「あの、待ちました?」
答える代わりに空になったグラスを振ってやる。ああ待ったさ。人を待つってのは新鮮ではあったがな。
向かい側の席に腰を下ろすツインテールの女子高生、朝比奈さん誘拐事件の実行犯である橘京子はその顔に申し訳なさそうな笑みを浮かべて、
「あたしから誘ったのにすいませんです。あ、アイスコーヒー一つ」
ウェイトレスを呼んで注文を済ませた彼女が俺に向き直った。朝比奈さん誘拐犯という先入観さえなければ普通の高校生同士、という扱いも出来たんだろうが……。
ともかく本題だ。佐々木のことで話だって?
「ええ。だけど…… 少しここでは話しにくいことなのです。手を貸してもらえますか?」
またか。つーか閉鎖空間に行くならわざわざ喫茶店に呼び出す必要は無いだろう。しかも向こうに行ってる間俺の意識は無いんだ。何かあったらどう
「って、おい! 勝手に……」
「大丈夫。目を閉じて」
橘京子に強引に手を取られ、仕方なしに目を瞑る――
答える代わりに空になったグラスを振ってやる。ああ待ったさ。人を待つってのは新鮮ではあったがな。
向かい側の席に腰を下ろすツインテールの女子高生、朝比奈さん誘拐事件の実行犯である橘京子はその顔に申し訳なさそうな笑みを浮かべて、
「あたしから誘ったのにすいませんです。あ、アイスコーヒー一つ」
ウェイトレスを呼んで注文を済ませた彼女が俺に向き直った。朝比奈さん誘拐犯という先入観さえなければ普通の高校生同士、という扱いも出来たんだろうが……。
ともかく本題だ。佐々木のことで話だって?
「ええ。だけど…… 少しここでは話しにくいことなのです。手を貸してもらえますか?」
またか。つーか閉鎖空間に行くならわざわざ喫茶店に呼び出す必要は無いだろう。しかも向こうに行ってる間俺の意識は無いんだ。何かあったらどう
「って、おい! 勝手に……」
「大丈夫。目を閉じて」
橘京子に強引に手を取られ、仕方なしに目を瞑る――
「もう開けていいわ」
目を開いた時、既に世界は変わっていた。雑音一つ無いセピア調に彩られた世界。
ここにいるのは俺と橘京子だけ、確かに他の奴に聞かれる心配は無いな。
「それにこっちの方が落ち着くし、時間の流れも向こうよりゆっくりだから」
「そうか。そいつはよかったな。じゃぁ聞かせてもらおう、佐々木のことで話ってのはなんだ?」
正直ここに長居はしたくない。ハルヒの閉鎖空間よりはマシだがそれでも特異な空間ってことには変わりないからな。
だが俺の問いに橘京子は答えず、少し黙り込んでから、
「……少し、歩きましょう」
すっくと立ち上がった。俺の質問は無視か。無視なのか。
俺にだって時間が無限にあるわけじゃない。ついでに現実世界の俺の体のことだって心配だ。どうして一日二十四時間以上活動しなきゃならん。
「閉鎖空間の案内なら間に合ってる。さっさと本題に移れ」
立ち上がった橘は少し悲しそうな顔をすると、渋々、といった感じで再び席に腰を下ろす。なんで超能力者にはこうも話の通じない奴が多いんだろうね。古泉は余計なことまで言い出すがこいつは何も言わないのか。困った奴だ。
だが橘京子は席に着いても中々話し出そうとはせず、「佐々木さんが……」「森さん怖……」「みんな協力してくれない……」とかぼやき始め、終いには、
「ほ、本当は話なんてないの! ただ、えーっと、その、キョ、キョンさんとお話できたらいいな、じゃなくて! 佐々木さんが『キョンは鈍いから印象に残るようなことをしてあげないと人の好意に気付かない』とか言うから…… その……」
その姿があまりにも健気で、このまま放っておくと空回りして自爆してしまいそうだったので、俺は仕方なく閉鎖空間で彼女と何時間か話した後、現実世界に戻った。
目を開いた時、既に世界は変わっていた。雑音一つ無いセピア調に彩られた世界。
ここにいるのは俺と橘京子だけ、確かに他の奴に聞かれる心配は無いな。
「それにこっちの方が落ち着くし、時間の流れも向こうよりゆっくりだから」
「そうか。そいつはよかったな。じゃぁ聞かせてもらおう、佐々木のことで話ってのはなんだ?」
正直ここに長居はしたくない。ハルヒの閉鎖空間よりはマシだがそれでも特異な空間ってことには変わりないからな。
だが俺の問いに橘京子は答えず、少し黙り込んでから、
「……少し、歩きましょう」
すっくと立ち上がった。俺の質問は無視か。無視なのか。
俺にだって時間が無限にあるわけじゃない。ついでに現実世界の俺の体のことだって心配だ。どうして一日二十四時間以上活動しなきゃならん。
「閉鎖空間の案内なら間に合ってる。さっさと本題に移れ」
立ち上がった橘は少し悲しそうな顔をすると、渋々、といった感じで再び席に腰を下ろす。なんで超能力者にはこうも話の通じない奴が多いんだろうね。古泉は余計なことまで言い出すがこいつは何も言わないのか。困った奴だ。
だが橘京子は席に着いても中々話し出そうとはせず、「佐々木さんが……」「森さん怖……」「みんな協力してくれない……」とかぼやき始め、終いには、
「ほ、本当は話なんてないの! ただ、えーっと、その、キョ、キョンさんとお話できたらいいな、じゃなくて! 佐々木さんが『キョンは鈍いから印象に残るようなことをしてあげないと人の好意に気付かない』とか言うから…… その……」
その姿があまりにも健気で、このまま放っておくと空回りして自爆してしまいそうだったので、俺は仕方なく閉鎖空間で彼女と何時間か話した後、現実世界に戻った。
翌日。
「なぁキョン! お前もとうとうナンパの道に目覚めたのか!」
「何の話だ谷口。俺はお前のような誰彼構わずナンパして振られるような性癖は持ち合わせていないぞ」
谷口が朝っぱらから猛烈な勢いで絡んでくる。やめろ暑苦しい。野郎に集られてたまるか。
つーか、俺がいつ、どこでナンパなんてしたんだ。お前が期待しているようなことは何も無い。
「嘘つけ。俺は見たぞ! 昨日キョンが俺の知らない女と喫茶店で――」
「ちょっと待て。お前の知らない女と俺が一緒にいるだけでナンパだって言うのか。それはいささか短絡的過ぎないか」
少し俺も虚を突かれて動揺していたんだろう。その時はまだ気付いていなかった。
――気付いてさえいれば谷口の口を世間には言えないような手段ででも塞いでいたのに。
「ねぇキョン、その話、あたしも興味あるんだけど」
ああそうさ、俺の後ろの席、SOS団団長涼宮ハルヒ。こいつが俺の後ろの席だということをすっかり忘れていた。
「あれは確実にただの友達って雰囲気じゃなかったな。二人で「わあああああ! なんでもない!! そんなことは無いぞハルヒ!!」
今の瞬間に机で殴ってでも谷口の口を塞いでおくべきだった。ハルヒは俺の後ろという地の利を最大限生かして俺を羽交い絞めにすると、
「さぁ谷口。続きを言いなさい」
後ろで鼻息荒く俺を締め上げるハルヒとまるで自慢するかのように言葉を発する谷口。全身の血が消え失せたような気がした。
「――二人で手を繋いで実に十分以上! ウェイトレスがコーヒー置いても無反応で二人の世界に入ってやがったんだ!」
「なぁキョン! お前もとうとうナンパの道に目覚めたのか!」
「何の話だ谷口。俺はお前のような誰彼構わずナンパして振られるような性癖は持ち合わせていないぞ」
谷口が朝っぱらから猛烈な勢いで絡んでくる。やめろ暑苦しい。野郎に集られてたまるか。
つーか、俺がいつ、どこでナンパなんてしたんだ。お前が期待しているようなことは何も無い。
「嘘つけ。俺は見たぞ! 昨日キョンが俺の知らない女と喫茶店で――」
「ちょっと待て。お前の知らない女と俺が一緒にいるだけでナンパだって言うのか。それはいささか短絡的過ぎないか」
少し俺も虚を突かれて動揺していたんだろう。その時はまだ気付いていなかった。
――気付いてさえいれば谷口の口を世間には言えないような手段ででも塞いでいたのに。
「ねぇキョン、その話、あたしも興味あるんだけど」
ああそうさ、俺の後ろの席、SOS団団長涼宮ハルヒ。こいつが俺の後ろの席だということをすっかり忘れていた。
「あれは確実にただの友達って雰囲気じゃなかったな。二人で「わあああああ! なんでもない!! そんなことは無いぞハルヒ!!」
今の瞬間に机で殴ってでも谷口の口を塞いでおくべきだった。ハルヒは俺の後ろという地の利を最大限生かして俺を羽交い絞めにすると、
「さぁ谷口。続きを言いなさい」
後ろで鼻息荒く俺を締め上げるハルヒとまるで自慢するかのように言葉を発する谷口。全身の血が消え失せたような気がした。
「――二人で手を繋いで実に十分以上! ウェイトレスがコーヒー置いても無反応で二人の世界に入ってやがったんだ!」
俺は脳が酸欠になるのを感じつつ、どうやったら谷口の顎を粉砕できるか考えていた。