「気が付けば調査した都市伝説も二桁超えてたのな……」
「あっという間だよね、勢いでミリィが都市伝説調査したいって言い出して、自分がそれに乗っかってさ……そしたら炭さんに新メンバーまで紹介してもらえるんだからよ」
新しく作り直したビルで思い出を振り返りながら、都市伝説のデータを確認している。
トムとジェリーの未公開エピソード、
ツナカユリコ、
反映ゲーム、
UMAについて、そしてゴーストブラック。
振り返ってみると脚は突っ込むけど全然解決していないような気もするが都合の悪い現実は失明して見えなかったことにした。
それよりも今の課題は今後の買い出しだ。
「これからは人間の野々芽さん達も生活していくんだし、食費の事も考えていかないとな……」
「俺達が好きにやる分にはご飯も睡眠もいらないけどそうもいかないからな、深夜の活動も控えめにしよう」
『うちらが寝てる時間に一体何しとったんどす?』
「騒ぎにならない程度に配慮はしてたけど電気はつけまくってるし徹夜で張り込みとかもしたなぁ……さとるくんなんか暇潰し大変だったよな、こんな時間に空いてる図書館探すの」
「そこかよ」
「ユリコさんも本格的に留守番任せられるし買い出し行こうかな、4人分を1ヶ月分として……君はどれくらい食べるタイプ?」
「あら電子生命体差別?ここまで高度なバーチャル肉体を作っておいて私には何もないの?」
「え、ええー?確かにその体は食事も出来るけど……ユリコさんご飯とか興味あったんだ」
「最近はゲームでも食事機能は多いけどやっぱり本物に興味があったりするの、悪い?」
「うーんまあいいか、じゃあ全員分でお気に入りの弁当屋で買い出しだな」
◇
たくっちスノーは時空列車に乗ってお気に入りの弁当屋まで買い出しに向かう、こうして遠出している時が旅人にとって楽しい時間だ。
「気になってたんだけどさ……時空の旅人って渦使えばあっという間じゃね?わざわざ乗り物乗っていく意味とかあるわけ?」
「そんな事言うなよ、この無駄が楽しいんだってドラゴンボールでも言ってただろ?それに勘違いされがちだけど
時空の渦ってどこでもドアみたいにあっという間じゃないよ?」
細かい違いだが空間を破って時空間に入れるものが新時代の大半であり、時空の渦を使って直接世界のワープが出来る存在は極稀。
世界と世界の間にあるインフラ整備された地域に入れるだけで一気にワープ出来るというのはよくある勘違いだ、昔から神隠しの都市伝説として伝わっているので事故を未遂に防ぐ為の処置でもある。
「時空の渦によるワープって実際はめちゃくちゃつまらんぞ?そりゃ緊急時なら贅沢は言えないんだけどさ……ゲームの読み込み時間みたいなものだ、自分くらいなんでもありじゃないと辛いぞ?」
「へー、旅人って案外気楽かと思ったがそうでもねえんだ」
「そう、だから皆ちょっと金や時間かけてもこういう乗り物を使うってわけ」
「だからって弁当屋でここまで遠出しなくても……」
『やっぱしこの人無駄遣いやら多いタイプなだけのような気ぃするな』
『ああそうそう、弁当っちゅうたらそれにまつわる都市伝説を聞いたことあるな』
【FILE11 アスリート弁当】
「アスリート弁当?」
『アスリート弁当っちゅうのんは名前通り有名なメジャーリーガーやサッカー選手とタイアップした弁当のことなんやけどな、それがワケアリらしいのやで』
リアルワールドでもたまに出てくる選手を応援する為に作られた弁当が売られることもあるが、どういうわけかその弁当を発売した後にタイアップ相手が謎の不調に見舞われたり成績が急落する事例が多いという都市伝説だ。
元は某球団が頻繁にその呪いに見舞われるという話だったが気が付けば色んなチームやサッカーにも及んでいる。
「俺っちはそれ懐疑的だな、アスリートってハードだしケガしたり成績が落ちることも珍しくねえでしょ」
「球団との退団も元々仲が良くなったのかもしれないしな……」
『疑いたなる気持ちは分かる、そやけど1つの世界で何十個も事例があって偶然言い切れる?』
「……所長さんはどう考えるわけ?そのほら、アレでしょ?」
「メイドウィンの悪戯?……一応ナタに連絡入れてみるか、前任者あいつだし」
「今私のこと呼んだ?」
「ぎゃああああ!!」
話してる最中で列車に無賃乗車してくるリアルワールドの前任メイドウィンの
ナタ・メイドウィン・雨谷……改めてメイドウィンではなくなったので雨谷ナタ。
鏡とパラレルワールドの力を操る能力、g-lokシステムの基礎にもなった特別な存在である。
「私は今でも液晶や鏡があればどこでもいけるからね」
「もしかして俺っちがさっき想定してたなんでもありワープ使えるやつ?」
「うん、それはそう」
正直な所たくっちスノーは今でもナタが苦手だった、リアルワールドを突然自分に譲ると言っていた時もそうだが掴みどころが無くて黒影のように分かりやすい弱点も見えてない、ペースに翻弄されてしまう。
ナタはChannelの面々を興味深く眺めた後に天井に座る。
「私のパラレルワールドを見て模倣する能力をそのまま呼び出す形に変えてしまうとは驚いた、やはり君は面白いね」
「くっ……ナタ!聞きたいことがあるんだがそれ聞いたらさっさと消えてくれ!色々とまずいだろ乗り込むのは!」
「時空の旅人ならしょっちゅうやってるだろ?何なら君も……」
「俺やたくっちスノーはちゃんと金払ってるよ」
「これでヤバいのは田所とかだな……いや案外黒影も結構これやってたか?」
『話進まへんさかいこの話題切り上げてくれへん?』
「あっそうだった、改めてリアルワールドメイドウィン前任者として聞きたいことがある!電話で済ませたかったんだけどねこれくらいのこと!」
「ふむ……」
◇
ナタに事情を高速で説明して特定のアスリート選手にちなんだ弁当の話をする、タイアップ商品が作られたタイミングで選手自身に影響を及ぼすなんてメイドウィンの作為としか思えない、ナタが真面目な返答をしてくれるかどうかは元より期待してないが帰ってきた答えは意外すぎる物だった。
「それをメイドウィンの仕業と考えた着眼点は見事だね、でもそれは私がやったわけじゃないよ」
「……え?え?どういうこと?」
「考えてみたら分かる通り、君の言うアスリートに謎の不幸が起きる弁当の都市伝説はリアルワールドでも多く発見されているが、それをこの場で提唱したのはそこの超能力者なのだろう?ああ……詳細は省くがリアルワールド凄いことになっているとはいえ、こんな子が我々の世界にいたか?」
「……い、いないな、確かに野々芽さんが言うってことは他世界でも同じ事例があると」
「いや待ちなよたくっちスノー、今こいつさりげなく聞き捨てならない事言ってたよ?」
改めてたくっちスノーが調べ直すと、リアルワールド以外のスポーツでもアスリートに関係した弁当が作られては妙な事変が起きている。
各世界で同じことが起きていると都市伝説らしい結果になってきた。
「それでも色んなメイドウィンがブーム感覚で変な物を流行らせてるって可能性も……」
「君って結構諦めが悪いよね?」
「ここ最近の時空規模都市伝説、真相がしょうもないのばかりでたくっちスノーがうんざりしてるみたいでさ……」
未だ真相が明らかになっていない都市伝説を調べるためにChannelを作ったというのに、カルデアの件くらい凄いものが中々拝めないのが現状。
言い出しっぺのミリィよりたくっちスノーの方がこんなことでいいのかと頭を抱えている。
「いつから時空ってのはこんなにつまらない世の中になっちまったんだ……?オカルトってのはもうちょっとこう、子供騙しな結果じゃなくて人為を超越するような、人間の理解が及ばないような規模であるべきじゃないのか……?」
「君の言うことは間違いでもない、そして君の言うように理解が及ばないものに対して考えを放棄して都市伝説という括りに落とし込んでいたのが過去、課題を後回しにしていたに過ぎないだけで今解明できるようになった結果期待外れだった……それだけのことじゃないかな」
「このメイドウィン、間違っちゃいないが身も蓋もないことばかり言うな」
「ナタってそういうやつだから……」
『そろそろこの話は後にしよう、うちら元はご飯買いに来ただけなんやさかい』
「うっ……そういえばそうだった」
「面白そうだから私も動向するとしよう」
「もしもし特盟(ポリスメン)?」
「ちょっ」
◇
数分以上の無賃乗車によって特盟に逮捕されるナタを尻目に、Channelの面々は目的地である弁当屋に到着した。
ちなみにここに来るまでに既に2時間も経過している、気合い入れた昼食でもここまで遠出しないが数ヶ月分の買い出しならこれで充分だ。
「そろそろ到着する頃だと思って通信繋げて正解だったわね」
「えっユリコさん普通にパソコンで喋れたの!?なんでこれまでアスキーアートとかで返事してたの!?」
「話し相手になってくれても良かっただろ!!」
「え〜?だってあなた達……私の力を借りなくてもなんのか出来そうだったけど凄く寂しそうにするものだから」
「楽しんでたね?」
「楽しんでた」
ユリコに弄ばれていることに気が付いたたくっちスノーとミリィ、最古参なのにヒエラルキーがどんどん下の方になっていくが挽回したいところである。
この弁当選びで……。
「今更だけど食材補充ってスーパーじゃなくていいのか?」
「既に出来てる奴のほうが楽だしいいんだよ、ミリィの発明品なら十年間新鮮なまま保管出来る」
「核シェルター作ってたら冷蔵庫作っちゃってさ」
「私が言えたことじゃないけど貴方達は都市伝説に負けないくらい狂ってるわ、規模」
「そりゃこんな奴に比べたらしょうもない結末ばっかになるよなぁ」
たくっちスノーおすすめの弁当販売店は全部が手作りでボリューム抜群、その上で安めである。
カタログを開いて何百個は買う前提で準備してお腹を開く、買い物袋代わりにミリィとたくっちスノーは成分の中にいくらでも詰め込むことができるらしい。
上司のお金で買い放題という状況に配信者としてワクワクが止まらないが野々芽はぽつりと呟いた。
『それやったら弁当やのうて冷凍食品を買うたら良かったんとちがうかしら』
「弁当はさ……食べてる時の実感が違うんだわ!!」
「冷凍食品はね……食べてる時の気分が虚しいんだよね……」
『あくまで趣味傾向で嗜むさかいこそここまでこだわりが強なんにゃ……』
たくっちスノーは自分の給料から札束をばらまいて弁当を好きに購入する権利を振りまいてそこら辺にある弁当を回収していく。
ハンバーグ、唐揚げ、カレーは王道、麺類もパスタや蕎麦を筆頭に中身も確認せず回収していく。
「おい、賞味期限まで見なくていいのか?」
「時空規模なら賞味期限なんて気にしなくても平気なんだよ!味が劣化しないんだって」
「何!?チーズタッカルビ弁当だってよ!しかもメンジャロピ弁当までついてる!」
「リアルワールド語喋ってくれん?」
「やめなよたくっちスノー!そういう限定品みたいなのに飛びついて後悔したこと何回あったよ!?」
◇
弁当屋をぐるりと回って2時間、詰め込みまくってパンパンのたくっちスノーが
ジーカの札束を差し出して退散する。
「つりはいらんとっとけって一度で良いから言ってみたかったんだよな」
「アンタ、本当に貯金できないタイプでしょ」
「まあとりあえずこれで今後の食費は困らないでしょ、3年分は買ったし……まだ弁当屋の在庫めちゃくちゃ余裕あるし」
『ところでそないな状態でどないして帰るん?しかも行きとおんなじ時間かかることになるけど』
「え?普通に帰りは時空チェックポイントで一気にワープするけど」
『あんた時空の旅人にどつかれても知らへんで』
数時間の買い出しと数分の帰還でChannelに戻ってきた一同、たくっちスノーは腹を割いて購入した弁当をミリィの保存ボックスにドサドサと詰め込んでいき、ガサツなたくっちスノーに代わってミリィが献立表を作成しながら弁当を中身ごとに仕分けしてカタログ形式でデータ化していく他、念には念を入れて時空通販局で似たようなものを検索している。
同じ見た目なのにこういった細かいところで違いを感じられる……がダイモンと野々芽からすれば買い出しだけでヘトヘトだったのでソファで横になるがまだ買い出しは終わらない。
「こんなところでへばってちゃ困るよ!次は2人の1年分の着替えと……」
「いやいいってそこまで!日用品とかはおれんちあるし!」
『もしかしてうちらずっとここで過ごすこと前提で話してはる?』
「え?だから寝室とか風呂場まで新しく作ったんだけ……あれっいない」
気が付けばたくっちスノーとミリィだけが残された状況に、仕方ないのでこのまま弁当の在庫確認を行うことにした。
一方、ご丁寧に屋根裏部屋まで作ってあり、話している間にダイモンと野々芽……あとついでにツナカユリコまで揃っていた。
まるで事故物件だがそこらの幽霊がうろつかれるより怖いはずなのにそこまで気にならないのは慣れによるものだろうか。
「なんつーか……なんか違うんだよな、空気感というかノリというか」
『弁当買うって言うさかい同行したけど1年分は買うなんて思わへんかったわ』
「えーと……私の方から確認しておくけど、貴方達ってあの掃除屋から紹介してもらったはずよね」
『炭はんから暇人の話に付き合うだけでええ高額バイトって紹介されたんやけど』
「うん、掃除屋が悪意込めてただけみたいね」
「いや俺っちとしてはオカルト専門チャンネルしてたし興味はあったんだよ?あったんだけどさぁ……なんかズレてるっつーかさぁ」
『要求されてるものにうちらは面倒見きれるか怪しい感じがすんねん』
「ここはもう一般人と化け物の差ね……私も正直な所監視しても無駄な気がしてきたのよね……でも逆に考えてみて?貴方たち人間は暇潰しに付き合うだけで監理局の厚遇を何のリスクもなしに得られるということでもあるのよ」
「そもそもその監理局ってのが分からないんだっての、正体隠さないといけなかったのに構ってほしいみたいなのなんだろ?例のアレが言うに」
『元々うちらはアレをなんか偉い人とは思てへんさかい』
「……まあ、あの二人にはこれくらいの距離感がちょうどいいのかもしれないわ、それよりもアレなの、私は早く人間のリアルな弁当を食べてみたいのよ」
「食い意地張ってる都市伝説とか初めて見た……いや、人間食べる都市伝説ならそんなやつもいるか?」
◇
買ったばかりの唐揚げ弁当をもきゅもきゅと頬張るツナカユリコ、これが電子生命体並びにバーチャル映像とは信じ難いが現実に起きていることである、ダイモンからすればこれまで見た何よりも不思議な光景である。
「最近のゲームはクオリティが高くて料理もリアルだけど、名前を好きに書き込めるタイプじゃないから私は入れないのよね……私が自由に動けるのはキャラメイク出来る作品だけだから」
『電子生命体味やら分かるん?』
「結構分かるわよ、
時空新時代になる前から長生きしてるし今のそこら辺の進化したAIよりは賢いつもりだから……貴方達は食べないの?」
『うちらサイキックヒューマンは基本的に天ぷらしか食べへんの、その代わり衣があったら超能力ですぐに作れるさかい問題あらへんけど』
「天ぷらしか食べない超能力者ってこれまたキャラ濃いな……あー俺っちはさ、あんま言えないことなんだが偏食系なんだよね、わりと……それにさぁほら、今日の俺っちの弁当見てよ」
ダイモンはゴミ箱からシールと封を見せると、そこにはある世界の有名な野球選手とタイアップした弁当るしいことを伝える、勝つ為にカツ丼で守備が上手いのでグローブに見立てた形で乗っかっている。
あの野々芽が言っていたアスリート弁当そのものだ。
『うちも振り返ってみたらこの都市伝説伝えるべきやなかった思てんで、野球選手やらが不調になっても興味あらへん人からしたらやさかいどないしたってネタに過ぎひん』
「ああそうか、他のアレコレみたいに特別聞いた側に害がある可能性が少ないもんな」
「私としてもあの
ルームナンバー666の件と違って弁当はただの商品の枠から離れないし……メイドウィンの仕業でもないのね」
「というか神様の仕業だとしたら逆に幻滅するでしょ、アスリートを陥れる理由が見えてこないし考えるほどみみっちいし」
『真実になりそうな内容がしょうものうて億劫になってくる気持ちがなんとのう分かってきた気ぃするわ』
「今度からは私の方から良さそうな都市伝説でも選別するわね」
「あざーっす、でもそろそろ弁当食ったしいい加減あおつらのところ戻るか〜」
弁当を片付けてダイモン達はたくっちスノー達の元へ戻る。
しばらく相手してなかったから寂しいだろうと思っていると案の定冷や汗をかいていた二人。
おそるおそるツナカユリコの方へと近づいてミリィが話しかけてくる。
「たくっちスノーが鈍感すぎて全然気づいてなかったんだけどさ、今説明してきたんだけどさ……もしかしなくても俺達と君達の間に溝があるよね!?俺とたくっちスノー、君達3人って別の括りみたいになってるよね!?」
「まあ素直に言えばそういうことになるけど……」
「余計に寂しい気分になるだけじゃん!!」
「ていうか掃除屋は彼らに適当に相槌打つだけの高額バイトって教えられてたわ」
「さすがにそこまで悪意のある説明じゃなかったっしょ」
最終更新:2025年06月12日 06:54