ネクロマン

「おい出てこいや雌堕ちドッペルゲンガー」

「よくもまあそんな最低レベルの罵倒を思いつくものだなお前は……」

 たくっちスノーはユリコから真相を聞いて即座に炭にクレームを入れた、ダイモンと野々芽の空気感が違うと思ったら自分のご機嫌取り任されてたとわかればこうもなろう、炭は掃除屋の仕事をしている途中らしく何かを破壊するような音ばかり響いて声が全然聞こえない。
 なのでたくっちスノーもバカでかい声を出して応戦すると電話越しにドクロ丸がぶっ刺さる。

「じゃあ真面目に返すけど今回のお前たちは仕事じゃなくて暇潰しなのに真面目な人員貸すわけないだろう、やってることで言えば部下のクソみたいな管理局のやつらと同じだぞ」

「まいったなぐうの音も出ない正論が飛んできた」

「この組織そのものを全否定することだけはやめてくれ炭さん」

「なら、俺の方から良さそうなネタを用意するからそれで良しとしろ、お前らどうせマトモに解決できてないんだろ」

「……なんでそんなこといい切れるわけ?」

「俺だから、話もろくに進まないんだろ」

『FILE12 亡装遺体ネクロマン』

『なんやっけそれ、聞いたことある気ぃするな』

「大昔に放送された特撮番組だよ、といっても人気は殆どなかったみたいだが……」

 亡装遺体ネクロマンとは、ある世界において1980年代頃に放送されていた特撮テレビ番組。スプラッターホラーや都市伝説が全盛期のの当時に不振であった特撮界に生み出された“血塗られた子供向け本格スプラッター特撮”、だがリアルすぎて結構怖かったらしい。
 だが現代においては見ていた視聴者も少なく、様々なトラブルによって資料やグッズなども殆ど残っていないとかなんとか。
 だが、最近ネクロマンのスーツがひとりでに動かして妙な動きをしている……そんな都市伝説があるらしい。
 一説では特撮の真似をしているとか。

「ん?でもネクロマン(特撮)とは別でネクロマン(世界)があるんだよな、時空的には」

「そうだけどこの都市伝説だと前者寄りだな、ウチじゃ珍しい」

 たくっちスノーも時々考えることがある、時空的に見れば他世界は誰でもアニメやゲームといった創作によって視認することは出来る、ツナカユリコもそういった本来の世界とは離れた独特の空間で長く過ごして生まれた存在である。
 自分達の光景や活躍はアニメ越しだとどんな風に反映されているのだろうか?どこで見れるのだろうか?
 監理局は存在が秘匿されているので修正が入るのかもしれないが……。

「そういやこの時空新時代でアニメとか売れるんか」

「売れてるみたいよ、ガイドブック代わりになったり人気のシーンを聖地巡礼する人も珍しくないってネットに書いてあるわ」

「それで迷惑してるメイドウィンも結構いるんだよね……なんだっけほら、あの人魚が出てくる作品なんだったっけミリィ」

「波打ち際のむろみさん」

「ああそれそれ、環境が荒れるからあまり別世界の奴らが来るなとか愚痴ってたっけ」

 たくっちスノーは資料をまとめながら弁当の秋刀魚目白押しを丸呑みしてネクロマンについて考える、特撮番組の方が由来なら原理は単純、紛失せず残されていた貴重なスーツに幽霊的なものが取り憑いて活動しているのだろう。
 シンプルな内容だが、たくっちスノーが悩ませる理由は別のところにあった。
 都市伝説自体は楽に済みそうなのだが元となった世界に問題があるのだ。

「この世界、『ノッカーズ』っていう能力者がいるんだよ……ノッカーズに関して話すとオルタネイション・バーストとか西暦とか語って長くなるんだけど」

「まあ要するに、能力者がウジャウジャいるんだって」

「なるほど、そんな中じゃ特撮ヒーローが現実に出て動き回っても能力者扱いされるってわけね」

『そやけどそれのどこにめんどい要素があるん?結構いつも通りや思うけど』

「……この案件のめんどくさいところは主に3つ!1つは単純に黒影がこの世界並びにノッカーズが大嫌い!!」

 分身の記録によると、黒影が何か大きな仕事をしてきた際にノッカーズと軋轢を生むようなことがあったらしく、それ以降ノッカーズ並びに関係する世界を目の敵にしている、まあその件で恨んでいるのは他にもネイティブアルターやスタンド使いもなので限ったことではないのだが……。

「2つ目!時空の情報は通用しないからあくまで手探りで作業しなくてはならない……が、そこは大した問題ではない!そこよりも3つ目だ3つ目!オルタネイション・バーストが起きた世界……そのメイドウィンは何人という兄弟なんだよ!」

「は?兄弟?どういうこと?」

 メタ的に言うと『ネクロマン』という作品は数々のヒーローがクロスオーバーして共演する同じ世界線を描いたシリーズ『ヒーロークロスライン』に準ずるものであり、何故こうなったのか時空だとクロスライン兄妹という大家族が一斉にメイドウィンになった結果『ジエンド』『ギャラクティックマンション』『ウサ探』『VOID』などの数々のヒーロー作品の世界がバラバラに分離されてしまったのだ。
 問題は世界観が統一されていること、年代は違えど同じということはその全ての世界で『亡装遺体ネクロマン』が放送されていたということである。

「つまり……ネクロマン特撮版を追うとなると」

「下手したらその全ての世界を総当たりってわけだ……」

『そやけど調べてみたらネクロマン主役の本もあるし、その世界にだけ絞って探したらええんとちがう?』

「そんな単純に解決するような真相をわざわざ炭の奴が連絡よこしてくると思うか?……自分だって前もってちゃんと調べてみたんだよ、その結果がコレだ!」

 たくっちスノーは左腕をフォトプリンターに変化させて写真を大量に印刷する、そこには同じ時間別の世界でネクロマンが活動している瞬間が全て映されているが……。

「コレ全部別の世界ね」

「な……た、確かにこれは怪異っしょ、ネクロマンの事例的にスーツが勝手に動き出す事例が多発とか」

『それも、えらいグッズ希少やら言うとったな』


 お話としての『亡装遺体ネクロマン』は特撮マニアの主人公は偶然ネクロマンスーツを持っていたが、そのスーツは亡霊ダイモンがスーツに乗り移っていた。
 亡霊は正義のヒーローになりたいという願いを持ち、彼の願いを叶えるため主人公はネクロマンスーツを着て悪のノッカーズと戦いヒーロー活動を行う……というもの、都市伝説としてはその際の活動が周囲に認知された形なのだろうが……問題はそのスーツが動き回る事例が山ほどある、そのうち本物がどれなのかも外部だと分からない。

「しかもコレ、ネクロマン主役以外の世界でも色々いるからややこしいところだな……ジエンドとかもそうだけど」

「なんで兄弟なのにそこら辺帳尻合わせしてないの……私よりメイドウィンのことわけわからないわ……」

「ツナカユリコにも投げ出されるレベルとは……というかそれ本当にマジでやばくない?時空上に同じ奴何体も存在するわけでしょ?たくっちスノー以上にドッペルゲンガーじゃん」

「ダイモン、笑い事じゃないぞ……だってこれヒーロークロスラインに限った話じゃねえし」

「えっ」

「うん、たまにだけどあるよね……メイドウィン業界雑だわぁ」


 改めて都市伝説になってるネクロマンの方を一体どうしたら解明できるのか語り合うChannel、一人一人が時空ヒーローで集団ともなれば解明も説明も困難になってくる。
 というか、ネクロマンの行動自体ご当地ヒーローというかドゲンジャーズもびっくりのヘンテコ具合なので会いに行くにしてもリアクションに困る。
 更に調査しようにも黒影のノッカーズ嫌いがここにきて響く、今の自分達が監理局と無関係といえどオルタネイション・バースト絡みの世界にやすやす行かせてくれるわけがない。

「ああでもね、ノッカーズだから能力を持つってわけじゃないんだよ、悪人ばかりでもないし」

「だからこそめんどいんだよなぁ……炭のやつ、分かっててこの案件押し付けてきたな」

「炭さんってそこまで分かるわけ?」

「分かるよ、アイツは下手したら自分やミリィより詳しいもん……そういえば知ってたっけ?アイツが未来から来た自分って話」

「いや知らない知らない」

『次から次へと時空を遥かに超えるけったいな情報伝えるのやめてもらえる』

「改めてこの二人謎が多いわね」

 たくっちスノーは炭について話をする、個人的に彼女は自分を『たくっちスノーオルタ』と名乗り、炭という名称はたくっちスノーがややこしい為に名付けた便宜上のもの。
 未来から来た彼女は自分が善良な存在にならないと時空が滅んでしまうというので仕方ないからいい奴になろうというのが現在のたくっちスノー、毎度聞いても改心の経緯が狂っているので常人には理解出来ない発想。
 時空滅ぶの嫌だからいいやつになろうってなんだよ。
 それを伝えてきた炭もまた何故か元の時代に帰るとかでもなくそのまま居座り続けて掃除屋をしている。
 こういうのって伝えるだけ伝えて未来に帰るものじゃないのかとミリィも何回思ったことか。

「炭さんの言う未来って崩壊してるから帰れないってこと?それとも一方通行?」

「後者はないだろ、自分だぞ?帰ろうと思えばいくらでも帰れるように発明するはずだ」

「それができないくらい切羽詰まってたってのもあるでしょ?」

「まあそれもあるか……だが黒影もそこが結構引っかかるらしくてな、炭の身元調査を頼まれたこともあった、自分も興味があったから快く引き受けたよ」

 未来の自分を調査するというのも変な話だが、たくっちスノーもかなり興味深い存在だったのでChannelの活動のついでに調べてあのゴーストブラックの時に分かったことを提供していたのだ。

「それで、何がわかった?」

「何か分かったっていうか……天地をひっくり返すと言うか、文字通り前提が覆るんだ、逆なんだよ……もしかして炭は未来からきたんじゃなくて……過去から来たんじゃないか!?ってさ」

「え、ええ……それまたどうして?」

「未来にしては随分と不安定な言い方をしてるし……ていうか炭は何かを隠してる、絶対隠してる、自分達とは別のものを見てきたんじゃないかって」

 彼女の振る舞いはとても一度滅んだ時空を直すためだけじゃない、それ以上に何かを見てる……はたしてそれは崩壊前なのか、だとしたら何故たくっちスノーが善行を為さなければならないのか?
 自分にとっても無関係じゃないだけに真相を突き止めたい、それは時空の真実を暴きたいミリィも同じ気持ちだった。
 そしてこの疑惑が確信に至ったのはあの反映ゲームの件。

「実はあの口論の際にこれまでの都市伝説の話したんだよ、だけど自分はしっかり聞き逃さなかった、反映ゲームの話になった時に……!」

「……え?反映ゲームそんなことになってるの?そうか、ポチも持ってるんだな」

 反映ゲームそんなことになってるの?それはつまり反映ゲームについて詳しく知ってるどころか、本来とは別の形だったものが存在する。
 つまり時空では謎に包まれている反映ゲームについて心当たりがあるのだ、そして思い出してほしい……反映ゲームははじまりの書より昔から作られていたのでは?という説があることを。

「まさか、本当に炭さんが過去から来てたんじゃ……でも過去から来たならなんでそう言わないんだろう?」

「自分の傾向から考えると炭は本気で未来から来たと思ってる、つまり自分の時間軸が実際は過去に当たるということに知らないんじゃないのか?」

「ああなるほど……炭さん自身も気づいてないと」

「ちょい待ち、2人だけの世界入って俺っち達入れこめやくなっちゃってるから」

『話のスケール一気に変化しすぎてジェットコースターみたいに頭クラクラしてくる』

「貴方、もしかしなくてもハメられたんじゃない?」

「え?」

「貴方じゃなくてこっちの二人」

「え?俺っち達?」

 ユリコは冷静に推測する、何故炭がこのタイミングでネクロマンの話をしたのか?都市伝説として軽いスケールの話をすることで自然な流れで炭の話を誘導して……この流れに到達させたのではないか?

「その炭という人物が最初は未来から過去と思って実際はその逆だとして……それも貴方なんでしょう?気付かないはずがないわ」

「まあ気付かないままってのは確かにありえないか……ユリコさんは何を思いついたわけ?」

「貴方に真相を暴いて欲しかった……炭はまだあなたのことを信用してなかった、こんなところかしらね」

「うんまあ、びっくりするくらい正解だな」

「うわっ突然電話が!?」

 電子生命体の前では家電のセキュリティなど無力、電話番号もかけずに強制的に電話を繋げられる。
 これを普通のテレフォンでやってるのだからチートすぎるのが彼女であり、ツナカユリコなら仕方ないと炭もなんのツッコミも入れずに話を続ける。

「……お前らがこのまま正直にネクロマンの都市伝説追いかけたらどうしようかとまで思っていたよ」

「こういうときに罠仕込むの時空犯罪者の時によくやったしな……そもそもノッカーズ犯罪を都市伝説扱いしてる時点で本気じゃねえな?と思ったよ」

「結局俺はどこまでいってもたくっちスノーか……そこまでなら観念してだ、先に言っておくとChannelはだいぶまずいことをしているぞ」

「そんな事言われても別の結論教えてよ、今時AIも都合のいい答えになるまでリセマラする時代だよ」

「そうか……実を言えば、俺はまあ実際、破滅した未来以外にも別のルートを知っている……というよりはな、はっきり言ってしまうと、実感はない、感覚だけ残っている感じなんだが……こうしてたくっちスノーに助言して未来からやってくるのは2回目だ」

「うーん……まぁ、納得した答えだ、多分だけど炭さん、貴方は未来から来たたくっちスノーじゃなくて……そういう風に記憶だけ残ったオブリビオンなんだよ」

「オブリビオン……?俺が?例の猟兵とかいう奴らが相手している、あのオブリビオンか……」

 オブリビオンもまた世間的には都市伝説上の存在、遠い歴史からこぼれ落ちた存在。
 一応監理局がしょっちゅう相手しているが一般市民の記憶に留まることはない、世界によっては特別なステージで戦うこともあるし……。
 ダイモンと野々芽はついていけるようにユリコから定期的にカンペを貰っている。
 しかし炭がオブリビオンだとすると問題が多い、たくっちスノーとして同じ歴史を歩んで1回確認してきたことになる。

「お前本当はどこまで知ってるのか教えろ」

「……今のお前達が知っても問題ないラインしか語れない、少し長くなるから監理局が安定してから俺のところに来い、1つ言えるのはシュバルツ・バルドが時空新時代を巻き起こすのはずっと後だったはずだ」

 つまり、もう既に炭が予測して一度確認していたはずの未来ではなくなっている、予定より早く時空を誰でも早く超えることが出来るようになったことが大きな想定外を生む。

「そもそもの話だミリィ、お前がこんな早い段階から過去の俺に出会ってる時点で変化している……ポチだったか、あいつもそうだが名前も変わってるしな」

「えっ、そうなのか!?」

「……一応聞いときたいんだが、俺っちたちのことは?」

「全然知らん、まあ時空は広いからこういうこともあるだろう」

「ポチは昔からああだったの?」

「いや、後から酷くなったタイプだな……最初から黒影もどきって言われてたわけでもないし」

 聞けば聞くほど衝撃の事実が出てきて尺的にもキリがない、話す暇がなくなるし電話代も馬鹿にならない。

「ああ……そろそろツナカユリコに切るように言え、そして最後に一言、この続きは時空監理局の話が一段落してからだ、それ以上は進めない……以上!」

 言うだけ言って電話を切る、ユリコは一応たくっちスノーの方を見てもう1回かけ直すのか目を見るが、問題ないと返す。

「しかしまぁ、趣味半分で都市伝説を追ってるつもりがとんでもない物を知ってしまったな」

◇このChannelどうする?

「多分これSEASON2的な感じで一旦止まれって言ってるんだよな……他の分身たちの騒ぎが落ち着いたら改めて姿を現せってことだな」

「え?じゃあ俺達どうすればいいの?」

「別に大人しくしろってわけでもないでしょ、ほとぼりが冷めたら合流して元の体に戻り、炭に全部問いただす」

 これまでの騒動を考えると嫌な予感もしてくる、何せ時空監理局の政策強化の上で段階を踏んで起きてきた事件が同時多発的に起こっているようにしか感じられない、分身だって本当は前代未聞の行いではある。
 その件に関して炭が野々芽とダイモンを巻き込んだことも気になる、都市伝説調査では役に立っているがいくらなんでも巻き込むにはスケールが違いすぎる。

「あっ、どうせなら炭に時空監理局がどうなってるのか聞いておけば良かった」

「聞くまでもないだろ……分身から共有されてる時点の情報でも嫌な予感してるし……これマジで合流できる頃には潰れてるんじゃねえのか?」

『そやけどそれまでの間Channelはどないすんの?』

「あっ、それだったら俺っちにいいアイデアがあるんよ!今なら好きに時空も超えられるし、きさらぎ駅旅行ツアーとかやってみるのどうよ?」

「い、いや確かに帰れる可能性はあるけど……大丈夫なのかそれ?」

「でも俺やってみたいかも!ユリコさんも準備するよ!」

 一方その頃。

「……とりあえずある程度はたくっちスノー達に伝えられたが、正直なあの分身に伝えるべきではなかったのかもしれない」

【都市伝説調査チーム『Channel』】
 『後半は時空監理局の事業が一通り片付いてから。』
最終更新:2025年06月12日 06:54