連載 - 赤い靴・DNo-20k - 「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

「－－－いいのか？落ちこぼれが、人間と契約をしても」

　…ディラン達の様子を見て、どこか嘲笑うように告げるゲルトラウデ
　その、表情の下に……かすかに、焦りが浮かび始める

「今まで、お前と契約した人間共がどうなったか、忘れた訳ではないだろう？その餓鬼も、同じ結果になるぞっ！」
「………っ」

　ゲルトラウデのその言葉に、ディランはかすかに恐怖したように、小さく体をはねらせた

　今まで、契約してきた人間は
　ディランの、淫魔としての能力に、耐えきることができず

　みんな、心が飲まれて
　みんな
　自分が、飲み込んで

「先生」

　ぎゅう、と
　繰が、ディランの手を握る
　大丈夫だから、とそう伝えるように

「私なら大丈夫だから。あんな奴のいうことなんて、気にしちゃ駄目よ」
「で、でも……」

　……繰と契約する事
　繰がそれを望むならば
　望んでくれるならば
　それに答えたいと、ディランは考える

　しかし、同時に、蘇る恐怖
　今まで、自分と契約してくれると望んでくれた者達は、容量不足や相性の悪さで、全員自分に飲まれてしまった

　彼女まで、飲み込んでしまったら
　自分、は

　………それに
　問題は、契約方法で…

「その、繰ちゃん……契約方法、なんだけど」
「あーっ、もう！！早くやんなさいよ！躊躇してる暇なんか無いでしょ！」

　間近で、顔を覗き込まれ
　繰の決意の強さが、伝わってくる

　……そっと
　ディランは、繰の手を握り返した

　不安がない訳ではない
　現状、これしか手段がないのだ
　ゲルトラウデの魅了の力を解除しなければ、自分達の身が危うい
　……いや、ディランとしては、自分の身は、どうでもいい
　ヘンリー達には、危険な目にあってほしくない
　何より、繰を命の危険にさらしたくない

　だから

「…それじゃあ、繰ちゃん。少し、目を閉じてて？」
「………え？」

　きょとん、とした繰に、ディランはほんの少し、幸せな笑みを浮かべて
　……そっと、繰に顔を、近づけた

「なぁ、ヘンリー。淫魔の契約方法、って…」
「……い、いや。さすがに本格的な契約をする時間ないから、仮契約だと思うけど」

　後ろを振り向けない状態のヘンリー達
　まじめな意味とそうでない意味と、両方の意味でだ
　ゲルトラウデと、ゲルトラウデに操られている男達から視線を外す訳にはいかないし
　……その
　じっと見るとか失礼だろうし

　まぁ
　ヘンリーやパスカルが、見なくとも

「にゃー」
「あﾞー」

　ダミアと、ちび悪霊がばっちり見ているうえに
　繰の懐に入っている菊花は目隠ししてくれているが、ゲルトラウデ達からも、ばっちりと見えている訳で……

　結構な視線が注がれている中
　ディランと繰の唇が、重ねられる

　淫魔との、契約方法
　その手段は、性交渉
　……しかし、今はそんな事をしている暇はないし、何より外ではちょっと

　だから、これは仮契約
　完全な契約ではないから、完全にディランの力が引き出される訳ではないだろう

　だが……仮契約、でも
　今、必要とされる力は、その身に宿る

「………ありがとう、繰ちゃん。僕を、受け入れてくれて」

　小さく、ディランは笑う
　目の前で真っ赤になっている繰が、自分に飲まれていない事を確認し、ほっとしたように

　……そして
　繰を小さく抱きしめたまま……ディランは、まっすぐに、ゲルトラウデを見つめた

　もう、逃げない
　そう、決意して

　自らの力を使う
　今まで、使うことが恐ろしくてたまらなかった、力を

　髪が、伸びる
　仮契約によって傷が癒えた翼が、大きく広げられる
　その骨格が変化し、体が柔らかみを帯びだした

　淫魔
　インキュバスにしてサキュバス、サキュバスにしてインキュバス
　男にして女、女にして男

　己の力を、ディランは恐れずに発動する

　ふわり、と
　ゲルトラウデが放つ香りを、上書きするように
　周囲に、甘い、甘い、甘い香りが、放たれた

to be … ?