「ごめんなさい……だけどあなたには死んでもらわないといけないのです」
……いや、待て。この状況は何だ? 何で俺が橘に銃を突きつけられなければならんのだ。
たしか、今日はいつものように「今度こそキョンくんを説得するんです!!」と言われて、
橘に引っ張られるままデパートやら喫茶店を巡って、
で、なんでこんなことになっているんだ。
「今朝、上の方から連絡がきたんです。キョンくんを殺すようにって。
だから、最後ぐらい。キョンくんと楽しく遊ぶ思い出が欲しくて……」
橘はその大きな目に涙をいっぱいため、それでも銃口は俺を狙っている。
「冗談はやめろ。マジ危ないって! それが本物じゃなくてもビビるって。だから、よせ!」
殺されかけるのも何度目って時なのに、一回目と同じセリフしか思いつかない俺自身に呆れるね。
「冗談だったら、どんなによかっただろうにね……」
ここは路地裏の行き止まりの細い一本道。出口は橘の後ろにしかない。
要するに、完全に袋のネズミ状態だ。
考えろ、この状況をどうやれば切り抜けられるか。
長門みたいな力もなく、古泉みたいに後ろ盾もなく、朝比奈さんよりかは体力があるが、ハルヒみたいに世界を思い通りにできない。
そんな俺にできることは、意表をついて飛び掛ることだけだ。
足元にある空き缶。これでいけるか!!
「きゃっ!!」
蹴っ飛ばした空き缶が橘にあたり、銃口の狙いがそれる。
体当たりで後ろへ抜けるか? いや、背中を狙われたら一貫の終わりだ。
銃口がそれた隙を突いて俺は橘に飛び掛る。
「くぅぅっ、ダメです……キョンくん……」
橘の手から銃をもぎ取ろうとするも、思いのほか橘の握力は強かった。
そのまま俺と橘はもつれ合い……
「あ……」
橘の手から拳銃がこぼれおちた。
……いや、待て。この状況は何だ? 何で俺が橘に銃を突きつけられなければならんのだ。
たしか、今日はいつものように「今度こそキョンくんを説得するんです!!」と言われて、
橘に引っ張られるままデパートやら喫茶店を巡って、
で、なんでこんなことになっているんだ。
「今朝、上の方から連絡がきたんです。キョンくんを殺すようにって。
だから、最後ぐらい。キョンくんと楽しく遊ぶ思い出が欲しくて……」
橘はその大きな目に涙をいっぱいため、それでも銃口は俺を狙っている。
「冗談はやめろ。マジ危ないって! それが本物じゃなくてもビビるって。だから、よせ!」
殺されかけるのも何度目って時なのに、一回目と同じセリフしか思いつかない俺自身に呆れるね。
「冗談だったら、どんなによかっただろうにね……」
ここは路地裏の行き止まりの細い一本道。出口は橘の後ろにしかない。
要するに、完全に袋のネズミ状態だ。
考えろ、この状況をどうやれば切り抜けられるか。
長門みたいな力もなく、古泉みたいに後ろ盾もなく、朝比奈さんよりかは体力があるが、ハルヒみたいに世界を思い通りにできない。
そんな俺にできることは、意表をついて飛び掛ることだけだ。
足元にある空き缶。これでいけるか!!
「きゃっ!!」
蹴っ飛ばした空き缶が橘にあたり、銃口の狙いがそれる。
体当たりで後ろへ抜けるか? いや、背中を狙われたら一貫の終わりだ。
銃口がそれた隙を突いて俺は橘に飛び掛る。
「くぅぅっ、ダメです……キョンくん……」
橘の手から銃をもぎ取ろうとするも、思いのほか橘の握力は強かった。
そのまま俺と橘はもつれ合い……
「あ……」
橘の手から拳銃がこぼれおちた。
爆竹を何倍もにしたような音が鼓膜に響く。
ビルに囲まれた閉鎖空間だったためか、銃声はもともとこんなに大きい音なのか。
瞑った眼を恐る恐る開け、体を確かめる。傷は……ない。
ほっ、と小さな息を吐き、そうだ、橘を取り押さえなきゃと思い出し、
そこで、初めて足元の赤い水溜りに気づいた。
「あ……」
うずくまる、小さなツインテールの頭。
両手でお腹を押さえ、小さな唇から荒い息を吐いている。
「えへへ……私って、つくづく役立たずみたいですね」
橘が咳き込み、アスファルトに細かい血の染みが広がる。
ふらっと傾いた橘の体を慌てて抱き起こす。
ねっとりとした、生暖かい感触。
「キョンくんってば、お人好し過ぎますよ。さっきまで自分を殺そうとしていた人を、どうして助けるんですか?」
「そんな事言っている場合じゃないだろ。早く救急車を……」
ポケットから出した携帯電話は血でべっとりだった。
くそっ、水気を吸い込んだかディスプレイが落ちてやがる!!
「でも、夢みたいだなぁ……こうやってキョンくんに抱っこされてるって」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ。早く、早くしないと……」
橘が俺の胸に顔をうずめる。
かすれた、小さな声で、呟いた。
「ごめんね、私、ずっと……」
ビルに囲まれた閉鎖空間だったためか、銃声はもともとこんなに大きい音なのか。
瞑った眼を恐る恐る開け、体を確かめる。傷は……ない。
ほっ、と小さな息を吐き、そうだ、橘を取り押さえなきゃと思い出し、
そこで、初めて足元の赤い水溜りに気づいた。
「あ……」
うずくまる、小さなツインテールの頭。
両手でお腹を押さえ、小さな唇から荒い息を吐いている。
「えへへ……私って、つくづく役立たずみたいですね」
橘が咳き込み、アスファルトに細かい血の染みが広がる。
ふらっと傾いた橘の体を慌てて抱き起こす。
ねっとりとした、生暖かい感触。
「キョンくんってば、お人好し過ぎますよ。さっきまで自分を殺そうとしていた人を、どうして助けるんですか?」
「そんな事言っている場合じゃないだろ。早く救急車を……」
ポケットから出した携帯電話は血でべっとりだった。
くそっ、水気を吸い込んだかディスプレイが落ちてやがる!!
「でも、夢みたいだなぁ……こうやってキョンくんに抱っこされてるって」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ。早く、早くしないと……」
橘が俺の胸に顔をうずめる。
かすれた、小さな声で、呟いた。
「ごめんね、私、ずっと……」
*
「まったく、あなたは自分が何をしているか分かっているんですか」
病院の待合室で、古泉が不満げに言う。
ああ、重々承知しているさ。血を流して倒れている女の子を助けて何が悪い。
「問題は、それが我々の仲間でも、無関係の人でもなく、むしろ敵対関係にあるものだということです」
失礼ですが、僕の属する組織と彼女が属する組織の関係をお忘れではないでしょうか?
しかも、よりによって、真っ先に僕に連絡してくるとは……」
そういうお前だって、俺の連絡を受けてすぐに車を回してくれたじゃないか。
ここの病院だってお前が手配してくれたんだろ?
「まあ、僕も……あなたほどではないとはいえ、SOS団に入ってからずいぶんとお人よしになったということでしょうか」
古泉は自嘲的に笑った後、すっとまじめな顔になる。
「とはいえ、彼女の容態は予断を許さない状況です。ここの病院でも腕のいい方が執刀に当たっているはずですが……」
赤く灯る手術中のランプを見上げる。
ドラマでは何度も見た光景だが、実際見るのはこれが初めてだ。
「キョン!! 大丈夫なの!!」
騒がしい声とともに後ろのドアがはじけるように開く。
ハルヒは俺を見て、倒れてしまいそうなぐらい青ざめている。
そういえば、血まみれの服のまま着替えるのを忘れていた。
「大丈夫です。彼は怪我一つしてませんよ」
「そう……よかった……」
ちょっと待て、何がよかったんだ!!
橘は、今も向こうで……
そう言おうとした俺を察してか、ハルヒと一緒に入ってきた佐々木が手の平を俺に向け、制止する。
「分かってる。涼宮さんも橘さんを心配している。ただ、ここに来る途中彼女は君が無事かどうかが気が気じゃなかったんだ」
一瞬湧き上がった激昂が、しわしわとしぼんでいく。
すまんな、ハルヒ。心配してくれたんだな。
「べ、別に。アンタの心配なんかしてないわよ。それよりどういうこと!! アンタ、女の子一人も守れなかったわけ!!」
古泉のアイ・コンタクト。うるさい、じろじろ見るな気持ち悪い、分かってる。
出かけている最中に銀行強盗と出くわし、とっさに通報しようとした橘が撃たれたことにしたんだろ?
「ああ、分かってる。俺は……」
分かってる? 何を?
あの時はああするしかなかった? いつでも撃てる状態の銃を取り落としたら、暴発することぐらい分かることじゃないのか?
もっと上手く、あの場を切り抜けられる方法があったんじゃないのか?
俺は……
病院の待合室で、古泉が不満げに言う。
ああ、重々承知しているさ。血を流して倒れている女の子を助けて何が悪い。
「問題は、それが我々の仲間でも、無関係の人でもなく、むしろ敵対関係にあるものだということです」
失礼ですが、僕の属する組織と彼女が属する組織の関係をお忘れではないでしょうか?
しかも、よりによって、真っ先に僕に連絡してくるとは……」
そういうお前だって、俺の連絡を受けてすぐに車を回してくれたじゃないか。
ここの病院だってお前が手配してくれたんだろ?
「まあ、僕も……あなたほどではないとはいえ、SOS団に入ってからずいぶんとお人よしになったということでしょうか」
古泉は自嘲的に笑った後、すっとまじめな顔になる。
「とはいえ、彼女の容態は予断を許さない状況です。ここの病院でも腕のいい方が執刀に当たっているはずですが……」
赤く灯る手術中のランプを見上げる。
ドラマでは何度も見た光景だが、実際見るのはこれが初めてだ。
「キョン!! 大丈夫なの!!」
騒がしい声とともに後ろのドアがはじけるように開く。
ハルヒは俺を見て、倒れてしまいそうなぐらい青ざめている。
そういえば、血まみれの服のまま着替えるのを忘れていた。
「大丈夫です。彼は怪我一つしてませんよ」
「そう……よかった……」
ちょっと待て、何がよかったんだ!!
橘は、今も向こうで……
そう言おうとした俺を察してか、ハルヒと一緒に入ってきた佐々木が手の平を俺に向け、制止する。
「分かってる。涼宮さんも橘さんを心配している。ただ、ここに来る途中彼女は君が無事かどうかが気が気じゃなかったんだ」
一瞬湧き上がった激昂が、しわしわとしぼんでいく。
すまんな、ハルヒ。心配してくれたんだな。
「べ、別に。アンタの心配なんかしてないわよ。それよりどういうこと!! アンタ、女の子一人も守れなかったわけ!!」
古泉のアイ・コンタクト。うるさい、じろじろ見るな気持ち悪い、分かってる。
出かけている最中に銀行強盗と出くわし、とっさに通報しようとした橘が撃たれたことにしたんだろ?
「ああ、分かってる。俺は……」
分かってる? 何を?
あの時はああするしかなかった? いつでも撃てる状態の銃を取り落としたら、暴発することぐらい分かることじゃないのか?
もっと上手く、あの場を切り抜けられる方法があったんじゃないのか?
俺は……
ポンと、肩に置かれた冷たい手。
「大丈夫。あの場はどうすることもできなかった。あなたに落ち度はない」
ありがとう、長門。お前にそう言ってもらえると多少は落ち着くぜ。
気がつけば手術室の前はSOS団、裏SOS団メンバー揃い踏みだった。
気に食わない藤原はこの場には居なかったが、あいつは居ない方が俺の精神衛生的に楽だろう。
気を利かせてくれたのだか、顔を出したくもないのか。とりあえず感謝はしておくぜ。
完全無表情アンドロイドの九曜も、そのつや消しブラックの瞳で手術中の明かりを見つめている。
「大丈夫なんでしょうか、橘さん……」
不安げな朝比奈さんの声に、
「きっと大丈夫よ、ね、佐々木さん」
「ああ、彼女はきっと帰ってくる」
よかったな、橘。神様二人の保障付きだ。
神様二人の祝福を受けてか、手術中の明かりが消える。
ストレッチャーに乗せられて出てきた橘は、眠っているように瞳を閉じている。
「橘っ!!」
駆け寄ろうとした俺を、医者が押しとどめる。
「できる限りのことはしました。後は彼女しだいです」
医者の言葉が、重く響いた。
「大丈夫。あの場はどうすることもできなかった。あなたに落ち度はない」
ありがとう、長門。お前にそう言ってもらえると多少は落ち着くぜ。
気がつけば手術室の前はSOS団、裏SOS団メンバー揃い踏みだった。
気に食わない藤原はこの場には居なかったが、あいつは居ない方が俺の精神衛生的に楽だろう。
気を利かせてくれたのだか、顔を出したくもないのか。とりあえず感謝はしておくぜ。
完全無表情アンドロイドの九曜も、そのつや消しブラックの瞳で手術中の明かりを見つめている。
「大丈夫なんでしょうか、橘さん……」
不安げな朝比奈さんの声に、
「きっと大丈夫よ、ね、佐々木さん」
「ああ、彼女はきっと帰ってくる」
よかったな、橘。神様二人の保障付きだ。
神様二人の祝福を受けてか、手術中の明かりが消える。
ストレッチャーに乗せられて出てきた橘は、眠っているように瞳を閉じている。
「橘っ!!」
駆け寄ろうとした俺を、医者が押しとどめる。
「できる限りのことはしました。後は彼女しだいです」
医者の言葉が、重く響いた。
ハルヒ達はどうしても残るといっていたのだが、こんな大所帯で病院を占拠しても迷惑だろう。
とりあえず検査するという俺を除いて帰ることとなった。
「いい、京子ちゃんが眼を覚ましたら、真っ先に電話するのよ」
そういい残して帰っていったハルヒの後姿。
「なぁ、橘。お前はうまくまとまらないって嘆いていたけどさ、ちゃんとみんなお前のことを心配してくれていたぜ」
自分の病室をこっそりと抜け出して来た、橘の病室。
橘はまるでおとぎ話の眠り姫のように、月の光を浴びて眠っている。
「佐々木も、あの一見無感情に見える九曜だって、あのいけ好かない藤原はどうかしらないが、あいつだってきっと……
お前が集めた仲間たちだって、なかなかいい奴らばかりじゃないか」
もっとも、こっちのSOS団には勝てないがな、と付け足しておく。
「橘、なんだかんだ言って俺、普通に女の子とデートしたの初めてだったんだぜ。ハルヒは俺を引っ張りまわすだけだしさ、
長門と図書館へ行っても俺は寝ているだけだし、朝比奈さんとの時は妙な未来からの指令に巻き込まれるし。
だから、今日は本当に楽しかった。お礼、言ってなかったな。ありがとうよ」
橘の、ささくれ一つない細く小さな手を撫でる。
きゅっと、人差し指が握られた。
「橘?」
いや、眼を覚ましたんじゃない。
でも、橘の顔がさっきよりどことなく安らかに思えるのは、俺の勘違いだろうか?
「また、どこかへ連れてってくれよな、橘」
とりあえず検査するという俺を除いて帰ることとなった。
「いい、京子ちゃんが眼を覚ましたら、真っ先に電話するのよ」
そういい残して帰っていったハルヒの後姿。
「なぁ、橘。お前はうまくまとまらないって嘆いていたけどさ、ちゃんとみんなお前のことを心配してくれていたぜ」
自分の病室をこっそりと抜け出して来た、橘の病室。
橘はまるでおとぎ話の眠り姫のように、月の光を浴びて眠っている。
「佐々木も、あの一見無感情に見える九曜だって、あのいけ好かない藤原はどうかしらないが、あいつだってきっと……
お前が集めた仲間たちだって、なかなかいい奴らばかりじゃないか」
もっとも、こっちのSOS団には勝てないがな、と付け足しておく。
「橘、なんだかんだ言って俺、普通に女の子とデートしたの初めてだったんだぜ。ハルヒは俺を引っ張りまわすだけだしさ、
長門と図書館へ行っても俺は寝ているだけだし、朝比奈さんとの時は妙な未来からの指令に巻き込まれるし。
だから、今日は本当に楽しかった。お礼、言ってなかったな。ありがとうよ」
橘の、ささくれ一つない細く小さな手を撫でる。
きゅっと、人差し指が握られた。
「橘?」
いや、眼を覚ましたんじゃない。
でも、橘の顔がさっきよりどことなく安らかに思えるのは、俺の勘違いだろうか?
「また、どこかへ連れてってくれよな、橘」
やわらかく、暖かい感触。
何かがやさしく、俺の頭を撫でている。
白い綿のような日差しに、ぼんやりと目を開ける。
「あ、起きちゃいました?」
やさしく俺の頭を撫でている橘。
まだ覚めきってないたまでぼんやりと体を起こした。
橘の病室、あれからどうやら俺は橘の膝にもたれかかって眠ってしまったらしい。
「あ、あの、私、あなたに……」
言いかけた橘の口を、そっと人差し指で押さえる。
「いいか、ハルヒには銀行強盗に襲われた設定にしてあるんだ。だから昨日のはなし、分かったか?」
「え、でも、私……」
言いかけた橘を大丈夫だ、で押し切る。
橘の前で無防備に眠っていた俺。それに対して何もしてこなかった彼女だ。これから先俺を襲うことは、きっとない。
「出かけている最中に銀行強盗に巻き込まれ、通報しようとした橘が撃たれた。いいか、ハルヒを上手くごまかすためだぞ」
「……はい、分かりました。世界を守るためですもんね」
橘が微笑む。そうだ、女の子はそうやって笑ってるときが一番かわいい。
お前みたいなかわいい女の子だったら、大抵の男がコロッと騙されちまうくらいにな。
向こうから騒がしい声が聞こえてくる。病院だから、少しぐらいは気を使うってことを知らないのか、あいつは。
ふと、昨日のワンシーンを思い出す。
「なぁ、橘。昨日、最後に言いかけたアレって」
橘は思い出すように上を見上げ、とたん、ぷしゅーと蒸気を上げそうなぐらい真っ赤になり、
「な、なしです!!なしです!! さっき、昨日のはなしって自分で言ったじゃないですか!!」
そりゃ、なしって言ったが……それとこれとは……
「んん……! もうっ! 涼宮さん達来ちゃいますよ。ほら、演技演技」
コンコンとノックの音、あれだけ騒いでいればノックしなくても来たのが分かるっての。
扉が開く。仲間たちがやってくる。
何かがやさしく、俺の頭を撫でている。
白い綿のような日差しに、ぼんやりと目を開ける。
「あ、起きちゃいました?」
やさしく俺の頭を撫でている橘。
まだ覚めきってないたまでぼんやりと体を起こした。
橘の病室、あれからどうやら俺は橘の膝にもたれかかって眠ってしまったらしい。
「あ、あの、私、あなたに……」
言いかけた橘の口を、そっと人差し指で押さえる。
「いいか、ハルヒには銀行強盗に襲われた設定にしてあるんだ。だから昨日のはなし、分かったか?」
「え、でも、私……」
言いかけた橘を大丈夫だ、で押し切る。
橘の前で無防備に眠っていた俺。それに対して何もしてこなかった彼女だ。これから先俺を襲うことは、きっとない。
「出かけている最中に銀行強盗に巻き込まれ、通報しようとした橘が撃たれた。いいか、ハルヒを上手くごまかすためだぞ」
「……はい、分かりました。世界を守るためですもんね」
橘が微笑む。そうだ、女の子はそうやって笑ってるときが一番かわいい。
お前みたいなかわいい女の子だったら、大抵の男がコロッと騙されちまうくらいにな。
向こうから騒がしい声が聞こえてくる。病院だから、少しぐらいは気を使うってことを知らないのか、あいつは。
ふと、昨日のワンシーンを思い出す。
「なぁ、橘。昨日、最後に言いかけたアレって」
橘は思い出すように上を見上げ、とたん、ぷしゅーと蒸気を上げそうなぐらい真っ赤になり、
「な、なしです!!なしです!! さっき、昨日のはなしって自分で言ったじゃないですか!!」
そりゃ、なしって言ったが……それとこれとは……
「んん……! もうっ! 涼宮さん達来ちゃいますよ。ほら、演技演技」
コンコンとノックの音、あれだけ騒いでいればノックしなくても来たのが分かるっての。
扉が開く。仲間たちがやってくる。