させる美琴。そんな彼女を見た二人はそれぞれ瞬間的に動く。
当麻は右手を構え、ミサカ10039号は…ドアの外へ逃げた。
――次の瞬間、玄関が青白い閃光に包まれる。当麻は放たれた電撃を打ち消し、10039号はその様子を扉から顔を少し覗かして見ていた。
バチィ!バチィ!と何度か音がした後、ようやく辺りは静かになる。

「全く、油断も隙もあったもんじゃないわ!」
「頼むから室内で電撃はやめてください…家電製品が死んでしまいます…」
「相変わらず過激ですね、とミサカは怒りんぼうのお姉様に思わずため息を付きます」
「誰のせいだと思ってんのよ!?」
「ミサカはお米を持ってきただけです、抱き付かれていたのはお義兄様がお米の入手に喜んだためです、とミサカは先ほどの状況を説明します」

腕を組み、仁王立ちする美琴は土下座をする当麻を睨んでいる。
扉から顔を半分だけ出している10039号はため息を付きながら先ほどの経緯を説明する。

「嫉妬するのは構いませんが、すぐに電撃を放つ癖は直したほうが良いですよ、とミサカは冷静さの足りないお姉様に助言を与えます」
「むぅ…でも何も目の前であんなことしなくても…」
「わー、すまん!俺が悪かったからそんな顔しないでー!?」

先ほどの怒りは何処へやら、状況を飲み込んだ美琴は、10039号に追い討ちをかけられしょんぼりとする。
そんな彼女を見て当麻は慌てて立ち上がり美琴に近づきながら声を掛ける。

「やれやれ、すっかり邪魔をしてしまいましたね、とミサカはお二人の邪魔者であることを改めて認識します」
「いやいや、何もそこまで卑屈にならなくても…」
「ではミサカの用は済みましたので失礼します、とミサカはお二人に頭を下げつつ別れの挨拶をします」
「あ!ちょっと待って!折角来たんだしお米のお礼も兼ねて晩御飯くらい食べていってよ」
「いえ、お気持ちはありがたいのですがお二人の邪魔をするのは気が引けます、とミサカは違う意味で空気を読んでみます」
「いや、それは空気が読めてるとは言わないのでは?いいから上がっていけよ」
「そうよ、それにアンタには個人的に聞きたいこともあるし。っていうか普段から空気の読めない当麻にそんな事言われたくないわね」
「何気に容赦ないですね美琴サン…んでどうする?」
「…分かりました、とミサカは渋々了承すると見せかけて内心で喜んでみます」
「それじゃあいつまでもこんな所で立ち話もなんだし汚い部屋だけど上がってよ」
「ちょっと!?家主の目の前で汚いとか言わないで!?ちゃんと片付けてますよ!?」
「主に私がね」
「……酷い…でも言い返せない…」
「ぶふぃー、とミサカは肩を落として落ち込むお義兄様に思わず噴出します」

そんなやり取りを終え、中に入って行く三人。部屋の中央に置かれたテーブルを挟むように当麻、10039号が座る。
美琴は台所でおもてなしの準備をしている。

「妹ー、お茶とコーヒーとジュースがあるけど何飲む?」
「ではお茶をいただきます、とミサカはお姉様に要求します」
「当麻はー?」
「んじゃコーヒーで」
「砂糖は1つでいいわよね?」
「おう」
「…なんだかこの空間に居心地の悪さを感じます、とミサカはお二人の何気ない会話でむず痒い気分になります」

二人にとっては普通の会話なのだが端から見れば…10039号はなんともいえない気分になるのだった。
暫くするとお茶とコーヒーを入れ終えた美琴が当麻の隣に座る。
彼女もコーヒーを選択したようだが、10039号はある事に気付き目をキラーンと光らせる。

「おや、お二人のカップはセット物なのですね、とミサカはカエルのプリントが施されているマグカップを見つめます」
「ああ、これか…前に美琴がどうしてもって言うから買ったんだ」
「えへへ~、いいでしょ?」
「…からかい甲斐のない反応ですね、とミサカは熱々の二人を見てもうどうでもいいやと投げます」

当麻のカップにはゲコ太、美琴のカップにはピョン子がそれぞれ描かれている。
少し恥ずかしそうにする当麻とニコニコと笑みを浮かべながら羨ましいかと言わんばかりに自慢をする美琴。
10039号はからかおうとしたのだが、平然…どころか嬉々として語る美琴を見て、何を言っても無駄だと悟る。

「話は変わるのですが、ミサカはお姉様に謝らなければならない事があります、とミサカは唐突にシリアスな雰囲気を漂わせます」
「え?な、何?」

先ほどまでの空気を一変させる10039号。
その顔つきは打って変わって真剣なものとなり、それを感じ取った二人にも僅かに緊張が走る。

「…あのバッジを普段付ける事が出来なくなりました、とミサカは重大な事実を告げます」
「?」

10039号は語りだす。それは先日の事。街を歩いていた彼女は走ってきた通行人とぶつかってしまい、その際にバッジが服から外れてしまった。
慌ててバッジの行方を見ると側溝に向かって飛んでいくのが見え、咄嗟に飛びつきバッジは守ったが、そのまま勢いよく壁に激突してしまう。
幸いにも怪我はなかったのだが、彼女のゴーグルはその衝撃で割れてしまった。

「…ということがあったのです、とミサカは少し割れてしまったゴーグルを指差しつつ正直に告白します」
「馬鹿!!そんなのでもし怪我したらどうするつもりだったのよ!?」
「申し訳ありません、とミサカは心底反省します」
「妹達を危険な目に遭わせる為にそれを渡したわけじゃないのよ!?それを大切にしてくれるのは嬉しいけど、無茶な事はしないでよ…」

泣きそうな表情を見て10039号は自分の先日の失態を後悔する。
この話を黙っている事は出来た、でも10039号はそれをしなかった。このバッジに嘘は付きたくなかったから。

「まあまあ美琴、こうして御坂妹が無事だったんだし反省もしてるんだからそれくらいにしといてやれ」
「でも…!」
「いいから、それで今は何処にあるんだ?」
「…ニットベストに細工を施して持ち歩いています、とミサカはバッジを取り出します」

悲痛な表情を浮かべる美琴の頭を撫でる当麻。
10039号は当麻の言葉を受け、手を加工(内側にファスナー付きポケット)したニットベストの左下側に入れるとごそごそとバッジを取り出し始める。
暫くして出てきたものは、卵を平らにつぶしたような形をした小型のクリアケースだった。
それはキーホルダーのようになっており、先端には止め具が付いている。ケースの中にはバッジが収められ、傷がつかない様にスポンジが敷き詰められていた。

「先の失敗を繰り返さないようにあの医師(冥土返し)に作ってもらいました、とミサカは特注品の入れ物について説明します」
「アンタ!持ち歩いててまた今回みたいなことがあったらどうすんのよ!?」
「…他の妹達にも同じ事を言われました、とミサカはミサカネットワーク内でボコボコにされた事を思い出します。
 それでもミサカは常に側に持っておきたいのです、とミサカはこのミサカの我侭である事を承知で言ってみます」

10039号も大事に保管しておけば安全な事も、バッジを持っていなくてもその想いが揺るがない事も分かっている。
それでも、大切なものだからこそいつも持っていたいと打ち明ける。真っ直ぐ見つめ合う姉妹。
暫く見つめ合っていたが、美琴は大きくため息を付くと言葉を発する。

「はぁ~~、わかった、でも1つだけ約束して。もし今度同じような事があったらまずは自分の身を守る事。いい?」
「…分かりました、とミサカは返答します」

無駄だろうな、と美琴は思う。咄嗟に出てしまう行動はその想いが強ければ変わる事がないのは自分や当麻を見ているから分かる。
でも同時に嬉しく思う。あの想いを大切に思ってくれていることに。

「…よし、じゃあこの話はおしまいね」
「ところで、見ていたら付けたくなりましたので今から付けます、とミサカはケースからバッジを取り出します」
「あんたねぇ…まあいいわ」

10039号は我慢できずにバッジを取り出すといそいそと取り付ける。
その行動に半ば呆れていた美琴だったが、表情を緩める10039号を見てくすっと薄く笑う。
当麻もハラハラしながら会話を聞いていたが、丸く収まったようなので胸を撫で下ろすのだった。

「じゃあ次は私の話ね。その前に当麻には悪いけど暫く外で時間を潰してきて欲しいんだけど」
「え!?何故ですか!?」
「結構重要な話だから、後、夕飯だけど予定を変更してカレーにするから外行くついでにルゥを買ってきて」
「えー…なんだか凄く切ないですよ…」
「ごめんね、でもこの話はちょっと聞かれたくないから、お願い」
「仕方ない…ちょっと行ってくるか…」

美琴のお願いにガックリと肩を落としトボトボと玄関に向かう当麻。その背中は哀愁が漂い、不幸だオーラを発している。
当麻が外に出ると美琴は10039号と会話を始める。

「よろしいのですか?とミサカはお義兄様の落ち込みようが半端ないのを心配しつつ問いかけます」
「いいのいいの、聞かれるわけにもいかないし。それよりちょっといいかな?」
「なんでしょう?とミサカは急にモジモジしだしたお姉様を不審に思います」
「あんた達ってネットワークで繋がってるのよね?それってあの19090号って子とも繋がってるのよね?」
「なるほど、そういうことですか、とミサカはお姉様の目的に気付きます」
「話が早くて助かるわ。お願い!ダイエットのテクニックを教えて!」
「少々お待ちください、とミサカは19090号に交渉する時間が欲しいことを伝えます」
「う、うん。よろしく」

頬を染めながらダイエットのテクの伝授を懇願する美琴。
10039号はこんなに面白いチャンスを逃す手はないと19090号と交渉を開始する。
19090号は渋っていたが、美琴の様子をネット上に配信することを条件に了承した。

「お待たせしました、交渉は成立しましたので何なりとお聞きください、とミサカは内心わくわくしながらお姉様を促します。
 ですが質問の前に水とタオルが欲しいのですが、とミサカはこの話に必要なものを要求します」
「?いいけど」

首を傾げつつも言われた通り水とフェイスタオルを準備した美琴。
座ろうとした所で10039号が立ち上がり美琴に近づくと親指でウエストの『測定』を始める。

「ひゃ!アンタ一体何してんのよ!?」
「身体測定です、とミサカはお姉様の問いに答えます」
(スペック通りですね、とミサカは意外な結果に驚愕します)

身体測定を終えた10039号は元の場所に座ると『どうぞ』と言い、乙女の秘密の会話を始める。

「えっと、どうやったらうまく痩せれるの?」
「バランスの良い食事、適度な運動です、とミサカはあの野郎(19090号)の痩身テクを伝授します」
「…それだけ?」
「はい、とミサカは返答します。
 食事はミサカ達と同じものを食べた上で、毎日ジョギングを30分程度しているそうです、とミサカは詳しい内容を述べます」

元々のスタイルが優秀な為、特別な事はしなくても良いという情報を受けた10039号は自分も実践しようと思いつつ説明を続ける。

「でも、それだったら私も運動はしてるし、食事もそれなりに気をつけてるわよ?」
「お姉様の場合は間食や糖分の多い飲料水が原因ですね、とミサカは決定的な事実を述べます」
「!!」
「ミサカとしてはその状況であってもスタイルを維持できているのが不思議です、とミサカは先程の身体検査の結果を思い出します」
「じゃあそれを無くせば私も!?」
「恐らくは、とミサカは返答します」
「よし、じゃあ今日から早速頑張って痩せるわよ!」

立ち上がり、小さく拳を握る美琴。その瞳は燃えているように見える。
そんな様子を見て小さくため息を付く10039号。そして忠告を始める。

「頑張るのは構いませんが、無理はしないように、とミサカは忠告をします。
 体調を崩してしまってはお義兄様が心配しますし、デート等で我慢をすればストレスになってしまいます、とミサカは続けます」
「じゃあどうしたらいいのよ?」
「間食については少しずつ量を減らすのが良いでしょう、とミサカは解決策を述べます。
 デート中ならお義兄様にあーんをするなどして少し多めに食べてもらうと良いでしょう、とミサカはさり気無くいちゃつく方法を教えます」
「…そんな方法が…っていうか良くそんな事思いつくわね」

10039号は親指をぐっと立て、楽しみつつダイエットにも繋がる方法を教えていく。
美琴は10039号のずる賢さに驚愕しながらもフムフムと聞いていく。

「普段の食事について参考が欲しければ病院で支給される食事の内容を教えます、とミサカは割と重要なことをサラッと言います」
「でも当麻とご飯を食べる時はどうしよう?当麻は結構食べるし、別々のものを食べるのは私が嫌だし」
「…そこはいつも通りでいいのでは?とミサカは返答します。
 結局お義兄様との過ごす時間が重要なのですから、自然体で行くのが良いと思います、とミサカは答えます」

同じ女性として、好きな人の前で美しくありたいという気持ちは理解できる。
でもその人と過ごす時間の方が何より大切なのだということを美琴に教える10039号。

「それにお義兄様の事ですから『そんなことしなくても俺はいつも通りの美琴が好きだぜ』とか言いますよ、とミサカはお義兄様の声色を真似をしてみます」
「んな!?あんた何言って…」

10039号の不意打ちに思わず赤くなる美琴。10039号は待ってましたと言わんばかりに顔をニヤつかせる。
そしてこのタイミングで核心に迫るべく動く。

「ダイエットで気をつけなくてはならない事と言えばこの薄い胸ですね、とミサカは一番気にしているであろう事に迫ります」
「!?」
「ですがお姉様にはお義兄様がいるので心配ありません、とミサカは前途有望なお姉様に嫉妬しつつ述べます」
「…?なんでそこで当麻が出てくるのよ?」
「…揉んでもらえば大きくなります、とミサカは驚愕の事実を告げます」
「も、揉んでもらう!?」
「揉まれる事で女性ホルモンの分泌が活発化し大きくなるのです、とミサカは仕入れた知識を元に簡潔に述べます」
「で、でもそんなの分からないじゃない」
「はい、ですのでお姉様が実践してくれれば良いのです、とミサカは恥ずかしがるお姉様をニヤニヤしつつ真相の究明に期待します」
「ぁぅ…」
(あいつに胸を揉まれる!?そんなの恥ずかしいよぅ…でも付き合ってるんだからいつかは―――じゃなくて、何考えてんのよ私! 
 まだまだ早いって!でも本当に大きくなるなら試してみたい気が…やっぱり当麻は胸の大きい方がいいのかな?
 こんなんじゃ満足してくれないかも知れないしそれならいっその事試してみて―――ってやっぱり駄目―――!!)

耳まで真っ赤になった美琴は心の中であれやこれやと妄想を始める。
そんな様子をしたり顔で見ていた10039号だが、美琴がバチバチと空気を鳴らし始めたので、事態の収拾を図る。

(―――)
「ふ…、わぷ!」

バシャ!思考が限界を迎え、ふにゃー寸前だった美琴に突然水がかけられる。
意識を戻すと、顔が拭かれている事に気づく。タオルがどかされると10039号の姿が見える。

「ちょっと!いきなりなにすんのよ!?」
「お姉様が放電していたので、危険を承知で水をかけました、とミサカは返答します」
「うぅ…服濡れちゃったじゃない…どうすうのよ…」
「お義兄様の服を借りれば良いのでは?とミサカは淡々と述べます」
「…そうするわ…」

水をかけられて制服が濡れてしまった美琴は立ち上がり、タンスから当麻の服を取り出すと着替えを始める。
ニットベストを脱いだ所で、ドアがガチャリと開かれる。

「ただいまー、時間潰して…来た…ぞ」
「「…」」

当麻がこのタイミングで帰ってきた。着替え中だった美琴は勿論、10039号、着替えを目撃してしまった当麻は固まる。そして…
ブン!と美琴は脱いだニットベストを当麻に投げつけるとその場にしゃがみ込む。
そして投げられたニットベストは当麻の顔にヒットする。

「あ、ああ、アンタ!人の着替え中に帰ってくんな!」
「ここは私の部屋ですよ!?それに着替えてるなんて思わないだろ!?」
「いいからこっち見んな馬鹿ぁ―――!」
(これがフラグ体質のお義兄様の力ですか、とミサカは神掛かり的なタイミングに心の中で驚愕します)

ブラウスは着ているのだが、先程の会話もあって真っ赤になる美琴。
生着替えを目撃してしまった当麻はドキドキしながらも反論をする。
そして悪魔はこのチャンスを逃すまいと目を光らせる。

「ではお義兄様も帰ってきたのでミサカは帰りますね、とミサカは立ち上がります」
「待って!お願いだからこの状況で二人っきりにしないで!」

立ち上がって帰ろうとする10039号の腕を掴み涙目になりながら懇願する美琴。

(―――これは、とミサカは意識が飛びそうなのを何とか踏ん張ります)
「…申し訳ありません、少し悪戯が過ぎたようです、とミサカはお姉様の対応にドキドキしつつも謝罪します」
「もしも~し、今回も状況が全く分からないのですが?」
「だから当麻はこっちに来るな!着替え終わるまで待っててよ!」
「へいへい…」

何で俺がこんな目に…と呟きながら一旦外に出る当麻。
美琴の着替えが終わると中に入り、その隣に座る。だが座った瞬間美琴がビクッと動き、ささっと少し距離を開ける。

「ん?どうした?」
「な、なんでもないわよ…」
「所で少し席を外したいのですが、とミサカはトイレに行きたいのを遠まわしに告げます」
「全然遠まわしじゃねぇし!?トイレはそこだぞ?」

部屋から見えるドアを指差すと10039号は立ち上がってドアの中に入っていった。
そして残された二人は…

「それよりどうした美琴?顔も真っ赤だしなんかあったのか?」
「な、なんでもないってば!」
「どれどれ、ん~熱は無いな」
「―――」
「あれ?美琴?どうした?」
「おやおや、こんな短時間で気絶してしまったのですか、とミサカは意識を落としたお姉様を見て驚愕を露にします」

当麻が右手を額に当てると美琴はそのまま意識を失うのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ではミサカが替わりにカレーを作ります、とミサカは今回の責任を取ることにします」
「いやいや、俺が作るから御坂妹は美琴についてやっててくれ」
「いえ、その役割はお義兄様の仕事です、とミサカはお義兄様の提案を断ります」
「そうか?それじゃあ悪いけど頼むわ」
「任せてください、とミサカは胸を張って張り切ります」

暫くたっても目を覚まさない美琴に罪悪感を感じた10039号はお詫びにと夕飯を作る事を申し出る。
当麻は迷った後、美琴を見る事にする。10039号が調理を始めて暫くすると、台所からストン!ストン!と不穏な音が聞こえてきた。
気になった当麻が台所を覗くと、手をプルプルと震わせながら危なっかしい手つきでジャガイモに包丁を下ろす10039号の姿があった。
よく見ると皮が所々残っており、剥かれた皮には身がしっかり付いている部分も見られる。

「ストーップ!お前料理できないなら初めからそう言えよ!?」
「む、ミサカはカレーの作り方くらい知っています、とミサカはネットワークで仕入れた知識を元に作っている事を説明します」
「知識あっても手つきが危なすぎるんだよ、ほら、後は俺がやるからお前は美琴を見ててくれ」
「駄目です、これはミサカが作ります、とミサカは断固拒否します」

さすがに危ないと判断した当麻は包丁を10039号から取ろうとするが、10039号に拒否される。
だがこのままにしておくのはまずいと思ったので、共に作る事にする。
包丁の使い方や野菜の切り方を教えていくがどうも上手くいかない。
仕方が無いので10039号の後ろに立ち、抱きかかえるように手を回すと10039号の手に添えてその手を動かして教えていく。
10039号もふむふむと頷きながらそのまま指導を受けていたが、ふと不穏な気配を後ろから感じ、その手を止める。

「ん?どうした御坂妹?」
「何も言わずに離れてください、とミサカは戦慄しながらもお願いをします」
「は?何言って…」「ちょっと!」
「!?まさか…」

聞きなれた声に恐る恐る振り返るとそこには…

「あんた達は懲りるという言葉を知らないのかしら?」
「いや待て!話せば分かる!これは仕方なかったんだー!?」
「問答無用!」

ごつん!と当麻の頭にげんこつ放ち、10039号にはチョップを浴びせる。

「いってぇ!!頼むから手加減位してくれよ」
「酷いです、とミサカはお姉様の理不尽な攻撃に涙目になります」
「文句言わない!それに私の事をほったらかしにして料理してるそっちの方がよっぽど酷いじゃない!」
「だからこれは料理の出来ない10039号の為に仕方なく…」
「む!何ですかその言い草は、それにミサカはきちんと作れます、とミサカは憤慨します!」
「うっさい!後は私が…駄目だ、それだとまたなにしでかすか分からない。後は私とこの子でやるから当麻は大人しく待ってなさい!」
「わーったよ、はぁ…なんでいつもこうなるんだ?」
「自覚が無いのが怖いですね、とミサカは罪作りなお義兄様に嘆息します」
「ほ~ら、ちゃっちゃと作るわよ!」

当麻を台所から追い出しカレー作りに着手する美琴。改めて台所の状況と10039の手つきを見てため息を付く。

「あんた…不器用ってレベルじゃないわね…」
「仕方ないじゃないですか、実際に作るのは初めてなんですから、とミサカはしょんぼりしつつ言い訳をします」
「全く、これじゃあ当麻が心配になるのも頷けるわ。それにしてもあんたにこんな不器用な一面があるなんて驚いたわ。
 …私も料理できなかった方がああして教えてもらえたのかしら?そう思うと複雑だわ」
「なにを言っているのですか?料理ができる方が男性は喜びます、とミサカは知識を披露します」
「それはそうかもしれないけど、さっきの見てるとなんだか悔しいわ」
「…」

そんな会話をしながら仲良くカレーを作っていく姉妹。
ちょっと嫉妬をしながらも、お互いを知っているからこの関係は成り立っているのかもしれない。
そんなこんなでカレーは完成し、夕飯の時間となる。

「「「いただきます(とミサカは手を合わせながら食事を始めます)」」」
「モグモグ…」
「どうですか?とミサカはやや不安になりながらも尋ねます」
「おお、普通に美味しい!?あの惨劇を見てて不安になってたけど…以外だ」
「そりゃそうでしょ、この子が頑張ったんだから」
「そうですか、とミサカは安堵しつつ賛辞の言葉を喜びます」

本当はルゥを使っているので普通のカレーとそこまで大きな差は無い筈なのだが、
美琴の隠し味等のアドバイスや10039号の苦労を知っているからこその味なのだろう。

「まだまだありますのでどんどん食べてください、とミサカは嬉しさを抑えつつ促します」
「ふふ、なんだかあんた見てるとこっちまで嬉しくなってくるわ」
「そうだな」

子供のようにお代わりを促す10039号の姿を見て笑顔になる二人。
その笑顔は食事が終わるまで続いているのだった。
そして楽しい時間は終わりを告げ、10039号は帰り支度を始める。

「ではミサカはそろそろ帰りますね、とミサカすっかり暗くなってしまった外を見ながら帰ることを告げます」
「あ、ちょっと待って、私も一緒に帰るから」

洗い物と片付けを済ませ、乾いた制服に着替えた美琴は10039号を引き止める。

「そうですか、ならミサカは先に下で待っています、とミサカはお二人に気を使ってみます。
 それではお義兄様、おやすみなさい、とミサカは別れの挨拶をします」
「おう、またいつでも遊びに来いよ」
「あ、ちょっと!…もう、気なんて使わなくていいのに。まああの子らしいっていえばらしいけど。それじゃあ私も帰るね」
「何なら送っていくぞ?さすがに暗がりで女の子二人を歩かせるのは…」
「大丈夫よ、あの子は私が守るから」
「ん、ん~、でもなぁ」
「今日はいいの!姉妹の秘密トークがあるんだから!」
「わかったわかった、気ぃつけて帰れよ?」
「うん、ありがと。それと…」

チュっと軽くキスをする美琴。

「それじゃまたね当麻!」
「おう、またな。美琴」

手を振りながら廊下を走っていく美琴を同じく手を上げて見送る当麻。
こうして二人のバタバタとしたデートは幕を下ろす。
そして寮の入り口で待っていた10039号に合流した美琴はその手を握り、帰り道を歩き始めるのだった。


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