とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part17

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― 制約と誓約 ―


一年後、4月7日昼頃、とある高校の正門前

「はぁ…もう一年かぁ。時が経つのは早いわねぇ」

空港で上条との壮絶な"別れ"をしてからもう一年。
まだ上条はイギリスから戻っていなかった。
上条がいない一年間は、美琴の周りにいるは信頼できる後輩が数人と、常に一歩引いて自分を見る常盤台の人達。
楽しいはずの修学旅行などのイベントも、同学年の周りがそれでは楽しめるはずもない。
だから彼がイギリスに行ってからも連絡はほぼ毎日と言っていいほどしていた。
時にはメールのみで済ませ、時には何時間も長電話をしたり、そしてまたある時はその両方の時も。
その時間は美琴にとっては一日の至福の時であり、その時が一日の楽しみと化していた。
その内容こそ早く帰ってこいだの、その日の愚痴、仕事の首尾はどうなのか、そっちでの生活はどうなのか、などとありきたりなものが多かったが、それでも彼女にはよかった。
彼の声を聞けたら次の日も頑張れる気になれたから。
今や同僚だった後輩白井黒子が、そんな彼女を毎日のように呆れた目で見ていたのは今となっては良い思い出だ。
そういうこともあって、彼とペア契約をしたことは本当に自分のファインプレーだったと思っている。
しかし、彼女のその至福の時もここ一カ月ですっかり途絶えてしまっている。
事の始まりはいつものようにメールをして、連絡を取り合おうと、彼にメールを送った時。
ものの数秒で返信がきて、その早さに驚きつつも携帯を開けて、メールを見ると、

―――それはそのアドレスは現在使われていないという知らせのメール。

それを美琴が見た時は、送り先を間違えたことを疑った。
そして先ほど送ったメールの送信先を確認すると、その送り先は上条当麻。
返ってきたアドレス違いのメールは間違いなく彼からのものだった。
嘘だと思い、改めて同じ内容の同じ送り先のメールを送る。

―――しかし、それにも数秒で同様のメールが返ってきた。

美琴は何かの間違いかと思った。
そう思い、彼に電話をかけてみようと試みるが、その電話で返ってくるのは、いつ聞いても飽きない大好きな彼の声ではなく、いかにも機械的な音声で、その番号は現在使われていないと告げられるだけ。
今では自称不幸の彼のことだから、きっと何かの拍子に携帯が壊れたのだと自分に言い聞かせて落ち着いてはいる。
だが美琴には理由が全くわからなかった、連絡が取れないとわかった夜はずっと泣いて過ごした。
その時はまだ高校の受験は終わっていないこともあり、常盤台の女子寮にまだ住んでいたのだが…
幸い数日前に卒業式を済ませており、その日はずっと寮にいたため、彼女のその有り様を知っているのは黒子だけだ。
黒子はそれを見かね、受験後に仲の良い後輩の佐天と初春も交えてどこかに行こうと計画してくれた。
美琴もその計画にはちゃんと参加したが、その時でさえも心からは楽しめなかった。
そのことについてはせっかく計画してくれた彼女に申し訳なく思っている。
だがその唯一信頼できるよくできた後輩は、今はもう学校が違うので隣にはいない。
高校が決まり、その高校の寮に引っ越すことになった時の彼女の反応は今も忘れられない。
というか、多分一生忘れられないだろう。
本当の意味で自分の立場を理解してくれて、あそこまで慕ってくれた常盤台の子は彼女だけだから。
彼女とはいつでも会えるが、以前のように毎日顔を合わせるわけではないので、彼女との別れには感慨深いものがあった。
とは言え、最近はお姉様お姉様と鬱陶しいほどメールやらを贈ってくるのには困りものなのだが…

「にしても、アイツと同じ高校を選ぶってどんだけ未練がましいのよ…」

今では彼との恐らく唯一の繋がりとなってしまったネックレスを握りしめ、美琴はそう呟いた。
美琴が呟いたとおり、彼女立っている目の前の高校はかつて上条が通っていた高校。
超能力者である彼女には、長点上機や霧ヶ丘女学院を始めとした名だたる名門校から幾つもの推薦の話がきていた。
だがその引く手数多の彼女が選んだ高校はそれらのどれでもなく、常盤台には当たり前の強能力者でさえ珍しいような平均中の平均校の高校である。
常盤台中学からの強い反論ももちろんあったのだが、最終的な決断まで強制することはできずに今に至る。

「今ここにきてもアイツはいないのに……何を期待してるんだろ」

だからと言ってはなんだが、美琴は今その高校のセーラー服を着ている。
そして成績は超能力者の底力と言ったところか、余裕のトップ通過で入学生の代表に選ばれ、スピーチを任された程だ。
それでも今日は入学式という晴れやかな日のはずなのに、美琴の表情は暗い。
とにかく、美琴はその高校の正門の△△高校入学式とかかれた看板を見て、

「今日くらい、しっかりしなきゃね。とりあえずクラス分け見に行って体育館に行かなきゃ」

美琴はクラス分けが発表されて人だかりができてしまっている生徒玄関に駆けていった。
その足取りは決して、これからの高校生活に対する希望に満ちたものではない。


同日昼頃、とある高校生徒玄関

「んーと、私のクラスはっと…」

美琴はクラス分けを見ようと、人だかりのできた生徒玄関口にいる。
彼女の容姿は高校生となっても、周りと比べるのを躊躇うほどにずば抜けており、すでに新入生の男子には注目の的となっている。
彼女が噂の常盤台中学から来た超能力者であるということを知っている生徒はその中に数えるほどいるかどうかだろうが、それを抜きにしても注目の度合いが他とは明らかに違う。
所々からあの子かわいすぎだろ!や俺狙っちゃおうかなぁ、などという声さえもあがっている。
しかし注目されている当の本人は常盤台時代からそういう好奇の視線には慣れっこなこともあってか、全く気にしていない。
それよりも今は目の前のクラス分け。

「私は1-Fかぁ…ってあれ!?」

美琴は自分のクラスを確認した後、彼女としては信じられない名前が同じクラスの中にあるのを発見した。
そのため咄嗟に辺りを見回す。
しかし彼女がそのクラス分けの表で発見した名前の者は見当たらない。
その人とは、ツンツン頭がトレードマークでいつも不幸そうな顔をしている者、そして美琴の最愛の者。

―――その人、上条当麻である。

(見間違い…でもないみたいね……いやでもアイツは…当麻は、今イギリスで、ここ一ヶ月連絡がとれなくて、年も二つ違って、それで、それで…)

考えれば考えるほど彼が今ここに、そして同じクラスにいることは有り得ない。
連絡がとれなくていつ帰ってくるかが聞けずにわからない今では、急に帰ってくることに関しては理解できる。
だが彼は順当にいけば今年で18歳で自分は16歳。
そしてイギリスに行く前に留年してまた一年からなどということも聞いていない。
だから、同じクラス、学年にいることは有り得ないのだ。
あのクラス分けに書かれいる"上条当麻"という人が美琴の知る上条当麻である確率はゼロに近いほど有り得ない。
なのに、美琴には何故だかこの人が全くの別人という考えが思い浮かばなかった。

(き、今日は始めに体育館で入学式した後、このクラスで説明を受けて終わりだったわよね……なら!)

もう美琴は今日の入学式のことなど、任された入学生の代表者のスピーチなど、どうでもよくなっていた。
今の彼女頭の中は、この"上条当麻"が彼女の知る人かどうかで満たされている。
きっと違う、絶対違うとは言い聞かせても、本心はそれを否定し続ける。
表面上はクールな彼女の心中は、決して穏やかではなかった。


同日13時、とある高校体育館

「―――、第○○期生、入学生代表、御坂美琴」

美琴はスピーチを終えると来賓と職員の人達に一礼をして、自分の元いた席へ戻る。
そして、わぁ!と体育館いっぱいに美琴のスピーチに対して拍手の嵐が巻き起こる。
彼女のスピーチは今年から高校生とは思えないような内容、振る舞い、口ぶりで会場を圧倒した。
その立ち振る舞いは高三はおろか、熟練した大人でもなかなかできないであろうほど。
流石は常盤台中学、超能力者は違うとそんな会話も所々で美琴の耳に入ってくるが、当の本人はそんな賞賛はどうでもよかった。
常盤台中学は卒業した時点で世界で通用できるレベルまでに英才教育を施す学校。
美琴に言わせればこれくらいは当然、できて当たり前。
そんなことを誉められても嬉しくはない。
まして相手は自分の今までのことを全く知らない人達。
誉められて嬉しいどころか逆の感情さえもあった。

(アイツは…)

むしろそんなことよりも、美琴の注意のベクトルは自分のクラスのところに座っている人達ばかりに向いていた。
スピーチの場所から戻る際にザッとクラスの席を見渡すと、そこには空席はないように見える。

(となると、私が知っているかどうかは別にして"上条当麻"はここにいる可能性もあるのね…)

その過程でクラスの中にツンツン頭の男子がいないか探そうともしたが、考えてもみればこれはあくまでも"入学式"。
もしあの"上条当麻"が本当に彼で、同じクラスにいるのなら、彼は別に今日入学するわけではないので、入学式には出席していないかもしれない。
それに今無理して確認せずとも、いるのならこの後のHRで確実に確認できる。
だから美琴は今は変にキョロキョロするような真似はせず、今まで通りお嬢様らしい立ち振る舞いで席についた。

「ありがとうございました。続きまして―――」

入学式は、まだ終わらない。
この後には在校生代表、学校長、来賓のスピーチが控えており、さらに来賓紹介、校歌斉唱と続き、閉式の辞で入学式は終わる。
入学式や卒業式を行うにあたって避けては通れない、数々の退屈なスピーチで寝ていく者は少なくないだろう。
実際、美琴も今までその内の一人だった。しかし今は彼女の頭は同じクラスの"上条当麻"のことで埋め尽くされており、寝る暇などない。
もしそれが本当に美琴の知る上条当麻だったらどうしてくれようか、なんで連絡がとれなかったのかと雷の槍をぶち込むのもいい、いきなり抱きついて再会の喜びを表すのもいいかもしれない。
考えれば考えるほど彼の声が、笑顔を思い出し、恋しくなる。
とにかく美琴は、その"上条当麻"が美琴の知る上条当麻である場合を考えるのに頭をフル回転させていた。
入学式は今も続いている。

「―――以上をもちまして、第○○回、△△高校の入学式を終了します。入学生の人は、担当の職員についていき、各自のHRへと向かってください」

長かった入学式は終わり、入学生の人達から安堵の吐息が漏れる。
その中には姿勢を固定していた身体をほぐすようにのびをする者、入学式早々から隣の人と友達となって先ほどまでのことについて愚痴を言ったりする者などと様々である。
そしてまもなくすると、美琴のクラスの担当教員(?)と思しき、恐らく特注品であろうスーツに身を包んだピンク色の髪をした女性が美琴のクラスの前に立ち、

「はーい、1-Fの担当の月読小萌ですよー。私のクラスの子は私についてきてくるのですよー」
「……………は?」

今美琴の近くに立つ自称教員の女性(少女)は、どこから見ても小学生くらいにしか見えない。
美琴の周りの同じクラスの人も、違うクラスでも彼女の声を聞いていた学生も美琴と同様の反応を示していた。
どう考えても彼女は大人には見えないからだ。

「なんですかあなた達の反応は?私はれっきとした先生なのですよー!」

少し怒ったような反応を自称教員は示すが、対する同じクラスの人達の反応は、説得力がありませんと言わんばかりにポカーンとしている。
そこへ厳正な式典であるはずの入学式に、正装ではなく緑色のジャージを着て一際異色を放っている教員が間に入り、

「お前ら、小萌先生は見た目はこれでもちゃんとした先生じゃんよ。さっさと先生についていくじゃん」
「黄泉川先生!見た目はこれでもってひどいのです!!」

黄泉川と呼ばれた先生は先ほどの先生とは打って変わり、長身で、腰の辺りまで伸びる長髪、自己主張の激しい胸をもち非常に大人らしい美人の女性と言える。
しかし服装がジャージという点で、こちらも普通の先生であるというのは言い難いのだが…
それはさておき、未だに半信半疑ではあったものの、クラスの生徒はようやく立ち上がり、それを小萌先生が先導していく。

(ここの先生はこんなのばっかりなの!?本当に入る高校間違えた気がしてきたわ……アイツがいれば万事解決と思ってたけど、そうもいかないらしいわね…)

転校という手もないわけではないが、それは一度決めたことを曲げることになり、美琴の中ではそれを決してよしとはしない。
それに、彼が帰ってきた時に同じ高校に入ったことを驚かせたいという気持ちもあった。
だから美琴はたとえ後悔はしても、学校を変えようとは思わない。
微妙な点は多々あるが、ここを選んだ最大の理由は彼がいるからだから。


同日14時頃、とある高校1-F教室

(さてと、"上条当麻"君はどこにいるのかなー?)

美琴達は小萌先生に先導され、今は自分の教室に全員入っている。
入った教室自体は美琴が受験の時に来た時から思っていたのだが、想像よりも綺麗で、常盤台のような高級感こそないが、たとえ質素でも清潔感があった。
そして美琴は教室に着くやいなや、早速説明をしだす先生を無視し、今教室にいる生徒を一通り見渡す。
美琴の探し人はツンツン頭の、いかにも薄幸そうな顔をした少年。

―――しかし、どれだけ探しても、どれだけクラスを見渡しても、美琴が探している人物は見当たらない。

ただ単に来ていないだけかとも思ったが、それならあるはずの空席も見当たらない。
クラスにいる数人の男子と目があったりもしたが、当たり障りもない普通の高校生一年生という感じだ。
彼のような特徴を持つ男子はいない。

(そう、よね…アイツがここにいるわけ、ないもんね…)

わかってはいた。
あれが彼でない確率の方が確実に高いこと。
上条という性も、当麻という名も、ありきたりというわけではないが、探せば居そうな名前なこと。
彼が今、イギリスにいること。
だけどあれが彼だと信じてみたかった。
彼に会いたかった。
最後に彼を見たのは去年の3月31日。
自分でも一年間、よく耐えたものだと思う。
それも連絡がとれたからこそ。
だけど連絡のとれなくなった今、精神安定剤の役割を担っていた彼の声は聞けない。
そろそろ我慢の限界かもしれない。
少なからず期待をしてしまったが故に、落胆がとてつもなく大きい。
何でもいい、どんな形でもいい。
とにかく何よりも、会いたい、彼に会いたい、声を聞きたい。
また、あの幸せそうな笑顔を見せてほしい…

「御坂さん…?どうしました?顔色が悪いようですけど、何かありましたか?」

説明をしていた小萌先生がそれを打ち切り、心配そうに美琴に話しかけてきた。
どうやら思考に浸りすぎて、隠していた暗い気持ちが表にまで出てしまったらしい。
そこは涙が零れ落ちなかっただけでよしとする。

「いえ、何でもないです。少し考え事をしていただけですから」

何でもないわけがなかった。
本当は今すぐ泣きたいくらいだった。
だけどここは教室であって、人もたくさんいる。
そんな簡単に人前で涙を見せたくはない。
ここは何があろうとも気丈に振る舞わなければならない。

「考え事、ですか?それならいいですけど、本当に気分が悪いのなら遠慮なく言って下さいね?じゃあ説明を続けるのですよー」

そう言って小萌先生はまた背中を向け、黒板に何やら書き出した。
今は決して気分が悪いわけではない、心がどうしようもなく痛いのだ。
早く一人になりたい。
周りの目と期待、そしてここは高校という制約がなければ今すぐにでも駆け出したい。

―――できることなら、様々な制約を何もかも取っ払って、彼に会いに行きたい。

いつもなら気にならない、チョークが黒板を叩く音がやたらと耳障り。
小萌先生が低い身長ながらも、必死に黒板に文字を書いてこれからのことなどを説明している時間が、とても長く感じた。


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