橘京子は折り畳み傘が嫌いである。
まず、小さい。
携帯性を重視した結果、傘としての役割が中途半端だ。
あれは忘れもしない小学生は一年の折、雨の日に折り畳み傘を使って帰ったせいでランドセルが水浸しになり、
気にいっていたうさぎちゃんのノートが皺だらけになったのは苦い思い出である。
つぎに、壊れやすい。
利便性を重視した結果、傘としての耐久性に問題が多々見られる。
あれは忘れもしない中学生は一年の折、雨の日に水たまりを避けようとして滑って転び、
新品の折り畳み傘がオシャカになったのは、ホロ苦い思い出である。
さらに、重い。中途半端に重く、カバンの中にあるのかないのか気付きにくい。
これは忘れもしない、今日の朝。
後で入れようとして机の上に置きっぱなしであることを気づいたのは、後の祭りという奴である。
まず、小さい。
携帯性を重視した結果、傘としての役割が中途半端だ。
あれは忘れもしない小学生は一年の折、雨の日に折り畳み傘を使って帰ったせいでランドセルが水浸しになり、
気にいっていたうさぎちゃんのノートが皺だらけになったのは苦い思い出である。
つぎに、壊れやすい。
利便性を重視した結果、傘としての耐久性に問題が多々見られる。
あれは忘れもしない中学生は一年の折、雨の日に水たまりを避けようとして滑って転び、
新品の折り畳み傘がオシャカになったのは、ホロ苦い思い出である。
さらに、重い。中途半端に重く、カバンの中にあるのかないのか気付きにくい。
これは忘れもしない、今日の朝。
後で入れようとして机の上に置きっぱなしであることを気づいたのは、後の祭りという奴である。
そんな訳で、橘鏡子は、教室に一人、雨粒を見つめている。
ざあざあという不定期な振動。窓ガラスに叩きつけられる雨音。
今現在、橘に残された選択権は二つ。
ひとつ。雨にぬれて帰る。
ふたつ。誰かの傘を借りる。
ちなみに友達諸氏はすでに帰宅済みである。こうなればSOS団のメンバーにでも頼ろうかしらとも思うが、放課後六時を過ぎた現在まで残っているとは考えにくい。
窓の外。橘の席からは、ちょうどSOS団の窓が見える。
引かれたカーテンの壁の奥には、おそらく誰もいまい。
いつもの喧噪も雨音に消されたか、目立った報告もない。レポートにこう書くだけだ。本日異常なし、と。
はぁ、とため息。
台風が近い、とそういえばニュースでやっていた。早めに帰ろうとは思うのだが、雨音の強さについ腰が引けてしまう。
ざぁざぁという雨の音。
折り畳みでもなんでも持ってくればよかったのだ。そうすれば多少濡れてもいつものように帰れたのに。
取り残された教室で、一人。雨の音を聞きながら時計の針を見つめる。
まるで閉鎖空間だ、と唐突に思った。岩に染みいるとは誰の台詞だったか。
教室に染み込む雨音。いつまでもこうしていたいと思うような、どこか心落ち着く空間。
けれど現実は甘くない。
閉鎖空間にはいつだっていける。しかし、ここから家までの物理的距離は、それこそテレポートでもしない限り無理だ。
ざぁざぁという雨の音。
そして、コツコツという廊下を歩く音。
そして、ガラっと教室のドアを開ける音。
「あれ、橘か。まだいたのか?」
首を曲げた。視界の先に、いつもの気だるい顔をした、見知った顔があった。
「キョンさんこそ。どうしたんです、こんな時間に?」
「古泉に付きあわされてな。また、悪だくみさ。で、お前は?」
「……傘を忘れたんです」
不貞腐れたような声に、キョンは苦笑した。
カバンを漁り、何気ない声で、言った。
「なんなら、一緒に入ってくか? 折り畳みだが」
今現在、橘に残された選択権は二つ。
ひとつ。雨にぬれて帰る。
ふたつ。誰かの傘を借りる。
ちなみに友達諸氏はすでに帰宅済みである。こうなればSOS団のメンバーにでも頼ろうかしらとも思うが、放課後六時を過ぎた現在まで残っているとは考えにくい。
窓の外。橘の席からは、ちょうどSOS団の窓が見える。
引かれたカーテンの壁の奥には、おそらく誰もいまい。
いつもの喧噪も雨音に消されたか、目立った報告もない。レポートにこう書くだけだ。本日異常なし、と。
はぁ、とため息。
台風が近い、とそういえばニュースでやっていた。早めに帰ろうとは思うのだが、雨音の強さについ腰が引けてしまう。
ざぁざぁという雨の音。
折り畳みでもなんでも持ってくればよかったのだ。そうすれば多少濡れてもいつものように帰れたのに。
取り残された教室で、一人。雨の音を聞きながら時計の針を見つめる。
まるで閉鎖空間だ、と唐突に思った。岩に染みいるとは誰の台詞だったか。
教室に染み込む雨音。いつまでもこうしていたいと思うような、どこか心落ち着く空間。
けれど現実は甘くない。
閉鎖空間にはいつだっていける。しかし、ここから家までの物理的距離は、それこそテレポートでもしない限り無理だ。
ざぁざぁという雨の音。
そして、コツコツという廊下を歩く音。
そして、ガラっと教室のドアを開ける音。
「あれ、橘か。まだいたのか?」
首を曲げた。視界の先に、いつもの気だるい顔をした、見知った顔があった。
「キョンさんこそ。どうしたんです、こんな時間に?」
「古泉に付きあわされてな。また、悪だくみさ。で、お前は?」
「……傘を忘れたんです」
不貞腐れたような声に、キョンは苦笑した。
カバンを漁り、何気ない声で、言った。
「なんなら、一緒に入ってくか? 折り畳みだが」
外はすでに暗く、街灯と家並の明かりだけが頼りだった。
雨足はさらにきつくなり、時折吹く突風は、傘を強く持ってないと飛んでしまいそうなほどだ。
そんな中、橘とキョンは折り畳み傘の下、帰り道を歩いていく。
お互いに、無言。
ただ、無言のまま、帰り道を歩く。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、橘はキョンの方を見た。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ、キョンは橘を見た。
ふと、視線が合う。
「ぁ……」
「―――」
お互いに、無言だった。
雨足はさらにきつくなり、時折吹く突風は、傘を強く持ってないと飛んでしまいそうなほどだ。
そんな中、橘とキョンは折り畳み傘の下、帰り道を歩いていく。
お互いに、無言。
ただ、無言のまま、帰り道を歩く。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、橘はキョンの方を見た。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ、キョンは橘を見た。
ふと、視線が合う。
「ぁ……」
「―――」
お互いに、無言だった。
家に帰ってレポートを書いた。本日以上なし。
少しだけ悩んで、こう付け加えた。
折り畳み傘も、悪くはない。
少しだけ悩んで、こう付け加えた。
折り畳み傘も、悪くはない。